SPCPを用いた新規なプラズマ反応器の開発と 環境汚染物質処理への

SPCPを用いた新規なプラズマ反応器の開発と
環境汚染物質処理への応用に関する研究
Development of the novel plasma reactor using SPCP method
and its application for treatment of environmental pollutants
01D5501 原田 伸夫 指導教員 山本 英夫
SYNOPSIS
A novel plasma reactor for treatment of environmental pollutants was developed, in which SPCP (Surface
discharge-induced Plasma Chemical Process) and ceramic filter were integrated. The apparatus was characterized by
very simple configuration and high contact efficiency between the gas and the discharge plasma. A feasibility of the
newly developed apparatus was studied to gaseous and particulate pollutant decomposition. Volatile Organic Compounds (VOC) were decomposed effectively, and the major reaction products were inorganic compounds. The results
indicated the relationship between decomposition ratio and discharge power was dependent on the supply of VOC
in a unit time to the reactor irrespective of the initial concentration and flow rate. Soot as particulate pollutant was
removed from the filter surface. In simultaneous treatment of soot and NOx, soot is removed by oxidization and NOx
by reduction, therefore, they were considered to be treated simultaneously and complementary.
Keywords: SPCP, non-thermal plasma, VOC, NOx, soot
1. 緒言
2. 新規に開発したプラズマ反応器の構造と特徴
題となってきており、早急な対応策が必要となっている。
SPCP (Surface discharge-induced Plasma Chemical
トラックなどの大型輸送機などの動力源に使用されている
Process) [1] とは、沿面放電によって生じるプラズマを反
ディーゼルエンジンの排気ガス中には煤などの浮遊粒子状
応の励起源として化学反応を進行させる、気相化学反応
物質と高濃度の NOx が含まれており、これらによる都市
プロセスのことである。沿面放電によって生成する非平
型大気汚染が深刻化してきている。また、機械部品や金属
衡プラズマは、ガス温度自体は常温であるにもかかわら
の脱脂洗浄剤として広く用いられてきたトリクロロエチ
ず電子温度は極めて高いという特徴をもつ。その為、高
レン(TCE)などに代表される揮発性有機化合物による環
温を嫌う材料・条件に適用でき、また、装置が簡便とな
境汚染も問題となっている。このような汚染物質は、酸性
る上、通常高温でないと進行しないような化学反応を容
雨や地球温暖化の主な原因とされており、また人体への悪
易に行わすことができるといった利点を有する。
2.1. SPCP とは
近年、産業の発達に伴い様々な分野での環境汚染が問
影響も懸念されている。これらの問題を解決する方法の一
つとして、従来の化学的又は生物的処理法に代わり、放電
2.2. 従来のプラズマ反応器
プラズマ中で発生したラジカル種を用いた気相反応法があ
従来の研究で用いられてきた代表的なプラズマ反応
り、現在、実用化に向けて研究が進められている。
器として、次のようなものがある。相対する電極間に
本研究では、反応励起源として沿面放電を用いる SPCP
誘電体板を挿入し交流高電圧を印加させたバリア(無
法と多孔質セラミックフィルターを複合化した新規なプ
声)放電型 [2,3]、同軸円筒状電極間に急峻なパルス
ラズマ反応器を構築した。本反応器は、装置形状を工夫
状の直流高電圧を印加するパルス放電型 [4,5]。直径
したことにより処理物質とプラズマとの接触効率が極め
数 mm の強誘電体をガラス管などに充填しその空隙
て高いという特徴を持つ。また、セラミックフィルター
で放電させる充填管型 [6,7] がある。また、プラズマ
と複合化したことによって、ガスだけでなく粒子状物質
と触媒を併用したりして反応効率を上げている研究
の捕集・除去にも適用可能であるといった利点を有する。
[10,11] もあるが、重要なのは反応場であるプラズマ
本研究では、条件を様々変化させて揮発性有機化合物
を広い空間に一様に発生させ、処理ガスとプラズマと
(TCE・トルエン・ベンゼン)の分解実験を行い、その反
の接触効率を高めることである。
応特性に関して検討を行うとともに、装置の新しい性能
このようなリアクタが様々開発されてきたわけであ
評価方法を提案した。更に、ディーゼルエンジン排ガス
るが、その中で、例えば従来の研究で用いられてきた
処理についてその有効性を検討するため、NOx と煤を用
SPCP 反応器というのは、いわゆる空管型の反応器で、
いて実験を行い、ガス状および粒子状汚染物質の同時処
チューブ状反応器の内側表面部分に沿ってプラズマを
理についても実験的検討を行った。
発生させるものであった。処理ガスはこのチューブの
-1-
内側をただ通過するだけであり、その為、プラズマと
処理ガスとの接触効率に限界があった。
2.3. 本反応器の構造と特徴
本研究では、Fig. 1 に示すような筒型セラミックフィ
ルターとコイル型ワイヤ電極を組み合わせた新規な装置
を構築した。本反応器は、筒型セラミックフィルターの
表面にワイヤ型電極をコイル状に巻き付けただけの非常
Fig. 1 Schematic illustration of the tubular
electrode system.
にシンプルな構造を特徴とする。また、SPCP はその放電
ユニットの構造が簡単で装置形状を工夫し易く、その為、
本反応器ではセラミックフィルターの表面に限定して放
100
電プラズマを生成させるといったことが可能となった。
Decomposition ratio [%]
処理ガスがセラミックフィルターを横切るように流路を
工夫したことで、上流から供給された処理ガスはフィル
ター表面に生成させたプラズマを必ず通過して下流に至
る。よって、処理ガスと反応場であるプラズマとの接触
効率を極めて高くすることができ、接触効率が高いこと
から放電電力当たりの処理効率も非常に高いと期待され
る。また、本反応器はフィルター上に収集堆積させた粒
80
60
40
N2
20
0
子状汚染物質の処理にも適用できると考えられ、同時に
ガス状汚染物質も処理することができると期待される。
500ppm, 800mL/min
Dry Air
0
2
4
6
Discharge power [W]
8
10
Fig. 2 Results of TCE decomposition in nitrogen
and dry air carrier.
3. 揮発性有機化合物の処理
TCE を各キャリアガスを用いて処理した時の、TCE 分
100
Decomposition ratio [%]
解率と放電電力の関係を Fig. 2 に示す。TCE は N2 キャ
リアの時でもある程度まで放電電力を上げるとほぼ完全
にまで分解されるが、DryAir の場合ではより小さな放電
電力でも高い分解率が得られた。また、N2 に酸素源とし
て O2 または H2O を 1% 添加して分解実験を行ったとこ
ろ、低電力において分解効率が大幅に向上した(Fig. 3)
。
添加した酸素は僅か 1% であったにも関わらず、酸素を
20% 含む DryAir の場合とほぼ同程度の高い分解効率を示
80
60
N2
N2+O 2 (1%)
20
0
した。このことから、酸素源は処理される TCE に対して
十分量供給されれば良いことが示唆される。ガスクロマ
500ppm, 800mL/min
40
N2+H 2O (1%)
0
2
4
6
Discharge power [W]
8
10
Fig. 3 Effect of decomposition efficiency by
adding oxygen source.
トグラフィーの結果からも TCE の分解生成物中には有機
らのことから、キャリアガス中に酸素が僅かに含まれれ
ば、TCE は非常に効率よく分解され最終的には大部分が
CO2 や HCl などの無機物になることが示された。同様に、
トルエンやベンゼンを用いて分解実験を行った結果でも、
どちらも効果的に分解・除去されることが示された。
4. プラズマ反応器の為の新しい性能評価方法
従来の研究では、プラズマ反応器の処理能力を表す方
法として EY (g/kWh) や EC (eV/molecul) などといった
������ �� ���������� ������� ��� �� ������
性化合物がほとんど検出されないことが確認され、これ
��
��� �� � ������� �����
��
��
��� �� � ������� �����
���
��
�
���
�
�
パラメータが主に用いられてきた。しかし、一般に、消
費電力に対して処理対象物質の分解量はリニアにならず、
従って、これらの値は分解量によって異なった値を取る
-2-
���
��� �� � �������� �����
��
��
��
��
��������� ����� ���
����� ���� ��� �������
����� ���� ���� �������
����� ���� ��� �������
����� ���� ���� �������
����� ���� ��� �������
� ��� ���� ��� �������
��
Fig. 4 The amounts of the decomposed toluene
as a function of discharge power.
ため、これらのパラメータを用いて反応器の性能を一様
に比較・評価するのはあまり便利とは言えない。
その一方で、一般に、処理対象物質の分解率 X は消費
電力に対して次の式で現象論的に表されることがこれま
での研究で知られている [12]。
X=
[C0 ] − [C ]
= 1 − e−k p P
[C0 ]
式 (1)
ここで、[C]、P、kp はそれぞれ処理物質の濃度、消費電力、
定数を示している。また、放電電力 (Pdis) は、同様に式 (1)
を満たすことが確認された。
Fig. 5 Relationship between the constant kp and
実験条件を様々変化させて行ったトルエンの分解実験
the load rate vs.
の結果を Fig. 4 に示す。これより、初期濃度や供給流量 ( 滞
留時間 ) に関わらず、処理物質の反応器への投入速度 (vs)
が同じなら、分解量も同じになることが示された。また、
Fig. 5 より、定数 kp と vs は反比例の関係にあることが分
Discharge power
かり、この関係から得られる反応条件に依存しない定数
0W
とから、分解率 X は次のように表され、
= 1 − e−α Pdis /vs
NO[ppm]
-
<1.0
<1.0
<1.0
<1.0
<1.0
16 W
<1.0
20 W
式 (2)
100
6W
11 W
0
<1.0
(b): Initial concentration of NO2 = 400 ppm
0W
Pdis/vs は供給される処理対象物質の 1mol 当りに投入され
6W
た放電エネルギーを表しており、これを mSED = Pdis/vs と
20 W
置くことで、改めて分解率 X は次のように表される。
X = 1 − e−α mSED
NO2[ppm]
(a): Initial concentration of NO2 = 100 ppm
αが、装置の特性を表していると考えられる。以上のこ
X = 1 − e−k p Pdis
Table 1 Results of the NO2 removal test.
400
-
<0.6
<1.3
<2.5
<5.0
(c): Initial concentration of NO2 = 1200 ppm
式 (3)
1200
11 W
4.0
2.5
3.8
6.0
6W
これまでの実験結果を式 (3) で評価したところ、反応
16 W
条件に依らず装置の処理能力を評価可能なことが確認さ
20 W
れた。以上のことから、新しい評価パラメータαを用い
-
0W
3.0
2.5
5.0
2.5
ることで、反応条件に関わらず反応器の処理能力を非常
にシンプルな数値で表すことができ、反応器の特性を評
価する方法の一つとして有用なことが示された。
Results of the NOx removal test.
Table 1
(c): 550mL/min.
Flow rate (a)(b): 640mL/min,
5. ディーゼルエンジン排ガス処理への応用
Table 1 に、N2 希釈の NO2 を SPCP 処理した結果を
示す。初期濃度を高くしても、放電電力を上げることで
Figure 5(a) Before SPCP treatment
Fig6
ure(a)
5(a:) Before
Before SSPCP
PCP treatreatment.
tment
Figure
NOx はガス検知管の検出限界以下の値まで減少してお
り、NO2 はほぼ完全に処理されたといえる。これは既に
述べたように、本装置は処理ガスとプラズマとの接触効
率が極めて高い為であると考えられる。
粒子状汚染物質として用いた煤は、ブタンの不完全燃
焼により得た。予め本研究で用いたセラミックフィルター
が煤を完全に捕集することを確認した。次に、そこへ Air
のみを反応器に供給しながら SPCP 処理を行ったところ、
煤は完全に除去され、セラミックフィルターの白色表面
Fig6
ure(b)
5(b:) After
After SSPCP
PCP tretreatment.
atment
Figure
Figure 5(b) After SPCP treatment
Fig. 6 A state of surface of ceramics between
before and after SPCP treatment.
Figure 5 Different views of the surface of ceramic filter before and after
がほぼ完全に露出した (Fig. 6)。また、不完全燃焼ガスを
反応器に供給しながら SPCP 処理した時の処理後ガス中
igure
5 Different views of the surface of ceramic filter before and after
SFPCP
treatment.
SPCP treatment.
-3-
の CO2 濃度変化を Fig. 7 に示す。放電電力の増加に伴っ
16
て CO2 濃度が増加するのは、煤中の未燃炭素が SPCP 処
CO2 concentration [%]
理により酸化され、CO2 になったことを示している。こ
のことから、本反応器により粒子状物質である煤は効率
よく気相から酸化・除去されることが示された。
これまでの結果で、本反応器が煤、NOx をそれぞれ
個別に、効果的に処理出来ることが確認された。そこで
更に、煤と NOx が同時に存在する条件で SPCP 処理を
14
12
10
8
試みた。実験は次の手順で行った。予め煤をフィルター
6
へ堆積させておき、ここへ NOx を含む処理ガスを送り
SPCP 処理を行った。各処理ガスを用いて SPCP 処理し
0
5
10
15
20
25
Discharge power [W]
Fig. 7 Relationship between the discharge power
and the CO2 concentration of the exit gas.
た結果を Table 2 に示す。どちらの場合においても、処
理が進行するに従って煤が除去されることが目視によっ
て確認された。NO2/N2 混合ガスの場合、NOx は効果的
Table 2 Results of the simultaneous treatment
of soot and NOx.
に除去された。この時、処理後ガス中の CO2 濃度が増加
したのは、煤中未燃炭素が NOx を還元して CO2 になっ
Discharge power
[W ]
たものと考えられる。即ち、煤と NOx は本同時処理に
おいて、相補的に処理されることが示された。NO/N2 混
合ガスにおいても、NO の減少に伴って CO2 濃度が増加
NO
[ppm]
CO2
[ppm]
CO
[ppm]
NO2/N2
0
20
1200
60
2.5
1200
510
NO /N2
0
11
15
5
0.3
350
30
0.3
30
50
4
4
しており、NO 中の酸素分が煤の酸化反応によって消費
されていることが示された。
6. 結論
NO2
[ppm]
SPCP とセラミックフィルターを複合化した新規なプ
高い処理能力を保ったままリアクタ形状を変えることで、
ラズマ反応器を構築し、環境汚染物質処理への適用性と
様々な用途に応じた処理システムを構築出来ることが期
装置特性について検討を行った。VOC はキャリアガス
待される。また、様々な素反応から成り立っている放電
中に酸素が僅かにあるだけで効率よく分解され、その大
プラズマ中での化学反応は、そのメカニズムについてま
部分は CO2 や HCl などの無機物になることが示された。
だ十分に明らかにされているとは言い難い。従って、も
反応器の特性評価を行った結果、初期濃度や流量などの
しこの反応を制御することが出来れば、任意の反応を起
反応条件に関わらず、投入速度 (vs) が同じなら分解量も
こさせる化学反応装置としての応用も期待される。
同じになることが示された。また、vs と定数 kp の関係
【参考文献】
より得られた定数αは反応器条件に依存しない定数であ
[1]
り、これが装置の特性を表していると考えられる。NOx
と煤はそれぞれ個別に効果的に処理でき、これらが同時
[2]
に存在する系では、NOx の酸素分は煤を酸化するのに
[3]
[4]
消費され、これらは同時に処理可能なことが示された。
このことから、本反応器はディーゼルエンジン排ガス処
理へ応用可能なことが示唆された。
[5]
以上のことから、新規に開発した本反応器は環境汚染
[6]
物質の処理に極めて有用であることが示された。また、
本報で提案した新しい評価パラメータαを用いること
で、反応条件に関わらず装置の特性を評価可能なことが
[7]
[8]
[9]
[10]
示された。
7. 今後の展望
[11]
本反応器は、装置設計がシンプルで且つ装置形状を自
由に工夫できる上、プラズマと処理物質の接触効率の高
さから、処理効率が非常に高いことが特徴である。その為、
-4-
[12]
H. Yamamoto et.al., IEEE Trans.Ind.Appl. 28 (5)
(1992) 1189-1193.
U. Kogelschatz, Plasma Chem. Plasma Process. 23 (1)
(2003) 1-46.
W. Sun et.al., J.Appl. Phys. 79 (7) (1996) 3438-3444.
S. Masuda et.al., IEEE Trans.Ind.Appl. 26 (2) (1990)
374-383.
Y. S. Mok et.al., Korean Journal of Chemical Engineering.
18 (3) (2001) 317-321.
A. Mizuno et.al., IEEE Trans.Ind.Appl. 28 (3) (1992)
535-540.
A. Ogata et.al., Plasma Chem. Plasma Process. 19 (3)
(1999) 383-394.
S. Masuda et.al., J.Electrostat. 34 (4) (1995) 415-438.
T. Oda et.al., IEEE Trans.Ind.Appl. 32 (1) (1996) 118-124.
J.H. Ryu et.al., Proceedings of the Third International
Symposium on Technology and Pollution Control. Cheju. (2001) 114-118.
T. Oda, Proceedings of the Third International Symposium on Technology and Pollution Control. Cheju.
(2001) 268-273.
H. H. Kim et.al., J. Electrostat., 55 (1) (2002) 25-41.