国際会計士倫理基準審議会再公開草案 「違法行為への対応」に対する意見 平成 27 年9月 17 日 日本公認会計士協会 日本公認会計士協会(以下「当協会」という。)は、国際会計士倫理基準審議会(以下「IESBA」 という。 )が公表した再公開草案「違法行為への対応」に対して意見を述べる機会を頂き、 感謝しております。 当協会は、IESBA が 2012 年8月に公開草案「違法行為の疑いへの対応」を公表した後、 再度検討を重ね、公開草案に対する意見等で提起された様々な課題や懸念を踏まえて、今 般再公開草案が公表されたものと理解しています。具体的には、国際監査基準(ISA)250 「財務諸表監査における法令の検討」(以下「ISA250」という。)を基礎とした記載に変更 されていること、通報者の保護制度、身体的安全等への配慮がなされたことなど、改善が みられます。 しかしながら、違法行為又はその疑いへの対応は、財務諸表監査を実施する職業会計士 における独立性に関する規定とは異なり、阻害要因に対応するためのルールではなく、公 共の利益を踏まえ基本原則に従い行動すべきとの職業会計士における規範として、原則 ベース(プリンシプルベース)の規定であるべきと考えます。したがって、違法行為又は その疑いへの対応は、違法又はその疑いのある行為と知っていて看過しないこと、またそ の場合の対応に関し、基本原則である誠実性及び職業的専門家としての行動の原則を遵守 する上での指針(ガイダンス)であるべきと考えます。この点については、225.1 及び 360.1 において職業会計士に対して指針を提供することを目的としていると明記されているにも かかわらず、shall 等の文言を使用し要求事項が規定されている点が不整合となっています。 そのため、 要求事項において使用される shall 等の文言を使用すべきではないと考えます。 さらに、当協会は、以下の理由により、財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計事 務所等所属の職業会計士及び上級の職以外の企業等所属の職業会計士に対する規定の改訂 案に同意しません。 第一に、財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士が行う 業務は、クライアントのために行う特定の業務であり、当該職業会計士が従事した専門業 務の範囲を超えて情報の入手を行うことは実務的ではないと考えます。このため、当該職 業会計士が何らかの情報に気付いた場合であっても、それ以上の理解及び判断を行うこと に実務的には困難性があります。 第二に、上級の職以外の企業等所属の職業会計士は、自らの職務範囲、権限の範囲内で 1 会社のために職務遂行を行うことが求められているため、その職務範囲、権限を超えて情 報を入手することが極めて困難であると考えます。このため、当該職業会計士が何らかの 情報に気付いた場合であっても、それ以上の理解を行うことは実務的には困難であり、違 法行為又はその疑いへの対応に関して要求事項を規定しても実効性に乏しいと考えます。 したがって、財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士及 び上級の職以外の企業等所属の職業会計士に、違法行為又はその疑いへの対応を要求すべ きではないと考えます。 また、全てのカテゴリーの職業会計士について、職業会計士の専門性及び情報入手コス トの観点から、225.5(b)及び 360.5(b)の法規制の範囲を財務諸表に重要な影響を及ぼすも のに限定すべきと考えます。 IESBA が提起した個々の質問に対する当協会の回答は、以下のとおりです。 Ⅰ.特定の事項に関するコメントの要請 一般的事項 1.違法行為又はその疑いを適切な当局に通報する法規制がある場合、提案されている ガイダンスは、その法規制の実行及び適用をサポートすると考えるか。 (コメント) 前述した財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士及び 上級の職以外の企業等所属の職業会計士に対する規定に関する改訂案並びに他の箇所に 記載のコメントを除き、提案されているガイダンスは、法規制の遂行及び運用をサポー トすると考えます。 2.違法行為又はその疑いを適切な当局に通報する法規制がない場合、提案されている 事項は、職業会計士が置かれた状況において公共の利益のために行動する責任を果た すためのガイダンスとして有用であると考えるか。 (コメント) 前述した財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士及び 上級の職以外の企業等所属の職業会計士に対する規定に関する改訂案並びに他の箇所に 記載のコメントを除き、提案されている事項は、職業会計士が公共の利益のために行動 する責任を果たすのを手助けするのに有用であると考えます。 3.審議会は、作成者(統治責任者を含む。)、財務諸表利用者(規制当局及び投資家を 含む。 )及びその他の回答者から、提案されている事項に対する実務的な観点からのコ 2 メント、特に、以下の当事者間の関係に与える影響についてのコメントを求めている。 (a) 監査人と被監査会社 (b) その他の会計事務所等所属の職業会計士とそのクライアント (c) 企業等に所属の職業会計士と所属する組織 (コメント) 前述したように、違法行為又はその疑いへの対応は、財務諸表監査を実施する職業会 計士における独立性に関する規定とは異なり、阻害要因に対応するためのルールではな く、公共の利益を踏まえ基本原則に従い行動すべきとの職業会計士における規範として、 原則ベース(プリンシプルベース)の規定であるべきと考えます。したがって、違法行 為又はその疑いへの対応は、違法又はその疑いのある行為と知っていて看過しないこと、 またその場合の対応に関し、基本原則である誠実性及び職業的専門家としての行動の原 則を遵守する上での指針(ガイダンス)であるべきと考えます。この点については、225.1 及び 360.1 において職業会計士に対して指針を提供することを目的としていると明記さ れているにもかかわらず、shall 等の文言を使用し要求事項が規定されている点が不整合 となっています。そのため、要求事項において使用される shall 等の文言を使用すべき ではないと考えます。 さらに、当協会は、以下の理由により、財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計 事務所等所属の職業会計士及び上級の職以外の企業等所属の職業会計士に対する規定の 改訂案に同意しません。 第一に、財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士が行 う業務は、クライアントのために行う特定の業務であり、当該職業会計士が従事した専 門業務の範囲を超えて情報の入手を行うことは実務的ではないと考えます。このため、 当該職業会計士が何らかの情報に気付いた場合であっても、それ以上の理解及び判断を 行うことに実務的には困難性があります。また、財務諸表監査以外の専門業務を提供す る会計事務所等所属の職業会計士が単なる違法行為の疑いだけで当該規定に基づく対応 を行った場合で、結果として違法行為ではなかったときに、クライアントからの信頼を 失う可能性があるとの懸念があります。これに加え、ファーム内での体制に関しても懸 念があります。具体的には、ファームごとに財務諸表監査以外の専門業務を行う体制は 様々であり、特に日本においては、同一ファームではあるが別会社として当該業務を実 施しているケース1が少なくありません。この場合、別会社を含めてファーム全体におい て違法行為又はその疑いに対応するための情報収集及び厳格な情報管理体制などの仕組 みの構築が、ファーム内でのコミュニケーションの前提になると考えられます。しかし ながら、現時点でファームにおいて違法行為又はその疑いに対応するための体制を構築 1 倫理規則では、会計事務所又は監査法人と支配関係にある事業体は、別会社であっても、 “会計事務所等”と定義され、同一ファームとされている。 3 すべきことを定めた要求事項がないことから、個人の職業会計士のみにファーム内での コミュニケーションを要求したとしても、ファームにおいて当該仕組みが構築されてい ない場合には、実効性に乏しいと考えられます。これらのことから、ファーム内及びネッ トワーク・ファームとのコミュニケーション並びに外部監査人への開示を求めることは 職業会計士に過度な負担を強いるものと考えられます。 第二に、上級の職以外の企業等所属の職業会計士は、自らの職務範囲、権限の範囲内 で会社のために職務遂行を行うことが求められているため、その職務範囲、権限を超え て情報を入手することが極めて困難であると考えます。このため、当該職業会計士が何 らかの情報に気付いた場合であっても、それ以上の理解を行うことは実務的には困難で あり、違法行為又はその疑いへの対応に関して要求事項を規定しても実効性に乏しいと 考えます。また、単なる違法行為の疑いだけで当該規定に基づく対応を行った場合で、 結果として違法行為ではなかったときに、所属する組織から不当な人事上の扱いを受け る可能性があるとの懸念があります。 したがって、財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士 及び上級の職以外の企業等所属の職業会計士に、違法行為又はその疑いへの対応を要求 すべきではないと考えます。 特定の事項 4.提案されている全てのカテゴリーの職業会計士のなすべきことに同意するか。 (コメント) 前述したように、この違法行為又はその疑いへの対応を、財務諸表監査以外の専門業 務を提供する会計事務所等所属の職業会計士及び上級の職以外の企業等所属の職業会計 士に適用することについては反対ですが、財務諸表監査を実施する職業会計士及び上級 の職にある企業等所属の職業会計士に対して提案されている職業会計士のなすべきこと には同意します。 5.セクション 225 案及び 360 案が対象とする法規制の範囲に同意するか。 (コメント) セクション 225 案及び 360 案でカバーされる法規制の範囲には同意しません。 1.法規制の範囲が広すぎるため、職業会計士が理解することに困難性があると考えら れます。法規制の範囲について、次の点を明確にすべきと考えます。 ・ 特に 225.6 及び 360.6 におけるテロリストへの資金供与について、例えばテロリ スト関連の情報に気付いた場合に、会社が関与しているのか、又は 225.8 及び 360.8 4 で範囲外の事項として例示されている個人的な違法行為であるのかに関して情報を 入手することは非常に難しく、気が付いたとしても内容を理解し判断することは不 可能な場合があると考えられます。通常、テロの事例は個人的な違法行為であると 報道されていますが、組織的関与を示す情報がなければ個人的な違法行為として、 この規定の範囲外と考えてもよいのでしょうか。 ・ サイバーテロの理解に関しては、IT に関して通常の職業会計士の専門性を超えた 専門知識が必要と考えられるため、サイバーテロはこの規定の範囲外と考えてよい のでしょうか。 ・ 単なる職場での噂やインターネットにおける根拠のない書き込みや中傷は、この 規定の範囲外ということでよいのでしょうか。例えば、環境保護に関して汚染物が 流出しているのではないかとのインターネットへの中傷、公衆衛生・健康及び安全 に関して牛肉の代わりに豚肉が使われているのではないかとの興味本位の噂なども 対象となるのでしょうか。 特に、財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士及び上 級の職以外の企業等所属の職業会計士に関しては、単なる違法行為の疑いだけで当該規 定に基づく対応を行った場合で、結果として違法行為ではなかったときに、クライアン トや所属する組織からの信頼を失う可能性があるとの懸念があります。当該懸念やリス クを考慮すると確度の高い違法行為の疑いだけが対象であるべきですが、当該職業会計 士が従事した専門業務の範囲又は職務範囲・権限を超えて情報を入手することは、情報 入手コストに鑑みても実効性に欠けるとともに、入手すること自体、極めて困難である と考えられます。したがって、これらの職業会計士に対する法規制の範囲は、当該職業 会計士が従事した専門業務の範囲又は職務範囲・権限内に限定すべきと考えます。 これに関しては、225.14、225.37、360.15 及び 360.32 において、監査で要求されるも の、従事した専門業務で要求されるもの、及び所属する組織の中でその役割を果たす上 で要求されるものを超えた法規制の詳細な知識を有することまでは要求されていないと されています。しかし、ここで規定されているのは、あくまで知識に関する事項だけで す。 したがって、前述したように、この違法行為又はその疑いへの対応を、財務諸表監査 以外の専門業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士及び上級の職以外の企業等所 属の職業会計士に適用することについては反対ですが、仮に適用する場合であっても、 法規制の範囲及び職業会計士の対応において、知識だけではなく、当該職業会計士が従 事した専門業務の範囲又は職務範囲・権限内に限定することも明記すべきと考えます。 2. 前述したように、この違法行為又はその疑いへの対応を、財務諸表監査以外の専門 業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士及び上級の職以外の企業等所属の職業 5 会計士に適用することについては反対ですが、仮に適用する場合であっても、225.5 及 び 360.5 について、以下の視点からの修正が必要と考えます。 ・ 財務諸表に関連する事項については職業会計士の専門領域の範囲内ですが、経営 の根幹に係る事項であっても財務諸表に直接関係のない事項に関しては、専門能力 の観点から、セクション 225 案及び 360 案でカバーされる法規制の範囲に含めたと しても実効性に欠けると考えます。 ・ また、経営の根幹に係る事項の中で財務諸表に重要な影響がないと考えられる事 項については、特に情報入手のためのコスト(情報入手の困難性)の観点から、そ の範囲に含めたとしても実効性に欠けると考えます。 例えば、ISA 250 第 6 項(b)後段に、”- - - noncompliance with such laws and regulations may therefore have a material effect on the financial statements”と の規定があるため、当該文言を挿入し、ISA250 と同じ文言とすることを提案します。 3. 前述したように、この違法行為又はその疑いへの対応を、財務諸表監査以外の専門 業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士及び上級の職以外の企業等所属の職業 会計士に適用することについては反対ですが、仮に適用する場合であっても、225.11、 225.34、360.14 及び 360.31 について、以下の視点からの修正が必要と考えます。 ・ 財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士が行う業務 は、クライアントのために行う特定の業務であり、当該職業会計士が従事した専門業 務の範囲を超えて情報の入手を行うことは実務的ではないと考えます。このため、当 該職業会計士が何らかの情報に気付いた場合であっても、それ以上の理解及び判断を 行うことに実務的には困難性があると考えます。 ・ また、上級の職以外の企業等所属の職業会計士は、自らの職務範囲、権限の範囲 内で会社のために職務遂行を行うことが求められており、その職務範囲、権限を超 えて情報を入手することが極めて困難であると考えます。このため、当該職業会計 士が何らかの情報に気付いた場合であっても、それ以上の理解を行うことは実務的 には困難であり、違法行為又はその疑いへの対応に関して要求事項を規定しても実 効性に乏しいと考えます。 ・ 上記の他、財務諸表監査を実施する職業会計士及び上級の職にある企業等所属の 職業会計士のためにも、法規制の範囲に関する追加的なガイダンスが有用と考えま す。 し た が っ て 、“ becomes aware of information concerning an instance of non-compliance or suspected non-compliance with laws and regulations”に対す るガイダンスとして、現行の ISA250 の A13(公開草案では A12a 及び A13)に見合う規 定を挿入し、どのような場合が職業会計士の専門性に関するところであり、どのよう な場合に手続を実施するのかについてガイダンスを提供することが必要と考えます。 6 これにより、監査人に対するガイダンスの提供だけでなく、財務諸表監査以外の専門 業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士及び企業等所属の職業会計士に対して も有用なガイダンスを提供することが可能となります。 【現行の ISA250】 A13. If the auditor becomes aware of the existence of, or information about, the following matters, it may be an indication of non-compliance with laws and regulations: ・ Investigations by regulatory organizations and government departments or payment of fines or penalties. ・ Payments for unspecified services or loans to consultants, related parties, employees or government employees. ・ Sales commissions or agent’s fees that appear excessive in relation to those ordinarily paid by the entity or in its industry or to the services actually received. ・ Purchasing at prices significantly above or below market price. ・ Unusual payments in cash, purchases in the form of cashiers’ checks payable to bearer or transfers to numbered bank accounts. ・ Unusual transactions with companies registered in tax havens. ・ Payments for goods or services made other than to the country from which the goods or services originated. ・ Payments without proper exchange control documentation. ・ Existence of an information system which fails, whether by design or by accident, to provide an adequate audit trail or sufficient evidence. ・ Unauthorized transactions or improperly recorded transactions. ・ Adverse media comment. 【参考:監査基準委員会報告書 250】 A12. 監査人が、以下の事項が存在すること又は以下の事項に関する情報に気付いた場合、 それが違法行為の兆候となることがある。 ・ 規制当局や政府機関による調査の実施又は罰金若しくは課徴金の支払 ・ コンサルタント、関連当事者、従業員又は官公庁職員への詳細が不明なサービスに 対する支払又は貸付 ・ 企業や企業が属する産業における通常の支払額又は実際に提供されたサービスに比 して過度に多額の販売手数料又は代理店手数料 7 ・ 市場価格を著しく上回る価格又は下回る価格での購入 ・ 通例でない現金若しくは小切手による支払、又は匿名銀行口座への振込 ・ 租税回避地域に登記されている会社との通例でない取引 ・ 商品の原産国やサービスの提供国以外の国に対する対価の支払 ・ 適切な外国為替管理書類のない支払 ・ 意図的か偶然かを問わず、適切な監査証跡や十分な証拠を提供しない情報システム の存在 ・ 未承認又は適切な記録のない取引 ・ マスコミによる批判的な報道 4.上記の A13 に見合う規定を挿入する際の冒頭部分“If the auditor becomes aware of the existence of, or information about, the following matters, it may be an indication of non-compliance with laws and regulations:”の記載について、以下 の文言とすることを提案します。 a. 財務諸表監査を実施する職業会計士に対しては、「財務諸表監査を実施する職業会 計士が、通常の監査の範囲内で、以下の事項が存在すること又は以下の事項に関す る情報に気付いた場合、それが違法行為の兆候となることがある。」とすることを提 案します。 b. 前述したように、この違法行為又はその疑いへの対応を、財務諸表監査以外の専門 業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士に適用することについては反対です が、仮に適用する場合であっても、 財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計事 務所等所属の職業会計士に対しては、 「財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計 事務所等所属の職業会計士が、以下の事項が存在すること又は以下の事項に関する 情報に気付いた場合、それが違法行為の兆候となることがある。ただし、当該職業 会計士が従事した専門業務の範囲内で以下の事項が存在すること又は以下の事項に 関する情報に気付いた場合に限る。 」とすることを提案します。 c. 前述したように、この違法行為又はその疑いへの対応を、上級の職以外の企業等所 属の職業会計士に適用することについては反対ですが、仮に適用する場合であって も、企業等所属の職業会計士、すなわち、上級の職及びそれ以外のいずれに対して も、 「企業等所属の職業会計士が、以下の事項が存在すること又は以下の事項に関す る情報に気付いた場合、それが違法行為の兆候となることがある。ただし、所属す る組織における職務及び権限の範囲内で以下の事項が存在すること又は以下の事項 に関する情報に気付いた場合に限る。」とすることを提案します。 5.225.6 の法規制の例示の規定における「不正(Fraud)」との記載は、国際監査基準(ISA) 240「財務諸表監査における不正」における「不正」と同じ意味であるという理解でよ 8 いのでしょうか。IAASB から公開草案が公表され、ISA 250 において、225.6 と同じ文 言の法規制の例示の規定が提案されています。監査基準において「不正(Fraud)」と の文言が規定される場合、ISA 240 に従うものと考えられることから、225.6 において も ISA 240 の規定する「不正(Fraud)」と同じ意味であると解されます。そのため、 異なる意味で「不正」との文言を使用しているのであれば、異なる文言を使用すべき と考えます。 6.違法行為又はその疑いへの対応に関する4つのカテゴリーの職業会計士ごとに異な るアプローチについて同意するか。 (コメント) カテゴリーごとに異なるアプローチを適用することに関しては同意しますが、アプ ローチ自体に関しては以下の点で反対です。 冒頭に記載のとおり、財務諸表監査を実施する職業会計士に対する規定における ISA250 と整合させるべき規定以外は、あくまで指針としてのみ規定し、要求事項とすべ きではなく、shall 等の文言を使用すべきではないと考えます。また、前述したように、 財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士及び上級の職以 外の企業等所属の職業会計士に対する規定に関する改訂案に同意しません。 また、上記質問3及び5で記載した事項に関しても同意しません。 これに加え、以下の点について修正を求めます。 1.225.39(財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士) に関して、“shall communicate the matter within the firm”と規定されています。 同一クライアントに対して許容される複数の専門業務を提供する場合、財務諸表監査 以外の専門業務において入手した情報を同一ファーム内で共有することについては、 財務諸表監査の実効性を高める観点から理解できるところではありますが、次に述べ る懸念もあることから、慎重な対応が必要と考えます。 ① 225.35 で要求されている経営者や統治責任者等との協議との関係が明確ではない と考えます。225.39 は、経営者や統治責任者等との協議(225.35)の結果、経営者 等が適切な対応を行う、又は経営者が監査担当業務執行社員に説明することとなっ たにもかかわらず、会社の対応を斟酌することなく、全ての場合に一律に同一ファー ム内でコミュニケーションが必須であると規定されていると考えられます。しかし、 会社が適切に対応している場合、又は、会社が監査担当業務執行社員とコミュニケー ションする場合は、必ずしも同一ファーム内でのコミュニケーションを求める必要 がないと考えます。 ② ファーム内でのコミュニケーションがどのようなものか明確ではありませんが、 9 a. 直接監査担当業務執行社員とコミュニケーションを行う、b. ファーム内におけ る当該事項に関するコンサルテーションを行うための適切な部署とコミュニケー ションを行う、c. 同一ファーム内であるが別会社のコンサルティングファームにお いて業務を行っている場合で、当該コンサルティングファーム内の適切な部署とコ ミュニケーションを行う、又はコンサルティングのチームにおける上司にコミュニ ケーションを行う、など様々なコミュニケーションの方法が考えられます。いずれ の場合も、ファーム全体としての情報収集及び厳格な情報管理体制などの仕組みの 構築がコミュニケーションの前提になると考えられますが、国やファームによって 状況や体制は様々であることから、現時点において、全てのファームにおいて適切 な情報収集及び厳格な情報管理体制などの仕組みが確保されているかどうかに懸念 があります。また、ファームにおいて違法行為又はその疑いに対応するための情報 収集及び厳格な情報管理体制などの仕組みの構築を行うべきことを定めた要求事項 がないことから、個人の職業会計士のみにファーム内でのコミュニケーションを要 求したとしても、ファームにおいてこのような体制がない場合には、実効性に乏し いと考えられます。 したがって、前述したように、この違法行為又はその疑いへの対応を、財務諸表監 査以外の専門業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士に適用することについて は反対ですが、仮に適用する場合であっても、ファームにおける情報収集及び厳格な 情報管理体制などの仕組みの構築が義務付けられていない現在の状況においては、 “shall consider to communicate the matter within the firm”とすべきと考えま す。 2.前述したように、この違法行為又はその疑いへの対応を、財務諸表監査以外の専門 業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士に適用することについては反対ですが、 仮に適用する場合であっても、225.44(財務諸表監査以外の専門業務を提供する会計 事務所等所属の職業会計士)に関して、外部の者への通報の検討に当たっての考慮す べき要因に、財務諸表監査を実施する職業会計士に対する規定である 225.27 に記載の 以下の文章を追加すべきと考えます。当該規定は、財務諸表監査以外の専門業務を提 供する会計事務所等所属の職業会計士においても考慮すべき事項と考えられるためで す。 【225.27 から抜粋】 通報を行うかどうかの判断は、以下のような外的要因にもよるものと考えられる。 · 情報を受領でき、問題となる事項を調査し、対応策を講じることができる適切 な当局があるか。 · 内部通報制度のような法規制によって設けられた、民事責任、刑事責任、職業 10 的専門家としての責任や報復に対する堅牢かつ信頼のおける保護があるか。 · 職業会計士や他の者の身体的安全を脅かす実際の又は潜在的な脅威があるか。 3.上記2に関して、外部監査人に通報する場合、通報者の保護及び外部監査人におい て厳格な情報管理体制が構築されているかどうかについても検討要因に加える必要が あると考えます。特に管轄地域が異なる場合は留意が必要と考えます。 4.上記3におけるコメントは企業等所属の職業会計士における対応においても同様で あり、誰に報告すべきか、又は内部通報制度を利用するかどうかの判断に当たっては、 通報者の保護及び社内における情報管理体制の有無について考慮事項として記載すべ きと考えます。 5.360.12 において、上級の職にある企業等所属の職業会計士の責任が規定されていま すが、上級の職に該当するかどうかについては、各管轄地域における法令、組織構造、 ガバナンス等も影響すると考えられるため、 「各管轄地域における法令、組織構造、ガ バナンス等を考慮する」旨も追加記載する必要があると考えます。 6.360.11 において、企業等所属の職業会計士は、問題となる事項に対処する方法を決 定する際に、所属する組織内に整備された対応手順や手続など(例えば倫理規程)を 考慮しなければならないとされています。しかし、付録1において、上級の職以外の 職業会計士については、 「違法行為又はその疑いを直属の又はその次の上位者に報告す る」又は「企業内部の通報制度を利用する」ことが基本線とされ、どちらでも選択可 能なように並列的に記載されています。 ・ 360.11 について、例えば「倫理規程」の後に、「及び内部通報制度」を追加すべき と考えます。 ・ 360.33 では、 「違法行為が起こった、又は起こる可能性があると疑う場合、職業会 計士は、360.11 に従って、直属の上司が適切な対応策を講じることができるように、 当該事項を報告しなければならない。」と規定されており、どちらでも選択可能で あるとは理解できません。したがって、仮に、上級の職以外の企業等所属の職業会 計士について規定を残す場合には、以下の文言に変更すべきと考えます。なお、 360.11 へのリファーは不要であるので、削除した方が望ましいと考えます。 「違法行為が起こった、又は起こる可能性があると疑う場合、職業会計士は、 直属の上司が適切な対応策を講じることができるように、当該事項を報告する か、又は、360.11 に従って、企業内部の通報制度を利用しなければならない。」 7.上記6に関連して、上級の職にある企業等所属の職業会計士においても、所属する 11 組織のガバナンス、組織形態、企業文化等によっては、情報の入手可能性や対応に関 して困難性がある場合があることから、企業内部の通報制度の利用を並列的な選択肢 として認めるべきであると考えます。 なお、付録1において、上級の職にある企業等所属の職業会計士に対しては、選択 肢として企業内部の通報制度の利用の記載がないにもかかわらず、360.16 においても 360.33 と同様に 360.11 にリファーされており、この文言が理解できません。もし、上 記のように企業内部の通報制度の利用を並列的な選択肢として認めるということであ れば、360.33 と 360.16 が整合することとなります。 7.監査人及び上級の職にある企業等所属の職業会計士に関して、 (a) 重大な損害が生じるであろうことに関する確かな証拠に関する判断基準を含め、 追加的対応策の必要性とその内容及び程度を判断する際に考慮すべき要因に同意す るか。 (b) 追加的対応策の必要性とその内容及び程度の決定に関し、第三者テストを課する ことに同意するか。 (c) 実行し得る追加的対応策の例示に同意するか。個別に記載すべきその他の実行し 得る追加的対応策はあるか。 (d) 当該事項を適切な当局に通報すべきかどうかを判断するに当たって考慮すべき要 因の項目を支持するか。 (コメント) (a) 同意します。 (b) 同意します。 (c) 同意します。また、他の考えられる追加的対応策はないと考えます。 (d) 支持します。 8.クライアントがネットワーク・ファームの監査クライアントでもある場合に、当該 事項についてネットワーク・ファームとコミュニケーションすることに関して、監査 以外の業務を提供する会計事務所等所属の職業会計士に対する義務のレベルに同意す るか。 (コメント) 前述したように、この違法行為又はその疑いへの対応を、財務諸表監査以外の専門業 務を提供する会計事務所等所属の職業会計士に適用することについては反対です。 12 9.4つのカテゴリーの職業会計士に関する文書化のアプローチに同意するか。 (コメント) 前述したように、この違法行為又はその疑いへの対応を、財務諸表監査以外の専門業 務を提供する会計事務所等所属の職業会計士及び上級の職以外の企業等所属の職業会計 士に適用することについては反対ですが、それ以外の職業会計士に対する文書化のアプ ローチについては同意します。 ただし、225.31 では ISA の文書化に関する規定を具体的に記載していますが、これを あえて倫理規程において記載する必要性は乏しく、単に監査人は ISA の文書化要求に従 う必要があることのみを規定すればよいと考えます。したがって、225.31 の規定は削除 し、225.32 について、 「職業会計士は、ISA に基づき文書化の要求事項に従わなければな らない。これに加え、違法行為又はその疑いが重要であると結論付ける場合には、以下 の事項を文書化しなければならない。」と修正すべきであると考えます。 また、以下の検討が必要と考えます。 IAASB の ISA250 公開草案において、監査人は倫理規程に従う旨(8a 項)及び 225.6 と 同じ文言の法規制の例示の規定(A5a 項)が提案されていることから、監査意見の表明を 目的とした財務諸表監査における文書化において、IESBA 再公開草案の提案事項がどのよ うな影響を与えるのかについて、IAASB において十分な検討が必要であると考えます。 Ⅱ.全般的なコメントの要請 (a) パブリックセクターで働く企業等所属の職業会計士-審議会は、多数の企業等所属 の職業会計士が公共セクターで働いていることを認識しており、改訂案について、特 に公共セクターの環境においての適用可能性に関するコメントを当事者に求めてい る。 (コメント) 世界の職業会計士の半分以上が企業等所属の職業会計士であるとの見解がありますが、 これに比し、日本においては企業等所属の職業会計士は少ない状況です。また、日本に おいては、公共セクターに勤務している企業等所属の職業会計士は、さらに少ない状況 です。当協会は、公共セクター勤務の企業等所属の職業会計士からの情報を入手してい ないため、コメントを控えます。 (b) 途上国-審議会は、多数の途上国が倫理規程を採用している、又はアドプションの 過程にあることを認識しており、改訂案について、特に途上国の環境で改訂案を適用 する際の予測しうる困難について、これらの国から回答を求める。 (コメント) 該当しません。 13 (c) 翻訳-審議会は、多数の回答者が自身の環境において導入するために、最終公表物 の翻訳を想定していることを認識しており、回答者が改訂案をレビューしている際に 気づくかもしれない、翻訳に係る潜在的な問題に関するコメントを歓迎する。 (コメント) 我が国は英語を公用語としていないことから、日本語への翻訳が不可欠であり、倫理 規程で使用される文言については、翻訳可能かどうか、及び、翻訳が適切に行える文言 となっているかどうかなどの観点で注視しています。したがって、冗長な文章は避け、 より分かりやすい文言を用いることを要望いたします。 例えば、225.14、225.37、360.15 及び 360.32 において“not expected”と記載されて いますが、 “not required”との実質的な意味の違いが分かりません。 また、225.4 において、“what constitutes the public interest”と記載されていま すが、どのような日本語とすべきかが難しい英語表現となっています。当該規定は、公 共の利益のために行動する際の考慮要因を示したものであると理解していますが、仮に そうであれば、趣旨が明確になるように、「公共の利益のために、違法行為又はその疑い への対応に関して考慮すべき要因は以下のとおりである。 」などの文言への変更を提案し ます。 〇 その他のコメント セクション 360 の 360.13 及び 360.30 において各カテゴリーに適用される項が明記 されていますが、セクション 225 においては、そのような各カテゴリーに適用される 項が明記されていません。整合性の観点から、セクション 225 及び 360 の体裁を同じ にすることが望ましいと考えます。 以上のコメントが、IESBA での検討の一助となれば幸いです。 以 14 上
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