光ケーブルの多条布設工法

光ケーブルの多条布設工法
光ケーブルの多条布設工法
Multi-Cable Installation of Optical Cables
*
八 若 正 義
竹 田 哲 也
M. Hachiwaka
*
小 山 輝 男
T. Takeda
*
T. Koyama
要 約
同一管路へ複数本の光ケーブルを布設する場合,既設ケーブルをくぐらずかつ既設ケーブルで使用されている現
用回線に影響を与えずに,容易に追加布設できる通線具および多条布設工法を開発した。
キーワード: 光ケーブル,布設工法,多条布設,低摩擦
Summary
We have developed a remarkable installation method and tool with which two or more optical fiber cables can be
additionally and easily installed without putting new cables beneath or affecting the pre-installed cables under
operation in a cable duct.
Key words: Optical cable, Installation method, Multi-cable installation, Less frictional
1.まえがき
Table 1
Evaluation of the installation method
施工方法評価
近年,光ケーブルの需要が増大してきているが,光ケー
作業性 安全性 ケーブル制限
コスト
工期
ブルを布設するための地中管路の空孔は少なくなってきて
管路新設
×
×
○
○
○
△
いる。
迂回ルート確保後
×
×
△
△
○
×
光ケーブルの収容心線数を増やすためには迂回ルート
工法\項目
総合
ケーブル交換
インナーパイプ
△
○
△
△
×
△
を確保した後,光ケーブルを交換するか,空孔が無い場合
多条布設工法
○
○
○
○
△
◎
は管路新設が必要となるが,交通事情などにより工事の長
注)安全性は既設ケーブル(現用回線)への影響の有無を判断基準としている。
期化,コストの増大が問題となっている。
また管路工事が不要のため,低コスト,短工期での光ケー
この問題を解決するために現在使用中の光ケーブルが
ブルの追加布設が可能であり,管路の有効活用が図れる。
収容されている管路に新たに光ケーブルを追加布設するこ
とが可能な布設工法および通線具を開発した。
2.3 多条布設工法施工手順
2.多条布設工法の開発
の空き管路への布設手順とほぼ同様の簡単な手順で追加
今回開発した多条布設工法の手順を Fig. 1 に示す。従来
布設が可能である。
2.1 従来工法における問題点および施工方法の比較
通線中の管路内のイメージ図を Fig. 2 に示す。
従来,光ケーブルを追加布設するためには,( 管路を新
設する。) 迂回ルート確保後に光ケーブルを交換する。*
あらかじめ複数本のパイプを挿入しておくインナーパイプ
工法などが採られてきた。
しかしこれらは工事の長期化,高コストになるなどの問
題がある。
それぞれの施工方法の比較を Table 1 に示す。
カーボンロッドに通線具を取付け,光ファイバケーブル既設管路へ挿入する
↓
予定のハンドホールで通線具を取外し(ワンタッチ)
,通線紐へ付替える
↓
カーボンロッドを引き戻し,通線紐を引き通す
↓
通線紐に光ファイバケーブルをつなぎ,光ケーブルを布設する
↓
多条布設完了
3.通線具の開発
2.2 多条布設工法の特長
今回開発した多条布設工法は施工時に既設ケーブルを
くぐらず,現用回線への影響が無いため,現在使われてい
3.1 通線具
る伝送路をそのままの状態で布設することが可能である。
* 情報通信事業部 通信技術部
− 25 −
多条布設に使用する通線具は既設光ケーブルをくぐら
平成13年1月
三 菱 電 線 工 業 時 報
第97号
通線具
カーボンロッド
ハンドホール
既設ケーブル
ハンドホール
1. 管路へ通線具、カーボンロッドの挿入
カーボンロッド
通線具
カーボンロッド
通線紐
2. 通線具と通線紐の交換
カーボンロッド
通線紐
ハンドホール
ハンドホール
既設ケーブル
3. カーボンロッドの引き戻し
通線紐
追加ケーブル
ハンドホール
ハンドホール
既設ケーブル
4. 光ケーブルの布設
Fig. 1
Installation procedure
布設手順
カーボンロッド
通線具(先端部)
既設ケーブル
Fig. 2
Installation status with the installation tool
Fig. 3
(imaged fig.)
Installation tool (Straight)
通線具(直線用)
通線具による通線状況(イメージ図)
また,管路立ち上がり部,曲り部などに対応できる首振
ないこと,既設ケーブルに損傷を与えないことを考慮し開
り形の通線具の開発も行っている。
発した。
開発した通線具を Fig. 3 ∼ Fig. 5 に示す。既設光ケーブ
3.2 光ケーブルおよび布設用ロープ(通線紐)
ルを跨ぐような形状とし,既設光ケーブルとの接触面およ
多条布設に使用する光ファイバケーブルおよび布設用
び管路との接触面には樹脂製のローラーを配備すること
ロープ(通線紐)は,既設ケーブルおよび管路との摩擦を
により,既設光ケーブルへ損傷を与えない構造とし,さら
低減させるために,低摩擦ポリエチレンシースを施すこと
にローラーによって既設光ケーブルおよび管路との摩擦
により,低張力での多条布設を可能とした。そのため,既
抵抗を低減する機能を持たせている。
設ケーブルおよび追加布設ケーブルシースの摩擦による
− 26 −
光ケーブルの多条布設工法
え,アイナットをネジ止めすることにより,多条布設時に
既設光ケーブルに傷が付かない構造としている。
4.模擬管路での検証実験
今回開発した器材および工法の検証を行うために,当社
伊丹製作所内に模擬管路を設置し布設実験を行った。
Fig. 4
4.1 模擬管路
Installation tool (Articulation type 1)
設置した模擬管路の概要を Table 2 に,配管状況を Fig. 7
通線具(首振り形− 1)
に示す。管路内径は 80mm とし,外径 30mm の光ケーブル
(1000 心ケーブル)を予め布設した。管路途中には高低差
や曲り,段差を設け実際の地中管路を模擬したものとして
いる。
Table 2
Outline of the duct route
simulation
模擬管路の概要
Fig. 5
Installation tool (Articulation type 2)
通線具(首振り形− 2)
管路,管材
75P-V 管
管路内径
約 80mm
管路長
100m
既設ケーブル
1000 心光ケーブル,外径約 30mm
4.2 実験方法および結果
削れもほとんど発生しない。
今回開発した通線具を使用し,上記模擬管路での光ケー
多条布設に使用するロープの一例を Fig. 6 に示す。
ブルの追加布設の実験を行った(Fig. 8,Fig. 9)
。前記2.
3節の手順にて外径30mmの光ケーブルの追加布設を行っ
低摩擦ポリエチレンシース
た結果,いずれの管路条件においても問題無く,通線可能
エステルブレード
であることが確認できた。その際の通線時間は約 2 0 分間
アラミド繊維
で,最大布設張力は約 300N であった。また,通線時およ
び追加布設時の既設ケーブルの移動も見られなかった。
引き裂き紐
Fig. 6
5.多条布設時の摩擦による既設光ケーブルへの影響
Installing rope
布設用ロープ
多条布設を行う際に影響のある事象として布設時の摩
また,既設光ケーブルが収容されている管路が鋼管の場
擦による既設ケーブルシースの摩耗が挙げられる。今回,
合,内部の錆などにより布設用ロープ表面が傷付けられ,
実際の布設環境を想定し,既設ケーブルシースの摩耗量の
布設用ロープの寿命が短くなるという問題があったが,
確認を行った。
ロープに被覆した低摩擦ポリエチレンシース内に被覆除
去用の引き裂き紐を入れ,再シースを容易にできる構造と
5.1 実験方法および結果
実験方法を Fig.10,Fig. 11 に示す。既設ケーブル試験片
し,再利用可能としている。
を試験装置にセット・固定し,追加布設ケーブルに張力を
3.3 光ケーブル用プーリングアイ
印加した状態で規定長を擦らせている(既設ケーブル試験
光ケーブルの布設時に光ケーブル先端に取付けるプー
リングアイは,光ケーブル外径よりもかなり太く,また金
片と追加布設ケーブルは最悪条件を想定し垂直に交差す
るよう固定している)
。
なお,試験時には光ケーブル布設時に一般的に使用され
属(アルミニウム)製のキャンを使用し,プーリングアイ
先端部のアイナットを固定するために割りピンを使用し
る滑剤を追加布設ケーブル表面に塗布した。
また,試験長は通常光ケーブルを布設する際の1条当り
ている。これらの部材を使用していることにより,既設光
の最大長さを想定し 2km とした。
ケーブルへの外傷などが危惧されていた。
試験結果を Fig.12,Fig. 13 に示す。同張力の場合は光
今回開発したプーリングアイは金属製のキャンに代え,
接着剤付きの熱収縮チューブを使用し,また割りピンに代
ケーブル外径が細い方がシースの摩耗量は多くなってい
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第97号
40
1700
0
1550
40
1550
0
0
1600
0
1600
0
0
1600
0
1600
0
0
1700
0
1700
0
1650
0
1650
20
40
1600
1600
R10m
R10m
1300
800
800
Duct status
配管状況
− 28 −
75P−V 管用ベルマウス
Fig. 7
R10m
R10m
1550
40
1550
40
1550
1550
40
1550
40
1550
40
250
250
1700
250
1500
750
1500
750
1500
750
600
1250
600
1250
600
1250
400
1750
400
1750
400
1750
2750
500
2250
2750
400
2750
3250
350
3250
3750
500
3750
4250
400
4250
5m
R
1700
1700
R5m
R5m
R5m
500
0
12250
0
17750
0
23250
R5m
350
500
400
下部 平面図
高低差
下部
GL
下部 平面図
高低差
下部
GL
高低差
GL
下部 平面図
下部
平成13年1月
Experiment status
6750
400
測定点(単位:mm)
Fig. 9
実験状況
0
三 菱 電 線 工 業 時 報
0
0
実験管路. 1
1550
上部
0
1550
1550
1300
上部
GL
40
1700
実験管路. 2
1550
実験管路. 3
75P−V 管路
Duct status
0
1700
上部
上部
GL
上部
上部
GL
Fig. 8
配管状況
1700
光ケーブルの多条布設工法
摩耗試験結果(φ23ケーブル VS φ23ケーブル)
0.8
張力印加端
0.5
0.4
張力
1960N
1470N
980N
490N
0.3
0.2
1700
1500
1300
1100
900
700
500
300
0
100
0.1
2100
張力印加端
0.6
1900
既設ケーブル担当品
対象材料
摩耗量(mm)
0.7
擦り長(m)
Fig.12 Friction test result 1
Fig.10 Friction test procedure
摩耗試験結果 1
摩耗試験方法
摩擦試験結果(φ30ケーブル VS φ30ケーブル)
0.8
張力
1960N
1470N
980N
490N
摩耗量(mm)
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
2100
1900
1700
1500
1300
1100
900
700
500
300
0
100
0.1
擦り長(m)
Fig.13 Friction test result 2
摩耗試験結果2
Fig.11 Friction test status
摩耗試験状況
るが,実際には細いケーブルは軽量であることから布設張
力が小さくなることを考慮すれば,既設ケーブルのシース
の摩耗が問題となることは無いと考えられる。
また,追加布設ケーブルのシースの摩耗はほとんど見ら
れない。
八若正義(はちわか まさよし)
情報通信事業部 通信技術部 通信技術課
光ファイバの端末・光ファイバケーブルの施工工法の
6.む す び
開発に従事
今後,IT(情報技術)などで光ケーブルの需要拡大が見
込まれる中,既設管路を有効活用することで線路構築を短
期間,低コストで行うことが可能な工法および通線具の開
竹田哲也(たけだ てつや)
発を行い,有効な工法であることが確認できた。本工法は
情報通信事業部 通信技術部 通信技術課
既に,フィールドでの実験および実際の工事で採用してい
(現在,伊丹製作所 品質保証室 検査グループ)
光ファイバ製品の品質保証業務に従事
る。また,あらゆる管路種,管路内径,既設ケーブル構造
に対応できるよう,通線具の改良を行い,現在では殆どの
ものに対応できることから光ケーブルのみならずさらな
小山輝男(こやま てるお)
る適用が期待される。
情報通信事業部 通信技術部 技術課
光ファイバケーブル関連製品の市場および技術動向調
参考文献
査,ならびに需要先に対する技術折衡に従事
葛下 弘和ほか.光ケーブル用サブダクトの開発 .
三菱電線工業時報.(94),1998,p.11-18
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