発達障がいを抱える学生理解について

クラス担任・授業担当の先生方へ
―学生相談室―
発達障がいを抱える学生理解のお願い
「発達障がい(注)とは、何らかの要因による中枢神経系の障がい、つ
まり、脳機能の発達のアンバランスさがあり、コミュニケーション・社
会性・学習・注意力などの能力に偏りや問題を生じて、生活に困難をき
たす状態をさします。例えば、何度言っても同じミスを繰り返してしま
う、どうしても期限内に課題を出すことができない、人付き合いにおい
てトラブルが絶えない、会話がかみあわない・・・一見、誰にも見られ
ることのようですが、これらが一時的ではなく、生活に支障が出るほど
継続し、周囲から指摘されてもなかなか改善されないとうい場合、それ
は本人のやる気や性格の問題というよりも、その人が生来的にもつ特性
と判断できます。」 (高橋、2010、p10)
障がいの診断を得ている学生が中にはいますが、自分の特性に気づいていない、もしくは、
困難は性格や家族のせいだと考えて、人には相談せず自分で解決しようとする学生も少なく
ありません。また、気づいてもうまく悩みを伝えられずに、孤立していく場合もあって、実
際にどのくらいの学生がこの困難に直面しているか、正確な数はわかりません。しかし、こ
のような学生は本学にも在籍していて、これからも増えてくることが予想されます。対人関
係も含め、日常生活がうまくいかないために、大学生活に馴染むことができず、不登校や引
きこもりなってしまう場合もあって、大学全体としての取り組みが求められているところで
す。
このメモは、発達障がいを抱える学生への理解を深めていただくために用意しました。障が
いの種類、困難の内容、それらが大学生の日常生活にどのようなかたちをとって現われるか
を、簡単に記してあります。詳しくは、多くの出版物がありますので、そちらをご参照くだ
さい。
1.発達障がいの学生の問題行動の例
(福田、2010)
1)あるサークルのA君、年末の忘年会の監事になりました。部長から「盛大にやりたいの
で、部員全員を呼ぶよう」言われました。病気で入院中の部員の病室におしかけ、会
に出るよう強く念をおしてしまいました。
(コミュニケーションの問題から、言葉の表
面上の意味しかとれずに、困った行動をしてしまう。)
2)1年生のB君、大学入学直後、構内でタバコを吸っていた初対面の同級生に「君たち未
1
成年者はタバコは吸ってはいけない。止めたまえ!」としつこく注意して、殴られま
した。
(社会性の問題から、場の雰囲気が読めなかったり、常識が分からなかったりす
る。
)
3)4年生のC君、教室では座る席を決めていて、講義の5分前には席につき、ノートとペ
ンを所定の位置に置き、授業中は黙々とノートの板書を映します。他の学生はそのこ
とを知っているので、彼の席は開けていました。ある時、久しぶりに授業に出たY君
がC君の席に座っていると、後からやってきたC君は、Y君をいきなりどかそうとし
て、喧嘩になってしまいました。
(こだわりの強さからくる問題で、決めた枠組みに固
執してしまう。)
福田は、アスペルガー症候群について、理系の先生向けに「脳のソフトウェアの数が少ない
人たちで、ハードウェアの容量そのものの大きさには関係ない。・・・ソフトウェアの数は
少ないが、持っているソフトウェアの容量は大きく、その機能やパフォーマンスは素晴らし
い」との説明をしています。(福田、2010、P47)
この障がいは、脳の中枢神経のネットワークの特性によるもので、1~2歳というごくごく
早期にすでにみられますので、「個性」という見方ができます。しかし、社会では少数派な
ので、「障がい」という言われ方をしています。社会環境の問題から起こるものではなく、
基本的な特性は生涯を通じて続きます。発達障がいがどのようなものかを本人や周囲が理解
し、問題行動をどう自分で変えていくか、周囲の人がどのように接し、どう対応するかを考
えていくことが必要です。
2.発達障がいの種類
1)自閉症スペクトラム障がい(自閉症・アスペルガー症候群など)
―コミュニケーション上の問題として顕在化しやすい-
○社会性の困難
・他人への関心が乏しく、集団の中で適切に振る舞えない
・相手の気持ちを察するのが苦手
・場の状況や文脈を読みとれない
・暗黙のルールが分からないなど
○コミュニケーション上の困難
・独特の語り口〈紋切り型等〉
・話し方の抑揚が不自然
・相手への配慮がない発言
2
・自分の興味があることを一方的に話す
・相手が理解しやすいような話し方ができない
・冗談・皮肉・比喩・慣用句などを字義通りに解釈する
○想像性の問題
・限定された興味の対象に熱中する
・特定の手順にこだわる
・空想と現実の切り返しが難しい
加えて、下記のような困難を抱える人もいます。
○触覚や聴覚が過敏または鈍感といった感覚上の困難
・多くの人には気にならない音や光をとても不快に感じる
・気圧の変化で体調が悪くなる
・痛みを感じにくいなど
○手先や運動面の不器用さ
・細かい作業が苦手
・バランスが悪いなど
〇重要なものとそうでないものの区別、部分と全体との関係がわからない
・知識はあっても、必要な場面でそれを使ったりわかりやすくまとめたり
することがうまくいかない
・知っているルールや規則は守り、時間に正確なことも多いが、柔軟性の
なさが目立つなど
これらの困難は、大学では、次のような学生の姿として現れます。
・授業中に質問(時に本質的でない、やや的外れな)が多くて授業が滞る
・知識はあるのに、「あなたの考え〈意見)は?」と問われると答えられない
・過度にマイペース、配慮のなさなどから仲間とトラブルがおこりやすい、
もしくは孤立する
・作業や課題の指示で曖昧な部分があると、どうしてよいかわからない
・実習先などで、周囲をみながらやるべきことを判断したり、自分で考えて
動くことができない
2)注意欠陥多動性障がい/注意欠陥障がい(ADHD/ADD)
-不注意や集中力の問題として顕在化しやすい-
○不注意:集中力を持続できない、気が散りやすい、聞き落としが多い、不要
な情報を無視できない
○多動性:極端に活動的で落ち着きがない、じっとしていられない
3
○衝動性:予測や考えなしに直ちに行動する、慎重さが足りない、待てない等
大人になると、多動性がやや落ち着く以外、成人期になっても症状は残ると考えられて
います。そして、時間管理、金銭管理、整理整頓など自己管理能力の問題として目立っ
てきます。
以上は、大学では、次のような学生の姿として現れます。
・90分の講義で、集中し続けることが難しい
・実験や実習の授業で、指示を聞き間違えたり、聞き逃したりすることでミスが多くな
る
・課題や提出物の期限を忘れる、提出物をなくす
・課題や試験勉強を計画通りにできない
・遅刻が多い
・財布や携帯電話など、貴重品をなくす
・周囲からだらしがない、あてにならないといった評価をされる。
3)学習障がい(LD)
-知的能力は低くないのに、学習効果が上がらず、学習上の困難として顕在化する-
○読む、書く、計算する、聞く、話す、推論する(見通しをたてる)ことのどれか、ま
たは複数でつまずいている状態
これらは、大学では、次のような学生の姿として現れます。
・話を聞きながらノートをとることができない
・読むのが遅いため、文献資料などを多く読むような課題がこなせない
・外国語など、特定の科目の成績が極端に悪い
・よいアイデアはもっているのに、まとまった文章がかけない
・簡単な計算でも間違える
知的な遅れはなく、普通に会話をしているだけだと、本人の困難が伝わりにくいために
周囲から理解されにくく、
「成績が振るわない学生」
「学力が低い学生」と思われがちで
す。
*
*
*
発達障がいは、身体の障がいと比べて障がいがあるということがわかりにくく、周囲から理
解されにくいという面があります。また、先にも述べたように、本人も、障がいがあるから
うまくいかないのだということがわかっていない場合も多く、本人が気づいていなかもしれ
4
ないということを、周りが知っておくことも大事です。
どの程度の困難であれば障がいなのかという明確な基準はありません。現れる困難の内容や
その現れ方、程度は一人一人異なり、同じような困難を抱えていても、環境によって問題の
現れ方は、大きくも小さくもなります。困難(生きにくさ)は、本人が何よりも一番よく知
っているという前提で、本人が何をどのように困っているかを知るところから、学生理解は
始まります。
日々学生と接する中で、上に述べた発達障がいの可能性のある学生の言動でお悩みの場合は、
学生が何に困っているかを明らかにし、どのような支援が可能かをご一緒に考えますので、
学生相談室にご連絡くださいませ。
参考資料:
・「発達障害のある大学生のキャンパスライフ」高橋知音、学研 2012
・「発達障害大学生への挑戦」斎藤清二・西村優紀美・吉永崇史、混合出版
・「大学生の発達障害」 佐々木正美・梅永雄二監修、講談社 2010
・「大学生のアスペルガー症候群」
福田真也、明石書店
2010
2010
(注)参考資料で「障害」もしくは「発達障害」となっているものを、本メモでは「障がい」
若しくは「発達障がい」と表記しています。
2015年7月
学生相談室
[email protected]
0242-37-2610 (ext. 2133 )
5