● ● ● 経営情報あれこれ ● ● ● ≫≫≫≫≫≫≫≫ 平成27年5月号 ≪≪≪≪≪≪≪≪ ★インダストリー4(第 4 次産業革命)★ 最近、よく耳にする言葉にインダストリー4.0(第四次産業革命)という言葉があり ます。これは、2010 年からドイツの製造業の産業政策として、官民挙げて進めたもの であり、ドイツ国内はもとより、全世界にこの産業革命を起こし、その中でドイツ企 業が中核的存在となるようにこの戦略を進めています。これにより、ドイツ企業の国 際競争力を高め、同時にドイツ国内の製造業を守るためのものです。 今後、製造業だけでなく、社会全体を変革していく可能性のあるインダストリー4.0 について、今月はご紹介します。 1、第四次産業革命 インダストリー4.0 は、別名「第四次産業革命」とも呼ばれています。ここでは産業 革命の意義に関し、18 世紀に石炭エネルギーによる蒸気機関を用いた工業化を第一次 産業革命と捉え、それ以後の工業化のあり方に大きな変革をもたらしたものを産業革 命と位置付けています。 (1)第一次産業革命 通常、産業革命といえば、18 世紀イギリスで、石炭をエネルギーとした蒸気機関 を活用した工業化のことを指します。これにより、生産方式が人手による生産方式か ら機械による生産方式に代わり、英国は「世界の工場」となりました。 (2)第二次産業革命 20 世紀初頭の米国で、電気エネルギーを用いた工場が一般化し、「T 型フォード」 のようにベルトコンベアーによる大量生産方式による生産形態が普及し、これによ り米国は世界一の産業国へと変身していきました。 (3)第三次産業革命 20 世紀後半の日本において、コンピュータ―を利用した生産の自動化による大量 生産方式が普及し、これに「カイゼン」を駆使した日本の製造業が急速に国際競争 力をつけ、高い生産性を実現し、日本は世界有数の産業国となりました。 (4)第四次産業革命 IOT 及び IOS 社会では、ネットを介し、人やものに関する大量の情報収集と分析、 処理が迅速かつ効率的に行われ、個々の消費者や顧客に対応した製品が求められる ことから、カスタマイズ製品を高い生産性でもって生産する生産方式に変革される と考えられています。具体的内容は、次の2及び3のとおりです。 1 2、ドイツのインダストリー4.0 の内容 (1)ネットを介した産業革命 インダストリー4.0 は、IOT(Internet Of Thing)及び IOS(Internet Of Service) を構築し、生産現場と管理オフィスを連結させ、産業機器をつないでモノづくりの プロセスを自動化したり、サプライチェーンを構成する企業同士の連携を深め、も のづくりにおける品質を高め、生産性を向上させ、コスト低減を実現することを通 し、製造業がこれまでにない新しいステージを実現し、その成果を企業ばかりでな く、個人も享受できるものです。 また、その成果に関し、知的財産権(特許、実用新案等)は発生せず、参加企業 が自社の必要に応じ、自由に利用できることから、技術力の低い新興国にとって望 ましいものと言えるものです。 (2)内容 ドイツが進めるインダストリー4.0 は生産の効率化という面では、トヨタ生産方式 と類似するが次の点が異なります。 ①マス・カスタマイゼーション トヨタ生産方式は大量生産を前提にしたものであるが、インダストリー4.0 は 「1 個ずつの生産システム」です。多くの関係者、生産ライン等をネットを介し、 膨大なデータを即座にやりとりし、顧客の要求に応じ、仕入先、生産工程を自在 に組み合わせ、単品生産でありながら高い生産性を実現するものです。 ②顧客から工場までの製造・販売・流通業全体の革新 トヨタ生産方式はカンバン・ジャストインタイムによる工場・生産プロセスの カイゼンであるが、インダストリー4.0 は顧客から工場まで全体(販売・流通・生 産)の革新を目指すものです。 ③政府、産業界その他あらゆるプレイヤーがこれに参画 トヨタ生産方式は個別企業の努力により確立させるが、インダストリー4.0 は、 政府、研究所・大学、民間企業(大企業、中小企業)が 1 つのゴール(目標)に 向い、その確立を目指しています。 このインダストリー4.0 の推進役となっているのは、ドイツ政府とドイツの中核 企業です。中核企業として代表的な企業は次の会社です。SIEMENS 社(重電・ 重機の世界的企業、従業員 34 万人、売上約8兆円)、BOSCH 社(自動車部品の 世界的企業、従業員 29 万人、売上約6兆円)、SAP 社(基幹業務ソフトの世界的 企業、従業員7万4千人、売上約2兆円) (3)背景 ドイツが国を挙げて、インダストリー4.0 に取り組む背景は、次のとおりです。 ①技術や新製品が他国で花開く ドイツは製造業中心の国であり、過去において多くの技術や新製品を生み出し 2 たが、結果として生産コストでアジア企業に及ばず、新たなビジネスモデルで米 国企業に敗れ、ドイツで開発したこれらの技術や新製品は他国の生産品の中に取 り込まれています。 ②他国からの企業買収 ドイツ企業の中には、急速に資金力をつけてきた中国企業の傘下になり、また 米国企業に買収された会社が多くあるのが現状です。 ③現状からの脱皮とドイツの再生 ドイツの企業が従来の工場で生産している限り、上記①及び②の状況から脱皮 できず、製造業中心のドイツにとって、モノ作りでの敗北は、国家の衰退と同じ ことであるとの危機感から、世界でどの企業も成し得ていない新たな生産方式を 実現し、これによりドイツ企業の復活と国家の繁栄を志向するものです。 ④米国企業の独走への対応 IOT といえば、半導体、ソフト、ネットに強い米国企業に有利な環境です。多 くの米国企業は、IOT 社会の中では、米国企業が中心となり、米国製品が標準と なると考えています。また、米国企業はドイツや日本企業の頭脳たる役割を果た すものと考えています。これでは、ドイツや日本企業は米国企業の下請的存在に なりかねません。これに対抗する方法としてインダストリー4.0 の実現があります。 なお、IOT 社会への米国企業の取り組みは次のとおりです。 イ、インテル社 IOT 社会においてクルマ、家電、産業用設備、スマホ、パソコンがインタ ーネットを介して接続されるが、半導体トップのインテル社は、その接続機 器、設備監視機器等の新製品を開発しこれを世界に販売していく予定です。 ロ、テスラ・モーター社 電気自動車専業のテスラ社は、ネット経由で車載ソフトを更新し、車が最 新機種にアップグレードされる IOT 時代の車を開発しています。ここでは、 ハード(車体や部品)を変えずに、ソフトやデータにより車が進化していき、 従来のモノ作りが覆る世界です。 ハ、ネット企業の変化 アマゾン社は、ネット通販を通して集まるビッグデータを基に日用品製造 を始めました。また、ネット検索大手のグーグル社は自動運転車の生産を目 指しています。 ニ、インダストリアル・インターネット・コンソーシアムの形成 GE 社、IBM 社、インテル社、シスコシステム社及び AT&T 社の米国を代 表する IOT 関連企業 5 社が創設メンバーで、現在は企業 115 社が参加するイ ンダストリアル・インターネット・コンソーシアムでは、産業分野での IOT 活用に関し、各社が共同して実証実験を始めており、新しいモノ作りのモデ 3 ルケースの検証、需要が拡大する関連製品・サービスの検証等をしています。 3、インダストリー4.0 と企業 (1)概要 ①全世界がインダストリー4.0 インダストリー4.0 は、単にドイツ 1 国の産業革命から世界を巻き込んだ産業革 命となりつつあります。各種のソフトを用いて、インターネットを介して収集し た顧客や現場の大量データを解析し、迅速かつ効率的に顧客価値を高めた製品や サービスを生産・提供するものであり、従来の生産方式とは異なるものです。 ②事例(GE 社の動向) インダストリー4.0 を実現していく会社の 1 つとして米国の GE 社があります。 GE 社は、自社製品であるエンジン、タービン、車両等に無数のセンサーを組み込 み、顧客の現場での稼働状況等をリアルタイムに監視し、そこから膨大な情報を 収集し、解析し、故障予防、稼働効率向上、製品設計への最適化を行っています。 GE 社は、これまでの航空、電力、病院、各種製造業等の顧客企業から集まる膨 大なデータを解析し、新たな価値を引出すソフトを開発しました。GE 社は、この ソフトをカスタマイズし、ソフトバンク社と提携し、外部企業に販売していく予 定です。その目的は、このデータ解析ソフトを利用した企業からさらに多くのデ ータを収集することで、世界中のあらゆる業種の様々なノウハウが GE 社に蓄積 され、これが GE 社の「モノ作りの力」をさらに強固にすることにあるといわれ ています。 (2)モノ作り企業のあり方 GE 社を例にとり、インダストリー4.0 でのモノ作り企業のあり方を紹介します。 ①ソフト活用によるモノ作りのあり方の変革 GE 社が開発したソフトとネットを活用することで、次の 3 つのことが可能と なります。 イ、経費の節減や機器の価値の向上 ロ、生産技術の革新 ハ、開発の迅速化 ②人こそ変革の原動力 IOT 社会の中で、変革を実現させるのは人であり、その中心はリーダーです。 リーダーの意識を変革し、トップの考えを末端まで浸透させる仕組みこそが変革 の源泉であり、また競争力の源泉です。 GE 社がリーダーや社員に求める行動規範は 2014 年に変革され、そこでは、失 敗しても挑戦を評価し、変革するリーダーを育てるプログラム、一致団結するこ との重要性を示しています。 4 イ、従来の行動規範(価値) 外部志向、明確でわかりやすい思考、想像力と勇気、包容力、専門性 ロ、2014 年からの行動規範(信念) (イ)お客様に選ばれる存在であり続ける (ロ)より早く、だからシンプルに (ハ)試すことで学び、勝利につなげる (ニ)信頼して任せ、互いに高め合う (ホ)どんな環境でも、勝ちにこだわる ③企業提携 GE 社といえども、1 社ではインダストリー4.0 の世界では健全に成長していく ことはできません。多くの企業との提携が必要になります。GE 社は、日本 1 国を とっても、次のような日本企業との提携を行っています。 イ、ソフトバンク社(インダストリアル・インターネット用ソフトの外販) ロ、IHI(航空機エンジンの開発) ハ、ホンダ(小型ビジネスエンジン開発) ニ、日本カーボン(次世代素材シュラウドの製造販売) ホ、コマツ(次世代鉱山機械の開発) ヘ、東芝(コンバインドサイクル発電システムの共同展開) ト、コニカミノルタ(医療診断用の X 線撮影装置の販売) チ、富士電機(スマートメーターの製造販売) (3)日本における対応 日本においても IOT 社会の到来を見据え、インダストリー4.0 に対し、産業界は対 応する方向性にありますが、ドイツや米国と比較すると遅れていることも事実です。 特に、日本企業の 90%以上を占める中小企業では、その対応が進んでいないのが現 状です。 系列化した日本の産業構造では、系列化の枠を超え世界的・地域的な規模でのサ プライチェーン、大量のデータ収集・分析・処理、人・機械装置・ラインの自動最 適化、カスタムメードの生産方式の実現等インダストリー4.0 への対応は遅れる可能 性があります。ネットと大量データ収集・分析・処理、世界の企業、日本・地域社 会の企業との連携をさらに進めるとともに、そこで関係する人の意識を変革し、IOT 及び IOS 社会への対応を適切にしていくことが求められます。 ★事務所から★ 先日、5 月 8 日開催の平成 27 年度税制改正セミナーには多数の方に出席いただき、誠 にありがとうございました。ご出席ができなかったお客様には、レジメを用意してあり ますのでご連絡いただければお渡しさせていただきます。(公認会計士 5 辻中 事務所)
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