自助・共助視点からみた四国地方の地域防災に関する研究 地域計画情報学 1. 根石真也 研究の目的と背景 (1)背景 四国地方は、これまでに台風による洪水や土砂災害、沿岸域における高潮や津波 などの災害に見舞われている。また、過去に東南海・南海地震により大きな被害を受けて いる。今後においても同様の災害が起こると想定されており、一層の災害対策が必要と考 えられている。全国に先駆けて過疎化や高齢化が進展している四国地方では、今後 10 年 間で 12 万人の人口減少が生じる見込みである。実数としての高齢人口は少ないが、高齢 者比率は全国で最も高く、高齢化は、ほぼ全国の 10 年先を進む。一般に、高齢者や要介 護認定者あるいは重度の障害者などは、避難情報を的確に把握することが困難であり、避 難に時間を要するなど、個人では適切な避難行動が困難なことから、災害の犠牲になりや すいとされている。このような状況において、災害時に適切な避難行動を取るための支援 が必要な人、いわゆる災害時要援護者(以下、要援護者)の避難支援体制の整備が課題と なっている。行政や関係機関と地域住民の協力により、災害時に現実に機能する避難支援 体制の早急な確立が求められる。 (2)目的 本研究において提言する「自助・共助視点からの地域防災」は、重要なキーワー ドである。自助の主体は、個人または世帯である。自助による取り組みとしては、非常持 ち出し品の準備や住宅の耐震補強が上げられる。共助は自助と異なり、複数の主体の集合 体によって行われ、地域住民や市町村、ボランティア等による協働の取り組みとする。平 成 14 年版防災白書 1)において、それらの必要性が説かれており、避難活動の貢献度からも、 住民自らが災害から逃れて安全な場所に避難する自助や、互いに助け合う共助が災害対策 においても大変、重要なものと考えられる。そこで、本研究では要援護者の避難支援につ いて着目し、地域防災に効果的な避難支援体制の検討を目的とする。具体的には、平成 16 年の台風災害を事例に、四国地方の被災状況を調査し、現状の課題点を探る。これより, 自助・共助の促進策を考察し、減災に資することを目的とする。 2. 平成 16 年台風による被害状況 四国地方には 6 個の台風が上陸し、この年の最も強い 5% 4% 5% 台風 16 号は九州を縦断した後、日本海を進み、その強 11% い勢力に大潮の満潮時が重なり、瀬戸内海沿岸の香川県 と連続して四国を直撃し大きな被害を引き起こした。 図-1 は四国地方で台風災害により死亡した人の割合を 30代 40代 などで高潮被害は甚大なものとなった。土砂崩れなどに より、愛媛県でも大きな災害が発生し、後の台風 23 号 20代以下 50代 75% 60代以上 図-1 サンプル数55件 年代別の死亡件数 示す 2)。60 代以上が 75%を占めており、全国でも 61%が高齢者であった。このような状 況から内閣府は平成 16 年 10 月に「集中豪雨時における情報伝達及び高齢者等の避難支援 に関する検討会」を設置し、平成 17 年 3 月に検討報告を示すとともに「災害時要援護者 の避難支援ガイドライン」 3)において自助・共助体制、要援護者情報の共有、情報伝達体 制の整備等を取りまとめている。 3. 災害時の住民避難にみられる自助・共助の問題 住民が避難対策を行わない問題がある。図-2 は住民の 台風対策の有無を示し 4)、各年代ともに対策が行われて いない状況がある。基本的な理由は、災害時において自 89% 20代以下 30代 96% 40代 94% 78% 分の身の危険性を感じないことにある。また、防災に対 50代 して関心の低い住民が地域の防災活動に参加することは 60代以上 75% 0% 稀であり、更には、災害情報や支援を必要とする要援護 50% していない 者に対していかに情報を提供する機会を設けるか、検討 図-2 する必要がある。 10% している 100% サンプル数1412名 年代別の台風対の有無 1% すぐに従う 1% 一方,行政側では、適切なタイミングで避難勧告が伝 達されない場合が多いという基本的な問題もあるが、行 43% 21% 政が災害の発生を警戒して避難要請等の情報を伝達して いるのにもかかわらず、図-3 に示すとおり、住民が避難 していない状況が多く見られることから 従わない 4)、行政と住民 の持つ危機感の間に乖離があることも問題である。要援 しばらくして から従う 近所の様子 をみて従う 危険を感じ てから従う その他 24% 図-3 サンプル数1412名 避難要請の対応状況 護者の防災支援策は、県や市町村で決められる場合が多い。個人情報保護法が施行され、 プライバシー保護の意識が高まる中で、要援護者の把握とその支援が難しくなっている。 4. 結論と改善案 (1)共助システムの整備 地域や地区の特性、避難施設や自主防災組織などの状況に応じて、 精緻な避難計画を策定するための支援機能の開発やマニュアルの整備が求められる。 (2)要援護者情報の共有化 市町村を中心に避難支援体制の整備を進めるにあたって、要援 護者情報の収集・共有化が不可欠である。すでに共有化に取り組んでいる自治体において も、情報の有効活用にまで至っておらず 5)、現状のまま大規模災害が発生した場合は、せ っかく共有化した要援護者情報を活用できない恐れがあるため、支援体制の整備を含めて、 要援護者情報を活用できる体制を強化する必要がある。 (3)メールシステムの利用 要援護者や避難支援者への避難準備情報等の伝達のため、要援 護者の支援専用の通信手段の構築にメールシステム等の様々な手段を活用することが挙げ られる。携帯電話のメール機能は、高齢層ではあまり利用されていないが、聴取が困難な 者では多く利用されている 6)。こうした状況から聴覚障害者ではかなり高い割合でメール システムの活用が期待される。今後は、要援護者情報の共有化やメールシステムを効果的 に災害時に活用できる避難支援体制の策定をすることが課題である。 参考文献 1)内閣府中央防災会議:平成 14 年版防災白書, 2)内閣府防災情報:災害情報一覧, http://www.bousai.go.jp/hakusho/h14/index.htm, 2009.1 http://www.bousai.go.jp/saigaiinfo.html, 2009.1 3)内閣府防災情報:災害時要援護者の避難支援ガイドライン, http://www.bousai.go.jp/hinan_kentou/060328/index.html, 2009.1 4)TargetResearch:インターネットリサーチ,(株)エルゴ・ブレインズ, (http://reposen.jp/754/12/43.html, 2008.9) 5)神奈川県 2007 年度助成事業:災害時要援護者情報の共有化に関する自治体アンケート調査報告書, http://homepage1.nifty.com/clearinghouse/engo01.pdf, 2009.1 6)総務省消防庁:高齢者等災害時要援護者に適した消防用機械器具等に関する調査検討報告書, http://www.fdma.go.jp/html/new/kourei_saigaiji_kigu/kourei_saigaiji_kigu_00.pdf, 2009.1
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