両親の 「仲の良さ」 の認知と親子関係*

55
飛田 操・狩谷佳子:両親の「仲の良さ」の認知と親子関係
両親の「仲の良さ」の認知と親子関係*
操
飛 田
狩 谷 佳 子”
問
題
関係の性質が,育児態度や子どもの気質の評価に
影響していることや(Easterbrooks&Emde,
本研究の目的は,女子青年を対象とした質問紙
1988),適応の低い夫婦のもとでは,その子ども
法調査により,父親と母親のあいだの「仲の良さ」
は不安定なアタッチメントを形成する場合が多い
の認知と,その娘が評定した親子関係の性質や親
こと(例えば,Goldberg&Easterbrooks,1984;
に対するイメージとの関連を検討することにある。
Belsky,1984)が示されているのである。
これまで,例えば,「心理的離乳」,あるいは,
さらに,乳幼児だけでなく,児童期から青年期
「脱衛星化」といった概念に示されるように,青
にかけての子どもたちの発達に対しても,その両
年期においては,児童期までとは質的に異なった
親子関係が再構成され,それにともなって,青年
親のあいだの関係の性質や,両親の適合の程度が
期における親子関係の重要性が低下すること,あ
るいは,青年期の親子関係が希薄になることが指
大きな影響を与えている可能性が示されている
(例えば,飛田,1989b)。DSM皿一Rの基準で
は,慢性的な両親のあいだの不和が,小児だけで
摘されてきた。そして,これと対応するかたちで,
なく青年に対しても中程度(レベル3)の心理社
青年期において友人関係や恋人関係が持つ働きの
会的なストレスとしヴ働くことが示されている。
重要性が増加することが主張されてきた。
わが国においても,「両親のけんか」に対して
しかしながら,青年期においても,親との関係
「よくする」と回答した小中学生の家庭は,その
を中心とした家族関係は様々な側面に影響を与え
家族機能のうち,特に,「お父さんやお母さんは,
ていると考えられ(例えば,Curtis,1975),こ
私のことをよくわかってくれる」とか「家庭の雰
のような「親子関係の重要性の低下/仲間関係の
重要性の増大」という単純な図式だけでは,青年
囲気はあたたかい」といった情緒安定機能が円滑
期の対人関係の特質を十分には理解できないこと
(星野,1985)。
も明らかにされている(飛田,1989a)。また,わ
また,小野寺(1984)は,両親の夫婦関係が,
に機能していない場合が多いことが示されている
が国における青年の,特に,女子青年の親子関係
その娘にとって理想的なものにちかいほど,その
の重要性も主張されており(例えば,今井,1981;
娘の父親に対する魅力が大きくなることを示して
小野寺,1984),青年期の親子関係の特徴をさら
いる。 さらに,Kratcoski(1984) は, コミュニ
に検討することが必要と思われるのである。
ケーションや共行動の多さや情緒的な支持といっ
本研究では,このような青年期の親子関係の特
たものを家族遂行度としてとらえ,家族の機能遂
徴を,父親と母親のあいだの「仲の良さ」の認知
行度と家庭内暴力との関係を検討している。高校
との関連から検討する。
生を中心とする若者を対象とした調査の結果,家
両親のあいだの関係の性質が,子どもの発達に
多くの影響を与えていることは,主として,乳幼
族が充分に機能していると認知することと,その
若者の両親に対する暴力とのあいだに高い負の相
児を対象とした研究によって明らかにされてきて
いる(例えば,Porter&0’Leary,1980)。夫婦
家族の人間関係を理解するためには,夫婦関係・
関がみられることを報告している。
父子関係・母子関係といった関係全体の力動であ
* 本研究の一部は,日本教育心理学会第31回総会に
る家族ダイナミックスをとらえる視点がなければ
おいて発表された。
ならないことが指摘されており(例えば,坂西,
** 所属 ピジョン㈱
1987;Orford&0’Reilly,1981),ここでは,女
56
1992年3月
福島大学教育学部論集第51号
子青年の父親との関係,母親との関係のそれぞれ
るいは,その親は自分との関係にどの程度満足し
を,どのように父親と母親のあいだの関係を認知
ていると思うかを評定するもので,「私はいつも
しているかとの関連から検討して行きたい。
父親からの愛情を感じている」,「父親は私を好き
方
法
である」,「全般的にいって父親は私との関係に満
足している」の一3項目から構成されている。
本研究は,女子短期大学生を調査対象とした質
また,FM尺度は,父親と母親のあいだの関係
問紙法調査によってなされ,父親との関係,およ
の相互的な「仲の良さ」についての認知を問うも
び,母親との関係のそれぞれを測定するための親
ので,「父親の母親に対する好意」,「母親の父親
子関係尺度,さらに,父親と母親のあいだの「仲
への好意」,「夫婦としての相互的な仲の良さ」の
の良さ」についての認知を測定するための父母関
3っの下位尺度から構成されている。
係尺度が作成された。
「父親の母親への好意」尺度は,「父親は母親を
信頼している」,「父親は母親にいろいろなことを
質問紙の構成
よく相談する」,「父親は母親を好きである」,「父
質問紙は,調査対象者の年齢,家族構成などを
親は母親の立場を理解している」,「父親は母親を
問うフェイス・シート,父親との関係を問う親子
誇りに思っている」,「父親は母親との関係に満足
関係尺度(FC尺度)と,母親との関係を問う親
子関係尺度(MC尺度),そして,父親と母親の
あいだの関係を問う父母関係尺度(FM尺度),
父親に対するイメージ評定,そして,母親に対す
している」の6項目からなっている。また,「母
親の父親への好意」尺度は,「父親の母親への好
意」尺度に対応する,「母親は父親を信頼してい
る」,「母親は父親にいろいろなことをよく相談す
るイメージ評定の6部から構成されている。
る」,「母親は父親を好きである」,「母親は父親の
FC尺度,および,MC尺度は,共に,「コミュ
立場を理解している」,「母親は父親を誇りに思っ
ニケーション」,「親への尊敬」,「好意・満足感」,
ている」,「母親は父親との関係に満足している」
「被好意感」の4っの下位尺度からなる。ここで
は,FC尺度の具体例を示す。MC尺度は,以下
の6項目からなっている。さらに,「父親と母親
の仲の良さ」尺度は,「父親と母親は一緒に話し
の質問項目の「父親」と「母親」が入れ替わって
合う時間が多い」,「父親と母親は一緒に夕食をと
呈示されている。
ることが多い」,「全般的にいって父親と母親はう
「コミュニケーション」尺度は,その親とのコ
ミュニケーションのしゃすさや共行動の頻度を問
項目から構成されている。
うもので,「私はいろいろなことを父親に相談で
これらの質問項目に対しては,すべて「全くあ
きる」,「私は父親に自分のいいたいことが素直に
てはまらない」から「非常にあてはまる」までの
言える」,「父親は私とよく一緒に買物に行く」,
5段階評定法を用い,「全くあてはまらない」を
「父親は私にいろいろなことをよく相談する」の
まくいっている」,「父親と母親は仲が良い」の4
1点とし,「非常にあてはまる」を5点として得
4項目から構成されている。「親への尊敬」尺度
点化した。
は,その親に対する尊敬の程度を問うもので,
父親に対するイメージ評定,および,母親に対
「私は父親を誇りに思っている」,「父親は私にい
するイメージ評定に関しては,柏木(1964)の因
ろいろなことを教えてくれる」,「父親は家族のた
子分析の結果に基づき,4つの下位尺度が構成さ
めに一生懸命働いている」,「私は父親の健康をき
れている。この4っの下位尺度は,「道徳的正し
づかっている」の4項目からなる。「好意・満足
さ」(「おとった一すぐれた」,「矛盾した一一環し
感」尺度は,その親への好意,および,その親と
た」,「貧弱な一立派な」,「まちがった一正しい」
の関係に対する満足の程度を問うもので,「全般
の4項目),「感覚的快」(「愉快な一不愉快な」,
的にいって私は父親との関係に満足している」,
「楽しい一苦しい」,「あかるい一くらい」,「気持
「私は父親と気が合う」,「私と父親は仲がよい」,
のよい一気持ちのわるい」の4項目),「力量性」
「私は父親が好きである」の4項目からなってい
る。さらに,「被好意感」尺度は,その親から目
(「消極的一積極的」,「狭い一広い」,「小さい一大
分がどの程度好意をもたれているかと思うか,あ
動性」(「はげしい一おだやか」,「すばやい一のろ
きい」,「弱い一つよい」の4項目),および,「活
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飛田操・狩谷佳子:両親の「仲の良さ」の認知と親子関係
表1 親子関係尺度の平均
い」,「活動的な一不活発な」,
「危険な一安全な」の4項目)
父親との関係 母親との関係
む
である。
この計16の形容詞対に対
して,父親に対して,そして,
コミュニケーション
10.18(3.65) 15.28(3.19)
親への尊敬
16.51(2.95) 16.74(2.67)
0.82
好意・満足感
13.99(4.16) 15.91(3.65)
4.80・毒章章
当の親のイメージに最も近い
ところに評定させ(現実評定),
被 好 意 感
1LO1(2.41) 1L76(2.26)
3.44事卓・辱
母親に対して,現在どのよう
なイメージをもっているか,
次に,これと全く同一の16
”” 吹メD001
の形容詞対に対して,「あな
たにとっての理想的な親はどのようなイメージだ
と思うか」との教示のもとに,自分の理想的な父
親像,あるいは,理想的な母親像の評定を求めた
(理想評定)。この両極形容詞対に対しては,7段
15.30・卓・辱
カッコ内は標準偏差
親子関係について
親子関係尺度の信頼性を検討するため,それぞ
れの下位尺度ごとにクロンバックのα係数を求め
た。その結果,「コミュニケーション」,「親への
尊敬」,「好意・満足感」,「被好意感」の4っの下
階評定を用いた。
位尺度のα係数は,父親との関係においては,そ
調査対象者と調査方法
れぞれ,.71,.70,.91,。73であり,母親との関
質問紙は,1989年,私立女子短期大学生146
係においては,それぞれ,.71,.72,.93,.72で
名に対して,授業時に集団で施行された。順序効
あった。充分に高い信頼性が得られたとして考え
果を相殺するために,調査対象者のうちほぼ半数
を,父親との関係に対する評定,母親との関係に
られ,ここでは,各下位尺度に含まれる項目への
対する評定の順に,残りの半数をこれと逆の順に
回答するように割り当てた。また,回答はすべて
無記名で行われ,匿名性とプライバシーの保護が
評定の単純加算点をそれぞれの尺度値とした。
表1に,父親との関係,および,母親との関係
に対する4つの下位尺度の平均値を示した。父親
との関係に対する評定の平均と,母親との関係に
であると回答しており,ここでは,有効回答のう
対する評定の平均のあいだに違いが認められるか
どうかを検討したところ,「親への尊敬」に関し
ち,両親が共に存在すると回答した138名(範囲:
ては,父親に対する評定値と母親に対する評定値
保証された。回答者の大部分が,両親が共に健在
19∼21才)のデータを分析に用いた。
のあいだに有意な差は認められなかったが(むニー
0.82,{ガ=135,π.s.),それ以外の「コミュニケー
結
果
調査対象者の特徴
調査対象者にきょうだいのいない,いわゆる
ション」,「好意・満足感」,「被好意感」の3っの
下位尺度においてはすべて,母親との関係に対す
る評定のほうが,父親との関係に対する評定より
「ひとりっこ」は,18名,きょうだいの存在する
も有意に平均値が高いことが示された(各々,t=一
ものは,119名であった。調査対象者がその両親
の第一子として出生した者が84名,第二子以降
15.30,4∫ニ135,P〈.001;εニー4.80,ガ=137,P〈.
001,亡=一3.44,みニ136,P〈.001)。
調査対象者の父親の平均年齢は,50.7才(範
次に,「ひとりっこ」とそれ以外,第一子とそ
れ以外,両親と同居しているかどうか,祖父母が
囲:43∼61才),母親の平均年齢は,47.4才(範
同居しているかどうか,そして,母親が職業をもっ
囲:40∼56才)であった。約半数(45.5パーセ
ているかどうかによって,父親との関係や母親と
ント)のものが母親に職業があると回答していた。
の関係に対するこれらの尺度への評定値が異なる
に出生した者は53名であった。
また,23名のものが祖父母のいずれか一方,あ
るいは双方と同居していた。
かどうかを検討した。
「ひとりっこ」かどうか,および,祖父母が同
居しているかどうかによっては,これらの尺度値
のあいだに有意な差は認められなかったが,第一
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1992年3月
福島大学教育学部論集第51号
この「活動性」を除いて以下
表2 イメージ評定の平均
の分析を進めることとする。
む
父親イメージ 母親イメージ
ここでは,「道徳的正しさ」,
「感覚的快」,「力量性」のそ
れぞれの下位尺度ごとに,理
道徳的正しさ
4.77(3.95)
4.41 (3.26)
0.99
感 覚 的 快
5.24 (4.14)
3.45 (3.21)
4.79宰拳拳毒
力 量 性
4.93 (3.83) 4.82 (3.12)
“” 吹メD001
0.30
カッコ内は標準偏差
想評定と現実評定の差の絶対
値を求め,その和を尺度得点
とした。したがって,各尺度
得点は,0から24点に分布
し,得点の大きいほど理想評
定と現実評定のくい違いが大
子と第二子以降に出生したものとのあいだには,
きいこと,すなわち, 理想像と比べて,現実の親
「父親への尊敬」において有意差か認められ,第
のイメージをより遠くに認知していることを表し
二子以降に出生したものの平均(17。17)が,第
ている。
一子として出生したものの平均(16.04)より有
このイメージ評定の値が,父親に対するものと,
意に高いことが示された(F−2.45,1ガ=134,p
母親に対するもののあいだで異なるのかどうか検
〈.05)。また,両親と同居しているものと別居し
討したところ,表2に示したように「道徳的正し
さ」と「力量性」においては,父親への評定値と
ているもののあいだの違いを検討した結果,母親
両親と別居しているものの平均(12.44)の方が,
母親への評定値のあいだに有意な差は認められな
かったが(共に,ε<1),「感覚的快」において
同居しているものの平均(11.68)より大きいと
は,母親への評定の平均(3.45)が父親への評定
いう傾向が認められた(F−L82,4∫=30,p〈.
の平均(5.24)より有意に小さいことが示されて
からの「被好意感」において,有意ではないが,
10)。さらに,「母親への尊敬」において,有意で
いる(ε=4.79,dゾ=135,ρ〈.001)。
はないが,母親が職業をもっているものの平均
次に,「ひとりっこ」とそれ以外,第一子とそ
(17.16)が,母親が職業をもっていないものの平
均(16.20)より大きい傾向が認められている(F
れ以外,両親と同居しているかどうか,祖父母が
同居しているかどうか,母親が職業をもっている
−1.87,み=108,P〈.10)。
かどうかによって,父親に対するイメージ評定や,
母親に対するイメーソ評定の値が異なるかどうか
イメージ評定について
を検討した。
イメージ評定尺度の信頼性を検討するためα係
その結果,母親に対する「感覚的快」において,
数を算出した。その結果,父親に対する現実評定
有意ではないが,「ひとりっこ」の平均(5.72)
と理想評定,および,母親に対する現実評定と理
がきょうだいがいるものの平均(4.20)よりも高
想評定のα係数は,「道徳的正しさ」においては,
い傾向にあることが示された(‘=L86,{ガ=133,
それぞれ,.80,.78,.78,.75であり,「感覚的
、ρ〈.10)。また,父親に対する「力量性」におい
快」においては,それぞれ,.85,.79,.82,.79
て,有意ではないが,両親と別居しているものの
であった。また,「力量性」における父親に対す
平均(3.29)が両親と同居しているものの平均
る現実評定と理想評定,および,母親に対する現
(5.21)よりも小さい傾向が認められた(F1.93,
実評定と理想評定のα係数は,それぞれ,.72,
み=130,p〈.10)。さらに,有意ではないが,母
.70,.68,.64であった。これらの尺度において
親に対する「力量性」においても,両親と別居し
は,その信頼性は,ほぼ満足すべき値を示してい
ているものの平均(4.00)が両親と同居している
ると考えられよう。しかしながら,「活動性」に
ものの平均(4.94)よりも小さい傾向が認められ
対するα係数は,父親に対する現実評定が,.45,
た(F1.74,み=35,p〈.10)。ここでは,第一子
父親に対する理想評定が.53,母親に対する現実
か第二子以降に出生したかによる違い,祖父母が
評定が.29,そして,母親に対する理想評定が.46
同居しているかどうかによる違い,および,母親
の職業の有無によるイメージ評定の違いは認めら
と,一貫して低いことが示された・したがって,
59
飛田 操・狩谷佳子:両親の「仲の良さ」の認知と親子関係
表3 「父親一母親関係」と親関係尺度の偏相関
れなかった。
父親一母親関係の根知につ
父から母
母から父
父と母の
いて
への好意
への好意
仲の良さ
父母関係尺度の3っの下
の順に,.89,.92,.80で1
ン敬感感
ヨ
シ尊足
「父親と母親の仲の良さ」
一満意
「母親の父親への好意」,
係ケの・
関二 好
のユへ意
父
と、・、
「父親の母親への好意」,
親コ親好被
位尺度に対するα係数は,
あった。いずれも充分に高
、05
.05
.05
.25毒”
、14
一.01
.21“
.19卓
.05
.24”卓
.08
ン敬感感
ヨ
シ尊足
一満意
「ひとりっこ」とそれ以
外,第一子とそれ以外,両
係ケの●
のユへ意
尺度値とした。
関二 好
加算点をもってそれぞれの
母
とミ
るので,各下位尺度に含ま
れる項目への評定値の単純
親コ親好被
い信頼性があると考えられ
.14
親と同居しているかどうか,
祖父が同居しているかどう
.26””
一.16卓
一.03
.42”“
一.23”専
一.12
.21”
一.12
一.02
.15卓
一.04
一.02
卓P<.05;一P<.01;…P<.005毒…ρ<、001
か,
母親が職業をもっているかどうかによって,
p〈.005)。さらに,有意ではないが,「母親の父
父親と母親とのあいだの関係に対するこれらの尺
親への好意」に対しても,第一子の平均(23.28)
度評定値が異なるかどうかを検討した。
が第二子以降に出生したものの平均(25.09)よ
まず,「ひとりっこ」とそれ以外による評定の
りも低い傾向にあることが示されている(ε=一1.
違いを検討した結果,「父親の母親への好意」に
84,4∫一134,ρ〈.10)。
対して,「ひとりっこ」の平均(20.78)が,きょ
両親と同居しているかどうか,祖父母が同居し
うだいがいるものの平均(24.35)よりも有意に
ているかどうか,および,母親が職業をもってい
低いことが示された(む=一2.92,み=134,ρ〈.00
るかどうによる有意な評定の違いは認められなかっ
5)。また,「父親と母親の仲の良さ」に対しても,
た。
「ひとりっこ」の平均(14.06)がきょうだいがい
示されており(F−2.40,ガ=134,ρ〈.05),さ
両親の「仲の良さ」と親子関係との関連について
両親の「仲の良さ」と親子関係のあいだの関連
らに,有意ではないが,「母親の父親への好意」
を検討するために,父母関係尺度の3つの下位尺
に対しても,「ひとりっこ」の平均(2L89)がきょ
度と,父親との関係,および,母親との関係に対
うだいがいるものの平均(24.31)よりも低い傾
する4っの下位尺度とのあいだの相関をそれぞれ
算出した。ただし,父母関係尺度の3尺度のあい
だの相互の相関を統制した偏相関係数をここでの
連関の指標として用いた。表3に偏相関係数を示
るものの平均(16。24)よりも有意に低いことが
向にあることが示されている(F−1.70,d『=13
4,P〈.10)。
次に,第一子かどうかによる評定の違いを検討
したところ,「父親の母親への好意」に対して,
した。
第一子の平均(22.86)が第二子以降に出生した
ものの平均(25.52)よりも有意に低く(F−3.
父親との関係においては,「母親から父親への
好意」と,父親への「尊敬」,「好意・満足感」,
13,4∫=134,p〈.005),また,「父親と母親の仲の
「被好意感」とのあいだの偏相関係数がそれぞれ
良さ」に対しても,第一子の平均(15.25)が第
有意となっている(各々,r=.25,p〈.005/r=.2
二子以降に出生したものの平均(17.04)よりも
1,p〈.01/rニ.24,ρ〈.005)。また,「好意・満足
有意に低いことが示された(ε=一3.09,{ガ=133,
感」は「父親と母親の仲の良さ」とも有意な正の
60
福島大学教育学部論集第51号
1992年3月
表4 イメージ評定と親子関係尺度との偏相関
道徳的正しさ 感覚的快
すべての尺度とのあいだに
力 量 性
有意な負の偏相関を示して
いる(各々,r=一.31,p
ぐ001;r=一1.5,ρく05;F一
.34,ρ〈.001;r=一.30,P〈.
父親との関係
001)。さらに,「力量性」
敬感感
尊足意
の満
へ意
.好
親好被
コ ユニケーション
一.18’
一.31・糞・・
一.10
一.35}事事雫
一.15壽
一.22”
一.25串”
一.34噛糞卓・
一.23’”
一.27噸章章噸
一.30妻事・・
一.15串
と,「コミュニケーション」
とのあいだの偏相関は有意
には達しなかったが(r=一.
10,η.s.),それ以外の
「親への尊敬」,「好意・満
足感」,「被好意感」尺度と
母親との関係
「力量性」のあいだには有
敏感感
尊足意
の満
へ意
.好
親好被
コ ユニケーション
一.08
一.28車中申専
一.01
一.16’
一.31毒草・・
一.05
一.07
一.37専申申辱
.01
意な負の偏相関が示されて
いる(各々,r=一.22,p
く01;r=一23,〆005;r=一
.15,P〈.05)。
一、03
一.27卓幽申・
一.07
一方,母親との関係にお
壽P<.05;事申P<.01;’“P<.005…卓P<.001
いては,「道徳的正しさ」
は「親への尊敬」とのあい
偏相関を示している(r=.19,p〈.05)。
(r=一.16,
だにだけ有意な偏相関を示しており
一方,母親との関係においては,「コミュニケー
p〈.05),「コミュニケーション」,「好意・満足感」,
ション」,「親への尊敬」,「好意・満足感」,「被好
「被好意感」とのあいだの偏相関は有意ではない
意感」の全ての尺度が「父から母への好意」とそ
れぞれ有意な正の偏相関を示し(各々,rニ.26,
s。)。「感覚的快」は「コミュニケーション」,
P〈。001;r=.42,P〈.001;rニ.21,P〈.01;rニ.15,
「親への尊敬」,「好意・満足感」,「被好意感」の
p〈.05),さらに,「コミュニケーション」と「親
すべての下位尺度とのあいだに有意な負の偏相関
(各々,r=一.08;r=一.07;rニー.03,すべてπ.
への尊敬」は「母親から父親への好意」とそれぞ
を示している(各々,r=一.28,p〈.001;F一。3
れ有意な負の偏相関を示している(各々,rニー
1,P〈.001;F一.37,P〈.001;r=一.27,P〈.001)。
.16,P〈.05;r=一.23,P〈.005)。
「力量性」と「コミュニケーション」,「親への尊
敬」,「好意・満足度」,「被好意感」のすべての下
イメージ評定と親子関係尺度との関連について
察
考
イメージ評定の3つの下位尺度と親子関係の4
つの下位尺度のあいだの相関係数を算出した。た
だし,イメージ評定の3っの下位尺度のあいだの
相関を統制した偏相関係数をここでの連関の指標
位尺度とのあいだの偏相関は有意ではない。
本研究の目的は,父親と母親の「仲の良さ」の
認知と父親に対する関係,および,母親に対する
とした。表4に偏相関係数を示した。
関係とのあいだの関連を,女子青年を対象とした
父親との関係において,「道徳的正しさ」は,
質紙法調査によって検討することにあった。
「コミュニケーション」,「親への尊敬」,「好意・
第一に,女子短期大学生の父親との関係の特徴
満足感」,「被好意感」のすべての親子関係尺度と
と,母親との関係の特徴を比較検討した結果,こ
のあいだに有意な負の偏相関を示している(各々,
れらの女子青年は,父親との関係よりも,母親と
r=一.35,P〈.001;r=一.25,」ρ〈.005;rニー.27,P
の関係に対してより満足し,また,より好意をも
〈.001)。
たれていると認知し,父親よりも母親に対してよ
また,「感覚的快」も,「コミュニケーション」,
りコミュニケーションや共行動を多くとっている
「親への尊敬」,「好意・満足感」,「被好意感」の
ことが示された(表1)。このことは,青年期の
飛田 操・狩谷佳子二両親の「仲の良さ」の認知と親子関係
61
女子における母親との関係の濃厚さ,換言すれば,
ニケーション」と「親への尊敬」は「母親から父
相対的にではあるが,父親との関係の希薄さを示
親への好意」とそれぞれ有意な負の偏相関を示し
しているといえよう。この父親との関係の希薄さ
ている。このことは,母親が父親から好意的な評
は,依存の対象(高橋,1968),自己開示の対象
価を受けているかどうかと,母親に対する好意的
(加藤,1977),社会的影響の認知(今井,1987)
な評価とが,密接な関連を持つこと,そして,母
といったさまざまな社会心理学的側面においても
親が父親を非好意的に評価していると認知するこ
認められており,青年期の女子のかなり一般的な
とが母親とのコミュニケーションや母親への尊敬
特徴としてとらえることができよう。
と密接に関連することが示されたのである。この
父親に対する現実イメージと理想イメージの差,
結果は,父親との関係,あるいは,母親との関係
そして,母親に対する現実イメージと理想イメー
は,単に独立した二者関係の集まりではなく,父
ジの差を求め,この値を比較検討したところ,
「感覚的快」においてだけ,母親への評定の平均
親一母親一子どもという一つのシステムとして理
解する必要があることを示しているといえよう。
(3.45)が父親への評定の平均(5.24)より有意
また,母親が父親を否定的に評価することと母
に小さいことが示されている(表2)。すなわち,
親に対する「コミュニケーション」や「母親への
この「感覚的快」の側面においてだけ,父親より
尊敬」が密接に関連することは,いわゆる「母子
も母親において,より,現実と理想とを近いもの
癒着」が,父親に対する否定的評価を媒介として
として認知していること,換言すれば,相対的に
成立する可能性を示唆している点で興味深い。日
ではあるが,父親に対しては,現実と理想のイメー
本の家族の特徴として,母子癒着が指摘されるこ
ジが離れていることが明らかになったといえよう。
父親と母親が「仲が良い」と認知しているかど
とが多いが,この母子癒着が,母親が父親を否定
的に評価することによって形成されるというダイ
うかによって,父親に対する関係や,あるいは,
ナミックスが存在する可能性があることが示唆さ
母親との関係が異なるのかどうかを検討した結果,
れたのではないだろうか。
父親が母親を肯定的に評価していると認知してい
イメージ評定と親子関係とあいだの関連を検討
るほど,目分も母親を肯定的に評価するようにな
した結果(表4),父親の「道徳的正さ」,「感覚
ること,また,母親が父親を肯定的に評価してい
的快」,そして,「力量性」のそれぞれの側面にお
ると認知しているほど,目分も父親を肯定的に評
価するようになることが示された(表3)。
ける理想のイメージと現実イメージが近いほど,
父親との関係が肯定的になることが示され,これ
父親との関係においては,「母親から父親への
に対して,母親との関係は,その母親が感覚的に
好意」と,父親への「尊敬」,「好意・満足感」,
「被好意感」とのあいだの偏相関係数がそれぞれ
好ましいと感じられるかどうかによって,基本的
には規定されているという結果が示されている。
有意となっており,父親が母親から好意的に評価
ここでも,女子青年の父親の持つ意味の複雑さが
されることと,父親に対する「尊敬」や「好意」,
示されたといえよう。青年期の女子にとって,父
そして,父親との関係に対する「満足感」とが密
接に関連することが示されているといえよう。ま
親は,望ましい異性,あるいは,望ましい配偶者
像を形成していく上でのモデルとして機能してい
た,「好意・満足感」は「父親と母親の仲の良さ」
ることが考えられ,このような点も,イメージ評
とも有意な正の偏相関を示している。このことか
定に影響しているのかもしれない。
ら,父親に対する好意や父親との関係に対する満
ション」,「親への尊敬」,「好意・満足感」,「被好
ところで,Schofield(1968)は,英国の青年
を対象にした調査を行い,父親と仲の良い女子青
年は,性体験が少ないこと,そして,母親と仲の
良いものは,男子・女子ともに性体験が少ないこ
とを報告している。この結果は,家族システム内
での親との関係のありようが,家族システムの外
にある異性の友人との関係のありようをも規定す
意感」の全ての尺度が「父から母への好意」とそ
るという可能性を示すものといえよう。あるいは,
れぞれ有意な正の偏相関を示し,さらに,「コミュ
逆に,家族システム外の友人との関係のありよう
足度は,母親が父親を好意的に評価しているかど
うかと,父親と母親が仲が良いかどうかという認
知の双方によっても規定されている可能性を示し
ているといえよう。
一方,母親との関係においては,「コミュニケー
62
1992年3月
福島大学教育学部論集第51号
が,家族システム内の両親との関係のありようを
Oxfor(i;Clarendon Press.PP.104−118.
規定する側面も存在するとも考えられよう(飛田,
Goldberg,W.A.,&Easterbrooks,M,A、1984
1989b)。この相互規定的なダイナミックスは,
Role ofmarital qualityintoddlerdevelopment.
今後検討されるべき重要なテーマである。
DeuθZoρmεηεαZPsツ。ん。‘08ツ,20,504−514。
本研究の結果,女子青年の母親との関係の密接
坂西友秀 1987 夫婦関係と親子関係の連関 長田雅
さ(今井,1981)と,同時に,父親との関係に対
喜(編)家族関係の社会心理学 福村出版 pp.
する複雑さ(小野寺,1984)が示され,それぞれ
が,父親と母親との「仲の良さ」をどのように認
130−142.
知しているかによって影響されていることが明ら
と満足度との関連について 女子青年を対象とし
飛田操1989a親子関係における対人機能の交換
かにされたといえよう。
て 家族心理学研究,3,75−84.
しかしながら,今回の調査では,女子短期大学
飛田 操 1989b 両親の「仲のよさ」と親密な対人
生だけを対象としている。青年期の女子における
両親との関係や,両親の持つ機能的な意味は,青
関係の関連について 日本グループ・ダイナミック
年期の男子の両親との関係や機能的意味と異なる
星野周弘 1985家族の機能と非行との関係 科学警
可能性が大きい。直接に両親との関係を検討した
ものではないが,Hundleby&Mercer(1987)は,
察研究所報告防犯少年編,26,176−185.
中学生男子においては,両親のあいだの関係がよ
and friends as social environments and their
ス学会第37回大会発表論文集,pp.63−64.
Hundleby,」.D.,&Mercer,G.W.1987 Family
いと認知しているかどうかとその生徒の飲酒や喫
relationship to young a〔iolescents’use of alcho1,
煙習慣とのあいだに関連があるが,中学生女子に
tobacco,marijuana.Joαrηαi o∫Mαrriα8θ飢d
おいては,このような関連はみられないことを報
オんθFα履取,49,151−164.
告している。また,飛田(1989b)は,父親と母
親のあいだの関係の性質が,青年の異性との親密
武俊(編) 心理学四面鏡 新曜社 pp.81−88.
今井一枝 1981 母親とその娘に関する一考察 詑摩
な関係に与える影響は,青年が男性か女性かによっ
今井芳明 1987影響者が保持する社会的勢力の認知
て大きく異なることを示唆している。性差が認め
と被影響者の認知・影響者に対する満足度との関係
れるかどうかを検討するととも,このような性差
実験社会心理学研究,26,163−173.
がどのような家族ダイナミックスのもとで形成さ
柏木繁雄 1964 S−D法による意味構造の因子論的研
れるのかをも同時に解明する必要があろう。
究 心理学研究,35,27−31.
加藤隆勝 1977 青年期における自己意識の構造 心
引 用 文 献
理学モノグラフ Nα14 日本心理学会
Belsky,J.1984 The determinants of parenting;
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飛田 操・狩谷佳子二両親の「仲の良さ」の認知と親子関係
63
【謝辞】 ら貴重なコメントを戴きました。心より感謝いたしま
本論文の作成にあたり,茨城大学教育学部中原弘之 す。
教授,ならびに,文教大学人間科学部秋山絆助教授か
Perceived interparental concor(1ance and the relationships
with parents in female adolescents.
Misao HIDA and Yoshiko KARIYA
We examined the relationships between perceptions of parental concord and
attitudes towar(1their parents.
One hun(ire〔i and thirty−eight college−age(iaughters completed a questionnaire
which asked perceivedl interparental concordance,liking for their parents,sa,tisfac−
tion for the relationships with their parents,an(i the respection for the each of their
parents.
The main results were as follows;
(1) The(iaughters liked their mothers better than their fathers,an(i they also
satisfie〔i with the relationships with their mothers better than with their fathers.
(2) Perceived interparental concordance were closely correlate〔i with the satisfaction
with their pa。rents.
These results were(iiscussed in terms of the family system and their impact on
the development of adolecents.