カリウムや窒素のドープにより発現するグラファイトの 特異な電子状態と

カリウムや窒素のドープにより発現するグラファイトの
特異な電子状態と触媒特性
(筑波大学 数理・JST さきがけ)近藤 剛弘*
グラファイトはフェルミ面近傍の電子状態密度が小さく,化学的に不活性な材料として知
られている.しかしながら,異元素のドープ等により電子状態を変調するとπ共役系に崩れ
が生じ,非結合性の局在準位がフェルミ面近傍に現れる.我々はこの電子状態がもたらす触
媒機能に着目している.本講演ではグラファイトに様々な処理を施すことで引き起こされる
特異な電子状態と触媒特性に関連する化学的性質を報告する.また特に,カリウムや窒素を
ドープした際に無磁場下にもかかわらず観測されたグラフェン特有のランダウ準位について
詳しく報告する.
グラフェンの電荷は質量ゼロのディラック・フェルミオンであり,磁場中で相対論的なラ
ンダウ準位の量子化を示すことが知られている[1-3].最近、我々は外部磁場をかけなくても,
カリウムを部分的にインターカレートしたグラファイト表面に質量ゼロのディラック・フェ
ルミオンのランダウ準位が生じることを極低温走査トンネル分光(STS)計測により見出した
[4].質量ゼロのディラック・フェルミオンのランダウ準位の出現は、カリウムが部分的にイ
ンターカレートしたグラファイト試料にグラフェンの性質が現れたことを示している.
無磁場下でランダウ準位が出現する現象はこれまでに、白金表面上に成長したグラフェン
に現れる歪んだグラフェンナノバブル[5]や,ルテニウム表面上のグラフェンの歪んだグラフ
ェンナノバブル[5]上における STS 計測により報告されているが,いずれも特異的な歪みによ
って生じた擬磁場によって形成されるランダウ準位[7]として解釈されている.我々が見出し
たランダウ準位の発生個所には,そのような歪は存在していないため,ランダウ準位形成の
起源は歪以外にあると考えられる.そこで我々は観測したランダウ準位の発生要因は最隣接
炭素原子間のホッピングの摂動によって生じたベクトルポテンシャルによるものと考え、筑
波大学の岡田晋准教授と共同でカリウムのないドメインの境界部分における炭素のオンサイ
トポテンシャルの勾配に起因するとしたドメインモデルを新たに提案した[4]。
ごく最近になり、このモデルを支持する結果が窒素ドープグラファイト表面における我々
の STS 計測により新たに見出された。すなわち、窒素ドープグラファイトの非常に平坦な場
所において、はっきりとしたランダウ準位が無磁場下にもかかわらず STS 計測によって観測
された。試料にドープされている窒素はグラファイト型窒素と呼ばれる炭素に 3 配位で結合
した置換型窒素であり、グラファイトの安定なπ共役系に電子をドープしているため正に帯
電している[8]。このような正に帯電した窒素が表面上にランダムに存在することで作り出さ
れたポテンシャル等高線がドメイン構造を形成し、炭素のオンサイトポテンシャルの勾配を
局所的にもたらすことでランダウ準位が発生した可能性がある。
* 本研究は筑波大学中村潤児教授および中村研究室の博士研究員や学生と行ったものです.
[1] A. H. Castro Neto, F. Guinea, N. M. R. Peres, K. S. Novoselov, A. K.Geim, Rev. Mod. Phys. 81, 109 (2009).
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[4] D. Guo, T. Kondo, T. Machida, K. Iwatake, S. Okada, J. Nakamura, Nature Comm. 3, 1068 (2012).
[5] N. Levy, S. A. Burke, K. L. Meaker, A. H. Castro Neto, M. F. Crommie et al. Science 329, 544 (2010).
[6] J. Lu, A. C. Neto, K. P. Loh, Nature Comm. 3, 823 (2012).
[7] F. Guinea, M. I. Katsnelson, A. K. Geim, Nature Phys. 6, 33 (2010) .
[8] T. Kondo, S. Casolo, T. Suzuki, T. Shikano, M. Sakurai, J. Nakamura, et al., Phys. Rev. B 86, 035436 (2012).