発注者のエンジニアリング - 澤田雅之技術士事務所

平成28年2月
オープンイノベーションを成功させる
発注者のエンジニアリング
〜 零戦とドローン接近検知警報装置を例として 〜
澤田雅之技術士事務所(電気電子部門)
所長
澤田 雅之
オープンイノベーションとは
特注品の研究開発を
広く外部に求めること
⇨
技術革新が著しい分野で、優れた特注
⇨ 品を創り出す場合に大変役立つ。
自社内で研究開発体制を整えるよりも
効率的で、結果も早く出せる。
オープンイノベーション成功の鍵
研究開発に最適なベンダー
を、早く見つけ出すこと
⇩
これには、発注者ならではの
技術的な手腕の発揮が必要
⇩
これが、発注者のエンジニアリング
発注者のエンジニアリング
ニーズとシーズをベストマッチング
できる発注仕様書の作成が鍵!
ニーズ : 発注者が特注品に求める機能と性能
シーズ : ベンダーが保有する詳細設計と製造
のノウハウ
☆ 技術革新が激しい分野で、
☆ 優れた特注品を創り出すには、
☆ 適切な『発注者エンジニアリング』
☆ が欠かせません!!
過去最大の成功事例は、『零戦』
『零戦』は、20世紀の世界地図を
塗り替えた、純国産の工業製品
発注者【旧日本海軍】 がベンダー【航空機メー
カー】 に求めたのは、
実現が容易ではないが不可能ではない高性能
理想的な発注者エンジニアリング!
旧日本海軍の発注者エンジニアリングは2種類
1 海軍で詳細設計して製造を発注
海軍航空技術廠の技術将校(大学の航空工学科
出身)が作成した詳細設計図(構成、構造の設計図)
に基づき、航空機メーカーに製造を発注
艦上爆撃機「彗星」、 陸上爆撃機「銀河」
2 海軍で計画要求書を作成して詳細設計と製造を発注
実現を求める機能要件と性能要件を網羅した計画要
求書を海軍が作成し、航空機メーカーに詳細設計と製
造を発注
「零戦」、 一式陸上攻撃機、 局地戦闘機「紫電改」
1 海軍で詳細設計して
製造を発注
海軍航空技術廠の技術将校(大学
の航空工学科出身)が作成した詳細
設計図(構成、構造の設計図)に基づ
き、航空機メーカーに製造を発注
詳細設計図
出典 :Wikipedia
1 海軍で詳細設計して製造を発注
海軍航空技術廠の技術将校(大学の航
空工学科出身)が作成した詳細設計図(構
成、構造の設計図)に基づき、航空機メー
カーに製造を発注
⇨
海軍が求める性能を実現する責
任は、詳細設計を行った海軍自
らに在る。
⇨
社内研究開発と同じ
2 海軍で計画要求書を作成
して詳細設計と製造を発注
実現を求める機能要件と性能要件を
網羅した計画要求書を海軍が作成し、
航空機メーカーに詳細設計と製造を
発注
零戦
零戦の計画要求書(=発注仕様書)
1.用途:掩護戦闘機として敵軽戦闘機より優秀な空戦性能を備え、要撃戦
闘機として敵の攻撃機を捕捉撃滅しうるもの
2.最大速力:高度4000mで270ノット以上
3.上昇力:高度3000mまで3分30秒以内
4.航続力:正規状態、公称馬力で1.2乃至1.5時間(高度3000m)/過荷重状
態、落下増槽をつけて高度3000mを公称馬力で1.5時間乃至2.0時間、巡航
速力で6時間以上
5.離陸滑走距離:風速12m/秒で70m以下
6.着陸速度:58ノット以下
7.滑走降下率:3.5m/秒乃至4m/秒
8.空戦性能:九六式二号艦戦一型に劣らぬこと
9.銃装:20mm機銃2挺、7.7㎜機銃2挺、九八式射爆照準器
10.爆装:60㎏爆弾又は30㎏2発
11.無線機:九六式空一号無線電話機、ク式三号無線帰投装置
12.その他の装置:酸素吸入装置、消化装置など
13.引き起こし強度:荷重倍数7、安全率1.8
出典 :Wikipedia
2 海軍で計画要求書を作成して
詳細設計と製造を発注
実現を求める機能要件と性能要件を網羅した計画要
求書を海軍が作成し、航空機メーカーに詳細設計と製
造を発注
海軍が求める性能を実現する責任は、詳細設計
を行った航空機メーカーに在る。
⇨
⇨ 海軍は、最先端の技術動向と現場が抱える課題
を踏まえて、実現が容易ではないが決して不可
能ではない性能要件を計画要求書にリストアップ。
(シーズとニーズのマッチングを取った。)
⇨ オープンイノベーションと同じ
発注仕様書(シーズとニーズのマッチング)
1.用途:掩護戦闘機として敵軽戦闘機より優秀な空戦性能を備え、要撃戦
闘機として敵の攻撃機を捕捉撃滅しうるもの
2.最大速力:高度4000mで270ノット以上
3.上昇力:高度3000mまで3分30秒以内
4.航続力:正規状態、公称馬力で1.2乃至1.5時間(高度3000m)/過荷重状
態、落下増槽をつけて高度3000mを公称馬力で1.5時間乃至2.0時間、巡航
速力で6時間以上
5.離陸滑走距離:風速12m/秒で70m以下
6.着陸速度:58ノット以下
7.滑走降下率:3.5m/秒乃至4m/秒
8.空戦性能:九六式二号艦戦一型に劣らぬこと
9.銃装:20mm機銃2挺、7.7㎜機銃2挺、九八式射爆照準器
10.爆装:60㎏爆弾又は30㎏2発
11.無線機:九六式空一号無線電話機、ク式三号無線帰投装置
12.その他の装置:酸素吸入装置、消化装置など
13.引き起こし強度:荷重倍数7、安全率1.8
出典 :Wikipedia
理想的な発注仕様書を作成するポイント
1 詳細設計に欠かせない性能要件を全
てリストアップ → 性能要件間のトレードオ
フ関係上も、実現が不可能ではないこと
2 詳細設計には踏み込まない →
踏み
込めばベンダー側の設計自由度を狭め、 性能要
件の達成責任が不明確になる虞れ
3 事前に概要設計書を作成して発注者
側の意志を統一 → 概要設計書には、解
決したい課題、技術的な解決方策の概要、課題解
決により期待される効果、を記載
発注者に欠かせない技術的な力量
◎ シーズの把握力 → 最先端の技術動向を
把握する力
◎ ニーズの把握力 →
今日の技術を用いれ
ば解決できる発注者側の課題を把握する力
◎ シーズとニーズのマッチング力 → 課題解
決に適する技術を選択し、 その活用で期待
される効果を的確に予見する力
⇨
これが、『発注者のエンジニアリング力』
オープンイノベーションの具体例
〜 ドローン接近検知警報装置 〜
ドローンの脅威
(1)目立たずに発進可能
小型であれば、家や車の窓からでも発進可能
(2)自律航行で目的地に到達可能
目的地の位置情報をドローンにセットして発進さ
せれば、 GPS衛星からの信号に基づき、自動的か
つ正確に目的地に到達可能
(3)長距離を高速飛行可能
10km以上の距離を、時速50km以上で飛行可能
ドローンの飛行形態
(1)ラジコン装置を用いた無線操縦
操縦者がドローンの飛行状況を直視して、又は、ド
ローンに取り付けたカメラの映像を見ながら、ラジコン
装置でドローンを操縦。操縦用電波が届く数km先ま
でが無線操縦の限界
(2)GPS信号を用いた自律航行
ドローンに到達させたい目的地の位置情報をセット
してドローンを発進。ドローンは、GPS衛星からのGPS
信号電波を受信し続けることにより、自機の現在位
置と目的地の方位を自動的かつ連続的に確認しつ
つ、目的地まで自動的に航行
夜間に飛来するドローンの探知方法
(1)音響センサー
マイクで拾った周囲音の中から、ドローンのローター回転音に特有な音源
パターンをコンピュータで識別する仕組み。小型のドローンであれば100m程
の距離で、大型のドローンであれば500m程の距離で探知可能。
また、複数のマイクを組み合わせて、検知した連続音(ドローンとは限らな
い)の到来方向や高度を判別する仕組みもある。
(2)サーマルカメラ
サーマルカメラで捉えた映像の中から、飛行する物体を自動的に検出する
仕組み。高精細なサーマルカメラを用いれば、数百m先を飛行中の中型ド
ローンを20度程度のカメラ画角で目視判別可能。捉えた物体の形状を自動
的に解析してドローンか否かを判別する仕組みは未だ実現していない。
(3)レーダー
数km先を飛行中の中型ドローンの方位、高度及び距離を高精度で検出可
能。しかし、レーダー画像からは、捉えた物体がドローンか否かを判別でき
ないため、望遠レンズ付きのサーマルカメラを連動させてサーマル映像から
目視判別する必要があるなど、全体のシステム構成が複雑となり高価。
英国Blighter社のドローン探知・追跡・妨害システム
出典 : Blighter社のWebサイト
米国DroneShield社のドローン探知システム
出典 :DroneShield社のWebサイト
沖電気工業(株)のドローン探知システム
出典 :沖電気工業(株)のWebサイト
都心部でのドローン対策の困難さ
1 ビルが林立
レーダー方式では、ビルが反射するレーダー波
によりレーダー画像が乱され、ドローンの判別が難
しくなる。
音響センサー方式では、ドローンの発する連続
音がビルに反射し、ドローンからの直接音の到来
方向を探知する上で支障。
2 常に交通雑音が発生
音響センサー方式では、ドローンのローターの高
速回転に伴い発生する高周波領域の連続音を、
交通雑音の中から判別する仕組みが必要。
☆『都心部に適するドローン接近検知
警報装置』をオープンイノベーション
で実現するための、
概要設計書と発注仕様書の具体例
⇩
ドローン接近検知警報装置の概要設計書
→発注者側の意志統一に使用
ドローン接近検知警報装置の発注仕様書
→価格と技術の両面での競争に使用
ドローン接近検知警報装置の概要設計書例 (1/3)
1 現状の課題
重要防護施設への物理的なテロ手段については、我が国ではこれまで長
年にわたって、射程が数kmに及ぶ時限式の飛翔弾発射が主であった。しか
し、今日ではドローンの進歩発展が著しいことから、ドローンを用いた重要防
護施設への物理的なテロを最も警戒しなければならない。
重要防護施設へのドローンの侵入を阻止するには、ドローンの接近を迅速
かつ確実に検知して、直ちに阻止手段を発動する必要がある。
ドローンの接近を自動的に検知する手段として、音響センサーやレーダーを
用いた装置が実用化されているが、周囲にビルが林立する交通雑音環境下
にある都心部の重要防護施設に適する装置は、未だ実現していない。
このため、都心部の重要防護施設に夜間に接近するドローンに対しても、
施設構内へ侵入される前に自動的かつ確実に検知できる装置が必要であり、
その開発は喫緊の課題である。
ドローン接近検知警報装置の概要設計書例 (2/3)
2 本装置の概要
飛行中のドローンは、ローターの高速回転による高周波領域の連続音を発
する。本装置は、ドローン特有の連続音の到来方向を自動的かつ速やかに
検知して、その方向にサーマルカメラを自動的かつ直ちに振り向けることによ
り、ドローンの機影をサーマル映像として目視確認に供するものである。
業務用に開発されたドローンは、機体幅が1m前後で機体重量が10kg超の
大型であり、時速50km超の高速で飛行できる。このようなドローンの侵入を阻
止するには、重要防護施設から数百m以遠を飛行している時点でドローンを
検知し、望遠のサーマル映像で直ちに目視確認する必要がある。このため、
ドローン特有の連続音の到来方向の識別精度については、数百m以遠を飛
行中の業務用ドローンに対して、望遠のサーマルカメラを速やかに振り向け
てその画角中に捕捉できる識別精度が、本装置には欠かせない。
都心部では、常に交通雑音が発生する上に、林立するビルがドローン特有
の連続音を反射する環境である。このため、本装置には、ドローン特有の連
続音を、交通雑音から分離して検出できる性能が必要である。また、ドローン
からの直接音を、ビルによる反射音から分離して識別できる性能が必要であ
る。
ドローン接近検知警報装置の概要設計書例 (3/3)
3 期待される効果
本装置は、ドローンに特有な連続音の到来方向を自動的に検出することに
より、重要防護施設に飛来するドローンを到達の数十秒前に検知し、サーマ
ルカメラでドローンの機影を自動的に捉えて目視確認可能とするものである。
本装置は、ドローンに特有な高周波領域の連続音と交通雑音を判別すると
ともに、ドローンからの直接音とビル等による反射音を判別する。この仕組み
により、ビルが林立し交通雑音が激しい都心部においても、ドローンからの直
接音の到来方向を検出して、ドローンの飛来方向を検知する。
このため、本装置は、都心部の重要防護施設を、ドローンによるテロ攻撃か
ら防御するシステムの中核として活用できる。具体的な活用イメージは、本装
置のサーマル映像によりドローンの飛来を目視確認し次第、ドローンからの
直接音の到来方向に対して、ドローンの遠隔制御や自立航行に用いる信号
電波をジャミングする、ネット発射機を用いて捕獲用のネットを発射するなど
の手段を発動することにより、重要防護施設へのドローンの侵入を阻止する
ものである。
ドローン接近検知警報装置の発注仕様書例
1 特注品名 : 都心部の重要防護施設用ドローン接近検知警報装置
2 特注品の目的 : ビルが林立し交通雑音が激しい都心部にある重要防護施設に夜間
に接近するドローンを発見するため、飛行中のドローンに特有な高周波領域の連続音を
検出して、ドローンからの直接音の到来方向を割り出すとともに、その方向にサーマルカ
メラを自動的に振り向けることにより、ドローンの機影をサーマル映像として目視確認でき
る装置を実現する。
3 特注品に求める機能要件及び性能要件 :
(1) ビルが林立し交通雑音が激しい都心部において、時速50kmで飛来する機体重量が
10kgのドローンに対して、装置からの直線距離が500m以遠の地点で、飛行中のドローン
が発する特有な高周波領域の連続音を、ビル等による反射音と区別して検出できること。
(2) (1)項で検出した連続音について、装置からの方位と高度を迅速に割り出すことがで
きること。
(3) (2)項で装置からの方位と高度を割り出した時点で、視聴覚に訴える警報を発するこ
と。
(4) (2)項で割り出した装置からの方位と高度に向けて、サーマルカメラを迅速かつ自動
的に振り向けることにより、ドローンの機影か否か をモニター画面上で目視確認 できる
サーマル映像を撮影できること。
(5) (4)項のモニター画面上には、装置からの方位と高度を分かり易く表示すること。
(6) 装置は屋外に設置できるようにするため、IP55に相当する防塵・防滴構造とすること。
発注仕様書の「目的」の記載例
2 特注品の目的 :
ビルが林立し交通雑音が激しい都心部にあ
る重要防護施設に夜間に接近するドローンを
発見するため、飛行中のドローンに特有な高
周波領域の連続音を検出して、ドローンから
の直接音の到来方向を割り出すとともに、そ
の方向にサーマルカメラを自動的に振り向け
ることにより、ドローンの機影をサーマル映像
として目視確認できる装置を実現する。
発注仕様書の「性能要件」の記載例(1/2)
3 特注品に求める機能要件及び性能要件
(1) ビルが林立し交通雑音が激しい都心部において、
時速50kmで飛来する機体重量が10kgのドローンに対
して、装置からの直線距離が500m以遠の地点で、飛
行中のドローンが発する特有な高周波領域の連続音
を、ビル等による反射音と区別して検出できること。
(2) (1)項で検出した連続音について、装置からの方位
と高度を迅速に割り出すことができること。
(3) (2)項で装置からの方位と高度を割り出した時点で、
視聴覚に訴える警報を発すること。
発注仕様書の「性能要件」の記載例(2/2)
3 特注品に求める機能要件及び性能要件(続き)
(4) (2)項で割り出した装置からの方位と高度に向けて、
サーマルカメラを迅速かつ自動的に振り向けることに
より、ドローンの機影か否かをモニター画面上で目視
確認できるサーマル映像を撮影できること。
(5) (4)項のモニター画面上には、装置からの方位と高
度を分かり易く表示すること。
(6) 装置は屋外に設置できるようにするため、IP55に
相当する防塵・防滴構造とすること。
オープンイノベーションを成功させる
理想的な発注者エンジニアリング
発注者ならではの目利き力の発揮
→
最新技術で解決できる課題を見極める力と、課題
解決により期待される効果を的確に予見する力の発
揮が、発注者のエンジニアリングを成功に導きます。
理想的な発注仕様書の作成
→
ベンダーが保有する 【設計と製造のための】 技術
力とは次元が異なる、 【要求する機能と性能を規定
するための】発注者ならではの技術力が必要です。
平成28年2月
オープンイノベーションを成功させる
終
発注者のエンジニアリング
〜 零戦とドローン接近検知警報装置を例として 〜
澤田雅之技術士事務所(電気電子部門)
所長
澤田 雅之