井上 弘 小宮山 宏 一般社団法人日本民間放送連盟会長 株式会社TBSテレビ代表取締役会長 株式会社三菱総合研究所理事長 プラチナ構想ネットワーク会長 第28代東京大学総長 基調講演 特別講演 「2020へ!民放テレビのこれから」 井上弘氏 「プラチナ社会の実現とメディアへの期待」 小宮山 宏氏 1953年の放送開始以来、民放は右肩上がりで成長を続け 人類が転換期にある今、プラチナ社会を21世紀のビジョ てきました。放送局・広告主・視聴者の三元の関係に基づい ンとして提案しています。こういった中でメディアの果たす た非常に成功したビジネスモデルが確立されたからです。た 役割は大きいと考えます。良い環境、資源の心配がないこと、 だ現在テレビ全体を取り巻く環境は厳しさを増しています。 長寿などは、文明が追い求めてきたことであり、それを実現 ここでは当面のテレビの課題である「4K/8K」と「ネットとの してきたのが日本です。平均寿命が80を越え、高齢化社会 関わり」について話をします。 となりましたが、これは文明の帰結です。かつて、ものづく かつてデジタル化の際、放送局は膨大な設備投資をしまし り産業がエネルギー効率を上げることで、エネルギー危機を た。はっきりとした画質の向上はありましたが、残念ながら 克服するなど、日本はさまざまな課題解決を経てきた課題先 テレビ料金のアップにはいたらず、その投資に対するリター 進国と言えます。今私たちによって課題解決ができれば、人 ンを得ることができませんでした。その点をみると現在のビ 類にモデルを示すことになります。それが「課題先進国」の役 ジネスモデルは非常に成功したモデルではありますが、放送 目です。この背景をもってコミュニケーションや報道を行っ 局にとってビジネス投資を難しくする面もあります。4K対 ていきましょう。プラチナ社会は、長生きでき、クオリティ 応も投資を伴いますが、放送する電波の帯域不足やソフト調 の高い誇りある人生を送ることができる、今よりも一段階高 達の問題、地方局問題などいくつかの課題を踏まえて検討を い社会を指しているのです。 しなければなりません。 高齢化社会とは、「参加型社会」。稲作でも会社でも、シス 生活の変化、女性の社会進出などが相まって、タイムシフ テムが壊れ始めたときにどういう参加型社会になれるのか。 ト視聴が隆盛を極めています。タイムシフトだとすべての 参加ができれば世代は関係なくなります。プラチナ社会とは CMをスキップするのでは?というイメージが、民放のビジ 威厳を持って輝く社会のことなのですから。 ネスモデルを毀損することになります。VRにはタイムシフ 現在COP21で地球環境、エネルギー社会について議論さ トでもCMが見られているということを調査で示してほしい れていますが、報道において必要なものが反映されていない と思っています。タイムシフト視聴がマネタイズできていな ことが問題です。たとえばトヨタが「走行中のエネルギーを いことは民放にとって厄介な問題であります。 90%削減する」と言ったのは合理的な裏付けがあり、希望 ネット配信については民放が揃って今年「TVer」を開始 のある話です。人工物が飽和して、エネルギー効率が減って し、アプリのダウンロードが100万を超えました。ネットの いく時代に入った今だからこそ、未来が見えてきます。都市 時代になっても強いソフトは見てもらえます。民放が強いソ 鉱山も人工物であり、日本がどうなっていくかと言えば、エ フトをつくっていけば、充分に対応できるということの一つ ネルギー消費が減り、都市鉱山と再生可能エネルギーにより の例証になっています。今は新たな視聴者指標の創出ニーズ 新しい社会を築けるはず。 を探るべきときで、作ったソフトをリアルタイム放送、タイ 結論として、資源自給国家を目指すこと、そして知の構造 ムシフト放送、VODや見逃し放送などでコンテンツ提供を 化の拠点が連携してコミュニケーションを正しく行っていく していきます。“貧すれば鈍する”にならないよう、良質なコ べきです。 ンテンツを創りつづけなくてはなりません。到達価値の最大 化を図ること、いろんな視聴によってそうなっていくはずで す。コンテンツの視聴を総体的に捕捉できるようにして欲し い。VRにはぜひとも奮起いただきたい。 現在のビジネスモデルが今後も続くのかについてはネット 時代に考えておくべきことの一つ。テレビの力が強いうちに 新しいビジネスチャンスに乗って新たなビジネスモデルを探 しだせるかが大事なことだと考えています。 3 スペシャルディスカッションday・1 「2020へ!テレビメディアの挑戦」 放送局や広告会社の方々をパネラーに迎え、「なぜ若者のメディア離れは起きたのか」「マルチスクリーン化はテ レビにとって好機か」「テレビの価値とは何か」をテーマにテレビやテレビビジネスにおける現在の課題やそれへの 対応、この先目指す未来像まで、ディスカッションが交わされました。 日本テレビ放送網株式会社 執行役員 編成局長 廣瀬 健一氏 株式会社フジテレビジョン 専務取締役 稲木 甲二氏 株式会社電通 ラジオテレビ局長 石川 豊氏 株式会社博報堂 常務執行役員 研究開発局長 中谷 吉孝氏 C Channel 株式会社 代表取締役 森川 亮氏 株式会社ビデオリサーチ 取締役営業局長 尾関 光司 本セッションでは、視聴率データやメディア接触データな して、増加するタイムシフト視聴をめぐる課題に対して「タ どを用いて、 HUT低下や若年層のテレビ接触率・時間量の低 イムシフトが指標となる上で、広告をスキップせず視聴して 下など、 今のテレビを取り巻く状況や課題を共有することか もらう方法を考えたい」 と広告会社としての考えを示しました。 らスタートしました。 それを踏まえて、 日本テレビの廣瀬氏は また森川氏は動画配信について、 「マーケットは拡大すると 「データをみると少なくとも若者は在宅している。 在宅しなが 思う」とビジネスチャンスを認めた上で、 「放送局はタイムシ らテレビを見ていない人に見てもらうのが課題」 と言及。ま フトを事業化するのが最も確実。リアルタイムとタイムシフ た、 フジテレビの稲木氏は 「世帯視聴率が通貨になっている一 トの組み合わせが定着して拡がっていくのが日本らしいの 方、 スポンサーからは若い人の視聴率を求められるので、 この では」との見解を示しました。廣瀬氏は「リアルタイム視聴に ジレンマの解決が困難」 と放送局側の認識を示しました。 戻すためキャッチアップを行っている。ただしテレビと動画 若者のテレビ離れへの対応 C Channelの森川氏は「今後高齢化は更に進む。若い人に とっておもしろい番組が減るのでは」と指摘。さらに「若者の 配信ではコンテンツのつくり方が違うので、 どちらを主軸にして やっていくのか考えなければならない」 と課題を述べました。 テレビの価値とは コンテンツを楽しむスタイルは変化している。SNS上で文章 議論の最後は、テレビの価値について、それぞれの立場で も読まず、画像も動画も一瞬で消化して、拡散させる」と若者 見解を述べました。 のコンテンツ接触の特徴や変化について見解を述べました。 稲木氏「非常時、国民のためにいろいろな情報を伝達する 稲木氏も「長尺のコンテンツは若者には受け入れ難い」とし 機能があるという価値」、石川氏「広く一斉に伝えるリーチ た上で「若者の生活に合わせるのではなく、新たな提案をし 力、人の感情を動かすコンテンツ力」 、中谷氏「スマホとは違 て、若者を引き戻すよう考える必要がある」と、若者の変容を う大画面性、TVの前で自動的に面白いコンテンツが見られる 受け入れつつも、放送局側から新たな提案を考えるべきとの 受動性。特段のリテラシーもなく見られる、誰にでも開かれ 意見が交わされました。それを受けて、電通の石川氏は「マネ たメディア」と、各氏より普遍的な価値が示され、廣瀬氏が タイズも考慮した上で、この構造をどう変えていくのかが広 「視聴者にとっては “同報性” “報道と同時に娯楽” “無料” 、広 告会社の役割」 と述べました。 マルチスクリーン化への対応 告主にとっては “最大訴求を” “最速に” “最適効率で” 満たす ツール、社会にとっては “安全” “安心” “安定なインフラ” であ ること」とし、相対的な関係性をまとめました。 次に議題となったのは、マルチスクリーンによる視聴の分 こうした議論を受けて、尾関がこれからの視聴率を考えて 散化について。博報堂の中谷氏は「様々なコンテンツが多彩 いく上で、 「視聴形態の変化、分散化への対応」 「視聴者のライ なデバイスで見られる時代。これらをどうマネタイズするの フスタイルの多様性への対応」 「これらに対応するためのサ かを考えるべき」とビジネスモデルに対する課題を提示。そ ンプル拡大の検討」 「テレビ×インターネットの関係性の把 握」についてVRが取り組むべきこととして、課題に対応して 4 Video Research Digest 2016. 2 いく考えを伝えました。 株式会社ビデオリサーチ テレビ調査局 テレビ調査部長 橋本和彦 テレビメディア 「ビデオリサーチが描く“これからの視聴率”」 生活者 (視聴者)の多様化、デジタル化(各種テレビ視聴デバイスの普及)による視聴形態の変化といった現象から生 じている “テレビ視聴の分散化” に対応し、視聴者の実態を詳細に捉え、市場を反映させたメディアデータとして共 通に利用するために、そして、テレビメディアの価値を正しく示すために今後の視聴率のあり方について、テレビ調 査部長橋本のセミナーを紹介します。 キーワードは “テレビ視聴の分散化” 現在のテレビ視聴を取り巻く環境の変化について、VRの まず、①についてはテレビ視聴測定範囲を再定義してい 関東地区における視聴率調査(2015年)をみると、世帯数は く上で、ポイントとなるタイムシフト視聴への対応、そして 2000年と比較し増加傾向にあるのに対し、平均家族人数は スマートデバイスによるテレビ視聴への対応の2点です。全 大きく減少しています。これは、単身世帯の増加に起因して テレビ視聴を100とした場合、現在のリアルタイム視聴は おり、世帯内個人の全体人数も減少、年齢別内訳をみても少 94%、1週間以内でのタイムシフト視聴が6%。さらに、時間 子高齢化が顕著に現れています。こうした世帯構造の変化 帯を19~23時に絞ると、タイムシフト視聴は9.5%と拡大 の中で、テレビ視聴にも変化がみられます。2000年と比較 します。 すると、徐々に接触と分数の割合が減少、高齢層の視聴率が また、スマートデバイスによるテレビ視聴においては、フ 高まる一方、10代後半から20代半ばの若い男性層の視聴低 ルセグやワンセグ、VODなど視聴方法ごとの測定技術を開 下が非常に目立っています。視聴者のこうした変化に対し、 発し、対応が必要となります。2015年11月に行った1週間 テレビの視聴構造というものもまた、新たな局面を見せて の日記式記録を累計で見ると、スマートデバイスでの視聴 いるのも確かです。それは、リアルタイム視聴以外のテレビ は1%とまだシェアは小さいですが、MCR調査によると、ス モニター利用の増加です。2000年から2005年にかけては マートフォンの所有率は現在7割超と急激に拡大していま ゲーム端末のモバイル化で利用が一時減少傾向を見せまし す。すでに20代の9割、60代の3割が所有していることを鑑 たが、ここ10年に至っては右肩上がりに推移しています。 みると、やはり測定対象としての対応準備は必要と捉えて これは、大容量のDVRが普及したことによる、タイムシフ います。 ト視聴の増加が大きく影響しているといえます。 ②の生活者の多様化への対応策としては、視聴率データ 分散化する視聴実態を正しく 捉えるために 2020年に向けて調査基盤の強化 と「ACR/ex」のデータフュージョンによる、 「マーケティ ングデータ×視聴データ」の研究を進めています。性•年齢別 の分析に加え、ライフステージを組み合わせた時、テレビ視 聴傾向はどのように変化するのか、ターゲットをセグメン トし、この2つのデータの強みを融合させることで、分析を 先にご紹介した米国のテレビメディア環境を参考事例に より深く積極的に行っていきます。 しながら、世界的な潮流でもある「テレビ視聴の分散化」に 様々な要素を抱えたテレビ視聴の分散化を、データとし 対して、より詳細な視聴者の実態把握を目指し、これからの て表していくために、③の視聴率調査のサンプル拡大の必 VRの視聴率調査における方向性として以下の4つの指針 要性について検討を開始します。関東地区では、2013年か を示しました。 ら300世帯で行ってきたタイムシフト調査パネルを現状の ① テレビ番組のあらゆるリーチを測定し、 10月に向けて900世帯での視聴率調査パネルを形成してい テレビ視聴測定範囲の再定義を行う きます。そして900世帯に拡大された視聴率調査パネルの ② 生活者の多様化に応じた切り口を提供する 中でタイムシフト測定が実施できる体制構築を目指しま ③ 分散化、多様化に適したサンプルの拡大を行う す。併せて、スマートデバイスによるテレビ視聴の測定対応 ④ 視聴率の品質維持 も進めていきます。 視聴率調査600世帯と統計的手法に基づき統合し、2016年 6 Video Research Digest 2016. 2 また、関西、名古屋地区については、2017年10月にタイ 各地区の対応計画構想の整理 ムシフト測定にも対応可能なセンサーの配備が完了します ので、タイムシフト測定実施、並びにスマートデバイス測定 2015 についても議論、検討をはじめさせていただきたいと考え 2016 2017 2018 2020 2016 10 ています。以降、全国的なタイムシフト測定やスマートデバ 900 イス測定の検討を視野に入れ、徐々にローカルへの展開も 2017 10 検討していきたい。いずれにしても、視聴率を提供していく にあたっての対応計画については、データユーザーの皆さ まと議論させていただきたいと考えています。 2018 10 52 このように調査を拡張させ対応力を強化していく一方 で、改めて重要性が高くなるのが④調査品質の維持です。無 作 為 性 と 代 表 性 を 強 く 意 識 し、母 集 団 の 特 性 を 反 映 し た 2020 52 24 データ提供に努めていきます。 テレビメディアの価値を示すための VRの取り組み 「VR CUBIC」 Total Reach Total Audience さらなる深化として、メディア接触が複雑化していくなか さらに、テレビメディアの価値を示すために、分散化した で、テレビとネットの実態を把握するためのシングルソース テレビ視聴と視聴者を多様な切り口で捉え、 「テレビ×イン データ「VR CUBIC」のプロジェクトをスタートとさせまし ターネットの関連性」を探るため、 「ACR/ex」や他のデータ た。この「VR CUBIC」によりデバイスシフト、タイムシフト、 とのフュージョン研究をすすめ、メディアの価値の追求を チャンネルシフト、動画に対応し、トータルリーチ、トータル 行ってまいります。 オーディエンスの可視化実現に取り組みます。 併せて、スマートデバイス対応技術、データ提供の速報性 に留まらず、テレビ局編成や制作向け視聴率 Viewerシステ ム「VR TVPOP!」の開発や、生体反応を活用したテレビ視 VR CUBIC 聴の「質」への取り組みなど技術・データ・ビジネス支援の面 で皆様をサポートしていきたいと考えています。 1 6 15 5,000 VR CUBIC VR CUBIC 69 5,000 Total Reach Total Audience VR CUBIC TV Net ACR/ex ACR/ex あらゆる時代の変革期においても、テレビメディアの正しい価値を伝えるべく、皆さまと議論させていただきながら、VR の視聴率調査は進化を続けていきたい、それが使命と考えています。 7 インターネット 「インターネット これからの挑戦」 日本のインターネット元年から21年目を迎え、テクノロジーの進化とともに躍進を続けるインターネットの世界 において、これからのメディアと広告の在り方を語り合うこのディスカッションには、日本のIT業界を牽引している 4名のパネラーが登壇しました。 デバイスの進化が生んだ 広がる可能性と新たな課題 日本でインターネットのサービスが開始となった1996 され過ぎだと田端氏はいいます。 年。たった20年後に、テレビや電話などあらゆる通信インフ 一般的には検索サイトとして認知されているグーグルで ラがインターネットを介して行うようになるとは、想像もし すが、ネット広告と媒体社をつなぐ存在としても大きな役割 ていなかったでしょう。 を果たしている同社の杉原氏は、 「モバイル向けアプリケー 2015年(MCR調査)で7割以上がスマートフォンを所有し ション、プログラマティック、そして動画広告。この3つのガ ており、電話という役割からインターネットや動画を見る端 イドを軸に、我々はパートナーであるメディア各社がマネタ 末としての位置づけへとシフトしてきています。デバイス別 イズを生み出せるようサポートを行っている。リスクテイク の1日の利用時間を見ると、若年層ではテレビ視聴時間と、 できる企業は最初こそ厳しいが、その世界(広告)で新しい スマートフォンやパソコンを使用したネット接触時間がほ リーディングカンパニーになれると信じている」と3つの分 ぼ同等という普及を遂げています。 野を掲げ、チャンレンジへの重要性を説きました。 まず最初に、 「注力していること」として、1996年にポータ そして、これらメディアと広告主のパイプ役となる電通の ルサイトを開設した、現在メディアの方向性を託されている 宮澤氏は、クライアント企業のプログラマティックが大きく ヤフーの宮澤氏は、ここ数年のスマートフォンユーザーの急 進化する中で、2つの課題があると指摘しました。 「まずは、 激な増加に伴い、改めてヤフーの存在意義が問われていると デジタルのマスメディア化、マスメディアのデジタル化とい いいます。 「ヤフーはなぜヤフーなのかということを、ここ数 う、両方向の動きをいかに推進していけるか。もう1つは、 年は常に考えている。我々は日本で最も利用され、最も信頼 個々のプログラマティックは進んでいるが、特にサプライサ されるネットメディアでありたい、ということを掲げて事業 イドではまだまだプラットフォームの整備が出来ておらず、 運営をしてきた。だからこそ、どんなデバイスが出てきても、 インフラ構築が喫緊の課題だ」と語るのに対し、田端氏は「広 最も使われるメディアであり続けないといけない。現状では 告主から見た『信頼できるメディアがあるのか? 』という側 6割のユーザーがスマートフォン経由で利用しており、 特に若 面と、メディア側から見た『広告主が予算投下してくれれば い人たちにはパソコンを使わない人たちも多いため、 そうい 進めていく』という側面でジレンマはあるが、変わりつつあ う人たちに今後どのように利用していただくかが鍵となる」 。 るとは感じる。一方でインターネット業界の中でも、スマー 続いてスマホアプリを提供するLINEの田端氏。 「主要なナ トフォンとパソコンの関係のジレンマもある」という。これ ショナルクライアントからの広告出稿をしっかりと受け止 にヤフー宮澤氏は「まさに我々がそのジレンマの塊で、ス められるメディアになることが、チャレンジしていること。 マートフォンのトラフィックが急増する一方、広告単価はパ 若者のスマホ接触時間はテレビと同程度であるが、ナショナ ソコンとは比べ物にならなかった。現在はトップページをタ ルクライアントのテレビとインターネットの投下予算比は イムライン型に変えインフィード広告を行うことで、スマー 大きな開きがある。この予算と時間のギャップを埋めていく トフォンの単価も少しずつ良くなってきている」と、各自の ことで、ネット広告全体も盛り上がり、スマートフォンメ 見解を語り合いました。 ディアへの予算投下比も増加し、結果的には LINEとしても ビジネスを拡大させることができる」。 電通の調査によると日本の広告費の割合は、2014年度に はテレビが約1兆8000億円、インターネットが約1兆円と半 分強にまで迫っています。しかし、日本の広告宣伝やマーケ ティングにおける、スマートフォンのインパクトは過小評価 8 Video Research Digest 2016. 2 グーグル株式会社 執行役員 パートナー事業開発本部長 日本 & 韓国代表 杉原 眼太 氏 ヤフー株式会社 執行役員 メディアカンパニー長 宮澤 弦 氏 LINE 株式会社 上級執行役員 法人ビジネス担当 田端 信太郎 氏 株式会社電通 デジタル・ビジネス局長 宮澤 由毅 氏 株式会社ビデオリサーチ ソリューション推進局 インタラクティブ事業戦略室長 / VRI 取締役 池田 宜秀 有限で独自の価値こそが これからのメディア指標に 進化の早いインターネット業界における「少し先のこと」 手ポータルの使命感を窺わせました。ここで、池田が「LINE として、田端氏は「LINEというインフラに近いメディアのポ は巨大なインフラ、グーグルやヤフーはオリジナルなものを テンシャルを活用し、クライアントの業務プロセスに入り込 目指している印象を受けたが、そういう各々違った価値で電 んでいくことができると考えている。単に認知をとるだけで 通としては広告を売っていくことは可能か?」 と問うと、電通 なく、従来の業務フローが変わるユーザー体験全体へのサー の宮澤氏は 「デジタル上には無限の世界が広がっているとい ビス提供を3 年先ぐらいで実現できたら。」と、ビジネスプラ う考え方があるが、高い効果が期待出来る広告やコンテンツ ンを提示。杉原氏は「1 ~ 2 年先の話しで言うとViewability。 は有限だと感じている。自分たちはそれをどう目利きしてク ブランド広告主に認めて頂けるサイト作りをパートナーと ライアントに提案していくのかが求められている」 と述べま 進めていきたい。そして、doubleclickというプラットフォー した。 ムが整ってきたので2016年こそは動画広告元年としたい」 このディスカッションを通して、インターネットのさらな と直近の目標について語りました。さらに、ヤフー宮澤氏は る躍進、そしてテレビと融合していく時代に向けて、メディ 「いま世界や日本で起こっていることをしっかりと届けるこ アの特性や価値を正しく評価する指標がますます求められ とが必要となってきた。中期的な社会的テーマや、ヤフーで ており、 VRが取り組むべき課題が明らかとなりました。 しか見れない独自のコンテンツを増やしていきたい」と最大 9 マーケティング 「生活者のデジタル化、マーケティングのデジタル化における課題と展望」 デジタル環境の進化が生み続ける生活者やコミュニケーションの膨大なデータから、新たなビジネスチャンスをつ かむヒントや課題を議論しました。 生活者のデジタル化が 広告やマーケティング、そして組織を変容させる 「ACR/ex」 調査によると、 パソコン、 スマートフォン、 タ 方を統括する機能を持つことも考えなくてはならない」 と ブレットのいずれかを個人全体の約9割が所有する昨今、 安藤氏は提言。 これに今西氏も 「全社的にデジタルデータ 生活者の行動や関心までもがデータとして日々蓄積され、 を共有するようになり、 流通企業、 スーパーなどのチャネ リアルタイムで把握できる時代へと進化しています。 これ ルとの情報共有も含め、 我々のチームがリードしていく必 らの多様なデータをどのように活用し、 マーケティング施 要のある領域は広がってきている」 と、 組織変革の必要性 策の武器としていくべきなのか。 デジタルマーケティング を語りました。 の最前線で活躍するお2人を迎えして熱い議論が交わさ れました。 自社のデジタルメディアへの投資額は直近3年で80% 以上伸長しているという日本コカ・コーラの今西氏は、 「広 告」 も消費者にとって有益な 「情報」 として伝えることが肝 「非デジタル層」も内包した市場全体の デジタル化をみる視点が大事 心だと説きます。 その成功事例として 「い・ろ・は・す もも」 ここで布川が、 「ACR/ex」調査によるインターネット利 のトライアル施策を挙げ、 「発売前からソーシャルメディ 用時間データから、 世の中の4人に1人はインターネットを アを中心に、 どういう情報を伝え、 どういう期待を醸成し、 利用していないという結果を提示しながら、 「デジタルに 消費者にどうコミュニケーションできるかと三段階に分 非堪能な集団の中のファンを、 どうおもてなしすればよい 解し施策を講じた。 過去のラインナップに比べ高いトライ のか」という質問を投じました。 アル率となり、 ロケットスタートに成功した」 と紹介。 ブラ 安藤氏はこのデータの切り口を受け、 「VRが中立の視点 ンド広告の第一想起 (Mind-TOP®データ) を目的変数とし、 から冷静にこういった分析をし、 データを活用していくこ 各メディア出稿、 ツイートなどのソーシャル要因、 などを とは非常に大事だと改めて思う。 ただし、 デジタルマーケ 説明変数として分析し、 テレビに次ぎソーシャルボイスの ティングとは、 SNSでつぶやいている人を分析するだけの 高い貢献を確認し、 この施策に踏み切ったといいます。 ことではない。 デジタルに接触している自覚がない人も包 これに対し博報堂DYMPの安藤氏は、 さらなる課題とし 含した、 市場全体の構造におけるデジタル化を見る視点も てPDCAへの活用について言及。 「多くの企業では広告活動 大事だ」 と述べると、 今西氏もこれに共感。 「ユーザーは無 /販促活動/販売活動で情報が分断されていることで、 生 自覚だが、 例えば自動販売機はデジタル化が進行しており、 活者の反応が見えなくなってしまっているのが問題であ 手売りチャネルのレジ同様、 データ収集源となりつつある。 る。 広告・プロモーションの反応のデータと、 それらの周辺 ネット非利用者に向けたコミュニケーションとしては、 にある視聴・行動・購買のデータなどが、 デジタル化によっ “ネットだけで語られる情報” では小さいので、 それを“社会 てどのようにつながるのか、 どうプランニングできるかが 的に語られる情報”へと転換していくことが必要だと考え 肝」 と安藤氏。 ている」 と語り、 むしろこのデジタル化によって、 ブランド また、 「R&Dや価格設定ではこれまでリサーチが鍵と ごとに最適なコミュニケーションを考えられる時代に なってきたが、 今後はデジタル化した個のデータもプロダ なったといいます。 クト開発には不可欠となる。 企業の観点からすると、 その両 10 Video Research Digest 2016. 2 日本コカ・コーラ株式会社 マーケティング本部 IMCコネクションプランニング& メディア部長 今西 周氏 株式会社博報堂 生活者データマーケティング推進局長 兼 株式会社博報堂DYメディアパート ナーズ データドリブンメディアマーケ ティングセンター長 安藤 元博氏 株式会社ビデオリサーチ マーケティング事業推進局長 布川 英二 生活者志向が求められる 企業とマーケティング このように、 様々な生活者の行動データが蓄積される一 マーケティングの本質を見直すきっかけにもなっている 方、 メーカーの意図に関わらず生活者自身たちの思いや考 と説きます。 「いま企業の事情を超えた“生活者志向”が求め えを発信、 拡散できる環境の中で、 2020年に向けてデジタ られているが、 これは従来のマーケティングでも当然取り ルマーケティングとはどのように進化していくべきなの 組むべきことだった。 かつてのように 「こういう風に思っ でしょうか。 てほしい」 「そういうことにしておいてほしい」 としてきた ビジネスにおけるマーケティングの価値、 そして評価指 ことが、 消費者に通用しなくなってきた。 昔は企業からし 標の変革と向上を目指す今西氏は、 次のように語りました。 か新しいライフスタイルの情報が得られなかったが、 今の 「デジタルがマーケティングのテクノロジーの1つとなり、 生活者はメーカー発案の情報をそのまま受け取らない。 デ マーケティング自体の価値を引き上げていく存在となる。 ジタル化はそれを明らかに浮き彫りにしてきた点でも重 その上で、 自社のケイパビリティが問われていることを痛 要な役割を担っている。 日々の活動における生活者と企業 感する。 すでに始めているが、 企業側の組織や当該部門の の価値共創という、真剣勝負をやるべきときがいよいよ 編成なども変容させながら、 マーケティングに取り組んで きた」。 いかなくてはいけないというのが一番の課題。 消費者に対 これらの話を受け布川は 「マーケティングのデジタル化 しては、 リアルタイムより“ライトタイム”。 生活導線上にお は、 これまでマーケッターがやりたくてもできなかったこ いて“正しいタイミング、 場所”で、 どのように情報を伝えて とができる、 “夢のような時代”とも言える。 今後生活者やメ いくかが重要。 そして、 顧客志向で発信された情報のクオ ディアがどんなにデジタル化しても、 生活者接点・顧客接 リティを消費者側が判断し、 評価していく時代こそがデジ 点を確実に捕捉しながら、 「マーケティングのデジタル化 タル化そのものではないだろうか」 。 を支援するデータサービス」 に取り組みたい。 そのために、 安藤氏もやはり広告/販促/販売などの枠を超えた、 組 市場全体の推計ができる 「ACR/ex」 に加え、 テレビ・ネッ 織の基盤作りが最優先課題だといいます。 リサーチのデー ト接触を機械式で測定する 「VR CUBIC」 という二つのシン タとデジタルのデータを、 どのようにマージ・併用してい グルソースパネルデータを提供する」 と語り、 締めくくり くかが重要で、 これをつなぐことができれば戦略とアク ました。 ションを一本化できるからです。 さらに、 このデジタル化は 11 生活者 世代・トレンド評論家 インフィニティ代表取締役 牛窪 恵氏 株式会社ビデオリサーチ ひと研究所所長 加治佐 康代 「生活者の変化から見る時代の潮流~牛窪 恵氏×VR ひと研究所~」 近年、多様化が進み見えづらくなっている生活者について各種メディアでも活躍する世代・トレンド評論家でマー ケティングライターでもある牛窪氏とVRひと研究所所長の加治佐が今の生活者の姿や本音、消費トレンド、さらに この先の変化など把握しづらくなった“生活者の今”をひも解きます。 メディア環境変化の生活者への影響と 世代特性による生活者分類 VRひと研究所がまとめた生活者を取り巻く大きな環境 の歳の差で、まったく異なる時代を生きてきたこの2世代で 変 化 の 中 で、牛 窪 氏 が 着 目 し た の は メ デ ィ ア の 多 様 化。 あるものの、価値観での類似点が驚くほど多いといいます。 2011年頃から加速し始めたSNSの普及により、世の中を流 ボランティアやエコ、リサイクルなどに関心が高く、浴衣な 通する情報量が激増。一般の生活者自身も情報発信する中 どの和文化、自然との共存するレジャーやスポーツを好み、 で、ターゲットに情報を届けていくことが日増しに困難と 車を選ぶ際も見た目や機能性よりも環境への配慮を重視す なる一方、牛窪氏自身も「テレビオンリーではない他のアプ るなど、かつてのバブル世代などには見られない嗜好性を ローチも活用した生活者にフィットするマーケティングが 持っているのがこの2世代。加治佐によると、女性は出産後 必要である」ことを実感したといいます。また、世代特性の も仕事を続けるべきかという意識調査で、YESと回答した 分析においてもメディアの多様化は影響しており、 「景気・ 人の割合が、この世代は同等に低く、保守的な世代としても 経済の動向は人の心に与える影響が大きい。特に17~23歳 類似していると解説しました。 という青春時代に得た価値観や体験した景気で、消費の物 差しができるといわれている。ただ、私たちの時代にテレビ や雑誌といったメディアが大きく影響したように、今では 小学生の約6割が動画サイトに接触しているということは、 今後もっと前倒しでこの世代へのメディアの影響を考える 必要があるだろう」と牛窪氏は提言しました。 世代 × 価値観から見出す 新たなるマーケットの出現 これらの類似世代を分析してみると、これを解く鍵は「世 代×価値観・ライフスタイル」にあると加治佐はいいます。 さらに、様々な世代の特性を掘り下げていくと、世代間に 「私たちは生活者を捉える新たな切り口として『ひとセグ』 意外な類似点があるという牛窪氏は、特徴的な例を2つ挙げ の開発に取り組んでいる。性格や生活の価値観、情報の選択 ました。 など生活者の内面という部分で、切り口を設け体系立てて ま ず は、団 塊 世 代(現64~69歳)と2つ の バ ブ ル 世 代(現 いる。例えば、シニア世代をこの切り口で分類すると、現在 45~56歳/新人類、真性バブル)。最も人口の多いことで知 は大きく分けて6タイプが存在する。中でも、バブル世代と られる団塊世代は、青春時代にツィッギーやビートルズの の類似性が高いのは、流行に敏感で積極的な“ラブ・マイライ 来日、 『an・an』や『non-no』創刊など、海外文化の影響を強く フ”。また、エイジレスに同じものを共有できる人とつながる 受けていると指摘。一方、バブル世代もニュートラ、ディス “社会派インディペンデント”はゆとり世代に近い」という分 コ、サーファーなどアメリカ文化の影響は大きい。いずれの 析に、牛窪氏は「確かにメリハリ消費など、お金を使わない 世代も右肩上がりの時代に育ち、最先端の物を手に入れた わけではないが消費に慎重で貯金をし、社会貢献やボラン がる消費好き。そのためには頑張って稼いで手に入れると ティアへの関心が高い点も非常に近い。私も世代論に価値 いう、いい意味で労働モチベーションと結びついている点 観やライフスタイルを加味した分析は非常に重要だと考え も相似しているといいます。 ている。人口減少社会では一つの世代をターゲットとして 商品開発しても採算がとれない。共通する世代はどこか、世 ふたつ目の類似世代は、ゆとり世代(現18~27歳)とシニ 代を超えて共通する部分としてライフスタイルも重視して ア世代(現60~70代)。年齢的にはちょうど祖父母と孫ほど いる」と共感を表しました。 12 Video Research Digest 2016. 2 そんな世代を超えた共通項として近年注目を集めていると れず、ひと起点でマーケティングを考えることが回り道のよ いうのが「二世代、三世代消費」。特に人口の多い団塊世代、団 うで近道ではないか。今後もひと起点の真心のこもったマー 塊ジュニア世代親子はマーケットが大きく、近年ここに孫世 ケティングを目指したい」と展望を述べて幕を閉じました。 代が加わり始めたことで、あらゆる分野からビジネス参入が 絶えないという。 「パラサイトシングルとして親と同居をして きた、団塊ジュニア世代の“親ラブ族”女性たちが結婚、出産 し、自分の実家に近居するケースが非常に増えている。三世代 消費が生まれ、上客を親世代から引っ張ることで、効率よく下 の世代が取れる堅いマーケットとして、様々な業界が注目し ている。これがまさに格差社会の象徴だろう」と牛窪氏は論を 結びました。 最後に、牛窪氏は「これからのマーケティングを考える上 で、世代だけでなくライフスタイルや置かれた環境を深く見 ること」への重要性を説き、加治佐は「見え辛くなっていると いわれる生活者だが、私たち自身も一生活者であることを忘 「シニア価値観セグメント」 by 積極的 今が一番楽しい! 13% 平凡な毎日 です 25% コミュニティ カフェを 開きたい 新型 アクティブシニア アクティブシニア 伝統・ 保守 買っちゃった♪ 9% 変化・ 刺激 6% お金さえ あればね… ポテンシャル シニア シニア 17% 慎重・控えめ 会社にいた方が 楽だった・・・ 31% ビデオリサーチ「ACR/ex」東京50Km圏 55~74歳男女 ひとくくりでは語れないシニアたち ~自分のために積極消費~ ~楽しんで人に尽くす~ 若さ・美・アンチエイジング 趣味と実益を兼ね社会貢献 好きなものにお金を使う自由人 趣味も仲間もエイジレス 新しもの好き 夫婦円満。一緒の行動も多いが、 ひとり行動も平気 ゆとり世代と 普段は節約。メリハリ消費 似ている?! 流行に敏感 社交的 バブル世代と 似ている?! 好奇心旺盛 13
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