物質の機能と電子秩序の時空間ゆらぎ 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 有馬 孝尚 20世紀初頭、人類は、原子概念の確立とともにX線回折という原子配列の 観察法を手に入れ、材料利用の範囲が爆発的に増えた。X線のブラッグ回折 は、原子配列の周期性に基づいている。原子配列の周期性は、バンド理論と半 導体工学の大成功につながり、トランジスタ、CCD、レーザー、メモリが開 発され、現代の情報社会が誕生した。 しかし、21世紀に入り、ムーアの法則の限界、すなわち、理想結晶近似の 破たんが心配されている。表面や欠陥の科学は古くからあるが、ここに及んで は固体科学者全員が「端」を意識せざるを得ない。理想結晶の束縛を離れるこ とで、固体科学の扱える領域は格段に拡がり、応用に与える影響もより直接的 になる。実際、金属、セラミクス、プラスチック、繊維、複合材料など多くの 材料で端や欠陥の効果がうまく使われている。理学的研究においても、量子ホ ール効果、トポロジカル絶縁体などで、端や空間的な不均一性が重要にある。 さらには、今後の固体科学の方向性として、時間ゆらぎの問題もある。 講演では、静的な理想結晶から、時間的にも空間的にも揺らぎを持つ原子配 列へと研究対象がシフトしつつある固体科学の潮流を念頭に、X線結晶学やX 線分光学を用いた固体科学の将来を議論したい。
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