円満な相続を実現するための 「遺言書」作成のポイント はじめに 昨今、テレビ番組や出版物、インターネットなどを通じて、日常生活における法律問題 を見聞きする機会が増えていることもあって、遺言書を書く人が増えています。 「遺言なんて、縁起でもない!」と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし現実に、 遺言がないために、遺産をどう分けるかで親族間にトラブルが生じることが少なくありま せん。この相続争いの防止が、遺言の大きな目的の一つです。 それ以外にも、例えば、次のような場合は、遺言をしておく必要があります。 ◇夫婦間に子がいない場合に、妻に全財産を相続させたい。 ◇同居して自分たちの世話を一生懸命にしてくれている息子の嫁や、かわいい孫にも遺 産の一部を贈りたい。 ◇経営する会社を継がせる長男に、自社株式等を確実に相続させたい。 ◇地域の社会福祉施設等に遺産の一部を寄附したい。 本書では、遺言の目的をはじめ、法律に定められた遺言の方式、遺言に関する留意点に ついて、記載例を交えて簡潔に解説しています。お役に立てれば幸いです。 目次 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 遺言の目的 Q 1:遺言の目的① —— 相続争いの未然防止 1 Q 2:遺言の目的② —— 相続人の状況等に応じた適切な遺産分割 2 Q 3:遺言の目的③ —— 相続人以外への遺贈 5 Q 4:遺言の目的④ —— 遺産分割協議の長期化による弊害の回避 6 遺言の方式 Q 5:遺言書の種類 8 Q 6:3 種類の遺言書の長所・短所 10 Q 7:有効な「自筆証書遺言書」作成のポイント 12 遺言に関する留意点 Q 8:遺言の内容変更・取消しは可能か 14 Q 9:会社経営の後継者への相続に関する留意点 15 Q10:相続人以外への遺贈に関する留意点 16 Q 11:生命保険金の受取人の変更は遺言で可能か 18 Q12:遺言執行者の選任 19 Ⅰ 遺言の目的 ★遺言の目的① —— 相続争いの未然防止 遺産をめぐって親族の間で争いが起こった、という話を耳にすることが ありますが、遺言はそういう争いを防ぐのに役に立つのでしょうか? 遺産の分割をめぐる相続人の間の争いごとを未然に防ぐことが、遺言(遺 言書の作成)の大きな目的の一つです。 遺言がない場合、遺産はいったん法定相続人全員の共有となり、その上で、遺産をどのよう に分割するかを相続人の間で協議することになります。そして、相続人全員の合意に基づく 「遺産分割協議書」を作成しなければなりません。 この遺産分割協議がスムーズにまとまればよいのですが、相続人それぞれの思惑や欲が衝突 し、遺産分割を家庭裁判所にゆだねるケースが少なくありません。それまで仲のよかった家族 たが が相続で争い、その後一生仲違いというのでは、亡くなった方も浮かばれないでしょう。 このような事態を防ぐために、各相続人の年齢や職業、生活状況、今後の行く末などを十分 に考慮した上で、誰にどの財産を相続させるかを明確にした遺言書をあらかじめ作成しておく ことをおすすめします。遺言書に遺産の分割方法が指定されている場合は、それに従うことに なり、相続人の間で遺産分割協議をする必要はなくなるからです。 また、遺言書は、相続争いの防止だけでなく、残された家族への愛情や感謝の気持ちを伝え る大事な手段ともいえるのです。 ちょっと一言 遺言書を作成する人が年々増加 遺言書の作成が相続対策として有効と考え、遺言書を作成する人が年々増加していることが、下掲の 「公正証書遺言の作成件数」からもわかります。 公正証書遺言の作成件数 [日本公証人連合会調べ] 件数(万件) 74,160 8 7 6 5 4 40,941 H1 H3 H5 H7 H9 H11 1 H13 H15 H17 H19(年度) Ⅱ 遺言の方式 ★遺言書の種類 遺言書には、定められた様式というものがあるのでしょうか? 遺言書は、民法に定められた遺言の方式に則って作成する必要があり、 各方式の要件を満たしていないと、遺言書の法的効力が認められない ことになります。 民法が定める「遺言の方式」は? 普 通 方 式 特 別 方 式 自筆証書遺言(民法 968) 臨終遺言 公正証書遺言(民法 969) 隔絶地遺言 秘密証書遺言(民法 970) 一般臨終遺言(民法 976) 遭難船臨終遺言(民法 979) 伝染病隔離者遺言(民法 977) 在船隔絶地遺言(民法 978) 普通方式の遺言書の作成方法は? 自筆証書遺言書 作成方法 公正証書遺言書 遺言者が、遺言書の全文・ ① 2 人以上の証人の立 日付(作成年月日) ・氏名 会いの下で、遺言者が を自書し、押印。 遺言の趣旨を口述し、 公証人が筆記。 ※ パソコンで作成したも ② それを公証人が、遺 の、ビデオ撮影、テープ 言者と証人に読み聞か 録音などは不可。 せる(又は閲覧させる) 。 ※ 証人は不要。 ③ 遺 言 者 及 び 証 人 が、 筆記が正確であること を承認後、各自、署名・ 押印。 ④ 公証人が、その遺言 書が定められた方式に よ る も の で あ る 旨 を 付記し、署名・押印。 秘密証書遺言書 ① 遺言者が、遺言書に 署名・押印後、遺言書 を封じ、同じ印で封印。 ② 遺言者が、公証人及 び 2 人以上の証人の前 に封書を提出し、自己 の遺言書である旨及び ※ その筆者の住所・氏名 を申述。 ③ 公証人が、遺言書の 提出日と上記②の申述 を封書に記載後、遺言 者及び証人とともに署 名・押印。 ※ 遺言者の代筆者がいる 場合は、その者の住所・ 氏名。 作成場所 自 由 原則として公証人役場 原則として公証人役場 家庭裁判所の検認 必 要 不 要 必 要 8 Ⅲ 遺言に関する留意点 ★遺言の内容変更・取消しは可能か 一度作成した遺言書の内容の変更、あるいは取消しはできるのでしょうか? 遺言書の内容変更・取消しは、いつでも可能です。 同一の遺言者が作成した遺言書が 2 通あり、それぞれの内容の一部が異なる場合は、作成年 月日の後のものが有効とされています。例えば、前の遺言書には「預金債権のすべてを長男に 相続させる」と書かれており、後の遺言書では「預金債権のすべてを次男に相続させる」と指 定されている場合は、預金債権は長男ではなく、次男に相続させることが遺言者の最終的な意 思とみなされます。 つまり、新たに遺言書を作成することによって、それ以前に作成した遺言書の内容を変更し、 または取り消すことができるということです。これについては、遺言書の種類が前と同じで あるかどうかは関係ありません。例えば、 「公正証書遺言書」を作成した後に、法的に有効な 「自筆証書遺言書」を作成することによって、前の「公正証書遺言書」の内容を変更すること も可能です。 ちょっと一言 遺言書の保管について 遺言書を作成しても、その遺言書が相続人らに発見されなければ、相続人による遺産分割協議が行わ れ、遺言者の意思が実現されないこととなってしまいます。 一方、特に自筆証書遺言書については、容易に発見できる場所に保管した場合、利害関係者による偽 造、変造の危険性が伴います。 ▪公正証書遺言書の場合は比較的リスクが少ない 公正証書遺言の場合、遺言書の原本が公証人役場に保管されるため、偽造、変造、紛失のリスクは避 けられます。また、相続人に遺言書の存在が知らされていなかった場合のために、被相続人の死後、全 国どこの公証人役場からでも公正証書遺言書の有無を検索できるようになっています。 ▪その他の遺言書の場合は十分な配慮が必要 自筆証書遺言書等を、遺言者の手元に保管する以外の方法としては、①貸金庫に保管する、②遺言執 行者に保管を委託する、③信託銀行等の遺言信託サービスを利用するなどの方法が考えられます(保管 場所を必要な者に知らせておく)。 14
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