ブランケット構造材料の現状と課題 核融合科学研究所 室賀 健夫 2.低放射化フェライト鋼(RAFM)の現状と 1.はじめに 課題[1] ブランケット構造材料は、低放射化フェラ イト鋼(RAFM)、バナジウム合金、SiC/SiC 複 日本で共通材料として設計製作された 合材に集中した研究開発が進められている。図 8Cr-2W 鋼(F82H)、9Cr-2W 鋼(JLF-1)は、 1に各候補材の炉停止後の放射能の減衰の計 放射化不純物を抑制した大量溶解、基本的な成 算例を示す。図より ITER 構造材である 316 鋼 形加工性能などが確かめられ、HIP によるブラ は使用後のリサイクルが望めないことがわか ンケット模擬体が製作されるなど、近未来の第 る。リサイクルまたは処分の観点から低放射化 一候補材としてその可能性が広く認められて の要件を満たす構造材料としては、当分の間上 いる。照射特性は、ヘリウム効果などまだ確認 記 3 つの材料およびその改良の範囲に限られ が必要な課題があるが、一定温度範囲での耐照 るというのが共通した認識になっている。 射性は良好と認められている。一方、高温クリ 近年のこれらの素材としての技術進歩は著 ープ、照射による軟化など、高温強度特性に限 しいが、照射効果、特にヘリウム効果が未解決 界があり、熱加工履歴や微量成分の調整ではこ の課題として残されている。一方ブランケット、 れを大きく改善することは難しいと見られて 特に先進的なブランケット概念、での使用にお いる。部分的な ODS 化による高温強度の改善 いては、今後解決すべき多くの問題が残されて がどこまで進むかが先進的なブランケットへ いる。中でも冷却材・増殖材との両立性、トリ の適用の鍵であろう。ODS 鋼に関しては、高 チウムの制御にかかわる課題などは、ブランケ 速炉および超臨界圧水プラント用の開発が進 ット概念によってその性格は異なるものの、共 みつつある。低放射化組成の実現、ブランケッ 通に重要な課題である。 ト形状部材への加工性・接合性、照射による脆 化の抑制などが現在の主な課題である。 5 10 FFHR-Li Blanket First Wall Neutron 1.5MW/m 2 30 years’ operation 4 10 3 10 ブランケット特有の課題としては、各冷却 材・増殖材との両立性が重要である。Li-Pb 増 Radioactivity (Sv/h) 2 10 1 10 殖では、RAFM との両立性、RAFM 上へのト 0 10 リチウム拡散防止・耐食被覆の開発が厳しい課 -1 10 -2 10 遠隔-操作 リサイクル可能 316ステンレス鋼 低放射化フェライト鋼 (F82H) バナジウム合金 (NIFS- HEAT) SiC -3 10 -4 10 化還元制御により防食が可能かどうかを確か -5 10 -2 10 -1 10 10 10 10 10 10 人の手による リサイクル可能 Cooling Time after Shutdown (Years) 0 1 題である。溶融塩ブランケットにおいては、酸 2 3 4 める必要がある。RAFM については、EU が独 自の思想で EUROFER を提案しデータの構築 図 1 炉停止後の誘導放射能の変化の計算例 SiC は不純物を考慮しない (FFHR 第一壁で 30 年間使用を想定) に努めている。また最近中国も候補材を提案し ている。今後国際協力により候補材の比較評価 と絞込みを行う必要がある。 - 20 - 4.SiC/SiC 複合材料の現状と課題[3] 3.バナジウム合金の現状と課題[2] SiC/SiC 複合材も近年の技術進歩が著しい。 バナジウム合金は、近年大量製造、成形加工、 接合技術などに大きな進歩が成し遂げられて 特に繊維の改質が目覚しかったが、複合材に関 きた。特に、細管材の加工と端部溶接技術の進 しても NITE(Nano-Infiltration Transient Eutectic 歩により、信頼性の高い内圧管クリープ試験デ Phase Process)法により高密度高伝導複合材の ータが得られるようになってきた。素材として 製作が行われている。内燃機関や先進ガス炉へ の課題は、熱クリープ強度をさらに上げること、 の応用と連携し、素材の製作加工技術はさらに ヘリウム脆化のデータが殆ど無いことなどで 進歩すると予想される。耐照射性も繊維、およ ある。溶接部の(比較的低温の)照射効果につ び複合材の強度特性に関して大きく改善され いてもさらに研究が必要である。V-4Cr-4Ti が ている。照射による熱伝導度の低下、クリープ 共通候補材であるが、さらに特性の改良を目指 変形、金属材料よりはるかに多い(損傷量あた した不純物制御、微量元素添加、熱機械処理法 り 10-50 倍多い)核変換ヘリウム発生の効果な の改良、合金組成の再検討なども進められてい どが現在の中心課題である。気密性の改善も目 る。しかしバナジウム合金の現在の課題の中心 覚しいが、高温ガスシステムにおけるトリチウ は、その主要ブランケット概念である自己冷却 ム透過の点では更なる改良が必要であり、また リチウムシステム特有のところにあり、MHD 使用中の劣化の評価も必要である。NITE 法は 圧力損失を抑える絶縁被覆開発が最重要課題 気密性の向上のためのタングステン被覆や である。 SiC 複合材間の接合にも利用されている。SiC 絶縁被覆開発は、高結晶性酸化エルビウムが 複合材を用いることにより、高効率の高温ヘリ 高温液体リチウム中で長期安定であることが ウムガスブランケットが構想されるが、固体増 示され、鉄やバナジウムをさらに被覆する(二 殖材や増倍材など構造材以外の高温化も達成 重被覆)ことにより絶縁が保たれることが示さ させる必要がある。 SiC/SiC は Li-Pb ブランケットの候補材でも れ、またその場被覆法の有効性も示されるなど、 近年大きな進歩を遂げている。しかし、変動、 あるが、Li-Pb との高温両立性はまだデータが 流動環境での信頼性の高いシステムを提示す 限られている段階である。また、Li-Pb 系では るには、様々な試験と一層の高度化に向けた改 トリチウムの分圧が高くなるので、SiC 中のト 良が必要である。 リチウム滞留量の評価が重要である。最近二重 バナジウム合金は、液体リチウムとの組み合 冷却ブランケットで SiC を熱・電気絶縁インサ わせではトリチウムインベントリーは小さい ートとして用いる構想があり、従来とは異なっ と考えられているが、微量添加元素、照射欠陥 た目標の材料開発が必要になっている。この場 等の効果の評価が必要である。一方、溶融塩や 合熱伝導の低下は問題ではないが、照射下の電 Li-Pb などとの組み合わせには、T2分圧の低減 気絶縁劣化や比較的低温の照射によるスエリ や拡散抑制などの工夫が必要である。液体リチ ングが問題になる可能性がある。 ウムとの両立性については、二重被覆の第一層 目の材料の選択にあたって、構造材料とは異な った組成の最適化が可能である。 - 21 - 図2 低放射化フェライト鋼母材と溶接部の照射による引張り特性と組織[4] れていないが、図2(b)で示すように、この現 5.最近の話題から—局所変形・組成不安定 低放射化フェライト鋼やバナジウム合金な 象は溶接部では明確に現れず、組織上も一般的 ど体心立方晶系の金属材料の低温側の使用限 な変形帯が形成していることから、組織制御に 界を決めるのは、主に照射脆化(DBTT--延性- よる改良が可能と見込まれている。 脆性遷移温度--の上昇)と考えられていた。し これらをきっかけとし、変形転位と欠陥集合 かし、DBTT 以上であっても、照射により特殊 体(照射欠陥、微小析出)との相互作用に関心 な変形挙動が現れることが分かり、関心を呼ん が集まり、移動転位が集合体を分解し掃き出す でいる。 可能性についてモデル計算、連続観察実験など 図2は低放射化フェライト鋼 F82H の例を示 が進められている。 した[4]もので、(a) 母材部において、照射温度 が下がると、硬化するが降伏点ののち加工硬 6.今後の課題と進め方 化・塑性延びが無く、見かけ上の軟化、破断に これまで述べたように、各材料に共通な課題 至っている。類似な現象は V-4Cr-4Ti 合金でも は、素材としては核変換ヘリウム効果、ブラン 認められている。この温度領域では照射によっ ケット材としては両立性とトリチウム制御に て微細な欠陥集合体または析出が発生するが、 関わる課題などである。前者に関しては、核分 それが結晶状の一定方向の帯領域で消滅して 裂炉等による模擬試験には限界があり、IFMIF いる。これは、変形転位がこれらの欠陥を掃き による検証試験がぜひとも必要である。後者に だし、次の変形が起こりやすくなる(局所変形、 関しては、流動環境試験、照射下両立性・トリ 転位チャンネル)ことを示している。この問題 チウム移行試験、などを通じて、ブランケット への対策はまだはっきりとした見通しは得ら 構造部材としての適性を評価し、設計に生かし - 22 - ていく必要がある。ITER テストブランケット モジュールはブランケット構造部材の照射・流 動環境の総合試験としての重要な機会であり、 それを目標とした技術集約が必要である。 7.まとめ ブランケット構造材料の開発は、(1)素材 の高度化(研究室レベル研究、工業レベル研究) (2)データーベース構築 (核分裂炉等の有 効利用)(3)ブランケット課題の要素技術、 複合技術研究 (4)IFMIF を用いた耐照射性 検証試験 (5)ITER を用いたブランケット 技術統合試験を、動力炉開発シナリオ、ブラン ケット開発シナリオ、ITER および IFMIF 試験 計画と整合させて進めることが重要である。こ のような視点から、動力炉開発シナリオと整合 した、第一候補材および先進材料の開発ロード マップが議論されている[5,6]。 参考文献 [1] A. Kimura, “Current Status of Reduced Activation Ferritic/Martensitic Steels R&D for Fusion Energy” Materials Transactions, Vol.46 No.3 (2005) 394-404. [2] T. Muroga, “Vanadium Alloys for Fusion Blanket Applications” Materials Transactions, Vol.46 No.3 (2005) 405-411. [3] A. Kohyama, “Current Status of Fusion Reactor Structural Materials R&D” Materials Transactions, Vol.46 No.3 (2005) 384-393. [4] S.J. Zinkle, “Overview of the U.S. Fusion Materials Sciences Program”, Fusion Science and Technology 47 (2005) 821-825. [5] T. Muroga, M. Gasparotto and S.J. Zinkle, “Overview of Materials Research for Fusion Reactors”, Fusion Engineering and Design 61-62 (2002) 13-25. [6] A. Kohyama, K. Abe, A. Kimura, T. Muroga and S. Jitsukawa, “Recent Accomplishments and Future Prospect of Materials R&D in Japan”, Fusion Science and Technology 47 (2005) 836-843. - 23 -
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