大型地下貯蔵タンクに係る地震・津波に対する 有効な対策のあり方

大型地下貯蔵タンクに係る地震・津波に対する
有効な対策のあり方に関する調査検討報告
企画部
はじめに
東日本大震災では多くの危険物貯蔵タンクが
地震とそれに伴う津波により被害を受けまし
た。沿岸部では津波により屋外貯蔵タンク本体
が流される被害も発生し、流出した危険物が湾
内の大規模火災の一因となったとされる事例も
ありました。これら津波により屋外貯蔵タンク
が流される被害については、総務省消防庁で取
りまとめられた「東日本大震災を踏まえた危険
物施設等の地震・津波対策のあり方に係る検討
写真
流された屋外貯蔵タンク(100kL)
報告書(消防庁危険物保安室・特殊災害室:平
ととしました。
成23年12月)
」によると、500kL 未満の比較的容
ここでは、本調査検討概要について説明します。
量の少ない屋外貯蔵タンクの被害が大きかった
ことが分かっています。
大型地下貯蔵タンク施設の考え方
一方で、地下貯蔵タンクについては地下に埋
⑴
設されていることもあり、タンク本体が損傷す
危険物貯蔵タンクの地下化の考え方
る被害は少なく、震災直後の燃料供給が逼迫し
津波により流される被害の大きかった容量の
た際には地下貯蔵タンクの燃料を手動ポンプ等
小さい屋外貯蔵タンクを、大型地下貯蔵タンク
で吸い上げ避難者等に供給するなど、震災後の
で置き換え地下化するものです。農林水産省水
燃料供給を支えた一面もありました。
産庁が東日本大震災の被災状況をもとにまとめ
た「災害に強い漁業地域づくりガイドライン
(水
こうしたことから、沿岸部における容量の小
さい屋外貯蔵タンクを100kL 超の容量の地下貯
産庁:平成24年
月)
」においても、漁港の給油
蔵タンク(以下「大型地下貯蔵タンク」という。
)
タンク等の危険物取扱い施設を配置するにあ
に置き換えることによって、災害に強い施設に
たって、地下化が選択肢の一つとされていると
なることが期待されます。
ころであります。
大型地下貯蔵タンク施設とすることで次のよ
そこで、当協会では検討会を設置し、地震・
うなメリットが考えられます。
津波による被害を最小限に食い止め、震災後の
避難時や復興期の迅速な石油エネルギー供給に
①
地震・津波によるタンク本体の被害軽減
対応できる大型地下貯蔵タンク施設について、
②
貯蔵危険物の流出による火災・水質汚染
等の二次災害の防止
東日本大震災の被災状況をもとに検討し、大型
③
地下貯蔵タンクの安全な設置方法を提案するこ
31
震災後の応急対策や復興期の迅速な石油
Safety & Tomorrow No.148 (2013.3)
⑵
エネルギー供給
300kL までが事業者が負担できる現実的な容
施設規模についての考え方
量と考えられました。
ア
この300kL とした場合に必要な敷地面積例
タンク規模
について表
直埋設可能なタンクとして、特に SF 二重
に示します。地下タンク貯蔵所
殻タンク及び FF 二重殻タンクを対象として
で150kL タンクを
基設置した場合に必要な
います。タンク室構造は堅牢でありますが、
敷地面積は約150㎡となり、一般的な屋外タ
本調査検討で想定する大型施設の場合、コス
ンク貯蔵所(軽油、重油を貯蔵した場合)と
トも大きくなり現実的でないことから対象外
比べても必要な敷地面積はほぼ同じでありま
としています。
す。これに加え、地下タンク貯蔵所では保安
基あたりのタンク容量としては、工場で
距離が必要ないというメリットもあります。
製作し運搬可能なサイズである150kL を上限
これらのことから、施設全体の容量規模とし
ては300kL を上限として考えることとしました。
として考えることとしました。
イ
施設全体の容量規模
大型地下貯蔵タンク施設に係る課題
地下貯蔵タンク(直埋設)と屋外貯蔵タン
クの施工費用を比較すると、容量300kL 程度
地下貯蔵タンクは震災時における安定的なエ
であれば両者の費用はそれほど変わらないと
ネルギー貯蔵施設として期待される一方で、地
考えられます。これを超える規模では屋外貯
下に埋設されているがゆえの被害も受けていま
蔵タンクの方が割安となることから、容量
した。この地下貯蔵タンクの被災状況の詳細
表
必要な敷地面積
施設種別
平面図
必要な敷地面積
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地下タンク貯蔵所
(150kL × 基)
149.9㎡
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[軽油・重油]
153.8㎡
屋外タンク貯蔵所
(円筒縦置き型)
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Safety & Tomorrow No.148 (2013.3) 32
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
[ガソリン]
254.3㎡
保有空地 m

⑵
は、Safety & Tomorrow 143号で報告しており
ア
津波に対する課題
ますので参考として下さい。
洗掘被害
10m 近くの衝撃的な津波が予想される場
ここでは、地下貯蔵タンクの被災状況を踏ま
えた課題について次に整理します。
所では、立地条件によっては洗掘により地下
⑴
貯蔵タンク本体が露出・流失する被害に繋が
地震に対する課題
地震による地下貯蔵タンク本体の被害として
る可能性があることが分かりました(写真
は、ほとんどが液状化によるタンク浮上被害で
)
。施設を設置するにあたっては、洗掘を
ありました(写真
受けにくいレイアウトとすることが必要とな
)
。
ります。
100kL 超の大型地下貯蔵タンクは一般的なタ
イ
ンクと比べタンク径も大きく、受ける浮力も大
タンク内への水の混入
きくなることから、施設を設置するにあたり液
津波によりタンク内に水が混入した事例が
状化が懸念される場合は対策が必要となりま
多く報告されていました。これらは、地上部
す。しかしながら、液状化を完全に防止する対
分のタンクに繋がる設備類が津波により破損
策となると、大規模な地盤改良工事等が必要に
し、その破損部位からタンク内に水が流入し
なるため、コスト面からも現実的ではありませ
たものでした(写真
、写真 )
。
震災後の迅速なエネルギー供給のために
ん。液状化が発生した際のタンクにかかる浮力
は、タンク内への水の流入を防止する対策等
を軽減する対策等を考える必要があります。
が必要となります。
写真
写真
写真
液状化により浮上したタンク
洗掘により露出したタンク
写真
固定給油設備が欠損したアイランド
33
通気管の破損
Safety & Tomorrow No.148 (2013.3)
⑴
地震・津波に係る課題に対する対策
するものの埋戻し部分の過剰間隙水圧比はすべ
地震対策(液状化対策)
て0.1以下となっており液状化するほどの過剰
地下貯蔵タンクの埋戻材として、 号砕石等
間隙水圧比の増加はみられません。
の粒度の大きい材料を使用するものであります。
このように、一般的な砂と比較し
道路橋示方書・同解説(平成24年
月
社団
号砕石で
埋戻すことで、液状化を防ぎタンクにかかる浮
法人日本道路協会)では液状化判定を行う必要
力を軽減できることが分かりました。
号砕石
がある土層として、
「50%粒径 D50が10mm 以下
と砂では費用も大きく変わらないことから、費
で、かつ10%粒径 D10が mm 以下」である土層
用対効果の高い対策であると考えられます。
号砕石はこ
タンクを埋設する周辺地盤が、地下水位が頻
の要件に当たらず、埋戻し部分での液状化は起
繁に変わるなどの不安定な地盤の場合には、砕石
こりにくいと判断できます。また、周辺地盤が
の流出防止、砕石への砂の混入を防止するため、
液状化し埋戻し部分の水圧が上昇した場合で
土木資材として使用されている不織布等を併用
も、砕石自体の透水性が高いため、有効に水圧
し、砕石の機能を維持することが必要となります。
を消散し、タンク本体にかかる浮力を軽減する
⑵
が条件の一つとなっていますが、
津波対策
ア
効果も期待できます。
一般的な砂で埋め戻した場合(対策前)と
洗掘防止対策
露出・流失するような大きな被害に繋がった
号砕石で埋め戻した場合(対策後)で、東日本
事例に共通していた立地条件として、①鉄筋コ
大震災の特性を考慮した地震動を荷重条件とし
ンクリート造建物の隅角部に隣接していたこと
て、有効応力解析した結果を図 に示します。
②上部スラブの周囲に洗掘作用を受けやすい
対策前ではタンクの底部で過剰間隙水圧比が
未舗装部分等があったことがあげられます。
0.9を超えており、有効応力がほぼゼロの状態
「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震
であり、液状化している可能性が高いことが分
被害調査報告(国土交通省国土技術政策総合
かります。一方、対策後では周辺地盤は液状化
研究所、独立行政法人建築研究所:平成24年
図
有効応力解析結果(150kL タンク)
Safety & Tomorrow No.148 (2013.3) 34
イ
月)」においても、鉄筋コンクリート造建物
タンク内への水の流入防止対策
の隅角部は水流が強くなることから大きく洗
タンク内への水の主な流入経路としては①
掘されていたと報告されており、地下貯蔵タ
払出設備・配管類②通気管③注入口が考えら
ンクが露出・流失した状況とも一致すること
れます。次にそれぞれの流入経路ごとの対策
から、鉄筋コンクリート造建物に併設する施
について示します。
払出設備・配管類
設とする場合は隅角部を避けて設置する必要
ポンプ設備には逆止弁(チャッキ弁等)が
があります。
また上部スラブの周囲については、舗装等
あるので、ポンプ設備の被害を最小限にした
により洗掘作用を受けないようにする必要が
上で、ポンプ設備からタンク側配管をすべて
あります。10m を超える津波の襲来があっ
地下埋設配管にすることで、水の流入を最
た場所を含め、調査した全ての給油取扱所に
小限にすることができると考えられます。
おいて、上部スラブは健全で地下貯蔵タンク
船舶給油取扱所等の用途の場合は、ポン
本体には被害がなかったことから、上部スラ
プ設備を地盤面下に設置することが考えら
ブの周囲を給油取扱所の給油空地相当の舗装
れます。地盤面下に設置することで、津波
とすることで、洗掘被害を防ぐことができる
や漂流物の衝突による破損被害を防ぎ、水
と考えられます。その上で舗装道路に隣接し
の浸入被害を最小限にできると考えられま
た立地とするなど、できるだけ土壌が露出し
す。具体的には、地盤面下にコンクリート
ないような場所を選定することで、洗掘によ
枠、油分離装置等を設けポンプ設備を設置
るタンク本体の被害を最小限にできると考え
する方法、油中ポンプとする方法が考えら
られます。
れます(図 )。
① 地盤面下のコンクリート枠内に設置する場合
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㪤
ᶏ
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② 油中ポンプとする場合
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㪤
ᶏ
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㪧
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図
ポンプ設備を地盤面下に設置する例
35
Safety & Tomorrow No.148 (2013.3)
ポンプ設備を地上のポンプ室内に設置す
め、基本的には鉄筋コンクリート造建物等
る場合には、ポンプ室を鉄筋コンクリート
にしっかりと支持されている必要がありま
造(屋根を除く)とすることで、ポンプ設
す。しかしながら、これだけでは通気管の
備の被害を最小限にすることができると考
高さ以上の津波の襲来、漂流物等の衝突に
えられます。
より破損した場合の、タンク内への水の流
このほか、いわゆる「セルフ給油所」に
設置されている「立ち上がり配管遮断弁」
入を防ぐことはできません。
この対策として通気管内に弁を設置する
のうち、タンク側及び固定給油設備側の両
ことが考えられます。ただし、払出し中に
方の配管を遮断できるものについては、そ
弁が誤作動してしまうとタンク内が負圧と
の構造的特性から、外部からの水の流入防
なり、タンクが破損する可能性が憂慮され
止に一定程度寄与するものと想定されるこ
るため、誤作動を起こしにくい構造とする
とから、これら遮断弁を活用することも考
必要があります。
このような弁として、水が流入した場合
えられます。
にボールフロートの浮力により弁が閉ま
通気管
通気管は地盤面から
m 以上立ち上
り、タンク内への水の流入を防ぐ装置が考
がっており径も細いため、津波による影響
えられます(図
を受けやすいことが分かりました。このた
波による被害を最小限とするため、タンク
【平常時】
【水の流入時】
図
通気管流入防止装置イメージ
Safety & Tomorrow No.148 (2013.3) 36
)。設置場所としては津
写真
地盤面下設置
写真
ボックス内設置
直上のプロテクター内部もしくは地盤面直
上(コンクリート枠内)に設置することが
想定されます。
今後、実用化にあたっては、機能の検証、
点検方法等の課題について検討していく必
要がありますが、海外では通気管からの
オーバフローを防止する弁として同原理を
利用した弁が実用化されているなど、通気
管用の弁としての実績もあることから効果
が期待されます。
写真
人が常駐し常に監視が行われている施設
コンクリート枠内設置
の場合は、通気管にバルブ等の手動閉鎖弁
⑶
を設置することも考えられます。この場合
地震・津波対策の活用方法
は、従業員に対して日常的に意識啓発、訓
衝撃的な津波の襲来が予想されるような場所
練を行い、津波の発生が予測される時には
では、⑴、⑵で提案した地震・津波対策を総合
避難前に弁を確実に閉鎖ができる体制を整
的に取る必要があります。船舶給油取扱所を
えておくことが必要です。
想定した場合の対策活用例を図 に示します。
一方で、津波の浸水予想高さが低く、地上
注入口
津波により被害があったのは露出してい
設備類の破損の可能性が小さいとされる場合
る注入口のみであり、地盤面下、ボックス
には、津波対策は過度な対策になります。東
内、コンクリート枠内等に設置されている
日本大震災の被災状況及び地方自治体の津波
ものについては被害を確認できませんでし
浸水想定区域図等から、津波対策の必要性に
た。写真
ついて施設毎に検討することが求められます。
∼写真 は東日本大震災の津波
により注入口の被害がなかった事例です
一つの対策につき複数の方法を提案してい
が、このように注入口を露出させないこと
る部分もあるので、地域・施設の特性に応じ
で注入口の被害を防ぐことができると考え
て地震・津波対策を選択し、組み合わせるこ
られます。
とで、震災後の応急対策や復興期の迅速な石
37
Safety & Tomorrow No.148 (2013.3)
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ภ⎈⍹䈮䉋䉎ၒᚯ䈚
図
船舶給油取扱所への適用例
油エネルギー供給に対応できる施設になるも
のと考えます。
から、幅広く適用することが可能となります。
今回、東日本大震災における被災状況を踏ま
えた地震・津波対策についてあげましたが、こ
まとめ
れらの対策を個々の施設の特色に応じて組み合
東日本大震災における危険物貯蔵タンクの被
わせることで、震災後の応急対策や復興期の迅
災状況から、津波により流される被害が大き
速な石油エネルギー供給に対応できる施設にな
かった容量の小さい屋外貯蔵タンクを、大型の
るものと考えます。
地下貯蔵タンクで置き換え地下化することで、
沿岸部における災害に強い施設になることが期
待されます。
おわりに
本調査検討報告書については、当協会ホーム
施設規模としては容量300kL までが現実的な
ページにも掲載する予定としております。東日本
規模と考えられました。この検討の中で用途を限
大震災からの復興、また発生が懸念される南海ト
定しているわけではありませんが、被害の大き
ラフ巨大地震により津波の襲来が予想される地
かった漁業船舶用燃料の貯蔵施設としての利用
域において、漁業船舶用燃料貯蔵施設をはじめ
が考えられます。漁港・漁村に設置されている屋
とする沿岸部の危険物貯蔵タンクとして、本調査
外貯蔵タンクの多くは容量300kL 以下であること
検討結果を活用していただければと思います。
Safety & Tomorrow No.148 (2013.3) 38