生物農薬―この 20 年の歩みと今後の展望

シンポジウム
生物農薬 ― この 20 年の歩みと今後の展望
講
演
要
旨
平成 27 年 1 月 16 日
於:日本教育会館「一ツ橋ホール」
日本植物防疫協会
一般社団法人 シンポジウム 生物農薬―この
年の歩みと今後の展望 講 演 要 旨
20
一般社団法人 日 本 植 物 防 疫 協 会
シンポジウム「生物農薬
─ この 20 年の歩みと今後の展望」
開
催
要
領
1 .日
時:平成 27 年 1 月 16 日(金) 10:00∼17:00
2 .場
所:日本教育会館「一ツ橋ホール」
(3230)2831
東京都千代田区一ツ橋 2-6-2 Tel 03
3 .主
催:一般社団法人 日本植物防疫協会
4 .趣
旨:当協会が生物農薬連絡試験を発足させてから 20 年が経過した。10 年目の
節目に同じテーマでシンポジウムを実施したが,さらに 10 年が経過した。
この間,天敵農薬,微生物農薬等数多くの生物農薬が開発されるとともに,
全国規模で IPM や環境保全型農業の推進が図られてきたが生物農薬の出
荷金額はほぼ横ばいの 20 億円前後で推移している。
そこで今回は,この 20 年間の生物農薬をめぐる動きを総括するととも
に,関係する各分野の立場から見た病害虫防除における生物農薬の現状と
課題について話題提供していただき,今後の生物農薬開発と利用の展望を
考えたい。
5 .参集範囲:国及び都道府県の行政・試験研究機関・普及指導機関,独立行政法人,
大学,JA,農薬企業,防除機企業および関係団体(定員 800 名)
6 .参 加 費:無 料
7 .プログラム(演題は仮題)
10:00 開
会
10:10 「生物農薬この 20 年」
一般社団法人 日本植物防疫協会
業務執行理事
藤 田 俊 一 氏
10:55 「病害虫防除における生物農薬の課題と展望 ─ 微生物農薬開発の歴史と展望」
独 農研機構本部 連携普及企画室長
─ 昼
食
休
仲 川 晃 生 氏
憩 ─
12:40 「企業から見た生物農薬の展望①」
アリスタ ライフサイエンス㈱
製品開発本部開発マネージャー
山 中
聡 氏
13:25 「企業から見た生物農薬の展望②」
石原産業㈱
中央研究所生物科学研究室研究主管
森
光太郎 氏
14:10 「防除指導実践を通して見えてくる生物農薬の課題と展望①」
奈良県病害虫防除所長
國 本 佳 範 氏
─ 休
憩 ─
15:10 「防除指導実践を通して見えてくる生物農薬の課題と展望②」
冨 田 恭 範 氏
城県農業総合センター 園芸研究所研究調整監
─ 休
憩 ─
16:00 総合討論:生物農薬 今後の展開を考える
パネリスト
高知県病害虫防除所
朝比奈
熊本県農林水産部農業技術課
行
奈良県病害虫防除所
國 本 佳 範 氏
城県農業総合センター
17:00 閉
会
徳
泰
史 氏
裕 氏
冨 田 恭 範 氏
独 農研機構本部
仲 川 晃 生 氏
一般社団法人 日本植物防疫協会
藤 田 俊 一 氏
石原産業株式会社
森
アリスタ ライフサイエンス株式会社
山
光太郎 氏
中
聡 氏
目
次
生物農薬この 20 年 

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 1
一般社団法人 日本植物防疫協会
業務執行理事
藤 田 俊 一
病害虫防除における生物農薬の課題と展望 ─ 微生物農薬開発の歴史と展望 









13
独 農研機構本部 連携普及企画室長
仲 川 晃 生
企業から見た生物農薬の展望① 

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アリスタ ライフサイエンス㈱
製品開発本部開発マネージャー
山 中
聡
企業から見た生物農薬の展望② 
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石原産業㈱
中央研究所生物科学研究室研究主管
森
光太郎
防除指導実践を通して見えてくる生物農薬の課題と展望① 
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

37
奈良県病害虫防除所長
國 本 佳 範
防除指導実践を通して見えてくる生物農薬の課題と展望② 


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

43
城県農業総合センター 園芸研究所研究調整監
冨 田 恭 範
生 物 農 薬 こ の 20 年
一般社団法人 日本植物防疫協会
藤 田 俊
一
生物農薬の本格的な開発支援のため,当協会が平成 6 年に生物農薬連絡試験(現在は新農薬実用化試験
(生物農薬)に改称)を発足してから 20 年が経過した。本稿では当協会における取り組み経過をふりかえり
つつ生物農薬の歩みと現状を概観する。
1 .生物農薬連絡試験発足までの経緯
生物的防除に関する研究の歴史は古いが,果樹の侵入害虫の防除のために海外から天敵を導入する取り組
みが先駆的なものであった。その端緒は明治時代にまで
るが,昭和 25 年の植物防疫法施行にあわせて開
始された国の天敵増殖配布事業によって多くの県で果樹のカイガラムシ防除がすすめられた。国の補助事業
はその後も名称を変えながら継続され,様々な生物的防除の取り組みが支援されてきた。研究開発分野でも
プロジェクト研究が立ち上げられ,民間への研究助成も行われるようになってきた。こうした流れの中で企
業による生物農薬開発の機運にも徐々に高まりがみられるようになってきたが,初期における最も大きな課
題は BT 剤の実用化であった。これを支援するため昭和 47 年に当協会に BT 剤研究会が設置され,諸課題
の解決に精力的に取り組んだ(BT 剤は昭和 57 年に登録)
。それに先立つ昭和 45 年には,商業化された初
の天敵農薬としてクワコナカイガラヤドリコバチが登録されたがその後間もなく失効し,昭和の終わりまで
は生物農薬開発に大きな動きはみられなかった。
しかし,平成の時代に入ると新しい天敵農薬や微生物農薬が協会委託試験に登場しはじめ,微生物農薬の
安全性評価も議論されるようになってきた。このように生物農薬への関心がにわかに高まった背景には,国
際的な流れを受けて我が国でも環境保全型農業技術に対する要請が強まり,平成 4 年にはそれを踏まえた新
農政プランが策定されるなど,研究や施策面での後押しがあったものと考えられる。
こうした動きを踏まえ,協会は平成 4 年に「生物農薬検討委員会」を設置し,適切な委託試験の実施指針
などについて検討を開始した。委員会の目的は生物農薬の試験法や評価法の枠組みを整理していくことに
あったが,そもそも企業にとって生物農薬を実用化していくための技術指針が無かったことから,委員会で
は生物農薬の定義や安全性の評価も含むひろい視点から検討を行い,平成 6 年 2 月に「生物農薬開発の手引
き」をとりまとめた。この検討を通じ,それまで曖昧であった生物農薬の定義や分類,科学的な評価に必要
な情報やデータなどが整理された。また,平成 5 年 5 月には国や県の研究者ら 10 名からなる調査団をオラ
ンダに送り,天敵利用の現状と研究動向の調査を行った。
協会は,これらの成果を踏まえて平成 6 年 4 月に「生物農薬連絡試験」という新たな検討の枠組みをス
タートすることとし,同年 9 月に都内で大規模なシンポジウムを開催した。「生物農薬の開発・利用に関す
るシンポジウム」と題したシンポジウムは 2 日間にわたる大がかりなものであったが,会場には全国から
800 名以上もの参加者がつめかけ,関心の高さに驚かされた。同年 12 月に開催した最初の生物農薬連絡試
験成績検討会にも同様に全国から多くの関係者が出席し,会場は活気に
─1─
れた。
2 .連絡試験発足の頃の状況
連絡試験発足当時,最も精力的に開発がすすめられていたのは天敵昆虫製剤であった。㈱トーメン(当時)
が天敵先進国であるオランダ・コパート社から幾つもの天敵昆虫類(ダニ目も含む)を輸入し,施設野菜の
害虫防除分野で実用化試験が展開された。全国の試験場はこの新しい生物資材の試験におおいに興味を示し
たが,最初のうちは放飼のタイミングや量の判断が難しく,効果が得られないこともしばしばであった。企
業でも羽化のタイミングをはかりつつ天敵製剤を輸入するのにずいぶん苦労されたようである。薬効の評価
をめぐっても議論が尽きなかったが,委員会では生物農薬だからといって甘い評価基準にすることは,生物
農薬の将来にとって好ましいことではないとのスタンスをとることを申し合わせた。こうした多くの試行錯
誤の中で生物農薬の試験法や評価法も徐々に整理されてきた。
連絡試験発足から 5 年を経過した平成 11 年 9 月に,協会は再び 2 日間にわたるシンポジウム「生物農薬
その現状と利用」を開催し,新しく実用化された生物農薬を紹介するとともに効果的な使用法について議論
を交わした。当時紹介された生物農薬の農薬登録状況によると,平成 2 年までに登録された生物農薬は 8 種
類 12 製剤(失効も含む)であったのに対し,平成 5∼11 年の 6 年間に新たに 29 種類 39 製剤が登録(うち
14 種類 14 製剤は天敵昆虫類)され,この時期に大きな飛躍があったことがうかがわれる。
研究者や企業による活動にも大きな展開がみられた。例えば,平成 4 年には研究者が中心となって天敵利
用研究会が組織され,年一回大会を開催する一方,最近では web を活用した情報交換を展開している。平
成 8 年には生物農薬開発企業が中心となった日本バイオロジカルコントロール協議会が発足し,同年秋から
講演会や研修会活動を行う一方,化学農薬が生物農薬に与える影響についての情報を集約し公表をはじめた
(企業が中心となった組織としては,平成 18 年に日本微生物防除剤協議会も設立されている。)。農薬登録制
度に関する整備もすすめられ,平成 9 年には微生物農薬の安全性評価ガイドラインが施行された。
3 .その後の概況
連絡試験発足から 10 年を経過した平成 16 年 9 月に,協会は 3 回目のシンポジウムとなる「生物農薬この
10 年間と今後の展望」を開催した。この中で 10 年間の歩みを総括した連絡試験委員長の岡田齋夫氏は「連
絡試験が発足するまでに登録された生物農薬が 6 剤(4 剤は失効),発足後の 10 年間の登録数が 54 剤(7 剤
は失効)である(
:BT 剤は除外されているとみられる)ことをみると,連絡試験における討議や指導は
有効であったと思う。農林水産行政の施策(中略)
,農業の持続的な発展を求める機運が高まったこと(中
略),民間企業に生物農薬開発機運の高まったこと(中略),そうした動きに協会が直ちに対応できたこと(中
略),それらの歯車が上手くかみあったことによると思っている。」と述べている。
平成 10 年頃に特別栽培農産物の規格や表示に関する制度が整備されはじめると,化学農薬の成分回数の
制限を補うために微生物農薬を活用する動きもみられるようになってきた。さらに,平成 14 年に発覚した
無登録農薬問題を契機とした農薬取締法と食品衛生法の改正は,生産者に化学農薬の一層の適正使用を迫る
こととなった一方,残留性が問題とならない生物農薬にはそれまでよりも幅広い作物群での登録が付与され
ることとなり,普及の追い風になりはじめていた。そのようなタイミングで開催したシンポジウムであった
が,「今後の展望」と題した 2 時間に及ぶパネルディスカッションでは,当時第一線で活躍していた指導者
らが「普及は今ひとつすすんでいない」とし,その打開の方策について意見が交わされた。
─2─
表2
生物農薬登録農薬数
昭和 26∼平成 26 に登録された生物農薬数
農 薬 種 類 数
総数
商
(有効)(失効)
総数
品
数
(有効)(失効)
天 敵 殺 虫 剤
微生物殺虫剤
B
T
剤
殺
菌
剤
除
草
剤
植物成長調整剤
25
16
2
17
2
0
21
13
2
13
1
0
4
3
0
4
1
0
66
26
42
40
2
1
47
17
20
28
1
0
19
9
22
12
1
1
計
62
50
12
177
113
64
注 1 )表 1 の集計。ただし,化学農薬等との混合剤は除外した。
注 2 )植物成長調整剤として登録された商品の農薬種類は殺菌剤とし
て計数した(商品名「小苗ふく土」
,種類名「シュードモナス
フルオレッセンス剤」)。
表3
年
度
平成 6 年度
平成 7 年度
平成 8 年度
平成 9 年度
平成10年度
平成11年度
平成12年度
平成13年度
平成14年度
平成15年度
平成16年度
注)(
生物農薬連絡試験受託件数の推移
受 託 薬 剤 数
殺菌剤
2
7
8
7
8
8
13
13
15
16
17(0)
殺虫剤
17
25
30
33
36
39
34
29
31
16
25(1)
計
19
32
38
40
44
47
47
42
46
32
42(1)
受託件数
103
135
168
165
169
222
200
273
290
152
193( 7)
年
度
平成17年度
平成18年度
平成19年度
平成20年度
平成21年度
平成22年度
平成23年度
平成24年度
平成25年度
平成26年度
受 託 薬 剤 数
殺菌剤
17(1)
18(0)
18(2)
17(1)
18(0)
19(0)
14(1)
9 0)
(
11(1)
10(1)
殺虫剤
17(2)
16(2)
15(3)
17(2)
16(0)
18(0)
14(1)
10(1)
12(2)
17(2)
計
34(3)
34(2)
33(5)
34(3)
34(0)
37(0)
28(2)
19(1)
23(3)
27(3)
受託件数
248(17)
237(19)
197(31)
278(37)
224(38)
171(23)
155(20)
157(25)
130(16)
233(54)
)内の数字は,生物農薬連絡試験以外の運営枠で取扱った件数(内数)を示す。
(千円)
2,500,000
2,000,000
1,500,000
1,000,000
500,000
0
H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H
6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
BT 生菌
殺虫剤(BT 生菌を除く)
殺菌剤
除草剤
図1
生物農薬出荷金額の推移(出典:農薬要覧)
─3─
表4
剤
天
の
種
主な生物農薬の出荷金額の推移(平成 16 年∼25 年)
類
H 16
H 17
H 18
H 19
H 20
H 21
H 22
単位:千円
H 23
H 24
H 25
(2004) (2005) (2006)(2007)(2008)(2009)(2010)(2011)(2012)(2013)
オンシツツヤコバチ剤
66,501
57,884 152,432
36,953
30,275
25,429
17,748
13,735
19,408
21,375
コレマンアブラバチ剤
64,716
57,620
18,557
18,510
51,709
25,856
29,630
31,392
32,039
59,705
敵 スワルスキーカブリダニ剤
殺虫剤 タイリクヒメハナカメムシ剤
チリカブリダニ剤
ミヤコカブリダニ剤
14,805 138,106 220,423 302,530 347,359
96,164
97,223
81,104
70,971
111,267
140,268
77,231
44,181 125,608 117,214 101,300 130,021 184,262 304,317
6,065
28,220
44,146
67,151
46,288
92,197
97,483 111,591 151,103 172,288
237,306 121,119
45,717
63,096
53,766
50,355
42,467
52,426
44,544
38,687
49,930
60,922
59,900
55,350
53,026
26,478
微生物 ボーベリア バシアーナ剤
36,912
殺虫剤 ボーベリア ブロンニアティ剤
39,098
BT 剤 BT 剤(生菌)
35,751
36,994
96,057 115,686 114,210 114,628 122,038 109,736
962,412 1,078,558 942,869 890,951 925,831 705,484 676,575 523,263 513,480 494,081
タラロマイセス フラバス水和剤
46,042
トリコデルマ アトロビリデ水和剤
44,091
119,323 171,635 188,726 208,743 143,558 117,313 106,230 103,003 105,745
バチルス ズブチリス水和剤
216,660
200,819 222,404 238,933 312,230 304,737 251,593 237,104 249,262 239,259
非病原性エルビニア カロトボーラ水和剤
127,910
126,617 137,122 151,949 137,307 125,261 152,413 126,967 140,259 128,782
除草剤 ザントモナス キャンペストリス液剤
750
殺菌剤
48,731
6,789
40,932
5,332
36,555 107,014 234,412 288,206 194,911 176,502 187,410
3,069
2,263
744
注)殺虫剤,殺菌剤は,5 千万円以上の品目を抽出した。除草剤は,出荷金額の最も多い品目を抽出した(出典:農薬要覧)
。
この頃から指導者の間では生物農薬の導入のみを目的とするのではなく,IPM プログラムとして推進し
ていく重要性が認識されはじめ,平成 17 年には農水省が IPM 実践指標を策定した。
現在までに登録された生物農薬及び登録薬剤数を表 1(p. 6 参照)及び表 2 に,生物農薬連絡試験件数の
推移を表 3 に示す(平成 14 年度から連絡試験の名称は使っていない)。また,生物農薬出荷金額の推移を図
1 に,主な生物農薬の出荷金額の推移を表 4 に示す。
4 .最近における開発状況
最近 5 年間の委託状況を表 5-1(病害防除関係),表 5-2(虫害防除関係)及び表 5-3(BT 剤関係)に示
す(p. 10 参照)。
全体的な傾向としては,天敵昆虫製剤から微生物農薬に軸足が移り,害虫防除分野よりも病害防除分野の
ほうが活発化しているように見受けられる。しかしその多くは既登録剤の適用拡大目的の試験が占め,開発
中の新しい生物種はごくわずかである。興味深いのは,殺虫剤として登録された一部の微生物農薬が病害防
除にも展開しようとしていることである。適用病害虫が限定されることが生物農薬の欠点とされるが,この
ように,より広範な病害虫への拡大や害虫と病害の同時防除の可能性が拓けることは,今後の普及促進の好
材料になるものと期待される。また,同じ生物種を用いる場合でも,より使いやすい剤型あるいは容器の工
夫を加えたものが登場しており,こうした改良にも目が向けられるようになっているのは心強い。
5 .普及の現状
この 20 年間において全国各地で普及推進のための取り組みが展開されてきた。成功事例については学会
や雑誌等でしばしば紹介されているが,いずれの成功例においても,生物農薬の導入が生産現場の防除ニー
ズと合致し,期待どおりの防除効果を示し,ていねいに指導できる優れた指導者やフォローアップ体制が
─4─
あった点で共通しているように見受けられる。中でも優れた指導体制の存在は不可欠であると聞く。しかし
導入に成功した生物農薬が生産者にアピールしうる優れた特徴をもっていたことも忘れてはならない。例え
ば,バチルス属細菌の微生物農薬が幾つかの施設園芸地域で受け入れられたのは,暖房用ダクトを利用した
簡易かつ安定的な施用法が開発されたことが大きい。スワルスキーカブリダニがひろく受け入れられるよう
になったのは,化学農薬で対応しきれなくなってきたアザミウマ類に対し極めて有効でしかも省力的である
からに他ならない。
他方,生物農薬の出荷金額の推移(図 1 及び表 4)から見えてくる全体的な普及状況は,20 年間で飛躍的
に増加した登録剤数とは裏腹に,生物農薬の導入件数が頭打ちで,限られた生物農薬によってマーケットが
形成されており,限られたマーケットの中で生物農薬同士が競合している実態を示唆している。
生物農薬の普及が拡大しない原因は幾つか考えられるが,この 20 年間に効果が高く環境負荷も少ない化
学農薬が数多く開発されてきたことも見逃せない。広範な病害虫に卓効果を示す強力な化学農薬に対し,も
ともと標的が限られ効果も不安定になりがちな生物農薬は,生産者にとっていかにも心細い。また,生物農
薬の牽引役をはたしてきた天敵農薬分野において,平成 20 年頃から土着天敵の利用機運が高まってきたこ
とも天敵ビジネスに影を落としはじめているように見受けられる(平成 26 年 3 月に農水省から天敵増殖配
布の要件が通知されている)。
おわりに
平成 16 年に行ったシンポジウムの最後に行ったパネルディスカッションで,パネラーが挙げた主な論点
は次のようなものであった。
生物農薬は意外に高価であるがコストを販売価格に転嫁できない/安定した効果を得るために技術や知識
が必要/導入のメリットは社会や消費者にとっては大きいが生産者に対しては小さい(県の指導者),防除
暦のように集団的に利用されることを目指すべき/野外でも使用できる生物的防除剤を開発するべき(開発
企業)/非休眠性の天敵や薬剤抵抗性の天敵の開発などが必要(研究者)/化学農薬との併用を視野に入れた
開発が必要(農薬流通関係者)
生物農薬 20 年を総括する時,10 年前に「点から面へ」と期待した未来は,残念ながらまだ訪れていない。
4 度目となる今回のシンポジウムを通じて描かれる展望に注目したい。
─5─
表1
生物農薬登録状況(平成 26 年 12 月 31 日現在)
注 1 )本表では「農薬要覧」において生物農薬として分類されている製剤(生きた状態で製品化したもの)を生物農
薬として掲載した。
注 2 )初登録年は当該種類の最初の商品が登録された年次を示す。
注 3 )赤字は失効剤。
【殺虫剤(天敵昆虫剤)】
種
類
名
初登録年
商
品
名
1
ルビーアカヤドリコバチ剤
1951年(S 26) ルビーアカヤドリコバチ
2
寄生蜂剤(クワコナカイガラヤドリバチ)
1970年(S 45) クワコナコバチ
3
チリカブリダニ剤
1995年(H 7) スパイデックス(2 剤,1 剤失効)
チリカブリダニパック
カブリダニ PP(2 剤,1 剤失効)
チリトップ
チリガブリ
チリカ・ワーカー
4
オンシツツヤコバチ剤
1995年(H 7) エンストリップ
ツヤコバチ EF(2 剤)
ツヤトップ
ツヤコバチ EF 30
ツヤパラリ
ツヤトップ 25
5
イサエアヒメコバチ・ハモグリコマユバチ剤
1997年(H 9) マイネックス
マイネックス 91
6
ショクガタマバエ剤
1998年(H 10) アフィデント
7
コレマンアブラバチ剤
1998年(H 10) アフィパール
アブラバチ AC(2 剤,1 剤失効)
コレトップ
コレパラリ
8
ククメリスカブリダニ剤
1998年(H 10) ククメリス(2 剤,1 剤失効)
メリトップ
9
ナミヒメハナカメムシ剤
1998年(H 10) オリスター
スリポール
10
イサエアヒメコバチ剤
1999年(H 11) ヒメコバチ DI(2 剤,1 剤失効)
ヒメトップ
イサパラリ
11
ハモグリコマユバチ剤
1999年(H 11) コマユバチ DS(2 剤,1 剤失効)
12
タイリクヒメハナカメムシ剤
2001年(H 13) オリスター A
タイリク
トスパック(2 剤,1 剤失効)
リクトップ
13
ヤマトクサカゲロウ剤
2001年(H 13) カゲタロウ(2 剤,1 剤失効)
14
サバクツヤコバチ剤
2002年(H 14) エルカール
エルカード
サバクトップ
15
ナミテントウ剤
2002年(H 14) ナミトップ
ナミトップ 20
テントップ
─6─
種
類
名
初登録年
商
16
アリガタシマアザミウマ剤
2003年(H 15) アリガタ(2 剤)
17
デジェネランスカブリダニ剤
2003年(H 15) スリパンス
18
ミヤコカブリダニ剤
2003年(H 15) スパイカル
品
名
スパイカル EX
ミヤコトップ
スパイカルプラス
ミヤコスター
19
ハモグリミドリヒメコバチ剤
2005年(H 17) ミドリヒメ(2 剤)
20
チチュウカイツヤコバチ剤
2007年(H 19) ベミパール
21
スワルスキーカブリダニ剤
2008年(H 20) スワルスキー
スワルスキープラス
22
チャバラアブラコバチ剤
2009年(H 21) チャバラ
23
キイカブリダニ剤
2013年(H 25) キイトップ
24
ヒメカメノコテントウ剤
2014年(H 26) カメノコ S
25
ヨーロッパトビチビアメバチ剤
2014年(H 26) ヨーロッパトビチビアメバチ
【殺虫剤(微生物剤)】
種
類
名
初登録年
商
品
1
DCV 水和剤
1974年(S 49) マツケミン水和剤(2 剤)
2
モナクロスポリウム フィマトパガム剤
1990年(H 2) ネマヒトン
3
スタイナーネマ カーポカプサエ剤
1993年(H 5) バイオセーフ(4 剤,3 剤失効)
4
ボーベリア ブロンニアティ剤
1995年(H 7) バイオリサ・カミキリ
5
スタイナーネマ クシダイ水和剤
1997年(H 9) 芝市ネマ
6
パスツーリア ペネトランス水和剤
1998年(H 10) パストリア水和剤
7
バーティシリウム レカニ水和剤
2000年(H 12) バータレック
8
スタイナーネマ グラセライ剤
2000年(H 12) バイオトピア(2 剤,1 剤失効)
9
ペキロマイセス フモソロセウス水和剤
2001年(H 13) プリファード水和剤
10
ボーベリア バシアーナ乳剤
2002年(H 14) ボタニガード ES
11
チャハマキ顆粒病ウイルス・
リンゴコカクモンハマキ顆粒病ウイルス水和剤
ハスモンヨトウ核多角体病ウイルス水和剤
2003年(H 15) ハマキ天敵(2 剤,1 剤失効)
マイコタール
12
2007年(H 19) ハスモン天敵
ハスモンキラー
13
ボーベリア バシアーナ剤
2007年(H 19) バイオリサ・マダラ
14
ペキロマイセス テヌイペス乳剤
2008年(H 20) ゴッツ A(2 剤)
15
ボーベリア バシアーナ水和剤
2012年(H 24) ボタニガード水和剤
16
メタリジウム アニソプリエ粒剤
2014年(H 26) パイレーツ粒剤
ボーベリアン
─7─
名
【殺虫剤(BT 剤)】
種
1
類
名
初登録年
BT 水和剤
商
品
名
1982年(S 57) セレクトジン水和剤
セルスタート水和剤(2 剤)
ダイポール水和剤(8 剤)
トアロー水和剤
バシレックス水和剤(2 剤)
ムシサイド
チューリサイド水和剤(4 剤,3 剤失効)
【顆粒】 1996年(H 8) デルフィン水和剤
ゼンターリ顆粒水和剤(4 剤,1 剤失効)
エスマルク DF(2 剤,1 剤失効)
デルフィン顆粒水和剤
ファイブスター顆粒水和剤
チューンアップ顆粒水和剤
ツービット DF
フローバック DF
バイオマックス DF
エコマスター BT
チューレックス顆粒水和剤
ジャックポット顆粒水和剤
トップクエスト
【フロアブル】 1998年(H 10) バイオッシュフロアブル
クオークフロアブル
ブイハンターフロアブル
サブリナフロアブル(2 剤)
2
BT 粒剤
2001年(H 13) ブイハンター粒剤
【殺菌剤】
種
類
名
初登録年
商
品
名
1
対抗菌剤
1955年(S 40) トリコデルマ生菌
2
アグロバクテリウム ラジオバクター剤
1989年(H 1) バクテローズ
3
非病原性エルビニア カロトボーラ水和剤
1997年(H 9) バイオキーパー水和剤(3 剤,1 剤失効)
エコメイト
4
バチルス ズブチリス水和剤
1998年(H 10) ボトキラー水和剤【MBI 600 株】
(3 剤,1 剤失効)
インプレッション水和剤【QST-713 株】
(2 剤)
バイオワーク水和剤【Y 1336 株】
ボトピカ水和剤【MBI 600 株】
エコショット【D 747 株】
アグロケア水和剤【HAI-0404 株】
バチスター水和剤【Y 1336 株】
セレナーデ水和剤【QST-713 株】
5
シュードモナス フルオレッセンス剤
2001年(H 13) セル苗元気(2 剤)
─8─
【殺菌剤】
種
6
類
名
タラロマイセス フラバス水和剤
初登録年
商
品
名
2001年(H 13) バイオトラスト水和剤【SAY-Y-94-01 株】
タフパール【SAY-Y-94-01 株】
タフブロック【SAY-Y-94-01 株】
モミキーパー【B-422 株】
タフブロック SP【SAY-Y-94-01 株】
7
シュードモナス CAB-02 水和剤
2001年(H 13) モミゲンキ水和剤(3 剤)
8
非病原性フザリウム オキシスポラム水和剤
2002年(H 14) マルカライト
9
トリコデルマ アトロビリデ水和剤
2003年(H 15) エコホープ
エコホープドライ
エコホープ DJ
10
ズッキーニ黄斑モザイクウイルス弱毒株水溶剤 2003年(H 15) キュービオ ZY
【抗ウィルス剤】
キュービオ ZY-02
11
シュードモナス フルオレッセンス水和剤
2005年(H 17) ベジキーパー水和剤
12
バチルス シンプレクス水和剤
2006年(H 18) モミホープ水和剤
13
コニオチリウム ミニタンス水和剤
2007年(H 19) ミニタン WG
14
バリオボラックス パラドクス水和剤
2008年(H 20) フィールドキーパー水和剤
15
トウガラシマイルドモットルウイルス
弱毒株水溶剤
2012年(H 24) グリーンペパー PM
16
シュードモナス ロデシア水和剤
2013年(H 25) マスタピース水和剤
17
バチルス アミロリクエファシエンス水和剤
2014年(H 26) インプレッションクリア
【生物農薬と化学農薬等との混合殺菌剤】
種
類
名
(1) 銅・バチルス ズブチリス水和剤
初登録年
商
品
名
2009年(H 21) クリーンカップ【D 747 株】
ケミヘル【D 747 株】
(2) バチルス ズブチリス・メパニピリム水和剤
2009年(H 21) クリーンフルピカ【D 747 株】
(3) バチルス ズブチリス・ポリオキシン水和剤
2010年(H 22) クリーンサポート【D 747 株】
これらは生物農薬として扱われていないが参考のため掲示した。
【除草剤】
種
類
名
初登録年
商
1
ザントモナス キャンペストリス液剤
1997年(H 9) キャンペリコ液剤
2
ドレクスレラ モノセラス剤
2004年(H 16) タスマート
品
名
品
名
【植調剤】
種
1
類
名
シュードモナス フルオレッセンス剤*
初登録年
商
2001年(H 13) 小苗ふく土(2005 年(H 17)登録)
*「シュードモナス フルオレッセンス剤」は,2001 年に殺菌剤として商品名「セル苗元気」が登録され,2005 年(H
17)に植物成長調整剤として商品名「小苗ふく土」が登録された。
─9─
表 5-1 最近 5 年間に日植防に委託された生物農薬(病害防除)
委 託 薬 剤 名
依 頼 会 社 名
○:初 登 録 年
委託年度毎試験件数
有
効
成
分
名
試 験 対 象 病 害 虫
2010 2011 2012 2013 2014
ボトキラー水和剤
出光興産
○ 1998 年
バチルス ズブチリス
インプレッション水和剤
DS バイオテック
○ 2003 年
バチルス ズブチリス QST-713
ボトピカ水和剤
出光興産
○ 2005 年
バチルス ズブチリス MBI 600
エコショット
クミアイ化学
○ 2005 年
バチルス ズブチリス D 747
アグロケア水和剤
日本曹達
○ 2009 年
バチルス ズブチリス HAI-0404
バチスター水和剤
アリスタ・ライフサイエンス
○ 2010 年
バチルス ズブチリス Y 1336
SB-9501 水和剤
SDS バイオテック
○ 2014 年(インプレッションクリア)
バチルス アミロリクエファシエンス
イキイキグリーン水和剤
科研製薬
パエニバチルス ポリミキサ BS-0105
ベジキーパー水和剤
セントラル硝子
○ 2005 年
シュードモナス フルオレッセンス G 7090
セル苗元気・ライブコート種子
多木化学
○ 2001 年(セル苗元気)
シ ュ ー ド モ ナ ス フ ル オ レ ッ セ ン ス FPT-9601 トマト青枯病
FPH-9601
マスタピース(NR-24)水和剤
日本曹達
○ 2013 年
シュードモナス ロデシア HAI-0804
フィールドキーパー水和剤
セントラル硝子
○ 2008 年
バリオボラックス パラドクス
CGC 2014 水和剤
細菌
うどんこ病(きゅうり)
,かいよう病(トマト)
,黒
枯病(ピーマン)
2
3
うどんこ病(きゅうり)
,灰色かび病(トマト,ホッ
プ),白斑葉枯病(にら・にんにく)
3
3
稲こうじ病,葉かび病(トマト)
2
斑点病(しそ),ぶどう(灰色かび・うどんこ),か
いよう病(うめ)
6
うどんこ病・灰色かび病(果菜,果樹),斑点病(しそ,
トマトほか),アスパラガス褐斑病,しょうが白星病 22
ほか
うどんこ病(花き,きゅうり)
,灰色かび病(かんき
つ,トマト)
うどんこ病・灰色かび病(果菜,ホップ等)
,すすか
び病,黒枯病,白斑葉枯病,おうとう灰星病,芝葉
腐病ほか
う ど ん こ 病(き ゅ う り,す い か,パ セ リ),褐 斑 病
(きゅうり),炭疽病(すいか)
黒 斑 細 菌 病 ほ か(き ゃ べ つ,は く さ い,ブ ロ ッ コ
リー),たまねぎ腐敗病,うめかいよう病,ももせん
孔細菌病
軟腐病・黒斑細菌病ほか(あぶらな科,レタス,セ
ルリー)
,かいよう病(果樹)
,ももせん孔細菌病ほ
か
4
14
7
6
9
1
3
2
16
20
21
37
10
4
5
9
11
2
15
8
18
17
27
3
4
2
1
6
4
11
7
4
根こぶ病(ブロッコリー)
ブロッコリー花蕾腐敗病
セントラル硝子
2
エコホープ
クミアイ化学
○ 2003 年
トリコデルマ アトロビリデ SKT-1
KIS-1103 水和剤
トリコデルマ アスペレラム T-34
稲もみ枯細菌病,りんご紫紋羽病
4
1
萎黄病(いちご),萎凋病(トマト)
,青枯病(トマト)
石黒製薬所
IK-158 水和剤
タラロマイセス フラバス SAY-Y-94-01
出光興産
○ 2012 年(タフブロック SP)
タフブロック
出光興産
○ 2007 年
タラロマイセス フラバス(水和剤)
タフパール
出光興産
○ 2007 年
タラロマイセス フラバス(フロアブル)
ミニタン WG
石原産業ほか
○ 2007 年
コニオチウム ミニタンス CON/M/91-08
KNB-L 422 フロアブル
糸状菌
稲種籾消毒(いもち,ばか苗,もみ枯細菌,苗立枯
細菌),苗立枯病
22
3
稲種籾消毒(ごま葉枯,ばか苗,苗立枯)
9
灰色かび病(トマト)
1
セントラル硝子
KNB-W 422 水和剤
2
15
3
5
1
糸状菌
セントラル硝子
MK-0501 水和剤
Meiji Seika ファルマ
乳酸菌
ボタニガード ES
アリスタ・ライフサイエンス
○ 2002 年(殺虫剤として)
ボーベリア バシアーナ GHA
マイコタール
アリスタ・ライフサイエンス
○ 2001 年(殺虫剤として)
バーティシリウム レカニ
ゴッツ A
住友化学
○ 2008 年(殺虫剤として)
ペキロマイセス テヌイペス T 1
菌核病(いんげん,キャベツ,なたね)
,黒腐菌核病
(ねぎ)
2
稲種籾消毒(もみ枯細菌病,苗立枯細菌病)
,稲苗立
枯病
10
稲種籾消毒(ばか苗病,もみ枯細菌病,苗立枯細菌
病),稲苗立枯病
13
8
3
4
3
はくさい軟腐病
うどんこ病(きゅうり),青枯病(トマト)
2
うどんこ病(きゅうり),青枯病(トマト)
2
うどんこ病(いちご,きゅうり,すいか,ピーマン,
メロン),きゅうり炭疽病
注)便宜上,果樹等の試験は作物分野ごとの運営区分の中で取り扱っている。
─ 10 ─
4
14
21
表 5-2 最近 5 年間に日植防に委託された生物農薬(害虫防除)
委 託 薬 剤 名
依 頼 会 社 名
○:初 登 録 年
委託年度毎試験件数
有
効
成
分
名
試 験 対 象 病 害 虫
2010 2011 2012 2013 2014
カブリダニ PP
シンジェンタジャパン
○ 2002 年
チリカブリダニ
スパイカル
アリスタ・ライフサイエンス
○ 2008 年(スパイカル EX)
ミヤコカブリダニ
ミヤコトップ(CAS-013)
アグリ総研
○ 2011 年
ミヤコカブリダニ
ミヤコスター(STS-02)
住化テクノサービス
○ 2013 年
ミヤコカブリダニ
ICB-06
ミヤコカブリダニ(ボトル)
ハダニ類(きく,カーネーション)
3
露地野菜ハダニ類(きゅうり,なす,さやいんげん)
8
ハダニ類(なす,ピーマン)
4
ハダニ類(いちご,なす,ピーマン,きく)
4
3
ミヤコカブリダニ(パック)
ハダニ類(きゅうり,なす,いちご,なし,ぶどう,
おうとう,花き)
石原産業ほか
ICB-010
ミヤコカブリダニ(パック+バンカーシート)
石原産業ほか
スワルスキー
アリスタ・ライフサイエンス
○ 2008 年
スワルスキーカブリダニ
IK-19
スワルスキーカブリダニ
石原産業ほか
ハダニ類(きゅうり,なす,いちご,なし,ぶどう,
おうとう,花き)
アザミウマ類(きゅうり),コナジラミ類(きゅうり,
なす,ピーマン)
スワルスキーカブリダニ(パック)
キイカブリダニ
ALE-1211
リモニカスカブリダニ
4
7
アザミウマ類(果菜,花き,かんきつ,びわ,マン
ゴー),コナジラミ類(果菜)
,ミカンハダニ(みかん)
スワルスキーカブリダニ
(パック+バンカーシート)
キイトップ(CAS-014)
アグリ総研
○ 2013 年
カメノコ S(STS-01)
住化テクノサービス
○ 2014 年
ヒメカメノコテントウ
CAS-016
ヒメカメノコテントウ
2
アザミウマ類(きゅうり,なす,ピーマン,いちご)
,
コナジラミ類(きゅうり,なす,ピーマン)
4
アフィパール
アリスタ・ライフサイエンス
○ 1998 年
コレマンアブラバチ
ALE-1151
ギフアブラバチ
12
アブラムシ類(なす)
2
2
2
7
2
3
3
1
むくげアブラムシ類
1
アブラムシ類(きゅうり,なす)
5
アブラムシ類(なす,ピーマン)
3
イサエアヒメコバチ
ハモグリバエ類(なす)
石原産業ほか
○ 2006 年(イサパラリ)
2
アカメガシワクダアザミウマ(箱)
アザミウマ類(いちご)
石原産業
5
アカメガシワクダアザミウマ(ボトル)
石原産業ほか
コミドリチビトビカスミカメ
ハスモン天敵
日本化薬
○ 2007 年
ハスモンヨトウ核多核体病ウイルス
NR-17 液剤
オオタバコガ核多核体病ウイルス
アザミウマ類(きゅうり,ピーマン,ししとう,い
ちご,花き)
アザミウマ類(なす,ピーマン)
,コナジラミ類(な
す,ピーマン)
住友化学
11
13
1
いちごハスモンヨトウ
1
オオタバコガ(なす,ピーマン,アスパラガス,きゃ
べつ,とうもろこし)
日本曹達
ハマキ天敵
アリスタ・ライフサイエンス
○ 2004 年
13
アブラムシ類(いちご,なす,ピーマン)
アリスタ・ライフサイエンス
RS-2
14
いちごキノコバエ類,にらネダニ類
6
ヤマトクサカゲロウ
ICB-007
38
2
カゲタロウ
アグロスター
○ 2001 年
IL-007
7
16
アグリ総研
ICB-03
3
アザミウマ類(きゅうり,なす)
アリスタ・ライフサイエンス
トゲダニの一種
1
アザミウマ類(果菜,花き,かんきつ,びわ,マン
ゴー),コナジラミ類(果菜)
4
エントマイト
アリスタ・ライフサイエンス
25
11
4
石原産業ほか
ICB-011
1
アザミウマ類(露地なす,きく),びわミカンハダニ
出光興産
ICB-009
1
いちごカンザワハダニ
石原産業ほか
ICB-008
11
チャハマキ顆粒病ウイルス・リンゴコカクモン 茶チャハマキ
ハマキ顆粒病ウイルス
─ 11 ─
5
2
委 託 薬 剤 名
依 頼 会 社 名
○:初 登 録 年
委託年度毎試験件数
有
効
成
分
名
試 験 対 象 病 害 虫
2010 2011 2012 2013 2014
ボタニガート(ALB-0664 水和剤)
アリスタ・ライフサイエンス
○ 2012 年
ボーベリア バッシアーナ
ボタニガート ES
アリスタ・ライフサイエンス
○ 2002 年
ボーベリア バッシアーナ
パイレーツ粒剤(ALB-0663 GR)
アリスタ・ライフサイエンス
○ 2014 年
メタリジウム アニソプリエ
IK-2018 水和剤
糸状菌
アザミウマ類(果菜)
,コナジラミ類(果菜)
,アブ
ラムシ類(きゅうり)
9
9
5
アブラムシ類(きゅうり,なす,ピーマン)
,アザミ
ウマ類(ピーマン),ハダニ類(きゅうり)
7
6
2
ア ザ ミ ウ マ 類(果 菜,花 き,ア ス パ ラ ガ ス,ね ぎ,
マンゴー),なすハモグリバエ類
3
14
13
4
1
5
2
11
きゃべつコナガ,きゅうりコナジラミ類
出光興産
3
パストリア水和剤
サンケイ化学
○ 1998 年
パスツーリア ペネトランス
ゴッツ A
住友化学
○ 2008 年
ペシロマイセス テヌイペス
NK-1211 液剤
微生物
ネコブセンチュウ(きゃべつ,きゅうり,トマト)
1
アブラムシ類(きゅうり)
2
ネコブセンチュウ(きゅうり,トマト,にんじん),
ネグサレセンチュウ(いちご)
日本化薬
バイオトピア
SDS バイオテック
○ 2010 年
スタイナーネマ グラセライ
バイオセーフ
SDS バイオテック
○ 1993 年
スタイナーネマ カーポカプサエ
カブラヤガ(にんじん,ねぎ)
,タマナヤガ(だいこ
ん)
7
4
ヒメボクトウ(りんご,いちょう,なし)
,ぶどうク
ビアカスカシバ,うめコスカシバ
2
1
4
2
注)便宜上,果樹等の試験は作物分野ごとの運営区分の中で取り扱っている。
表 5-3 最近 5 年間に日植防に委託された BT 剤
委 託 薬 剤 名
依 頼 会 社 名
○:初 登 録 年
IK-2014 水和剤
委託年度毎試験件数
有
効
成
分
名
試 験 対 象 病 害 虫
2010 2011 2012 2013 2014
バチルス チューリンゲンシス
稲コブノメイガ,イネツトムシ,フタオビコヤガ
出光興産
IK-2017 水和剤
3
バチルス チューリンゲンシス
稲コブノメイガ,イネツトムシ,フタオビコヤガ
出光興産
NI-35 顆粒水和剤
3
バチルス チューリンゲンシス
チョウ目害虫(きゃべつ,とうもろこし,なす,レ
タス,りんご)
日本曹達
ST ゼンターリ顆粒水和剤
6
バチルス チューリンゲンシス
ケムシ類(サクラ,プラタナス)
,つばき類チャドク
ガ
住友化学園芸
○ 2006 年
ゼンターリ顆粒水和剤
住友化学
○ 2006 年
バチルス チューリンゲンシス
サブリナフロアブル
Meiji ファルマ・サンケイ化学
○ 2006 年
バチルス チューリンゲンシス
ジャックポット顆粒水和剤
アリスタ・ライフサイエンス
○ 2010 年
バチルス チューリンゲンシス
エスマルク DF
住友化学
○ 1998 年
バチルス チューリンゲンシス
チューアップ顆粒水和剤
SDS バイオテック
○ 2000 年
バチルス チューリンゲンシス
フローバック DF
住友化学
○ 2001 年
バチルス チューリンゲンシス
20
20
6
2
10
アワノメイガ(あわ,ひえ,とうもろこし)
ケムシ類(サクラ,プラタナス)
,つばき類チャドク
ガ
1
4
ハスモンヨトウ(いちご,なす)
4
チョウ目害虫(稲,あわ,ひえ,だいこん,ばれい
しょ,うめ,茶,花き,花木,さくら,綿花)
7
6
11
11
27
稲ニカメイチュウ,コブノメイガ,イネツトムシ,
フタオビコヤガ,茶ハマキムシ類
9
5
7
9
6
24
21
チ ョ ウ 目 害 虫(稲,あ わ,ひ え,そ ば,い ん げ ん,
えんどう,ちんげんさい,だいこん,ばれいしょ,
かんしょ,花き)
注)便宜上,BT 剤の試験は作物分野ごとの運営区分の中で取り扱っている。
─ 12 ─
3
病害虫防除における生物農薬の課題と展望
─ 微生物農薬開発の歴史と展望 ─
独 農研機構本部
仲 川 晃
連携普及企画室長
生
はじめに
表1
日本植物防疫協会が行う新農薬実用化試験に,1994 年から
生物農薬試験が別途加えられて以来,現在までに 20 年が経過
年度
する。ここで検討された委託試験の数も 1994 年度には病害・
虫害合わせて,19 剤 103 件であったものが,1999 年度には 47
剤 222 件に達し,本年(2014 年)度でも 27 剤 233 件を扱って
いる(表 1)。しかし,順調に伸びているようにみえる生物農
薬も,現状は頭打ち感が強い。この原因は,端的に言えば「値
段が高い割りに効かない」の一言に尽きる。このため本論で
は,生物農薬の抱える課題と展望について病害の分野を中心に
以下に述べて行きたい。
生物農薬の現状
わが国の生物農薬は,1951 年に天敵(寄生蜂)剤としてル
ビーアカヤドリコバチが登録となったことに始まり,微生物を
扱った生物農薬としては 1954 年に山陽薬品㈱より,トリコデ
ルマ生菌(対抗菌剤)がタバコの白絹病,腰折病に対して登録
された。トリコデルマ生菌の処理法は,10 a 当たり 500 g の割
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2011
2012
2013
2014
生物農薬受託試験の推移
受託薬剤数(剤)
殺菌剤
殺虫剤
計
受託件数
(件)
2
7
8
7
8
8
13
13
15
16
17
17
18
18
17
18
19
14
9
11
10
17
25
30
33
36
39
34
29
31
16
25
17
16
15
17
16
18
14
10
12
17
19
32
38
40
44
47
47
42
46
32
42
34
34
33
34
34
37
28
19
23
27
103
135
168
165
169
222
200
273
290
152
193
248
237
197
278
224
171
155
157
130
233
合で 20 倍程度のぬかに本剤を均一に混合し,タバコの株元に
除草剤 0%
散布するものであるが,散布した菌の定着・増殖の
ために「お弁当(ぬか)
」を持参させる工夫が目を
引く。残念ながら本剤はタバコ栽培の減少もあり
殺菌剤 32.0%
天敵昆虫等
37.7%
2004 年 6 月に失効となったが,約 50 年の長きに亘
BT 剤
23.2%
り登録を維持できたことは,生産者のニーズに対応
できた結果と思われる。
翻って現状の生物農薬の普及程度を生物農薬各剤
(殺虫剤,殺菌剤,除草剤)全体の出荷額を尺度と
天敵微生物 7.1%
図1
生物農薬出荷額における各薬剤の割合
して見ると,2012 農薬年度では出荷総額は 22 億
1,200 万円に達している。このうち,天敵昆虫類の出荷額が全体の 37.7%(8 億 3,500 万円)を占め,次い
で微生物殺菌剤 32.0%(7 億 800 万円),微生物殺虫剤(BT 剤含む)30.3%(6 億 7,000 万円)の順となり,
除草剤では出荷がなかった(図 1)。しかし,この生物農薬の出荷額は,化学農薬を含む殺虫剤,殺菌剤お
─ 13 ─
ボーベリア ブロンニアティ
3.5%
ボーベリア
バシアーナ剤
3.5%
ミヤコカブリ
ダニ剤
10.0%
チリカブリダニ剤
12.2%
図2
その他 5.5%
トリコデルマ
アトロビリデ剤
14.6%
その他 16.6%
BT 水和剤
34.1%
非病原性
エルビニア剤
19.8%
スワルスキー
カブリダニ
20.1%
図3
生物農薬殺虫剤出荷額における主要製剤の割合
バチルス
ズブチリス剤
35.2%
タラロマイセス
フラバス剤
24.9%
生物農薬殺菌虫剤出荷額における主要製剤の割合
よび除草剤を合わせた総出荷額 3,501 億円のわずか 0.63%を占めているに過ぎない。生物農薬全体の出荷額
は 2004 農薬年度に 19 億 5,200 万円に達して以降,今日までの 10 年間はほぼ 20 億円前後で均衡している。
登録生物農薬数は 2014 年現在,殺虫剤が 34 種類 64 剤,殺菌剤が 13(+混合剤 3)種 28(+混合剤 4)剤,
除草剤が 1 種 1 剤登録されている。
2012 年度の生物農薬の殺虫剤と殺菌剤それぞれの主要な製剤の割合を見てみると,殺虫剤(総出荷額 15
億 400 万円)では,BT 剤の出荷額が全出荷額の 34.1%を占め,次いで天敵昆虫類製剤であるスワルスキー
カブリダニ剤の 20.1%,チリカブリダニ剤の 12.2%,ミヤコカブリダニ剤の 10.0%の順に出荷額が多い(図
2)。
一方,殺菌剤(総額 7 億 800 万円)では,バチルス ズブチリス水和剤が全出荷額の 35.2%と多く,次い
でタラロマイセス フラバス水和剤 24.9%,非病原性エルビニア カルトボーラ水和剤 19.8%,トリコデル
マ アトロビリデ水和剤 14.6%の順となっている。これら生物農薬は,環境保全型農業が重要視され始めた
1990 年頃から新規剤の開発が盛んになり,環境保全型農業を担う基幹防除技術として広く利用が期待され
ているものの,現状は特定の数剤の利用に偏る傾向が認められ,特に殺菌剤でその傾向が顕著である(図 3)
。
生物防除を取り巻く状況
中央農研を含む農研機構の各地域研究センターでは,所管各県の該当年度の研究課題を農業試験研究成
績・計画概要集としてまとめている。農研機構が第 3 期中期計画に入った 2011 年からは,その作成を中止
したが,第 2 期最終年の 2010 年における中央農研所管の関東東山地域で取り組まれている土壌病害に対す
る研究項目を研究概要書に基づき整理したものを図
同定・検出法 7.8%
その他 3.9%
4 に示した。研究項目としては,病害防除に関わる
項目が多く,その内訳は耕種的防除法 29.5%,生物
新発生病害
7.8%
的防除法 19.7%,薬剤防除 13.7%と,その 62.9%が
耕種的防除法
29.5%
発生生態 17.6%
病害防除に関する研究であり,その他発生生態の研
薬剤防除法
13.7%
究が 17.6%の割合で行われていた。このことから
生物的防除法
19.7%
は,現状の研究の中において,環境に優しい防除の
研究が積極的に取り組まれ,生物防除も耕種的防除
に次ぐ研究テーマとなっていることが判る。
図4
─ 14 ─
関東東山地域で取組まれている土壌病害の研究項目
一方,行政的な動きに目を向けると,中国産食品の安全性から端を発した残留農薬のポジティブリスト制
の導入や食の偽装問題に代表されるように,消費者側の食の安全・安心に対する関心は非常に高く,安全な
食品の供給に対するニーズも大きい。このような要望を受けて行政側も 2010 年 3 月に「食料・農業・農村
基本計画」を閣議決定し,今後のわが国の農業を環境に調和した持続可能な農業へと移行させることの必要
性を強調している。そしてこの達成のために,病害虫防除の場面においては,IPM の概念に基づき,化学
農薬への依存を減らした病害虫管理技術の実行が重要な課題となってきている。IPM とは,化学農薬の使
用を出来るだけ控え,耕種的防除技術,生物的防除技術,物理的防除技術などの手段を合理的に組み合わせ
ることで,病害虫によるリスク管理を図るものであり,IPM の概念に基づいた環境保全型農業推進のため
には,耕種的防除を中心とし,生物農薬の積極的な使用による農業生産技術の開発が必要となる。すなわち,
今後とも生物防除や生物農薬と言った分野の担う役割は大きく,これらに対する潜在的ニーズも高いと言え
る。特に,生物農薬はホジティブリスト規制対象外となり,使用農薬回数にカウントされないことから減農
薬栽培技術を確立する上で重要な要素技術である。また,化学農薬に対する耐性菌や抵抗性害虫に対しても
有効な手段となるなどの多くの利点も持つ有望なツールであると言えよう。
生産者側が抱える課題
微生物農薬は,効力が不安定で保存性が劣り,使用方法が難しく気象条件に影響を受け易いなど多くの問
題があるために,農家が積極的に使用するにはハードルが高い面があることは否定できない。行徳(2004)
が 2004 年に行われた本シンポジウム「生物農薬 ─ この 10 年間と今後の展望 ─」にて普及における問題点
として記述しているように,① 生物農薬の価格は高く,② 安定した効果を得るためには技術,知識が必要
であり,③ 生物農薬を導入した時のメリットは何か?と言った点に問題が残ることを指摘している。これ
らの点は真に正
を射ており,端的に言えば,
「高いくせに効かない」のが最大の問題だからである。エン
ドユーザーたる農家からすれば,これは今までとは違う新しい剤ですと言われて剤を手にし,よく効くのだ
ろうと思って使った結果が期待にそぐわねば,二度と生物農薬と言う剤を手にしなくなるのは自明の理であ
る。この原因の一つには,黎明期の生物農薬の判定会議においては,生物農薬だからと言う理由で甘い判定
がなされたこともあり,その結果としてエンドユーザーが臍を噛むことになったのであれば,事実を真摯に
受け止め猛省すべきである。生物農薬と言う「生き物」を扱った剤の効果限界を使用範囲の中に明確に示す
ことがまず第一に必要である。
行徳(2004)が示した 3 つの課題の内,①生物農薬の価格が高い点については,多数の農薬が使われるよ
うになれば,需要と供給のバランスを持って価格は現状よりも下がるであろうと言う事は,ある程度理解さ
れよう。しかし,③の生物農薬の導入メリットについては,生物農薬を使うことによる差別化を図っている
場合には,皆が一律に生物農薬を導入した時点で先行メリットはなくなってしまうことは指摘通りである。
この問いかけについては,現時点では今後の社会的な情勢として,化学農薬一辺倒の防除は受け入れられな
くなって来ていると言う答えしか持ち得ない。
我々は農業に係わる技術者として,②安定した効果を得るための技術開発に真摯に取り組むことが,ます
ます重要となってくる。
─ 15 ─
生物農薬の利用促進のために
病害防除における微生物農薬を対象として考えた場合,効果安定のためには,ともかくよく効く拮抗微生
物を手に入れることが重要であり,また,効かすための工夫が必要となる。このためには,拮抗微生物側の
育種による高能力菌・広スペクトラム菌の開発,連用による効果の安定,化学農薬との組み合わせ等の方策
が考えられる。
⑴
拮抗微生物側の育種による高能力菌・広スペクトラム菌の開発
微生物農薬が効かないと言う問題を解決する一番の方策は,防除効果の高い有望な菌株を使うことであ
る。このためには,より広範な分離源から有用菌を分離し,有望菌株の選抜を行うことも必要ではあるが,
現在ある有用菌から有望な菌株を作出することも一つの手段として考えるべきである。糸状菌である食用き
のこでは,選択育種,分離育種,交配育種,導入育種,突然変異育種,細胞選抜育種等の技術を使い,有望
菌株の作出・育成を行っている(金子,2013)。拮抗微生物に対する突然変異育種については,シュードモ
ナス フルオレッセンス菌に対し,イオンビームを用いることで親株よりも高い発病抑制効果の作出が試み
られた(Aino,2009)。これなども,今後の高能力な有望菌株を得る上で重要な方策である。
一方,拮抗微生物は通常,特定の病原菌に対して特定の拮抗微生物が選抜されてきている。このため,多
くの病原菌について同時に効果を示す広スペクトラムな拮抗微生物としての選抜はなされて来ていない。現
状,能力的に比較的多くの病原菌について効果を示す事のできる拮抗微生物は,バチルス ズブチリス菌等
が考えられ,殺菌剤の出荷額で同菌製剤が 35.2%と多い原因もここにあると考えられる。化学農薬では散
布により,登録にはない病害も同時に防除していると考えられるため,複数の病害に対し,同時に効果を示
す広スペクトラムな拮抗微生物の利用は,今後の生物農薬の普及促進を図る上で必須の課題である。
⑵
効果の安定のための連用
拮抗微生物を用いて土壌病害防除を行う場合の考え方として,もともとその地に定着していた土着の拮抗
微生物(General antagonizm)集団の活性を増強させて病害の発生を制御しようとする方策と,有用な特定
の拮抗微生物(Specific antagonizm)を化学農薬を施用するように直接的に導入して病害を防除しようとす
る場合の大きく二通りの考え方がある。General antagonizm では,拮抗微生物は土着の多種類の微生物集団
であり,多量の有機物を施用することでその場に住んでいた拮抗微生物集団の活性(菌密度)を高め,その
結果として病原菌を抑え込めようとする方法である。元来,土着の拮抗微生物であることから,土壌への定
着は容易であると考えられる。これに対し Specific antagonizm の場合,特定の拮抗微生物を用いると,施
用直後から土着の微生物の攻撃にさらされると考えられ,定着が容易でないという側面を有す。
生物農薬実用化試験の場合,通常は化学農薬と同じく一作期における効果判定がなされ,同じ剤を作期を
またいで連用した場合に,拮抗微生物が圃場にどのような密度で残り,作次を重ねることで発病がどのよう
に低下して行くかを検証する試験とはなっていない。土壌病害防除において,究極の生物防除は発病抑止土
壌を作ることだとも言われていることからも,連用による発病抑止タイプの土壌の醸成なども今後の検討方
向として,取り組むべきである。
コニオチリウム ミニタンスは,菌核病菌などの菌核に取り付く拮抗微生物であり,試験的には圃場への
連用することで菌核病菌の発生が経年的に低下する事が知られる(Gerlagh, M. et al 1999)。生産者側からす
れば,経営上問題のないレベルにまで発病が下がるまでに如何に収益を確保するかと言う問題はあるにせ
─ 16 ─
よ,ことに難防除とされる土壌病害防除においては,生物農薬の連用による効果について検討する必要はあ
る。
⑶
化学農薬との組み合わせ
天敵殺虫剤ではゼロ放飼と言う考え方がある。これは例えばミヤコカブリダニを用いてハダニを防除する
際に,ハダニの密度がゼロに近い状態でミヤコカブリダニを放飼すると安定した防除効果が得られるため,
放飼前に殺ダニ剤を散布することでハダニ密度を計画的にゼロにしておくものである(田中,2011)。微生
物殺菌剤では一般に,甚発生条件下では効果がでないことから,菌密度が高いときは,使用する微生物に影
響の少ない化学農薬を使い菌密度を下げた後に使用することが望ましい。
また,近年は銅・バチルス ズブチリス水和剤のように化学薬剤と微生物農薬成分を混用した製剤が作成
され,慣行薬剤と同等の高い効果を示している。本剤は,生菌と天然の銅(水酸化第二銅)が有効成分のた
め特別栽培での使用成分回数にカウントされず,また,収穫前日まで使用できるなどの特徴を有す。
効果の安定化のため化学薬剤との組み合わせについて剤としての混合方策の他,輪番散布など体系防除の
中での生物農薬の位置付けについて積極的に検討する必要がある。
おわりに
生物農薬の利用促進については,日本植物病理学会バイオコントロール研究会(2013,2007,2012)にお
いても,土壌病害を中心として取り上げられて論議されてきた。ここでの論議は,生産者を交えない学者中
心の論議であるため,現場の実態から乖離した感は否めないにしても,活用のための一つの方向性としては,
生物農薬の利用を IPM(総合的病害虫管理)体系の中の一つの基幹技術として組み入れることで防除効果
を安定化させようとする方向性が示されている。
生物農薬は本来化学物質でない生き物を使って病害虫を防除しようというものであるから,その扱い方は
化学物質をパラパラと撒いていた場合とは自ずと異なり,この点で生産者の意識改革は必須となる。IPM
を進めるに当たっても,行徳(2009)が示した,②安定した効果を得るための方策の開発が技術の定着には
不可欠であり,とりわけ発生病害虫の見極め(同定)と生物農薬の処理方法と処理時期の判断等ができる指
導者の育成と指導体制の確立は,生物農薬の普及を図る上で重要な課題である。
日本植物防疫協会の行う生物農薬の実用化試験においても,現状行っている個別農薬の効果判定会議のほ
か,IPM 概念に基づいた体系処理による実用効果検討会の開催に取り組む時期ではないだろうか。生物農
薬は今後の農業生産のための基本技術となり得るだけに,普及には生産者・行政・普及組織・研究者の連携
を密にした体制の整備・確立が強く求められる。
参考文献
1)Aino, M. et al.(2009)Improvement of endphytic bacteria using ion beams, JAEA Takasaki Annual Report 2009, p 77.
2)バイオコントロール研究会(2003):土作りの中の生物防除 ─ 土着・導入微生物活性化技術の開発を目指して.日
本植物病理学会 pp 1-80.
3)バイオコントロール研究会(2007):生物農薬の新戦略とバイオコントロール研究の最前線.日本植物病理学会 pp
1-122.
─ 17 ─
4)バイオコントロール研究会(2012):生物農薬が直面している問題点と今後の展開.日本植物病理学会 pp 1-74.
5)Gerlagh, M. et al(1999)Long-Term Biosanitation by Application of Coniothyrium minitans on Sclerotinia
sclerotiorum-Infected Crops. Phytopathology 89. p 141-147.
6)行徳 裕(2004):生物農薬の普及における問題点.日本植物防疫協会.シンポジウム 生物農薬 ─ この 10 年間と
今後の展望 ─ 講演要旨 pp 54-56.
7)金子周平(2013):キノコの育種について.森林遺伝育種 Vol. 2.p 113-116
8)田中 尚(2011):ミヤコカブリダニによるイチゴのハダニ防除は秋のゼロ放飼がカギ.技術と普及 Vol. 48 ⑴ pp
25.
─ 18 ─
企業から見た生物農薬の展望①
─ IPM 防除体系に即した薬剤の開発 ─
アリスタ ライフサイエンス㈱
製品開発本部・開発部
生物農薬開発マネージャー
山 中
聡
1 .生物農薬の開発と普及
様々な病害虫をターゲットとして多くの生物農薬が開発されてきた。素材となる生物農薬の有効成分も天
敵や微生物など多岐にわたる。
これら生物農薬の開発方向性は,当初,化学農薬の代替という認識が強く,既に体系化されている慣行防
除体系の中に受け入れられる効果を目指して進められた。
従って,生物農薬単一での性能や効果は十分あっても,その生物農薬の前後に影響のある化学農薬などが
圃場で利用されていたり,病害虫の密度の非常に高いときに使用されるなどすると本来の効果が発揮でき
ず,
「効果が振れる」,「効果が安定しない」などの評価を受けることが多かった。
また,抵抗性の発達したコナガ等のチョウ目幼虫に卓効を示す BT 剤も,強力で有効かつ安価なチョウ目
用化学農薬の登場ごとにその販売量に変動が生じている(図 1)。つまり生産現場においては,生物農薬と
しての認識,IPM 防除体系(プログラム)の実践ということよりも,効果のある薬剤だけが求められてい
るのが現状でもある。
では何故,天敵農薬,微生物農薬を中心とする生物農薬がこれまで面としての広がりを見せなかったのか
を考えてみると,以下のような点があげられる。
⑴
生産者の立場では,減農薬,環境保全型農業と頭では理解しているものの,より経済的かつ即効性があ
り,効率的な病害虫防除を求めている。特に,タバココナジラミ(タイプ Q)やミナミキイロアザミウ
マなどの難防除害虫の出現,薬剤抵抗性の発達,ウィルス病の媒介などが起こると栽培現場は深刻になら
百万円
1,200
③
②
1,000
④
800
600
400
①
200
0
図1
H 6 H 7 H 8 H 9 H 10 H 11 H 12 H 13 H 14 H 15 H 16 H 17 H 18 H 19 H 20 H 21 H 22 H 23 H 24 H 25
BT 生菌の販売金額(H 25 日植防統計)とチョウ目幼虫に効果のある薬剤の登場時期
①
②
③
④
チョウ目幼虫にスペクトラムを持つネオニコチノイド剤の登場
エマメクチン安息香酸塩,スピノサド剤の登場
ジアミド系殺虫剤の登場(フルベンジアミド剤)
〃
(クロラントラニリプロール剤)
─ 19 ─
ざるを得ず,普及指導センター,病害虫防除所も含め,徹底して化学合成農薬に依存した体系を強化する
傾向にある。
⑵ 天敵農薬は生きているカブリダニや昆虫であるため,影響のある化学農薬が使われた場合には簡単に死滅し
てしまう。そのため,天敵への影響性が生産者に理解されずに,慣行防除体系のひとつの農薬の代替として
天敵製品を組み入れてしまう場合があり,このような状況では天敵の減少と害虫の増加が起きて失敗すること
がある。また,昆虫病原性糸状菌を成分とする微生物農薬でも,病害防除で使用する化学合成殺菌剤により
効果の低下が起こることがある。従って,
「効果が不安定」或いは「効果が弱い」との印象を受けやすい。
⑶
ハダニ対象,アザミウマ対象,アブラムシ対象等,製品ラインアップは充実したが,その利用のための
ノウハウ(所謂ソフトウェア/独自の防除体系)の開発,理解がなされていない(いなかった)。
⑷
使用方法や防除体系などのノウハウの確立されたものでも,実施が難しかったり,煩雑だったりで,生
産者が容易に受け入れられるものではなかった。効果自体についても,化学農薬に比べては不安定であ
り,生物農薬を使用した農家でも化学農薬に戻ってしまうことが多くみられた。
⑸
生物農薬自体の価格が化学農薬に比べて高く,生物農薬を使うことによる労力軽減を含めてコスト換算
する生産者も少ない。また IPM 利用の作物を優位に販売できるメリットがあまりないことから,敢えて
生物農薬の利用に踏み切るきっかけが存在しなかった。
⑹
生物農薬を利用している場面というものは,「薬剤抵抗性により化学農薬ではどうしても防除困難な害
虫に対する使用」や「収穫直前で化学農薬の使用が限られる時期」,「化学農薬の登録がなく,使用する薬
剤がない作物での病害虫防除」などニッチなポジションに限られている。
2 .生物農薬の効果を生かすための新たな防除プログラムの構築
生物農薬の効果をできるだけ引き出し,その特長を生かして利用してもらうためには,根本的に既存の慣
行防除とは異なる新たな防除体系を構築することが近道である。特にカブリダニ剤は,放飼前後の殺虫剤・
殺ダニ剤の散布や残効性の影響が強く,効果の振れのほとんどがそのような薬剤の影響によることがわかっ
てきた。
また,多くの生物農薬でもその特徴に合わせて使用場面を工夫することでより効果が現れるが,このよう
な情報に関して使用者や指導機関においても漠然としていることもわかってきた。
このため,新たな防除体系を構築するための考え方,利用する生物農薬や化学農薬の特徴などを整理して,
特に基幹防除剤となる生物農薬の有効利用を検討してきた。
⑴
基幹防除
広食性天敵を定植直後から代替
もしくはバンカー植物等で世代更新,密度増加を行い,天敵の数を害虫
発生前に高めておき,待ち伏せ的防除を行うことで効果の安定性と処理コストの低減化につなげる。
防除対象と利用できる天敵の種類として,① アブラムシ防除用のコレマンアブラバチ剤(アフィパール)
,
② ハダニ防除用のミヤコカブリダニ剤(スパイカル EX),③ アザミウマ防除用,コナジラミ防除(トマト
除く)でのスワルスキーカブリダニ剤(スワルスキー)等がある。
⑵
補完防除
広食性天敵による待ち伏せ防除の際,効果補完のために微生物農薬を害虫初発直後に葉面上に散布する。
─ 20 ─
図2
従来の慣行防除体系(左)と IPM 防除体系(右)のイメージ
菌体が葉面をカバーすることで,待ち伏せ防除天敵の効果を補完する。基幹防除と関連して,アザミウマ,
コナジラミ防除用のボーベリア バシアーナ剤(ボタニガード水和剤 1000 倍),バーティシリウム レカニ剤
(マイコタール 1000 倍),アザミウマ類防除用のメタリジウム アニソプリエ剤(パイレーツ粒剤 5 kg/10 a)
等がある。
⑶
臨機防除
標的に対する選好性が強く,対象害虫しか捕食または寄生しないが,捕食(寄生)能力が強いため,害虫
発生後に天敵を放飼し防除を行う。
① アザミウマ防除用のタイリクヒメハナカメムシ剤(タイリク),② ハダニ防除用のチリカブリダニ剤
(スパイデックス等)
,③ コナジラミ防除用のオンシツツヤコバチ剤(エンストリップ等)及びサバクツヤ
コバチ剤(エルカード等)がある。
⑷
レスキュー防除
天敵および微生物農薬による防除実施にもかかわらず,害虫の増殖が止まらない場合に,天敵に影響の少
ない化学農薬を散布することで,一旦害虫密度を下げ,天敵が活動しやすい状況を再現する。従来言われて
いる“リセット”とは明確に異なるコンセプトである。
天敵に影響の少ない化学農薬の例として,① アザミウマ防除用のルフェヌロン(マッチ乳剤),② ハダニ
防除用のシエノピラフェン(スターマイトフロアブル),シフルメトフェン(ダニサラバフロアブル),ビフェ
ナゼート(マイトコーネフロアブル)
,③ アブラムシ防除用のピメトロジン(チェス水和剤)
,フロニカミ
ド(ウララ DF),④ コナジラミ防除用のピメトロジン(チェス水和剤)等を積極的に利用する。なお,薬
剤の使用は,作物ごとの登録に従って行う。
3 .基幹防除に利用される生物農薬(捕食性天敵(カブリダニ))の開発
⑴
スワルスキーカブリダニ剤
(スワルスキー:農薬登録第 22304 号,スワルスキープラス:農薬登録第 23005 号)
スワルスキーカブリダニは雌成虫が体長約 0.3 mm,体色は淡黄色の捕食性天敵でアザミウマ類,コナジ
ラミ類,チャノホコリダニ,ミカンハダニなど複数の害虫を同時に防除することができる。花粉やホコリダ
ニ等の微小生物を
にして植物上で増殖・定着することができるため,主要害虫が少ない時期から放飼する
─ 21 ─
ことで,定着と増殖により害虫の密度低下や低密度維持ができる。特にピーマン,なす,キュウリでは定着
性が高く,定着の確認も比較的容易である。また,神奈川県農業技術センター根府川分場の報告によるミカ
ンハダニへの高い防除効果とその後の適用拡大により,本剤を基幹防除剤としたハウスカンキツ(ミカン,
中晩柑類)での IPM 防除プログラムの確立が進められることとなった。スワルスキー(ボトル製剤)の
2014 年 12 月現在での農薬登録上の適用害虫等は表 1 の通りである。
表1
作
物
名
スワルスキーカブリダニ剤(スワルスキー)の適用表
適用病害虫名
使
用
使用 本 剤 の
時期 使用回数
量
使用
方法
スワルスキーカブリダニを
含む農薬の総使用回数
放飼
─
野菜類(施設栽培),
250∼500 ml/10 a
アザミウマ類
豆類(種実)
(施設栽培), コ ナ ジ ラ ミ 類 (約 25,000
いも類(施設栽培)
∼50,000 頭/10 a)
チャノホコリダニ
果 樹 類
(施設栽培)
マンゴー
(施設栽培)
花き類・観葉植物
(施設栽培)
⑵
発
生
直
2.5∼10 ml/樹
前
ミカンハダニ
(約 250∼1,000 頭/樹) ∼
発
2.5 ml/樹
チャノキイロ
生
アザミウマ
(約 250 頭/樹)
初
500 ml/10 a
期
アザミウマ類
(約 50,000 頭/10 a)
─
ミヤコカブリダニ剤
(スパイカル EX:農薬登録第 22232 号,スパイカルプラス:農薬登録第 23036 号)
ミヤコカブリダニは雌成虫の体長は 0.35 mm でスワルスキーカブリダニに比べて若干体色が濃く,淡橙
色に見える。ナミハダニ,ミカンハダニなど各種ハダニ類を捕食するが,アザミウマ類や花粉なども捕食し,
植物上で増殖・定着することができる。本種は,国内の土着天敵であり,ハダニ防除が主体の作物での基幹
防除剤となる。チリカブリダニより飢餓耐性が高く,ハダニがいないときはアザミウマやカビ・樹液なども
食べて生き延びる。2014 年 12 月現在での農薬登録上の適用害虫は表 2 の通りである。
表2
作
物
名
ミヤコカブリダニ剤(スパイカル EX)の適用表
適用病害虫名
野菜類(施設栽培),
豆類(種実)
(施設栽培),
いも類(施設栽培)
花き類・観葉植物
(施設栽培)
果
樹
茶
⑶
ハ
ダ
ニ
類
使
用
量
100∼300 ml/10 a
(約 2,000∼6,000 頭)
カンザワハダニ
本 剤 の
使用回数
使用
方法
ミヤコカブリダニを
含む農薬の総使用回数
─
放飼
─
発
生
24∼120 ml/10 樹
(約 48∼240 頭/樹)
類
使用
時期
初
期
200 ml/10 a
(約 4,000 頭)
入りボトル製剤(スパイカル EX,スワルスキー)
生物農薬の特長(定着,増殖)を生かした IPM 防除プログラムでは,害虫が発生する前からの導入(ゼ
─ 22 ─
図3
図5
図4
スワルスキーカブリダニ
図6
ボトル製剤による天敵放飼
ミヤコカブリダニ
パック製剤による吊り下げ放飼
ロ放飼)を行うことが安定した効果につながる。農業害虫以外の微小生物を代替
ダニには,放飼後速やかに増殖,定着ができるように
⑷
として利用できるカブリ
生物を加えた製剤の新規登録を行った。
パック製剤の開発(スパイカルプラス,スワルスキープラス)
さらに,
生物の存在によりに輸送中などでのカブリダニの飢餓状態を防ぎ,活性の高い状態で放飼する
ことができるようになってきたことから,ボトル放飼よりも簡便な放飼方法として吊り下げ用のフックを備
え付けたパック製剤を開発した。
スワルスキーカブリダニでは,パック内に
生物としてサトウダニ及びふすま等が含まれており,250 頭/
パックとして 100 パックで 1 袋となる製品形態で提供している。またミヤコカブリダニでは,サヤアシニク
ダニ及びふすま等が含まれており 50 頭/パックとして 100 パックで 1 袋となる製品形態で新たに製品を開
発。ボトル製剤とパック製剤の両方を併売するようにした。この製剤形態の開発によりマンゴー,カンキ
ツ,ブドウなどの樹高の高い作物への施用が改善された。
4 .生物農薬を活用した IPM 防除プログラムでの新たな動機づけ
生物農薬を組み込んだ IPM 防除プログラムの確立を進めていく中で,優良事例や成功に結びつく動機が
─ 23 ─
いくつか明らかになった。これらを分析すると以下のような点に生物農薬や IPM 防除プログラムのニーズ,
普及性につながる要因があると考えられる。
➢ 難防除:ウィルス病を媒介するアザミウマ類,コナジラミ類,さらにハダニを含む世代交代日数の短
い害虫などに対し,薬剤抵抗性が発達して使用する薬剤がない。
➢ 抵抗性管理:ハウス内で途切れることなく発生する害虫に対し同じ系統薬剤を連用することで引き起
こされる薬剤抵抗性発達の遅延(→減農薬,散布回数削減)。
➢ 法令遵守:作期が長く化学農薬の回数制限がある,有効な薬剤を重要な時期に使うまで温存しておき
たい。
➢ 高齢化・省力化・産地の維持存続:慣行防除体系の防除作業にかかる過剰な労働時間の省力化が実現
できる。
➢ 産地事情:地域特産品として特徴づけをしたい⇒農薬残留基準値以下で海外への輸出も視野に入れた
取り組み。
しかし,製品ニーズ,IPM 防除プログラムの普及の素地はあっても,なかなか個人レベル以上には普及
してこない。ここには,以下のような指導者,指導体制,指導方法が必要であることもわかってきた。
➢ 地域,産地への天敵を利用した IPM 防除プログラムの導入意義を理解し,率先して普及指導にあたれ
るリーダーの存在(専技,広域指導員,病害虫防除所)があり,さらに前線に立つ普及指導員が強い
熱意を持って生産者の指導に当っている。
➢ 産地の JA,生産部会といった集団全体の理解に基づいて実証を行っている。
➢ IPM/総合防除など難しい言葉ではなく,「省力化できる」や「殺虫剤抵抗性対策として他の方法がな
い」など生産者にとって,より身近な問題解決策から天敵利用の導入が始まっている。
➢ 生物農薬を含めたスケジュール防除を基本として,誰にでもできるような,よりシンプルで易しい防
除技術の確立が IPM 防除プログラムの普及の面的広がりのためには不可欠。
これらのファクターは,どの地域,どの作物・作型でも容易にクリアできる訳ではない。とくに強い指導
力を持った指導者の存在がもっとも重要な要因のひとつとなっていることを考えると,今後の各地域におけ
る生物農薬の利用や IPM 防除プログラムの普及には,病害虫防除所や普及指導員の方々の力なくしてはあ
り得ない。
5 .生物農薬と化学農薬の共存
生物農薬と化学農薬は,これまで対立軸にあるような印象を受けられていたように思われる。たしかに,
保存性,即効性など製品の性質は異なるが,生物農薬と化学農薬を如何にうまく共存させるか,使い分ける
かが,今後の生物農薬の開発や IPM 防除体系の普及のうえで重要である。特に,生物農薬開発では化学農
薬の知識,技術も必要だと痛感している。
以下に,病害虫防除体系における生物農薬と化学農薬の相互のかかわりについてまとめた。
⑴
化学農薬に対する生物農薬の補完性
殺ダニ剤に対するハダニ類の抵抗性の発達は早く,類似構造を持つ化合物などでは新しい薬剤の登場前に
効果が低下しているケースも見られる。アザミウマ類,コナジラミ類でも同様である。抵抗性発達のために
─ 24 ─
効果がマイルドになってきた化学農薬であっても,同時に天敵農薬を利用すれば,化学農薬も効果的に働く。
⑵
化学農薬の抵抗性回避の一手段としての生物農薬との共存
長期の開発期間を経て上市された化学農薬の製品寿命を考えると,抵抗性の発達を回避することは大きな
課題といえる。使用回数制限や同系統の薬剤とのローテーション回避も重要である。これからの有効な薬剤
は,生物農薬を基幹剤とした IPM 防除プログラムへ組み込むことで,栽培期間中の使用回数を削減でき,
これは抵抗性発達回避にも有効であり,また製品寿命を延ばすことにもつながる。
⑶
生物農薬に対する化学農薬の補完性
1 )ゼロ放飼という概念
天敵の定着と増殖を基幹防除とする IPM 防除プログラムでは,害虫の発生前に天敵を放飼する必要があ
る。そこで,一旦効果の高い化学薬剤散布により害虫密度を下げたあとに,天敵をできるだけ早めに放飼す
ること(ゼロ放飼)により,IPM 防除プログラムの効果レベルは以前に比べて大きく改善された。このた
め害虫にはシャープな効果を持ち,天敵に影響の少ない化学農薬の利用が不可欠である。また,環境要因等
によっては,天敵放飼後に害虫密度が上がってしまうこともある。そのような場合に複雑な要防除水準のモ
ニタリングをすることなく,農家が化学農薬をもっと気楽に散布できるようすることが IPM 防除プログラ
ムの重要な成功要因となる。
2 )レスキュー防除
天敵密度と害虫密度のバランスが崩れて,害虫密度が多くなり過ぎた場合に,そのバランスを元にもどすこ
とも化学農薬に期待できる。これがレスキュー防除の考え方である。このように IPM 防除プログラムにおける
害虫密度の調整には化学農薬の存在意義は大きい。一方,シャープな効果を持ち,天敵に影響の少ない化学
農薬を登録の範囲内の濃度で散布した場合には,害虫密度が下がり過ぎて,捕食性天敵の場合
を失ってし
まうことになる。これが IPM 防除プログラムの中で化学農薬を使う難しさにつながっている。しかし,ミヤコ
カブリダニやスワルスキーカブリダニのような多食性のカブリダニでは,天敵に影響の少ない化学農薬散布に
より,害虫密度が一時的に大きく下がってしまっても,花粉等を食べることで生存することが可能である。
⑷
生物農薬と化学農薬の相乗的効果
バーティシリウム レカニ剤(マイコタール)やボーベリア バシアーナ剤(ボタニガード ES,ボタニガー
ド水和剤)などの昆虫病原性糸状菌は,適切な環境条件下で害虫への感染が速やかに起こり,高い防除効果
を示す。特に,昆虫病原性糸状菌は薬剤抵抗性害虫の防除では大きな力となっている。
昆虫病原性糸状菌は害虫の体表面に胞子が付着し,発芽後に菌糸がその体内に侵入して感染が起きる。こ
のため短期間に脱皮を繰り返す微小害虫では脱皮により付着した胞子が脱落してしまうが,IGR など脱皮
阻害剤との併用で効果を向上させられる。また,抵抗性が既に発達した薬剤も含め多くの殺虫剤と併用する
ことで害虫の通常の機能を麻痺させ,感染力が向上する。このように,生物農薬と化学農薬は相互の補完に
よっても共存できると考えている。
⑸
露地における IPM 防除プログラムでの生物農薬と化学農薬との共存
近年,露地栽培作物においても IPM の導入や害虫防除での抵抗性の発達による土着天敵の利用検討が試
みられている。露地栽培の多くは,特にピレスロイド剤等の化学農薬を主体とする慣行防除の実施が徹底さ
れてきたが,選択性薬剤や生物農薬を使用すれば,これまで気がつかなかった土着天敵や昆虫病原性糸状菌
─ 25 ─
などが自然発生してくる。しかし,土着天敵の発生は,害虫の密度がある程度増加してからの発生となるの
で作物への被害が現れるケースが多い。このため確実に利用できる市販天敵の露地栽培での適用拡大も検討
しているところである。
6 .メタリジウム アニソプリエ剤(パイレーツ粒剤)の開発
本剤の生物農薬としての開発コンセプトは,土壌表面に散布することで植物体から落下して蛹化する特性を
有するアザミウマ類を標的に,次世代の成虫が植物に再び戻らないよう,世代を分断することにあり,化学農
薬やカブリダニ等による茎葉部での密度抑制効果と併用し,より確実にアザミウマを防除することであった。
このために土壌中の常在菌の中でアザミウマ類に強力な殺虫活性を有するメタリジウム アニソプリエを選抜
し,破砕米の表面にコーティングしたパイレーツ粒剤として開発した。本剤の作用性は図 7 のとおりである。
図 7 メタリジウム アニソプリエ剤(パイレーツ粒剤)の効果発現
アザミウマ類幼虫は,2 令幼虫に成長すると蛹になるために湿度の高い場所に移動する性質を持っており,
一般に植物の茎葉部から土壌表面に落下する(①)
。パイレーツ粒剤を株元に散布しておくとアザミウマは落下
した後に,成長したメタリジウム菌の胞子に感染死亡する(②)。また,土壌にいた蛹から成虫になるときにも
感染機会がある(③)ので,次の世代のアザミウマが増えず(④)長期間アザミウマの密度が抑えられる。
現在の登録は,表 3 の示すとおりであるが,今後は野菜類としての適用拡大,マンゴー・チャノキイロア
ザミウマ防除などへの適用を検討している。
表3
作
物
メタリジウム アニソプリエ剤(パイレーツ粒剤)の適用表
名
適用害虫名
使 用 量
使用
時期
本剤
の
使用
回数
な
す
(施設栽培)
発
生
前
5g/株
きゅうり
∼
アザミウマ類
(施設栽培)
(5kg/10a) 発
生
初
ピーマン
期
(施設栽培)
メタリジウム
使用 アニソプリエ
方法 を含む農薬の
総使用回数
株
元
─
─
散
布
図8
─ 26 ─
パイレーツ粒剤外観
7 .各種作物での IPM 防除プログラムに即した生物農薬の開発と普及の留意点
⑴
素材の吟味(効果と生産性)
生物農薬の有効成分の評価では,効果はもちろんであるが,商業的規模での生産性の観点から検討する必
要がある。効果が高くて生産しにくい素材よりも,効果がマイルドでも生産し易い場合には開発可能性の確
率は高い。
⑵
効果以外の性能もニーズとなる場合がある。省力化・軽労化を体感してもらう
農薬の調製,散布時間のコスト試算を行い,製品の効果だけでなく,使い易さや使用時の軽労化,省力化
などを含めた性能を評価してもらうことが大切である。また,作物によっては人手により防除が難しい高
所,散布ムラが発生しやすい重複しあう葉裏などに天敵自身が自力で拡散,移動して害虫を捕食するため,
薬剤散布以上の効果を引き出せることがある。このような結果を体感してもらうことがより普及につなが
る。
⑶ IPM 防除プログラムでは生物農薬の特長を生かした使い方がもっとも効果的
生物農薬を化学農薬的に使用するよりも,その特長である「生きて増える」を効果的に引き出す使い方が
安定した効果を引き出せる。
さらに,各種作物栽培では主要な化学農薬が必ずあるもので,それらの化学農薬との使用場面における相
性が重要であり,開発可否判断ではもちろんのこと,メーカーの立場として使用場面でも作物生産者自身に
薬剤の影響の有無を理解してもらうことにも心がける必要がある。
─ 27 ─
企業から見た生物農薬の展望②
石原産業株式会社 中央研究所
森
光太郎
はじめに
当社は 1920 年に鉱山事業により創業し,1950 年の除草剤 2,4-D の導入により化学農薬事業に参入した化
学メーカーである。これまで複数の除草剤,殺虫剤,殺菌剤を自社開発することにより,世界の農業生産に
貢献してきた(図 1)。
近年,環境負荷低減,安全で安心な農作物への社会的関心の高まり,そして生産現場における農薬の連用
による薬剤抵抗性の発達などを受け,総合的有害生物管理(IPM)が世界的にも国内でも推進されている(た
とえば,総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針(2005);van Lenteren 2012)。今後,国内外において成
長が期待される分野であるため,当社における IPM 分野の推進は,国内外の拡販につながる有力な戦略の
一つである。この流れのなか,当社は天敵に影響の少ない,親環境・安全農薬の開発・商業化に積極的に取
り組んでいる。また,2000 年からは生物農薬の開発も手がけてきた。薬剤抵抗性の発達を回避し,当社化
学農薬をより長く使っていただけるようにするためにも生物農薬の開発と普及は価値があると考えている。
当社はこれまで,① 天敵と選択性化学農薬の併用(チリガブリⓇ(当社チリカブリダニ剤)とアカリタッ
チⓇ乳剤併用技術確立(石原バイオサイエンス株式会社
2008;山口ら 2014)),② バンカー法の利用(例
えば,コレパラリⓇ(当社コレマンアブラバチ剤)を用いたバンカー法の開発)
(森ら 2011;森ら
2013),
③ 圃場内に対象害虫が不在でも生息しうる広食性天敵の利用(例えば,天敵アカメガシワクダアザミウマ
の開発)
(たとえば,東浦ら 2013;勝山ら 2014;森 2013;森ら 2014)というテーマに取り組んできた。
これらに加えて,近年,広食性カブリダニ類をより長く圃場内で維持する技術の開発に取り組んでいる(香
2014 年 12 月 1 日上市
図 1 当社有機化学部門の事業展開
http://www.iskweb.co.jp/research/development.html
─ 29 ─
川ら 2014)。
本稿では当社事業のうち生物農薬事業を紹介し,将来の展望について述べる。
1 .生物農薬市場
IPM の基盤技術である生物農薬の市場規模は毎年増加している。世界市場では,2006 年には,5.4 億ドル,
2008 年には 7.5 億ドル,2011 年には,13 億ドルになったとされる。また,国内の生物農薬の 2013 年度の
国内出荷額は約 23.3 億円で(おおよそ,殺虫剤 16.2 億,殺菌剤 7.1 億)(農薬要覧 2014 日本植物防疫協
会),2000 年度の出荷額の 5 倍の伸び率を示している。しかしながら,この値は化学農薬(殺虫剤と殺菌剤)
の出荷額の 1%にすぎない。
2 .生物農薬の普及
⑴
生物農薬の普及が進まない理由
これまで,生物農薬のなかでも,施設野菜における天敵の利用技術が長く研究され,実用化されてきた。
世界的に見れば,最初の生物的防除が行われてから約 120 年が経過している(van Lenteren 2012)。日本で
は放飼増強法(augmentation)のエージェント候補として 1966 年にチリカブリダニが導入され約 50 年経つ
(たとえば森・真梶
1977;森 1993)。しかしながら,天敵の放飼時期の見極めが難しいこと,天敵と併用
できる薬剤が限られることなどの問題があった(たとえば,矢野
2009)。そのため,効果が化学農薬と比
べて不安定と見なされ,普及が十分に進んでいるとは言えない。また生産現場では複数の病害虫が発生し,
これらはすべて防除対象となる。ある害虫に対して 1 種類の生物農薬を利用すると,他の病害虫に対する農
薬の使用が制限されてしまうケースが生じ,使いにくい防除方法と認識されてしまう。
⑵
生物農薬を普及させる対策
したがって,企業が IPM を推進するためには,生物農薬と化学農薬の製品群をそろえること,そして各
作物の作型ごとにこれらの防除剤を組み込み,栽培管理全体を考慮した防除暦(IPM プログラム)を作る
ことが有効である。当然ながら,この IPM プログラムは効果の安定したものでなければならない。また効
果の安定性を保証するために,室内環境下を含む基礎的な技術開発や大規模な圃場試験を積み重ね,IPM
プログラムをより成功率が高く安定したものに仕上げていく必要がある。
⑶
生物農薬製品群の充実
以上を考慮して当社ではまず,生物農薬の製品群を充実させることを目指し,各害虫に対応した生物農薬
の開発に着手している。現在,当社では 4 種の天敵(チリカブリダニ(商品名:チリガブリⓇ;対象害虫:
ハダニ類)
,コレマンアブラバチ(コレパラリⓇ;アブラムシ類)
,オンシツツヤコバチ(ツヤパラリⓇ;コ
ナジラミ類),イサエアヒメコバチ(イサパラリⓇ;ハモグリバエ類)を農薬登録しているが,これに加えて,
アカメガシワクダアザミウマ(対象害虫:アザミウマ類),ミヤコカブリダニ(対象害虫:ハダニ類),スワ
ルスキーカブリダニ(対象害虫:アザミウマ類とコナジラミ類)という 3 種の捕食性天敵の農薬登録を目指
している。
⑷
生物農薬の利用技術の開発
また,当社では研究所が主体となってそれぞれの生物農薬の利用技術の開発も行っている。本稿では広食
─ 30 ─
性カブリダニ類の利用技術開発について紹介する。
従来,天敵の農薬的利用は害虫発生初期に大量増殖した天敵を複数回放飼する方法が一般的であった(放
飼増強法 augmentative biological control)。また,圃場内で天敵を維持,増殖させて利用する技術「バンカー
法」も開発された(たとえば Frank 2010;長坂ら
2010)。これは天敵の代替 個体群(バンカー)を圃場
内に設置することにより,天敵個体群を維持する方法である。この方法はうまくいけば天敵を圃場内に常在
させることができ,放飼のタイミングを見極める必要性がなくなる。少量放飼で済むので処理コストを低減
させることもできる。現状,実用化されているのは寄生蜂やテントウムシなどの大型の天敵類である。これ
らの代替
はプランター植えの麦などに寄生したアブラムシ(作物の害虫とならない種)が用いられている。
問題点は,バンカーの維持,管理には手間がかかることである。より簡便なかたちでバンカー法のコンセプ
トがカブリダニ類に適用でき,実用化されれば,普及に貢献するに違いない。このような考えのもと,当社
らが開発しているのが,「バンカーシートⓇ」という資材を基盤とする「いつでも天敵TM」である。
ところで,「圃場内で天敵を定着させること/増殖させること」というコンセプトは近年海外でも注目さ
れている(Messelink et al. 2014)。たとえば,ガマなどの花粉あるいはブラインシュリンプのシストの散布
をカブリダニの放飼と組み合わせる方法である(van Rijn 1999;Vangansbeke et al. 2014)。さらに Adar ら
(2014)は,カブリダニの
となる花粉をまぶした紐を作物の枝に引っ掛けることにより,カブリダニの定
着性を促進することを試みた。しかしながら,これら海外の取り組みは,技術面やコスト面で実用化レベル
に至っているとは必ずしも言えない。一方,「バンカーシートⓇ」を用いた「いつでも天敵TM」は以下に述
べるように,より実用化に近いと考えている。
3 .「いつでも天敵TM」の開発
⑴
カブリダニ類の定着不良の要因
スワルスキーカブリダニ Amblyseius swirskii Athias-Henriot とミヤコカブリダニ Neoseiulus californicus
(McGregor)はそれぞれアザミウマ類・コナジラミ類とハダニ類の天敵として市販されている。これらのカ
ブリダニは害虫に加えて,作物の花粉でも増殖可能なことから(雑食性)
,放飼後の圃場への定着性も比較
的よく(たとえば伊藤ら
2014),施設栽培のアザミウマ類・コナジラミ類やハダニ類の防除剤として利用
されている(たとえば Gerson and Weintraub 2007)。
しかし,圃場内に放飼されたカブリダニ類は,1.産卵場所や隠れ場所の不足,2.高温・低温および乾燥,
3.エサ(=花粉または害虫)の不足,4.農薬の影響といった要因により,定着および増殖が困難な場合が
少なくない。これらが防除効果の不安定性の要因となっている。
そこで当社らは,不安定性の要因を解消する技術開発を行ってきた。それは,カブリダニの産卵用基質と,
パック製剤(紙製の袋内に
ダニおよびふすまを含んだカブリダニ製剤)を紙製シェルター「バンカーシー
トⓇ」で包括することを特徴とするカブリダニ増殖装置「いつでも天敵TM」である(写真 1)。バンカーシー
トⓇは作物の枝葉に直接容易に設置することが可能である。この技術は既存の天敵をより使いやすくする技
術を目指している(下田ら 2014)。
⑵
バンカーシートⓇのカブリダニ個体群維持効果
バンカーシートⓇは,内部の天敵に適した環境を提供し,天敵個体群を長期間維持することを意図してい
─ 31 ─
写真 1 バンカーシートⓇ
左:組み立て前,中:パック製剤を入れて組み立て,右:ナスに設置したバンカーシートⓇ
30
2 週間後
1 ケ月後
2 ケ月後
3 ケ月後
る資材である。天敵に適した環境を提供することと
卵基質を設置することであり,他方では薬剤散布や
降雨から内部のカブリダニを保護するために耐水性
25
平均スϫル成虫数
は,一方では産卵を促進するために箱状の内部に産
20
15
10
の紙を使用することである。
実際,この資材を用いることにより,1 回の放飼
5
で 3 ケ月間の長期に亘ってカブリダニ類を維持した
0
産卵基質
花粉
防カビ剤
事例も見られた。この資材をかんきつ温室内の樹に
吊り下げたところ,設置 3 ケ月後も資材内でカブリ
ダニ類の生息が確認できた(図 2)。パック製剤に
含まれるカブリダニの
図2
ダニが増殖し,カブリダニ
産卵基質
花粉
産卵基質
無し
(バンカー
シートのみ)
バンカーシートⓇの開発試験(香川ら 未発表)
バンカーシートⓇに様々な要素を入れた場合のス
ワルスキーカブリダニ個体数。
個体群が維持されていたと推測している。また,資
材内は外気と比較して温度および湿度が安定する効果が観察されるケースもあった。温度や湿度はカブリダ
ニの生存や増殖にとって非常に重要な条件である。
バンカーシートⓇはカブリダニにとって居心地のよい環境で,そこから作物へ分散しにくい可能性があっ
た。しかしながら,バンカーシートⓇを設置したナス上のカブリダニ数を調べてみると,パック製剤だけを
設置した場合と比べて 1 週間後はやや少ないものの,2 週間後以降は葉上の個体数はパック製剤をつるした
株よりも多くなり,この状態は 3 ケ月間持続した。
⑶
バンカーシートⓇの薬剤シェルター効果
また,バンカーシートⓇの薬剤シェルターとしての効果も確認された。ポット植えのナスに異なる剤形で
─ 32 ─
34
32
30
28
6 26
24
22
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
༿中のスϫル成幼虫数
バンカー区
パック区
ボトル区
パック区(薬剤無散布)
5
日
31
月
1
日
26
月
12
日
21
月
12
日
16
月
12
日
11
月
12
日
6
月
12
日
1
月
12
日
26
月
12
日
21
月
11
日
11
日
16
月
月
図3
11
日
日
11
6
月
月
11
11
バンカーシートⓇの薬剤シェルター効果(香川ら 未発表)
バンカー区:バンカーシートⓇを設置株,パック区:パック製剤設置株,ボトル区:パック製剤を破
いて中身を設置した株,パック区(薬剤無散布):パック製剤を設置するが薬剤を散布しない株。
スワルスキーカブリダニを放飼し,1 週間後の 11 月 6 日にマンゼブ水和剤を散布した。その後の株上のス
ワルスキーカブリダニ個体数の推移を示したのが図 3 である。
「バンカー区」がバンカーシートⓇ設置株を
示している。薬剤散布をした区では,散布直後にはスワルスキーカブリダニは,いったん株上から消失した
(11 月 11 日)。しかしながら,
「バンカー区」におけるスワルスキーカブリダニ個体群は,薬剤散布した他
の区よりも早く復活し,長く持続した。バンカーシートⓇを利用することにより,これまで困難であった化
学農薬との併用を期待することができる。
いつでも天敵TMの可能性
⑷
以上の結果から,本方法によりカブリダニの代替
となる花粉がない状態でも長期にカブリダニが維持さ
れる可能性があることがわかった。特に,これまで普及上の大きな障壁となっていたカブリダニに影響があ
る薬剤とカブリダニとの併用の可能性が出てきたことは,天敵の普及に大きく寄与すると期待している。
4 .いつでも天敵TMの圃場試験
⑴
農薬登録
当社ではバンカーシートⓇとパックの組み合わせを一つの製剤とし,農薬登録のための公的試験(日本植
物防疫協会
新農薬実用化試験)を 2014 年度から開始した。数年以内の園芸作物や果樹での農薬登録を目
指している。
⑵
圃場試験
また現在,各県の試験場や県普及センターにご協力いただき,本方法の防除効果を実証中である。このう
ちいくつかの試験について,以下に紹介する。
⒜
イチゴ
岐阜県海津市で,岐阜県西濃農林事務所の協力の下,2013 年 11 月中旬にミヤコカブリダニパック製剤の
バンカーシートⓇを設置する試験を開始した(以下,ミヤコ・バンカー区)。対照区はミヤコカブリダニの
─ 33 ─
ボトル製剤(以下,ミヤコ・ボトル区)とした。対象害虫はナミハダニであった。ミヤコ・ボトル区では
2014 年 5 月初めの栽培終了までイチゴ葉上でミヤコカブリダニはほとんど発見することはできなかった。
一方,ミヤコ・バンカー区では栽培期間を通じてミヤコカブリダニを発見することができた。バンカーシー
トⓇ内でもミヤコカブリダニは放飼後から 4 月初め(放飼後約 4 ケ月半)まで,継続して観察することがで
きた。両区ともにナミハダニは低密度で推移したが,4 月に入ると,ミヤコ・ボトル区ではナミハダニが複
葉あたり 14 頭まで急増した。一方,ミヤコ・バンカー区では,複葉あたり最大でも 4 頭程度で抑制するこ
とができた。
ミヤコカブリダニのいつでも天敵TM処理は,10 アール当たり 50∼100 個程度の設置数であったためにミ
ヤコカブリダニが圃場内に分散しきれず,ハダニ防除が追いつかない事例もあった。このような問題点への
対応として,イチゴの育苗期の放飼を試みた。イチゴの育苗期は本圃と同じ株数(10 アールあたり約 7,000
株)が,およそ 10 分の 1 の面積で栽培される。ここにミヤコカブリダニを放飼する方法である。ミヤコカ
ブリダニを苗に均等に定着させた後,定植すれば,低分散性の問題は解消する。また,本圃でのハダニの発
生の多くは育苗期からの持ち込みによると言われている。育苗期にハダニをよく防除しておくことは本圃で
のハダニ発生の抑制にも効果が期待できる。
このような考えで,香川県農業試験場,香川県小豆農業改良普及センター,JA 香川は,ミヤコカブリダ
ニパック製剤のバンカーシートⓇを育苗期のイチゴに設置する試験を実施した(渡邊ら
未発表)。2014 年
8 月に 3 つの圃場で試験を開始したところ,2 つの圃場ではミヤコカブリダニはイチゴ苗によく定着した。
薬剤による慣行防除区ではハダニの発生が抑制しきれなかったのに対し,ミヤコ・バンカー区では定植時期
の 9 月末までにハダニは観察されなくなった。定植後もミヤコカブリダニは株上で観察され,ハダニを抑制
し続けている。
群馬県農業技術センターでは,さらにこの考えを進めて,イチゴの子苗が親株とまだつながっている時期
に,ミヤコカブリダニを放飼する試験を実施した(吉澤ら
未発表)。その結果,慣行防除区では育苗期間
中に合計 10 回の殺ダニ剤散布を実施したのに対し,ミヤコ・バンカー区ではわずか 1 回のスポット散布で
定植までハダニを抑制することができた。
同様の結果は宮城県農業・園芸研究所の試験でも得られている(関根ら
未発表)。育苗期にミヤコカブ
リダニを放飼された苗を定植した後もハダニは低密度で維持されている。
⒝
オオバ
豊橋温室園芸農業協同組合管内のオオバではアザミウマ類とハダニ類を対象とした防除試験を実施した
(鈴木ら
未発表)。4 月下旬にスワルスキーカブリダニとミヤコカブリダニのパック製剤をそれぞれバン
カーシートⓇに挿入し(以下,スワル・バンカー,ミヤコ・バンカー)
,オオバの株に設置した(バンカー区)。
薬剤防除区では 6 月初めにハダニが葉あたり 7.5 頭まで多発したが,バンカー区とパックのみ区(パック製
剤のみを株に設置した区)では栽培終了の 8 月中旬まで低密度で推移した。一方,アザミウマはパックのみ
区で 7 月中旬に葉あたり 1.5 頭まで増加した。この時期バンカー区でも葉あたり 0.2 頭観察され,増加する
懸念があったため,両区でアザミウマ防除剤を散布した。その後,パックのみ区ではアザミウマが再発した
のに対し,バンカー区ではアザミウマは低密度で抑制された。この違いは,バンカー区では 7 月中旬(放飼
後 3 ケ月)以降も葉上でカブリダニが観察されたのに対し,パックのみ区ではカブリダニが観察されなかっ
─ 34 ─
たことが関係していると考えている。
⒞
自社剤 IPM プログラム
果樹を含め上記の他にも,実証試験を遂行中であり,薬剤や降雨からの保護効果など,いつでも天敵TM
の有用な知見が集まりつつある。イチゴだけでなく他の作物でも,育苗期の放飼は分散のしやすさを通じ
て,苗株間の天敵個体の分布の偏りを減少させる効果があるだろう。定植直後の予測の出来ない機会的な害
虫の飛び込みに対する抑制効果が期待できる。バンカーシートⓇを使えば,育苗中の病害に対する農薬散布
も可能となるかもしれない。
当社は,今後も上市までいつでも天敵TMと農薬との併用技術の改良を続けて行く予定である。目標は,
収穫物の秀品率を上げ,栽培期間を延長して収量を増加できるような IPM プログラムの構築である。この
ような IPM プログラムの導入によって生産者による生物農薬の使いやすさが増せば,生物農薬の普及面積
も増加していくだろう。当社はこの IPM プログラムにおいて,いつでも天敵TM(パックとバンカーシー
トⓇのセット)
,当社の天敵にやさしい化学農薬(ウララⓇ,プロパティⓇ,ランマンⓇなど)や他の生物農
薬(チリガブリⓇ,アカメTMなど)を組み入れ,他社製品との差別化と普及におけるシナジー効果を図って
いく。
5 .生物農薬の普及のための人的ネットワークづくり
最後に,生物農薬の普及のための全国的な人的ネットワークの重要性について述べる。生物農薬を利用し
てもらうには,技術の習得に時間がかかるため,数年にわたる現地試験が必須である。独立行政法人,県農
業試験場や普及センターにご協力いただければ,現地試験を多くの場所で行うことが可能となる。そのため
に,企業としても人的ネットワークの強化が必須である。
この人的ネットワーク構築の方法として,企業研究機関による外部資金プロジェクトへの参画,学会発表,
論文発表は有効と考えている。外部資金プロジェクトでは,参画する公的研究機関や大学と技術開発および
普及上の強固な協力関係を築くことができる。
2014 年 7 月より,いつでも天敵TM技術を中心とした「農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業 実
用技術開発ステージ」プロジェクトが始動した(下田ら 2014)。このプロジェクトは,独立行政法人農業・
食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センターを中心に 5 県の試験機関と各県の普及組織,全国農業
改良普及支援協会と 3 企業で構成されている。これらの機関も含め,1 独法,14 県と 2 企業が連携協定を結
んでいる。当社としては「いつでも天敵TM」の技術をこのプロジェクトのなかで発展させ,広く普及して
いくつもりである。当社の化学農薬と「いつでも天敵TM」を始めとする生物農薬製品群を合わせたより普
及性の高い総合的病害虫管理体系を構築し,普及技術を確立することが当面の目標である。化学農薬だけで
害虫防除に対応しきれない状況の中,化学農薬と生物農薬との併用技術の開発に貢献することは,社会に対
する企業の役割のひとつと考える。
6 .引用文献
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─ 35 ─
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Biological Control 52 : 8-16.
Gerson U, Weintraub PG(2007)Mites for the control of pests in protected cultivation. Pest Management Science 63(7):
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施設イチゴの春期のアザミウマ類防除.日本応用動物昆虫学会中国支部会報 54 : 1-6.
「今月の農業
石原バイオサイエンス株式会社農業化学品営業本部普及部(2008)石原産業の IPM への取り組み.
増大号
植物保護の明日を考える
特別
IPM の現状と今」.化学工業日報社,東京,158-162.
伊藤勇弥・森光太郎・平野耕治(2014)施設栽培イチゴにおけるミヤコカブリダニと選択性化学農薬の併用によるハダ
ニ密度抑制効果とハダニ低密度時の生息場所としての花の役割.日本応用動物昆虫学会誌 58
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香川理威・中島哲男・伊藤勇弥・森光太郎・吉田潔充(2014)広食性天敵カブリダニ類の圃場における新規増殖維持技
術の開発.第 58 回日本応用動物昆虫学会講演要旨集:32.
勝山直樹・櫻井民人・堀之内勇人・伊藤勇弥・森光太郎・津田新哉(2014)甘長ピーマンの害虫アザミウマ類に対する
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Messelink GJ, Bennison J, Alomar O, Ingegno BL, Tavella L, Shipp L, Palevsky E, Wäckers FL(2014)Approaches to
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森光太郎・大朝真喜子・吉田潔充(2014)キュウリに放飼したアカメガシワクダアザミウマの個体分布とミナミキイロ
アザミウマの防除.関西病虫害研究会報 56 : 121-124.
森光太郎・福森庸平・平野耕治・鈴木敦利(2011)コレマンアブラバチ連続放飼とバンカープランツによるアブラムシ
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森光太郎・伊藤勇弥・黒崎勉・平野耕治(2013)イチゴ上とバンカー上のアブラムシ数の比率とコレマンアブラバチに
よるワタアブラムシの防除効果.関西病虫害研究会報 55 : 105-107.
長坂幸吉・高橋尚之・岡林俊宏・安部順一朗・大矢愼吾(2010)日本の促成栽培施設におけるアブラムシ対策としての
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“い
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つでも天敵TM”
Vangansbeke, D, Nguyen, DT, Audenaert J, Verhoeven R, Tirry L, Gobin B, De Clercq P(2014)Food supplements for
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22(1): 209-212.
山口晃一・森光太郎・平野耕治(2014)捕食性天敵チリカブリダニと選択性殺ダニ剤プロピレングリコールモノ脂肪酸
エステル併用によるナミハダニ密度抑制プロセスでの両種個体群の時空間的変化.関西病虫害研究会報 56 : 29-36.
矢野栄二(2009)生物的防除の概要と歴史.「バイオロジカル・コントロール(仲井まどか・大野和朗・田中利治編)」,
朝倉書店,東京,3-15.
─ 36 ─
防除指導実践を通して見えてくる生物農薬の課題と展望①
奈良県病害虫防除所
國 本 佳
範
はじめに
まず,全国的な天敵製剤の出荷量を 2003 年と 2013 年の農薬要覧(日本植物防疫協会,2004,2014)から
拾ってみた。ただ,出荷量では施設栽培の多少に影響を受けるので,施設栽培面積(10 a)あたりの出荷量
として都道府県別にまとめてみた(図 1)。2003 年と 2013 年を比較すると,2013 年は全体に棒グラフが高
くなっており,出荷量は増加していると言える。しかし,10 年経過しているにも関わらず,大幅には増加
していなかった。両年とも高知県の出荷量が飛び抜けて多かった。しかし,10 年前に出荷量が多かった滋
賀県や兵庫県は減少し,代わって
城県,栃木県,静岡県,三重県,宮崎県,鹿児島県などが増加している。
また,10 年前も現在もほとんど出荷されていない県も多い。水稲主産県は当然としても,果菜類の施設園
芸が行われている県でも少ない県がある。奈良県も天敵製剤が普及していない県である。なぜ普及しないの
だろうか?
これまで,生物農薬に関連した講演会や記事等を通じて,高知県など様々な産地での天敵導入の成功談を
伺う機会は多かった。そこでは苦労話も最終的には成功への助走だった。しかし,成功を夢見て 10 年間助
走し続けている県は,何が問題なのだろうか?
歴史も長く,最も一般的な天敵製剤として各地で普及して
いるイチゴのハダニ類防除へのカブリダニ製剤に関する本県の現状を検討した。
天敵製剤は使いやすいのか
病害虫防除は営農活動の一環に過ぎない。生物農薬,特に天敵製剤の使用が期待される程拡大しない背景
には,今の天敵製剤そのもの,あるいは使用体系が,薬剤防除体系に比べて何か問題を含んでいるからだと
考えられる。放飼作業に面倒なことがある,経費が高い,効果が不安定,他の農作業との調整がしにくい,
0.35
出荷量/施設面積︵
/
kg
0.3
0.25
2003 年
2013 年
0.2
0.15
0.1
︶
10 a
0.05
沖
縄
鹿児島
宮
崎
大
෼
熊
本
長
崎
佐
賀
福
岡
高
஌
愛
媛
香
川
徳
島
山
口
広
島
岡
山
島
根
鳥
取
和歌山
ಸ
良
兵
庫
大
阪
京
都
滋
賀
三
重
愛
஌
岐
阜
福
井
石
川
富
山
新
潟
੩
岡
長
野
山
梨
神ಸ川
東
京
千
༿
埼
玉
群
馬
栃
木
城
福
島
山
形
秋
田
宮
城
岩
手
青
森
北海道
0
図1
2003 年と 2013 年の全国の施設面積あたりの天敵製剤出荷量
─ 37 ─
自分の決めた時間に作業できない,等は考えられないだろうか。
さらに,天敵製剤を使用すると,併用可能な化学農薬の制限,放飼タイミングや放飼方法など多くの配慮
すべき点が発生する。メーカーでは都道府県等の研究機関と協力して各種天敵製剤の使用マニュアルを作成
している。ただ,これをそのまま産地に導入できる訳ではない。産地ごとに修正が必要であり,多くの生産
者が利用できる技術まで平易水準化できていない可能性はある。逆に,防除暦さえ見ればほとんどの生産者
が防除できるという薬剤防除は,使いやすい防除法と言える。これは,化学農薬そのものが持つ大きなポテ
ンシャル(例えば,常用濃度は室内試験の LC50値の 15∼20 倍に設定されている農薬もあること,製剤が工
夫され,散布後の安定性が確保されていること,粒剤や潅注処理が普及し,長期間効果が持続すること等)
によるものであると考えられる。もし多くの生産者の“害虫防除感覚”が化学農薬の使い易さを基準にして
いるのであれば,天敵製剤導入前にはその違いや考え方について十分な説明が不可欠と考えられる。散布し
て直ちに効果が現れる薬剤防除に対し,カブリダニ製剤による効果発現には 1 ケ月以上を要することも多
い。説明されていても我慢できない生産者がいても不思議ではない。
また,天敵製剤を既に使用している人には当然となっている注意事項,具体的には,放飼前に長期間直射
日光に当てない,暑い車内に放置しない,使用まで横向きに置く,ボトルをよく回転させてから放飼すると
いった点は,初めての使用者は戸惑う。さらに,10 a に対してボトル 1 本を撒くという行為そのものが非常
に難しい。加えて,注文後,到着までに相当の日数を要する点も気軽に使い難い点である。
イチゴの場合,品種が変遷し,葉色が濃く,葉が厚い品種が多くなっている。このため,生産者がイチ
ゴ葉表に現れるハダニ吸汁跡でハダニの発生を確認するのが困難になっている。こうなると,吸汁跡でハ
ダニの発生を確認してからカブリダニ製剤を注文しても,手遅れとなり,制御しきれない状況を招きやす
い。しかし,スケジュール放飼は経済的ではない。生産者や現地指導者にとって追加放飼の判断は非常に
難しい。
効果は十分か
一般的には許容可能なレベルで対象害虫密度が管理できれば防除の目的は果たされる。ところが,さらに
高いレベルでの防除を目指している生産者が多い。このため薬剤防除の場合は過剰防除を招きやすいが,春
までハダニ類がほとんど発生しなかった(現在では難しいが)。また,生産者によっては許容可能な病害虫
レベルがほとんど“0”でないと納得できないという方もいる。一方,カブリダニ製剤によるハダニ防除で
は,3 月頃にハダニ類による葉への吸汁跡が目立つ,あるいは葉の周囲へのハダニ類による糸張りなどがつ
ぼ状に発生する場合がある。これらはあまり拡大することなく収束するが,几帳面な生産者はこれが気に
なってしまう。上述のようにカブリダニ製剤の特性として,効果発現までに時間がかかることは頭で理解し
ていても納得はできないのである。現場指導者の目からは,カブリダニ製剤でハダニ類の密度抑制に成功し
た事例であっても,生産者は一部とは言え,葉に糸が張った様子を見て,カブリダニ製剤ではハダニ類防除
はできないと判断するかも知れない。
新技術導入に対する考え方の地域的な違いか
本県にはイチゴの高設栽培が少ししか導入されていない地域がある。担当の普及指導員に尋ねてたとこ
─ 38 ─
ろ,
「その地域は天敵に限らず新しい技術導入には慎重で,懐疑的だ」と分析する。また,身体を動かすこ
とは厭わないが,新しい経費が発生することには非常に敏感な生産者もいる。これらの人々は薬剤散布を天
敵製剤に切り替えることに対して否定的である。一概には言えないが,このような考え方が天敵製剤導入を
遅らせる原因の一端となっている可能性はある。ただ,このような地域にあっても新規就農者などは天敵製
剤への関心が高い。ここでの成功事例の積み上げが重要と考えられる。
関係者の能力・連携不足か
防除の専門業者が少ない日本では,生産者を指導する普及指導員や研究員,営農指導員がいないと天敵製
剤の利用は拡大しにくい。天敵製造業者の中には県の研究員や普及指導員 OB を現地指導者として活用し
ている所もある。某天敵販売業者の方から,これらの指導スタッフの能力の違いが使用量の違いとして現れ
ているのではないかと指摘されたこともある。また,生産者を含む関係機関の連携の不足を指摘する声もあ
る。本県で露地ギクのオオタバコガ防除に簡易なネット被覆法を開発し,普及した事例(国本・神川,2012)
では,生産者団体,JA,農林振興事務所(普及指導員),研究機関,行政(補助事業)等が連動し,面的で,
短期間の技術普及が可能になったと報告されている。
これまで,うまく天敵を普及できなかった場合には,対象の生産者と関係団体の合意形成や役割分担が十
分に機能していたかを考えてみる必要がある。
技術がないのか
さて,上述のように天敵を活用するためには放飼タイミングなど様々な条件を整える必要がある。例え
ば,イチゴでのカブリダニ製剤導入の場合,導入前の 11 月にカブリダニ製剤への影響期間を考慮し,殺ダ
ニ剤でハダニ類の密度を極低密度にしておかなければならない。しかし,これができない生産者が多い。単
に薬剤抵抗性の発達だけではなく,薬液付着が不十分なのだ。10 年前ならば圃場でハダニ類を見ることが
なかった防除の上手な生産者の圃場でハダニ類が頻繁に観察される。この背景には以下のような要因が影響
していると考えられる。
①
イチゴ育苗方法が変化し,雨除けポット育苗によりハダニ類が増殖しやすい条件が整っている。
②
生産者が高齢化し,散布回数や散布精度が低下している。
③
ナミハダニ黄緑型の薬剤感受性が低下し,多くの登録殺ダニ剤で常用濃度での死亡率が低下してい
る。
④
ストロベリーノズル*の導入により,特定の位置の葉裏に薬液が付着しにくい部位が生じている。
特に,①,②による葉裏への薬液付着の不足が最も影響していると考えられる。そこで,筆者らは,これ
を改善するために生産者が考案した特別なノズル(写真 1)を用いて,薬液を上向きに噴霧し,イチゴ株の
周囲から散布する方法を提案している。しかし,実践した生産者からは散布作業時間が 2 倍以上になるこ
*:逆 U 字型の噴管に上下を向いた噴口が付いており,上下両側から薬液を噴射するイチゴ専用ノズル。噴管を散布
竿で支持して高設ベンチ上から散布するため散布竿を上下に動かす必要が無く散布作業が楽に行える。このため
導入する生産者が増えている。様々な方向から薬液が噴射され,全体の付着は良いが,高設栽培の中央部分の特
定の部位の葉裏への付着が少ない。
─ 39 ─
と,薬剤散布時の人体暴露量が非常に多くなること
から,評判が悪い。
最近では,カブリダニ製剤放飼前にハダニ密度を
低下させられない点を考慮してミヤコカブリダニと
チリカブリダニを 11 月に同時に放飼する方法も提
案されているが,経費増大は避けられない。
使う動機が明確か?
必要性がないのか
高知県のように県の方針として環境保全型農業推
写真 1
イチゴ高設栽培専用ノズル
進を明確に打ち出し,これを PR するとか,契約先
のスーパーが極力農薬を使用しないで栽培した農産物を置くことで特色を出したいので,生産組合全体で対
応するようになった,といった背景があれば天敵製剤の利用にも力が入るだろう。しかし,単に天敵製剤を
使用しても商品の評価に繋がる訳ではない。奈良県でも,イチゴ作りの理念が「開花期以降,化学農薬は散
布しない」としている生産者は,天敵製剤を使いこなしている。必要に迫られた場合には,使いこなす技術
や環境はあると言える。となると,未だに利用する生産者が少ないのは天敵製剤を使用する必要性を感じて
いないからかも知れない。
ミナミキイロアザミウマやナミハダニ黄緑型など薬剤抵抗性の発達は深刻である。このため,これらの害
虫の防除は,速やかに天敵利用に移行していくと考えられた。しかし,実際には天敵利用は緩やかに増加し
ている程度である。
精神的な不安か
筆者らが生産者に薬剤散布を行う動機を調査した際,「他の生産者が散布したから」
,「新しい害虫の情報
を聞いたから」,「前回の散布から時間が経ったから」,
「過去に痛い目に遭ったから」,「しばらく旅行で不在
にするから」などが挙げられた。害虫の発生状況に関わりなく,生産者の精神的不安解消のためにとりあえ
ず薬剤散布することは実際に行われている。具体的に薬剤を散布するという作業を伴う薬剤散布でさえこの
ような状況なのだから,わずかな量の緩衝材をふりかけたり,袋を吊り下げるだけの天敵製剤に対して,生
産者が精神的不安を抱くのは当然である。もし,カブリダニが生産者の目に留まるテントウムシくらいの大
きさで,イチゴ上で活発に動いている様子が見えるならば状況は違うかもしれないが。
答えは生産者に聞くしかない
ここまで,筆者なりに奈良県のイチゴ栽培でカブリダニ製剤の利用が拡大しない理由を考えてみたが,結
局,なぜカブリダニ製剤を使用しないのかは生産者に直接聞くしかない。表 1 は現在,カブリダニ製剤を使
用していない奈良県のイチゴ生産者に導入しない理由を尋ねた結果をまとめたものである。その理由は大き
く 2 つに分けることができる。1 つは過去に試してみたが駄目だったというもの,もう 1 つは,使ったこと
はないが情報不足で使用に踏み切れないというものであった。前者に関しては,過去の使用に関して薬剤散
布,天敵の保管管理,使用方法などを詳しく聞き取る必要がある。適切な手順を踏んでいて効果がなかった
─ 40 ─
表1
イチゴ生産者がカブリダニ製剤を使用しない理由
• 以前に導入したが効果が感じられなかった。
• 以前使用したときに使用が面倒だった。何かと制限が多い。
• 注文してから到着までに時間がかかりすぎた。到着した時にはハダニが増加していた。
• ハダニしか防除できない。他の病害虫防除は別に実施しなければならない。
• 放飼のタイミングがわからない。
• 天敵を導入すると安心してしまい,観察しなくなるように思う。
• カブリダニでハダニを防除できるのか不安。
• 天敵を導入した場合に,具体的にどの程度の被害で止まるのか情報がない。
• ハダニも見えないし,カブリダニも見えない。
• これまでハダニを発生させたことがなく,必要性を感じなかった。
のならば致し方ないが,改めるべき点があったのならば再チャレンジの機会が必要である。後者に関して
は,こちらの情報提供不足や提供方法を反省しなければならない。実際に本県の普及指導員も様々な講習会
などでイチゴ生産者に天敵製剤を紹介している。しかし,その順番は,① ナミハダニ黄緑型の薬剤抵抗性
の現状 → ② 効果のある殺ダニ剤 → ③ 天敵製剤であった。これが,天敵製剤を前面に押し出した構成にな
れば聞き手の受け止め方も変わるかも知れない。
今後に向けて
平成 26 年度から奈良県でも普及指導員が中心になり,イチゴ生産者を対象にカブリダニ製剤によるハダ
ニ防除を積極的に薦めるようになってきた。この背景には,ナミハダニ黄緑型の各種殺ダニ剤に対する感受
性低下の急激な進行により,慣行の殺ダニ剤散布では防除困難になる可能性が出てきたからである。この取
り組みは,これまでの経験を活かして次のような点に留意している。
1 )生産者圃場のナミハダニ黄緑型の薬剤感受性検定を行い,殺ダニ剤による防除が難しい生産者に対象
を絞り,動機付けを明確にしている。
2 )事前にカブリダニ製剤の能力,使用条件や制約,防除の限界(糸張り等が多少生じる)を十分に説明
し,納得できない生産者には導入は薦めない。
3 )導入を決めた圃場のハダニ寄生状況を確認し,放飼量等を助言している。
4 )生産者の予定等を勘案して,導入タイミングを決定している。
5 )病害虫防除所と共に定期的なモニタリングを継続している。
6 )圃場で活動しているカブリダニ類をヘッドルーペを用いて生産者に観察してもらっている。
ただ,生産者の目的は天敵利用ではない。彼らに「天敵製剤を使うと得や!」と思わせなければ,普及し
ない。生産者団体としてのまとまりがあまり強くない産地が多い本県においては,個人一人一人に納得して
もらわないといけない。天敵製剤の普及にはまだしばらく助走が続くかもしれない。
引用文献
国本佳範・神川
諭(2012)植物防疫 66 : 135-138.
日本植物防疫協会(2004)農薬要覧 2004.pp 744.
日本植物防疫協会(2014)農薬要覧 2014.pp 749.
─ 41 ─
防除指導実践を通して見えてくる生物農薬の課題と展望②
城県農業総合センター園芸研究所
研究調整監
冨 田 恭
範
はじめに
城県では,農作物病害虫・雑草防除指針(
城県で栽培されている主な作物に発生する病害虫・雑草に
ついて,効率的かつ安全性の高い防除方法を記載したもの)を毎年刊行している。この指針の中で,環境に
やさしい病害虫防除の項が設けられている。
一部抜粋すると,『本県においては,農村における環境保全活動と環境にやさしい営農活動を地域ぐるみ
で一体的に進める「エコ農業
城」の全県的な展開を基本方向のひとつとしている。本県の農業者が環境に
やさしい農業生産活動に向けて自ら最低限取り組むべき事項として「エコ農業
項目のひとつとして「効果的・効率的な適正防除」を掲げるとともに,エコ農業
城環境規範」を定め,実践
城の重要な担い手として
エコファーマーを位置づけ,
「持続性の高い農業生産方式」の「化学農薬低減技術」などの積極的な推進を
図っている。これらのことから,今後の病害虫防除においては,環境保全に留意し,病害虫や雑草が発生し
にくい環境を整えながら,病害虫発生予察情報等に基づき,防除要否およびタイミングの判断を的確に行う
とともに,伝染源の除去など耕種的防除,天敵や性フェロモンを利用した生物的防除,粘着板などを利用し
た物理的防除および化学合成農薬による防除を組み合わせて行うことが重要である。このため,環境負荷を
低減しつつ病害虫の発生を経済的被害が生じるレベル以下に抑制する総合的病害虫・雑草管理(IPM)の取
り組みを推進する必要がある。』
この中で,生物的防除法については,『病原菌や害虫の天敵となる微生物や昆虫類等を用いて病害虫の防
除を行う方法である。化学農薬と比べて効果発現まで時間がかかること,効果のふれが出やすいこと,そし
て生物であることから活動に適した環境と
(対象病害虫)を必要なことを十分理解して使用する。』とし
ている。
さらに,天敵昆虫と微生物農薬の使用上の注意として,以下の 7 項目が記載されている。
○天敵昆虫と微生物農薬の使用上の注意
• 病害発病前∼発病初期,もしくは害虫発生期に使用する。
• 化学農薬と比べて遅効性であるので,使用時期が遅れないよう日頃から圃場の観察を怠らない。
• 微生物農薬は他の薬剤との併用はしない。希釈水は塩素を含まないものを使用する。開封後は早めに使
い切る。
• 剤の特性に応じて,使用条件等を遵守する。
• 天敵昆虫放飼前後の薬剤散布はさける。
• 天敵昆虫は入手後直ちに放飼し,使い切る。
• 外部からの対象病害虫の侵入を防ぐため,施設の開口部にネットを張る。
─ 43 ─
○具体的に記載されている病害虫防除を目的とした生物農薬の一部(抜粋)
◎水
稲
• 種子消毒
トリコデルマ
バチルス
アトロビリデ:「エコホープ」,タラロマイセス
フラバス:「タフブロック」,
シンプレクス:「モミホープ水和剤」
◎野菜類
• うどんこ病
タラロマイセス
バチルス
フラバス:「タフパール」
ズブチリス:「インプレッション水和剤」,
「ボトキラー水和剤」
【ダクト内投入】バチルス
ズブチリス:「ボトキラー水和剤」
• 灰色かび病
バチルス
ズブチリス:「ボトピカ水和剤」,「エコショット」,「インプレッション水和剤」,
「ボトキラー水和剤」
【ダクト内投入】バチルス
ズブチリス:「ボトキラー水和剤」
• 軟腐病
非病原性エルビニア
カロトボーラ:「エコメイト」,
「バイオキーパー水和剤」
◎イチゴ
• 炭疽病
タラロマイセス
フラバス:「タフパール」
◎キュウリ
• ズッキーニ黄斑モザイクウイルスの感染によるモザイク症および萎凋症
ズッキーニ黄斑モザイクウイルス弱毒株:「キュービオ ZY-02」
◎シ
ソ
• 斑点病
バチルス
ズブチリス:「アグロケア水和剤」,
「エコショット」
◎ハクサイ
• 根こぶ病
バリオボラックス
パラドクス:「フィールドキーパー水和剤」
◎果樹類
• 根頭がんしゅ病
アグロバクテリウム
◎ナ
ラジオバクター:「バクテローズ」
シ
• 黒星病
バチルス
このように,
ズブチリス:「ボトキラー水和剤」,
「アグロケア水和剤」,
「エコショット」
城県では,農作物病害虫・雑草防除指針の中で IPM を実践していく上での一手法として
生物農薬を推奨してきている。今回は,病害防除の指導を実践する上での生物農薬の課題と展望について,
具体的に,トマトの灰色かび病,キュウリの褐斑病とうどんこ病,ナシの黒星病に対する生物農薬の普及へ
の取り組みを通じて述べてみる。
─ 44 ─
1 .生物農薬の現場での病害防除への導入
病害防除における生物農薬の現場への導入は,害虫防除技術としての天敵の利用と比較するとかなり遅れ
ている印象をぬぐえない。天敵では,スワルスキーカブリダニをはじめタイリクヒメハナカメムシ,チリカ
ブリダニ,ミヤコカブリダニなど防除を必要とする対象害虫に対応した防除効果の高い生物農薬が
ってき
ている。一方,各種病害に対する防除効果の高い生物農薬は少なく,害虫と病害に対する生物農薬の防除効
果の違いが,病害防除における生物農薬の導入を遅らせているひとつの要因と考えられる。また,生物農薬
を現場で使用する場合は,化学農薬を使用する場合よりも現場の栽培状況に対応したよりきめこまやかな指
導が必要である。天敵の利用については,指導機関の現場への導入指導に関する工夫はもちろんのこと,販
売メーカーも積極的に使用方法への指導に携わり,それぞれの立場で協力して現場をバックアップしてきた
ことが現在につながっていると思われる。しかし,病害に対する生物農薬は,種類や防除効果などの情報も
生産者へ十分伝わっておらず,支援体制も不十分である。
生物農薬の現場への導入を目指して,10 年前(平成 19 年 9 月)に「生物農薬 ─ この 10 年間と今後の
展望」のテーマでシンポジウムが開催された時期に,
城県農業総合センター園芸研究所では,施設栽培ト
マト(促成栽培)において,トマト灰色かび病に対するバチルス
ズブチリス水和剤(MBI 600 株)(ボト
キラー水和剤)(以下「ボトキラー」とする)のダクト内投入の試験を実施した。さらに,新農薬実用化試
験(生物農薬)において,うどんこ病に卓効を示したバチルス
ズブチリス水和剤(QST-713 株)(インプ
レッション水和剤)
(以下「インプレッション)とする)について,当時,キュウリの抑制栽培で問題となっ
ていた褐斑病に対する防除効果の検討を行った。
さらに,果樹類の減農薬栽培のアイテムとなれるかを検証するため,ナシ黒星病に対するバチルス
ズブ
チリス水和剤(D 747 株)(エコショット)(以下「エコショット」とする)の防除効果の検討を行った。
そこで,それぞれの試験の具体的な内容について触れながら,地方の研究機関が病害防除に対する生物農
薬の現場への普及を目指した取り組みについて紹介する。なお,本稿では農薬名について,バチルス
ズブ
チリス水和剤のみは商品名で記載する。
⑴
トマト灰色かび病
新農薬実用化試験(生物農薬)を経て農薬登録されたボトキラーについて,本研究所内のガラスハウス(47
m2)において,背負式自動噴霧器を用いた散布での効果持続期間やメパニピリム水和剤との防除効果の比
較試験などを実施し,防除効果や薬害,汚れなどの再確認を行った(平成 15 年)。また,省力的な防除法と
して,暖房機の送風ダクト内投入による防除効果を検討し,薬剤代と作業労賃などの簡単なコスト試算も実
施した(平成 15 年)。
これらの試験結果を基に,特別栽培農産物の認証を得たトマト栽培農家のハウスにおいて,特別栽培農産
物の基準である 16 成分回数(平成 15 年当時)の化学合成農薬(殺菌剤)散布に加え,ボトキラーの暖房機
の送風ダクト内投入を併用し,灰色かび病の防除効果を検討した。ダクト内投入は,灰色かび病が発生する
前の平成 15 年 12 月 2 日から翌年 3 月までは毎日 15 g/10 a/1 日換算量を投入した。設定夜温は 8℃とし,
夕方,暖房機が稼働していない場合には,ダクト内投入後,手動送風を 2 時間程度行った。対照は特別栽培
農産物の基準である 16 成分回数の化学合成農薬(殺菌剤)散布とした。
その結果,ボトキラーのダクト内投入を組み合わせることで,化学合成農薬(殺菌剤)の使用回数を必要
─ 45 ─
最小限に抑えることが実証でき,特別栽培農産物の生産や灰色かび病に対する薬剤耐性菌の出現回避を目的
とした防除体系を作成した。
さらに,この試験事例を基に,県内のトマト農家への普及を目的に本剤のダクト内投入法と化学合成農薬
(殺菌剤)を組み合わせた防除法について,県内のトマト栽培ハウス 6 圃場で現地試験を行い,防除効果を
検討した。
1 )ボトキラーのダクト内投入法による飛散・葉面付着状況(現地試験:平成 16∼17 年)
ボトキラーの防除効果を安定させるためには,ダクト内投入した本剤の十分な飛散と葉面への付着状況が
重要であるため,はじめにその状況について調査を行った。
①
ダクト内投入法を実施した試験場所および栽培概要
面積
(m2)
試験場所
T 市ハウス
品
種
700 レディファースト(自根)
定
植
日
10月27日
∼11月 4 日
ダクト内
投入開始日
栽培密度(cm)
マ
ル
チ
畝間
株間
ベット
通路
11月22日
150
33
緑
なし
11月17日
150
78
黒
黒
11月22日
150
32
黒
黒
I 町 ハ ウ ス 1,000
麗容(穂木)
マグネット(台木)
10月18日
K 市 ハ ウ ス 1,580
ごほうび(穂木)
マグネット(台木)
10月 3 日
B 市 A ハウス
726
麗容(穂木)
ブロック(台木)
9 月25日
12月11日
130
33
黒
黒
B 市 B ハウス
825
麗容(穂木)
ブロック(台木)
11月16日
12月11日
130
33
黒
黒
麗容(穂木)
マグネット(台木)
9 月29日
11月17日
135
66
白黒
なし
Y 市 ハ ウ ス 1,000
∼25日
∼6日
その他の栽培管理は農家慣行とした。
②
方
法
薬剤の投入方法
県内 6 ハウス(図 1 の a∼f)において,平成 16 年 11 月または 12 月から毎日,10∼14 g/10 a/1 日換算量
のボトキラーを暖房機の稼動前にダクト内に投入した。
薬剤の飛散調査
平成 16 年 11 月 26,30 日に,各ハウス内の 9∼10 地点に NA 培地を暴露状態で設置し,ボトキラー 15 g/
10 a 換算量をダクト内に投入して暖房機の手動運転を 30 分間行った。その後,培地を回収し,37℃で一晩
培養して,翌日コロニー数を計数することにより飛散量を調査した。
葉面付着バチルス
ズブチリス数調査
ダクト内投入を開始してから 2∼3 ケ月経過した 2 月 21,22 日に各ハウス内の 3 地点より上位葉を採取
し,0.85%生理食塩水を加えながら磨砕した。この磨砕液を原液として作製した各希釈段階 100 μl ずつを
NA 培地に塗沫し(各希釈 4 反復),37℃で一晩培養して翌日コロニーを計数し,新鮮葉重 1 g に付着して
いるバチルス
ズブチリス数を算出した。
─ 46 ─
ḭ
Ḫ
a
ḧ
Ḱ
中ダクト
ḧ
Ḭ
b
ḯ
出入口
Ḯ
ḫ
Ḩ
ḯ
Ḭ
ḩ
Ḱ
Ḩ
Ḯ
ḫ
暖房機
ḭ
ḩ
Ḫ
親ダクト
ḭ
ḭ
Ḫ
c
Ḱ
ḧ
Ḯ
ḫ
Ḩ
ḯ
Ḭ
Ḱ
ḩ
d
暖房機
Ḯ
Ḫ
ḧ
ḫ
Ḩ
畝
ḯ
Ḭ
ḧ
Ḫ
ḩ
ḭ
ḩ
e
Ḩ
ḫ
Ḱ
f
Ḯ
ḫ
ḭ
Ḫ
Ḭ
Ḩ
Ḭ
ḩ
図1
③
結
ḯ
ḯ
ḧ
Ḯ
各ダクト内投入ハウスの見取り図
(a:T 市(左上図),b:I 町(右上図),c:K 市(左中図),d:B 市 A ハウス(右中図),
e:B 市 B ハウス(左下図),f:Y 市(右下図))
円内数字はボトキラーの飛散調査および葉面付着バチルス ズブチリス数調査位置を示す。
果
ダクト配置とボトキラーのダクト内投入法によるハウス内飛散状況
ダクト内投入に用いたポリダクト(親ダクト,中ダクト)の配置は,暖房機側からハウスの反対側に向か
う
型(図 1 の a,b,d,e),南北二つの暖房機それぞれから東西へ向かう平行型(図 1 の c),暖房機側
からハウス外周を走るコの字型(図 1 の f)と圃場によりやや異なった。吹出口はいずれのハウスでもダク
ト先端に設置した。いずれのハウスでもバチルス
ズブチリス芽胞のコロニーはハウス全体で認められた
が,温風ダクトの吹出口付近で多く,そこから離れるほど少なくなる傾向であった(表 1)。また,Y 市圃
場では調査位置の②と⑩のコロニー数に約 18 倍の差が認められた。
葉面付着バチルス
ズブチリス数
ダクト内投入各ハウスの採取葉から 105 ∼106 cfu/新鮮重 1 g の菌数が採取した全地点で検出された(表
2)。また,飛散調査で約 18 倍の差が認められた Y 市圃場の調査位置②と⑩の地点において,菌数について
は差が認められなかった。
以上のことより,様々にダクトが配置されていたが,ダクト内投入法によりボトキラーはハウス内全体に
飛散し,葉面上で十分に付着・定着していた。
─ 47 ─
表1
ダクト内投入各ハウスにおけるバチルス
シャーレ 1 枚当たりのコロニー数1)
ズブチリス芽胞の
ダクト内投入ハウス2)とコロニー数
調査位置2)
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
a:T 市
b:I 町
c:K 市
d:B 市 A
e:B 市 B
f:Y 市
4,450
1,956
1,056
4,904
2,353
1,559
8,788
2,211
1,842
1,360
688
1,152
1,568
648
1,264
1,072
1,200
1,024
864
1,296
2,466
4,337
1,786
1,190
1,502
1,417
1,701
2,324
2,636
1,389
2,835
5,273
1,304
1,474
1,134
935
1,417
1,587
3,118
963
5,783
5,329
4,649
1,088
1,871
2,154
736
2,381
984
2,720
3,402
784
912
1,080
688
520
1,814
336
192
1)調査は平成 16 年 11 月 26,30 日に実施した。
2)調査位置とダクト内投入ハウスの英小文字については図 1 参照。
表2
ダクト内投入ハウスにおける葉面付着バチルス
a2):T 市
6
b:I 町
3)
3.6×10 (①)
1.4×106(⑤)
1.1×106(⑨)
6
2.5×10 (①)
0.6×106(⑤)
0.9×106(⑨)
c:K 市
6
0.7×10 (①)
2.4×106(⑨)
1.3×106(⑩)
ズブチリス数(cfu/新鮮葉重 1 g1))
d:B 市 A ハウス
5
5.6×10 (①)
1.6×106(⑤)
1.2×105(⑨)
f:Y 市
1.3×105(②)
1.1×106(⑥)
0.6×105(⑩)
1)調査は平成 17 年 2 月 21,22 日に実施した。
2)英小文字については図 1 参照。
3)カッコ内は調査位置を示す(図 1 参照)。
2 )ボトキラーのダクト内投入法の防除効果(現地試験:平成 16∼17 年)
トマト灰色かび病に対し,ボトキラーのダクト内投入法と化学合成農薬(殺菌剤)を組み合わせた防除法
について,県内の 6 ハウスで防除効果を検討した。
①
試験場所および栽培概要
1)の①ダクト内投入法を実施した試験場所および栽培概要を参照。
②
方
法
ダクト内投入
平成 16 年 11 月または 12 月から 4 月まで,10∼14 g/10 a/1 日換算量のボトキラーを暖房機の稼動前にダ
クト内に毎日投入した。暖房機が稼動しなかった時は,翌日に手動送風を行った。なお,第 1 回目のダクト
内投入を開始する前にボトキラー 1,000 倍希釈液を散布した。その他の病害防除は発生状況に応じて化学合
成農薬(殺菌剤)を散布した。
化学合成農薬(殺菌剤)散布
灰色かび病の防除は化学合成農薬(殺菌剤)のみにより行い,その他の病害防除は発生状況に応じて化学
合成農薬(殺菌剤)を散布した。
灰色かび病の発病調査
葉・茎における発病株率は,各区約 100 株を任意に抽出し,発病の有無を調査して算出した。また,発病
果率は,各区約 100 株に着果していた全果実について,発病の有無を調査して算出した。
─ 48 ─
③
結
果
試験期間中のダクト内投入と化学合成農薬(殺菌剤)散布について,灰色かび病に登録のある化学合
成農薬(殺菌剤)の散布回数並びに成分使用回数を比較すると,ダクト内投入は,化学合成農薬(殺菌
剤)散布に対して,T 市圃場では,40%,33%であり(表 3),B 市圃場(A ハウス)では,57%,75%
であり(表 4),I 町圃場では,133%,133%であった(表 5)。T 市圃場および B 市圃場(A ハウス)
では,ダクト内投入が減農薬栽培となったが,I 町圃場では,ダクト内投入の方が化学合成農薬(殺菌
剤)散布より,化学合成農薬(殺菌剤)の散布回数並びに成分使用回数とも多くなった。
ダクト内投入における灰色かび病の発生は,化学合成農薬(殺菌剤)散布と比較すると,T 市圃場で
は,少なく推移し(図 2)防除効果が高かったが,B 市圃場(A ハウス)では,ほぼ同等に推移し(図 3)
,
K 市圃場では調査開始前より灰色かびの発生があり,ダクト内投入開始後も多いまま推移した(図 4)。
表3
試
T 市圃場における試験期間中の化学合成農薬(殺菌剤)およびトマト灰色かび病に
登録のある化学合成農薬(殺菌剤)の散布回数と成分使用回数
験
灰色かび病に登録のある
化学合成農薬 (殺菌剤)
化学合成農薬(殺菌剤)
区
散布回数(回) 成分使用回数(回) 散布回数(回) 成分使用回数(回)
ダクト内投入
7
16
化学合成農薬(殺菌剤)
7
19
4
10
4
12
100
2.0
60
1.6
1.2
40
0.8
20
0.4
発病果率︵%︶
༿・茎に͓ける発病株率︵%︶
発病株率(ダクト内投入)
発病株率(化学合成農薬)
発病果率(ダクト内投入)
発病果率(化学合成農薬)
80
0
6
25
/
22
/
13
2
2
3
3
/
26
/
1
/
1
/
12
/
/
12
/
/
/
/
11
4
4
5
8
21
9
24
8
26
12
調査日
図2
T 市圃場におけるボトキラーのダクト内投入と化学合成農薬(殺菌剤)散布におけるトマト灰色かび病の発生推移
ダクト内投入は平成 16 年 11 月 22 日から 4 月下旬まで実施した。また 11 月 22 日にボトキラー 1,000 倍液とイミ
ノクタジンアルベシル酸塩水和剤を混用して散布した。
表4
B 市 A ハウスにおける試験期間中の化学合成農薬(殺菌剤)およびトマト灰色かび病
に登録のある化学合成農薬(殺菌剤)の散布回数と成分使用回数
試
験
区
化学合成農薬(殺菌剤)
灰色かび病に登録のある
化学合成農薬 (殺菌剤)
散布回数(回) 成分使用回数(回) 散布回数(回) 成分使用回数(回)
ダクト内投入
化学合成農薬(殺菌剤)
4
8
6
9
─ 49 ─
4
7
6
8
100
0.3
発病株率(化学合成農薬)
発病果率(ダクト内投入)
60
0.2
発病果率(化学合成農薬)
発病果率
︵%︶
༿・茎に͓ける発病株率
︵%︶
発病株率(ダクト内投入)
80
40
0.1
20
0
/
/
/
/
/
/
/
/
12
12
/
/
/
/
11
1
1
2
2
3
3
4
4
5
30
16
27
7
26
10
22
10
25
11
27
12
調査日
図3
B 市 A ハウスにおけるボトキラーのダクト内投入と化学合成農薬(殺菌剤)散布におけるトマト
灰色かび病の発生推移
ダクト内投入は平成 16 年 12 月 11 日から 4 月下旬まで実施した。また 12 月 11 日にボトキラー
1,000 倍液を散布した。
表5
K 市圃場における試験期間中の化学合成農薬(殺菌剤)およびトマト灰色かび病に
登録のある化学合成農薬(殺菌剤)の散布回数と成分使用回数
試
験
灰色かび病に登録のある
化学合成農薬 (殺菌剤)
化学合成農薬(殺菌剤)
区
散布回数(回) 成分使用回数(回) 散布回数(回) 成分使用回数(回)
ダクト内投入
化学合成農薬(殺菌剤)
6
4
6
5
4
3
80
2.0
60
1.5
40
1.0
20
0.5
発病果率︵%︶
2.5
༿・茎に͓ける発病株率︵%︶
100
4
3
発病株率(ダクト内投入)
発病株率(化学合成農薬)
発病果率(ダクト内投入)
発病果率(化学合成農薬)
0
22
6
25
/
13
2
2
3
3
/
26
/
1
/
1
/
12
/
/
12
/
/
/
/
11
4
4
8
21
9
24
8
26
調査日
図4
K 市圃場におけるボトキラーのダクト内投入と化学合成農薬(殺菌剤)散布におけるトマト灰色かび病の発生推移
ダクト内投入は平成 16 年 12 月 14 日から 4 月下旬まで実施した。また 11 月 22 日にボトキラー 1,000 倍液とイミ
ノクタジンアルベシル酸塩水和剤を混用して散布した。
T 市圃場での農薬の経費(10 a 当たり換算)は,ダクト内投入で 73,063 円(ボトキラー:31,840 円
+化学合成農薬(250 l)
:18,723 円+作業労賃:22,500 円),化学合成農薬(殺菌剤)散布で 76,788 円(化
学合成農薬(250 l):36,288 円+作業労賃:40,500 円)となった。
─ 50 ─
以上のことより,ボトキラーのダクト内投入法と化学合成農薬(殺菌剤)を組み合わせた防除体系を実施
した場合,T 市圃場では高い防除効果が認められ,さらに化学合成農薬(殺菌剤)の散布回数も 50%以下
に抑えることができた。K 市圃場ではボトキラーのダクト内投入開始時に灰色かび病が発生しており,さ
らに開始後も発生が認められ,灰色かび病に対するダクト内投入法の十分な防除効果は得られなかった。
3 )ボトキラーのダクト内投入法の成功,失敗事例の検証
トマト灰色かび病に対し,ボトキラーのダクト内投入法と化学合成農薬(殺菌剤)を組み合わせた防除法
について県内の 6 圃場で現地試験を行った結果,2 圃場では防除効果が得られ(成功事例),4 圃場では効果
が得られなかった(失敗事例)。
そこで,ダクト内投入法の成功事例と失敗事例の防除方法や栽培管理の違い等について比較検討した。
表6
各圃場におけるボトキラーのダクト内投入開始日と
直前調査日での灰色かび病の発生状況
)
灰色かび病の発病果率1(%)
(調査日)
試験場所
ボ ト キ ラ ー の
ダクト内投入開始日
防除効果の有無
T 市
B 市 A ハウス
11 月 26 日
12 月 10 日
有
有
未着果(11 月 26 日)
0(11 月 30 日)
12 月 22 日
12 月 14 日
11 月 24 日
無
無
無
0(農家が確認:12 月 22 日)
2.0(12 月 3 日)
I
K
Y
町
市
市
調査開始前(農家が確認)
1)ダクト内投入開始日直前の調査
0.3
発病果率︵%︶
0.2
0.1
0
/
/
/
/
/
/
/
/
12
12
/
/
/
/
11
1
1
2
2
3
3
4
4
5
30
16
27
7
26
10
22
10
25
11
27
12
調査日
図5
B 市 A ハウスのダクト内投入におけるトマト灰色かび病の発病果率の推移と化学合成農薬(殺菌
剤)の散布日
実線矢印はトマト灰色かび病に登録のある化学合成農薬(殺菌剤)の散布日を示す。
表7
B 市 A ハウスのダクト内投入における化学合成農薬の
(殺菌剤)散布状況(12 月 11 日以降)
散布月日
化学合成農薬(殺菌剤)名
12月11日 ボトキラー
1 月 5 日 ジエトフェンカルブ・チオファネートメチル水和剤
1 月22日 イミノクタジンアルベシル酸塩・フェンヘキサミド水和剤
2 月 5 日 ボスカリド水和剤
3 月26日 ボスカリド水和剤
─ 51 ─
①
結
果
ダクト内投入の開始時期(表 6)
ダクト内投入法の成功事例となった T 市圃場ではダクト内投入を 11 月 26 日,B 市 A ハウスでは 12 月
10 日に開始し,この時点では灰色かび病は未発生であった。一方,失敗事例となった I 町圃場ではダクト
内投入を 12 月 22 日,K 市圃場では 12 月 14 日,Y 市圃場では 11 月 24 日に開始したが,すでに灰色かび
病の発生が認められていた。
灰色かび病発生時における化学合成農薬(殺菌剤)の散布
成功事例となった B 市 A ハウスでは,ダクト内投入で 12 月 27 日に発病果率 0.1%の発病が認められて
いるが,1 月 5 日以降に約 2 週間おきで化学合成農薬(殺菌剤)の散布を行い,その後の発生を抑えた(図 5,
表 7)。
一方,失敗事例となった I 町圃場では,ダクト内投入開始時の 12 月 22 日には発病が認められていたにも
かかわらず,灰色かび病に効果的と思われる化学合成農薬(殺菌剤)の散布を 2 月 6 日まで行わなかった。
また,K 市圃場でも 12 月 3 日に発病果率 2%と高い発病が見られていたにもかかわらず,化学合成農薬
(殺菌剤)の散布を 11 月 22 日以降は翌年の 1 月 24 日まで行わなかった。
耕種的防除
I 町圃場では 1 月 28 日以降,約 1 週間間隔で化学合成農薬(殺菌剤)の散布を実施したが,灰色かび病
は増加し続けた。この原因は,トマトの草勢が大変旺盛であったが,葉かきや摘葉を十分行わなかったため,
薬剤の散布ムラが多くなったことと,古葉や罹病部位の除去が十分行われていなかったため,菌の増殖源が
残ってしまったことが考えられた。
ハウス内の湿度
失敗事例となった Y 市圃場のダクト内投入では,12 月 7 日より約 2 週間間隔で化学合成農薬(殺菌剤)
を散布したが本病の発生は続いた。これは,湿度 99%以上の状態が一日平均 15.3 時間(2 月平均)であっ
たため,常に灰色かび病の発生・増殖を助長する環境となり,化学合成農薬(殺菌剤)が十分に防除効果を
発揮できなかったことによると考えられた。
以上のことより,ボトキラーが殺菌効果をほとんど有していない性質を踏まえ,ボトキラーのダクト内投
入法の効果的な使用方法として,灰色かび病の発生前から投入を開始し,本病が発生した時は直ちに化学合
成農薬(殺菌剤)による防除を行う。さらに,本病原菌がハウス内で増殖しやすい環境を作らないために,
葉かき,摘葉などを十分に行い,風通しの良い状態にすること,古葉や罹病部位の除去を十分行うこと,ハ
ウス内の湿度管理を十分行うことが必要であると考えられた。
⑵
キュウリ褐斑病,うどんこ病(平成 17 年)
県内の抑制栽培キュウリで問題となっていた褐斑病およびうどんこ病に対する防除体系を構築する上で,
生物農薬の活用が可能であるかを検証するため,防除効果について検討した。
1 )抑制栽培キュウリにおけるインプレッションのキュウリ褐斑病およびうどんこ病に対する防除効果
抑制栽培キュウリにおいて,生物農薬であるインプレッションを組み入れた防除体系について,キュウリ
褐斑病およびうどんこ病に対する防除効果を検討した。
─ 52 ─
表8
試験区
8 月 23 日
無処理
方
8 月 30 日
9月8日
インプレッション インプレッション インプレッション
マンゼブ水和剤
インプレッション イミノクタジンアルベシル酸塩水和剤
マンゼブ水和剤
インプレッション インプレッション
インプレッション TPN 水和剤
インプレッション
TPN 水和剤
マンゼブ水和剤
イミノクタジンアルベシル酸塩水和剤
─
─
─
1
2
3
4
5
①
各試験区における薬剤散布日と供試薬剤
法
試験場所
本研究所内ビニルハウス
耕種概要
品種「大将」,定植:平成 17 年 8 月 9 日,畝幅 110 cm,株間 50 cm,1 条植,施肥および一般管理は県栽
培基準に準じた。
試験規模:1 区 4∼5 株,3 反復
試験方法
表 8 の供試薬剤を,インプレッションは 500 倍,マンゼブ水和剤は 600 倍,TPN 水和剤は 1,000 倍,イ
ミノクタジンアルベシル酸塩水和剤は 2,000 倍に希釈し,10 a 当たり 250∼300 l 換算量を背負式自動噴霧器
で散布した。
調査方法
各区 4∼5 株について,9 月 6 日は無作為に抽出した上∼中位葉,9 月 13 日は無作為に抽出した本葉およ
び側枝の葉における褐斑病およびうどんこ病の発生を指数別に調査し,発病葉率および発病度,防除価を算
出した。
②
結果の概要
褐斑病に対して,化学合成農薬(殺菌剤)のみを散布した試験区 5 と比較して,インプレッションの
表9
キュウリ褐斑病に対するインプレッションを含む防除体系の防除効果
9 月 13 日
9月6日
試験区
1
2
3
4
5
無処理
調査
葉数
(枚)
50
50
50
50
50
50
本
発病
調査
葉率 発病度1) 防除価2) 葉数
(%)
(枚)
30.7
8.0
8.7
9.3
2.0
44.0
8.7
2.0
2.2
2.3
0.5
13.5
36
85
84
83
96
30
30
28
30
30
30
葉
側
発病
葉率
(%)
発病度
防除価
100
61.1
64.7
33.3
40.0
88.9
51.1
23.6
23.2
10.3
11.7
57.8
12
59
60
82
80
枝
の
葉
調査
葉数
(枚)
発病
葉率
(%)
発病度
防除価
35
35
33
35
35
35
93.3
90.5
83.8
70.5
36.2
84.8
57.9
38.8
35.5
27.9
11.0
55.5
0
30
36
50
80
1)発病度=Σ(発病指数×発病指数別葉数)/(4×調査葉数)×100
発病指数 0:発病なし,1:病斑がわずかに認められる,2:葉面積の 1/4 未満,3:葉面積の 1/4∼1/2 未満,
4:葉面積の 1/2 以上
2)防除価=100−(薬剤処理区の平均発病度/無処理区の平均発病度)×100
─ 53 ─
みを 3 回散布した試験区 1 では防除価が極めて低かった。インプレッションと化学合成農薬(殺菌剤)
を組み合わせた試験区 2∼4 については,試験区 4 の本葉でやや高い防除価が認められたが,側枝での
防除価は低かった(表 9)。
うどんこ病に対して,試験区 1 は,化学合成農薬(殺菌剤)のみの試験区 5 または化学合成農薬(殺
菌剤)を含む試験区 2∼4 とほぼ同等かそれ以上の防除価であった(表 10)。
以上のことより,抑制栽培キュウリにおいてインプレッションを含む防除体系は褐斑病に対する防除効果
は低かった。この結果からインプレッションの褐斑病への登録拡大は難しいとの結論に至った。一方,うど
んこ病に対する防除効果は高く,化学合成農薬(殺菌剤)のみの防除体系と同等以上であり,化学合成農薬
(殺菌剤)を代替できる可能性が示唆された。
表10 キュウリうどんこ病に対するインプレッションを含む防除体系の防除効果
9 月 13 日
9月6日
試験区
1
2
3
4
5
無処理
調査
葉数
(枚)
50
50
50
50
50
50
本
調査
発病
葉率 発病度1) 防除価2) 葉数
(枚)
(%)
24.0
20.7
15.3
17.3
18.7
96.7
6.0
5.2
3.8
4.3
4.7
44.5
87
88
91
90
90
30
30
28
30
30
30
葉
側
発病
葉率
(%)
発病度
防除価
3.3
10.0
23.9
20.0
10.0
94.4
0.8
2.8
7.6
5.8
2.5
44.1
98
94
83
87
94
枝
の
葉
調査
葉数
(枚)
発病
葉率
(%)
発病度
防除価
35
35
33
35
35
35
6.7
22.9
28.1
41.9
22.9
70.5
1.9
7.4
9.6
15.5
7.1
31.9
94
77
70
52
78
1,2)発病度,防除価は表 9 に準ずる。
⑶
ナシ黒星病
本県では,品種「幸水」を主体とした赤ナシ無袋栽培における重要病害の一つである黒星病に対する化学
合成農薬(殺菌剤)の年間散布回数は 14 回に及ぶ。このため,減農薬防除体系の確立が望まれていた。そ
こで,平成 16 年にナシ病害虫防除回数削減のトライ事例として,化学合成農薬(殺菌剤)の年間散布回数
を 30%削減して 10 回とする防除事例を作成し,防除指導に用いた。こうした中,減農薬栽培における生物
農薬の実用的な使用方法を模索した試験を実施してきた。
1 )エコショットを用いたナシ黒星病に対する防除効果(平成 19 年)
黒星病に対するエコショットの防除効果を確認し,減農薬防除体系に組み入れることが可能であるかを検
討した。
①
方
法
エコショットの防除効果の検討
本研究所内の立木栽培ナシ樹,品種「幸水」の 19 年生樹を供試し,試験規模は 1 区 1 樹 3 反復とした。
供試薬剤としてエコショット,対照として化学合成農薬(殺菌剤)のポリカーバメート水和剤,さらに無処
理の 3 試験区を設定し,第 1 回目の散布をナシ葉において黒星病発生前の 5 月 20 日に行い,その後,5 月
29 日および 6 月 9 日の計 3 回,背負式自動噴霧器を用いて,250 l/10 a 換算量の薬剤を散布した。発病調査
は最終散布 10 日後(6 月 19 日)に,1 区当たり新梢葉 100 葉について黒星病の病斑数を調査し,発病葉率
─ 54 ─
表11 各試験区の薬剤の散布概況
試
験
区
薬
4 月 10 日
4 月 27 日
1区
エコショットのみを
3 回散布した区
─
─
2区
化学合成農薬を
エコショットに 3 回
替えた防除体系区
フェンブ
コナゾール
水和剤
3区
城県ナシ病害虫
参考防除例準拠区
4区
無
処
剤
散
布
5月9日
月
日
5 月 20 日
5 月 29 日
エコショット1) エコショット
エコショット
ジフェノ
コナゾール
水和剤
エコショット
エコショット
エコショット
フェンブ
コナゾール
水和剤
ジフェノ
コナゾール
水和剤
イミノクタジン
アルベシル酸塩
水和剤
ジラム・
チウラム水和剤
イミノクタジン
アルベシル酸塩
水和剤
─
─
─
─
─
理
1)エコショット:2,000 倍,フェンブコナゾール水和剤:10,000 倍,ジフェノコナゾール水和剤:4,000 倍,イミノ
クタジンアルベシル酸塩水和剤:1,500 倍,ジラム・チウラム水和剤:500 倍
と発病度および防除価を算出した。
防除体系の検討
本研究所内の棚栽培ナシ樹,品種「幸水」19 年生樹を供試し,試験規模は 1 区 1 樹 3 反復とした。試験
区は表 11 の 4 区を設置した。なお,試験区 3 は本県のナシ病害虫参考防除例に準拠した防除体系である。
薬剤散布は,4 月 10 日から 5 月 29 日まで背負式自動噴霧器を用いて,250 l/10 a 換算量を散布した。発病
調査は,最終散布から 7 日後の 6 月 5 日に,各区 1 樹当たり果そう葉 300 枚,果実 19∼96 果について発病
の有無を調査し,発病葉率,発病果率,発病度および防除価を算出した。
また,ナシ葉上でのバチルス
ズブチリスの菌数を調査するため,5 月 9 日と 5 月 18 日に各区 3 ケ所か
ら新梢葉 5 枚および果実 1 個を採取した。採取したそれぞれの葉の中心部を径 1 cm のリーフパンチで打ち
抜き,10 ml の滅菌水に入れ,1 分間超音波処理をして菌体を遊離させ,1 次希釈液とした。生細胞と芽胞
を区別するため,非加温処理と加温処理の 2 処理とし,滅菌水を用いて 10 倍ずつ段階的に希釈液を作成し,
普通寒天培地に 100 μl 塗布した。37℃で 2 日間培養した後,コロニー数を計測した。なお,果実の場合は
重量を測定後,果柄とともに 10 ml の滅菌水に入れて葉と同様の処理を行った。
②
結
果
エコショットの防除効果
最終散布 10 日後の無処理区における黒星病の発病葉率は 29.3%,発病度が 10.4 と中発生であり,エコ
ショットを散布した場合の発病度は 2.3 で,防除価は 78 であった(表 12)。一方,化学合成農薬(殺菌剤)
のポリカーバメート水和剤 800 倍液の発病度は 0.6 で,防除価は 94 であった。
防除体系でのエコショットの防除効果
最終散布から 7 日後(6 月 5 日)の無処理区(試験区 4)におけるナシ葉の発病葉率は 25.2%,発病度が
9.2,果実の発病果率が 17.9%と中発生であった(表 13)。エコショットのみを 3 回散布した試験区 1 では
葉の発病度が 5.9,発病果率が 11.0%で,防除価がそれぞれ 36 と 39 であった。化学合成農薬(殺菌剤)を
エコショットに 3 回替えた試験区 2 ではそれぞれ 3.1,4.3%で,防除価が 66 と 76 であった。
虫参考防除例に準拠した試験区 3 ではそれぞれ 1.9,3.9%で,防除価が 79 と 78 であった。
─ 55 ─
城県の病害
表12 ナシ黒星病に対するエコショットの防除効果
試
験
希釈倍数
(倍)
区
エコショット
6 月 19 日(最終散布 10 日後)
反復
発病葉率(%) 発病度1) 防除価2)
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
2,000
6
14
7
平均
ポリカーバメート水和剤
(ビスダイセン水和剤)
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
800
平均
無
処
理
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
─
平均
1.6
4.0
1.4
9.0
2.3
1
2
6
0.2
0.4
1.2
3.0
0.6
32
32
24
11.2
10.8
9.2
29.3
10.4
78
94
1)発病度=Σ(程度別発病葉数)×発病指数  /(5×調査葉数)×100
発病指数 0:発病なし,1:病斑数 1 個,3:病斑数 2∼3 個,
5:病斑数 4 個以上
2)防除価=100−(薬剤の平均発病度/無処理の平均発病度)

×100
表13 ナシ黒星病に対する各防除体系区の防除効果
試
験
区
ナ
シ
平均調査葉数
(枚)
発病葉率
(%)
葉
ナ
発病度1) 防除価2)
シ
果
実
平均調査果数
(果)
発病果率
(%)
防除価
1区
エコショットのみを
3 回散布した区
300
13.0
5.9
36
34.3
11.0
39
2区
化学合成農薬を
エコショットに 3 回
替えた防除体系区
300
8.8
3.1
66
53.0
4.3
76
3区
城県ナシ病害虫
参考防除例準拠区
300
5.4
1.9
79
38.3
3.9
78
300
25.2
9.2
─
40.7
17.9
─
4区
無
処
理
1)表 12 と同様
2)防除価=100−(各体系の平均発病度/無処理の平均発病度)

×100
また,ナシ葉と果実におけるバチルス
ズブチリスの菌数は,試験区 2 および 3 のいずれでも芽胞のまま
102∼103 cfu/cm2 計数され,10 日間程度菌数が維持されていた。
以上のことより,エコショットは,黒星病の発生が中発生条件下においては,本病発生前からの 9∼12 日
間隔の散布では,化学合成農薬(殺菌剤)のポリカーバメート水和剤よりやや劣るが,防除効果が認められ
た。
また,エコショットのみを 3 回散布する防除体系区は無処理区と比較して効果は認められたが,防除効果
は不十分であった。さらに,化学合成農薬(殺菌剤)をエコショットに 3 回替えた防除体系区は,
シ病害虫参考防除例準拠区と比較するとやや防除効果が劣った。
─ 56 ─
城県ナ
なお,エコショットの散布により,ナシ葉と果実にバチルス
ズブチリスが定着していることが確認でき
た。ただし,定着した菌数と防除効果の関係についてはさらに検討が必要である。
⑷
まとめ ─ 病害防除活用への生物農薬の課題 ─
施設栽培トマト(促成栽培)の灰色かび病の防除において,減農薬(減化学合成農薬)への取り組みの一
つとしてボトキラーのダクト内投入法の試験を実施してきた。その成果を取りまとめ,農業改良普及セン
ター等へ紹介し,普及を図った結果,現在でも導入している農家がいる。このボトキラーのダクト内投入法
の一番のメリットは,薬剤散布の労力を削減できることである。また,重要なポイントは,灰色かび病の発
生前からダクト内投入法を行うことで高い防除効果が期待できることである。
生物農薬が病害防除へ活用されるためには,
①
防除効果が化学合成農薬と同等以上であること
②
価格が化学合成農薬と同等以下であること
③
散布以外の処理法により省力が明確に認められること
が必要である。
①は必須条件であり,散布であれば②も必須条件となる。また,③はどの程度の省力となるかによって②
の考え方は変わってくる。
⑸
今後の病害虫防除への生物農薬の利用
1 )天敵の導入
神栖市のピーマン栽培における天敵を導入した害虫防除は,県内で生物農薬の利用に成功した事例であ
る。成功のポイントは,部会の組織力の強さである。部会内において栽培条件や管理技術が平準化されてお
り,部会員が足並みを
えた行動ができる体制ができていたこと,さらに部会中枢部のけん引力も並はずれ
ていたことによる。
①
支援体制の整備
天敵は最初の導入時が一番重要で,失敗すると天敵の使用が敬遠される。そのためにも,普及,農薬メー
カー,試験研究機関等の支援体制をしっかり整備し,天敵導入時に必要な情報をしっかりと導入農家に伝え
ることである。
②
天敵に影響を及ぼすものを排除
他の害虫防除に使用する化学合成農薬(殺虫剤)が導入天敵に影響を及ぼさないか。また,病害防除に使
用する化学合成農薬(殺菌剤)や植物成長調整剤等についても同様である。現状では,害虫防除において天
敵を導入し,これが軌道に乗ってくると病害に効果のある生物農薬が着目されてくる。
2 )減農薬(減化学合成農薬)栽培
化学合成農薬をできるだけ減らしていく方向性(化学合成農薬を効率的に使用)は,時代の流れであり,
IPM の一手段として生物農薬は位置づけられる。
作物を営利栽培すれば,発生してくる病害虫をどこまで,どのように防除するかを考える必要が生じてく
る。すなわち,病害虫防除体系をどう作成していくかである。これは,露地栽培と施設栽培では大きく違っ
てくる。また,水稲,果樹,野菜,花き等ではそれぞれ防除水準や防除方法に大きな違いがある。この病害
虫防除体系に生物農薬を入れることができるかが,今後の生物農薬の使用頻度に大きくかかわってくる。
─ 57 ─
まずは,減農薬(減化学合成農薬)栽培に取り組んでいこうと考えている農家をきちんと把握することで
ある。減農薬(減化学合成農薬)栽培導入農家の要望(たとえば,薬剤散布の労力を減らしたい,特別栽培
農産物の栽培をしたい等)を聞き,それに応じた病害虫防除体系を作成し,その一部に生物農薬を入れてい
くことが第一歩と思われる。これは,IPM の導入においても同様であると考えられる。さらに,減農薬(減
化学合成農薬)栽培を実施した場合の評価をきちんとすることである。収量や品質はもちろん,病害虫防除
に要したコストと労働時間等も従来の化学合成農薬のみの栽培と比較することが必要である。
3 )期待したい生物農薬
①
高い防除効果を簡単な方法で維持できる処理方法の開発(たとえば,葉面上で自ら増殖する等)。
②
弱毒ウイルスの実用化(近年,微小害虫媒介のウイルス病が爆発的に増加していることからニーズは
高い)。
おわりに
生物農薬は急速に現場へ普及してはこなかった。しかし,現在も一定量の生物農薬が使用されており,
ニーズがないわけではない。今後も化学合成農薬を使用していくうえで,薬剤抵抗性害虫や耐性菌の発生,
化学合成物質の残留による人体や環境への影響の評価等さまざまな問題が出てくることが予想される。その
ためにも,生物農薬を含めた IPM の実践が必要とされるが,まずは地域に応じた作物ごとの病害虫防除体
系を作成するために,基礎データとなる地道な病害虫防除効果試験の積み重ねが大事であると考える。
─ 58 ─
参
考 資 料
─ 60 ─
種
類
名
剤
マツケミン(2 剤)
屋号抜き商品名
剤
2
商
品
数
平成 9 年
オンシツツヤコバチ剤
(1997年)
イサエアヒメコバチ・
ハモグリコマユバチ剤
チリカブリダニ剤
平成 8 年 チリカブリダニ剤
(1996年)
平成 7 年 チリカブリダニ剤
(1995年) オンシツツヤコバチ剤
平成 6 年
(1994年)
マイネックス
ツヤコバチ EF
カブリダニ PP
チリカブリダニパック
エンストリップ
クシダイ水和剤
芝市ネマ
スタイナーネマ
バイオセーフ
カーポカプサエ剤
3 スタイナーネマ
1
ボーベリア
バイオリサ・カミキリ
ブロンニアティ剤
2
1
1
DCV 水和剤
種
物
バイオセーフ
スタイナーネマ
カーポカプサエ剤
2
1
1
商
品
数
虫
平成 5 年
(1993年)
スパイデックス
クワコナコバチ
ルビーアカヤドリコバチ
屋号抜き商品名
生
1
名
微
ネマヒトン
モナクロスポリウム
フィマトパガム剤
類
殺
類
名
BT 水和剤【顆粒】
BT 水和剤【顆粒】
BT 水和剤
BT 水和剤
BT 水和剤
BT 水和剤
種
B
屋号抜き商品名
剤
商
品
数
ゼンターリ顆粒水和剤
(3 剤:1 剤失効)
デルフィン水和剤
チューリサイド水和剤
ダイポール水和剤
(3 剤)
チューリサイド水和剤
類
名
トリコデルマ生菌
屋号抜き商品名
カロトボーラ水和剤 DF
1
1
商
品
数
4
バイオキーパー水和剤
(3 剤:1 剤失効)
ザントモナス キャンペス キャンペリコ液剤
トリス液剤(除草剤)
アグロバクテリウム
バクテローズ
ラジオバクター剤
【ストレイン 84】
対抗菌剤
種
殺菌剤・除草剤・植調剤
※赤字は失効剤
※※青字は生物農薬と化学農薬等との混合剤
3 非病原性エルビニア
1
1
3
1
セレクトジン水和剤
セルスタート水和剤
(2 剤)
ダイポール水和剤
(5 剤)
13
トアロー水和剤
ムシサイド
チューリサイド水和剤
(2 剤)
バシレックス水和剤
T
生物農薬登録状況(平成 26 年 12 月 1 日現在)
平成 2 年
(1990年)
平成 1 年
(1989年)
昭和62年
(1987年)
昭和57年
(1982年)
昭和49年
(1974年)
昭和45年 寄生蜂剤
(1970年)
昭和40年
(1955年)
昭和26年 寄生蜂剤
(1951年)
年
天 敵 昆 虫 剤
表1
─ 61 ─
アフィデント
ナミヒメハナカメムシ剤
オンシツツヤコバチ剤
ツヤトップ
3
ペキロマイセス
プリファード水和剤
フモソロセウス水和剤
バータレック
バーティシリウム
レカニ水和剤
【CAB IMI 179172 株】
スタイナーネマ
バイオトピア
グラセライ剤
パスツーリア
パストリア水和剤
ペネトランス水和剤 DF
メリトップ
オンシツツヤコバチ剤
ククメリスカブリダニ剤
ヒメトップ
ヒメコバチ DI
コマユバチ DS
エルカール
ナミ
トップ
イサエアヒメコバチ剤
ハモグリコマユバチ剤
サバクツヤコバチ剤
ナミテントウ剤
平成14年 コレマンアブラバチ剤 250 コレトップ
アブラバチ AC
(2002年)
ツヤコバチ EF 30
ツヤコバチ EF
オンシツツヤコバチ剤
チリトップ
カブリダニ PP
チリカブリダニ剤
タイリクヒメハナカメムシ剤 オリスター A
タイリク
12
ボーベリア
ボタニガード ES
バシアーナ乳剤
【GHA 株】
マイネックス 91
バーティシリウム
マイコタール
平成13年 イサエアヒメコバチ
6
レカニ水和剤
(2001年) ・ハモグリコマユバチ剤
【CAB IMI 263817 株】
ヤマトクサカゲロウ剤
カゲタロウ
(2 剤:1 剤失効)
平成12年
(2000年)
平成11年
イサエアヒメコバチ剤
ヒメコバチ DI
(1999年)
ハモグリコマユバチ剤 コマユバチ DS
オリスター
スリポール
ナミヒメハナカメムシ剤
コレマンアブラバチ剤 250 アブラバチ AC
平成10年 コレマンアブラバチ剤 500 アフィパール
6
(1998年)
ククメリスカブリダニ剤
ククメリス
(2 剤:1 剤失効)
ショクガタマバエ剤
エスマルク DF
(2 剤:1 剤失効)
デルフィン顆粒水和剤
ファイブスター顆粒水和剤
1
2
2
ブイハンター粒剤
ツービット DF
フローバック DF
チューンアップ顆粒水和剤
BT 水和剤【顆粒】
バイオマックス DF
BT 水和剤【フロアブル】 ブイハンターフロアブル
BT 粒剤
BT 水和剤【顆粒】
BT 水和剤【顆粒】
BT 水和剤【フロアブル】 クオークフロアブル
1 BT 水和剤【フロアブル】 バイオッシュフロアブル
BT 水和剤【顆粒】
2
3
1
1
5
シュードモナス
セル苗元気
フルオレッセンス剤
【FPT 9601・
FPH 9601】
非病原性フザリウム
マルカライト
オキシスポラム水和剤 DF
シュードモナス CAB 02 モミゲンキ水和剤
水和剤 DF
タラロマイセス
バイオトラスト水和剤
フラバス水和剤
シュードモナス
セル苗元気
フルオレッセンス剤
【FPT 9601・
FPH 9601】
バチルス
ボトキラー水和剤
ズブチリス水和剤
(3 剤:1 剤失効)
2
5
3
─ 62 ─
類
名
ツヤパラリ
ナミ
トップ 20
チリカブリダニ剤
コレパラリ
コレマンアブラバチ剤
チチュウカイツヤコバチ剤 ベミパール
イサパラリ
イサエアヒメコバチ剤
チリガブリ
スパイデックス
ハモグリミドリヒメコバチ剤 ミドリヒメ(2 剤)
ナミテントウ剤
サバクトップ
タイリクヒメハナカメムシ剤 リクトップ
オンシツツヤコバチ剤
アリガタシマアザミウマ剤 アリガタ
タイリクヒメハナカメムシ剤 トスパック
(2 剤:1 剤失効)
スパイカル
デジェネランスカブリダニ剤 スリパンス
ミヤコカブリダニ剤
平成18年
(2006年) チリカブリダニ剤
平成19年
(2007年)
エルカード
屋号抜き商品名
アリガタシマアザミウマ剤 アリガタ
サバクツヤコバチ剤
種
平成17年
(2005年) サバクツヤコバチ剤
平成16年
(2004年)
平成15年
(2003年)
年
天 敵 昆 虫 剤
剤
2
3
6
剤
2
商
品
数
類
名
T
屋号抜き商品名
剤
BT 水和剤【フロアブル】 サブリナフロアブル
種
B
3
商
品
数
種
類
名
屋号抜き商品名
殺菌剤・除草剤・植調剤
ハスモンヨトウ核多角体 ハスモン天敵
病ウイルス水和剤
ボーベリア バシアーナ剤 バイオリサ・マダラ
【F 263 株】 ボーベリアン
スタイナーネマ
バイオセーフ
カーポカプサエ剤
3
1
1
BT 水和剤【顆粒】
BT 水和剤【顆粒】
エコマスター BT
ゼンターリ顆粒水和剤
(2 剤)
コニオチリウム
ミニタン WG
ミニタンス水和剤 DF
タフパール
フラバス水和剤
【フロアブル】
1 タラロマイセス
タラロマイセス
タフブロック
フラバス水和剤
トリコデルマ
エコホープ DJ
アトロビリデ水和剤 DJ
バチルス
モミホープ水和剤
シンプレクス水和剤 DF
非病原性エルビニア
エコメイト
カロトボーラ水和剤 DF
バチルス
エコショット
ズブチリス水和剤
【D 747】DF
ベジキーパー水和剤
シュードモナス
フルオレッセンス
【G 7090 株】水和剤 DF
ボトピカ水和剤
バチルス
ズブチリス水和剤
【MBI 600】
シュードモナス
小苗ふく土
フルオレッセンス剤
(植調剤)
【FPT 9601】
トリコデルマ
エコホープドライ
アトロビリデ水和剤ドライ
バチルス
バイオワーク水和剤
ズブチリス水和剤
【Y 1336】
タスマート
ドレクスレラ
モノセラス剤
(除草剤)
ズッキーニ黄斑モザイク キュービオ ZY
ウイルス弱毒株水溶剤
【ZY 96】
(抗ウィルス剤)
バチルス
インプレッション水和剤
ズブチリス水和剤
【QST 713】
屋号抜き商品名
物
チャハマキ顆粒病ウイル ハマキ天敵
ス・リンゴコカクモンハ
マキ顆 粒 病ウイルス水
和剤【フロアブル】
名
虫
トリコデルマ
エコホープ
アトロビリデ水和剤
【フロアブル】
類
生
スタイナーネマ
バイオセーフ
カーポカプサエ剤
種
微
チャハマキ顆粒病ウイル ハマキ天敵
ス・リンゴコカクモンハ
マキ顆 粒 病ウイルス水
3 和剤【フロアブル】
4
商
品
数
殺
4
2
4
3
3
商
品
数
─ 63 ─
スパイカル EX
メタリジウム
パイレーツ粒剤
アニソプリエ粒剤
ボーベリア
ボタニガード水和剤
バシアーナ水和剤
ハスモンヨトウ核多角体 ハスモンキラー
病ウイルス水和剤
【A 9 株・C 3 株】
スタイナーネマ
バイオトピア
グラセライ剤
ペキロマイセス
ゴッツ A(2 剤)
テヌイペス乳剤
1
2
1
2
BT 水和剤【顆粒】
BT 水和剤
BT 水和剤【顆粒】
トップクエスト
家庭園芸用
バシレックス水和剤
チューレックス顆粒水和剤
ジャックポット顆粒水和剤
注 2 )生物農薬と化学農薬等との混合製剤(青字のもの)は生物農薬として扱われていないが,本表ではこれらも含めて整理した。
注 1 )本表では「農薬要覧」において生物農薬として分類されている製剤(生きた状態で製品化したもの)を生物農薬として掲載した。
カメノコ S
平成26年 ヒメカメノコテントウ剤
(2014年) ヨーロッパトビチビアメバチ剤 ヨーロッパトビチビアメバチ
ミヤコスター
2
3
キイトップ
キイカブリダニ剤
平成25年
ナミテントウ剤
(2013年)
ミヤコカブリダニ剤
テントップ
1
スパイカルプラス
平成24年
(2012年)
ミヤコカブリダニ剤
2
ミヤコカブリダニ剤
ミヤコトップ
平成23年
スワルスキーカブリ
ダニ剤
スワルスキープラス
(2011年)
2
1
ツヤトップ 25
チャバラ
チリカ・ワーカー
2
平成22年
(2010年)
オンシツツヤコバチ剤
平成21年 チャバラアブラコバチ剤
(2009年)
チリカブリダニ剤
平成20年 スワルスキーカブリダニ剤 スワルスキー
(2008年)
ミヤコカブリダニ剤
バチルス
セレナーデ水和剤
ズブチリス水和剤
【QST 713】
家庭園芸用
バチルス
インプレッション水和剤
ズブチリス水和剤
【QST 713】
バチルス
バチスター水和剤
ズブチリス水和剤
タラロマイセス
モミキーパー
フラバス水和剤
クリーンサポート
バ チルス アミロリクエ インプレッションクリア
ファシエンス水和剤
シュードモナス
マスタピース水和剤
ロデシア水和剤
トウガラシマイルドモットル グリーンペパー PM
ウイルス弱毒株水溶剤
銅・バチルス ズブチリ ケミヘル
ス水和剤
タラロマイセス
タフブロック SP
フラバス水和剤
1
【SAY Y 94 01】
1
2
バチルス ズブチリス
・ポリオキシン水和剤
アグロケア水和剤
バチルス
ズブチリス水和剤
【HAI 0404】
銅・バチルス ズブチリ クリーンカップ
ス【D 747】水和剤
クリーンフルピカ
バチルス ズブチリス
【D 747】
・メパニピリム水和剤
ズッキーニ黄斑モザイク キュービオ ZY 02
ウイルス弱毒株水溶剤
【ZY 02】
(抗ウィルス剤)
バリオボラックス
フィールドキーパー水和剤
パラドクス水和剤
1
1
4
1
3
3
2
MEMO