平成22年度 第2回国土文化研究所セミナー 「地球をめぐる水と水をめぐる人々」講演報告 講演概要 移行していることが考えられる。 日時: 平成22年10月6日(水)16時~18時 ・世界人口の1/7は自宅から1km以内で安 演題: 地球をめぐる水と水をめぐる人々 全な水を得られない。この人たちは、水を 講師:沖大幹先生(東京大学生産技術研究 得るために1日に2~3時間を費やさないと 所教授) ならず、水の問題は生活のための時間の制 場所:Fタワー13階大会議室 約につながっている。水へのアクセスを改 挨拶:原田邦彦(国土文化研究所所長) 善することは、自立的経済発展を促すこと 司会: 木村達司(国土文化研究所次長) でもある。 ・水不足になるのは、地球上の水のなかで淡 講演要旨 水が限られた量しかないためではない。必 (1) 要とする量に比べて十分にあれば足りるは 世界の水問題 ・世界の水問題の研究は、20年前には何の ず。空間的・時間的に偏在していることが 役に立つのかと言われたこともあるが、この 問題である。では、貯めたり、運んだりすれ 問題は日本と大きな関わりを持っている。 ば良いのか。水は安いがかさ張るので、貯 いまは非常に流行っているが、やや過剰気 めたり運んだりするコストの方が高くついて 味な気もする。飲み水、工業や農業の水、 しまう。 快適に暮らすための水の3つの問題をごっ ・先進国では飲み水よりはるかに多くの量を ちゃに並べて議論しているので、一般の人 風呂、トイレ、炊事、洗濯で使っており、水 には分かりにくくなっている。 の問題は文化的で快適な生活を送れるか どうかの問題となる。多くの水は汚れを運ん でもらうために利用されている。 (2)バ―チャルウォーター ・水の豊かなところでつくった食料を運ぶか、 水自体を運ぶかを考えると、食料を運ぶこ とになる。干ばつ被害の地域に送ることが 必要なものは水よりも食料である。 ・日本では水は豊富にあるが、人口密度が 講演中の沖先生 高くなると、飲料水は足りても、食料のため の水が不足する。気候が変わらなくても人 ・日本でミネラルウォーターの消費が増えて 口密度が高まれば水は足りなくなる。 いるというが、欧米も同様に増えている。特 にラテン系の半乾燥地の国々は多い。健康 (3)ウォーターフットプリント 志向でジュースや缶コーヒーなどから水に ・近年、エコロジカルフットプリント、カーボン フットプリントに続いて、ウォーターフットプ ・確かなことは3つあり、気温が上がること、 リント(WF)という概念が指標として使われ、 海面が上昇すること、雨のパターンが変わ 推計手法のISO化が始まっている。 ることである。これにより、20世紀の基準で ・バーチャルウォーターが、食料を自分の国 の洪水や渇水が増えることになる。温暖化 で作るとしたらどれくらいの水を使うかという により気温が上がると雨の強度が強くなり、 推計であるのに対し、WFは、食料生産国 豪雨が起こりやすくなる。 で実際に使った水の量を推計するものであ る。消費地により、水量あたりの収量が異な るため、日本の場合はWFの方が2/3くらい になっている。 ・WFにはヨーロッパが熱心に取り組んでい る。ISO化が進められ、WFの推計がコン サルタントの仕事となっている。 ・WFは単に使った量を示すだけでインパク トの大きさを表現出来ない欠点があるが、 オランダのグループを中心に量が大事だと 講演中の沖先生 主張する声が大きい。 ・ヨーロッパでは、同じ流域に戻るのであれ ・温暖化懐疑論は必ずしも科学的ではない。 ば使っていないという考え方だが、水を使う 確かに、気温の観測地点の問題やヒートア ことは量だけではなく、水質、温度、エネル イランドなど、人間活動の影響はあるが、そ ギー、生態系など、様々な影響が生じる。し れだけではない。 かし、現状では多勢に無勢である。 ・WFをラベリングに使おうと思うのであれば、 雨水と河川の水、地下水などを分けて考え る必要がある。 ・ISO化をするのであれば「使える指標」に すべきであり、指標として備えるべき原則を 明確にしたい。 ・科学はかつては「認識科学」であったが、 いまは「設計科学」と言われ、提言を求めら れるようになっている。 ・気候変動とともに人口増加など社会の変動 も生じている。これらがシナリオに反映され ていることを考慮すべきである。 ・CO2の排出量は2009年に中国がアメリカを 抜いたと言われているが、人口1人あたりで (4)地球温暖化 はまだかなり小さい。欧米はエネルギー問 ・IPCC(気候変動に関する政府間パネル) 題に使うために温暖化を持ち出すことが多 とは、「政策に関連するが政策を規定しな い情報を提供する」組織である。 ・IPCCの報告書については、サマリーが翻 い。 ・水は使えるところでは使った方が良い。水 はそこにあることに意味がある。したがって、 訳されているので、是非読んで欲しい。マ 水があるところで水をたくさん使うものをつ スコミに取り上げられるのは一部に過ぎな くるのが自然である。 い。 (5)持続可能な社会の構築 ・水とエネルギーと食料は密接な関係があり、 (質問)温暖化については緩和策ばかりが注 三位一体で考えることが必要である。言い 目されているが、適応策も重要であると考え 換えると、循環型社会(水)と低炭素社会 ている。その点で土木の分野が果たす役割 (火)と自然共生社会(木)であり、制約条 は大きいのではないか。 件としての土地(土)と時間、さらには温暖 化防止(金)を考えると五位一体となる。 (回答)適応策で現業を持つ土木の貢献が ・中国には「飲水思源」(恩を受けた人を忘 大きいのはもちろんであるが、緩和策でも、 れるな)という言葉がある。これをもじって 特に交通システムを通じて土木が貢献できる 「飲食思水」ということも言えるのではない 側面も大きい。快適な居住空間を提供する か。 「サービス」が重要であり、それを維持しつつ トータルで環境負荷を減らすという点で、土 主な質疑応答 木が出来ることはまだまだあると思う。 (質問)WFについて、日本とヨーロッパの算 定方法の違いは何に起因しているのか。 (回答)日本では取水した水は違う場所に排 出されるのだからいったん取水すれば使っ たことになると主張しているのに対し、ヨーロ ッパでは水は流域単位で考え、同じ流域内 に還元されるのであれば使っていないという 解釈である。計算上の利便性や日本の河川 とヨーロッパの河川の流域の大きさ、流量の 多さの違いなどが関係しているのかもしれな 会場との質疑応答 い。日本の場合は水をちょっと動かすとまっ たく違う流域になってしまうという特性がある。 (質問)ヨーロッパではコンサルタントの仕事 としてWFの計測が増えているということか。 (回答)カーボンフットプリントの製品への表 示が義務づけられたことから、WFにも波及 すると考えたようである。このためISOの会 議にも企業が多く参加している。日本はまだ 模様眺めである。 (以上) 会場との質疑応答
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