No.45(H27_2月)

秋田県立大学生物資源科学部附属フィールド教育研究センターニュース 第 45 号
2015 年 2 月 24 日
フィールドセンターニュース
http://www.akita-pu.ac.jp/bioresource/F-CENTER
〒010-0451 秋田県南秋田郡大潟村字大潟6番地 tel 0185-45-2858 fax 0185-45-2415
研究トピックス
「バター不足と酪農メガファーム」
フィールド教育研究センター長
教授・鵜川洋樹
昨年から今年にかけて酪農・乳業界で世間の注目を集めたのは、牛乳・乳製品の値上げと年末に向かって小売店でバター
が品切れ状態になったことである。昨年は緊急輸入や行政から乳業への要請によりバターが「増産」され、この「バター危
機」は乗り切れたが、その原因である国産生乳不足は解決されていない。我が国の生乳生産量は 1996 年の 866 万tをピー
クに、以降は一貫して減少傾向にある。生産量が減少する直接的な要因は、離農する酪農家が多いことにあり、他方で規模
拡大する酪農家も少なくないが、離農に伴う乳量減少が規模拡大による乳量増加を上回っているからである。地域別にみる
と、これまでは都府県の減産を北海道の増産でカバーしてきたが、北海道の生産量も 2012 年をピークに減少に転じた。北
海道が減産に転じたことは酪農・乳業界にとってショッキングな出来事で、その結果、国産生乳不足対策として「酪農生産
基盤」の強化が合言葉のように叫ばれようになった。
酪農メガファームは大規模経営の代名詞のような存在で、年間乳量 1,000tあるいは 3,000t以上の酪農経営のことで全
国的に展開している。乳用牛飼養頭数では 100 頭あるいは 300 頭以上に相当する。生乳生産量が減少する中で、酪農メガ
ファームが増加する要因はどこにあるのか。一般に小規模経営が減少(離農)し、大規模経営が増加する要因はコストの違
いで説明される。規模が大きいほど、スケールメリットが現れるからである。2003 年の 100kg あたり牛乳生産費をみると、
1~19 頭層の 10,047 円が 100 頭以上層では 6,073 円まで低下し、酪農生産ではスケールメリットが明確にみられた(図)。
しかし、2008 年以降になると、生産費の全体水準が上昇するとともに、80 頭以上層では明確なスケールメリットがみられ
なくなってしまう。2008 年の生産費水準上昇の要因は配合飼料価格の高騰にあり、以降高止まりが続いているのである。
また、80 頭以上層の生産費が下げ止まる要因は、大規模層ほど配合飼料給与量が増加するとともに、建物・機械が重装備
化して物財費が上昇し、労働費低下のスケールメリットが相殺されるからである。
一方、酪農経営の 1 戸あたり所得をみると、2003 年では 1~19 頭層の 2,149 千円が 100 頭以上層では 29,665 千円まで
上昇し、大規模経営の有利性が顕著である(図)。こうした傾向は、どの年次においてもみることができるが、2008 年に
は生産費の上昇に伴い所得水準が低下している。酪農家の平均家計費は約 580 万円と推計されていることから、専業農家で
ある酪農経営の所得が 500 万円を下回ると離農につ
ながると考えられる。
2003 年では30 頭以上層で500
万円の所得が達成できたが、2008 年には 50 頭以上
層に上昇している。小規模経営が減少する要因がこ
こにある。また、ここで注目されるのは 2008 年には
80 頭以上層の生産費が下げ止まるのに対し、100 頭
以上層の所得は上昇し続けていることである。とく
に 2008 年から 2013 年にかけて、100 頭以上層の 1
戸あたり所得は 14,118 千円から 22,846 千円に上昇
した。こうした 100 頭以上層における収益性の高さ
が大規模経営の増加要因になっている。コストの削
減ではスケールメリットの発現は限定的であった
が、収益性の増加では頭数に比例して直接的に現れ
ている。このような経済性に関する規模間格差の拡大
が中小規模経営の減少と大規模経営の増加、その結果
としての経営規模の拡大に結びついているのである。
図 飼養頭数規模別にみた牛乳生産費と酪農家所得
資料:農林水産省『牛乳生産費調査』
(全国)
秋田県立大学生物資源科学部附属フィールド教育研究センターニュース 第 45 号
2015 年 2 月 24 日
「地域交流室 便り」 vol 42
FC各班の冬期作業
溶接作業
早朝の木々は霧氷となっていたが、今日は立春。各班の春
に向けての作業の様子を伺ってきました。機械作業班は FC
の鍛冶屋さん、荷台の補修や運搬台の組立溶接。温室ではト
マトの定植床の耕起とサイネリアの枯葉とりをしながら、出
荷に向け温度に配慮しながらの栽培管理。リンゴ剪定は、一
本一本の樹勢を見ながらの作業で雪解けまでに仕上げる。牛
舎では、朝夕に黒毛・短角牛へサイレージの餌やり等の飼養
管理が毎日続けられる等、各班春に向け進められていた。
催芽器調整
剪定作業
耕起作業
枯葉とり
餌やり
あアグリビジネス学科「プロジェクト卒業研究発表会」
アグリ学科「3 年次プロジェクト活動報告会」が、1 月 27 日(火)
、4 年次の「プロジェク
ト卒業研究発表会」が 2 月 12 日(木)~13 日(金)にかけ秋田Cの講堂で行われ、フィー
ルド教育研究センターの圃場や温室での教育・研究成果が披露された。講評では、アグリ学
科の露崎教授から「研究内容が筋道の通った発表であったか?わかりやすい発表であったのか
?さらに質問は、論文の中にヒントがあったのではないか等、もう一度見直しをしてほしい。
また、発表会は 4 年間の総仕上げである。卒業後は、アグリ学科で培った能力を活かし、社
会で大いに活躍してほしい」とエールを送った。
地域交流この1年
【水田公園】 弥生時代の水田跡を復元した古代田で、飯島幼稚園は田植えや収穫・脱穀体
験などを通して食育の場としていた。大潟小学校5年生は総合学習で、
「お米から世界を知ろ
う」をテーマに、矢治教授による出前授業や田植え・草取り・収穫までの各作業をそれぞれ
体験した。児童からは「米作りを通して作物を育てることの大変さや農家の工夫や努力を知
る貴重な体験になった」と発表があり、地域農業への興味や関心を深める協力ができた。
また、能代第四小学校は水田公園の歴史や水質浄化植物を人と田んぼとの関わりの学習の場
としていた。
炊飯実験
【動物とのふれあい体験・収穫体験】大潟幼稚園、能代第四小学校の園児や児童は、ウサギを抱いたり羊への餌やりや
牛舎の子牛を見たりして、普段身近で接する機会が少ない動物とのふれあいを楽しんでいた。また、大潟幼稚園の園児達
はハウス中に香りが広がるイチゴの収穫体験をし、飯島幼稚園や大潟小学校探険クラブは、秋の自然に触れながらリンゴ
を収穫し、
「くだものクイズ」をしながら、県内で栽培しているナシ、ブドウ、キウイ、柿、栗、洋梨等を展示紹介したと
ころ大変興味をもち、好評でした。
能代第四小学校の感想文
【農業体験・研修・見学者数の推移】
19 年度
20 年度
318
568
21 年度
544
22 年度
753
23 年度
24 年度
877
1,078
25 年度
26 年度
1,048
1,094
編集後記:春の訪れが感じられる今日この頃。2010 年からセンターニュース・交流便り(19~43 号)の編集・発行にか
かわり、研究、農業研修、農場開放や農業体験などの地域交流を紹介してきました。元来,文章を綴ることが苦手なた
め大変でしたが(読む方々も…)
、5 年間続けてこられたのは、こころよく寄稿や取材協力をしてくださった皆様のおか
げと深く感謝しております。ありがとうございました。
地域交流班:渡邊良一