日系キリスト教会がニュービリビッド刑務所の日本人受刑者を慰問

7 にら新聞から
刑務所慰問
日系キリスト教会がニュービリビッド刑務所の日本人受刑者を慰問
[ 1501 字|2015.7.27|
|社会 ]
首都 圏モンテン
ルパ市にあるフィリピン最大のニュービリビッド刑務所=26 日午後2時ごろ写す
首都圏モンテンルパ市にあるフィリピン最大の刑務所、ニュービリビッド刑務所には、日系
比人を含めて収監されている日本人は8人に上っている。刑務所の悪い環境に置かれている日
本人受刑者の多くにとっては、日系キリスト教会による月1回の慰問は数少ない楽しみの一つ
になっている。
「天にまします我らの父よ・・・」|。25 日昼、所内にある小さな教会の2階から、日本語
で神への祈りをささげる声が響き渡った。集まった受刑者は5人。慰問団は首都圏マカティ市
のマニラ日本語キリスト教会(MJCC)のゲレロ馨(かおり)協力牧師ら6人からなり、そ
れぞれ炊き込みご飯やコロッケ、おでんなどの料理や差し入れの本などを持ち寄った。
持ち寄った料理での昼食の前に聖書の勉強会が行われ、讃美歌を斉唱する。慰問の時間には、
まるで刑務所ではないかのような和やかな空気が流れる。前回の訪問から1カ月の間に起きた
出来事を振り返る時間では、受刑者の一人、松谷佳周さん(66)が「今月、訪問してきた娘に
『父さんの笑顔がすごく良くなった』と言われた」とうれしそうに報告した。
慰問団との交流などがきっかけになって2012年に洗礼を受けた松谷さんは「慰問団が来
る前夜はそわそわして、眠れなくなる。慰問の時間はとても楽しいけれど、別れた後が一番つ
らい」と気持ちを打ち明けた。
松谷さんと同時期に洗礼を受けたジョージさん(51)=洗礼名=は「洗礼を受けた直後は聖
書を1日1節しか読まず、義務的だった。でも今は朝夕、聖書を読んで勉強している。充実し
た一日だ」と集まりの場で話した。
ジョージさんは慰問団を知る前まで、違法薬物に手を染め、刑務所内では「金と権力」にも
のを言わせて奔放に振る舞っていた。そんな中、09 年に日本にいる母親が突然がんに倒れ、医
者に成功率 50%と言われた手術を受けることになった。その時、ジョージさんは「麻薬を一切
やめるので、どうか母を助けてください」と神に祈ったという。手術の結果、母親は無事回復。
ジョージさんは「奇跡が起きた」と喜んだ。同じ頃、慰問団の集まりに参加するようになり、
当時の担当牧師からもらった聖書を読みあさるようになった。
「昔よりも、入信してすべてを捨てた今の方が貧しい。それでも、今の方がずっと良い。そ
こには平安があるから」とジョージさんは話した。
MJCCが慰問を始めたのは 03 年ごろ。マニラ新聞に載っていた教会の広告を見て、一人の
日本人収監者が手紙を送ってきたのがきっかけだった。当初は慰問に集まる受刑者は1、2人
と少なかったが、その数は次第に増え、今や日本人受刑者8人のうち5人が洗礼を受けている。
MJCCの慰問とキリスト教への信仰が受刑者の「心の支え」になっている。
14 年 10 月末、50 代の受刑者の男性が末期の肺がんを発症。刑務所内の乏しい医療設備のた
め、闘病もむなしく、11 月に命を落とした。この時、日本にいる老いた母親だけしか身寄りが
なかったため、MJCCが葬儀代を捻出、遺体は首都圏の墓地に埋葬された。
男性は亡くなる1カ月前に受洗。ゲレロ牧師は亡くなる前日に病室を訪ね、手を握りながら
「いつでも天国に行く準備はできていますか」と尋ねた。男性はがりがりにやせ、言葉も話せ
る状態ではなかったが、ゲレロ牧師の問いかけに穏やかな顔を向けゆっくりうなづいたという。
「聖書では、囚人を訪ねることはイエス様の教えの一つ。こちらからただ与えているのでは
なく、向こうから学ぶこともいっぱいある。互いに分かち合えるということが幸いです」とゲ
レロ牧師は話した。 (加藤昌平)