0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 No.5 8 創意社・山口 幸正 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 愛知県豊川市小田渕町4‐63 0000000000000000000000000000000000000000000000 従業員数:本社34人, 株式会社 ティビーアール 0000000000000000000000000000000000000000000000 上海天維亜編織有限公司100人 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 くみひも えだなわ 0000000000000000000000000000000000000000000000 組紐に着眼したのは半世紀近く前。編み方を工夫して,枝縄を出し,はえ縄漁のロープ 0000000000000000000000000000000000000000000000 をつくったのが最初だった。その後,枝縄の数や形や材質を変え,表面積を広げ,特定物 0000000000000000000000000000000000000000000000 質を吸着できるようにして,水産分野,陸上分野,環境分野,資源エネルギー分野にいた 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 るまで,次々と新たな用途を広げてきた。長年にわたる探求と挑戦は,時代を越え,国境 ふく い ひろ み 0000000000000000000000000000000000000000000000 を越えて,地球の未来を見つめており,驚異的で,感動的である。その歩みを福井宏海社 0000000000000000000000000000000000000000000000 0000000000000000000000000000000000000000000000 長に聞いた。 0000000000000000000000000000000000000000000000 新・改善改革探訪記 組紐の可能性を 地球規模に広げてきた会社 ねん し よ ■撚ったロープから組紐ロープへ の前は福井撚糸工業という名前だった。福 井漁網(現福井ファイバーテック)の子会 ティビーアールという会社名は,以前の 社として1960年に設立され,当初は親会社 社 名,豊 橋 組 紐 ロ ー プ 工 業(Toyohashi のために綿糸を撚って漁網用の撚糸を製造 Braided Rope)の頭文字からきている。そ していた。 よ 綿糸はやがてナイロンに代わった。それ により漁網やロープの寿命は長くなった が,撚ったロープは,もともとねじれやす く,ねじれて折れ曲がった部分でキンクと こぶ 呼ばれる瘤ができて,切れやすくなるとい う弱点があった。それを克服するため,福 井漁網からの出向役員だった3代目社長, ばんたつぞう 伴辰三氏は組紐に着眼した。 招き入れられた応接室の隅に組紐の丸台 があった。丸台の真ん中に穴が開いてい 福井宏海社長 26 リーダーシップ る。その穴をくぐらせて,8色の糸束が丸 新・改善改革探訪記 台の周囲に垂れており,それぞれの先端が おもり 錘に巻かれている。対角線上の糸束の錘を 両手でとり,それぞれ隣の糸束の横に置 く。その作業を繰り返すと,丸台の真ん中 の穴から8色の糸で織られた組紐が少しず つ姿を現す。そんな仕組みである。 「組紐は,6世紀の中頃,大陸から仏教 の経典が伝来したとき,その経典を結ぶ飾 り紐として日本に伝えられました」 。4代 組紐の丸台 目社長,福井宏海さんはそんな話からはじ めた。鎌倉時代には甲冑や兜の飾り紐とし 井さんを後継者と目し,福井さんが学生の て,安土桃山時代には茶道具の飾り紐とし 頃から,ティビーアールへの入社を熱心に て,江戸時代以後は着物の帯締めや羽織の すすめていた。 紐として珍重され,日本独自の発展を遂げ たという。 「私が入社した前年に,当社は豊橋市内 からここ豊川市に移転してきました。それ 組紐でつくったロープはねじれが起こら まで,10トントラックも入らない狭いとこ ず,キンクして切れる心配がない。先代, ろで,そんな小さな会社はいやだなどと言 伴氏はそのことに着眼し,ドイツ製の機械 っていたのですが,10トントラックが入る からヒントを得て,2 0 0 0m以上の組紐ロー ようになったからと言われ,そこまで期待 プがつくれる独自の小型組紐ロープ製造機 をかけてもらっているのなら…と,大学卒 を自社で開発し,それで組紐ロープをつく 業と同時に入社しました」と福井さんは言 りはじめた。1 9 67年のことだった。 う。 それからこの会社は独自の道を歩きはじ 半世紀に及ぶこの会社の製品開発の歴史 めた。翌1 9 6 8年,伴氏は親会社が保有する を展示室で見せてもらった。当初の製品は 株を買い取って独立。自力での顧客開拓を 大半が水産関係で,船を係留するロープや めざし,組紐を使って,さまざまな水産用 アンカーロープなどとともに,次のような ロープを開発してきた。 ものがあった。 ■水産用ロープの展開 4代目社長の福井宏海さんの入社は1 9 8 0 年である。伴氏には男の子がなく,甥の福 [浮子(アバ)ロープ] 組紐は中が空洞で,そこに芯を入れるこ とができる。芯に発泡スチロールなどの比 重の軽い物質を入れたものが浮子ロープで, 2016.3 27 貝を吊るしたループコード ネッティングロープに魚網を取り付ける これに漁網を取り付けると,漁網の上端が ープ状などに変化させられるようにした。 浮き上がる。芯に高密度のスチロール製特 その応用展開の中で,次のような製品が生 殊浮力体を入れることで,2 0 0気圧に耐え, まれている。 深さ2 0 00mの深海漁業が可能になった。 [沈子(ちんし)ロープ] [ループコード] 貝の養殖に用いられる。枝縄に,帆立貝 反対に芯に鉛やAZ合金などの比重の大 や牡蠣の稚貝の耳の部分に穴を開けて吊る きな金属を入れると,ずっしりと重いロー すもので,開発から30年を経て,いまも同 プができる。これを漁網の下端に取り付け 社の売上げに大きく貢献しているロープで ると,海に入れた漁網が素早く開き,どん ある。 どん海中に沈んでいく。浮子ロープと沈子 [ネッティングロープ] ロープを組み合わせることで,遠洋漁業で 組紐ロープから大小2つのループ状の枝 のアイスランドやノルウェーのタラ漁が大 縄が出ていて,これを交互にくぐらせて漁 きく発展したという。 網を取り付ける。特別の道具を使わずに人 福井さんは入社して間もなく,重要な技 術開発に関わった。当時の通産省から技術 改善補助金を受けて行われた「枝縄を有す の手で簡単に取り付けることができ,18カ 国の特許を取得している。 [人工藻] る組紐ロープの新製造法に関する研究」で 長い無数の枝縄をびっしりと編み込んだ ある。はえ縄漁のための組紐ロープの製造 組紐ロープ。人工産卵礁として使われ,そ 方法を研究したもので,当初は1 0mに1本 の無数の枝縄に淡水魚,海水魚やイカに産 の枝縄を出し,その先に針と餌をつけられ 卵させる。 るようにして,鰹,鮪,鰤,鯛などのはえ 縄漁に使われたが,やがて,枝縄の間隔を 自由に変えられるようにし,形も枝状やル 28 リーダーシップ ■環境分野への進出 日本の遠洋漁業は戦後大きく発展した。 新・改善改革探訪記 だが,沿岸2 0 0海里を排他的経済水域とす 環境分野の需要は国内では一巡したが, る「海洋法に関する国連基本条約」が採択 海外の水質汚染はまだまだ深刻で,とりわ されたときから多くの漁場を失い,1 98 2年 け大きな需要が期待されるのが中国であ をピークにその後大きく後退した。それに る。 ともなって水産関連の売上げが下がり,新 たな需要先の開拓が必要になった。 1995年以来,同社は中国に設立した独資 企業,上海天維亜編織有限公司を通じて, 同社が着目したのは環境分野だった。当 中国,韓国,インドネシア,アメリカなど 時の漁業関係者との交流の中から,海が生 に資材用ロープを供給してきた。20 08年か 活排水や工業廃水で汚染されていることを らは,南京大学との間で水質浄化・環境浄 知り,組紐による水質浄化の研究をはじめ 化の共同研究を開始。20 10年からは,NE たのである。 DO(新エネルギー産業技術総合開発機 [バイオコード] 構)や中国国家発展改革委員会など日中の 1 9 8 5年,その研究の中からバイオコード 専門機関とともに,雲南省の水質浄化プロ が生まれた。人工藻と同じように長い無数 ジェクトに参画。さらに,中国の環境需要 のループ状の枝縄をびっしりつけたモール に対応するために上海事務所を開設してい 状ロープで,汚染された水の中にこれを浸 る。 けておくと,バクテリアが付着して水中の 有機物を分解し,水質浄化できる。全国3 50 ■レアメタルを回収できるロープ カ所の河川で利用されているほか,海,湖 バイオコードはモール状の繊維に付着さ 沼,池,さらには陸上で生活排水や工場排 せたバクテリアにより汚染物質を分解除去 水の浄化にも利用される。この開発によっ するが,この繊維に電子線やガンマ線を照 て同社は1 9 9 6年に「ニュービジネス大賞・ 射して化学変化を起こさせ,特殊な官能基 環境賞」 ,1 99 7年に「科学技術庁長官賞」を をグラフト(接ぎ木)すると,選択的にニ 受賞している。 ッケル,コバルト,クロムなどのレアメタ ルを吸着させることができ る。1999年から同社は日本原 子力研究所(現日本原子力研 究 開 発 機 構)と の 共 同 研 究 で,海水からレアメタルを回 収する研究をはじめ,約20種 バイオコードの構造 のレアメタルの回収に成功。 2016.3 29 ーテンの羽根を開閉する紐なども 含まれる。製品の品目数は,材質 やサイズや色の違いまで含むと, 何万,何十万品目にも上る。 「枝縄を有する組紐ロープの新 製造法に関する研究」からはじま った数々の新製品開発は,ほとん どが福井さんによるものという。 生活分野の組紐製品 「先代が親会社から独立して, 鉛や水銀,ヒ素などの有害物質も吸着でき 自分で歩きはじめたからこそ,私たちは必 ることがわかった。これにより,2 01 1年2 死になって新しい需要先を探したのです。 月に「愛知環境賞・銅賞」を受賞した。 下請けに甘んじ,仕事が降りてくるのを待 この受賞がNHKテレビで報道されたの つだけだったら,あるいはすでに確たる事 が3月9日。その2日後に東日本大震災が 業基盤があって,それを守るだけだった 起こり,続いて福島第一原子力発電所で炉 ら,組紐の可能性をここまで広げることは 心溶融による深刻な放射能漏れ事故が起き できなかった。どこまでいってもそこで安 た。同社はすぐさま,レアメタル回収技術 住できる状態ではなかったから,はじめて を応用して,水中のヨウ素やセシウムを吸 の企業にも,政府機関にも,外国にもどん 着できるモールコードを開発した。2 01 4年 どん足を運んで,自分たちのできそうなこ より福島第一原子力発電所の排水路や雨水 とはすべて取り込んで挑戦を続けてきた」 桝に,同社製のモール状セシウム吸着材が と福井さんは話す。 設置され,セシウムの吸着に大きな役割を 果たしている。 ■地球規模の開発テーマ その背後に先代,伴氏の組紐の可能性に 対する大きな期待と自負があった。20数年 前,伴氏は循環型社会の実現を目標に掲 げ,達成すべき13の課題をあげていたとい 展示室にはこのほかにもさまざまな製品 う。「水飢饉」 「食糧危機」「海洋環境の変 が並んでいた。同社の売上げは産業分野, 化」「化 学 汚 染」 「温 暖 化」 「廃 棄 物 処 理」 環境分野,生活分野がそれぞれ3分の1ず …。13番目には「小惑星の衝突」まであげ つ。生活分野では,たとえば携帯電話のス られていた。 「大きく言うと,先代が掲げ トラップ,犬用のリード,スポーツ用の縄 たのは,人類が壊してきたものを元に戻そ 跳び紐,いまは撤退したが,ブラインドカ うというテーマです。私たちはいまなおそ 30 リーダーシップ のテーマに取り組んでいます」と福井さん 開発の境目がなくなってきたという。それ は言う。 ぞれが開発テーマを持ち,研究開発職は得 組紐にかける伴氏の思いは,国境を越 意先に出向いて,そのニーズを背景まで含 え,時代を越え,地球規模の広がりを持っ めて直接把握するようになり,営業マンは ていた。福井さんはそれを信じ,それに促 得意先の要望を伝えるだけでなく積極的に されてひたすら前進してきたともいえる。 提案するようになってきている。福井さん いまの国内の3 4人の従業員のうち,半数 が中心になってすすめてきた地球規模の需 は製造要員。残りは営業・研究開発・事務 要開拓を,これからは組織全体で追求する 要員で占められている。近年はその営業と 体制づくりがはじまっている。 取材・執筆 山口 幸正(やまぐち ゆきまさ) 《プロフィール》 外資系食品製造業人事部勤務の後,産業教材出版業勤務。全国提案実績調査を担当し,改善提案教 育誌を創刊。1 9 8 5年に独立し創意社を設立, 『絵で見る創意くふう事典』 『提案制度の現状と今後の 動向』 『提案力を1 0倍アップする発想法演習』 『提案審査表彰基準集』 『改善審査表彰基準集』 『オフ ィス改善事例集』などの独自教材を編集出版。4 0年にわたって企業・団体の改善活動を取材。現在 はフリーライター。 ●創意社ホームページ http://www.souisha.com 「絵で見る創意くふう事典」をネット公開中 2016.3 31
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