グローバル人材育成における日本語教育の役割 ―世界をつなぐ

2015 年ホーチミン市日本語教育国際シンポジウム
「東南アジアの日本語教育の役割-グローバル人材育成とつながるネットワーク-」
ホーチミン市師範大学 9 月 19 日 シンポジウム講演会
グローバル人材育成における日本語教育の役割
―世界をつなぐネットワークの活用―
早稲田大学日本語教育研究科・教授
戸田貴子
本講演では、グローバル人材育成における日本語教育の役割と世界をつなぐ日本語教育
の新展開についてお話します。
近年、東南アジアにおける日本語教育の発展が指摘されています。日本語学習者が多様
化しており、日本企業への就職や、日本語教師や通訳といった専門職を志望する場合もあ
り、学習目的によっては高度の日本語能力が求められています。このような状況下におい
て、グローバル人材育成における日本語教育の役割がますます重要になっています。
早稲田大学は、2020 年を目途とした「留学生 30 万人計画」の一環である「国際化拠点整
備事業(大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業、グローバル 30)
」の拠点校とし
て、留学生数 8000 人を目標としています。また、平成 24 年度「大学の世界展開力強化事
業~ASEAN 諸国等との大学間交流形成支援~(SEND プログラム)」に採択され、5 年間にわ
たり、ASEAN 諸国の高等教育機関で、学部・大学院生の双方向的な交流を進めています。グ
ローバル人材育成のため、増加傾向にある海外からの留学生に対して質の高い日本語教育を
提供するとともに、一方向的に日本語学習者に学びを提供するのではなく、日本人学生と
の双方向の学びを促すことを目指しています。
従来の日本語教育は、教室という箱の中で、教師が学生に対面で授業を行うことが一般
的でした。知識と経験のある教師が学生に対面で行う丁寧な指導に勝るものはありません。
しかしながら、実際は対面授業には、教員数、学生数、教室数等の物理的制約、授業時間
の時間的制約等、様々な課題と限界があります。日本語教育のさらなる発展のためには、
従来の課題の解決を試みなければなりません。
そこで本講演では、世界をつなぐ学びの場の一例として、Waseda Course Channel に一般
公開されている動画コンテンツをご紹介し、どなたでもインターネット接続環境があれば、
いつでもどこでも学習することができるシステムについてお話します。語学の授業の場合、
一方向的な講義形式で学習者が教師の話を聞くだけでは、言語能力の向上は期待できませ
ん。特に発音に関しては、母語の影響が最も顕著に現れる言語領域であることから、学習
者がさらに主体的に授業に関わり、練習を重ねていくことが必要です。練習といっても、
モデル音声を聞いて単にリピートするだけでは、ただ真似をしているに過ぎず不十分です。
現在進行中のプロジェクト(科学研究助成費 26370616,研究代表者:戸田貴子)では、
動画コンテンツを配信するだけではなく、インターネットを活用して日本語学習者に支援
者がフィードバックをする「発音チェック」
、日本語学習者同士が意見交換をしあう「BBS」
等、様々な工夫を施し、効果検証を行なったところ、その妥当性が示されています。また、
日本語教育の専門的知識がない日本人学生や、教師経験のない一般日本人にも日本語学習
2015 年ホーチミン市日本語教育国際シンポジウム
「東南アジアの日本語教育の役割-グローバル人材育成とつながるネットワーク-」
ホーチミン市師範大学 9 月 19 日 シンポジウム講演会
者の学習支援ができるよう、指導マニュアルの開発を進めています。指導マニュアルは各
国語に翻訳し、インターネットで公開することが予定されており、海外の日本語教師の方々
にも活用していただけるよう配慮されています。また、日本語教員養成・教員研修の観点
から、日本語教育学オンデマンド講座についても言及します。今後は、JMOOC(Japan Massive
Open Online Course)*による世界展開の可能性も検討しています。
このように教育環境が目覚ましく進化している現在、グローバル人材育成に関わる日本
語教師自身も柔軟かつグローバルな視野を持つことが不可欠であることを踏まえたうえで、
今後の世界をつなぐ日本語教育の役割について一緒に考えていきたいと思います。
【参考文献】
戸田貴子(2011)「音声教育と日本語能力」
『早稲田日本語教育学』9 号,pp.59-65.
戸田貴子・大久保雅子(2014)「新しい音声教育実践における学習者の学び‐
オンデマンド授業における発音学習‐」
『早稲田日本語教育学』16 号,pp.1-18.
戸田貴子編著(2008)『日本語教育と音声』くろしお出版
*
JMOOC:2012 年に米国で複数公開された無料講座教育サービスの日本版。2013 年に一般
社団法人オープンオンライン教育推進協議会が設立され、2013 年 4 月に 3 講座が開
講されたのを皮切りに、講座の拡充を目指している。JMOOC のミッションステート
メントは、日本とアジアのための「学びによる個人の価値を社会全体の共有価値へ
拡大する MOOC」の実現を産学の連携によって強力に牽引するということである。