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国土交通省 大臣官房 技術調査課
平成26年 2 月に行われた国土交通省「国民意識
1. なぜ,今「見える化」なのか
調査」においても「今後の社会インフラの維持管
理・更新について重要だと考える取り組み」とし
て尋ねたところ,「地域ニーズにあわせた,撤退
社会資本整備(維持管理・更新を含む)におい
等も含む,社会インフラの集約・統廃合( 2 位,
ては,事業分野にかかわらず多様な国民のニーズ
38.8%)」「予防保全措置による長寿命化( 3 位,
に対応することが求められている。このため,そ
37.5%)」を超える最多の意見として「社会イン
のニーズが実態に基づいた正確なニーズになるよ
フラの実態の把握(見える化)
( 1 位,44.6%)」
う現状や将来にわたる計画などについて理解いた
が挙げられている。これからも,多くの国民は行
だくことが前提になる。
政からの情報の開示やその分かりやすさを重要で
国土交通省は,建設省,運輸省等の時代からこ
あると感じていることが分かる。
ういった問題に向き合ってきた。直轄工事発注に
社会的合意形成や行政機関の信頼性向上のため
おける入札結果等の公表(昭和57年)から始ま
の取り組み以外の視点としての「見える化」があ
り,平成10年には予定価格や積算内訳の公表を行
る。社会資本整備に携わる公共工事の執行の現場
うようになった。また,公共工事のコスト縮減の
においても行政機関の職員,測量・設計業務や工
取り組みについても世の中に分かりやすく説明で
事施工の担い手たる技術者・技能者など多くの人
きるよう求められ,対応してきた。各事業分野に
間が関係する。その中で,先人たちの知恵の積み
おいては,例えば平成 9 年の河川法改正に見られ
重ねにより整理された基準類のみならず,現場で
るように河川整備計画の策定過程で地域の意見を
語り継がれる暗黙知に至るまで多くの情報を把握
反映することなどが法律に位置付けられた。
し,判断していかなければならない。
現在においては,前述の情報を公開するという
そういった情報の交換や確認等が不十分になる
取り組みはもはや行政担当者においても常識にな
と,設計に手戻りが発生し完成までに余計な時間
っていると思われる。ただし,今度は開示された
がかかることや,場合によっては施工不良となっ
情報が分かりにくい,情報量が多すぎて結局正確
てしまうこともあるだろう。これらの意思疎通が
に物事を理解いただいていない,という新たな課
迅速かつ的確に行われるためにも「見える化」が
題の解決を求められる段階に入っている。
必要とされている。
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建設マネジメント技術 2014 年
12 月号
社会資本整備の「見える化」特集
2. 理解が進みにくい社会資本
(インフラ)
3. 以降の特集の構成について
社会資本はそもそも不十分だと認識されている
本特集に当たっては,社会資本整備に関わって
うちは必要性の理解が進むが,整備されてしまう
重要と思われるいくつかの「見える化」につい
とあって当たり前,不具合があるときにだけクレ
て,大きく三つの分野に区分した。日常の業務等
ームを入れるといった扱いを受ける性質にある。
の一助になれば幸いである。
また,行政職員側においても,整備の際の地元
説明や用地買収の地権者や工事の過程で不具合を
⑴ 広報・PR活動における「見える化」
受ける者への説明は十分に行っているが,工事完
行政が法律等の仕組みに基づいて行っている業
成後にこれらの方々に対して整備効果の発現状況
務であって,積極的に広報・PRを行わなければ
をしっかり説明しているかというと胸を張れない
その必要性に気づいてもらえないものについて,
ところもあるだろう。
貴重な税金を支出して取り組んでいる目的や内
それらの結果として,平成18年度の公共工事へ
容,方向性などについて理解を求めるもの。
のイメージの調査として「談合などの不正がある」
「税金を無駄に使っている」「政治家や役所が勝手
⑵ 地域に知っていただくべき事項の「見える化」
にやっている」などの悪印象が 8 割を占めるよう
行政の取り組みへの理解を促すというよりは,
な結果が得られたものと思われる。ただ,平成23
比較的,地域や住民主体の行動に影響を与える情
年度には,公共工事の印象について平成18年度に
報で,知らないことで不利益を被る可能性のある
同じ内容で尋ねた結果よりも「やや悪い印象をも
情報を積極的に知るべき方に伝える取り組みなど
っている」
「悪い印象をもっている」の合計の割
がある。
合が約30%も改善している(H18:65.5%,H23:
例えば,出水時の避難の問題などについては,
36.1%)
。このことから,アカウンタビリティ向
平常時には堤防整備や防災計画策定などの行政の
上の取り組みの成果が出てきているとも捉えるこ
役割が中心となるが,実際に個人個人が避難行動
とができる。
を起こす際に判断を誤らないような適切な時期に
ただ,情報が氾濫する中,社会資本整備を取り
巻く状況は刻一刻と変わり,新たな整備やすでに
適切な情報が提供される仕組みを構築するような
もの。
整備されたものの維持管理・更新の現場の状況も
変化する。こういう状況の中で,国民のニーズに
⑶ 業務での品質向上,効率化のための「見える
応え,場合によっては協力いただくためには引き
化」
続き,必要な情報を必要な整理をして理解いただ
行政が与えられた役割を自ら行う際に協力いた
く努力,いわば「見える化」を続けなければなら
だく(発注先の)測量・設計業務や工事の受注者
ないと考える。
とのコミュニケーションを効率化するためのも
の。例えば,設計ミスの早期発見や行政(発注
者),設計者,施工者等の相互の認識共有を行う
もの。
建設マネジメント技術 2014 年
12 月号
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特集 社会資本整備の「見える化」
今後の社会インフラの維持管理・更新について,
あなたが重要
だと思うものは何ですか。
当てはまるものを 3 つまでお答えください。
社会インフラの実態(施設の数,配置,
経過年数,老朽化度合い,維持管理・更新に
必要な経費等)の把握
(「見える化」)
44.6
予防的措置による長寿命化
37.5
既存の社会インフラの多面的利用
(例:鉄道・道路の盛土部分による津波防護)
省庁間連携による社会インフラの一体的整備
(例:特養施設(厚労省所管)と
公営住宅(国交省所管)の一体整備)
地域ニーズにあわせた,撤退等も含む,
社会インフラの集約・統廃合
25.8
21.2
38.8
PPP/PFIの推進
5.2
その他 0.2
わからない
24.6
10.0
0.0
20.0
30.0
40.0
50.0(%)
(資料)
国土交通省「国民意識調査」
図― 1 維持管理・更新において重要だと考える取り組み
公共事業に対する国民の認識
○公共工事への関心
0%
平成18年度結果
(N=5700)
20%
40%
13.4
60%
80%
54.9
公共工事に「関心を持っている」とい
う回答の合計割合が90%と,多くの
回答者が関心を持っている。
100%
28.1
3.6
H18→68.3%
平成23年度結果
(N=940)
36.1
54.5
8.9 0.5
H23→90.6%
非常に関心を持っている
あまり関心を持っていない
○公共工事への印象
0%
20%
平成18年度結果
2.3
(N=5700)
18.5
やや関心を持っている
全く関心を持っていない
40%
60%
13.8
80%
公共工事に「悪い印象をもっている」
という回答の合計割合は,H18調査と
比べ大幅に減少している。
100%
43.5
22.0
H18→65.5%
平成23年度結果
(N=940)
5.0
20.4
38.5
29.8
6.3
H23→36.1%
良い印象を持っている
どちらとも言えない
悪い印象を持っている
やや良い印象を持っている
やや悪い印象を持っている
約8割
【参考:H18調査】公共工事へのイメージ
そう思う
ややそう思う
どちらでもない
0%
あまりそう思わない
20%
40%
そう思わない
60%
80%
100%
3.5%
税金を無駄に使っている
50.8%
談合などの不正がある
31.2%
58.5%
27.6%
13.0%
1.9%
10.8%
1.5%
82.0%
1.1%
86.1%
1.4%
79.8%
3.9%
政治家や役所が勝手にやっている
特定の人たちの利益のためにやっている
44.1%
38.5%
35.7%
37.8%
14.8%
16.9%
5.1%
1.6%
図― 2 公共工事に関する国民の認識
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建設マネジメント技術 2014 年
12 月号