離島発展の手段としての基地誘致

離島発展の手段としての基地誘致
理工学研究科 M1 若林佑樹
1.要約
2015 年 1 月の実習にて中ノ島を訪れた。この時に伺った話では、通常反対の多い米軍
基地に関して誘致に賛成する人々がいるということを知った。そこで本稿にて米軍基地誘
致のメリットとデメリットについてまとめた。メリットとしては経済発展の可能性がある
が、その反面付近の住民の安全性、環境汚染といったデメリットも存在する。これを総合
して考えると、基地誘致というのは持続的発展の手段としてはあまり相応しくないと私は
考えた。
2.はじめに
2015 年 1 月 16 日から 18 日の離島実習で中ノ島を訪れた。この実習を通して私は島民
の方の話を色々と聞くことが出来、中之島という島での生活の一部を知ることが出来た。
何よりも印象的だったのは、本土に住んでいては考えられないような厳しい生活条件が離
島では存在しうるのである、ということだった。例えを上げるなら、確実に食材が手に入
る環境が常にあるわけではないこと、医師が常駐していないことから必ずしも島内で治療
が受けられるわけではないということである。では、このような状況下にある離島が、持
続的に発展していくためにはどうしたらいいのだろうか。
島民の方の話を伺った中に、米軍基地の誘致の話が登場した。ニュースなどでは、基地
の移設反対、軍関係者による事件などが報道され、米軍基地の存在に対してマイナスなイ
メージあるいは意見が多く見られる。しかし、今回島民の方の話を伺った際これとはまっ
たく逆の、むしろ誘致に賛成という意見も登場した。
そこで本稿では、米軍の基地の存在がもたらすメリット・ デメリットを改めてまとめた
上で、離島発展の手段としてはどう評価できるかを考えていく。
3.米軍基地のメリット・デメリットについて
ここでは、米軍基地があることによるメリット・ デメリットについて見ていく。まず、
メリットとして挙げられるのは主に次の 2 つである。1) 経済効果、2) 医療の提供である。
ひとつ目の経済効果については、米軍による民間人の雇用、借地料や個人消費によるお
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金の流入が挙げられる。米軍基地を擁する沖縄県の例をみると、米軍の民間人雇用数は平
成 25 年の段階で 8942 名となっていて、県内では 2 番目の雇用主となっている。このよう
に、米軍がいることが新しい雇用の創出につながっている。また、軍関係による借地料・ 個
人消費によりお金が流入する。沖縄県の例を挙げると、現在 3 万 4 千人以上の人が軍用地
として土地を提供している。この土地の使用料として平成 24 年度に支払われた借地料は
950 億円以上となった。また、個人消費の面については、同じく沖縄では 3000 人以上の
軍人・ 軍属が民間地域に住んでおり、平成 22 年度に支払われた家賃・ 光熱費は総額 10 億
円以上にのぼる。以上のように、米軍基地があることにより雇用の創出・ 消費が増えてい
るのである。
ふたつ目の効果としては、医療の提供がある。現在離島の中には医師が常駐していない
場所も存在している。このような島においては、処置のできない患者が出た際にはドクタ
ーヘリ、もしくは自衛隊機による搬送が行われるが、どちらの関しても多くの時間が掛か
ってしまうのが難点である。このような中、米軍では医療の無償提供が頻繁に行われてい
る。医療技術の乏しい国での例を見ると、乳児の健康診断・ 手術指導といった形で医療が
提供されている場合もある。このように、米軍が駐留している場所においては医療技術も
提供することが出来るため、医師が不在であるような場合でも処置を受けることが十分に
可能である。
では今度は、デメリットについて見ていく。米軍基地があることにより生じるデメリッ
トとしては次の 2 つが挙げられる。1) 米軍機に関する問題 2) 環境への問題である。
ひとつ目の米軍機の問題では、墜落事故・ 騒音問題といった点が挙げられる。まず、墜
落事故の問題に関して沖縄での事例を見てみる。沖縄では、米軍機の墜落という事故が幾
度も発生している。これによる直接的な人および物への被害が出るのは明らかであること
に加え、原因究明が十分に行われないまま事故機と同型の航空機を用いた飛行訓練が行わ
れるといった米軍への不信感を抱かせる部分も見られる。また、航空機の発する騒音は付
近の住民の生活に影響を与えている。これは神奈川の学校での例であるが、米軍機の騒音
により窓を閉めたままにしなければ授業が出来ないという状況が発生している。このよう
に米軍基地が付近にある場合でも安全への配慮が十分になされておらず、地域住民への影
響が少なからず出ているというのが現状である。
また、ふたつ目の問題として挙げられるのが環境への影響である。先に述べた米軍機の
墜落により、墜落現場の土壌が汚染されるという事態が発生している。航空機の墜落現場
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の土壌からは、ヒ素、カドミウムといった有害物質や油といったものが検出された。この
ような環境への負荷に加え、事故発生から半年経ってようやく対応がなされるという対応
の遅さ、搬送先が不透明なまま汚染土壌の運搬作業が行われる、といった問題点も浮上し
ている。また、米軍による実弾射撃訓練により山火事が発生するという事態も起こってい
る。これにより、木材資源の喪失、環境破壊につながっている。このような事態が頻繁に
生じるとすると、環境への負荷は決して少なくない上、住民の安全も脅かされることとな
る。
これまで見てきたように、米軍基地があることにより経済的な効果はあるものの、それ
と引き換えに住民の安全面や生活面で問題が生じるということが分かった。
4.考察
これまで、米軍基地があることによるメリットとデメリットを見てきた。ここでは、米
軍基地の誘致が離島の持続的発展の手段としてどう評価できるかを考えていく。
まず、米軍基地の誘致をした際のメリットとして考えられるのは経済効果である。例と
しては米軍が雇用主となる新しい就職先の創出、土地を貸すことによる借地料の収入など
があげられる。米軍雇用の職業が、それまでの農業・ 漁業よりも初期投資が少なくて済む
場合、I ターンなどで島に入ってくる人も職を得やすいという点で、人口増加を促しやす
い。また、借地として土地を米軍に貸すことにより、地主には借地料による収入増の可能
性が見込まれる。しかし、その島の形態として基地に依存するような形になってしまうの
だけは避けなければならない。収入源を基地に関連するものに一本化してしまうと、米軍
が撤収した際にその島は大きな経済的打撃を受けることとなってしまう。例えを挙げるな
ら、大規模な失業、大きな収入減である。これでは持続的発展は見込めない。
また、島民の方から話を伺った中に、安全であるから島での生活を選んだと言う方もい
た。米軍基地を誘致することにより経済の発展・ 医療分野の拡充といった利点があるが、
それまであった安全というものは失われてしまうという可能性がある。
先に述べたとおり、
米軍基地を誘致することによるデメリットは米軍機の墜落による人・ 物への被害、環境の
汚染である。すなわち、米軍基地ができることにより、島民はそれまで気を遣わなくてよ
かった危険に気を配らなければならなくなる。また、同時に米軍基地が存在するというこ
とにより、本土から移住を希望する人が減るという可能性も存在する。基地があるという
だけで良くないイメージがつくからである。
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こうして見ると、離島の経済発展の手段としては米軍基地を誘致するというのも選択肢
のひとつであるように思われる。しかし、持続的な発展という観点から見ると少し違うの
ではないかというのが私の意見である。基地の誘致に伴う経済効果は決して小さくはない
だろうが、長い期間で見ればその確実性・ 安全性という点において持続的発展とは離れた
ものであるようだ。本当の意味で持続的な発展を目指すならば、基地の誘致のような特効
薬と思われる方法はとらない方がいいと私は考える。
参考文献
アメリカ海兵隊公式サイト 在日米海兵隊
www.kanji.okinawa.usmc.mil/Index.html (2015 年 1 月 25 日参照)
総務省ホームページ
www.soumu.gojp (2015 年 1 月 25 日参照)
私達と米軍基地~基地の問題解決に向けて私たちにできること~
contest.japias.jp/tpj2004/70214/index.html (2015 年 1 月 25 日参照)
琉球新報
ryukyusimpo.jp (2015 年 1 月 25 日参照)
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