竹の利用復活と竹林環境の整備~新たな竹の利用法~

プロジェクト発表会 区分 「環境」
竹の利用復活と竹林環境の整備~新たな竹の利用法~
愛知県立田口高等学校
1
はじめに
私たち田口高校林業科,林産製造専攻は現在,竹林の環境改善に関する取組を行っている。木の
皮,杉の枯れ葉,そして竹,これまで山間地では見向きもされず,目の前に放置されていた,これ
らの素材から経済活動を行うことが竹林の環境改善につながっていくと考え,取組を始めた。
古くから竹は幅広い用途に使われ,春にはタケノコが食卓
に上り,竹ほうき,竹かご,竹み等の農作業用品などに活
用され,古い竹は燃料として生活の中で,また,竹馬,水
鉄砲なども子どもたちの遊び道具として利用されていた。
そして,その頃の竹林は利用度が高く,きれいに手入れが
行き届いたものであった。しかし石油燃料の台頭,金属や
プラスチック素材による大量生産品が主流になった高度経
済成長期以降,外国産の安価な竹製品の輸入などもあり,
国産の竹の利用度は大きく下がり続けた。それに追い打ち
をかけるように地方では過疎高齢化が進み,竹を利用して
いた人たちも減少し,長くその状態が続いた結果,竹林は
図1 放置された竹林
荒れ,放置竹林が各地に点在するようになり,全国的な問
題となっている。竹林の手入れをしなくなると地下の根が広がり,地表をびっしりと覆って周囲の
山にも侵入していき,竹が密植して他の植生にも大きな影響を与えている(図1)。
2
本校における炭の生産
本校では 20 年以上前から本格的な炭窯による炭焼きやド
ラム缶による短時間で焼ける炭窯の開発などを行い,杉,
ヒノキの間伐材で炭の生産を行ってきた(図2)。
3 研究経過
本校では炭焼きをする時の火入れ方法に,こだわりという
べき決まりがあり,新聞紙は使わず,枯れた杉の葉に斧で
割った細い焚き木をかぶせ,杉の葉に火を点ける。火が大
きくなるにつれ少しずつ太い木をのせ,炎を大きくして窯
図2 本校の炭窯
に火を入れていくという方法をとっている。
たまたま火入れ用の焚き木が孟宗竹に入れてあり,
「おみくじみたい」,
「食堂の箸立てみたい」,
「キ
ャンプの焚きつけで売れる」等の意見で盛り上がったことが製品発案のきっかけとなり、荒れた竹
林から経済活動をしてみようと構想が膨らみ始め
た(図3)。作り方は竹を節ごとに切り,細く割っ
た焚き木を入れるだけである。ラベルを貼り,紐を
つけて持ちやすくし,キャンプ等の火付け用として
1個 100 円~200 円で売れる商品として設定した。
1本の孟宗竹から 15 個ほどの製品が作れる。
ラベルは図4のように,大きめの文字でPOP風
の見やすいものにし,おみくじのように大吉,中吉,
特大吉のどれかを書き入れ,先端に色の付いた焚き
図3 製品の打ち合わせ
木があればもう一本というくじ的遊び心も取り入
れた。また,製品コンセプトとして火を点けたこと
がない,木を割ったことがない子どもたちに大人同
伴で火を点けてみよう,木を割ってみようというメ
ッセージも入れ,木育的な要素も加えた製品とした。
私たちはこれを「焚きつけくん」とネーミングした。
そして,この製品が基になって竹筒と中の焚き木を
全て炭にして,火を点けるとそのまま炭火になると
いうアイデアに発展し,竹筒に細く割った竹を入れ
て飾り炭にする取組と研究を行っている。
飾り炭というのは松ぼっくりや栗のいがに代表
されるように,元の形がそのまま残った炭のことを
図4 製品ラベル
いい,密閉した金属容器に入れて炭化させる炭焼き
のことをいう。(図5)。
何度も条件を変えて実験を行ったが,いずれも竹筒が割れてしまい,失敗に終わった。しかし,
徐々に形が残るようになり,現在は竹筒を割らずに飾り炭にするための条件を探っている。細く割
った竹炭については金属の缶を用い,焚き火程度の火力で作ることができる。火中でふたが開かな
いように針金で留め,30 分ほど火の中に投じる。その後,火から取り出し,土をかぶせて密閉する
だけである。数時間で竹炭が完成する。
そして,この研究を通して新たなアイデアが二つ生まれた。先に述べた見向きもされない天然素
材を使って簡単に火を点けることができる着火材の開発である。キャンプ用品として市販されてい
る着火剤を天然素材で作ったものである(図6)。こちらの竹筒は伐ったばかりの青竹だが,図7の
図5 飾り炭の種類
ように下部に穴をあけて通気口とし,竹の筒を煙
突に見立てた。筒の内部には下から順にすぐ火が
点く木の繊維,杉の枯れ葉,小さな木切れ,割っ
た竹炭を入れた製品を考案した。本校の炭焼き時
の火入れと同じ考え方である。
着火実験では初め,スムーズに着火が進行しな
かった。原因として考えられるのが空気の量が少
ないことと,中の素材の詰めすぎによる不完全燃
焼である。穴の数を竹の直径に合わせて二つから
三つに設定し,詰める素材の量を減らしすき間を
多くした結果よく燃えるようになった。また,着
火の進行に伴い,焚き木を投入しながら炭を足す
図6 市販着火剤と天然着火材
図7 竹の筒の内部構造
ことが効果的であることが分かった(図8)。
伐ったばかりの青竹は水分を多く含むため,すぐには着火しない。この特徴により,内部にセッ
トした木の繊維,杉の枯れ葉,小木片,竹炭,そして竹筒の順に燃焼が進むので太めの孟宗竹なら
30 分以上燃え続ける。その間に炭を足していけばたくさんの炭を熾すことができる。また,通気口
は電気ドリルがなくてものこぎり1本で作ることができる。
穴の数
直径10cm未満 2か所
直径10cm以上 3か所
中身を減らす
すき間を増やす
図8 効果的な通気口
図9 スギ・ヒノキの皮を使用
もう一点は図9のように竹筒の代わりにスギ,ヒ
ノキの皮を用い,紐でしばって筒状にした製品で,
中身は同じものである。着火実験ではこちらはすぐ
・煙突構造
火が内部に燃え移った。燃焼が進むにつれ,安定が
・排気効率がよい
悪くなり倒れてしまう。そのまま横にした状態で使
用して,炭を足していく。考案した天然着火材はど
ちらも僅か数秒で煙が筒の先から立ち上がり,着火
が促進される(図 10)。
筒が煙突の役割をすることにより,排気効率がか
なり高くなる構造で,上昇気流が発生して燃焼を促
進するというものである。使用した材料は全て容易
に入手できる自然素材から作られており,天然の着
図 10 排気の改善点
火材としてアウトドアライフ,薪ストーブライフを
意識した田舎発のユニークな環境商品として世の中に発信できるものとなった(図 11)。
さらに,今回の,一連の竹製品開発作業の中で,一つの副産物も生まれた。それは製品としてで
はなく図 12 のように災害時等において,孟宗竹がコンロの役割になり,調理器具として利用できる
図 11 田舎発の環境商品
図 12 災害時の竹筒コンロの活用例
ことである。竹筒が囲いとなり風の影響も受けずに炎が真上に立ち上がるので,炎が鍋を効率よく
熱することができるというものである。竹のコンロでラーメンやレトルト食品を熱することができ
れば,災害時,非常時に大変役に立つ。
4
本研究のまとめ
今回,放置されている山の素材を使って,竹の利
用に関するバリエーションを5点提案した(図 13)。
このバリエーションが増えれば増えるほど生産活
動が活発になり,竹の利用度も高くなる。新しい時
代の,新しい竹の使い方,アイデアをこれからも生
み出していきたい。
最後に,これらの竹製品は構造もシンプルなので,
誰でも簡単に大量に作ることができる。私たちは考
案したこれらの製品と,過疎高齢化の問題を結び付
け,高齢者の方の仕事として,提案したいと思う。
使用する素材は費用がかからず,住まいの周辺で簡
単に入手できることと,昔から住み,暮らして畑仕
図 13 竹を利用したアイデア製品
事もこなしてきた高齢者の方ならばこれらの作業
はたやすくできるはずである。高齢者の方が,放置された竹林から生産活動を行い,健康で元気に
活動されることが山の環境を改善していく大きな要素となると考えている。