2015年09月号 - アヴァンティスタッフ

月刊 HRタイムズ 派遣法改正特集号
株式会社アヴァンティスタッフ ニュースレター
32号<派遣法改正特集号> / 2015年9月
今月号は、9月11日に通常国会で可決・成立した「2015年派遣法改正」特集をお届けします。
参議院での採決直前に与党から提出された修正内容や、附帯決議の内容についてもご説明します。
Ⅰ.派遣法改正の趣旨・目的
改正前の派遣法では、専門業務(政令26業務)と自由化業務の違いによって、派遣先が派遣スタッフを受け
入れることができる期間に違いがあります。専門業務は上限なし、自由化業務は最長3年までとの制限が設けら
れています。専門業務と自由化業務の判断基準がとてもわかりにくく問題であることから、わかりやすい制度とするこ
と、また、派遣スタッフの雇用の安定や処遇の改善を進めることなどを目的に、派遣法が改正されます。
Ⅱ.派遣法改正の全体像
項目
改正内容
①特定労働者
派遣事業
 常用雇用労働者のみを派遣する形態として、届け出で行うことが認められていた特定
労働者派遣事業が廃止され、派遣事業は許可制に一本化
※ 既存の特定労働者派遣事業主が許可を得るには、資産要件等をクリアすること
が必要。施行から3年間は経過措置期間となる予定。
②派遣受入
期間制限
 政令26業務と自由化業務の区分撤廃
 業務内容に関わらず、「派遣先事業所単位」と「派遣スタッフ個人単位」の期間制限
が適用
 雇用安定措置が義務づけられる(派遣元・派遣先)
③派遣先の
責任
 派遣先が処理すべき苦情の内容として、「セクハラ・パワハラ」が派遣先指針に例示
 派遣先責任者講習の受講が、数年後に義務化か?今年度より、トライアルとしての
派遣先責任者講習が開始済み。
④派遣労働者
の処遇
⑤キャリアアップ
措置
⑥2012年
派遣法改正
内容
派遣先
 情報提供、福利厚生施設(食堂・休憩室・更衣室)の利用、教育訓
練の実施等の対応強化
派遣元
 派遣スタッフに対する説明義務や社会保険加入資格の有無明示
 派遣先に対する社会保険加入事実の確認依頼(被保険証コピーの提
示等)
派遣先
 派遣元に対する、派遣スタッフ評価情報の提供等
 1年以上受入れの派遣スタッフに対する正社員募集情報の周知
派遣元
 計画的な教育訓練やキャリアコンサルティングの実施
 キャリア形成支援制度を有することが、許可要件に追加
 日雇派遣の原則禁止、グループ内派遣8割規制、1年以内離職者の派遣禁止等
は今回の改正で見直しされない。(継続検討)
 日雇派遣の原則禁止の例外の年収要件等は、政令改正を検討
1
Ⅲ.派遣受入期間制限
【派遣先事業所単位の期間制限】




派遣先が派遣スタッフを受け入れることができる期間は、事業所ごとに3年までとの制限が設けられます。
3年の起算は、その事業所で最初に始まる新法(改正法)適用契約の開始日からです。
新法が適用されるのは、法改正の“施行日以降に締結する”派遣契約(更新契約含む)からとなります。
この派遣先事業所単位の期間制限は、派遣先が“事業所ごとに”労働組合等に意見を聴くことによって、
“事業所ごとに”3年間延長することが可能です。(法改正後、最初の3年間の派遣受入れの「権利」はどの
派遣先にも等しく与えられ、意見聴取の手続きをした派遣先の事業所だけが、派遣受入れの「権利」を3年間
延長することができます。)
【個人単位の期間制限】
 法改正後は、法改正前の業務内容区分(専門業務or自由化業務)に関わらず、派遣先の同じ課で派
遣スタッフとして働くことのできる期間は3年までとなります。
 3年の起算は、新法適用契約(定義は上記同様)の開始日からとなるため、契約の更新時期によって、派
遣スタッフ個人ごとに異なる可能性があります。今までどれだけ働いていたかは関係ありません。
 ただし、法改正前に締結済みの「政令26業務」契約に限っては、3年間の経過措置期間が設けられる予定
であり、その間は、政令26業務契約を更新することが可能です。
 3年の上限に達する派遣スタッフに対して、派遣会社は次のいずれかを実施することが義務となります。(雇用
安定措置)
① 派遣先への直接雇用の依頼(派遣スタッフの希望があれば優先。派遣先が直接雇用することは義務で
はない→直接雇用がダメな場合、派遣会社は②~④のいずれかを行うことが必要。直接雇用=無期の
正社員に限定されない(有期の契約社員・嘱託社員等であっても可能))
② 派遣スタッフとしての新たな就業機会の確保、提供
③ 派遣会社での無期雇用化
④ 教育訓練の実施その他雇用安定のための措置
 派遣先に義務付けられる雇用安定措置の内容は、後述します。(Ⅳ参照)
2
【意見聴取手続き】
 意見聴取の手続きが必要となるのは、法改正から3年後です。今すぐに対応が必要ではありませんが、注意す
べき点や現行との変更点をお伝えします。
 まず、意見聴取をする相手が重要です(現行と変更なし)。過半数労働組合がない場合には、事業所の従
業員代表に意見を聴くことが必要です。
 従業員代表者は、意見を聴かれる者を選出することを明らかにして実施する投票・挙手等の民主的な手続き
によって、労基法(41条2号)の管理監督者以外から選出することが必要です。会社からの一方的な指
名によって従業員代表者が選出された場合などは、民主的な手続きとは判断されません。
 現行の自由化業務の場合の意見聴取との主な変更点は次の2点です。
①意見を聴くにあたって、参考となる資料を提供することが必要となります。
(派遣スタッフ受入開始時からの、派遣スタッフと無期雇用労働者(正社員)数の推移に関する資料等)
②意見を聴いた結果、労働組合等が、現在の状況を是正すべきとの意見を表明した場合、派遣先は、その意
見への対応を検討し、対応方針等を説明することが必要となります。
 意見聴取の手続き漏れや、意見聴取をした相手が正当に選出されていないにも関わらず、3年を超えて派遣
の受け入れを行った場合、期間制限違反として、みなし制度が適用されることになります。
参議院で提出、可決された修正内容および附帯決議の概要
◆修正内容
1.施行期日を、2015年9月1日から 2015年9月30日 に変更する。
2.派遣先は、派遣可能期間を延長しようとする場合の意見聴取と、過半数労働組合が異議を述べた場合の
対応方針等の説明を行うに当たっては、「誠実に」これらを行うように努めなければならない。
3.派遣元は、講じた雇用安定措置の内容を派遣元管理台帳に記載する。
4.派遣元が派遣スタッフに就業条件の明示をするに当たっては、派遣先による期間制限の違反(事業所単位
の期間制限違反と、組織単位における派遣スタッフ個人ごとの期間制限違反)をした場合には、労働契約
申込みみなし制度の対象となることを明示しなければならない。
◆附帯決議(議決された法案・予算案に関して付される、施行についての意見や希望などを表明する決議。
法的拘束力を有しない。デジタル大辞泉より)
以下の8分野、全39項目の決議が可決されました。①省令や指針への反映、②周知の徹底、③厳正な指導監
督等の実施、④引き続きの検討 などを政府に要求しています。
(1)労働者派遣法の原則 (2)労働者派遣事業 (3)期間制限 (4)雇用安定措置
(5)派遣労働者の待遇 (6)キャリアアップ措置 (7)派遣先の責任 (8)その他
なお、法的拘束力はないというものの、前回2012年の派遣法改正時の附帯決議における、「速やかに見直しの
検討を開始すること」との要求を受け、“速やかに”議論が開始され、今回の法改正につながっています。また、塩崎
厚生労働大臣は附帯決議の可決を受け、「趣旨を踏まえ適切に対処していきたい」と発言しています。
まずは、省令や指針に、附帯決議の要求がどのように反映されるのか、次号以降でお伝えいたします。
3
Ⅳ.派遣先に課せられる義務
派遣先に課せられる義務を、義務・配慮義務・努力義務の別にまとめました。
義務
当事者は、何らかの措置対応を講じた結果、義務自体を履行することが求められる。
→義務を怠れば、指導、助言、罰則等の適用対象となる。
配慮
義務
義務の履行のため、当事者は、何らかの措置、対応を講じることが求められる。
→措置、対応を講じていなければ、指導、助言、罰則等の適用対象となる。
努力
義務
義務の履行は、当事者の任意の協力、判断に委ねられる。
→努力をしていれば、助言、罰則等の適用対象とはならない。
なお、派遣先に課せられる罰則等の内容は、
行政による指導・助言 → 是正勧告 → 企業名公表(勧告に従わない場合)と、
10月以降はみなし制度の適用 です。
労働者(正社員)
募集情報の周知
義
務
労働者(正社員以
外も含む)募集情
報の周知
<雇用安定措置>
配
慮
義
務
同一の事業所に1年以上の期間受け入れた派遣スタッフ
どんなとき
その事業所で通常の労働者(正社員)を募集するとき
なにをする
募集情報(業務内容・賃金・労働時間等)を周知する
どのように
事業所への掲示等の措置によって
だれに
同一の組織単位(課)の業務に3年間従事する見込みがある
派遣スタッフで、派遣元から「直接雇用の依頼」があった場合
どんなとき
その事業所で労働者(正社員に限らず)を募集するとき
なにをする
募集情報(業務内容・賃金・労働時間等)を周知する
どのように
事業所への掲示等の措置によって
教育訓練
派遣元からの求めに応じ、派遣スタッフと同種の業務に従事する自社従業員に
対して、業務遂行に必要な能力付与のための教育訓練(研修)を行うときは、
派遣スタッフに対しても実施するように配慮しなければならない。(既に必要な能
力を有している場合等を除く)
福利厚生施設の
利用
自社従業員に利用させる福利厚生施設(食堂、休憩室、更衣室)は、派遣
スタッフにも利用の機会を与えるように配慮しなければならない。
情報提供
派遣元による均衡を考慮した賃金決定がなされるために、派遣元からの求めに
応じ、①または②の情報を派遣元に提供するなど配慮しなければならない。
①派遣スタッフと同種の業務に従事する自社従業員の賃金水準に関する情報
②派遣スタッフと同種の業務に従事する自社従業員を募集する際の賃金情報
派遣スタッフの
雇入れ
努
力
義
務
だれに
だれに
同一の組織単位(課)の業務に1年以上受け入れた派遣スタッ
フで、派遣元から「直接雇用の依頼」があった場合
どんなとき
その派遣スタッフと同一の業務に労働者(正社員に限らず)を雇
い入れようとするとき
なにをする
その派遣スタッフに労働契約の申込みをするよう努める。
<雇用安定措置>
診療所等の利用
派遣就業が適正かつ円滑に行われるようにするため、診療所等、自社従業員が
通常利用しているものを、派遣スタッフにも利用させるように努める。
情報提供
派遣元による教育訓練・キャリアコンサルティング、均衡考慮が適切になされるよう
にするため、派遣元の求めに応じ、派遣スタッフと同種の業務に従事する自社従
業員に関する情報、派遣スタッフの業務の遂行状況(評価)その他の情報を提
供するように努める。
4