海外動向 〔アジアの化合繊市況〕 下期の市況を読む — 世界景気は持ち直し続く、中国など新興国がけん引 — 向川 利和(むかいがわ としかず) 特別研究員 繊維産業アナリスト 1963 年東レ(株)入社。1974 年韓国プロジェクト担当を始め、東レの海外事業の揺籃期− 苦難期−果実収穫期を経験した数少ないスタッフ。繊維市況分析、海外事業哲学に特色があ る。1998 年から(株)東レ経営研究所繊維産業アナリストを兼務。2003 年 4 月から専任。 要 点 1 世界経済の回復は、予想された以上に進んでいる。しかし、日米欧と新興国など地域間で回復のスピード は大きく異なり、多くの国で失業率は依然として高く、雇用回復に遅れが目立つ。新たなる主役たち — BRICs や VISTA の高成長は続き、 成熟化に直面する日米欧との勢いの差が金融危機を経て鮮明になった。 2 最強アメリカ経済は予想外の復活だが「雇用なき回復」の懸念がある。EU は回復遅れが鮮明。ギリシャショッ クで緊急事態。外需頼みの日本の景気回復は緩慢で、デフレが続き、出口は遠い。 3 合繊原料価格、合繊ファイバー価格は、在庫調整を終えてほぼ 1 年半ぶりの高値圏にある。中でも N-FY、 A-SF は値上がりが急で、今後の商内に懸念が出てきた。 第1部 総 論 世界景気予想以上の回復、 日本の景気回復は緩慢 世界景気の回復は、中国・インドなど新興国が けん引する形で予想以上に回復している。とはい え、回復度合いは地域間で大きく異なり、米国で は雇用情勢や商業用不動産の回復に依然として弱 (1)世界経済 今年の見通し 4.2% 金融緩和の継続、 財政出動の縮小を要請(IMF) IMF は 4 月 21 日、 今年の世界経済見通し (修正版) を発表した。それによると、今年の世界経済の実質 経済成長率は 4.2%を予測し、2011 年は 4.3%との 見方を示した。IMF は世界経済について、 「当初の 予測以上に回復しているが、その速度は地域ごとに さが残り、欧州は経済危機に直面するギリシャ支 援などの信用リスク、PIIGS と呼ばれる国々(ポ 異なる」との見解を示した。多くの先進国は、景気 回復力が弱い反面、新興国などは好調な内需に支え ルトガル・イタリア・アイルランド・ギリシャ・ スペイン)のソブリンリスクが払拭できていない し、日本の景気は外需主導で回復しているものの、 長引くデフレが響き実感の乏しい緩慢な局面が続 られて、経済活動が比較的力強いと分析している。 先進国では、米国が 3.1%、ユーロ圏は 1.0%、 日本は 1.9%と予測。新興国では、中国が 10 〜 11 年にかけて 10%程度、インドが同じく 8%台の高 いている。また、今回の世界の景気回復をけん引 している中国では、金融緩和の副作用としてイン 成長が続く見通し。政策面の課題では、日米欧な どに対し、財政出動を 2011 年から段階的に縮小す フレ懸念が広がってきた。各国は、金融危機に対 応した金融政策を平時に戻す「出口戦略」を巡り、 微妙なかじ取りを迫られている。 るよう促す。過大な政府債務への懸念が広がって いる状況を踏まえ、金融緩和の継続で、景気を下 支えしながら、まず、財政分野で危機対応を平時 に戻す「出口戦略」を進める道筋を示す。IMF は 4 繊維トレンド 2010 年 7・8 月号 下期の市況を読む 民間需要の回復の遅れから、今年下半期に各国が 追加経済対策を検討する場合に、中期的な財政健 全化に悪影響を与えない範囲にとどめるよう求め るということだろう。 ↑ 図表 1 IMF の実質経済成長率推移見通し 単位:% ▲マイナス 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 (実績) (実績) (実績) (実績) (実績) (見通し)(見通し) 2.8 3.0 2.7 0.8 ▲ 3.2 2.4 2.8 1.9 2.2 2.1 ▲ 0.7 ▲ 5.0 1.9 2.2 3.1 2.9 2.0 1.1 ▲ 2.4 3.1 2.4 1.6 2.8 2.6 0.9 ▲ 3.9 1.0 1.5 0.8 2.9 2.5 1.3 ▲ 5.0 1.9 2.0 1.8 2.9 3.0 0.7 ▲ 4.8 1.8 2.0 6.7 7.8 8.3 6.1 2.1 6.0 6.4 7.4 8.6 8.5 5.5 5.9 8.3 7.7 5.5 6.3 5.6 2.1 ▲ 2.2 5.1 4.3 5.5 6.0 6.3 5.4 1.2 5.1 5.3 10.4 11.1 11.9 9.0 8.7 10.0 9.9 8.7 9.0 8.4 7.3 6.5 7.4 7.8 4.3 4.8 4.5 3.8 ▲ 6.5 2.5 2.6 5.6 5.7 6.3 5.6 ▲ 1.1 1.8 2.0 4.3 4.9 5.2 3.2 ▲ 0.6 4.2 4.3 先進国 日本 米国 ユーロ圏 ドイツ イギリス 発展途上国 東アジア・太平洋地域 NIES ASEAN 中国 南アジア地域 中南米地域 中東・北アフリカ地域 世界全体 出所:IMF 図表 2 主要国・地域の実質経済成長率の推移 図表 4 主要国財政赤字の GDP 比率(2009 年) % 14 PIIGS ‒9 ‒4 ‒12 ‒6 05 06 07 中国 08 米国 09 日本 10 ‒15 スペイン ‒2 ギリシャ 3.3 ‒6 0 イタリア ‒3 2 アイルランド 4 ドイツ % 0 日本 6 アメリカ 8 イギリス 10 ポルトガル 12 5.3 8.0 9.4 11.5 11.0 11.2 14.3 13.6 ユーロ圏 出所:IMF(2010 年は見通し) 出所:内閣府、EU 統計局 図表 3 限りなく 0 に近い主要国の政策金利 % 英中銀 6 5.0 5 4 3 2 欧州中銀 4.0 2.5 2.0 米連邦準備理事会 (FRB) 1 0 07/1 3 2.0 日本 5 0.5 7 9 11 08/1 3 5 7 1.0 1.0 0.3 9 11 09/1 3 5 7 9 11 10/1 3 0.5 0∼0.2 5 7 0.1 注 :今後の利上げ予想時期 米英:2011 年 7 〜 9 月、ユーロ圏:2012 年 1 〜 3 月、日本:2012 年 4 〜 6 月 出所:東洋経済「統計月報」及び新聞報道 繊維トレンド 2010 年 7・8 月号 5 海外動向 (2)アジア経済 今 年 の 見 通 し 7.5 % 危 機 前 の 水 準 に 回 復 (ADB) ADB(アジア開発銀行)は、4 月 13 日、アジア 地域(日本など域内先進国を除く)の経済見通し を発表した。それによると、今年のアジア地域の 実質経済成長率は、前年比 7.5%伸びると予測。11 ただし、3 〜 5 月に吹きあれたタイの反政府デモの 影響は考慮されていない。 アジアの成長率が 7%を上回れば、08 年の経済 危機以前の水準に回復することになる。中国など が打ち出した積極的な景気刺激策が下支えする他、 日米欧が 09 年のマイナス成長からプラス成長に転 じるのに伴い、輸出が伸びるのも寄与するとみて 年は 7.3%と見通した。景気刺激策の効果が持続す る上、先進国向けの輸出も回復、けん引役の中国 いる。中国の今年の成長率は 9.6%、韓国は 5.2% と見通す。IMF や米国からの中国通貨人民元の切 とインドの伸びは 9.6%、8.2%になるとみている。 り上げ要請には触れていない。 ↑ 図表 5 ADB の実質経済成長率見通し 単位:% ▲マイナス 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 (実績) (実績) (実績) (実績) (実績) (見通し)(見通し) アジア NIES 5.5 6.1 6.1 1.5 ▲ 2.2 5.6 4.6 香 港 7.5 7.0 6.3 2.5 ▲ 2.7 5.2 4.3 韓 国 4.0 5.1 5.0 2.2 0.2 5.2 4.6 星 港 6.6 7.9 7.5 1.2 ▲ 2.0 6.3 5.0 台 湾 4.0 4.6 5.7 0.1 ▲ 1.9 4.9 4.0 中 国 10.4 11.6 11.9 9.0 8.7 9.6 9.1 ASEAN 5.6 6.0 6.4 4.3 1.2 5.1 5.3 印 尼 5.7 5.5 6.3 6.0 4.5 5.5 6.0 馬 来 5.2 5.9 6.3 4.6 ▲ 1.7 5.3 5.0 比 島 5.0 5.4 7.3 4.6 0.9 3.8 4.6 泰 国 4.5 5.0 4.8 2.6 ▲ 2.3 4.0 4.5 越 南 8.4 7.8 8.2 6.2 5.3 6.5 6.8 南西アジア 8.7 9.0 8.4 6.8 6.5 7.4 8.0 インド 9.0 9.6 9.7 7.1 7.2 8.2 8.7 パキスタン 8.6 6.6 7.0 5.8 5.8 6.0 6.2 アジア太平洋地域全体(日本を除く) 7.4 8.6 8.7 6.3 5.2 7.5 7.3 出所:ADB「アジア開発展望 2010」 (3)新たなる主役たち BRICs と VISTA 高成長続き、塗りかわる経済勢力図 人口増加によるパワーを背景に BRICs など新興 国の経済成長が続く。社会の成熟化と人口の高齢 化に直面する先進国との勢いの差は、金融危機を 経て鮮明になった。上述した IMF の見通しでも、 ブラジルの予想実質成長率は 2010 年 4.7%、2011 年 3.7%、ロシアは 3.6%、3.4%、インドは 7.7 %、 7.8%、中国は 10.0%、9.7%となっている。人口で 世界の約 42%、GDP で約 15%を占める BRICs の 勢いは、政治体制や発展の方法が異なるとはいえ、 結束を強めて日米欧の対抗軸としてますます存在 感を示すことになろう。BRICs の後に続く、ベト ナム・インドネシア・南アフリカ・トルコ・アル ゼンチンなど VISTA5 カ国はいずれも資源が豊富 で、外資導入にも積極的。若い労働力人口が多く、 中産階級も台頭しつつある。今回の金融危機の後 もいち早く成長軌道に戻る姿が鮮明になった。 ↑ 図表 6 BIRCs と VISTA の実質経済成長率見通し BRICs ブラジル ロシア インド 中国 (B) (R) (I) (C) VISTA ベトナム インドネシア 南アフリカ トルコ アルゼンチン 世界全体 (V) (I) (S) (T) (A) GDP 1 人当たり GDP (億$) ($) 93,848(15) 5,300 15,756 7,737 16,766 8,874 12,233 1,035 49,093 3,566 18,043 (3) 4,700 918 1,041 5,403 2,245 2,774 5,635 5,935 8,470 3,013 6,200 約 61 兆$ − 人口 (百万人) 2,851(42) 192 141 1,181 1,337 479 (7) 87 232 50 70 40 約 68 億人 単位:% ▲マイナス、( )内はシェア 国土面積 2008 2009 2010 2011 2 (万 km ) (実績 %)(実績 %)(見通し%) (見通し%) 3,840(30) 6.7 2.1 8.0 7.4 850 5.1 ▲ 0.4 5.5 4.1 1,700 5.6 ▲ 9.0 4.0 3.3 330 7.1 5.6 8.8 8.4 960 9.0 8.7 10.0 9.9 703 (5) 2.8 0.6 3.4 4.3 33 6.2 5.3 6.5 6.8 192 6.0 4.5 5.5 6.0 122 2.8 ▲ 2.1 1.5 3.9 78 1.1 ▲ 4.5 1.0 3.6 278 3.6 ▲ 2.6 2.6 4.2 2 約 1.3 億 km 3.2 ▲ 0.8 4.2 4.3 出所:IMF データはいずれも 2009 年(一部推定を含む) 6 繊維トレンド 2010 年 7・8 月号 下期の市況を読む (4)アメリカ 最強アメリカ経済、予想外の復活だが、 「雇用なき回復」の懸念 米国経済は、今回の景気循環で 2007 年 12 月に 後退局面入りして、2009 年 6 月に底入れした。こ の間 19 カ月。戦後最長のリセッションとされた 1981 年 7 月〜 1982 年 10 月(16 カ月)を超えた。 米・財政赤字「1 兆$超」続く公算 米国の財政赤字は 2009 会計年度(08 年 10 月〜 09 年 9 月)に、08 年度の 3.1 倍となる 1 兆 4,161 億$(約 130 兆円)となり、 戦後最悪を記録したが、 今年度も 1 兆$を超す赤字が続く公算が大きい。日 欧も深刻だが、米国も金融危機対策が重荷になって いる。 ちなみに 1929 〜 1933 年大恐慌時のリセッション 局面は 43 カ月であった。09 年こそ▲ 2.4%のマイ 図表 8 米国の経常収支と財政収支の赤字額と 名目 GDP 比の推移 ナス成長だったが(マイナスは 1991 年以来 18 年 ぶり。マイナス幅は第 2 次世界大戦直後の 1946 年▲ 10.9%以来) 、今年は先進国では最大の 3.1% 双子の赤字額 4 2 0 ‒2 % ‒4 ‒6 ‒8 ‒10 成長に復活すると見通されている。仮に、この通り となると、約 5,000 億$の新たな経済活動が生まれ ることになるが、これはインドネシアの GDP に匹 ‒6 ‒8 ‒10 ‒12 ‒14 ‒16 80 83 86 89 92 95 98 2001 04 07 注 1 :経常収支は暦年(1 〜 12 月)、財政収支は会計年度(10 〜 9 月) 注 2 :09 年度の財政赤字 1 兆 4,171 億$は過去最大。 出所:米商務省、米財務省 IMF「World Economic Outlook」 雇用者数の増減 (非農業部門前月比) 0 (5)ユーロ圏 ギリシャの財政危機に揺れて、 回復の遅れ目立つ 2009 年のユーロ圏は▲ 3.9%と、1999 年の通貨 統合以来、初めてのマイナス成長となった。IMF の ‒20 ‒40 予測でも 2010 年の成長率見通しはプラスになると はいえ、1.0%、11 年 1.5%と、先進国の中でも最も ‒60 ‒80 9.0 ‒4 万人 % 10.0 財政収支 0 ‒2 赤字▼ 20 経常収支 2 千億ドル 図表 7 米国の主要雇用指標 財政収支GDP比 4 ▲黒字 敵する規模だ。 とはいえ、新規雇用に勢いがつかない可能性が高 く、米家計部門は力強さに欠けるため「雇用なき回 復」の懸念は強い。最近の米雇用統計によれば、失 業率こそ 9.7%の横ばいだが、非農業部門の雇用者 数は 08 年 1 月から 10 年 2 月までの 26 カ月連続し、 前月比減少しており、この間の雇用者数減の累計は 850 万人にも達している。雇用回復の遅れで失業期 間が 27 週間(約半年)以上の失業者は全体(1,500 万人)の 40%を超えているという報道もある。 経常収支GDP比 失業率 (軍人を除く) 低い。更に、4 月に発生したアイスランドの火山噴 火に伴う空路閉鎖がユーロ圏を含む欧州景気に及ぼ したマイナスの影響は約 0.1 ポイント程度と推計さ れているので、着地点はもう少し下かもしれない。 ギリシャの財政危機に欧州が揺れた。スペインや ポルトガルなど他のユーロ圏諸国にも信用不安が広 がるとの懸念から、単一通貨ユーロの相場が下落し、 8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 07/7 08/1 7 09/1 09/7 10/1 世界経済の攪乱要因になりつつある。ユーロ圏 16 カ国は、IMF による資金供給と組み合わせて、ギ リシャ支援を決めた(3 年間で 1,100 億ユーロ=約 出所:東洋経済「統計月報」及び新聞記事より筆者作成 繊維トレンド 2010 年 7・8 月号 7 海外動向 13 兆円、IMF が 1/3、ユーロ圏 15 カ国が 2/3 を負 担)が、これらは、緊急事態に備えた安全弁にすぎ ず、金融市場での不安心理を招く元凶となった財政 赤字を縮小させる決め手になるわけではない。 ギリシャの財政赤字が急浮上したのは 2009 年秋。 (6)日本 回復局面 09 年 4 月から—所得は伸びず 輸出主導は前回と同じデフレ継続、 実感の乏しい緩慢な回復局面が続く 日本の 2009 暦年の実質 GDP 成長率は▲ 5%だっ た。08 暦年の▲ 1.2%より大幅に悪化。1998 年の 10 月に発足した新政権が 2009 年の財政赤字につい て、GDP の 12 〜 13%になりそうだと公表したの が発端だった(実績はこの想定を上回って 13.6%) 。 ▲ 2%を下回り、戦後最悪となった。実感に近い名 目成長率も▲ 6%と戦後最悪の落ち込みとなった。 それまでは 3 〜 4%と予想されていたので、市場の 警戒感が一気に強まった。ギリシャ国債の利回りは 急上昇(価格は下落)し、一時は 12%に達した。 ギリシャ政府は VAT(付加価値税)の引き上げ(21% ドル換算の名目 GDP は 5 兆 849 億$(475 兆円) となり、中国の 4 兆 9,090 億$をかろうじて上回り、 米国に次ぐ 2 位の座を維持したが、10 年には日中 の名目 GDP が逆転するのはほぼ確実だ。 → 23%)や、公務員ボーナスの削減などで、財政 再建を急ぐというが、一筋縄ではいきそうにない。 今回の景気回復局面は 2009 年 4 月に始まった。 その特徴は前回(第 13 循環回復局面 02 年 2 月〜 元々、ギリシャは労働コストの高さなど欧州内では 競争力が低いとされてきた。財政赤字の対 GDP 比 13.6%や公的債務の対 GDP 比 113%は、改革を先 送りしたツケでもある。 問題は、ギリシャの信用不安問題が、同様に財政 赤字を抱える周辺諸国にも飛び火していることだ。 頭文字をとって「PIIGS」と呼ばれる国々(ポルト ガル・イタリア・アイルランド・ギリシャ・スペイン) は、市場の標的となりつつある。例えば、スペイン の 2009 年の財政赤字は GDP の 11.2%、国債残高 は GDP の 55%。ポルトガルも財政赤字は GDP の 9.4%、国債残高は GDP の 77%に達している(前 掲図表 4 参照) 。ギリシャを支援する側の独・仏も、 財政は悪化しつつあり、財政赤字は既に GDP の 3% を上回っている。ギリシャ支援融資が現実のものと 07 年 10 月)との共通項が浮かび上がる。輸出の貢 献が大きく、家計の恩恵が乏しいことだ。前回は米 国の住宅バブルや過剰投資などが世界経済をけん引 した。日本経済は、輸出主導で持ち直し、デフレ下 でも戦後最長の回復局面を享受した。期間中の輸出 の伸びは実質ベースで年率平均 10.1%。設備投資 の 4.2%や個人消費の 1.3%を大幅に上回る。だが、 企業は設備・雇用・債務の「3 つの過剰」の処理を 急ぎ、雇用や賃金を抑制した。成長の果実が家計に 行きわたらず、名目雇用者報酬が期間中に 2%減少 した経緯がある。今回も同じような軌道をたどって いるとの指摘は多い。09 年 4 月以降の数字を計算 すると、輸出は中国を含む新興国の高成長に支えら れ 33.6%と圧倒的に高い。一方で雇用者報酬は 3% 減っている。実感の乏しい緩慢な回復局面が続く。 なれば、独仏の財政が更に悪化する懸念がある。 デフレと構造的な需要不足は当面続く。危機対応の 図表 9 戦後の日本の景気循環 景気(通称) 循環 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 好況局面 不況局面 朝鮮戦争特需景気 反動不況 投資・消費景気 (金融引締) (戦時中の耐乏生活の反動) 神武景気 なべ底不況 岩戸景気 (金融引締) (耐久消費財ブーム) 東京オリンピック景気 昭和 40 年不況 いざなぎ景気 ニクソンショック 列島改造ブーム 第一次石油危機 ほっと一息 円高不況 円高克服景気 レーガン景気 バブル景気 回復感なき好況 IT バブル景気 デフレのだらだら景気 今回(中国頼み) 第二次石油危機 (世界同時不況) 円高不況(プラザ合意) バブル崩壊 複合不況 IT 不況 リーマンショック 谷 1950. 5 景気の山と谷 山 1951. 6 谷 1951.10 上昇 13 期間 ( 月数 ) 下降 4 1 循環 17 1951.10 1954. 1 1954.11 27 10 37 1954.11 1957. 6 1958. 6 31 12 43 1958. 6 1961.12 1962.10 42 10 52 1962.10 1965.10 1971.12 1975. 3 1964.10 1970. 7 1973.11 1977. 1 1965.10 1971.12 1975. 3 1977.10 24 57 23 22 12 17 16 9 36 74 39 31 1977.10 1980. 2 1983. 2 28 36 64 1983. 2 1986.11 1993.10 1999. 1 2002. 1 2009. 3 1985. 6 1991. 2 1997. 5 2000.10 2007.10 ? 1986.11 1993.10 1999. 1 2002. 1 2009. 3 ? 28 51 43 21 69 17 32 20 15 17 45 83 63 36 86 出所:内閣府(旧 経済企画庁) 8 繊維トレンド 2010 年 7・8 月号 下期の市況を読む 政策を正常に戻す「出口戦略」で、日本は下手をす ると PIIGS 問題に悩む欧州勢と最後尾争いをする 米個人消費支出も 10 カ月連続で前月比プラスにな るなど上向いている。個人消費の伸びは車社会の ことになる。 米国では、ガソリン需要に直結する。堅調なガソ リン需要をとらえて、投機マネーが再び流入する という構図で原油相場は節目の 90 $を超えると、 図表 10 前回と今回の回復局面の比較 前 回 今 回 (02 年 2 月〜 07 年 10 月)(09 年 4 月〜 ? ) 実質 GDP 成長率 2.0% 3.1% 名目 GDP 成長率 0.8% ▲ 0.7% 雇用者報酬 ▲ 2.0% ▲ 3.0% 景気のけん引役 輸 出 10.1% 33.6% 設備投資 4.2% ▲ 7.6% 個人消費 1.3% 3.3% 出所:新聞記事より筆者作成 第2部 下期の東南アジア合繊市況を読む (1)原油・ナフサ NY 原油再び 100 $視界に ナフサ 石化需要堅調で強基調つづく NY 原油(WTI)先物価格は、09 年 10 月、1 バ レル 80 $を突破した後は、約半年にわたり一進一 退が続いていたが、10 年 4 月以降基調を強め始め ている。4 月に入り、それまでの上値抵抗線を破っ て 1 バレル 85 $を超え、2008 年 10 月以来 1 年半 ぶりの高値圏で推移している。世界景気の回復期 待が強く、投機資金が原油市場に流れ込んできて いる他、米国の根強いガソリン需要が原油相場を 押し上げている面も強い。オバマ政権がバイオ燃 料などクリーンエネルギーの普及を推進している にもかかわらず、米国の消費者はガソリン消費を 減らしていない。 米国では、市民の足は鉄道より自動車。09 年は 景気低迷でもガソリン需要は減らなかった。石油 アナリストの多くが指摘しているのは、「09 年の米 ガソリン需要は日量 900 万バレルで、08 年と同じ 水準にとどまった。ジェット燃料や軽油など、石 油製品全体が 4.2%も落ち込む中、ガソリンの堅調 さが際立つ」こと。米国のガソリン需要が WTI 価 格に大きな影響を与える。世界の原油消費(日量 8,600 万バレル)のうち、米国は最大の 1,900 万バ レルと 22%を占め、そのほぼ 1/2 をガソリンが占 めるからだ。世界の原油消費量の 1 割を米国がガ ソリンとし使っている計算になる。そのガソリン 需要だが、今後も伸びそうだ。5 月下旬のメモリア ルデーの連休後、ドライブシーズン=ガソリン需 次は 100 $を目指すと予想される。 ナフサも原油高と石化需要堅調で、騰勢を強めて いる。当面 800 $/ トンを目指す。また、国産価格は 今年の 1 〜 3 月期で 47,700 円 /kl となり、4 四半期 連続で上昇したが、1 年前の 1 〜 3 月につけたリーマ ンショック後の安値から、77%高い水準になった。今 年 4 〜 6 月期は更に 5 万円程度にまで上がるとみら れている。 図表 11 NY 原油(WTI)先物価格 ($/バレル) 140 リーマン・ショック 130 120 110 100 90 ロシア・ユーコス経営危機 80 70 イラク危機・戦争 60 米同時テロ 50 湾岸危機・戦争 アジア通貨危機 40 30 20 10 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 出所:日経商品情報 図表 12 ドバイ原油スポット価格 ドバイ (東京・現物・FOB) ($/バレル) DUBUY (Tokyo・SPOT・FOB) 150 140 130 120 110 100 90 80 70 60 50 40 30 20 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1 09.1 10.1 出所:日経商品情報 要期 に入っているし、米国 GDP の 7 割を占める 繊維トレンド 2010 年 7・8 月号 9 海外動向 図表 13 主要産油国の生産量(2009 年) ノルウェー クウェート 219 260 イラク 245 単位:日量 万バレル カナダ 米国 308 806 ロシア 928 イラン 374 中国 382 アラブ 227 ナイジェリア 200 303 メキシコ ベネズエラ 245 サウジ 793 出所:IEA 図表 14 ナフサ(東京オープンスペック)価格 ナフサ (東京オープンスペック) ($/t) NAPHTHA (Tokyo Open Speck) 1,200 るが、それでも 5 月末現在 800 $/ トンで、08 年 11 月の安値からは 2 倍の高値圏にある。一部には 今の原料価格は、実需と乖離しすぎていると懸念す る見方も出ている。 ① PTA(テレフタル酸)実体以上に上げすぎとの見方も ポリエステルファイバー・ペットボトル用も中 国需要が堅調で需給は締まっている。世界の生産 能力は、4,500 万トン(2009 年末)で、中国・イ ンドを含むアジアに 80%近い 3,500 万トンの設備 がある。アジア主要国の PTA 需給は図表 15 の通り。 相場は 4 月に一時 1,000 $を回復したが、中国需 要が想定以上に強いとしても、「投機資金が PTA や EG に流入し、実需以上に価格を押し上げている」 との指摘もあり、先行きはやや不透明だ。 図表 15 アジア主要国の PTA 需給(2009) 1,000 設備能力 日 本 1,310 台 湾 5,280 韓 国 5,900 中 国 13,021 タ イ 2,640 インド 4,360 インドネシア 1,980 マレーシア 600 800 600 400 輸入 26 0 0 6,257 0 134 10 112 輸出 171 2,172 3,628 1 1,332 0 40 100 単位:千トン 国内消費 748 2,234 2,725 15,900 1,038 3,411 1,550 602 出所:日本化繊協会、ドイツ証券 200 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1 09.1 10.1 図表 16 PTA 相場 PTA相場 出所:日経商品情報 ($/t) (2)合繊原料 騰勢続く、年初から 10 〜 30%高 中国の消費・買付旺盛 リーマンショック(08 年 9 月)以降、急落した 合繊原料価格は、08 年末で底入れし、09 年は 1 年 を通じて上昇、軒並み安値の倍になった。10 年上 期も在庫調整を終えた中国の合繊メーカーからの買 付けが増え、引き続き騰勢を強めた。アクリル原料 の AN(アクリロニトリル)は、 5 月末現在 2,450 $/ トンで年初比約 30%高、09 年 2 月の最安値からは 2.8 倍になっている。ナイロン原料の CPL(カプロ ラクタム)は同 2,740 $/ トンで、年初比 17%高、 08 年 12 月の安値からは 2.7 倍。ポリエステル原料 の PTA(テレフタル酸)は同 1,000 $/ トンで年初 比 5%、08 年 11 月の安値からは約 80%上昇してい る。唯一、EG(エチレングリコール)のみ、09 年 に上がり過ぎて、10 年上期は調整局面に入ってい 10 生産 893 4,406 6,353 9,644 2,370 3,277 1,580 590 繊維トレンド 2010 年 7・8 月号 PTA Market Price 1,200 1,100 1,000 900 800 700 600 500 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1 09.1 10.1 出所:日経商品情報 ② EG(エチレングリコール)先高感消える 世界の生産能力は 2,300 万トン(2009 年末)だが、 中国・インドを含むアジアで 40%以上の 1,000 万トン 下期の市況を読む の設備がある。最近では、原料にエタンを持ち、コス ト競争力に勝る中東が増設に走っており、サウジアラ ビアやクウェートを中心に、 800 万トン近い設備がある。 一方、これまで、供給国として主要な役割を担っ てきた日米欧では需要の減退・競争力の低下など 事業環境の悪化から、撤退の動きが急で、EG 事業 は縮小している。アジア主要国の EG 需給は図表 17 の通り。相場は 08 年 11 月 400 $/ トンで底入 れし、今年 1 月に 1,000 $/ トンを回復したものの、 その背景となった中東の新設プラントトラブルも 解消して、稼働率もアップ。供給過剰感が出てい 繊維用、樹脂用とも中国を中心に好調な上、近年、設 備増強が少なく、供給余力は縮小傾向にある。アジア 主要国の需給は、図表 19 で示すが、どこともタイトに 展開している。相場は一昨年(08 年)12 月、1,000 $/ トンで底入れした後、昨年(09 年)10 月に短期の調整 をしたが、その後はほぼ一本調子の右上がりとなり、 今年 5 月には 2,740 $/トンと、過去最高値を更新した。 しかし、さすがに 2,700 $台は上げすぎとの見方が 広がっており、先行き調整局面を迎える可能性もある。 るので、しばらく高値修正局面が続きそうだ。 こうした好調な事業環境を受けて、久しぶりに 宇部興産が CPL の新工場をタイに建設する計画が 持ち上がっている。宇部興産の CPL の生産能力は、 ③ CPL(カプロラクタム) 需給タイトで過去最高値を更新 世界の生産能力は 460 万トン(2009 年末)だが、ア 世界第 3 位で、国内に 2 カ所(宇部と堺)18 万トン、 タイのラヨンに 13 万トン、スペインのキャステロ ンに 9 万トン 計 40 万トン(年産)の設備を持つ。 増設計画は 2015 年稼働目標で規模は 14 〜 15 万ト ジアのシェアは日本を含めても 40%、日本を除くと 30%しかない。アメリカ、ベルギーなど日米欧先進国の 比重が高く 50%を超える。カプロラクタムの需要は、 ン / 年産。増設後は 54 〜 55 万トンになる。投資 額は 500 億円を予定している。 図表 19 アジア主要国の CPL 需給(2009) 図表 17 アジア主要国の EG 需給(2009) 設備能力 日 本 910 台 湾 2,225 韓 国 1,135 中 国 3,100 タ イ 443 インド 1,269 インドネシア 244 マレーシア 380 生産 581 2,039 1,178 2,433 380 850 220 340 輸入 20 240 466 5,828 171 352 322 21 輸出 176 1,273 526 7 91 8 32 206 単位:千トン 国内消費 425 1,006 1,118 8,254 460 1,194 510 155 日 本 台 湾 韓 国 中 国 タ イ インド 設備能力 440 300 265 620 130 120 ($/t) 1,700 輸入 0 401 28 601 2 2 輸出 192 0 32 2 50 4 単位:千トン 国内消費 150 654 254 928 68 107 出所:日本化繊協会、ドイツ証券 出所:日本化繊協会、ドイツ証券 図表 18 EG 相場 生産 342 253 258 329 116 109 図表 20 CPL 相場 CPL相場 ($/t) EG相場 2,700 EG Market Price 2,500 CPL Market Price 2,300 1,600 1,500 2,100 1,400 1,900 1,300 1,200 1,700 1,100 1,500 1,000 900 1,300 800 1,100 700 600 900 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1 09.1 10.1 500 400 300 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1 09.1 10.1 出所:日経商品情報 出所:日経商品情報 繊維トレンド 2010 年 7・8 月号 11 海外動向 ④ AN(アクリロニトリル) 過去最高値を更新、もはや限界に近いか? AN は、昨年(09 年)2 月、850 $/ トンで底入 れした後、 棒上げとなっている。5 月積みは 2,450 $/ トンと安値のおよそ 3 倍となった。需要サイドでは、 ABS 樹脂が絶好調であり、供給サイドでは AN の 大手メーカーが旭化成ケミカルズ(日) 、INEOS(旧 BP・米) 、SK CAPITAL(旧 SOLUTIA・米)の 3 社 に絞られていることが大きい。世界の生産能力は 580 万トン、日本を含むアジアのシェアは 54%、 310 万トンだ。図表 21 にアジア主要国の AN 需給 を示した。ただ、ポリエステル原料(PTA・EG) と比べて高すぎるとの見方は厳然としてあり、 「も はや限界に近い」との声も。 図表 21 アジア主要国の AN 需給(2009) 日 本 台 湾 韓 国 中 国 タ イ インド 設備能力 742 470 570 1,122 200 40 生産 602 412 535 1,062 131 40 輸入 36 92 82 451 139 50 輸出 262 94 172 0 0 3 単位:千トン 国内消費 376 410 445 1,513 270 87 出所:日本化繊協会、ドイツ証券 図表 22 AN 相場 AN相場 ($/t) AN Market Price 2,400 ンド 282 万トン(同 10.2%増)と軒並み前年実績 を上回った。市況はリーマンショック後の危機的 状況を 09 年 1 〜 3 月に脱して回復に向かった。中 でも、原料高の目立ったナイロンやアクリルは、 今年上期中に過去最高値を更新する勢いをみせた。 日本の合繊業界では昨年、かつてないスピード で構造改革が進められたが(詳しくは繊維トレン ド 10 年 1・2 月号参照)、韓国や台湾では既に 05 〜 07 年にかけて大幅な構造改革を実施して、固定 費・比例費の削減を進めた効果が一早く出たとも いえる。今年は引き続きコスト削減策が進められ ながら、次の成長に向けた取り組みに比重が移っ ていくとみられる。 ① P-FY(ポリエステル長繊維) 衣料用:市場の低迷不安視 P-FY の相場は、09 年 1 〜 3 月で底入れした後、 順次水準を訂正してきたものの、直近最安値となっ た、09 年 1 〜 3 月に比べると、まだ 7 割方アップ した水準にとどまっている。今後に向けては、自 動車を中心とする資材用途は堅調に推移するとみ られるものの、日米欧先進国での衣料用途・住宅 インテリア用途は最終商品の消費不振の影響が懸 念される。ナイロン原料の CPL やアクリル原料の AN に比べ、ポリエステル原料の PTA や EG の先 高感は消えており、P-FY が 08 年の高値を抜いて くるのは難しいとみられる。 図表 23 東南アジアの P-FY 相場(150d DTY) 2,200 ($/kg) 2,000 2.0 1,800 1.9 1,600 1.8 1,400 1.7 1,200 1.6 1,000 1.5 800 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1 09.1 10.1 出所:日経商品情報 1.4 1.3 1.2 1.1 (3)合繊ファイバー 09 年の日本の化繊生産量は 100 万トンを大きく 割り込み 835 千トン(うち、合繊 682 千トン)と 08 年比 22%減と大きく減少したが、東南アジア諸 国は中国の 2,726 万トン(08 年比 14.3%増)、イ 12 繊維トレンド 2010 年 7・8 月号 1.0 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1 09.1 10.1 出所:ITS 営業月報より筆者作成 下期の市況を読む ② P-SF( ポリエステル 短繊維 ) 底値から 7 割戻った水準 P-SF の相場も、09 年 1 〜 3 月で底入れした後、 順次水準を訂正してきたものの、直近安値となっ ③ N-FY(ナイロン長繊維) 新高値 08 年の 3.25 $/kg を抜いてきた N-FY の相場も、09 年 1 〜 3 月 1.80 〜 1.85 $/ kg で底を打ち、その後は急激な戻り相場となった。 た 09 年 1 〜 3 月に比べると、まだ 7 割強戻した水 準にとどまっている。今後に向けては自動車用途 10 年 5 月積みは、原料 CPL 高もあって、08 年の 高値 3.25 $を抜き、3.35 〜 3.42 $/kg まで上げて の回復や生活資材の堅調推移によって、不織布用 途が戻ってきているのは強材料だが、先進国での 厳しい状況を受けて、紡績用・寝装用が今ひとつ なのが気になるところ。 きた。タイヤコード用は、自動車の生産回復と相 まって、3.60 〜 3.65 $/kg になった。自動車資材 の中でも最も早く回復したエアバッグ用の N-66 は、原糸・生地とも需給タイトな状況にあり、早 図表 24 東南アジアの P-SF 相場(綿混用) 晩増設計画が出てくるとみられる。 ④ A-SF(アクリルステープル) 原料 AN 高騰で、今後の商内に大きな懸念 A-SF の相場は、09 年 1 〜 3 月 1.50 $/kg で底 入れした後棒上げとなり、10 年 5、6 月には 3.09 $/ ($/kg) 1.5 1.4 kg と、直近安値のほぼ 2 倍になった。その背景には、 原料 AN の高騰があるが、AN は、ポリエステル原 料に比べると抜きんでて高騰しており、A-SF 価格 と合わせて考えると、「AN 価格は既に限界に近い」 という声も聞こえる。 このまま推移すると、再び、P-SF にシフトする 動きを含め、商品企画そのものが成り立たなくな るなど、今後の商内に大きな懸念が出てくる。 1.3 1.2 1.1 1.0 0.9 0.8 0.7 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1 09.1 10.1 出所:ITS 営業月報より筆者作成 図表 25 東南アジアの N-FY 相場(75SD-FOY) ($/kg) 3.6 図表 26 東南アジアの A-SF 相場 ($/kg) 3.0 3.4 2.8 3.2 2.6 3.0 2.4 2.8 2.2 2.6 2.0 2.4 1.8 2.2 1.6 2.0 1.8 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1 09.1 10.1 出所:ITS 営業月報より筆者作成 1.4 04.1 05.1 06.1 07.1 08.1 09.1 10.1 出所:ACTEM 営業月報より筆者作成 繊維トレンド 2010 年 7・8 月号 13
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