中小企業の経営者様必見! 2月号 明治安田生活福祉研究所 000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000 中堅・中小企業の福利厚生 第11回 総合基金解散における加入企業の選択肢 中小企業が多く加入する総合型厚生年金基金(総合基金)は、2014年4月の改正法施行により、以後5 年間のうちに、解散、存続の判断が迫られている。法改正の概要および基金として取りうる選択肢につい ては、本連載2014年5月号にて「総合型厚生年金基金解散と解散後の福利厚生」 として報告済みである。 基金解散により加入企業の従業員の基金からの加算給付は失われる。よって基金から解散の方向との 連絡を受けた企業では、何らかの代替施策を検討しなければならない。本号では、 「加入企業」として取り うる選択肢について最新状況を報告する。 1. 総合基金の現状 総合基金は2015年1月時点で430基金がある。このうち財政が健全な基金は全体の2割程度とみられ る(企業年金連合会調査 (2014年12月) )。健全な基金は厚生年金基金としてそのまま存続するか、代行返 上して企業年金基金として存続することが可能である。 よって、 これらの基金の加入企業は特段の代替策 は必要ない。 残りの8割 (約350基金)は、財政状況によって 「代行割れ」 と 「代行割れ予備軍」 に分けられる。 基金全体の1割(約50基金)は代行割れとみられる。代行割れ基金は財政が厳しいことから解散以外の 選択肢は難しい。基金を解散した場合、国に返還すべき年金資産が不足しており、加入企業は解散後も不 足額を国に返済しなければならない。加入企業は解散によって基金からの加算給付がなくなるが、 引き続 き、債務が残り、 返済に資金が必要となる。よって、 代替施策を実施する資金的な余力に乏しいという難し い状況に陥る。 不足額が判明した時点で、その額の多寡によっては早期に返済が完了する。 返済額がさほど多くない場 合は、次に述べる代行割れ予備軍と同じ対策が可能である。代行割れ予備軍は、財政的には健全基金と代 行割れ基金の中間に位置し、代行返上できるだけの年金資産はあるため解散後に返済義務は残らない。 し かしながら、加算給付を継続するにはその年金資産が不足している。基金全体の7割(約300基金)が該当 するとみられる。 加算給付を継続するには掛金を引き上げる必要があるが、 加入企業のさらなる負担増に つながり同意を得られにくい。よって加算給付を維持することが困難で、 やはり解散の途を選択せざるを 得ない可能性が高い。 2. 加入企業の5つの選択肢 加入している基金が解散した企業には、図表のような選択肢がある。従業員にとっては、選択肢①~④ のように退職給付制度が代替される選択肢が望ましい。 企業としても不利益変更を避けたいのは言うまでもないが、 企業年金は長期的な制度であり、 企業業績 に拘わらず継続的な掛金拠出が求められるため、 収益が変動しがちな中小企業にとって単独での実施 (選 択肢①)は選択しづらい。選択肢②③④は、他の企業との共同実施であることからスケールメリットが期 待できるため、選択肢①より相対的に低コストである。しかし、継続的な掛金拠出が負担であることには 変わりない。 選択肢①~④における掛金の負担額は、代替制度での年金給付水準次第である。 基金加入当時の水準を 維持したい場合は、新たな制度での掛金額は従前より高くなることが多い。 従前の加算部分は積立不足に 陥っており、掛金額をさらに引き上げないと給付水準を維持できないためである。企業にとって、さらな る掛金の引き上げは難しく、給付水準を維持できない恐れがある。 3. 5つの選択肢のメリット・デメリット 各選択肢のメリット・デメリットを図表にて整理した。 図表 加入企業の選択肢 選択肢②については、その制度での給付算定方式が自社の人事制度に適しているかを検討する。例え ば、成果主義的な人事制度なのに、年金給付額が加入期間のみで算定されるものであればマッチしている とは言い難い。選択肢③は既に多くの総合型企業年金があり、 自社に適した制度に加入することも可能で ある。選択肢④はメリットも多いが、給付額は掛金額と加入期間で決定される仕組みであるため従業員ご とにメリハリをつけにくく、退職金規程の内枠として位置付けることになろう。 選択肢⑤では、代替制度ではないものの、企業が保険契約者、従業員等を被保険者とする生命保険契約 を締結することで、退職一時金の原資を準備することができる。 従業員の定年年齢にあわせて契約満期を 設定した養老保険を契約し、保険金額を退職金規程の範囲内とすることで、 満期保険金を定年退職金額の 一部に充当できる。中途退職では解約返戻金額を退職金の一部に充当できる。死亡退職では、遺族に支払 われる死亡保険金を死亡退職金の規程支払いの一部とみなす。 通常、 養老保険の保険料は損金算入できな いが、税法が定める契約要件を満たすことで、 保険料の半額を損金算入できる。 4. 確定給付企業年金か確定拠出年金かの選択 さらに、選択肢①と③では企業年金の種類を選ぶ。 確定給付企業年金または確定拠出年金のいずれかを 選択することになる。基金からの分配金を持ち込むことができる場合もある。 確定給付企業年金では、今後も積立不足が発生する懸念があるものの、従業員自ら運用リスクを負う ことはない。確定拠出年金は積立不足の懸念はないが、従業員が運用責任を負うことになる。人事制度と しては従業員に負担が少なく給付額も安定している確定給付企業年金が望ましい。一方、財務・会計面で は会社のリスクがない確定拠出年金が望ましい。いずれも一長一短あるが、平成27年度税制改正大綱や 2015年1月に出た社会保障審議会企業年金部会報告を見る限り、今後、制度拡充や利便性向上が期待さ れるのは確定拠出年金のようだ。 5. 代替策がないと従業員の解散同意が困難 基金が解散を申請するには、加入している従業員全体の2/3の同意が要件であり、企業内で従業員向け 説明会を行い、同意を得る必要がある。説明会で代替制度についても説明し、従業員を納得させなければ ならない。そこで、何らかの理由で選択肢①~④のいずれの選択肢も困難な場合、代替の退職給付を実施 するのに代えて、 福利厚生を充実するという新たな選択肢がある。 基金へ拠出している掛金(加算掛金、事務費掛金、特別掛金等)は解散に伴い拠出不要(不要となる掛金 額は、標準報酬額や基金の財政状況によっても異なるが、月額6,000 ~ 10,000円/名)となるため、その 経費のすべてまたは一部を福利厚生経費に振り替えることができる。 具体的な福利厚生制度としては、死亡弔慰金等の慶弔給付の充実、傷病休業時の所得補償制度、労災補 償の上乗せ等、生命保険・損害保険を活用した制度のほか、 女性活用を視野に入れた育児支援制度の拡充、 従業員のスキルアップに向けた自己啓発・キャリア開発への支援等が考えられる。 福利厚生制度は基金の加算給付の後継制度ではない。 よって、 負担軽減分を福利厚生経費に振り替える 際には、 加算給付以外にある程度充実した退職給付制度があること (基金のほかに中退共にも加入してい る、基金のほかに独自で確定給付企業年金や確定拠出年金を実施している等)が前提となる。そうでない と従業員の老後の所得保障は大きく失われてしまう。 総合基金の3/4以上が既に今後の方向性を固めており、加入企業にもそれが伝えられている。 2014年 に解散の方向性を決議した基金は、 2015年度中には解散が認可される可能性が高い。加入企業は、それ までに従業員の不利益にならない選択肢を選定することが望まれる。 (千葉商科大学会計大学院 教授/ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所 所長 可児 俊信)
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