長野大学研究・教育基本構想

長野大学研究・教育基本構想
Ⅰ.長野大学の基本的目標
1.地域の知的伝統を継承し地域とともに発展する長野大学
古来より「信州の学海」として知られ、大正から昭和にかけては「自由大学運動」と呼ばれた住民の学習運動が興
隆した、この上田の地に、1966 年、長野大学は地域(旧塩田町民)の出資によって設立 され、地域と共に歩み、
2016 年に開学 50 周年を迎える。長野大学は、地域の人々の学びへの熱望と地域の持続可能な発展への願いに依
拠し、建学の理念を踏まえて、公立大学法人として「地域社会と共に立ち、支え合う」大学たらんことを決意する。
2. 長野大学の使命
今日、国際的視野に立ち、自然と人間を尊ぶ、地球市民としての教養を持つとともに、地域社会に自己の基盤を
持つ個性豊かな人間の育成が必要とされている。本学は、地域と連携して、この必要に基づく「新たな知の創造」を
めざすとともに、主体的に学び、他者と共感的につながる瑞々しい感性を持つ人間を育成する。
さらに、教育機関、行政、企業、市民の自発的活動等と連携し、本学の文理融合的、応用的、実践的な学びを、
生涯学習、総合学習支援、共同講座等様々な形で地域に提供し、地域と一体となって人を育てるとともに、研究・
教育活動の成果を地域へ還元することをつうじて、大学を推進軸として持続可能な共生社会を創造する、地域発
展の全国的モデルとなることをめざす。
3.新たな知的活動による三つの創造
(1)地域社会の経験的知識と科学的知識の結合による新たな知の創造
グローバリゼイションの進展によって、富の都市への集中が進む中、地方では自立性の喪失、自然環境の悪化、
文化の画一化、過疎化といった問題が生じている。今日、持続可能で、個性豊かな地域社会の創造のためには、日
常生活の中で地域社会に蓄積された経験的知識(ローカル・ナレッジ local knowledge)の見直しが必要とされて
いる。そして、未来はこのような持続可能な発展を続ける個性ある地域社会の連合体のうちに展望される。
この立場から、長野大学は、文系と理系の研究・教育の結合(文理融合)という特徴を生かして、地域に潜在的あ
るいは顕在的に存在する「経験的知識」と大学の持つ「科学的(学術的)知識」を統合した、新たな知の創造をめざ
す。
(2)課題解決を主題とした研究による地域社会の創造
そのために長野大学の教職員は、地域団体、市民、行政と恊働し、現代の様々な課題と取り組む中で自己の問題意
識を常に鋳直し、研究力量を連続的に向上させ、現実的な問題を解決するための高度な研究成果を作り出す。この成
果を地域社会へ還元して持続可能な共生社会の創造に寄与する。
こうした努力の積み重ねによって長野大学は、「実験室」と「研究室」を根拠地とする研究大学とは異なり、地域を研究
の主題とする第一級の研究大学となることをめざす。
(3)地域社会と連携した新しい教育の創造
現代は、画一的な学力観等によって傷つけられた“普通の若者”が大学に進学する時代である。この若者たちが、
知的好奇心の開花と知的自己鍛錬の機会を十分に得られぬままに、社会に出たとき、彼らの内面は知的に空洞化
し、この知的空洞化の累積は日本社会全体の知的水準の引き下げに結果してしまう。
長野大学は、こうした危険を直視し、一人一人の知的関心と努力のプロセスを尊重し、個性豊かな人間性の開
花を支援する。同時に、地域社会をフィールドに、課題の発見とその解決をもとめて能動的に学習し、自己革新を
遂げながら課題を解決していく人間を育成する。
長野県は、初等・中等教育、生涯教育の分野における教育的努力に篤い地域である。本学は、他の高等教育機関は
もちろん、地域の様々な教育機関、行政、企業、市民の自発的活動等と連携・恊働し、地域社会全体をフィールドとし
て個性豊かな人間形成をめざす新しい教育の創造を牽引する。
Ⅱ.中期目標
1.教育改革の目標
教育の内容を、知識の刷り込みから学生の主体的学習の支援に転換する教育改革の実現のために、次の目標を掲
げる。
【学生の受け入れ】
〇偏差値に現れた学力水準だけでなく、潜在的な知性の水準の高い学生をも発掘するために、記憶力と理解力にか
たよることのない、多様な能力を測ることの出来る入試方法を開発する。
【教
育】
〇入学当初に、学生たちが自分の「いま」と「ここ」を振り返り、次の跳躍に向けて進路を考える「振り返りと逡巡」の過程
を設ける。この過程で、本学の教育プログラムを学生たち自身が批判的に吟味し、納得して履修計画と学習計画を
作成することが出来るように援助する。
〇一方通行の知識刷り込み型の講義ではなく、対話型討論を基本として、思いがけない視野の刷新と拡大を狙う少人
数講義とゼミを全学に浸透させる。
〇出来るだけ多くの講義・ゼミで、学生たちの「いま」を相対化する歴史的アプローチ、「ここ」を相対化する比較社会論
的アプローチを採り入れる。
〇自分の得意や専門と違う世界を知ることによって、得意や専門を刷新する「方法的な教養」を磨く。この「方法的教養」
により、生涯にわたって、学び直し、新しい自分をつくる、自己刷新能力を形成する。
〇人生の岐路にあたって、公共の利益と結びつけながら、去就を自力で判断できる市民的判断力を形成する
〇感性と知性の活性化は、身体の活性化と結合して起こる。この観点から、全身的身体活動を重視する。
〇真に地域が求めている能力を育成するために、地域社会をフィールドとする学習活動を行うことで、在野の人々の
経験知を肌で学び、それを大学の科学的知識と結合させる。
〇基礎的職業能力を高めると共に、資格取得等の特別コース、社会福祉士等の資格課程、教職課程等の充実をはか
る。
〇成績評価の結果だけを伝えるのではなく、学生を励まし、動機づける方法を工夫する
2.研究推進の目標
〇本学の研究上の重点を明確にし、それを推進する体制を具体化する。
〇一人一人の研究を推進するために、海外留学、サバティカル、研究費等の充実を図る
〇研究交流広場の 6 年間の実績を踏まえ、この研究会の研究相互促進・研鑽の機能を強化する。
〇学問の領域間の越境、文理融合的研究の促進によって、本学の研究の独自性を打ち出す。
〇学内の研究者の研究とその協働とを促進するために、外部資金と学内研究を結びつける。恒常的な体制を作る。
〇本学教員を中核とする学内外にわたる共同研究を推進する。
3.研究と教育における地域との協働の目標
〇自治体と地域社会の活動的有志と大学との共同運営による研究所を設立する。
〇特定の研究プロジェクトを持つ教員を、この研究所に登録して、学生・市民・教員を相互主体とするプロジェクトを推
進し、その研究成果を地域社会に公開する。このプロジェクトを教育におけるゼミ活動として位置づける。
〇出来るだけ多くの教職員と学生が地域と関われる仕組みを作る。
〇積極的に地域社会の研究への要求をくみ取る体制を確立する。
〇地域と連携した多彩な研究と教育が現に行われているが、これを一つの有機的連携にまとめ上げる工夫をする。
4.研究・教育における相互研鑽と同僚評価(peer review)の目標
〇大学は社会の負託を受けて研究と教育を行うが、この負託に応えているかどうか、これは、何よりもまず学内におけ
る自己点検(peer review)によって示され、それに基づく改善が進むという実質がなければならない。研究と教育にお
ける、自己点検と相互研鑽の場として、我々は研究交流広場と教育実践交流広場をもっている。数年間のこの実績
は、とかく自己点検が形式に流れがちな風潮のもとで、実質的な改善をもたらしているものとして特筆される。
〇だがこの二つの同僚評価(peer review)の場は、報告および討論への参加という点で、すべての教員を巻き込むまで
には至っていない。したがって圧倒的多数の教員をこの研究と教育における相互研鑽の活動に巻き込むことをめざ
す。
5.組織改革の目標
〇学長のリーダーシップを支える政策ブレーン機能を強化するために、本学の教育・研究および管理運営の諸組織を
改組する。とくに教授会の職能利害集団的側面を克服して学長に優れた政策提言が出来るように、本学の小規模組
織としての実態を踏まえて、教員と職員を含めた全員参加型の提案組織に教授会を改変する。
〇本学の小規模組織という性格からすると、具体的な政策形成過程において、経営と教学の日常的なすりあわせが、
必要であり、可能である。これまでの経験を踏まえてこの仕組みを制度として発展させる。
〇自治体、地域社会を代表する諸組織、および地域社会で活発に活動する市民有志の意向を研究と教育に反映さ
せる仕組みを具体化する。こうした関係者との協働があって初めて、教職員主体の学問と教育の自由は支持される
だろう。
〇学生の教育、研究、管理運営への参加を具体化する。
6.大学ガバナンス改革の目標
大学ガバナンス改革は、地域社会の要請を踏まえた研究と教育を行い、その成果を地域社会に還元するためにある。
したがって地域社会の要請をうけとめるためには大学教職員の統治能力の強化が不可欠である。このために、教員に
は、研究と教育における専門家としての職能的力量の強化に加えて、職能的利害を超えた全学的な戦略的政策提案
能力が不可欠である。
職員には、日常的業務力量の強化に加えて全学的な戦略的政策提案能力が不可欠である。
この四つの強化に支えられて学長機関のリーダーシップは初めて発揮される。したがって特に教職員一人一人につ
いて、その置かれた条件を踏まえた全学的な戦略的政策提案能力の形成に努める。
7.長野県の高等教育振興と長野大学の役割に関する目標
それぞれの高等教育機関が固有の魅力を持つとともに、高等教育機関の連携が相乗効果を発揮して、長野県という
地域が全体として魅力ある学園都市圏となって光彩を放ち、地元のみならず全国から若者を引き寄せることが必要で
ある。このためには、各高等教育機関の特色を単独で押し出すのみでなく、これらの連携が他にないどういう独自の魅
力を持っているのか、この点をピーアールすることから始めて、さらに大学間連携を具体化して、その魅力を情報発信
していくことが必要である。この点で、我々は県、市等の地方自治体および県内高等教育機関と積極的に協働しなが
ら、その政策を具体化する。