2015年6月30日 【高気圧酸素治療エビデンスレポート】 「高気圧酸素治療 エビデンスレポート」の刊行にあたって 学術委員会:大浦 紀彦,川嶌 眞之,合志 清隆 *,小島 泰史, 鈴木 一雄,芝山 正治,丹羽 康江,野原 敦,別府 高明 (*:委員長) 高 気 圧 酸 素 治 療( hyperbaric oxygen therapy; の担当医だけではなく各診療科の医師に対しても理解 HBO2 )はすべての診療領域に関与しているといって が進むような配慮である。この点は「高気圧酸素治療 も過言ではなく,この治療法は減圧障害を除くと補助 エビデンスレポート」が HBO2を受ける患者側への説 療法として多種多様な疾患の治療に応用されている。 明にも利用されることで,医療者間,医療者患者間の しかし,臨床医学の専門性の高まりを反映して基本 相互理解が進むことを希望しているからである。 領域でも細分化が進められている現状では,HBO2 また,今回の「エビデンスレポート」の特徴の1つ の担当医が各診療領域を理解することは困難である は,作成段階ですべての学術委員が各稿の校正に携 ことから,本学会の HBO2 の適応疾患で科学的根拠 わり,全委員の合意のもとで作成されたことである。 を示した「診療の手引書」が必要となる。そのような この手法は委員からの提案であったが,これによって 背景から2009 年に当時の井上 治理事が学術委員長 各レポートは適正かつ迅速に作成されることになった。 として 国 際 学 会( Undersea & Hyperbaric Medical HBO2 の診療で重要性ないし使用頻度の高い疾患を Society)の”Committee Report ”に位置づけられた 優先して作業を進める予定であり,各種疾患のシリー 「高気圧酸素療法における適応疾患の見直しと再編」 ズとして学会誌への掲載が進むように編集委員会とも が本学会から出された。 その後,HBO2 に関連する臨床論文が数多く報告さ 連携をとってきた。 今後,学術委員会で予定していることは,診療手 れるなかで,前述の手引書の改訂が求められたことか 引書である「エビデンスレポート」を「診療ガイドライン」 ら学術委員会で検討を重ねてきた。そこで委員会とし へ発展させることである。そのために関連機関への様 て主眼を置いたことは,手引書である「エビデンスレ 式の打診をしてきたが,この作業も順調に進められる ポート」では HBO2 の科学的根拠を可能な限り報告事 ものと確信している。 実に基づいて紹介することであった。さらに,HBO2 85 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 Vol.50( 2 ), Jun, 2015 【高気圧酸素治療エビデンスレポート】 減圧症 (decompression sickness) 小島 泰史* (*:学術委員会) 東京医科歯科大学医学部附属病院 高気圧治療部 Ⅰ.概略 水面浮上 1時間以内:42%,3 時間以内:60%,8 時 減圧症( decompression sickness; DCS)は,潜水 間以内:83%,24 時間以内:98%とされるが,症状 や潜函作業などでの高気圧下において生体内に取り 発現に気づかずに数日後に症状がはっきりしてくる症 込まれた生理的不活性ガスが,減圧に伴って過飽和 例もあるとされる1 )。 状態になり,気泡が組織内や血管内に形成されること 1) 各症状の原因が気泡であるか否か判断する客観的 によって惹起される病態である 。気泡が障害を引き 方法は無く,画像検査の感受性も低い。脊髄型 DCS 起こす機序として,一次損傷(気泡による物理的な組 における脊髄 MRI検査の感受性も低い 7 )。DCSの診 織障害,血流途絶),二次損傷(血管内皮細胞障害, 断基準は確立されておらず,症状発現時期,症状・所 血小板凝集,凝固機能亢進)を含む多くの仮説が提 見,潜水プロフィール等から総合的に判断される。先 2) 唱されてきた 。最近の研究結果は,microparticles 3) 進国では現在,重症度の高いDCSは減少しているが, がDCSの病態に関与している可能性を示唆している 。 軽症例では診断の妥当性が問題となる 8 )。全てのDCS DCS は急速な低圧曝露(ジェット戦闘機,低圧チ を網羅する簡便な重症度分類がないことも問題である。 ャンバー)でも生じる( altitude DCS)。潜水後の高所 DCS の発症頻度は高くはなく,レジャーダイバーで 移動によるDCS発症は民間機搭乗で生じうるが,事 0.01-0.019%,職業ダイバーで 0.095%,米国海軍ダイ 前潜水無しの高所移動で DCSが発症する閾値は約 2 バーで 0.030%とされる 6 )。 万フィートとされる 4 )。 DCSに再圧治療がなされなかった場合,重症例は 気泡による障害はあらゆる組織に起こりうるため, 5) 死亡ないしは重度の神経障害を残し,軽症例は自然 DCSの症状は多彩である 。搔痒,軽度の疼痛 (軽度) 治癒もあり得るとされる 9 )が,自然経過に関する報告 から,神経障害,心機能障害,死亡(重度)にわたる。 は少ない。圧縮空気下作業が開始された19 世紀か Divers Alert Network (DAN)は,2346例 (1998-2004 らDCS の自然治癒例は報告されている。1909 年に 年)のレジャーダイバーの調査から,各症状(初発症 Brickは真珠貝採り潜水夫の調査から,神経症状のあ 状/全症状)の頻度を,疼痛 (40.6%/68.0%),しびれ・ るDCSで永続的な障害が残る割合は10%と報告して 知覚異常( 27.4% /63.4%),頭痛・過度の疲労・吐き いるが,詳細な評価不足による結果との指摘がある。 気( 13.6% /40.8%),めまい( 6.1% /19.4%),筋力 1987年にGreen RD, Leitch DRは,the Royal Navy 低下( 3.8% /18.7%),皮膚症状( 3.4% /9.5%),筋 の1965-1984 年の重症 DCS 187例中 8 例のみが自然 肉異常 (凝り,けいれん) (1.3% /6.5%),精神障害 (1.2 回復したと報告している10 )。 % /7.9%),呼吸器障害( 0.9% /5.6%),協調運動障 再圧治療の効果が初めて記録されたのは19 世紀で 害( 0.8% /7.9%),意識障害( 0.4% /1.8%),聴力障 ある。1896 年に初めて空気加圧による治療が行われ 害( 0.3% /2.1%),浮腫( 0.3% /1.8%),膀胱・直腸 た。1878 年にBert は動物実験において,酸素吸入 障害( 0.04% /2.8%),心血管障害( 0.04% /0.4%)と が DCS の症状を改善することを観察している。1897 6) 報告している 。 発症時期は,米海軍の空気潜水データベースでは, 年には高圧下での酸素吸入がヒトにおける気泡消失 を加速させることが初めて指摘された。その後の臨床 東京医科歯科大学医学部附属病院 高気圧治療部 〒113-8519 東京都文京区湯島1-5-45 受領日/2015年 6月1日 受理日/2015年 6月2日 86 2015年6月30日 減圧症( decompression sickness ) 経験の積み重ねの結果,1930 年代には酸素を使用 が,Blatteau JE et al.( 2011年)は,279 例の脊 髄 した再圧治療(高気圧酸素治療; hyperbaric oxygen 型 DCSを,2.8ATAでの治療表選択の違いについて therapy, HBO2 )が DCS の治療として受け入れられる retrospectiveに 検 討して いる15 )。 重 症( Boussuges に至った 2 )。 重 症 度スコア>7点)では,初回治療が2.8ATA 以 DCSに対して再圧治療の有効性を検討したランダム 下 Short table( 2.5ATA/90 分, 米 海 軍 再 圧 治 療 化比較試験( RCT )は,以上の歴史的背景と倫理的 表( US Navy treatment table; USNTT )5を 含 む ) な側面から行われていない。 群( 46 例)で治癒 24 例,後遺症残存 22 例に対して, 初回治療が2.8ATA Long table( USNTT 6を含む) Ⅱ.治療結果 群( 36 例)で治癒 14 例,後遺症残存 22 例( OR: 1.7, 最 初 に, 治 療 開 始まで の 時 期 について, 発 症 95% CI: 0.7-4.1)となり,Long table の高い有効性 から2 時 間 以内の HBO2 は 成 績 良 好との 報 告があ は確定されていない。軽症(同スコア≦7点)でも同 11 ) る 。 至 適 HBO2 時 期は 水 面 浮上後 6 時 間 以内と 12 ) 様の結果であった。さらに,より深深度の治療表に の 報 告 もある 。 特 に 重 症 の 脊 髄 型 DCS( Dick ついて,Gempp E et al.( 2010 年)は,治療表選択 and Massey 重 症 度 ス コ ア7-10点 )で の 検 討 で と治療成績の相関について,63 例の脊髄型 DCSを は, 発 症 後 12 時 間 以 内 治 療 群( 9 例 )と24 時 間 retrospectiveに検討している16 )。治療群を最大加圧 以 降 治 療 群( 12 例 )で は 治 療 終了後 の 改 善 率 が 2.8ATA 群と4.0ATA 群に分 類し, 重 症( Boussuges 13 ) 55%に 対して18 %( p=0.008 )との 報 告 もある 。 重症度スコア>7点)では 2.8ATA 群( 10 例)で治癒 しかし,この点には疑問を投げかける報告も散見され 1例,後遺症残存 9 例,4.0ATA 群( 12 例)で治癒 2 14 ) る 。例えば,Blatteau JE et al.( 2011年)は,279 例,後遺症残存 10 例(p=0.9 ),軽症(同スコア≦7点) 例の脊 髄型 DCS の retrospectiveな検証から,治療 では 2.8ATA 群( 31例)で治癒 30 例,後遺症残存 1 開始までの時間は予後に重要な影響を与えないと報 例,4.0ATA 群( 10 例)で治癒 9 例,後遺症残存 1例 15 ) 告している 。 治 療 開 始 時 間をDCS発 症 後<3 時 間,3- 6 時間,> 6 時間に 3 群し,単変量解析では ( p=0.43 )と,2.8ATA 群と4.0ATA 群で統計学的有 意差は無かった。 治療成績(治癒例 / 後遺症残存例)は,<3 時間( 94 治療回数について,初回再圧治療で症状・所見が 例 /30 例),3- 6 時間( 60 例 /13 例),> 6 時間( 52 消失すれば追加治療を要さない。残存した場合は消 例 /30 例)と,> 6 時間の治療成績は有意に劣るが 失ないしはプラトー状態となるまで追加再圧治療を ( p=0.024 ),多変量解析では有意差がなかったとさ 要する, 神 経 障 害を伴うDCS の多くは 2-3 回の 追 13 ) れている。前述のBall Rの報告( 1993 年) でも軽症 加再圧治療で十分であるが,重度な障害では15-20 の脊髄型 DCS( Dick and Massey 重症度スコア1-3 回 の 再 圧 治 療を要 することもある 6 )。Vann RD et 点)は,発症後 24 時間以降治療群( 5 例)の治療終 al.( 1996 年)は 3150 例のレジャーダイバーのDCS 分 了後の改善率は100%である。2004 年 Undersea and 析から,治癒率が55%で治癒例は1-15 回の再圧治療 Hyperbaric Medical Society( UHMS)ワークショッ を要したこと,5 回を超えると再圧治療の効果はあま プでは,進行性でない四肢痛,全身症状,自覚的知 り見られなかったこと,16 回以上再圧治療した中で治 覚症状( dermatomeに一致しない),皮疹を mildな症 癒例が無かったことを報告している17 )。 状と定義し,待機治療が許容される,HBO2 無しでも 2012 年に更新された Cochrane Review8 )によれば, 治癒する可能性があること,しかし,HBO2 無しでは 88 例を対象として再圧治療に酸素ないし混合ガス(ヘ 治癒にはより時間がかかる可能性があると合意された リウムと酸素)を用いて検討した次のRCTの報告があ 9) る。Drewry A et al.( 1994 年)によれば,両者で予 望まれるが,その現状は未だ模索段階である。 後に有意差は無かったが,後者で治療回数が少なか 。重症度に応じた治療待機可能時間の国際標準が 次いで,HBO2 での治療表と有効性が問題になる った( RR: 0.56, 95% CI: 0.31-1.00, p=0.05)18 )。 87 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 Vol.50( 2 ), Jun, 2015 DCS の HBO2 では,治療中のair break の必要性 対象として非ステロイド性抗炎症剤( tenoxicam )との から通常は多人数用治療装置が用いられる。しかし, 併用治療を行った 21 )。tenoxicam の付加による有効性 緊急時ないしは離島では,搬送に伴うリスクも鑑み は 6 週後では示されていないが( RR: 1.04, 95% CI: 1人用の酸素加圧装置での治療を検討せざるを得な 0.90-1.20, p=0.58 ),退院までの HBO2 の回数は 3 回 い。そのような状況で,第 1種治療装置による加療の から2 回へと抑制されている(p=0.01, 95% CI: 0-1)。 報告もある。酸素加圧型装置では air breakは行えな 常圧 下 酸 素 吸 入( normobaric oxygen, NBO2)は いが,Kindwall E( 1996 年)は酸素加圧によるHart- DCSの応急処置で広く用いられているが,その効果を Kindwall( H-K )治療表を用いた治療成績を報告して 支持する研究は少ない。2003 年のAdjunctive therapy 19 ) い る 。1989-1993 年 のDAN 症 例 に お けるH-K 治 for decompression illness は,DCS へのNBO2を, 療表とUSNTTの治療成績を,発症 90日後の症状残 AHA level Ⅰ recommendation( level of evidence C) 存率で比較している。残存率はH-K治療表はDCS Ⅰ と評価している 22 )。Longphre JM et al.(2007年)は, (疼痛のみ)で4/52 例,DCS Ⅱ(軽度)で 23/143 例, 再圧治療実施した 2231例( 1998-2003 年)のレジャー DCS Ⅱ(重度;意識障害,視力障害,歩行障害,膀 ダイバーの事故報告からNBO2 治療の有効性を検証 胱直腸障害,運動麻痺,言語障害,痙攣)で 9/37例, した 23)。再圧治療前にNBO2 実施した症例1045 例中, USNTTは 23/389 例,237/1463 例,114/537例 と 再圧治療前に効果判定された330 例で,14%は症状 統計学的有意差は無く,酸素加圧によるH-K 治療表 消失し,51%は症状改善している。2 回以上の再圧治 の有用性が示唆されている。Weaver LK (2006年)は, 療を要した割合は,非投与群( 1186 例)の 50%に比 空気を供給可能な酸素加圧型装置で USNTT 6を用 し,浮上後4 時間以内 NBO2 群(症例数不明)は 33% 20 ) いた 20 年にわたる治療経験を報告している 。 と抑制されている( OR=0.49, 95% CI: 0.36-0.69 )。 治療成績は,再圧治療時期,重症度にも左右され NBO2 群( 1045 例)と非投与群( 1186 例)で予後に有 得るが,Thalman ED はWorkman( 1968 年)からBall 意差はなかった。再圧治療無しのNBO2 単独での予 ( 1993 年)の報告をまとめ,USNTT 1回の治療での 後評価はなされていない。Blatteau JE et al.( 2009 完全成功率を1763 例中 81%(各報告 39-98%)と報 年)は,19 例の軍ダイバーを対象とし,潜 水(水 深 10 ) 告している 。 30msw,潜水時間 30 分)浮上後 10 分から30 分間常 圧下酸素吸入( NOB)ないしは水中再圧( 6mswでの Ⅲ.プロトコール 純酸素投与; HOB)を実施し,気泡形成をKissman DCS の治療では発症から早急なHBO2 が基本とさ Integrated Severity Score( KISS)を用い,コントロ れている。最も普遍的な再圧治療表は 2.8ATA 加圧 ールと比較した 24 )。コントロール群 25.5に比し,NOB の米海軍再圧治療表( USNTT )及び類似した Royal 群 8.5,HOB 群 0.2と共に有意に減少している。 Navy治療表,Comex治療表である 2,6 ) 。DCSはⅠ型 (軽 2012 年に更新された Cochrane Reviewでは,気泡 症)とⅡ型(重症)とに分類され,Ⅰ型にはUSNTT 5, の圧縮が唯一可能な再圧治療は,減圧障害に対する Ⅱ型にはUSNTT 6 が広く用いられていた。最近では 世界的に受け入れられた標準的治療とされている 8 )。 分類に関わらず USNTT 6を選択する施設が多いとさ 5) れ るが ,USNTT,Royal Navy 治 療 表,Comex 治 療表以外にも様々な治療表が使用されており,重症度 UHMSは,DCSに対するHBO2について,American Heart Association (AHA)level Ⅰ recommendation ( level of evidence C)と評価している 2 )。 に応じた国際標準の治療表は未だ模索段階である。 Ⅴ.まとめ Ⅳ.その他の臨床事項 補 助 療 法 に 関 し て, 次 の1つ のRCTが あ る。 Bennett M et al.( 2003 年)は,180 例の減圧障害を 88 DCSに対するHBO2 は,歴史的な背景よりエビデ ンスレベルは低いものの,推奨される治療と位置づけ られる。ただし,治療開始時期,治療表選択に議論 2015年6月30日 減圧症( decompression sickness ) があり,軽症例に対する適応にも更なる議論が必要で ある。診断基準,重症度分類を確立した上での新た な研究が求められる。 参考文献 1 )鈴木信哉 , 堂本英治 : 再圧治療 . 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Eur J Appl Physiol 2009; 106: 691–695. 2015年6月30日 【高気圧酸素治療エビデンスレポート】 ガス塞栓症 (gas embolism) 野原 敦*1) 合志 清隆*2) (*:学術委員会) 鈴鹿医療科学大学 医用工学部1) 琉球大学病院 高気圧治療部2) Ⅰ.概略 されるとされている 2,8 )。さらに,酸素のヒト静脈内の ガス塞栓症は血管内へ空気などのガスの流入だけ 1,2 ) ではなく ,血管内で形成された気泡(バブル)によ 連続注入では10mL/分では無症状であるが20mL/分 では臨床症状がみられることが報告されている 3,9 )。 る障害も含められることがある 3 )。しかし,この点は AGE の重篤な臨床症状としては,脳塞栓症として 分類上から減圧症との差で異論が残ることから,最 の意識障害,痙攣発作や運動麻痺などであり,さら 近では潜水関係において両者に分けずに減 圧障 害 に心筋虚血による不整脈などがある1 )。VGE では気泡 (decompression illness)と一括して扱う傾向にある4)。 ないしガスが肺からの排出量を超えると,低血圧,過 動 脈 ガス 塞 栓 症( arterial gas embolism: AGE ) 換気,低炭酸ガス血症,肺浮腫や心停止などがみら は古典的には圧縮ガス潜水後の浮上時にみられる肺 れる。また,血管内のガス像はCT 画像で静脈内では の気圧外傷によるもので,主に急速な減圧による肺 頻繁にみられるが,頭部の画像ではガスによる超急性 胞の過膨張から肺内ガスの肺静脈内への流入で生ず 期の異常の確認は困難であるか臨床的な意味をなさな る。肺の気圧外傷は水深 2mほどの水圧の変化でも い 1-3 )。 息こらえや気道閉塞の際に生じ,これに必要な圧変化 2) 血管内に流入した空気は動脈内では 48 時間後でも は 70mmHg 程度であることが紹介されているが ,嚢 実験的に確認されており10 ),さらに頭部 CT で確認さ 胞や喘息のような肺病変に起因することもある 3,5 )。こ れるヒトの空気のガスは吸収までに15時間以上を要す れに対して静脈ガス塞 栓 症( venous gas embolism: ることが予測計算値で出されている11 )。血管内のガス VGE )は医原性のものが主であり,血管内への直接的 の物理的な縮小と酸素への置換,さらに虚血状態の な空気注入,人工心肺使用,人工呼吸器使用,チェ 改善からガス塞栓症に高気圧酸素療法( hyperbaric ストチューブ留置,気管支鏡,頭部ないし脊椎の手術 oxygenation: HBO2 )が最も理に適った治療法として 1-3 ) 用いられている1,2 )。一方でAGEは高い比率で自然経 さらに心房中隔欠損や卵円孔開存,あるいは肺内動 過での症状改善がみられることも事実である12-15 )。し 静脈シャントがあれば静脈内の気泡は動脈化して肺気 かし,症状が改善した後に再び悪化することがあり16 ), 圧外傷によるAGEと同様の臨床症状を示す 3 )。さら 基本的な治療として HBO2 が推奨されている 3 )。 または過酸化水素水による創処置などでも生ずる 。 に妊娠や産褥期の性行為や口内性行為でのガス塞栓 による急死例の報告は複数みられている 3,6,7 )。 Ⅱ.治療結果 動脈内へのガス(空気)の直接注入では少量でも臨 ガス塞栓症の病態から緊急に酸素療法を主体に対 床症状がみられる。これに対して静脈内では,気泡 処されるが,少数例を対象とした報告が主であり,そ が肺毛細血管で留まり呼気ガスとして排出されるため の自然経過は明らかではない。さらに大気圧での酸素 に無症状であるが,その限界を超える大量の気泡にな 療法( normobaric oxygenation: NBO2 )とHBO2とを 3) ると呼吸器症状を示す 。実験的には静脈内への空 比較した臨床試験はなく,HBO2 の有効性を数値とし 気注入が毎分 0.30ml/kgまでは完全に呼気から排出 て評価することは困難である。Mathieuらはテキストの 鈴鹿医療科学大学 医用工学部 〒 510-0293 三重県鈴鹿市岸岡町 1001-1 受領日/2015年 6月1日 受理日/2015年 6月2日 91 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 Vol.50( 2 ), Jun, 2015 中で,ガス塞栓症の HBO2 による治療予後で 70%が の装着( OR: 15.14, 95%CI: 2.92-78.52 ),局所運動 良好な結果であり,死亡と後遺症はそれぞれ15-30% 障害( OR: 12.78, 95%CI: 3.98-41.09 )とBabinski 反 17 ) と10-20%としている 。彼らは 54 症例の自験例も紹 射( OR: 6.76, 95%CI: 2.24-20.33 )が示されている。 介しており,後遺症なしの回復は 38 例 /54 例( 70%) 後遺症は,局所運動障害( 31例),視野障害( 7例), であり,その内訳で HBO2 開始までの時間は,それ 植物症( 4 例),高次脳機能障害( 3 例)の順であった。 ぞれ1時間以内( 11例 /12 例,92%),1- 6 時間( 16 例 /21例,76 %),6-12 時 間( 8 例 /12 例,57 %), 12 時間( 3 例 /7例,43%)としている。 Ⅲ.プロトコール AGE の治療は早急な酸素吸入すなわちNBO2 に引 ガス塞 栓 症をAGEとVEGとに分けて HBO2まで 18 ) き続いて HBO2 であることに異論はないが,HBO2 の の時間と1ヶ月後の治療予後をみた報告がある 。こ 手法に統一性がないことも事実である。そのなかで国 れは医原性のガス塞 栓症 86 症例を対象としており, 際的には米海軍治療表( USNTT )6 が最も広く用い HBO2までの時間が6時間以内で治療予後に差がみら られている1,3 )。さらに,施設によっては初期に6ATA れているが(回復数 / 症例数として,38 例 /56 例 vs. まで加圧するUSNTT6A が用いられているが,専門家 12 例 /30 例 , p<0.05),そのなかでAGE では治療の の治療経験からUSNTT6との差は明らかではないと 開始時間と予後には差がなかったことが示されている されている 3,21 )。また,欧州でもフランスではUSNTT ( 3 例 /9 例 vs. 5 例 /14 例 , p=0.7 )。 に準ずる施設と独自の治療を行っている施設がある。 これに対してAGE のみを対象としているのが Tekle 例えば,Blancらは独自の治療法として6ATAに10 分 らの報 告であり,医 原性のAGE の36 症例で HBO2 間保持して2ATAまで減圧して60 分間の酸素吸入に 19 ) の治療結果をみている 。ここでは HBO2 から24 時 する治療法であり,Bessereauらは 4ATAで15 分間か 間後における治療結果が観察されており,その予後決 ら2.5ATAと2ATAで45 分間ずつの連続した酸素吸 定因子は多変量解析で 2 つが示され,HBO2までが 6 入である 20 )。また,治療の継続は病状が回復するか 時間以内で良好な治療結果に対して( OR: 9.08, 95% 改善が望めなくなるまで行うが,せいぜい1-2 回の CI: 1.13-72.69, p=0.0376 ),CTないしMRI で 脳 梗 HBO2 が追加されるか,時に 5-10 回まで行われてい 塞あるいは脳浮腫が確認されると治療予後が悪いこ る 3 )。 とが示されている( OR: 0.034, 95% CI: 0.002-0.58, p=0.0200 )。さらに,頭部画像によるガス像の確認は 治療予後に影響しないことも示されている( OR: 0.52, 95%CI: 0.07-3.79 )。 ガス塞 栓症のなかでAGEと有症状のVGEに対す るHBO2 は AHAの推奨クラス I(有効性を示すエビデ また, 治 療 予 後 の 決 定 因 子を検 討したもの が 20 ) 92 Ⅳ.その他の臨床事項 ンスまたは一般的合意がある),エビデンス・レベル C Bessereauらの報告である 。医原性のガス塞栓症の (専門家の合意,症例研究,あるいは標準治療法)と 119 症例( AGE:92 例,VEG:27例)を検討すると されている 3 )。また,AGE の補助療法として以下のも 1年後に死亡は 25 例にみられ,多変量解析で評価法 のがありAHAの推奨クラスとエビデンス・レベルが示 の SAPS II で 33 以 上の重 症 度( OR: 6.30, 95%CI: されている;応急的な酸素吸入(クラスI, レベル C), 1.71-23.21)と心停止 (OR: 4.39, 95%CI: 1.46-12.20) リドカイン(クラスⅡa, レベルB),アスピリンないし の関与が示された。ここでは HBO2までの時間と後遺 NSAIDs(クラスⅡb, レベル C),抗凝固剤(クラスⅡ 症の有無では,それぞれ平均した治療開始時間は 6 b, レベル C),コルチコステロイド(クラスⅢ, レベル 時間 (4-9.5時間)に対して8時間 (5-12時間) (p=0.03) C),経静脈輸液( 5%糖液 クラスⅢ, レベル C),等 と単変量解析の結果のみが示されている。さらに検 浸透圧の晶質液および膠質液(クラスⅡb, レベル C)。 討可能な105 症例のなかで1年後の後遺症は 45 例に ガス塞 栓 症の 初 期 対 応で, 特にAGE では head- みられ,その予後決定因子は 5日以上の人工呼吸器 down position が推奨されていたが,最近ではVEGを 2015年6月30日 ガス塞栓症( gas embolism ) 含めて発症初期の体位は問題にされていない 3,4 )。 1957; 145: 461-470. 11 )D exter F, Hind ma n B J: Recom mendations for hyperbaric oxygen therapy of cerebral air embolism V.まとめ ガス塞栓症では臨床症状がみられれば低酸素状態 based on a mathematical model of bubble abosorption. Anesth Analg 1997; 84: 1203-1207. の有無にかかわらず,最初にNBO2を行う必要があ 12 )Peirce EC: Cerebral gas embolism( arterial )with る。次いで血管内のガスの容積圧縮と吸収効果から special reference to iatrogenic accidents. HBO HBO2 が最良の治療法と判断されるが,その最適な 治療パターンが定まっていないことも事実である。さら に,痙攣重積状態や意識障害などの重篤な神経症状 に加えて肺気圧外傷でもHBO2 の困難な事例がみら れ,NBO2 で対処せざるを得ないこともある 22,23 ) 。ま た AGEを含めたガス塞栓症は自然経過で改善例も比 較的多くみられることから11-15 ),その病状と1人用の HBO2 装置の設置状況も考慮したうえで,適切な酸素 療法を行うことが重要であろう。 Review 1980; 1: 161-184. 13 )Leitch DR, Green R: Pulmonary barotrauma in divers and the treatment of cerebral arterial gas embolism. Aviat Space Environ Med 1986; 57: 931-938. 14 )Stonier JC: A study in prechamber treatment of cerebral air embolism patients by a first provider at Santa Catalina Island. Undersea Biomed Res 1995; 12( suppl ): 58. 15 )Tamaki H, Kohshi K, Ishitake T, Wong RM: A survey of neurological decompression illness in commercial breath-hold divers ( Ama ) of Japan. Undersea Hyperb Med 2010; 37: 209-217. 参考文献 1 )Muth CM, Shank ES : Gas Embolism. 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Carbon monoxide. Boca Raton, FL: CRC Press, 1996; pp. 163-186. 4 )Piantadosi CA, Zhang J, Levin ED, et al. Apoptosis and delayed neuronal damage after carbon monoxide poisoning in the rat. Exp Neurol 1997; 147: 103-114. 5 )A lonso JR, Cardellach F, Lopez S, et al.: Carbon monoxide specifically inhibits cytochrome c oxidase of human mitochondrial respiratory chain. Pharmacol Toxicol 2003; 93: 142-146. Ⅴ.まとめ Cochrane reviewによれば,現時点で CO 中毒後の poisoning. N Engl J Med 2009; 360: 1217-1225. 脳障害予防として HBO2 が NBOより優位性があると 7 )Thom SR, Bhopale VM, et al.: Delayed neuropathology 言える高いエビデンスレベルを有した報告はないとさ after carbon monoxide poisoning is immune-mediated. れたが,一方では,HBO2 が少なくとも軽症の症例よ り重度の脳障害をきたした症例に対して有用である可 能性が指摘されている12 )。 日本救急医学会から発行された JRCガイドライン 24 ) 2010(日本語版) では,成人の二次救命処置の項目 において,心停止を来たした重症 CO 中毒症例では生 存退院することはまれではあるが,持続性あるいは遅 Proc Natl Acad Sci U S A 2004; 101: 13660-13665. 8 )T hom SR , Bhopa le V M , et a l.: I nt rava s c u la r neut roph il act ivat ion due t o c a rb on monox ide poisoning. 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Crit Care Clin 1999; 15: 297-317 も,CO 中毒の対応ポイントとして,① CO 発生源の除 12 )B uckley NA , Juurlink DN, I sbister G, et al.: 去,新鮮な空気下ヘの移動 ②意識障害には気道確 Hyperbaric oxygen for carbon monoxide poisoning. 保 ③呼吸障害には人工呼吸 ④意識障害の有無に 関係なく,高濃度酸素を投与する ⑤高気圧酸素治 療が可能な救急医療施設に直送する,となっている。 現時点では,重症 CO 中毒症例を中心に,全身状 態などを考慮の上,NBOに加えて HBO2を施行すべ Cochrane Database Syst Rev: 2011; CD002041. 13 )Wolf SJ, Lavonas EJ, Sloan EP, et al.: Clinical policy: Critical issues in the management of adult patients presenting to the emergency department with acute carbon monoxide poisoning. Ann Emerg Med 2008; 51: 138-152. 14 )A nnane D, Chadda K, Gajdos P, et al.: Hyperbaric きであろう。 oxygen therapy for acute domestic carbon monoxide 参考文献 1 )合志清隆,別府高明:一酸化炭素中毒 . 神経症候群(第 2版) ( V ), 別冊日本臨牀 新 領域別症候 群シリーズ No.30. 大阪 ;日本臨牀社 . 2014; pp. 671-674. 2 )Okeda R, Funata N, Takano T, et al.: The pathogenesis of carbon monoxide encephalopathy in the acute phase-physiological and morphological correlation. 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Hyperbaric oxygen 24 )J RCガイドライン2010 日本 語 版日本 救 急 医 学 会 ameliorates delayed neuropsychiatric syndrome of http://www.icls-web.com/info/jrc_guideline_draft. carbon monoxide poisoning. Undersea Hyperb Med 2010; 37: 23-33. 21 )Vila JF, Meli FJ, Serqueira OE, et al.: Diffusion tensor magnetic resonance imaging: a promising html 25 )中毒ガイドライン 湘南地区メディカルコントコール協議 会 http://shonan-mc.or.tv/guideline-pdf/toxic_guide. pdf t e ch n ique t o cha ract er ize a nd t rack delaye d e nc epha lopat hy a f t er ac ut e c a rb o n m o nox ide poisoning. Undersea Hyperb Med 2005; 32: 151-156. 97 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 Vol.50( 2 ), Jun, 2015 【高気圧酸素治療エビデンスレポート】 突発性難聴 (sudden hearing loss) 合志 清隆* 1 ) 吉田 泰行 2 ) (*:学術委員会) 琉球大学病院 高気圧治療部1) 栗山中央病院 耳鼻咽喉科2) Ⅰ.概略 に分けて HBO2 の効果が検討されており,軽度の聴 突発性難聴は突然発症する原因不明の感音性難聴 力障 害を除いて対照 群と比 較した際にHBO2 群で であり,随伴症状として耳鳴りや耳閉感がそれぞれ 80 有意な聴力改善が示されている 8 )。例えば,中等度 %に,回転性めまいが30%にみられる1 )。発症は 50 と高度の聴力障害では,それぞれ19.3dB( 95% CI: 1) 5.2-33.4, p=0.007 ) と33.7dB( 95% CI: 22.9-52.5, さらに両側性の発症も5%以下でみられる 。厚生労 p<0.00001)の改善がみられている。しかし,残り3 働省による2001年の調査では,わが国の全国受療者 つのRCT でのメタ解析では聴力改善の傾向を示しな 数は年間 35,000人で,人口100万人対で 275人とされ がらも有意には至っていない 4-7 )。また,以上の 4つ ているが,国際的な調査では10万人に対して5~30人 のRCT での HBO2 の治療パターンは同一ではなく,2 ~60 歳代に多いが全年齢層にわたり男女差はなく , 2) 1) の発症といわれている 。明らかな原因は特定されて つのRCT では1.5ATAの 45 分 間であるが 5,6 ), 他は いないが,蝸牛の血流障害,ウイルス感染,外傷と自 2.5ATAで治療時間が 60 分間と90 分間とで異なって 己免疫疾患の 4つが主なものと考えられている 1,3 ) 。治 療法で確立されたものはなく,循環改善剤とステロイ いる7,8 )。 さらに,純音聴力検査の閾値で検討したものでは, ド,さらにビタミン剤などの様々な治療薬が用いられて 不完 全な1つを含んだ2 つのRCT から114 例を対象 おり,高気圧酸素治療( hyperbaric oxygen therapy, として比較しており 9,10 ),この閾値の 50%では有意な HBO2 )をはじめとして星状神経節ブロックなども行な 改善はみられていないが( RR 1.53, 95% CI: 0.85- われている 1,3 ) 。しかし,自然経過としての改善は 25 ~65%にみられ 1,3,4 ) 2.78, p=0.16 ),25%の改善度においては有意に良好 ,このことも複数の治療法との比 な結果が得られている( RR 1.39, 95% CI: 1.05-1.84, 較において評価が困難な一因である。突発性難聴に p=0.02 )。後者の25%の改善度でみると22%の可能 HBO2 が行なわれる根拠として蝸牛の高い酸素代謝 性で HBO2 により聴力障 害の改善があり,1 段階以 3) に加えて血管に乏しいことが考えられている 。 上の改善に要するHBO2 の回数は平均 5 回( 95% CI: 3-20 )であることが示されている 4 )。 Ⅱ.治療結果 前述のRCTの報告結果以外にnon-RCT での治療 2012 年に更新された Cochrane Review の結果によ れば,突発性難聴におけるHBO2 の効果を検討した 反応しなかった58 例のなかの44 例を対象としており, 4) ランダム化比較試 験( RCT )は 7 つの報告がある 。 23 例に15 回のHBO2( 2.5 ATA, 60 分間)が行われ, そのうち統 計 学的な評 価が可能な4つのRCT から 対照は HBO2に同意しなかった21例として治療結果が HBO2 の付加ないし単独の治療群の 86 例と対照群 比較検討されているが,聴力の改善はそれぞれ15.6 dB の 83 例を比較したものでは,平均して15.6dB( 95% ( SD±15.3)と5.0 dB( SD± 11.4)とであり,HBO2 CI: 1.5-29.8, p=0.03 )の有意な聴力改善が得られて いる 5-8 )。そのなかの1つは聴力障害の程度を3 段階 琉球大学医学部附属病院 〒 903-0215 沖縄県西原町上原 207 受領日/2015年 6月1日 受理日/2015年 6月2日 98 効果が検討されており,その1つではステロイド治療に 群で良好な結果が示唆されている( p=0.0133)11 )。 2015年6月30日 突発性難聴( sudden hearing loss ) Ⅲ.プロトコール 肢の一つとして,特に中等度以上の聴力障害では考慮 突発性難聴においてはHBO2の定まった治療パター されてよいと考えられる。しかし,具体的なHBO2 の ンはなく,1.5~3.0ATAで 60~120 分間の治療が日に 治療法である治療圧や時間,さらに回数の確立には 1~2 回が行われ,総治療回数は15~40 回である 3,4 ) 。 更なる研究が必要である。 聴力障害の程度で検討された HBO2 は 2.5ATAの 90 分間であり,3 週間で 25 回の治療が行なわれている 8 )。 参考文献 その他のRCT での HBO2 は,1.5ATAの 45 分間で週 1 )S chreiber BE, Agrup C, Haskard DO, Luxon LM: 5,6 ) Sudden sensorineural hearing loss. Lancet 2010; 375: に 5 回の治療を2~4 週間( 10~20 回)行われるか , あるいは 2.5ATAの 60 分間を日に1回を10日間が行 われている7 )。 1203-1233. 2 )O h JH, Park K, Lee SJ, Shin YR, Choung YH: Bilateral versus unilateral sudden sensorineural hearing loss. Otolaryngol Head Neck Surg. 2007; 136: 87-91. Ⅳ.その他の臨床事項 以上のRCTにおける突発性難聴の対象患者は全例 が発症から14日以内であり,HBO2 の単独治療ない し他の治療との併用で比較検討されている 4 )。さらに, 3 )B a rthelemy A, Rocco M: Sudden dea fness. I n: Mathieu D ed. Handbook on Hyperbaric Medicine. The Nertherlands; Springer. 2006, pp451-468. 4 )B en nett M H , Ker tesz T, Perleth M , Yeu ng P, 6 か月以上経過した慢性期例と併発する耳鳴りに対す Lehm JP: Hyperbaric oxygen for idiopathic sudden るHBO2 の効果も検討されているが,両者での HBO2 sensorineural hearing loss and tinnitus. Cochrane 4) の有効性は認められていない 。また,聴力障害の発 症とHBO2 の開始時期で改善度をみたものでは,発 症から10日以内にHBO2を行った43 例( 44 内耳)で は 65.9%( 29/44 )の改善率に対して,10日以降から 90日までに同治療を開始した18 例での改善率は 38.9 %( 7/18 )と差があることが示されている12 )。 その他の血管拡張を目的とした治療法では,混合ガ ス( 95% O2 + 5%CO2 ),プロスタグランジン製剤と Database Syst Rev 2012; 10: CD004739. 5 )H offmann G, Bohmer D, Desloovere C: Hyperbaric oxygenation as a treatment for sudden deafness and acute tinnitus. Proceedings of the Eleventh International Congress on Hyperbaric Medicine. Flagstaff, AZ, Best Publishing, 1995; pp146-151. 6 )Schwab B, Flunkert C, Heermann R, Lenarz T: HBO in the therapy of cochlear dysfunction –first results of a randomized study. EUBS Diving and Hyperbaric Medicine, Collected manuscripts of XXIV Annual ステロイド,さらに低分子デキストランとプラセボと比 Scientific Meeting of the European Underwater and 較した RCTにおいて,その有効性を示す結果もある Baromedical Society. Stockholm: EUBS, 1998; pp40- が,それぞれが単独の報告であることから治療効果を 評価することは困難とされている13 )。特にステロイドは 1) 複数の有効性を期待して日常的に使用されているが , 14 ) その有効性は明らかではない 。また,突発性難聴 の原因としてウイルス感染説もあり,抗ウイルス剤の治 療効果をみた4つのRCTにてステロイドの単独治療と 比較しているが,これらに治療効果の差は認められて いない 15 )。 42. 7 )P ilgramm M, Lamm H, Schumann K: Hyperbaric oxygen therapy in sudden deafness. Laryngologie, Rhinologie, Otologie 1985; 64: 351-354. 8 )Topu z E , Yig it O, Cina r U, S even H : Shou ld hyperbaric oxygen be added to treatment in idiopathic sudden s en s or ineu ra l hea r ing lo s s? Eu r A rch Otorhinolaryngol 2004; 261: 393-396. 9 )C avallazzi G, Pig natoro L , Capaccio P: Italian experience in hyperbaric oxygen therapy for idiopathic sudden sensorineural hearing loss. Proceedings of Ⅴ.まとめ 突発性難聴の病態に加えて治療法も確立されてい the International Joint Meeting on Hyperbaric and Underwater Medicine. Bologna: Grafica Victoria, 1996; pp647-649. ないが,HBO2 が単独治療として行われることは少な 10 )Fattori B, Berrettini S, Casani A, Nacci A, De いにしても,急性期治療の組み合わせのなかで選択 Vito A, De Iaco G: Sudden hypoacusis treated with 99 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 hyperbaric oxygen therapy: a controlled study. Ear Nose Throat J. 2001; 80: 655-660. 11 )Pezzoli M, Magnano M, Maffi L, et al: Hyperbaric oxygen therapy as salvage treatment for sudden 13 )Aqarwal L, Pothier DD: Vasodilators and vasoactive substances for idiopathic sudden sensorineural h e a r i n g l o s s . C o c h r a n e D a t a b a s e Sy s t R e v 2009;4:CD003422. sensorineural hearing loss: a prospective controlled 14 )Wei BP, Mubir u S, O ’Leary S: Steroids for study. Eur Arch Otorhinolaryngol 2015; 272: 1659- idiopathic sudden sensorineu ral hea ring los s. 1666. Cochrane Database Syst Rev 2006; 1: CD003998. 12 )Holy R, Navara M, Dosel P, Fundova P, Prazenica 15 )A wad Z , Huins C, Pothier DD: Antivirals for P, Hahn A: Hyperbaric oxygen therapy in idiopathic idiopathic sudden sensorineu ral hea ring los s. sensorineural hearing loss( ISSNHL )in association Cochrane Database Syst Rev 2012;8:CD006987. with combined treatment. Undersea Hyperb Med 2011; 38: 137-142. 100 Vol.50( 2 ), Jun, 2015 2015年6月30日 【高気圧酸素治療エビデンスレポート】 脊髄・神経疾患(spinal cord and peripheral nerve disorders) 小島 泰史*1) 榎本 光裕1) 加藤 剛2) (*:学術委員会) 東京医科歯科大学医学部附属病院 高気圧治療部1) 東京医科歯科大学 整形外科2) Ⅰ.概要 PubMed 検索からも,脊髄損傷,末梢神経損傷など 脊 髄・神 経 疾 患の 病 態 は外 傷, 変 性 疾 患 等 多 での HBO2 臨床報告があることがわかる。各疾患で 岐 にわたり, 一 様 で は ないが, 高 気 圧 酸 素 治 療 病態生理は異なるため,一律にHBO2 の効果を論ず ( Hyperbaric oxygen therapy, HBO2 )は虚血や外傷 ることは適切ではない。よって,以下では,脊髄・脊 により障害された組織への酸素供給や浮腫の軽減, 1) 脈管新生などの効果があるとされ ,脊髄・神経疾患 髄神経疾患とその他の末梢神経疾患に分け,疾患ご とに検討する。 に対する保存療法として理論上有用と考えられる。基 礎研究では,Thompson CD et al.( 2010 年)は,ラ Ⅱ.脊髄・脊髄神経疾患 ットでの実験よりHBO2 が神経障害性疼痛に有効で 脊髄損傷 2) あることを報 告している 。 第 5 腰 髄 神 経( L5)結 交通事故や転落等による脊椎骨折,脱臼により脊 紮,坐骨神経 絞 扼モデル( CCI )を作製し,HBO2 柱管内の脊髄が損傷される。高齢化の影響もあり, ( 2.4ATA,90 分)を2 週 間行っている。 評 価法は, 非骨傷性頚髄損傷も近年増えている。日本脊髄障害 痛 覚 過 敏 を mechanical paw withdrawal threshold 医学会の報告によると,近年の発生頻度は人口100 ( MPWT )として数値化し,治療終了後 5日まで評価 万人あたり年間約 30人とされている。薬物治療として している。対照群と比較して,両群共にHBO2 の効 はメチルプレドニゾロン大量投与が施行されていたが, 果を認めた。特に,坐骨神経絞扼モデルでは,回復 現在は治療後の機能回復に差がなく消化管出血,感 がより早く,治療後もより維持される傾向にあった。 染,血栓性静脈炎等の合併率が高いことから推奨さ Zhao BS et al.( 2015 年)は,早期の HBO2 開始が れていない。手術治療のほかにリハビリテーションが 神経因性疼痛に重要なP2X4受容体の脊髄での発現 中心となる 5,6 )。 を抑制し,疼痛慢 性期での HBO2 が脊 髄での細胞 3) Gamache FW et al.( 1981年)は脊髄損傷 25 症例 死を抑制すると報告している 。しかし,HBO2 の脊 に標準的治療の他にHBO2を併用した結果,HBO2 髄・神経疾患に対する適応,効果に関しては曖昧で 群では,標準的治療のみの場合に比し症状回復は 不明な点が多く,治療成績に関する大規模研究もラ 早いが治療予後には差はなかったと報告している 7 )。 ンダム化比較試験( RCT )も存在しないのが現状で HBO2 群の13 例は HBO2( 2.5ATA,90 -120 分)が 4) ある 。Cochrane Library( Cochrane Review)にて, まず,2 時間ごとに4 回,その後 6 時間ごとに4 回施 “ hyperbaric oxygen”のキーワード検索でヒットする脊 行された。改善傾向がある場合,プラトー状態となる 髄・神経疾患はベル麻痺のみである。一方,医中誌 まで1日2 回のHBO2 が継続された。残りの12 例では で“高気圧酸素治療” “脊髄” , “神経” , でキーワード検索 HBO2( 2ATA,90 分)がまず,4 時間ごとに 3 回,そ すると,本邦では腰部脊柱管狭窄症,腰椎椎間板ヘ の後は1日2 回の HBO2 が継続された。Yeo JD(1984 ルニア,脊髄損傷,頚椎症性脊髄症・神経根症,ベ 年)もHBO2を行った脊髄損傷 27例について,改善 ル麻痺などにHBO2 が試みられていることがわかる。 率が対照群と有意差が無かったことを報告している 8 )。 東京医科歯科大学医学部附属病院 高気圧治療部 〒113-8519 東京都文京区湯島1-5-45 受領日/2015年 6月1日 受理日/2015年 6月2日 101 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 Vol.50( 2 ), Jun, 2015 一方,Asamoto S et al.( 2000 年)は,非骨傷性頚 流の障害が生じ,症状を呈すると考えられている11 )。 髄 損 傷 34 例を検討し,HBO2 の予後への有用性を 治療は PGE1 製剤などの薬物治療,装具治療,理学 9) 報 告している 。HBO2( 2.0ATA,60 分)併用療法 療法,ブロック療法などの保存治療が原則であるが, が13 例に行われた。治療は1日1回,平均 12.1日間。 保存治療が無効である場合は手術治療が推奨される。 Neurological Cervical Spine Scale( NCSS)の改善 加 藤ら( 2010 年)は 同 疾 患の 68 例にHBO2を用 度で評価された。平均改善率は,対照群( 21例)65.1 い,対照群 30 例との比較を報告している12 )。HBO2 %に比し,HBO2 群は 75.2%と高く,統計学的な差 ( 2.0ATA 以上,60 分)が週に2 回以上 施行された。 を認めたとしている。Ishihara H et al.( 2001年)は, 自 覚 症 状 に つ いてvisual analog scale( VAS), 日 脊髄損傷 22 例にHBO2を行った結果から,HBO2 は 本 整 形 外 科 腰 部 疾 患 治 療 成 績 判 定 基 準( L-JOA 予後には影響しないものの,予後予測には有用な可能 score)などを用いて,20 回の HBO2 の終了ないし2 10 ) 性を報告している 。HBO2 の効果をexcellent, good, カ月後,さらに治療 終了1カ月後で比 較している 。 fair , poorに4 群し,HBO2 効果とAmerican Spinal 治療開始から2カ月後での評価では,腰痛,下肢し Injury Association( ASIA )motor score の 回 復 率 びれは両群 共に不変が多く,有意な改善を認めな には 相関がある( r=0.586, p=0.0072 ),しかし,入 かったが,下肢 痛は HBO2 群で改善 46%,不変43 院時のASIA motor scoreと回復率の相関( r=0.752, %,悪化 10%に対して,対照群は 21%,52%,28% p=0.0006 )よりは弱いとしている。以上の相反する報 とHBO2 群で改善が多い傾向が見られた。間欠跛行 告がある。 でもHBO2 群 で 改善が多い 傾 向があった。VAS は HBO2 群で治療開始時平均 7.9㎝→3.4㎝に有意に改 腰部脊柱管狭窄症 善( p<0.05)した一方で,対照群では 6.9 → 5.3㎝と 腰部脊柱管狭窄症は,腰椎の椎間板と椎間関節の 有意差を認めなかった。L-JOA scoreもHBO2 群が 変性を基盤として腰椎脊柱管や椎間孔が狭小化する 14.8 →18.9点( p<0.05),対照群が15.4→17.0点(有 ことで,症状を呈する症候群である。もっとも特徴的 意差無し)であった。PGE1 製剤併用の有無で分類し な症状は間欠跛行である。腰椎部の脊柱管あるいは 比較しても,VAS,J-JOA score はいずれも,PGE1 椎間孔の狭小化により,神経組織の障害あるいは血 製剤併用の有無にかかわらず,HBO2を施行した群 Fig. 1 Progress of patients in the HBO2 and natural course groups from baseline to final evaluation 102 2015年6月30日 脊髄・神経疾患( spinal cord and peripheral nerve disorders ) において有意に改善が認められた。HBO2 終了から1 例に術前 HBO2を行った結果から,HBO2 は手術成 カ月後にも症状改善が維持されていた。Suzuki M et 績予測に有用と報告している16 )。除圧手術前にHBO2 al.( 2014 年)は同疾患の24 例を対象に,HBO2 治療 ( 2.5ATA,60 分)が行われ,効果は手の自覚 症 状 13 ) 群 19 例,自然経 過群 5 例の比較を報告している 。 (しびれ,巧緻性)の改善期間で評価した。Excellent HBO2( 2.0ATA,60 分)が 4 週間で10 回施行された。 ( HBO2 後 24 時 間 以 上改善 持 続 ),good( HBO2 後 評価は治療前と3カ月後での歩行距離,歩幅,VAS, 24 時間まで改善 持 続),fair( HBO2 治療中のみ改 JOA スコア,Japanese Orthopaedic Association Back 善有),poor(改善無)と評価された。術後の改善率 Pain Evaluation Questionnaire( JOABPEQ )で比較 は術前と最終経過観察時(平均観察期間 2 年,5カ された。自然経過群ではこれら指標のいずれも治療 月-4.4 年)のJOA スコアで評価された。HBO2 効果 前後で有意差を認めない一方で,HBO2 群では,歩 excellentでは改善率 75.2±20.8%,goodでは 78.1± 行距 離(平均 297m→344m; p=0.0437 ),VAS( 腰 17.0%,fairでは 66.7±21.9%,poorでは 31.7±16.4 痛) ( 平均 46.9mm →33.3mm; p=0.0003 ),VAS( 下 %と,HBO2 効果と改善率には相関を認めた (r=0.641, 肢痛) (平均 54.2mm →33.9mm; p=0.0006 ),VAS(し p<0.0001)。 びれ) (平均 56.2mm →34.4mm; p=0.0005)とJOA ス コ ア(( 平 均 14.5 →15.6; p=0.0399 ),JOABPEQ の Ⅲ.その他の末梢神経疾患 腰痛障害((平均 42.9 → 68.5; p=0.0014 ),歩行機能 代表的な末梢神経疾患として顔面神経麻痺があげら 障害((平均 25.8 → 42.9; p=0.0089 ),社会生活障害 れ,この原因としてはウイルス感染がよるものが有力視 ((平均 37.4→ 46.6; p=0.0276 )の項目で,治療前に比 されているが明らかではない。日常臨床では,帯状疱 し有意な改善が認められた。HBO2 群と自然経過群 疹を併発するハント症候群を除いた特発性顔面神経麻 の改善度比較では,歩行距離,VAS(腰痛),VAS(下 痺(ベル麻痺)の治療は,ステロイド剤投与,交感神経 肢痛),VAS(しびれ),JOABPEQ の社会生活障害で, ブロックによる血流改善治療等が行われている。側頭 HBO2 は有意に改善を認めた( Fig. 1)。 骨内の顔面神経管内で,神経が浮腫,虚血,絞扼の 対 照 群が無いが, 吉 田ら( 2001年)は同 疾 患の 悪循環を生じることが病態とされ,この悪循環が進行 143 症例に対して平均 30.3 回( 10 -109 回)の HBO2 すれば,不可逆的な神経変性をきたすため,発症早期 ( 2.0ATA,60 分)を行い,治療前後で訴えの変化を の適切な治療が重要とされている17)。顔面神経麻痺 (ベ 報告している14 )。評価には L-JOA score の〔Ⅰ.自覚 ル麻痺)でHBO2の効果を検討した次の1つのRCTが 症状(腰痛 3点,下肢痛・しびれ 3点,歩行能力 3点 ある。Racic G et al.( 1997年)は,中等度以上のベ の 9点満点)〕に,各点数間の中間設定として0.5点を ル 麻 痺 79 例( House-Brackmann grades III to VI ) 著者が設定,補正したうえで点数化した。治療前 2.97 を対象として,HBO2とステロイドとで 回 復 率を比 ±1.33点から治療後4.57±1.57点と統計学的有意に 較 して い る18 )。 完 全 回 復 率 は HBO2 群 の 95.2 % 改善したとされる( p<0.01)。 ( 40/42 例)に対して対照群(ステロイド治療群)では 75.7 %( 28/37例 )であり( RR 1.26, 95% CI 1.04- その他の脊髄・脊髄神経疾患 加藤ら( 2009 年)は腰部神経根症を伴う腰椎椎間 1.53) ,さらに平均の回復期間も早かったとしている (22 日 vs. 34.4日,p<0.001)。ただし,評価者がブライン 板ヘルニア( LDH )9 例,脊髄症 29 例,頚部神経根 ドで無い為エビデンスの質は低いと総括されている19)。 症 10 例,脊髄損傷後遺残症 15 例にHBO2( 2.0ATA, 鈴木ら (2012年)は発症後2週間以内に受診したベル麻 60 分 )を施 行し, 腰 部, 頚 部とも 神 経 根 症 へ の 痺患者 301例を対象として後ろ向きに検討している 20 )。 HBO2 有効性が示唆されたと報告している15 )。脊髄 発症 2 か月以内に完治した 208 例( A 群),2-6 か月で 症,術後遺残群は有意な改善を認めなかったとされ 完治した34 例( B 群),完治せず 59 例( C 群)で比較 る。Ishihara H et al.( 1997年)は,圧迫性頚髄症 41 している。HBO2 は重症症例(経過中の柳原の 40点 103 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 Vol.50( 2 ), Jun, 2015 法による麻痺スコアが10点未満になったもの)を対象 対して対照群で 245 例 /753 例( 33%)と低いことが示 として治療開始から2 週間以上経過してから1-2 週間 されており( RR 0.71, 95% CI 0.61-0.83 ),ステロイ 施行されている(プロトコール記載なし)。各群の重 ド治療の有効性が示されている 23 )。次いで,理学療 症症例は A 群 51例,B 群 17例,C 群 46 例であるが, 法の有効性が中等度の麻痺と慢性期例で,さらに急 HBO2 施 行 割 合はそれぞれ,19.6%,47.1%,30.4 性期例では後遺症の軽減の可能性が示されている 24 )。 %( p=0.0832 )であり,群間差がなかったことから, しかし,末梢性顔面神経麻痺に対する抗ウイルス剤の HBO2 の有効性は認められなかったと報告している。 効果はなく25 ),さらに手術療法の有効性も明らかでは Zhao DW( 1991年)は,手術的に加療された末梢 神経損傷114 症例を対象として,HBO2 の効果を検証 21 ) ない 26 )。 海 外では,UHMS(Undersea & Hyperbaric Medical している 。54 症例( 65 神経)で補助的にHBO2 が Society ),ECH M ( Eu ropea n C om m ittee for 施行された。治療 成績は,HBO2 群では excellent, Hyperbaric Medicine ),ANZCA & ANZHMG good が 89.2%に比し,対照群では 73.2%にとどまっ ( Au st ra lia n a nd New Zea la nd College of たとされる( p<0.05)。治療時期で見ると,新鮮外傷 Anaesthetists and Australian and New Zealand では両群に有意差は無かったが,陳旧性になるほど, Hyperbaric Medicine Group of the South Pacific HBO2 群は有意に治療成績が良かったとされる。 Underwater Medical Society(SPUMS))のいずれも 脊髄・神経疾患は適応とされていない。 Ⅳ.プロトコール 脊髄・神経疾患の HBO2 の方法に定まったものは Ⅵ.まとめ なく,治療圧も2.0 -2.8ATA,治療時間も60 -120 脊髄・神経疾患に対するHBO2 の有効性を示す研 分と幅がみられる。 腰 部 脊 柱 管 狭 窄 症では 2.0 - 究は少ない。しかし,腰部脊柱管狭窄症,神経根症 2.5ATA,60 分で1日1回,週に2 回以上で,10 -30 については保存治療と手術治療の中間的な治療に位 回程度を目安に行われている。脊髄損傷でも1日1回 置づけられる可能性があり,エビデンスレベルは高く のプロトコールもあるが,より濃厚な治療もおこなわれ ないものの支持する研究も存在する。圧迫性頚髄症 ている。文献 7.では,2.0 -2.5ATA,90 -120 分が の手術成績予測ツールとして有用である可能性もあ 急性期は 2-4 時間毎に行われ,その後に1日2 回で る。近年,脊髄・神経疾患の動物モデルを使用した プラトー状態となるまで行われている。ベル麻痺を対 研究発表が多く,HBO2 有用性が示唆されていること 18 ) 象とした報告 では 2.8ATA, 60 分間で1日2 回,週 5 から,今後の更なる臨床研究の報告が待たれる。 回で最大 30 回か症状改善するまで行われている。 参考文献 Ⅴ.その他の臨床事項 1 )恩田昌彦: 高気圧酸素治療の適応概論. In: 徳永昭 (編). 脊髄損傷では,発症後8 時間以内にステロイド(メ チルプレドニゾロン)大 量 投与を開始した際に1年 後の神経状 態に改善が示されている( Bracken MB 22 ) Cochrane Database Syst Rev 2012) 。しかし,2013 潜水医学会. 2008; pp.77-82. 2 )T hompson CD, Uhelski ML, Wilson JR, Fuchs PN: Hyperbaric oxygen treatment decreases pain in two nerve injury models. Neurosci Res 2010; 66: 279-283. 年のNeurosurgery の脊髄損傷ガイドラインでは,治 3 )Zhao BS, Song XR, Hu PY et al.: Hyperbaric Oxygen 療後の機能回復に差がなく副作用の合併率が高いこ Treatment at Various Stages following Chronic とからステロイド投与は推奨されていない 6 )。 特発性顔面神経麻痺(ベル麻痺)でのステロイドの 104 高気圧酸素治療法入門第 5 版 . 東京; 日本高気圧環境・ Constriction Injury Produces Different Antinociceptive Effects via Regulation of P2X4R Expression and Apoptosis. PLoS One 2015; 10: e0120122 効果が RCTのメタ解析で検討され,半年後の不完全 4 )加藤剛,柳下和慶,榎本光裕,他 : 脊椎脊髄疾患に対 回復率はステロイド治療群の175 例 /754 例( 23%)に する高気圧酸素治療の効果-脊椎脊髄外科医の立場か 2015年6月30日 脊髄・神経疾患( spinal cord and peripheral nerve disorders ) ら-. 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 2012; 47: 153. 16 )I shihara H, Matsui H, Kitagawa H, Yonezawa T, 5 )植 田尊善 : 脊 髄損傷(リハビリテーションを含む). 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CD007468 105 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 Vol.50( 2 ), Jun, 2015 【高気圧酸素治療エビデンスレポート】 網膜動脈閉塞症 (retinal artery occlusion) 合志 清隆* 1 ) 山内 遵秀 2 ) (*:学術委員会) 琉球大学病院 高気圧治療部1) 琉球大学病院 眼科2) Ⅰ.概略 双極細胞と神経節細胞は網膜中心動脈によるが,両 網膜動脈閉塞症( retinal artery occlusion; RAO) 1) 者の動脈は眼動脈から分枝したものである。理論計算 は視力障害を示す代表的な眼科疾患である 。網膜 によるヒト網膜への酸素供給は,網膜中心動脈の閉 中心 動 脈 閉 塞 症( central retinal artery occlusion; 塞での脈絡膜血管からの酸素供給は脈絡膜側から約 CRAO), 網 膜 動 脈 分 枝 閉 塞 症( branch retinal 60μであり,大気圧下での酸素吸入では酸素供給範 artery occlusion; BRAO)と毛様網膜動脈閉塞症と 囲は140μ,さらに2.36気圧下での酸素吸入では 260 に分けられ,それぞれの割合は 57%,38%と5%とあ μに達し,ほぼ網膜全層が脈絡膜側からの酸素供給 2) 3) るが ,後 2 者を総括的にBRAOとすることもある 。 がなされる 6 )。このことは網膜中心動脈からの酸素供 CRAO の 発 症 は 米 国 で の1976 年 から2005 年まで 給がなくとも低酸素状態が回避されることを示唆して の調査によれば 10万人に対して年間 1.9人( 95%CI: いる7 )。 1.33-2.47 )とあり,男性は女性の2 倍の発症率とされ ている 4 )。その主な原因は血栓,塞栓と血管炎といわ 1) れている 。CRAO の自然経過の特徴は,1973 年か RAOで HBO2 の有効性を検討したランダム化比較 ら2000 年までに244 症例( 260 眼)の調査報告が参 試験( RCT )は行われていない。すべての HBO2 に関 5) 考になる 。その病 型は 4つ( non-arteritic: 163 例 , 連した 28 論文を検討した 2012 年のレビュー報告によ non-arteritic with cilioretinal artery sparing: 35 例 , れば 8 ),476 症例のなかで 306 例( 65%)に視力障害 arteric: 11例 , transient non-arteritic: 39 例 )に分 の改善があったとしている。しかし,そのなかには対 けられ,そのなかで“ arteric ”群にはステロイドが使 象症例が5 例以下の11の症例報告が含まれており,さ 用されているが,それ以外では一部の患者での眼球 らに発症からHBO2までの期間も不明なものから1カ 1) マッサージを除いて治療は行われていない 。さらに, 月以内のものとばらつきがある。また,以上の報告に “ non-arteritic ”群のなかで発症から7日以内に受診 はCRAOとBRAOとに分けて HBO2 の効果が検討さ した58 例の予後をみると,改善( 13 例:22%),不 れたものがない。このレビュー報告のなかで1つは後 変( 38 例:66%)さらに悪化( 7例:12%)とされてい ろ向き試験ではあるが,発症から8 時間以内にHBO2 る。CRAO の治療には眼球マッサージを除くと,前房 を行った35 症例( CRAO/BRAO:29 例 /6 例)と対照 穿刺,眼圧下降薬や混合ガス( 95% O2 + 5%CO2 ), 群をマッチさせた37 症例(CRAO/BRAO:31例 /6 例) さらに血栓溶解剤が用いられているが,現在でも標準 とを比較したものである。入院時と比較した退院時 1) の平均視力の改善率が良好であり( 82.9% vs. 29.7%, RAOに 高 気 圧 酸 素 治 療( hyperbaric oxygen p<0.00001),その平均視力には差がみられ( 0.2981 therapy;HBO2 )が用いられる根拠には,網膜の血 ( 6/20 )vs. 0.1308( 6/46 ), p<0.03 ), 視 力の改善 流支配と酸素供給の到達度にある。網膜外層に存在 度でも差があったとされている( 0.1957 vs. 0.0457, する視細胞は脈絡膜毛細血管に依存し,より内層の 9) p<0.01) 。さらに,発症から12 時間以内の CRAOを 治療は確立されてはいない 。 琉球大学医学部附属病院 〒 903-0215 沖縄県西原町上原 207 受領日/2015年 4月28日 受理日/2015年 6月2日 106 Ⅱ.治療結果 2015年6月30日 網膜動脈閉塞症( retinal artery occlusion ) 対象とした報告では,血液希釈療法にHBO2を併用し 最大の要因が網膜の脆弱性が指摘されている1,7 )。 た51例とHBO2を併用しなかった 29 例を比較検討し ており,HBO2 群では Snellen の評価法で 3 段階の改 Ⅴ.まとめ 善が得られ( p<0.001),この改善は 3ヶ月後も持続し RAO は緊急性を要する眼科疾患であり,物理的な ていたが( p=0.01),対照群では1 段階の改善も得ら 手法や薬物治療が試みられながらも有効性の確立が 10 ) れなかったとしている( p=0.23 ) 。同様に発症 4 時間 明らかではない。HBO2 は RAOに対して RCT での有 から12 時間の CRAO の21症例を対象とした検討でも 効性の確認はなされていないが,non-RCT での超急 11) 13症例に視力改善が確認されたとしている 。一方で, 性期を対象とした HBO2 の有効性を示唆する複数の BRAOを対象とした報告は5症例のみであり,全例 報告,さらに副作用がほとんどない治療法であること 12 ) にHBO2 後に何らかの視力改善が認められている 。 から,HBO2 は RAO の超急性期の治療法の1つとし しかし, 自 然 経 過 でみ た BRAO の 改 善 率 は 79 % て考えてもよいであろう。 3) ( 11/14 )との報告もあり ,HBO2 のBRAOに対する 参考文献 有効性は明らかではない。また一方で,RAOにおけ るHBO2 に関連した副作用の報告はない 8-10 ) 。 1 )Cugati S, Varma DD, Chen CS, Lee AW: Treatment options for central retinal artery occlusion. Curr Treat Options Neurol 2013; 15: 63-77. Ⅲ.プロトコール HBO2 の方法に定まったものはなく,治療圧も1.5 ~3.0ATAと幅がみられるが,最も広く用いられている 2 )M ason JO 3rd, Nixon PA, Albert MA Jr: Transluminal nd: YAG laser embolysis for branch retinal artery occlusion. Retina 2007; 27: 573-577. 治療パターンは 2.5ATAの 90 分間の HBO2を1~2 回 3 )Hayreh SS, Podhajsky PA, Zimmerman MB: Branch /日で数日間繰り返すものである 8 )。そのなかで HBO2 retinal artery occlusion: natural history of visual を超急性期に積極的に行う治療法は,発症 8 時間以 内を対象として2.8ATAで 90 分間の HBO2を3日間は 9) outcome. Ophthalmology 2009; 116: 1188-1194. 4 )L eavitt JA, Larson TA, Hodge DO, Gullerud RE: The incidence of central retinal artery occlusion in 日に2 回行い,その後は回数を少なくする治療法 , Olmsted County, Minnesota. Am J Ophthalmol 2011; あるいは発症 12 時間以内を対象としたものは 2.4ATA 152: 820-823. で 90 分間の HBO2を48 時間以内に 5 回を行った治療 法がある10 )。 5 )Hayreh SS, Zimmerman MB: Central retinal artery occlusion: visual outcome. Am J Ophthalmol 2005; 140: 376-391. 6 )Dollery CT, Bulpitt CJ: Oxygen supply to the retina Ⅳ.その他の臨床事項 from the retinal and choroidal circulations at normal この疾患に対して HBO2を除いた治療法で複数の RCTが報告されており,pentoxifylline(血流改善剤) で検討したものと,血液希釈に心臓病治療装置が行 a nd increa sed a rterial oxygen tensions. I nvest Ophthalmol 1969; 8: 588-594. 7 )三宅養三:末梢循環障害(眼科領域).日本高気圧環境 医学会雑誌 1997; 32: 75-81. われたものでは,この両者で網膜の血流改善は認め 8 )Murphy-Lavoie H, Butler F, Hagan C: Central retinal られても視力改善は得られていない 13 )。さらに血栓溶 artery occlusion treated with oxygen: a literature 解療法の有効性の検討では,組織プラスミノゲン活 review and treatment algorithm. Undersea Hyperb Med 性化因子( tPA )の静脈内投与におけるRCT での結 果は,その効果は示されていない 14 )。また,動脈内 の tPAの投与でも一般に行われている治療法と差が 15 ) 認められないだけではなく ,むしろ副作用の増強が 指摘されている16 )。その他の複数の治療法が試みられ ているが,それらの治療効果は明らかではなく,その 2012; 39: 943-953. 9 )B eira n I , G oldenb erg I , Ad ir Y, et a l: Ea rly hyperbaric oxygen therapy for retinal artery occlusion. Eur J Ophthalml 2001; 11: 345-350. 10 )Menzel-Svering J, Siekmann U, Weinberger A, et al: Early hyperbaric oxygen treatment for nonarteritic central retinal artery obstruction. Am J Ophthalmol 107 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 2012; 153: 454-459. 15 )S chumacher M, Schmidt D, Jurklies B, et al: 11 )Weinberger AW, Siekmann UP, Wolf S, Rossaint R, Central retinal a rter y occlusion: local intra- Kirchhof B, Schrage NF: Treatment of Acute Central arterial fibrinolysis versus conservative treatment, a Retinal Artery Occlusion( CRAO )by Hyperbaric multicenter randomized trial. Ophthalmology 2010; Oxygenation Therapy( HBO )--Pilot study with 21 117: 1367-1375. patients. Klin Monbl Augenheilkd. 2002; 219: 728734. 16 )S chumacher M, Schmidt D, Jurklies B, et al: Central retinal a rter y occlusion: local intra- 12 )Weiss JN: Hyperbaric oxygen treatment of retinal arterial fibrinolysis versus conservative treatment, a artery occlusion. Undersea Hyperb Med 2010; 37: multicenter randomized trial. Ophthalmology 2010; 167-172. 117: 1367-1375. 13 )Fraser SG, Adams W: Interventions for acute nonarteritic central retinal artery occlusion. Cochrane Database Syst Rev 2009; 1: CD001989. 14 )C hen CS, Lee AW, Campbell B, et al: Efficacy of intravenous tissue-type plasminogen activator in central retinal artery occlusion: report from a randomized, controlled trial. Stroke 2011; 42: 22292234. 108 Vol.50( 2 ), Jun, 2015 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 Vol.50( 3 ), Sep, 2015 【高気圧酸素治療エビデンスレポート】 イレウス(ileus) 小島 泰史* 1 ) 玉木 英樹 2 ) (*:学術委員会) 東京医科歯科大学医学部附属病院 高気圧治療部1) 玉木病院 外科・総合診療科2) Ⅰ.概略 って,別の医学用語とされるが,本論文では adynamic イレウスとは,腸内 容 物の肛 門 側への搬 送が腸 管の機械的または機能的原因により障害された病態 ( paralytic)ileus,mechanical intestinal obstruction 共にイレウスと記述する。 である。腸 管は拡 張して,腹 痛,腹部膨 満 感や腸 基礎研究では,イレウスの動物モデルで高気圧酸 内容 物の逆 流による嘔吐等の臨床症状を引き起こ 素治療( Hyperbaric oxygen therapy, HBO2 )の効果 す。器質的原因で腸管が閉塞された機械的イレウス を検討した研究が1950 年代から1970 年にかけて複 mechanical ileusと機 能 的イレウス functional ileus 数行われている 3 6 )。それらの大多数では,結果はイ に大別される(表1)。機械的イレウスのなかで,単純 レウスに対するHBO2の有効性を示唆したものである。 性イレウスの原因として腹腔内癒着が最も多い。手術 イレウスにHBO2 が用いられる根拠は,①高圧下での が必要な絞扼性イレウス以外は,イレウス管による減 腸管内容積の縮小による腸管血流改善に伴う浮腫の 圧,絶飲食による腸管安静,補液による脱水,電解 軽減( Boyle の法則),②血中酸素分圧上昇(溶存酸 1) - 質異常改善等の保存的治療が基本となる 。ここで, 素増加)による腸管浮腫改善による蠕動運動,吸収能 本論文で用いる医学用語の定義を示す。邦文ではイ の回復( Henry の法則),③酸素吸入による圧勾配の レウスと腸閉塞は同義で用いられることが殆どである 増加による腸管内窒素の吸収促進,④エンドトキシン が,英文では ileus は adynamic( paralytic)ileusを意 障害作用,bacterial translocation の抑制,が考えら 味し,intestinal obstructionは 何らか の mechanical れている 7 )。更に,Chen MJ et al.( 2012 年)は,ラッ な機序によって腸閉塞を起こす病態を意味する 2 )。よ トでの実験より,HBO2 が開腹後の腸癒着予防に有 表1 イレウスの分類と原因 効であることを報告している 8 )。開腹術施行したラット モデルを作製し,HBO2( 2.0ATA,60 分)が1回 /日 で,術直後から1 週間,2 週間,術後 1 週間から1 週 間,術後2週から2週間のプロトコールで行われている。 4 群のいずれも,対照群と比較して,有意に癒着形成 が減少していた( p<0.05)。 安蒜ら( 2009 年)によれば,イレウスに対して高 気圧環境が効果を示すことを臨床的に最初に発見し たのは Fontaine JA( 1879 年)であり,欧米でも古く は HBO2を麻痺性イレウス患者に適用しており,その 有用性を指摘した症例報告がある。その後 1977年に Loder REにより,HBO2 の腹腔内炎症性疾患を原因 とする麻痺性イレウス患者への有効性が紹介されてい る。しかしながら,この報告以降,この領域における 東京医科歯科大学医学部附属病院 高気圧治療部 〒113-8519 東京都文京区湯島1-5-45 受領日/2015年 8月19日 受理日/2015年 8月20日 146 イレウス( ileus ) HBOTによる治療に関係する欧米発の英文臨床論文 2) は発表されていない 。 った。このことより発症後 1 週以上経過していても (他 の保存的治療が無効であっても),HBO2 は癒着性イ レウスを改善させる可能性があると結論付けている。 Ⅱ.治療結果 瀧ら( 2005 年 )は 麻 痺 性 イレウス278 例 を対 象 イレウスで HBO2 の有効性を検討したランダム化比 較試験( RCT )は行われていない。 として後ろ向きに 検 討している12 )。110 例にHBO2 ( 2.5ATA,60 分)が最高 8 回施行され,腸蠕動運動 黒木ら( 2005 年)は,開腹手術歴有りの単純性癒 が回復するまでの期間(著効;1-2 回(日),有効; 着性イレウスを対象として,HBO2 の導入前後で治療 3-7 回(日),無効;8 回(日)以上及び手術例)で, 9) 効果をみている 。HBO2 (2.0ATA,60 分)が1回 /日, 対 照 群( 168 例 )と比 較している。HBO2 群 では著 イレウス状態が改善するまで施行された。HBO2 導入 効+有効が 84.5%に比し,対照群では 29%であった 前の 41例と導入後の119 例では待機手術の頻度は変 ( p<0.01)。 わりがなかったが( 5 例 /41例 vs. 14 例 /119 例),イ 比較対象は無いが,Ambiru S et al.( 2007年)は レウス管使用は HBO 導入後に少ないことが示されてい HBO2 が施行された術後麻痺性イレウスと腹部手術後 る( 16 例 /41例 vs. 10 例 /119 例)。イレウス解除まで の癒着性イレウスの 626 症例を後ろ向きに改善率を検 に要した日数は HBO2 導入後には平均 2.9日と,導入 討している13 )。麻痺性と癒着性イレウスはそれぞれ 92 前の3.3日より短縮傾向となった。統計学的検討の詳 %と85%であった。年齢別では,75 歳以上では麻痺 細は記載なく不明であった。 性イレウスは 97%( 35 例 /36 例),癒着性イレウスは Fukami Y et al.( 2014 年)は,術後の小腸癒着性 イレウスを対象として,HBO2 の導入前後(導入前;非 HBO2 群 142 例,導入後;HBO2 群 163 例)で治療 10 ) 81%( 42 例 /52 例)であり,75 歳以下でも同様の傾向 であったとしている。 機械的と機能的なイレウスを分けていないが,田中 効果をみている 。導入後は,HBO2( 2.0ATA,90 ら( 1990 年)は HBO2 施行された150 例を対照群 100 分)が入院後 24 時間以内に開始された。1回 /日,最 例と比較している14 )。HBO2 群では,HBO2 が1回 / 大 7 回(平均 3 回)でイレウス状態が改善するまで施行 日であり,連続 5 回施行された。HBO2 群の改善率は された。改善がない場合は long tube(イレウス管)挿 71.3%( 107例 /150 例)であり,対照群では 52%( 52 入,手術治療が行われた。HBO2 群の163 例中143 例 例 /100 例)であったが,両者間に有意差は無かった。 ( 87.7%)が long tube 減圧,手術無しに治療に成功 保存療法軽快後の再発率は HBO2 群では18.7%( 20 した。HBO2 群は非 HBO2 群に比し,経口摂取再開 例 /107例)であり,対照群では 32.7%( 17例 /52 例) 時期(平均 4.7日 vs. 6.5日; p=0.001),入院期間(平 であったが,両群間に有意差は無かった。ただし,本 均 10.3日 vs. 14.1日; p=0.001),が有意に短かった。 件の HBO2プロトコールは1.9ATAの30 分間と特殊で HBO2 導入後の手術率は 7.4%と,導入前 14.8%より ある。 有意に減少していた( p=0.037 )。 Ambiru S et al.( 2008 年)は HBO2 施行時期につ いて,685 例 879 回の癒着性イレウスから後ろ向きに 11 ) Ⅲ.プロトコール イレウスの HBO2 の方法に定まったものはなく,治 検討している 。発症後7日未満に減圧チューブのみ 療圧も2.0 -2.5ATA,治療時間も60 -90 分間と幅 の治療( Group Ⅰ),発症後7日未満にHBO2 単独及 がみられる。診断後早期から1回 /日で改善が見られ び HBO2 に減圧チューブ併用( Group Ⅱ),発症後7 るまで継続されることが多い。一方で,発症後 1 週以 日以上経過してからHBO2を施行( Group Ⅲ)の奏効 上経過していても,HBO2 は癒着性イレウスを改善さ 率はそれぞれ79.8%,85.9%,81.7%であり,Group Ⅰ, せる可能性があるとの報告もある11 )。治療回数では, Ⅱ間のみ有意差を認め( Group Ⅰ:79.8% vs. Group 岡田ら( 2000 年)は単純性術後癒着性イレウスで 6 回 Ⅱ:85.9%, OR 1.6, p<0.02 )他は有意差を認めなか までの HBO2 で約 90%の患者でイレウスを解除できて 147 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 おり,6 回の施行が1つの目安になることと手術すべき 15 ) 時期を失さないことの重要性を指摘している 。 Vol.50( 3 ), Sep, 2015 Society ),ECH M ( Europea n Com mittee for Hyperbaric Medicine ),ANZCA & ANZHMG ( Au st ra lia n a nd New Zea la nd College of Ⅳ.その他の臨床事項 Anaesthetists and Australian and New Zealand 有川ら( 1995 年)は,HBO2 前後での利尿・抗利尿 Hyperbaric Medicine Group of the South Pacific ホルモンの動態を対照群,イレウス著効群( HBO2 3 Underwater Medical Society(SPUMS))のいずれも 回以下で完全にイレウス症状緩解)で比較検討してい 適応とされていない。 16 ) る 。対照群( 10 例)では HBO2( 2.5ATA,60 分)1 回施行の前後で測定された。イレウス著効群( 10 例, Ⅴ.まとめ 全例麻痺性イレウス)では1回目の HBO2 前後に測定 国際的にみるとイレウスに対するHBO2 の有効性を された。イレウス著効群ではヒト心房性 Naポリペプタ 示す臨床研究は少なく,本邦からの報告結果が多くを イド( HANP),抗利尿ホルモン( ADH ),レニン活 占めている。これらの結果によれば,保存治療の成 性が対照群に比し有意に利尿側への変動を示し,イ 功率を高める(手術回避される),イレウス管無しの保 レウス時の水バランス改善に関わるものと考察されて 存治療につながる可能性があり,エビデンスレベルは いる。 高くないものの HBO2 の効果を支持したものが多い。 Kindwall1 & Whelan の textbookには, 経 鼻胃 管 を挿入されている患者は耳管開放が難しいと記載さ 今後はランダム化比較試験を中心とした本邦からの臨 床研究の報告が待たれる。 17 ) れており ,減 圧チューブ挿入中の HBO2 施行時に は耳抜き困難によるトラブルが生じやすことが考えら 参考文献 れるが,安蒜ら( 2007年)らは減圧チューブの存在に 1 )藤本一眞 : 腸閉塞,イレウス. In: 高久史麿,尾形悦郎, より中耳スクイーズの頻度は増加しないと報告してい る18 )。術後麻痺性ならびに癒着性イレウスを対象とし て,HBO2 単独とHBO2 に加えて減圧チューブ使用の 両者で中耳スクイーズの頻度が比較されている。HBO2 医学書院 . 2009: pp.503-505. 2 )安 蒜 聡,中田瑛浩,宮崎 勝 : 術後麻痺性イレウス及び 癒着性腸閉塞症に対する高気圧酸素治療 . 日本高気圧 環境・潜水医学会雑誌 2009; 44: 196-203. ( 2.0ATA,60 分)が1回 /日,5- 6 回 / 週 施 行され 3 )Cross FS, Wangensteen OH: The effect of increased た。小児では 5 例 /40 例( 12.5%),18 例 /217例( 8.3 atmospheric pressures on the viability of the bowel %) ( p=0.39 ), 成 人で は 31例 /358 例( 8.7 %),34 例 /432 例( 7.9%) ( p=0.66 )と,各群間に有意差は 無かった。 術 後 癒 着 性イレウス解 除 術 後に早 期 再 発 や 麻 痺性イレウスを起こすことがあるが,Ambiru S et al.( 2007年)は,自験例よりHBO2 が予防的効果を 有している可能性を示唆している19 )。術後 133 例中19 例に対して術後中央値 2日( 1-10日)より予防的に HBO2( 2.0ATA,60 分 )が1回 /日,5- 6 回 / 週 施 行された (治療回数の記載なし)。19 例中で早期再発, 麻痺性イレウス発症は0 例であったが,対照群 (114 例) では再発 35 例,麻痺性イレウス4 例を認めた(統計学 的有意差の記載なし)。 海外では,UHMS(Undersea & Hyperbaric Medical 148 黒川 清,矢崎義雄(監). 新臨床内科学 第 9 版 . 東京; wall and absorption of gas in closed loop obstructions. 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Hepatogastroenterology 2007; 54: 19251929. 149 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 Vol.50( 3 ), Sep, 2015 【高気圧酸素治療エビデンスレポート】 急性冠症候群(acute coronary syndrome) 合志 清隆* 1 ) 筒井 正人 2 ) (*:学術委員会) 琉球大学病院 高気圧治療部1) 琉球大学大学院 医学研究科 薬理学(元産業医科大学 第2内科)2) Ⅰ.概要 ACSでの心筋組 織の虚血状態の改善を目的とし 急 性 心 筋 虚 血 の な か で 急 性 冠 症 候 群( acute た 高 気 圧 酸 素 治 療( hyperbaric oxygen therapy; coronary syndrome; ACS)が 代 表 的なものになる HBO2 )は1958 年に動物実験で試され 5 ),ヒトでは が,ACSには急性心筋梗塞と不安定狭心症が含まれ 1964 年に最初の治療が行われている 6 )。HBO2 の有 る。厚生労働省発表の人口動態統計によれば 2013 年 効性を比較検討した最初のRCTが1973 年に示され 7), の1年間で心疾患の死亡者数は196,547人であり,死 その後に複数のRCTの結果が報告されている 8 )。しか 因別死亡数全体の15.5%を占めており,このうち急性 し,今日に至るまで HBO2 は ACS の1つの治療法とし 心筋梗塞が39,918人であり,その他の虚血性疾患が て定着しておらず,その大きな要因が重大な合併症の 1) 発生が十分に検討されていないことへの懸念である 8 )。 34,794人とされている 。 ACS の治療の1つが血栓溶解剤であり,心電図 ST 上昇型急性心筋梗塞の 58,600 例を対象としたランダ 特に重篤な不整脈が1人用治療装置内で生じた際の 対処法が問題となる。 ム化 比 較 試 験( RCT )のメタ解 析結果が1994 年に 出され,短期的な死亡率は保存療法の11.5%から同 治療での 9.6%に低下しており,その抑制効果は18% 2) これまでACSにHBO2 の効果をみた 6 つのRCTが ( p<0.00001)とされている 。血栓溶解剤の効果は発 8) 報告されている(対象総数:665 症例) 。そのなかで 症から治療開始までの時間に影響され,発症 12 時間 死亡率を検討した1973 年から2004 年までの 5つの 2) 以内で死亡率の抑制がみられている 。その後,経皮 RCTのメタ解析では,HBO2 が標準治療に付加され 的冠動脈インターベンション( percutaneous coronary た 287例のうち21例( 7.3%)の死亡に対して,標準治 intervenation; PCI )が導入され血栓溶解療法と併用 療のみの327例の対照群では 38 例( 11.6%)であり, されると,ACS の死亡率は 6%から3%と顕著な低下 HBO2 による死亡率の抑制がみられている( RR:0.58, 3) をみせている 。さらに,近年ではステント内再狭窄 95%CI: 0.36-0.92, p=0.02 )。さらに心原性ショック を防止する薬剤溶出性ステント(塗布薬剤:paclitaxel, の合併の有無では,この合併のある12 例で治療結果 sirolimus, dexamethasone, zotarolimusなど)の開発 に差はみられないが( RR: 0.61, 95% CI: 0.32-1.18, が進められ,従来のベアメタルステントとの比較で複 p=0.15),合 併のない 602 症例では HBO2 による死 合的な心臓イベントの抑制が示されているが,血栓症, 亡率の抑制が示されている( RR: 0.57, 95%CI: 0.33- 4) 急性心筋梗塞さらに死亡率の抑制は明らかではない 。 7) 0.98, p=0.004 ) 。 また,血栓溶解療法に無反応ないしPCI が困難な事 次いで,PCIに引き続いて HBO2を行った際の心臓 例には,緊急の冠動脈バイパス術が行われることもあ イベント(死亡,心筋梗塞の再発,緊急バイパス手術) り,発症から24~48 時間での死亡率は12~15%とさ の検討では,HBO2 群で 8カ月時点での発生抑制が 2) れている 。以上から現在のACS の基本的な治療は 9) 示されている (RR: 0.12, 95%CI: 0.02-0.85, p=0.03) 。 PCIと考えられる。 具体的には,死亡率では差はなかったが( 0 例 /24 例 琉球大学医学部附属病院 〒 903-0215 沖縄県西原町上原 207 受領日/2015年 8月19日 受理日/2015年 8月20日 150 Ⅱ.治療効果 急性冠症候群( acute coronary syndrome ) vs. 3 例 /37例),血管撮影で再狭窄の抑制( 0 例 /3 24 時間以内のACSを対象としたものでは,血栓溶解 例 vs. 7例 /8 例 , p<0.05),さらに狭心症の抑制( 1 療法の後に1回の HBO2( 2ATA, 60 分間)が行われて 例 /24 例 vs. 9 例 /37例 , p<0.05)が HBO2 群で示さ おり,平均した開始時間は発症から13 時間である11 )。 れている。また,血栓溶解療法とHBO2との併用で あるいは,血栓溶解療法,アスピリン,ヘパリンとニ 検討した RCT では rt-PAないしSTKとの併用で112 トログリセリンを投与して,早急にHBO2( 2ATA, 90 例を対象としており,併用治療群で死亡率,胸痛消失 分間)が1回のみ行われた報告もある10 )。その他に, の期間,CPKの変化と左室機能で良好な結果を示し 発症から3~10日で心電図ないし生化学的な変化のあ 10 ) ながらも有意には至っていない 。 不整脈の発生でみた RCTは1つであり,完全ブロ るACSを対象に,血栓溶解療法後に日に1回のHBO2 ( 1.3ATA,40 分間)を6日間続けたものがある13 )。 ック,心室細動と不全収縮の3 つの不整脈を重大な心 臓イベントとして総数 208 例で検討したものである7 )。 Ⅳ.その他の臨床事項 これは 2 時間の HBO2と1時間の大気圧での空気呼 心電図非 ST上昇型のACSを対象として,PCIと血 吸を交互に48 時間行なった103 例と,毎分 6L の酸素 小板蛋白 IIb/IIIa( GP IIb/IIIa )阻害薬を使用した を投与した対照群 105 例とを比較しているが,死亡率 結果では,死亡と心筋梗塞の抑制が示されている14 )。 に差はないものの不整脈の発生が HBO2 群で抑制さ さらに,発症 14日以内のACSを対象としたスタチンの れている( RR: 0.59, 95%CI: 0.39-0.89, p=0.01)。ま 検討では,4カ月での狭心症の抑制効果は示されたが, た,心筋逸脱酵素の CPK で検討した 2 つのRCT で 死亡と心筋梗塞さらに4カ月間での脳卒中の抑制は示 は,HBO2 から12 時間と24 時間後とで平均の差は されていない 15 )。また,ヘパリンのACSに対する効果 なかったが,最大値の抑制が示されている(平均 439 も明らかにされていない 16 )。 8,10,11 ) IUの低下, 95%CI: 839-148, p=0.005) 。一方 ACSでは酸素吸入を行うことは1970 年代から広く で心機能を比較した検討では,心エコーでの心収縮 行われていたが 5 ),低酸素血症を除けば標準的な酸 には差はみられていないが 12 ),左室駆出率をみた 2 つ 素投与を疑問視するか有害事象の可能性を懸念する のRCTのメタ解析ではHBO2の有効性が示されている 意見も出されている17 )。 10,11 ) (平均の差:5.5%, 95%CI: 2.2-8.8%, p=0.001) 。 以上の検討の他に在院日数を比較した RCTが1つあ り,HBO2 群での在院日数の短縮傾向はあったもの 10 ) の有意差には至っていない 。 Ⅴ.まとめ 急性心筋虚血のなかでACS の基本的な治療は PCI であり,これに引き続きHBO2を行い良好な治療結 HBO2 の有害事象が検討されており,中耳の気圧 果の報告もある 9 )。また,不整脈とHBO2を検討した 外傷と中枢神経の酸素中毒では差はみられていない RCTは1つであり,不整脈の発生が抑制されるとの結 ,閉所恐怖症は15%( 15 例 /103 例)にみら 果ではあるが 7 ),治療中の重大な有害事象への対処が 7) れている( RR: 31.6, 95%CI: 1.92-521, p=0.02 ) 。ま 懸念されている 8 )。ACSに対するHBO2 の治療効果 た,重大な不整脈の発生は HBO2 で抑制されると1つ を検討した RCTは 2007年以降では報告されておらず, が 7,9,10 ) 7) のRCT で示されているが ,その他では検討されてい 8) ない 。 これは ACS の基本的な治療が PCIへ移行した時期 と一致している 3,8 )。さらに近年,ACS への通常の酸 素吸入の効果が疑問視されており17 ),ACSに対する Ⅲ.プロトコール ACSに対するHBO2 の治療法は定まったものはな く,2〜3 絶対気圧( ATA )で 30~120 分間の治療で HBO2そのものを再検討する必要があると考えられる。 また,UHMSさらにECHM で は ACS は HBO2 の 適 応疾患には含まれていない。 あり,治療回数も1回のみから48 時間以内に16 回が 行われた RCTの報告がみられる 8 )。そのなかで発症 151 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 参考文献 1 )厚生労働省平成 25 年人口動態統計月報年計(概数)の 概況.http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/ geppo/nengai13/dl/gaikyou25.pdf 2 )M ega JL , Morrow DA: ST-elevation myocardial infarction: management. 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Eur Heart J 2013; 34: 1630-1635. 2015年9月30日 【高気圧酸素治療エビデンスレポート】 脳梗塞(ischemic stroke) 野原 敦*1) 合志 清隆*2) (*:学術委員会) 鈴鹿医療科学大学 医用工学部1) 琉球大学病院 高気圧治療部2) Ⅰ.概略 性の HBO2 は副作用もほとんどみられず,脳梗塞の治 わが国の2014 年の脳血管障害による死亡は約 11.4 療にHBO2 が行われてきた理由でもある。 万人であり,そのうち脳梗塞は 6.6 万人を占めている 1) 。2011年での脳血管障害の総患者数は123.5 万人と 2) Ⅱ.治療結果 されているが ,その発症率は明らかではない。脳梗 急性期の脳梗塞,なかでもアテローム血栓症脳梗 塞の病型は4つに分けられ,脳の細小動脈病変による 塞に対するHBO2 の治療効果を強く示唆したものは 「ラクナ梗塞」,比較的大きな動脈のアテローム硬化に Neubauerらの報告である7 )。彼らは急性期から慢性 よる「アテローム血栓性脳梗塞」,心臓に起因する「心 期にかけて122 例の脳血栓症(アテローム血栓性脳梗 原性脳塞栓症」と「その他の脳梗塞」とがある。本邦 塞)にHBO2 の有効性を検討している。そのなかで発 では「アテローム血栓性脳梗塞」が多いことが欧米と 症から4 時間以内にHBO2を開始した16 例と,同じ 異なるが,近年の脳梗塞の病型は欧米に類似した傾 程度の神経症状を有した同数例を対照として,同じ時 向を示している。 期で同一評価者が比較しているが,病院の在院日数 脳梗塞には様々な治療が試みられてきたが,現在 では発症 3 時間以内の組織プラスミノーゲン・アクチベ 3) ータ( rt-PA )静注療法が急性期治療の主体である 。 その後,発症 3~4.5 時間での脳梗塞に対する血栓溶 4) が HBO2 群で177日に対して対照群では 287日であり, 自宅復帰では前者15 名に対し後者で 6 名であったとさ れている。 しかし,2005 年にはCochrane Libraryから急性期 解療法の有効性も示されると ,わが国でも2012 年 9 の脳梗塞に対するHBO2 の治療効果を検討した3 件 月から使用可能な時間が延長されている。しかし,こ のRCTのメタ解析の結果が最初に出されている 8 )。総 の治療法の課題は,発症からの時間だけではなく患 数 106 例を対象としたもので,6カ月後の死亡率には 者側の病状でも使用に制限があり,さらにrt-PAによ 差はなく( RR: 0.61, 95%CI: 0.17-2.2, p=0.45),さら 5) る脳出血を含めた合併症が比較的高いことである 。 に身体機能の評価で15 の尺度指標のなかで HBO2 後 この血栓溶解療法の目的は,閉塞血管の再開通に に改善がみられたものは 2 指標のみであったとされて よる脳梗塞巣周囲で回復可能なペナンブラ領域の救 いる。ここで取り上げられている3 つのRCTを以下に 済にある。一方で,エネルギー代謝のほぼ全てを血 紹介する。 中グルコースの好気的解糖に依存している脳組織で 最初に,発症 2 週間以内の脳梗塞 39 症例を対象 は,脳血流低下に伴う酸素の予備能がより小さいとい とした RCT である 9 )。ここでは軽症例と発症から3 時 った特性があり 6 ),この理由から虚血性の脳血管障害 間以内に他の治療法で改善した症例は除外されてお には酸素療法なかでも高気圧酸素治療( hyperbaric り,さらにHBO2 の開始は平均して発症から51.8 時 oxygen therapy; HBO2 )が1960 年代から応用されて 間( 10~148 時間)である。その結果を4カ月後で比 いる。さらに,数多くの実験的研究は HBO2 の脳梗 較検討すると,神経状態では HBO2 群でより重症化 塞への有効性を支持したものである。また,低侵襲 の傾向( HBO2:34.5 ± 7.5 vs. 空気:25.6 ± 4.9, 鈴鹿医療科学大学 医用工学部 〒 510-0293 三重県鈴鹿市岸岡町 1001-1 受領日/2015年 8月19日 受理日/2015年 8月20日 153 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 Vol.50( 3 ), Sep, 2015 p=0.327 ),さらに梗塞巣の拡大の傾向( HBO2:49.2 NIHSS( National Institutes of Health Stroke)スコ ± 11.7 cm3 vs. 空気:29.0 ± 12.2cm3,p=0.25)が ア―で差がないが,このスコア―で 90日後には HBO2 示されている。 で 良 好 な 結 果 であり( p=0.045),modified Rankin 次いで,中大 脳動脈閉塞 34 例を対象とした RCT Scaleスコア―で「 0」と「 1」を示す良好な結果が併用 では,その半数が病型として心原性脳塞栓症であり, 治療群で19 例中 6 例であり,単独治療群では19 例中 発症 1時間以内の症状改善例は除外され,発症から 1例のみであり( p<0.05),この結果は HBO2 の併用 10 ) 19±2.7 時間後にHBO2 が開始されている 。1年後 効果を強く示唆したものである。 の治療予後の比較では,Orgogozo scaleでは HBO2 以上の急性期の脳梗塞ではなく,脳梗塞と脳出血 群で良好な結果であったが( 2 群間のポイントの差: の慢性期例を対象にしてクロスオーバー試験をRCTで 27.9 ± 10.8, 95%CI: 6.0-50.0, p<0.02 ),同評価で 行い,HBO2 の効果をみた報告がある14 )。74 例を対象 治療前後の比較では差はみられていない(2 群間の差: として2 か月間で40 回の HBO2を行った群と未治療群 16.8 ± 11.6, 95%CI: -6.9-40.4, p<0.16 )。 さらに, において NIHSS, ADL, life quality( EQ-SD, EQ- 同じ時点の機能障害の評価では HBO2 群で改善が示 VAS)を比較し,さらに未治療群で同様の HBO2を行 されている( HBO2 での平均の減少差:-2.2 ± 1.0, い比較検討したものである。この両群で HBO2 後には 95%CI: 0.2-4.2, p<0.03 )。 有意な機能改善が得られており,この改善は SPECT 最後に,発症から24 時間以内の33 症例を対象と 11 ) での脳血流検査の結果と相関していたとするもので, して HBO2 の治療 効 果が比 較されたものでは ,3 脳血管障害の慢性期例にもHBO2 の治療効果を示し か月の治療予後の評 価では HBO2 群 で悪 化してい ている。 た( NIHSS, 80% vs. 31.3%; p=0.04; Barthel Index, 81.8% vs. 50%; p=0.12; modified Rankin Scale, Ⅲ.プロトコール 81.8% vs. 31.3%; p=0.02; Glasgow Outcome Scale, 定まった HBO2 の方法はないが,急性期の脳梗塞 90.9% vs. 37.5%; p=0.01)。この対象症例には発症か の HBO2 に用いられる治療 圧は,他の疾 患のそれ ら3 時間以内は含まれておらず,12~24 時間経過した に比べて低いことが特徴である。例えば,Anderson 症例がともに10 例ずつである。 らは1.5ATAの1時 間 の HBO2 で 8 時 間 ごとに15 回 その後の2014 年にはCochrane Libraryからは急 を行っており 9 ),Nighoghossianらは 同 様 の 治 療 圧 性期の脳梗塞を対象とした11件のRCT で 705 症例が と40 分間の治療時間の HBO2を10 回行っている10 )。 検討されている12 )。6 か月後の死亡率には両群間で差 Neubauerらは 2ATAの1時 間 の HBO2を日に1回 を はなく( RR: 0.797, 95%CI: 0.34-2.75, p=0.96 ),神 連続して10日間おこない,その後に週 1回の治療を 経機能評価でも新たなものは紹介されていない。し 4 週間続けている7 )。また,Rusyniakらの治療 圧は かし,ここでの結論は11件のRCTのメタ解析からは 2.5ATAであるが,60 分 間 の1回 の み の HBO2を行 HBO2 が脳梗塞の急性期治療として死亡率を抑制す っている11 )。Edaravoneとの 併用を行った Imaiらは る事実は明らかではないとしながらも,HBO2 の有効 2ATAの 60 分間を日に1回を7日間行っている13 )。 性を否定するものではないとされ,2005 年に出された Ⅳ.その他の臨床事項 結論とは多少異なっている 8,12 )。 その1つの 理 由には HBO2 の 有 効 性を支 持 する RCTがみられることである。Imaiらは発症 48 時間以 Ca 拮抗剤と血液希釈法の有効性は認められていな 内の脳塞栓症の38 症例を対象として,フリーラジカル い 15〜17 )。 発 症 48 時 間 以 内のアスピリン服 用( 160- スカベンジャーの edaravone の単独治療群とHBO2 の 300mg)は6カ月間でみた脳梗塞の再発予防効果がある 13 ) 154 急性期の脳梗塞の治療として超音波血栓溶解療法, 併用群とで 90日後の治療予後を比較している 。入 18) ことが示されている(OR: 0.95, 95% CI: 0.91-0.99) 。 院時から7日までは両群間で神経機能評価法の1つの また,本邦で開発されたedaravoneを検討した3 つの 脳梗塞( ischemic stroke ) RCT から顕著な神経機能改善の患者比率が高いとさ 9 )Anderson DC, Bottini AG, Jagiella WM, Westphal B, れているが( RR: 1.99, 95% CI: 1.60-2.49 ),対象患 Ford S, Rockswold GL, Loewenson RB : A pilot study 者総数が少ないことも指摘されている19 )。 of hyperbaric oxygen in the treatment of human stroke. Stroke1991;22:1137-1142. 10 )Nighoghossian N, Trouillas P, Adeleine P, Salord F: まとめ Hyperbaric oxygen in the treatment of acute ischemic 脳梗塞の急性期治療として HBO2 の有効性は数多 くの動物実験で示されていながら,臨床例での治療 効果は明らかにされていない。その最大の理由が数時 間以内 (~6時間)に脳梗塞の予後が決まることであり, この治療可能な時間内での確立された治療法が血栓 3) 溶解療法である 。しかし,その血栓溶解療法の適応 外とされる大多数の脳梗塞,なかでもアテローム血栓 症脳梗塞に対して HBO2を考慮してもよいと考えられ る。さらに急性期の脳梗塞でedaravoneとの併用治療 stroke. A Double-blind study. Stroke.1995; 26: 13691372. 11 )R u s y n i a k D E , K i r k M A , M ay J D , K a o LW, Brizendine EJ, Welch JL, Cordell WH, Alonso RJ: Hyperbaric oxygen therapy in acute ischemic stroke results of the hyperbaric oxygen in acute ischemic stroke trial pilot study. Stroke 2003; 34: 571-574. 12 )B ennett MH, Weibel S, Wasiak J, Schnabel A, French C, Kranke P: Hyperbaric oxygen therapy for acute ischemic stroke. Cockrane Database sys Rev 2014; 11: CD004954 として HBO2を行ってもよいと判断されるが,この薬 13 )Imai K, Mori T, Izumoto H, Takabatake N, Kunieda 剤併用で HBO2 の効果を検討した臨床試験の実施が T, Watanabe M: Hyperbaric oxygen combined with 求められる 20 )。また,脳血管障害の慢性期例に対して もHBO2 の治療効果を示す RCTが出されているが 14 ), 更なるRCTの積み重ねが待たれる。 intravenous edaravone for treatment of acute embolic stroke: a pilot clinical trial. Neuro Med Chir 2006; 46: 373-378. 14 )Efrati S, Fishlev G, Bechor Y, Volkov O, Bergan J, Kliakhandler K, Kmiager I, Gal N, Fredman M, Ben- 参考文献 1 )厚 生労働省 平成 25 年 人口動 態 統計月報年計(概 数 )の概 況 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ jinkou/geppo/nengai13/index.html 2 )厚生労働省 平成 23 年 患者調査の概要 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/11/ index.html 3 )Wardlaw JM, Murray V, Berg E, del Zoppo GJ : Thrombolysis for acute ischemic stroke. Cockrane Database sys Rev 2014;7:CD000213 4 )Hacke W, Kaste M, Bluhmki E, et al: Thrombolysis with alteplase 3 to 4.5 hours after acute ischemic stroke. N Engl J Med 2008; 359: 1317-1329. 5 )The National Institute of Neurological Disorders and Stroke rt-PA Stroke Study Group. Tissue plasminogen activator for acute ischemic stroke. N Engl J Med 1995; 333: 1581-1587. 6 )Brooks DJ: The clinical role of PET in cerebrovascular disease. Neurosurg Rev 1991; 14: 91-96. 7 )Neubauer RA, End E: Hyperbaric oxygenation as an Adjunct therapy in strokes due to thrombosis. Stroke. 11( 3 ).297-300.1980 Jacob E, Golan H: Hyperbaric oxygen induces late neuroplasticity in post stroke patients-randomized , prospective trial. PloS ONE 2013; 8: e53716. 15 )Ricci S, Dinia L, Del Sette M, Anzola P, Mazzoli T, Cenciarelli S, Gandolfo C: Sonothrombolysis for acute ischaemic stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2012; 6: CD008348. 16 )Z hang J, Yang J, Zhang C, Jiang X, Zhou H, Liu M. Calcium antagonists for acute ischemic stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2012; 5: CD001928. 17 )C hang TS, Jensen MB: Haemodilution for acute ischaemic stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2014; 8: CD000103. 18 )Sandercock PA, Counsell C, Tseng MC, Cecconi E: Oral antiplatelet therapy for acute ischaemic stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2014; 3: CD000029. 19 )Feng S, Yang Q, Liu M, Li W, Yuan W, Zhang S, Wu B, Li J: Edaravone for acute ischaemic stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2011; 12: CD007230. 20 )H elms AK, Whelan HT, Torbey MT: Hyperbaric oxygen therapy of cerebral ischemia. Cerebrovasc Dis. 2005; 20: 417-426. 8 )Bennett MH, Wasiak J, Schnabel A, Kranke P, French C: Hyperbaric oxygen therapy for acute ischaemic stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2005; 3: CD004954. 155 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 Vol.50( 3 ), Sep, 2015 【高気圧酸素治療エビデンスレポート】 急性頭部外傷(脳浮腫) (acute traumatic brain injury) 野原 敦*1) 合志 清隆*2) (*:学術委員会) 鈴鹿医療科学大学 医用工学部1) 琉球大学病院 高気圧治療部2) Ⅰ.概略 外傷性脳損傷に高気圧酸素治療( hyperbaric oxygen 頭部外傷のなかでも外傷性脳損傷は,一時的また therapy, HBO2 )を行うことで,酸素代謝の改善と髄 は恒久的な脳障害であり,機能的ないし器質的な損 液中のlactate の抑制が示されている 9 )。また,外傷 傷を指している1 )。厚生労働省による2011年10月の調 性脳損傷の多くの事例では頭蓋内圧( ICP)が上昇し 査日における入院と外来患者に占める頭部外傷の総 ており,ICPの抑制の目的で HBO2 が応用されてきた 数は, 「外傷性硬膜下出血」 :8,100人と最も多く,脳 経緯もある。 実質損傷に関係する「びまん性脳損傷」は 3,400人, 「その他の頭 蓋内損傷」 :500人, 「頭 蓋内損傷,詳 2) 細不明」 :200人,などとある 。しかし,月間ないし 2012 年に更 新された Cochrane Libraryからの報 年間の実際の頭部外傷の発生患者数は明らかでは 告によれば,7 つのランダム化比較試験( RCT )が検 ない。一方で米国では,2002 年から2006 年までの 討されている(総数 571名で,HBO2 治療した 285 名 概算が報告されており,年間約 170万人が罹患して 4) と対照例 286 名) 。最初に,1カ月後の治療予後を おり,その内 5 万2 千人が死亡し,27 万 5 千人が入院 Glasgow Outcome Scale( GOS) ( 日常生 活 復 帰 か し,136.5 万人(約 80%)は救急部門で治療されてい ら死亡までの 5 段階の評価)で検討された結果では, る。米国における頭部外傷による死亡は,全外傷死 HBO2 の有効性が示されている( RR: 0.74, 95% CI: 3) の3 番目( 30.5%)とされており ,頭部外傷受傷後に 10,11 ) 0.61-0.88, p=0.001) 。しかし,長期的な神経機 生存している人口の2%が後遺症を示している 4 )。病態 能の予後では HBO2 による有効性を強く示唆されな 生理では,衝撃を受けた時の神経組織への不可逆的 がらも統計学的には有意には至っていない( RR: 0.71, な障害に加えて,脳浮腫や頭蓋内圧の亢進に伴う二 95% CI: 0.50-1.01, p=0.058 )10〜13 )。さらに,HBO2 次的な脳障害が生じる。さらに,興奮性神経伝達物 による神経機能の予後を治療圧の差でも検討されてい 質の刺激毒性レベルの放出とカルシウム恒常性の障害 るが,2.5ATAと1.5ATAとの両者で差はみられていな 4) などによる二次的な障害なども加わる 。 い( 2.5ATA, RR: 0.46, 95% CI: 0.14-1.58, 1.5ATA, 外傷性脳損傷の急性期における脳循環代謝での検 10〜13 ) 。次いで,死亡 RR: 0.84,95% CI: 0.57-1.24 ) 討では,脳虚血による嫌気的解糖であることが示され 率でみた治療予後の検討では,HBO2 による死亡の ており 5,6 ) ,このことが酸素療法の必要性を示唆する 抑制が示されており( RR: 0.69, 95% CI: 0.54-0.88, 根拠となっている。この脳虚血が引き起こされる病態 10,11,13,14 ) p=0.003 ) , この 結 果 は 7名に1人 が 頭 部 の1つには外傷性くも膜下出血の存在があり,その後 外傷による死亡を免れる結果を示していることを意 に引き起こされる脳血管攣縮が脳虚血に影響している 味する(必要患者数:7, 95% CI: 4-22 )。その1つで 7) とするものである 。嫌気的解糖の指標となるlactate RockswoldらのRCTは,1983 年から1989 年まで の は,大気圧下の酸素吸入で重症の外傷性脳損傷例の 166 名の急性頭部外傷患者を対象としており,12カ月 8) 脳実質で40%抑制されたと報告されている 。さらに, 鈴鹿医療科学大学 医用工学部 〒 510-0293 三重県鈴鹿市岸岡町 1001-1 受領日/2015年 8月19日 受理日/2015年 8月20日 156 Ⅱ.治療結果 後の死亡率は対照群の32%( 26 名/82 名)に対して 急性頭部外傷(脳浮腫) ( acute traumatic brain injury) HBO2 群で17%( 14 名/84 名)と顕著な差を認めてい 13 ) Ⅴ.まとめ る( P= 0.04 ) 。意識状態での評価では,15ポイン 外傷性脳損傷に対するHBO2 は治療予後を改善し トでみるGlasgow Coma Scale( GCS)において,平 ており,その因子の1つが HBO2 による死亡率の抑制 均差 2.68 ポイント( 95%CI: 1.84-3.52, p<0.0001)の にある。このことからHBO2 は重症例での救命効果と 改善が示されている 14,15 ) 。また,ICPの変化をみた 2 しての有効性は認められるが,重症例を除くとHBO2 つのRCT では,HBO2 によるICPの抑制効果が示さ による神経機能の改善は乏しいと考えられる。しかし, れ,その1つでは鼓膜切開を行うことで 8.2mmHg の低 外傷性脳損傷には HBO2を除くと有効な治療法が明 13 ) 下が示されている( 95%CI: 1.7-14.7mmHg, p=0.01) 。 らかではないことも事実である。以上から,この疾患 一方で副作用を検討した 2 つのRCT では,肺障害は への HBO2 は専門施設で重症例に限って行うべきと 対照群ではみられていないが HBO2 群で13%にみら 判断されるが,中等症での長期的な神経機能を検討 10,13 ) れたとされている( p=0.007 ) 。 した良質のRCTの報告が待たれる。 2013 年に報告された RCTは,GOSにて HBO2 に NBO2を加えた酸素治療群と通常の治療群とで 6カ月 参考文献 後の状態を比較している。ここでは HBO2を加えた治 1 )Willberger JE, Dupre DA: Traumatic brain injury. 療群で有意な死亡率の抑制がみられ( HBO2 群:3 例 In:The Merck Manual of Diagnosis and Therapy. 19th /19 例 vs. 対照群:9 例 /21例,p=0.0482 ),さらに 良好な神経機能も示されている( HBO2 群:14 例 /19 16 ) 例 vs. 対照群:8 例 /21例,p=0.0239 ) 。 Porter R,Kaplan JI eds. pp. 3218-3227. 2011. 2 )厚 生 労 働 省 平 成 23 年( 2011 )患 者 調 査 の 概 況. http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_ toGL08020101_&tstatCode=000001031167&requestS ender=dsearch 3 )Faul M, Xu L, Wald MM, Coronado VG: Traumatic Ⅲ.プロトコール 急性の外傷性脳損傷に用いられているHBO2 の治 療パターンに統一性はない。HBO2の酸素曝露の程度 brain injury in the united state. emergency department visits, hospitalizations and deaths 2002-2006. WWW. cdc.gov/TraumaticBrainInjury. March 2010. でいうと,1.5ATAの 60 分間の治療を日に1回を行う 4 )Bennett MH, Trytko B, Jonker B: Hyperbaric oxygen 方法から4日間で 2.5ATAの 40~60 分間の治療を10 therapy for the adjunctive treatment of traumatic 回行う方法までさまざまである11〜13 )。さらにHBO2 の 治療回数でみると3 回から30~40 回と幅がある12,13 )。 しかし,最近では HBO2( 1.5ATA,60 分間)に引き続 いて NBO2( 3 時間)を行う組み合わせを日に1回で 3 CD004609. 5 )Bergsneider M, Hovda DA, Shalmon E, et al: Cerebral hyperglycolysis following severe traumatic brain injury in humans: a positron emission tomography study. J Neurosurg 1997; 86: 241-251. 16 ) 回行う治療法も行われている 。 6 )M artin NA, Patwardhan RV, Alexander MJ, et al: Characterization of cerebral hemodynamic phases Ⅳ.その他の臨床事項 急性期の外傷性脳損傷に対するバルビツレート療 法,マグネシウムさらに軽度の低体 温療法( 35℃~ 37.5℃)の治療効果は否定的とされている brain injury. Cochrane Database Syst Rev 2012; 12: 17〜19 ) 。さら にステロイドの使用は死亡率が高まることが報告されて follow i ng s evere head t rau ma : hy p op er f u sion , hyperemia, and vasospasm. J Neurosurg 1997; 87: 9-19. 7 )Romner B, Bellner J, Kongstad P, Sjoholm H: Elevated transcranial Doppler flow velocities after severe head injury: cerebral vasospasm or hyperemia? J Neurosurg 1996; 85: 90-97. おり 20 ),重症例に対する減圧開頭術の有効性は小児 8 )M enzel M, Doppenberg EM, Zauner A, Soukup J, を除くと明らかではない 21 )また,脳損傷の1つである Reinert MM, Bullock R: Increased inspired oxygen 脳震盪の慢性期を対象として HBO2 の効果を検討し concentration as a factor in improved brain tissue た RCT では HBO2 の有効性は明らかではない 22 )。 oxygenation and tissue lactate levels after severe human head injury. J Neurosurg 2001; 91: 1-10. 157 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 9 )R ockswold SB, Rockswold GL, Vargo JM, et al: 16 )R ockswold SB, Rockswold GL, Zaun DA, Liu J : Effects of hyperbaric oxygenation therapy on cerebral A prospective, randomized Phase II clinical trial metabolism and intracranial pressure in severely brain to evaluate the effect of combined hyperbaric and injured patients. J Neurosurg 2001; 94: 403-411. normobaric hyperoxia on cerebral metabolism, 10 )A rtru F, Chacornac R, Deleuze R: Hyperbaric intracranial pressure, oxygen toxicity, and clinical oxygenation for severe head injuries. Preliminary out c o m e i n s ever e t rau m at ic bra i n i nju r y. J results of a controlled study. Eur Neurol 1976;14: Neurosurg 2013; 118:1317-1328. 310-318. 11 )H olbach KH, Wassmann H, Kolberg T: Improved reversibility of the traumatic midbrain syndrome using hyperbaric oxygen. Acta Neurochir( Wien ) 1974; 30: 247-256.( German ) 12 )Ren H, Wang W, Ge Z: Glasgow Coma Scale, brain 17 )R oberts I, Sydenham E: Barbiturates for acute traumatic brain injury. Cochrane Database Syst Rev 2012 ; 12: CD000033 18 )A rango MF, Bainbridge D. Magnesium for acute traumatic brain injury. Cochrane Database Syst Rev 2008 ; 4: CD005400. electric activity mapping and Glasgow Outcome Scale 19 )Saxena M, Andrews PJ, Cheng A, Deol K, Hammond after hyperbaric oxygen treatment of severe brain N: Modest cooling therapies( 35ºC to 37.5ºC )for injury. Chin J Traumatol 2001; 4: 239-241. traumatic brain injury. Cochrane Database Syst Rev 13 )Rockswold GL, Ford SE, Anderson DC, Bergman 2014; 8: CD006811. TA , S h e r m a n R E : R e s u lt s of a p r o s p e c t ive 20 )A lderson P1, Roberts I: Corticosteroids for acute randomized trial for treatment of severely brain- traumatic brain injury. Cochrane Database Syst Rev injured patients with hyperbaric oxygen. J Neurosurg 1992; 76: 929-934. 2005; 1: CD000196. 21 )Sahuquillo J, Arikan F: Decompressive craniectomy 14 )X ie Z, Zhuang M, Lin L, Xu H, Chen L, Hu L: for the treatment of refractory high intracranial Changes of plasma C-reactive protein in patients with pres su re in trau matic brain inju r y. Cochra ne craniocerebral injury before and after hyperbaric oxygenation: a randomly controlled study. Neural Regen Res 2007; 2: 314-317. Database Syst Rev 2006; 1: CD003983. 22 )Miller RS, Weaver LK, Brenner LA, et al: Effects of hyperbaric oxygen on symptoms and quality 15 )Mao JH, Sun ZS, Xiang Y: Observation of curative of life among service members with persistent effects of hyperbaric oxygen for treatment on severe postconcussion symptoms: a randomized clinical trial. craniocerebral injury. J Clin Neurol 2010; 23: 386- JAMA Intern Med 2015; 175: 43-52. 388. 158 Vol.50( 3 ), Sep, 2015
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