現場発,病院と患者のためのシステム

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現場発,病院と患者のためのシステム
待ちの雑学
杉 浦 和 史*
は じ め に
スーパーのレジに並ぶときなど,日常的に経験するの
が,自分の番が来るまで待つということです.普通は少
しでも待たないよう,より空いているところに並びま
す.しかし,予想に反して,行列の長いほうのレジが早
かったりしてガッカリすることがあります.これは,
連載



OR
(operations
research)
の一つに待ち行


 列理論があります.簡単にいえば,サービスの対 
 象となる物,人の到着頻度と,到着した物,人に 
 サービスをする側の処理能力に関する理論です. 
 病院でいえば,単位時間当たりの患者さんの到着 


 頻度と医療スタッフの処理能力が,待ち行列(待 
 ち時間)の長さに与える影響の分析に使えそうで 
 す.今回は,待ちに関する雑学的知識を紹介しま 
 す.


病院側としては,スタッフのそれぞれの担当業務にお
客,店側それぞれに原因があります.①前に並んだ人が
けるスキルアップを図ることは当然ですが,サービス窓
購入した物の数,②請求金額がわかってから財布を出
口を多くすることも有効な対策です.サービス窓口と
す,小銭を捜すなど支払いに手間取る,③購入した物に
は,診察室数,医師数,検査機器の数,スタッフ数のこ
バーコードがなく,担当者が売り場に行って値段を確認
とですが,人件費,設備費の増加を招きます.コスト増
する,④陳列の仕方が悪く,特売品コーナに隣の通常価
に見合う以上の効果が期待できるかを見極めなければな
格の品物が交じり,支払時にもめる,⑤レジ担当者の手
りません.待ち時間短縮などの目標を定め,制限条件が
際が悪い,などです.病院の場合は,患者の状態,年
あるなかでの最適解を求める手法(線形計画法)を使っ
齢,医師,検査員の知識経験,手際によって,同じ患者
てシミュレーションするのも一つの方法です.
数,スタッフ数,検査機器数でも待ち時間に開きがでて
きます.患者の到着率をできるだけ平滑化するには,予
約制を周知し,おしなべて待ち時間が減るメリットがあ
• 待ちと処理
わかりやすく,視力検査台と検査員をセットとした
ることを患者に理解してもらうことが一つの方法です.
サービス窓口を考えます.患者はここで検査を受けます
早く来れば早く終わるというパラダイムを払拭する努力
が待ち方には 2 つの方法があります.図 2 は検査台毎に
も必要になります.
並び,図 3 は検査に対して並ぶという方法で,患者プー
ルに来た患者は,到着順,あるいは受付順に空いた検査
予約制前
3:30
3:00
2:47
2:47
※平均値
2:30
2:00
1:44
1:55
1:53
1:31
1:30
予約制後
1:00
M/M/1,後者を M/M/S タイプと呼んでいます.
最初の M は,患者の到着がランダム(ポアソン分布)
であること,2 つめの M は,検査に要する時間が患者
の状況(症状,年齢など)
,および検査員のスキル,体
1:16
1:05
0:30
0:00
台で検査を受けるものです.待ち行列理論では,前者を
調によって一定ではない(指数分布)ことを示していま
す.3 項目目は,検査台の数(検査員数)です.
図 2 の処理パターン 1 は,待ち行列の長さが,患者の
午前1
午前2
午後1
図 1 予約制施行後の待ち時間推移
午後2
状態,検査員のスキルに直接関係します.また,待ち行
列がゼロになったとき,他の列で並んでいる患者を公平
*
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0910-1810/14/¥100/頁/JCOPY
Kazushi Sugiura:宮田眼科病院 CIO/技術士(情報工学部門)
あたらしい眼科 Vol. 31,No. 2,2014 239
患者
患者
患者
患者
検査台 1
患者
患者
患者
検査台 1
患者
患者
検査台 1
ただし,専門性のある場合には図 2 にならざるを得ま
せん.視野検査,蛍光眼底造影検査などの検査や,角
膜,硝子体,緑内障など,どの医師でもいいのではな
く,専門医が診る場合には,図 2 のパターンの待ちにな
ります.
• トータルの待ちを少なくする工夫
図 2 パターン1©
待ちのパターンに 2 種類あることを説明しました.検
患者
患者
患者
患者
患者
患者
患者
検査台 1
患者
検査台 1
査には,普遍性のある基本検査と,患者の状態に応じて
行う応用検査とがあります.待ちのタイプは,前者がパ
ターン 2,後者はパターン 1 です.基本検査の順番を後
ろのほうで待っている患者の中に,応用検査がオーダさ
患者
検査台 1
れていて,かつその検査を基本検査の前に施行しても問
題ない場合があります.
図 3 パターン 2
©
基本検査を待っている時間を応用検査に回せば,時間
を有効に使えます.患者は待ち時間が減るし,検査員に
とっては,基本検査が終わった患者が回って来るのを待
に持ってくることができません.コンビニで,一つのレ
つ時間の無駄がありません.もちろん,順番どおり基本
ジで待ちが発生すると,2 つめのレジを開け,
「次にお
検査が終わってから応用検査にくる患者がいることを勘
待ちのお客様,こちらにどうぞ」という処置がされます
案しつつであることはいうまでもありません.
が,レジが 3 つ以上になると,どこの待ち行列から移動
以上を考慮した仕掛けをシステムで提供することも可
してもらうかが問題になります.これと同じで,パター
能です.しかし,ベルトコンベアに乗せて均質な処理を
ン 1 の場合は不公平感をもつ患者がでることが懸念され
する生産ラインではないのが病院です.千差万別な事情
ます.
をもった人間(患者)を相手にする処理を有限時間,有
これに対し,図 3 のパターン 2 の方法は待っている患
限予算の制約があるなかで実現することは難しいでしょ
者にとって公平感があります.病院に限らず,銀行な
う(研究対象としては面白いのですが)
.スタッフが的
ど,待ちが発生し,同じサービスを提供する窓口が複数
確な判断をするために必要な情報の提供に留めたほうが
ある場合にはこの方法が有効です.先に来た人が先に
現実的で,実行可能解になると思います.
サービスを受ける(図 4)ことが自然だからです.これ
を,FIFO(first in first out /ファイフォー)方式と呼
んでいます.
• スタッフのマルチタレント化とスキルアップ
応用検査機器,種類毎に専任の検査員を配置すること
は,コストパフォーマンスの点で問題があります.複数
の検査機器を扱えるようマルチタレントな検査員を育成
検査待ち患者
し,検査員がいないために稼働率が低くなってしまう検
査機器がないようにすることも,結果的に待ちを少なく
する有効な施策です.また,検査員個人のスキルアップ
を図り,検査品質を落とさず,単位時間当たりに検査で
きる患者数を増やす施策も必要です.◎……人を指導す
ることができる,○……ベテランの助けを借りずに一定
検査台が 3 台
図 4 パターン 2 の具体的な動き
の品質で検査できる,△……ベテランの助けを借りて検
査できる,×……未経験,このようなスキルマップを検
査員,検査種類毎に作って管理することを勧めます.
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