SDT14015 C35 D46 E53 フェルト・オレフィンシート・フェルトの 3 層構造の積層防音材の 遮音性能解析 ○黒沢良夫 中泉直之 高橋学 山口誉夫 (帝京大)(アサヒゴム)(アサヒゴム)(群馬大) Transmission Loss Analysis for Panels Laminated with Felts and Olefin Sheet Yoshio Kurosawa Naoyuki Nakaizumi Manabu Takahashi Takao Yamaguchi (Teikyo Univ.) (Asahi Rubber) (Asahi Rubber) (Gunma Univ.) 自動車の高周波車内音低減のために用いられる防音材は,軽量化や高性能化のた めフェルト等の吸音材にオレフィンシートを積層したタイプがある.これらはフェ ルトの密度やオレフィンシートの接着・非接着により大きく音響性能が異なる.本 研究では,簡易的な遮音装置を用いた実験結果と伝達マトリックス法による解析結 果について紹介する. Key words:多孔体,遮音,伝達マトリックス法,自動車 1.はじめに 近年,自動車の性能として車内快適性が重視さ れ,さらなる車内の静粛性が求められている.例 えば,エンジンルームと車室を隔てているパネル (以下トーボード:図 1)は,エンジン騒音を防 ぐため遮音対策が厳重になされている.トーボー ドは鋼板を所要の形状にプレス成形して作られ, その上には,従来フェルト・ウレタン等からなる 防音材(多孔体)と,樹脂シートからなる表皮(粘 弾性体)が積層されていた.最近は軽量化のため, 樹脂シートの代わりにフィルム(オレフィンシー ト:粘弾性体)を用いる事も多い.このようにト ーボード周辺の防音構造は,固体(弾性体,粘弾性 体)と多孔体と気体(空気)とが混合した複合防音 構造で形成されている.これらの防音性能(遮音 性能)を評価する指標として透過損失(音が壁を 通り抜ける際の低減量[dB])があり,最近では伝 達マトリックス法を用いた数値計算で予測が可能 である.伝達マトリックス法は有限要素法に比べ, 単純形状(無限平板を仮定)しか計算できない短 所はあるが,計算時間が非常に短く,単純形状の 積層防音材の計算には適している. 本論文では,パネルにフェルトとオレフィンシ ートとフェルトが積層された防音構造の数値解析 手法(Allard による伝達マトリックス法)を紹介 する.本手法を用いた計算結果と,半無響室に設 置された簡易的な遮音性能計測装置を用いた防音 材の遮音性能の計測結果との比較について報告す る. Toe board Panel Air Felt, Foam (porous media) Fig.1 Toe board Insulator of automotive panel ※Altair Hypermesh 使用 2.解析手法 2.1. 多孔体や弾性体や気体のマトリックス表現 今回の計測で用いたフェルトは多孔質弾性材 料と考えられたため,空気伝搬音,固体伝搬音 (縦波と横波)のそれぞれの音圧と粒子速度を 考慮できる 6×6 マトリックスで定義した. umsz T11 sx um T21 u T m 31 Pmsx T41 sz Pm T51 P T m 61 T12 T13 T14 T15 T22 T32 T42 T52 T62 T23 T33 T43 T53 T63 T24 T34 T44 T54 T64 T25 T35 T45 T55 T65 T16 umsz1 T26 umsx1 T36 um 1 T46 Pmsx1 T56 Pmsz1 T66 Pm 1 sz m T31 (13) (1) T32 T36 2 q1 2 32 2 2 2 3 1q2 1 32 2 2 2 3 2 3 q31 2 1 2 1 2 1 2 2 32 (3) T13 T14 T15 T16 T21 q 2 q1 j 1 2 1 2 1 2 j N 32 2 p C j (4) p1 D2 p2 D1 p3 D2 D1 2 1 (5) (10) q3 j 1q1 D2 2 q 2 D1 D2 D1 3 2 (11) T25 T14 T26 q j 1q1 C2 2 N 2 2 q2 C1 2 N 2 3 3 2 C1q1 1C 2 q2 1 2 1 2 2 C1 C2 (12) jN 2 (17) (18) (19) 2 2 4 N1q1 D2 4 N 2 q2 D1 q3 3 2 C1 D2 C2 D1 3 2 N p p2 ( 1 2 ) 1 T21 T11 T31 T53 T43 T53 T55 T56 T62 (9) p1 p3 1 2 T24 (20) T61 p 2 2 2 2 3 p1 2 32 2 2 2 3 2 2 p3 1 2 T22 2 1 3 1 2 2 32 T23 2 N C1 p1 D2 C2 p2 D1 p3 C1 D2 C2 D1 T51 T54 (8) T52 T41 p1C2 p3 C1 C2 2 N 2 p2 p1 (15) C1q1 2 2 32 2 2 2 3 C2 q21 1 32 2 2 2 3 4 N 3 21 2 1 2 q3 1 2 2 32 1 2 (6) (14) T46 T32 T42 j 2 q 2 N 1q1 D2 2 q2 D1 3 C1 D2 C2 D1 3 T44 T22 T45 T12 (7) j 2 11q1 C2 2 N 2 2 2 q2 C1 2 N 2 q C C2 3 3 3 1 T43 j q1 2 3 q1 1 3 3q3 1 2 1 2 1 2 2 (16) (2) T41 T12 j 1 p1 2 p2 1 2 T34 T26 T35 T16 ある.以下に行列の成分を示す. 2 N 2 p 2 D1 p1 D2 p3 C1 D2 C 2 D1 1 p1 2 32 2 2 2 3 2 p2 1 32 2 2 2 3 2 2 3 p3 1 2 1 2 32 2 T33 sx m u :固体伝搬音の横波(振動速度), u :固 sx 体伝搬音の縦波(振動速度) , Pm :固体伝搬音の sz 縦波(応力) , Pm :固体伝搬音の横波(応力)で T11 q j 2 N 1 1q1 D2 2 2 q2 D1 3 3 C1 D2 C 2 D1 3 T63 j q1 D1 q2 D2 2 ( 1 2 ) 1 T64 T23 T65 T13 T66 T33 i ki:多孔質内の波長定数 の垂直成分 , 3 pi cos ki 3 d , qi sin ki 3 d ( i 1,2,3 ), d :多孔材の厚さ, (21) (22) 12 2 P 22 R11 2Q12 22 32 2PR Q 2 , (23) , (24) 2 P 22 R11 2Q12 2PR Q 2 2 11 22 112 , N 22 Q (25) Di R i 2 i E34 E12 2 ( i 1,2 ) , k0 sin , 2 D1 (2 N C2 ) D2 (2 N C1 ) 2 2 i E11 1 32 2k 2 t E12 E22 E32 E42 E14 u nsz1 E24 u nsx1 E34 pnsx1 E44 pnsz1 E13 E23 E33 E43 (27) cosk13d k k cosk33d 2 33 2 t (28) E12 jkt 2 kt2 k sin k13 d 2k33 sin k33d (29) 2 33 k13 3 E13 k t cosk13d cosk33d 32 (30) E14 j kt2 sin k13d k33 sin k33d 32 k13 (31) E21 jkt k2 k2 2k13 sin k13d 33 t sin k33 d 2 3 k33 E22 E23 1 32 k 2 33 kt2 cosk13 d 2kt2 cosk33d kt2 j sin sin k33d k k d 13 13 2 3 k33 (32) (33) (34) E24 E13 E31 2kt k332 kt2 32 cosk13d cosk33d (35) (36) E44 E11 xi cos( ki 3 ) 32 2 unsz E11 sx un E21 p sx E n 31 p sz E n 41 E43 E21 2 P 22 R11 2Q12 4PR Q 2 11 22 122 , (26) である. パネルやオレフィンシートは,応力と振動速度 の縦波と横波を考慮できるよう 4×4 マトリック スで定義した. k2 k2 j 2 4kt k33 sin k13d 33 t sin k33 d 2 3 k33 E42 E31 2 N : せ ん 断 弾 性 率 , P,Q,R : 弾 性 係 数 , :多孔質の骨格と空隙との音速比, i ( i 1,2,3 ) E33 E22 E41 Ci P Q i 2 N 2 j k332 kt2 sin k13 d 4kt2 k33 sin k33 d 2 3 k33 E32 12 2 s , 2 , yi j sin( ki 3 ) , (i 1,2) ki 3 32 2 , 1 2 c1 k332 kt2 , E 1 j 21 気体(空気)のマトリックス表現は以下になる. cosh( klk ) Wk sinh( klk ) p pk k 1 1 sinh( ) cosh( ) l l u k 1 k k k k u k W k (37) k :伝搬定数, W k :特性インピーダンス, l k :空 ( 気層の厚さ. 3.1. 3.実験結果と解析結果 残響箱を用いた実験結果 図 2 に,今回の計測で用いた半無響室に設置さ ( れた簡易的な遮音性能計測装置(残響箱)を示す. 外周が 1 辺約 1000mm の立方体の箱の底面にスピ ーカーが設置されており,上面に設置するベース ( パネル(板厚 0.8mm の鉄板)やその上に積層した 防音材を音圧加振できる.ベースパネルの 500mm 上方にマイクが設置されており,同じ音圧で加振 ( した際の音圧レベルの差(ベースパネルに防音材 を積層した場合の音圧レベルとベースパネルのみ の音圧レベルの差)により遮音性能を評価できる. ( 図 3 に遮音性能の計測結果を示す.上図はベー ( スパネルに上(mic 側)から 20t(厚さ 20mm)雑 色 PET フェルト 800g + オレフィンシート 35g + 20t ( 反毛フェルト 1550g の順に積層された防音材の計測結 果(オレフィンシートとフェルトの接着の有無の 比較)で,下図がベースパネルに上から 5t 反毛フ ェルト(バインダー 25%)550g + オレフィンシート 35g + ( 20t 反毛フェルト 1550g の順に積層された防音材の計 測結果(オレフィンシートとフェルトの接着の有 無の比較)である.フェルトとオレフィンシート の接着の有無により遮音性能が大きく変化してい ることがわかる.また,1 番上に積層したフェル トの密度の違いにより接着した際の遮音性能が大 きく異なるのがわかる.これは,薄くて密度の高 い(固い)フェルトの方が接着による剛性 Up の影 響が大きい事を示している. Fig.2 Experimental setup of sound insulation level Sound insulation level (dB) 20 15 10 5 0 -5 with adhesion without adhesion 125 250 500 1k 2k Frequency (Hz) 4k 3.2. 計算結果と実験結果との比較 次に本解析手法による計算結果を紹介する.図 4 に,遮音性能の計測結果と計算結果の比較を示 す.上図がベースパネルに上(Mic 側)から 20t 雑色 PET フェルト 800g + オレフィンシート 35g + 20t 反毛フェルト 1550g を積層した場合,下図がベースパ ネルに上から 5t 反毛フェルト(バインダー 25%)550g + オ レフィンシート 35g + 20t 反毛フェルト 1550g を積層し た場合の接着の有無による計測結果と計算結果の 比較である (図 3 と同じ比較) . 計算モデルでは, 接 着無しの場合はオレフィンシートと上下のフェル トの間に厚さ 0.1mm の空気層を設定した.計算結 果は接着有無の影響の定性的な差を再現出来てお り,遮音性能予測に十分な計算精度であることが 確認できた.なお,昨年著者らが D&D2013 で発 表した論文より,多孔体の弾性を考慮しない計算 モデルでは,接着の有無の影響が表現されないこ とは確認済みで,今回のモデル化で解析精度が向 上できた.図 5 に 5t フェルト 1200g +オレフィンシー ト 35g + 20 フェルト 800g を積層した場合で接着面積を 変えた時の計算結果と実験結果の比較を示す.実 験結果(図 5 上)より接着面積を半分にすると遮 音性能も全面接着と接着なしの中間の値になって いることが分かる.図 6 に, 5t フェルト 550g +オレフィ ンシート 35g + 20 フェルト 1550g を積層した場合と 5t フェルト 1200g +オレフィンシート 35g + 20 フェルト 800g を積層した場合でオレフィンシートの両面, 上面 のみ接着, 下面のみ接着, 接着なしの計算結果の 比較を示す.上図より, 硬いフェルト(5t フェルト 1200g)とオレフィンシートの接着の有無の影響が 大きいことが分かる.このことから, オレフィン シートに硬いフェルトを接着することで遮音性能 を大きく向上させることが可能であることが分か った. 30 with adhesion by exp. Sound insulation level (dB) 20 10 0 -5 with adhesion without adhesion 125 250 500 1k 2k Frequency (Hz) 4k Sound Insulation Level (dB) 15 5 with adhesion by cal. non adhesion by exp. non adhesion by cal. 25 20 15 10 5 0 -5 Fig.3 Experimental results of sound insulation -10 125 250 500 1k 2k Frequency (Hz) 4k 30 Sound insulation level (dB) with adhesion by cal. 25 Sound Insulation Level (dB) non adhesion by exp. non adhesion by cal. 20 upper under adhesion upper adhesion under adhesion non adhesion 30 with adhesion by exp. 15 10 5 25 20 15 10 5 0 -5 -10 0 125 250 -5 -10 500 1k 2k Frequency (Hz) 4k 30 25 20 Sound insulation level (dB) 250 Fig.4 Comparison of experimental results and calculation Sound insulation level (dB) 4k 500 1k 2k Frequency / Hz 4k 30 125 25 20 15 10 5 0 15 -5 10 -10 125 5 all adhesion 0 half adhesion -5 250 Fig.6 Calculation results of sound insulation level non adhesion -10 4. まとめ 125 250 500 1k 2k Frequency (Hz) 4k 30 Sound insulation level (dB) 500 1k 2k Frequency (Hz) 25 20 15 10 5 0 Ny全面熱接着 -5 Ny部分熱接着 Ny非接着 -10 125 250 500 1k 2k Frequency (Hz) 4k Fig.5 Comparison of calculation results and experimental 半無響室に設置された簡易的な遮音性能計測装 置(残響箱)を用いて,パネルにフェルトとオレフ ィンシートとフェルトが積層された自動車用防音材 の遮音性能を計測した.オレフィンシートがフェ ルトと接着された場合と接着されていない場合で 遮音性能が大きく変化することを確認した.また, フェルトの密度が大きい(フェルトが硬い)場合, オレフィンシートとの接着により遮音性能を大幅 に向上できることが分かった. Biot 理論を用いた伝達マトリックスによる計算 コードを用いて,自動車用積層防音材の遮音性能を 計算した.残響箱の計測結果と比較し,接着有無 の影響の定性的な差を再現出来ており,十分な解 析精度であることを確認した. 本手法では,実際の自動車で用いられるような 複雑形状をした防音材の計算は不可能であるため, 有限要素法によるプログラム開発が今後の課題で ある. 参 考 文 献 (1) Utsuno,H., Tanaka,T., Fujikawa,T., “Transfer Function Method for Measuring Characteristic Impedance and Propagation Constant of Porous Material”, J.Acoust.Soc.Am. Vol. 86, No.2 (1989), pp. 637-643. (2) 山口誉夫, 自動車用防音構造の遮音吸音特 性シミュレーション, 制振工学研究会 1999 技術交流会, pp.91-94. (3) London, A., Transmission of Reverberant Sound through Single Wall, Journal of Acoustical Society of America, Vol. 22, No. 270 (1950). (4) Allad, J. F., Atala, N., Propagation of Sound in Porous Media, John Wiley & Sons, Inc (2009). (5) 加藤大輔, 多孔質材料内伝搬音の予測モデ ル-Kato モデルにおける Biot 理論の適用 - , 日 本 音 響 学 会 誌 , Vol. 64, No. 10 (2008), pp.597-606. (6) 黒沢良夫, 中泉直之, 高橋学, 山口誉夫, 防 音材を積層したパネルの振動と透過損失, Dynamics and Design Conference 2013, No. 262.
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