長野駅のニオイ 浅沼 正春(佐久市) 今日も多勢の人達が集い、そして散って行く長野駅。それぞれの人がそれぞれの思 いを胸に列車を待つ待合室そして、切符を求める客にテキパキと応待する窓口の駅 員、列車の発着をホームで確認するため忙しく馳けまわる駅員、そして長野駅の多忙 な一日が幕を開ける。昭和34年3月、県警本部捜査課移動警察勤務を命じられた私 はスリ狩りの名人S巡査部長のもとでスリ係刑事となった。指先に生活を賭けるスリ にとって、ハコ(列車)は稼ぎ場所だが、これを追う刑事もハコは勤務場所である。ハ コにとび乗りとびおり車内を流し、客が押し合う乗車口へ張りつく、混雑する駅待合 室の客の渦をくぐり抜けて視察の場所角度を変えて見る視る、観る足を棒にしてひた すらかけまわる。 「あ、あいつだやっと見つけたぞ」 S部長に目線電波を発射する。 S部 長から返電がくる、 「違うぞアイツのガン(目付き)はエロガンだ」今日も駄目か新米刑 事にドット疲れがでる。 列車を舞台にするスリ事件は、なんといっても車掌さんの協力がかかせない。列車内 における盗難事件発生時の対応手配、また犯人を捕まえた時のもより駅への連絡報告 等車掌さんの協力は不可欠である。また駅待合室や乗降する客の中で不審な行動をす る人に気づいた時の情報提供をしてくれるホーム勤務の駅員の皆さんの協力も大切で ある。そんなこんなで、長野駅の駅員さんから支えられての二年余の勤務だった。今、 半世紀余前の当時を想うと、長野駅の駅舎のニオイ、そしてお世話になった長野駅の 駅員の方々の懐かしい顔、顔が脳裏をかけめぐっている。
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