成長余地を切り拓くコンビニエンスストア業界

ア ナ リ ス ト の 眼
成長余地を切り拓くコンビニエンスストア業界
【ポイント】
1. コンビニエンスストア業態の成長が続いている。
2. 成長要因は業態そのものの浸透、社会の変容、弛まぬビジネスモデルの深耕による。
3. 複合的な商材開発を実現する現場力も店舗の魅力を更に増す要因となっている。
4. 社会インフラ化したコンビニエンスストア業界は更に成長余地を切り拓こう。
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
富国生命作成
図表2.コンビニ店舗数
と上位社占有率
100
(%)
80
55,992
46,108
46,806 48,173
50,730
53,634
45,061
60
40
20
チェーン店舗数(国内)右目盛
上位各社占有率
上位各社Cタイプ比率
(資料)コンビニ各社資料より富国生命作成
(備考)Cタイプ店舗数は富国生命推計値
2.成長要因は、業態の浸透、社会の変容、そしてビジネスモデルの深耕へ
CVS の成長要因は第一に、24 時間営業、約 3,000 アイテムの品揃えの店舗フォーマットを擁
し、FC(フランチャイズチェーン)でドミナント展開(地域を絞って集中的に出店する経営戦略)
するビジネスモデルが受入れられたことにある。我が国で 1970 年頃に誕生した CVS は物流網の
構築、情報技術の発展などをベースに小規模な店をネットワーク化させ大手チェーンが成長を牽
引してきた(図表 2)
。
次に、核家族化、単身者世帯の増加、女性の社会進出加速などを背景とした中食ニーズの高ま
り・個食化の進行など「需要」サイドの変化。加えて、事業継承問題等を背景とした個人商店等
の減少など「供給」サイドの変化があげられる。これらの需給バランスの変化、つまり「社会の
変容」に応じた店舗開発や商品開発を行うことで時代に即応した成長機会を得てきたのである。
例えば「昼間人口」を前提とした都市型の店舗開発、
「車移動」の顧客をターゲットとしたロー
ドサイドの駐車場付店舗開発、などで商圏を開発してきたのが良い例である。
一方で、CVS 各社はビジネスモデルを深耕し、自らが商圏を開発し内部成長を実現するステー
ジにも入って行った。CVS の総チェーン売上高成長と店舗総数の成長を比べると、ほぼ同レベル
で推移しており売上成長は店舗数の伸びが大きく寄与していることが分かるが(図表 1)
、特に直
近数年の増加が顕著である。その要因はいくつかあろうが、ここでは店舗契約形態の変化を取上
げたい。
1502末
1402末
1302末
1202末
1102末
1002末
0
0902末
1.成長するコンビニエンスストア業界
我が国の小売販売額は、低成長ながら足
図表1.小売業の業態別
元ではやや回復傾向を示している。業態別
売上推移
では百貨店が大きく減少、スーパーが微増 150(2001年=100)
圏内で推移する中、コンビニエンスストア 140
コンビニ
(以下、CVS)が成長している(図表 1)
。 130
売上
コンビニ
店舗数
CVS とは経済産業省の業態分類定義によ 120
スーパー
110
売上
れば「売場の 50%以上がセルフサービス方 100
小売業
式で、飲食料品を扱い、売場面積が 30 ㎡ 90
全体売上
~250 ㎡未満、営業時間が 14 時間以上」 80
百貨店
売上
の 4 条件を満たすものを指す。本稿では 70
(暦年)
60
CVS のこれまでの成長要因の再確認と、今
後の更なる成長余地について考えてみたい。 (資料)経済産業省「商業動態統計年報」より
アナリストの眼
各社の出店数を集計すると C タイプと分類される店舗の構成比が高まっている(図表 2)
。そ
の特徴はアセット(土地・建物等)の所有形態にある。土地・建物を FC オーナーが負担すると
なると出店へのハードルは高いが、チェーン本部がアセットを負担し、FC オーナーの初期投資
を大幅に減少させることで出店へのハードルを低くする契約形態である。結果、チェーン本部か
らみた出店余地の刈取りと、初期コストやリスクを低減したい FC オーナーとの利害が一致して
いる。チェーン本部では店舗開発ノウハウが蓄積され、リスクを取るべき立地への目利き能力が
高まっている。またドミナント効果を発揮しやすいエリアでイニシアティブを握り、チェーンの
全体最適を考慮しやすくなっていると言えよう。この例で言えるのは、ビジネスモデルの深耕が
マーケットサイズを変える効果を果たしたということであり、市場を内部成長で拡大させたと評
価できるのである。
ここまでは出店成長について述べたが、次に商材・店舗面からの成長について考えてみたい。
3.複合的な商材開発を実現する現場力。店舗の魅力向上が続いている
約 3,000 アイテムの多品種の品揃えが集客力の源泉である CVS だが、売上構成を徐々に変化
させている。その中でも「食品」が 60%以上を占めており、荒利率を見ても食品関係のマージン
が高く利益貢献も大きいことが窺える(図表 3、5)
。絶えず弁当類の開発に努め、中食需要への
対応や PB(プライベートブランド)の強化など市場対応に余念がない。また商材毎の魅力向上
もさることながら、店舗の稼ぐ力も向上させている。最近の店舗でイートインスペースが増えて
いることが目につくが、坪効率面では無駄に見えるものの、ファストフードの荒利率は向上し続
けており(図表 5)
、これらの増販を鑑みるとイートインスペースは付加価値を高めているとも言
える。100 円コーヒーなどはイートインスペースの回転率を高める効果や他業態からも一部顧客
を奪うという副次的効果も生んでいる。CVS 業態を考えるうえで、他業態からの「取込み」が次
の内部成長の要因として鍵となってくるかもしれない。
図表3.コンビニ売上の構成比
100%
30.7 29.9 29.7 27.7 27.6 27.3 27.1 27.2
34.9 33.9 33.8 32.8 33.7 34.8 35.6 35.8
10%
30
2
28
0
26
24
-2
2009FY 2010FY 2011FY 2012FY 2013FY 2014FY
0%
CA
CA
CA
CA
CA
CA
CA
CA
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
加工食品
非食品
サービス
日配食品
(資料)日本フランチャイズチェーン協会
「JFAコンビニエンスストア統計調査」より
富国生命作成
単純合計荒利率
ファストフード
日配食品
加工食品
非食品
非食品マージン要因
加工食品マージン要因
ファストフードマージン要因
日配食品増収要因
総利益成長率
非食品増収要因
日配食品マージン要因
加工食品増収要因
ファストフード増収要因
(資料)コンビニ各社資料より富国生命作成
(備考)各社の分類上の差は考慮していない
22
20
18
2014FY
20%
4.2 4.3 4.5 4.4 4.6 5.0 5.2 5.6
4
2013FY
30%
32
30.2 31.9 32.1 34.7 34.1 32.8 32.1 31.4
2012FY
40%
34
2011FY
50%
(%)
36
2010FY
60%
(%)
8
6
70%
図表5.コンビ二上位荒利率
38
2009FY
80%
10
2008FY
90%
図表4.コンビ二上位荒利額成長率
(資料)コンビニ各社資料より富国生命作成
(備考)各社の分類上の差は考慮していない
また、棚スペースのいらないサービス売上が徐々に増えている点も見逃せない(図表 3)
。アイ
テム数を増やす効果とも言え、店舗魅力を高めている。売上構成比は低くとも、CVS 上位社1の
収益 を集計すると荒利貢献面では底堅いことが分かる(図表 4)
。例えばチケット販売などは、
売場は一つの端末であり、坪効率を考えると非常に価値がある。加えて端末は複数のサービスを
提供しており、実質坪効率は更に高く、大きく貢献していると推測される。
CVS 各社にとって FC 収益向上こそが利益のベースであり、現場と本部とのリレーションシッ
プは重要である。上述した例は、顧客接点として「現場」の生の情報をうまく咀嚼し常に商材等
1 各社の財の定義にやや違いがある点に注意が必要。各社収益ではサービス関連は非食品に分類されるが、売上に取扱額か総利益額か
のどちらを計上するかまちまちである。さらに営業外収益に計上する場合もあり、単純な横比較はできない。
アナリストの眼
を提案し続ける取組の一端に過ぎない。このようにチェーン本部は FC オーナー共に発展する方
策を描くことが出来ており、成長を具現化できたと評価できよう。
4.社会インフラとして次の段階へ。
「食」や「時間価値」で成長余地を切り拓こう
既に国内 5 万店を超える CVS は、
「便利」が「必要不可欠」へ進化し「社会インフラとしての
位置づけ」になったと言われている。そして「社会的要請」を戦略に活かす次のステージに突入
しつつある。前段で述べた核家族化や単身者の増加は依然変わらないが、2000 年以前の高齢者以
外の単身者世帯から、2000 年以降は老齢世帯が世帯数増加の牽引役になっていることが分かる
(図表 6、7)
。これらの世帯では、食の細分化が進むことはもちろん、調理の簡便化も進む。ゆ
えにスーパーなどでの内食ニーズは市場にフィットしづらくなってきている。勿論、惣菜などで
中食の強化を図るも、CVS の立地がやはり優位である。小売りの飲食料品売上げに占めるコンビ
ニ食品比率は上昇を続けており(図表 8)
、依然として高まることが見込まれる。こういった「食」
に再フォーカスすることで、いまだ CVS の成長余地は大きいように見られる。各社の商材開発
を見ると、食の品質向上の探求心は衰えていない。
100%
90%
16.5 15.4 13.6 12.1 11.7 11.0
80%
70%
60%
50%
20%
10%
350
図表8.コンビニ食品売上の占率推移
(兆円)
(前回調査比、万世帯)
300
52.9 50.4
58.5 56.0
60.8 60.0
200
7.9
9.1
100
4.0
4.8
5.0
6.3
6.5
7.8
2.5 3.1
2.9 3.7
17.4 17.7 19.1 20.6 21.1 21.6
0%
1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年
150
50
0
-50
1985年1990年1995年2000年2005年2010年
その他
高齢夫婦世帯以外核家族
その他世帯
高齢者夫婦以外核家族
高齢単身者世帯
高齢夫婦世帯
高齢単身者世帯
高齢夫婦世帯
高齢単者以外単身世帯
一般世帯
高齢単身者以外単身世帯
(資料)総務省統計局「国勢調査」より
富国生命作成
(資料)総務省統計局「国勢調査」より
富国生命作成
(%)
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
250
40%
30%
図表7.世帯数増加要因
16
14
12
10
8
6
4
2
0
1970
1974
1978
1982
1986
1990
1994
1998
2002
2006
2010
2014
図表6.世帯数構成比推移
コンビニ食品計
百貨店・スーパー 飲食料品
飲食料品小売業
コンビニ食品/飲食料品小売(右目盛)
(資料)経済産業省「商業動態統計年報」より
富国生命作成
また、インフラとしての社会の要請に即応する中で、
「時間の価値」で「商圏」を再定義して
いるようにも見える。例えば、今までは①コンパクトな店舗で買回り時間を短縮し、②近距離立
地で往復の時間を短縮してきたが、③より小商圏型の店舗開発や、④宅配やネットスーパー業務
による更なる時間融通性の拡大など「顧客の時間価値を最大化」する動きなどである。CVS 自ら
が顧客に近づいていくことで商圏を開拓しており、これらの商圏の“収縮”を図る取組は各社と
も緒に就いたばかりでもある。
このように市場・生活様式の変化に即応できる点が“コンビニエント“たる所以であり、そこ
が差別化要因、業態としての価値である。そして今や必要不可欠な存在となっている。そのよう
な中、足元では寡占化のスピードが加速している。CVS は物流網や IT などを抱えており、規模
の経済を目指すことは自然である。ただしドミナント効果を発揮・機能させることが大事である。
売場の陳腐化を生じさせない限りは、合従連衡は顧客にとってもメリットとなるはずである。
原点としての「食」の再強化、
「顧客の時間価値の最大化」が次の成長のベースであり、そこ
を支えるのが今まで培ってきた「物流・IT」と「本部と現場が融合した商品開発力」にあろう。
集客ツールとしての「価格」の議論が残っているが、いまだ価格訴求に至っていないことは逆に
成長余地があることの証左でもある。
コンビニエンスストアは依然として自らの成長余地を切り拓いていくだろう。
(審査グループ 五十嵐 貴宏)
(CA)