D12 Research Abstracts on Spatial Information Science CSIS DAYS 2015 選挙運動への近接性と投票行動との関連 福沢 愛 1,三浦 麻子 1,稲増 一憲 1,中村 早希 2 1 関西学院大学 社会心理学研究センター,2 関西学院大学 文学研究科 連絡先: <[email protected] > (1) 動機: 一般市民の政治への関心が低下している とされる現代において, 一般有権者の政治への 認識や, 投票に関する意思決定プロセスについ て,検証することの重要性が高まっている(稲増, 2015).その一環として, 候補者の選挙運動へ の接触が, 実際にその候補者への肯定的な印 象を高め, その候補者への投票行動を促すの か否かを検証することには, 価値があると考えら れる.本研究では,候補者が選挙運動を行った 地点と有権者の居住地との近接性が,候補者へ の印象や投票行動に及ぼす影響について検証 することを目的とする. (2) 方法: 2015 年 1 月に兵庫県赤穂市で行われた 首長選挙における 3 名の候補者(A,M,Y 氏)の うち,Y氏の選挙運動(1 月 11 日~17 日)に第四 著者が随行し, 位置情報と運動内容を記録した. また,同選挙における有権者を対象に, 調査を 行った.赤穂市選挙人名簿から,20~75 歳まで の男女を投票区を用いた 2 段階抽出法により無 作為抽出し,調査票を郵送した.有効回 答者数は 908 名(男性 442 名・女性 457 名・不明 9 名・平均年齢 55.50 歳・SD = 13.98・有効回収率 46.5%)であった.有権 者に対する調査票は,a) 政治への関心 や態度,b) 各候補者への態度・選挙運動 への接触の有無・投票行動,c) 個人特性 などを測定する項目によって構成されてい た.図 1 に,Y 氏の選挙運動と, Y 氏に投 票した有権者の居住地を示す. (3) 結果: ArcGIS10.2 を用いて,各有権者の 居住地と,候補者 Y 氏の選挙運動の位置 情報データ(31617 地点)との距離を測定し た.そして,有権者ごとの選挙運動への距 離の平均値を常用対数に変換し,その逆 数をとったものを,近接性の指標とした.す なわち,各有権者が,Y氏の選挙運動と, 平均的にどの程度近接していたかの指標 である.重回帰分析の結果,この近接性指 標と,Y氏への投票行動との間に有意な正 の関連が見られた.Y 氏への投票行動は 他に,Y 氏の選挙運動への接触の有無と いった変数とも,有意な関連を持っていた. すなわち,Y 氏の選挙運動と近接しており,Y 氏 の多くの選挙運動に接触していた有権者ほど,Y 氏に投票しているということが分かった. (4) 意義: 毎回行われることが当然となっている選挙 運動だが,その有用性について計量的に検討し た研究は政治学においても少ない.とくに実際の 選挙運動の位置情報を記録し, 有権者との距離 を直接計測して指標とする手法は, これまで使 われてこなかった.空間的な情報を説明変数とす ることにより,今後, 投票行動の規定因に関して, より詳細な検討が可能となると期待される. (5) 謝辞: 本研究の計画・実施にあたっては島田貴 仁氏(科学警察研究所),分析にあたっては ESRI ジャパン株式会社の大津留麻代氏, 久保 田優子氏の多大なるご助言とご協力を得た.ここ に感謝の意を表する. (6) 参考文献: 稲増一憲 (2015) 『政治を語るフレーム』.東京 大学出版会. 図 1: Y 氏の選挙運動と Y 氏への投票 - 62 -
© Copyright 2024 ExpyDoc