第2部

ナレッジ・マネジメント・ワークショップ
リーダーシップ 2
『リーダーシップの中核要素』
■連絡先
セミナーの内容などで、ご意見、ご質問のある方はご
連絡をいただきたいと思います。
コンサルティングSunrise 代表 下小薗重人
電話:090−6593−7672
URL:http://www2 cty net ne jp/~sunrise/index
URL:http://www2.cty‐net.ne.jp/
sunrise/index.html
html
Facebook:https://www.facebook.com/kmwsJapan
メール:[email protected]‐net.ne.jp
sunrise‐ss‐ss@ezweb
sunrise
ss [email protected]
ne jp
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■リーダーシップのセミナーで何が学べる?
次のいずれかに該当するなら、あなたはこのセミナー
に参加する きでしょう。
に参加するべきでしょう。
• リーダーシップに興味があり、それが自分にどのよう
リ ダ シップに興味があり それが自分にどのよう
に影響するかに関心がある。
• ある組織を率いる計画である。あるいはすでにリー
ある組織を率いる計画である あるいはすでにリ
ダーの座に就いている。
• リーダー役に就いたときに直面するさまざまな課題・
ダ 役 就 たとき 直 するさまざまな課題
難題に対応できるように、自己開発を行うことに興味
がある。
がある
• リーダーシップを発揮して世の中を変えたいと願って
いる。
る
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第2部 リーダーシップの中核要素
リーダーとして成功する
■リーダーシップの本質
ビジョンをしっかり把握し、貫き続けること。
それ そがリ ダ シ プの本質です
それこそがリーダーシップの本質です。
私がそれを学んだ撮影現場にかぎらず、
私がそれを学んだ撮影現場にかぎらず
いたるところにおいて。
元米国大統領
ロナルド・レーガン
ド
ガ
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■リーダーにとって重要な9つの特性
前述では、リーダーシップとは何かを定義し、それは学べるものであるこ
とを理解していただいたと思います。また、リーダーシップが築ける基盤
にはどのようなモノがあるかも明らかにしました。
うな
ある も明
ま
。
ここでは、リーダーとして成功するためには何をすべきかについての考察
をしていただきます。
リ ダ シップが複雑かつ多面的なモノであることには既に触れましたが、
リーダーシップが複雑かつ多面的なモノであることには既に触れましたが
その中でもとくに重要な面に目を向けたいと思います。
すなわちリーダーにとって重要な九つの特性と、五つのスキルです。
これまでに見てきたように、リーダーシップの基盤はいくつかあります。し
見
う 、リ
あり す。
かし、実際にリーダーシップを発揮するためには、特有の性質と、それら
を行動に移し、効果をあげます。すなわち結果を出すためのスキルが必
要なのです。
リーダーに欠かせない九つの特性、①情熱、②決断力、③確信、④イン
テグリティ(誠実さ)、⑤適応力、⑥強靭な精神、⑦共感、⑧自覚、⑨謙虚
さは、だれにも備わっているが、その程度はまちまちです。しかし意識す
ればどれも (ある程度まで)高めることができます
ればどれも、(ある程度まで)高めることができます。
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◆リーダーにとって重要な9つの特性
リーダーが備えているべき9つの重要な特性は以下
のものである。
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
情熱
決断力
確信
インテグリティ(誠実さ)
適応力
強靭な精神
共感
自覚
謙虚さ
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① 情熱
情熱の意味はいくつかあります。そのうちの一つは限りない熱意です。情熱的なリーダー
は仕事についての自分の気持ちや感情を表に出します。そのため、自分の役割に真剣に
取り組み、自分が打ち出した方向性の正しさを確信していると周囲に感じ取ってもらえま
す だれでも情熱はもてます 望めばいつでも 何に対してでも自由に情熱を注ぎ込むこ
す。だれでも情熱はもてます。望めばいつでも、何に対してでも自由に情熱を注ぎ込むこ
とができます。ただし情熱は、必ず建設的な方向にむけなければいけません。
情熱は、大型組織のリーダーには重要ですが、企業家にとっては不可欠です。
「会社を軌道に乗せるために、一体どれだけの時間がかかるでしょう。単にやりがいのあ
会社を軌道 乗
、 体
時間
う。単
り
あ
るおもしろそうな仕事だからという理由だけだったら、何時間も、何日も、何週間も、何カ月
も、何年も、一見かぎりないと思える期間にわたって働く人などどこにもいませんよ」と発
言したのは、ダン・マイヤーズです。
彼は教育ロ ンに関する特殊な金融サ ビスを行うファ スト マ ブルヘッドを設立し、
彼は教育ローンに関する特殊な金融サービスを行うファースト・マーブルヘッドを設立し
同社を率いて2003年にニューヨーク証券取引所上場を果たしたのです。マイヤーズは、こ
の短いコメントで、大きな組織を率いるリーダーと新興企業のリーダーとの違い、CEOと企
業家の違いを端的に示しています。
大企業のリ ダ のコミ トメントは真剣ですが それにもまして真剣なのは企業家のコ
大企業のリーダーのコミットメントは真剣ですが、それにもまして真剣なのは企業家のコ
ミットメントです。マイヤーズは、起業家とは一つのミッションに取りつかれた人間であり、
生活のすべてが情熱によって支配されています。とまで言っています。対照的に、すでに
地歩が固まった大手企業のリーダーは、一般的に自分の行動には起業家ほどの情熱は
もたないが 目を配るべき対象範囲ははるかに広いのです
もたないが、目を配るべき対象範囲ははるかに広いのです。一般的に情熱は、長い歴史
般的に情熱は 長い歴史
をもつ大型組織のリーダーの中心的特性ではありません。
情熱は非常に重要なリーダーの特性であるために、カリスマ性と混同されがちです。また
情熱が必ずしもリ ダ シップにつながるともかぎりません。自分の研究に情熱を傾けな
情熱が必ずしもリーダーシップにつながるともかぎりません。自分の研究に情熱を傾けな
がらも、何年も実験室に引き籠ったままの科学者もいます。
9
②決断力
リーダーとして指名され、仕事を任される。仕事の遂行には決断力が必要です。
リ
ダ として指名され 仕事を任される 仕事の遂行には決断力が必要です
偉大なリーダーは重圧がのしかかっても平常心を失わず、意思決定を行うことが
できます。また、時間が迫り、得られる情報はかぎられ、あいまいな状況であって
も、自分の判断によって物事が大きく左右されることを認識したうえで、冷静沈着
な判断ができます。
すみやかに状況を把握し、確固たる行動をとる能力は、リーダーの重要な属性
です。リーダーはきわめて不確実な状況に対処し、情報が不備でも直感を使って
行動することができます。アナリシス・パラリシス(情報過多による分析能力麻痺
す
が き す
パ
情報 多
析能 麻痺
の状態)に陥らずに、危機や脅威に対処することができます。また、情報分析に
必要以上に時間をかけても、それに見合うだけの成果があがらないことが多いこ
とを認識しています。
とを認識しています
一方で、リーダーも間違った判断を下すことがあります。しかし、間違いや機会の
損失に対する後悔の念に屈することなく、判断の誤りを真摯に受けとめることが
できなければいけない。また、時間がいくらあっても足らないので、意思決定がの
ろいと行動がとれなくなります。実行が伴わないと、リーダーには向かないと部下
に受けとられかねません。
古今東西、有能なリーダーになれるはずの逸材が、無力なリーダーで終わった
のは、優柔不断なせいです。ただし熟考せずに性急にくだした判断は、惨憺たる
は 優柔 断な
す ただ 熟考 ず 性急 くだ た判断は 惨憺たる
結果に終わりますので、これも要注意です。
慎重に熟考することによって、早急な意思決定はできるかぎり回避すべきです。
リ ダ が 情報が不備でも決定を下すのは 行動をとらざるを得ず 追加情報
リーダーが、情報が不備でも決定を下すのは、行動をとらざるを得ず、追加情報
を待った場合のリスクがそのメリットを上回る場合のみに限定すべきです。
10
③確信
確信はどんなリーダーも備えていなければならない根本的な特質です。
確信
ど な
ダ も備
な ればな な 根本的な特
す
ここでいう確信とは、リーダーとしての自分の役割について、自分と組織
が達成しようとしている目的や目標についての確信です。
リーダーは組織内で次のような役割を果たさなければなりません。
zビジョンを伝える
z範を示し、鼓舞することのよって人々をエナジャイズする
z困難な状況でも、意思決定を行う
こういった責任を果たすために、リーダーは確信をもっていることを示さな
ければならないのです。
ビジョンや目的を必ず達成するというコミットメントがなければ、説得力を
もってそれを伝えることはできません。
人々を鼓舞するためには、リ ダ は第 に、信頼を勝ちとり、その目標
人々を鼓舞するためには、リーダーは第一に、信頼を勝ちとり、その目標
は必ず達成できると確信していることを示さなければいけません。
困難な状況にあっても、組織のためになり、ゴールに向けて進むための
意思決定を行うためには、望んだ結果は必ず出せるという確信に導かれ
た判断と直感を基盤としなければいけない。
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④インテグリティ(誠実さ)
本物のリーダーになるために非常に重要な特性は、インテ
本物のリ
ダ になるために非常に重要な特性は インテ
グリティ(誠実さ)です。インテグリティとは、だれもいないと
ろでも正しい とを行う正直さなのです。
ころでも正しいことを行う正直さなのです。
表面には出ないことが多いですが、インテグリティは他人の
表面には出な
とが多 ですが、インテグリティは他人の
目には驚くほど明らかであり、尊敬を集めます。
インテグリティが伴わないと、カリスマ性や決断力などその
グ
他の特性は、本物のリーダーであれば決して行わないよう
な邪悪な行動を導きます。
リーダーのその他の特性は、組織をゴールに向かわせるエ
リ
ダ のその他の特性は、組織をゴ ルに向かわせるエ
ンジンです。
インテグリティは行く先を決定する運転手であるのです。
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⑤適応力
環境の変化に適応する能力はリーダーに必須の特性です。有能なリー
境 変
適応す 能
ダ
特性 す 有能な
ダーは「変化を受け入れることを学ぶ」「圧力を跳ね返す力がある」ことを
良きリーダーに重要な特質として挙げます。
リーダーはどのようにして変化に適応するのでしょうか。第一に、内部、
外部の環境に重大な変化があったときに、それを認識することによってで
あります。このためには積極的に人の話を聞くこと(特に自分の組織内
で) そして粘り強く外部の環境をモ タ することです 次に それに
で)、そして粘り強く外部の環境をモニターすることです。次に、それに
よって得た情報があるなら、新たな方向を定め、それを組織に明確に伝
えます。そしてリーダーは、部下をエナジャイズして新たな目標に向かっ
て進ませます このためには ビジョンや瘤などのリ ダ のツ ル あ
て進ませます。このためには、ビジョンや瘤などのリーダーのツール、あ
るいはインセンティブと報酬などの監督者のツールを使うこともあります。
変化への対応が不十分な場合は、リーダーは早い段階でこれを認識し、
誤りを認め 事態を収拾して前に進みます このように変化を定期的に見
誤りを認め、事態を収拾して前に進みます。このように変化を定期的に見
直して調整を行うことと同時に、反省も欠かせません。
最悪なリーダーは、いつも確信がもてず、瑣末な変化に過剰反応して方
向変換を繰り返します 従う者にとって 自分のリーダーが気を変えたり
向変換を繰り返します。従う者にとって、自分のリーダーが気を変えたり、
確信がないように見えたりするときほどフラストレーションを感じさせるも
のはありません。そんな状態にあると、どんな行動にも時間や労力を費
やすのが億劫になります。彼らはリ ダ が決心を固めるまで待ちます
やすのが億劫になります。彼らはリーダーが決心を固めるまで待ちます
が、それによって組織の効率や有効性に悪影響が出がちです。
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⑥強靭な精神
リーダーは精神的に強靭でなければなりません。良きにつ
け悪しきにつけ、内部からも外部からも常に疑問を呈される
からです。
からです
したがって自分の感情を簡単に出してしまうリーダーは、自
制心がな ように見える恐れがあります。感情を表に出し
制心がないように見える恐れがあります。感情を表に出し
たことがきっかけで、悪い評判が広まりやすいのです。ちょ
うど、カリスマ性を示すと、それがきっかけになってよい評判
が広まるのと正反対です。
が広まるのと正反対です
たとえば、ある巨大な通信会社の大きな事業部門の重役は、
ある日、出社するなり自分のワイシャツにシミがあるのに気
付き、眉をしかめました。身なりを気にしただけなのに、部
下たちは、上司が事業の状況に不満足を示したものと勘違
いしたと言います また ある銀行の重役は ある日 重要
いしたと言います。また、ある銀行の重役は、ある日、重要
な会議を前に頭痛がしたのでしかめ面をしていたところ、部
下たちはそれを銀行が厄介な状態に陥っていることの徴候
であると受けとったそうです。
あると受けと たそう す
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⑦共感
人を共感させることができることもリーダーの特性です。それは他人の感
情を動かして、彼らを一定のゴールに向かわせる能力です。そのために
これをカリスマ性の重要な要素であると考える人は多いのです しかしそ
これをカリスマ性の重要な要素であると考える人は多いのです。しかしそ
れはカリスマ性とは異なります。カリスマ性のあるリーダーで、人に感情
移入ができず、したがって、共感させることができない人は多いのです。
感情移入とは 人の感情を理解することです 人の幸福を思いやることも
感情移入とは、人の感情を理解することです。人の幸福を思いやることも
その一部かもしれません。しかし、思いやりはさておき、共感を得るため
には他人の感情を理解することが欠かせないのです。リーダーの重要な
特性として共感をあげる理由は 人間は自分の利害よりも自分の感情の
特性として共感をあげる理由は、人間は自分の利害よりも自分の感情の
ほうに反応するからです。つまりお金よりも、刺激的な物事のほうに反応
し、給料よりも大儀に反応するのです。
有能なリーダーは他者と気持ちを通じ合わせます 人々のエネルギーを
有能なリーダーは他者と気持ちを通じ合わせます。人々のエネルギーを
ポジティブな方向に向けさせ、共通の目的のために部下を一つにまとめ
ることができます。
リ ダ の感情は組織内に伝わると言われています それゆえ 組織に
リーダーの感情は組織内に伝わると言われています。それゆえ、組織に
活気をもたせるためには、リーダーは熱心に他者を共感させなければな
りません。この面からは、企業におけるリーダーシップとは戦略を定める
ことではなく むしろ 他者の感情を正しい方向に向けさせることです
ことではなく、むしろ、他者の感情を正しい方向に向けさせることです。
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⑧自覚
成功の定義はリーダーによって異なります。リーダーたちは異なるキャリアパスを経てき
成功の定義はリ
ダ によ て異なります リ ダ たちは異なるキャリアパスを経てき
ており、人格も違えば、リーダーシップのスキルや特性の組み合わせも異なります。しかし
ほとんどのリーダーに共通するのは、ある重要な特性です。それは自覚です。
自覚は三つの次元であらわれます。第一に、自覚あるリーダーは人生における自分の目
的を認識しています。第二に、自覚あるリーダーは、自分のスタイルとリーダーとしての基
盤を認識している。第三に、時間あるリーダーは、自分の強さ、弱さを知り、その両方を補
完する人材を求めます 自覚は 自分に忠実であるための そして自分のスイートスポッ
完する人材を求めます。自覚は、自分に忠実であるための、そして自分のスイ
トスポッ
ト(パーソナリティと願望、環境が交わる交差点)を探り当てるためのカギです。
リーダーが特に自覚する必要があるのは、自分の強みと弱みです。リーダーはバンドリー
ダーに似ています。自分は何が得意なのかを知り、自分の能力が欠けている部分を適切
なメンバーによって埋めることができます。自分の実力を知るためには、自省が必要です。
自省とは、自分を正直に見つめて、強さと欠点を認める能力です。自称リーダーがよく陥
るワナは、自分は何でも得意だと思 込む とです。何でも得意な人間は ません。そう
るワナは、自分は何でも得意だと思い込むことです。何でも得意な人間はいません。そう
いう人はそもそもリーダーではないし、リーダーになる可能性も低い。
常に正しく自己を認識する能力は、長期的に自己開発を行うのに大いに役立ちます。自
覚があれば 自分の能力がどれだけ時代に遭 ているかを評価し 遅れている場合は
覚があれば、自分の能力がどれだけ時代に遭っているかを評価し、遅れている場合は、
さまざまな学習手段によって遅れを取り戻すことができます。そうすれば組織内や業界に
おいて、有意義な存在であり続けることができます。また、どのような自己開発が必要か
についても高い意識を保つことができます。自己認識がしっかりしていれば、より柔軟なス
タイルをとることもできるでし う ある分野で自分の力が不十分であれば それを自覚し
タイルをとることもできるでしょう。ある分野で自分の力が不十分であれば、それを自覚し、
欠けているスキルを徹底的に強化することができるからです。
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⑨謙虚さ
リーダーは、自分の支持者たちの利益が理解できなければ、方向性を示
リ
ダ は 自分の支持者たちの利益が理解できなければ 方向性を示
すことはできません。これは究極的には自分の利益やエゴはさておき、
リーダーとして自分を受け入れてくれた人々に本心から尽くすことを意味
します この点からみると リ ダ シップは権力を行使することではなく
します。この点からみると、リーダーシップは権力を行使することではなく、
むしろ自己を犠牲にしてまで部下に奉仕することです。
これはビジネスの世界でもいえることです。謙虚なリーダーは、相当な権
限を直属の部下に移譲し その部下が能力を十二分に発揮できるように
限を直属の部下に移譲し、その部下が能力を十二分に発揮できるように
尽力します。このために、業務上相当な権限を従業員に与えることを奨
励します。GEM(Goals〈ゴール〉、Empowerment〈権限の移譲〉、
Measurement〈評価〉)と呼ばれる経営スタイルを採用してもよいでしょう。
Measurement〈評価〉)と呼ばれる経営スタイルを採用してもよいでしょう
リーダーは自己の判断が最終的にどのような影響を及ぼすかを理解しつ
つ、常にチームのためを考えます。それが、自分にとっても社員にとって
も成功への足がかりとなります。
も成功への足がかりとなります
謙虚さの重要性は見過ごされやすいものです。特に決断力やカリスマ性
など、謙虚さと一見対立する特性と比較して軽視されがちです。謙虚さは、
リ ダ に決断力や決心 自信が欠けていることを意味するのではあり
リーダーに決断力や決心、自信が欠けていることを意味するのではあり
ません。逆に、こうした特性を十二分に備えているために、傲慢さやこれ
見よがしな態度で有能な人間だと錯覚させる必要がないからこそ、謙虚
になれます 謙虚なリーダーは自分の中身に自信があるので
になれます。謙虚なリ
ダ は自分の中身に自信があるので、スタイル
スタイル
で自分を売り込む必要はないのです。
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■五つの重要なリーダーシップ・スキル
以上の特性を備えているだけでは、リーダーとして十分ではあり
以上の特性を備えているだけでは
リ ダ として十分ではあり
ません。特性と行動が結びつかなければ、実績というかたちで
成果は出せません。
ではどうすれば特性と行動を結びつけることができるのでしょう
か そこで必要になるのがリ ダ シップスキルです リ ダ
か。そこで必要になるのがリーダーシップスキルです。リーダー
シップ・スキルを使うことによってのみ、リーダーは約束を果たし、
設定した目標を達成することができます。
これらは部下をやる気にさせるために、リーダーの特性と行動と
を結びつける五つのスキルです このスキルは広義 すなわち
を結びつける五つのスキルです。このスキルは広義、すなわち
戦略的レベルのスキルであり、どのような状況でも適用可能な
のです。
これらは組織のどこでも、また(選挙に出馬した場合や地域社会
のプロジェクトで住民グル プを率いる場合など)組織が存在し
のプロジェクトで住民グループを率いる場合など)組織が存在し
ない状況であっても、リーダーに必要となるスキルです。
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◆5つの重要なリーダーシップ・スキル
リーダーとして成功するのに重要な5つのスキル
は以下のものである。
1. リーダーとしてのビジョンをもつ
2. 模範を示す
3 他者を鼓舞する
3.
4. 他者の中に、それまで気づかれていなかった
能力を見出す
5 お互いを支え合う組織文化を根付かせる
5.
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①リーダーとしてのビジョンをもつ
有能なリーダーは将来に対するビジョンをもっていなければいけません。すなわち自分がリードする組織は
有能なリ
ダ は将来に対するビジ をも
なければ けません すなわち自分がリ ドする組織は
どこに向かうべきだと考えているかです。組織のミッションは、そのビジョンを実現することです。
複雑で大型の組織が発表したビジョンの中で最も優れているのは、おそらく、1960年代に出されたNASAの
ビジョン、人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させるであろう。NASAは、ミッションをことビジョンと直接
結びつけました。
結びつけました
人間を月面に立たせるというNASAの職員、NASAのために予算を確保した議員たち、支払った税金がNASA
の資金に充てられる一般大衆、そのだれもが、そのビジョンがどんなものかを正確に理解することができま
した。そしてそのビジョンになじんだために、ミッションも理解できました。
第二に、NASAのビジョンは能力の限界を試すものだった。それまで月面を歩いた人間はだれもいませんで
した。人間を月に送ろうとした国はありませんでした。その時点まで、何人かの人間を月に運んで生きて帰
還させる技術は存在していませんでした。このミッションを実現するためには、膨大で、創意あふれた努力を
する必要がありました。
あまりに遠大な目標であったために、今日なお、米国が数十年前に実際に人間を月に送ったことが信じられ
ないという人が世界中にたくさん存在します。彼らはすべてはプロパガンダであったに過ぎない、月面を歩く
宇宙飛行士を撮影したフィルムはハリウッドの特殊効果にすぎない、つまりでっちあげだと信じているのです。
ところが実際に一人の男性が月面を歩きました。ミッションは達成され、ビジョンは実現しました。困難な目
標に挑戦し 見事に成功したのです。
標に挑戦し、見事に成功したのです。
第三に、このビジョンはNASAの能力の限界を試すものでしたが、究極的には達成の可能性があるものでし
た。ビジョンと、それに基づくミッションは、実現可能なものでなければなりません。もし不可能な夢にすぎな
ければ、組織は失敗してやる気を失うでしょう。そのため、適切なビジョンとミッションを打ち立てることは、微
妙なワザです。これぞというものは簡単には決まりません。
NASAは人間の月面歩行に成功して以来、これほど有力なビジョンを打ち立てていません。ミッションの表現
も貧弱です。それ以降のNASAが成功してきたのかどうかを判定することは難しいことです。NASAという国家
的機関のリーダーは、以前のビジョンと同等に説得力のある新たなビジョンを設定することができないでい
ダ
ビ
ビ
ます。
20
◆なぜビジョンが重要なのか
実業界においては、ビジョンは社員を鼓舞して行動を起こさせるために、その行動をある
実業界においては
ビジ ンは社員を鼓舞して行動を起こさせるために その行動をある
特定の方向に向けさせるために、そして投資家の期待を高めるために重要なのです。ラ
イバルへの挑戦そのものというビジョンをもつ企業もあります。
たとえば日本の機械メーカーであるクボタは、急速に成長しつつあったころ、「キャタピ
ラーをやっつけろ」というビジョンを打ち出しました。キャタピラーは米国企業であり、建設
期間の製造で世界をリードしていました。大手小売りチェーンのCEOが、「10年後にはウォ
ルマ トにとって最大かつ最も手ごわいライバルになる」というビジョンを描くこともあるで
ルマートにとって最大かつ最も手ごわいライバルになる」というビジョンを描くこともあるで
しょう。ここで大事なことは、ビジョンは経済的な成功を目指すだけにはとどまらないという
点です。CEOが「私のビジョンはわが社を収益率の高い企業にすることだ」というのはふさ
わしくはありません。企業が黒字を出すのは重要なことですが、収益性云々をビジョンとす
るには限界があります。
るには限界があります
新興企業の場合は、それを率いる起業家は自分が何を構築しようとしているのかを自覚
。投資
ずそ
。 順調 あ
わ 社
していなければいけません。投資家は必ずそれを知りたがる。「順調であればわが社は5
年後にはこうなっています」とはっきり説明できなければ、投資家たちは起業家のリーダー
としての能力に疑問をもち、投資を見送る決定を下すでしょう。
たとえば起業家が、「わが社はネット検索エンジンを開発しています」と説明したとしましょ
たとえば起業家が
「わが社はネ ト検索エンジンを開発しています」と説明したとしましょ
う。これは、会社が携わる業務の種類を説明しているだけにすぎません。「その種の企業
で最大手になりたいのです」と付け加えたとしましょう。だが、それは単なる願望であって、
ビジョンではありません。しかし、「5年後、わが社は顧客にとって世界で最も使い勝手が
良いオンライン ストアを展開して見せます と説明したとしまし う それは立派なビジ ン
良いオンライン・ストアを展開して見せます」と説明したとしましょう。それは立派なビジョン
です。
21
◆アップル社のビジョン
実業界における効果的なビジョンとして有名なのは、誕生間もないアップル・コンピュータ
が世界初のパソコン(当時は「マイクロ」コンピュータと呼ばれていた)を製造・販売しようと
していた当時のものでしょう。
当時(1970年代後期∼1980年代の初期)、コンピューターというのは巨大な機械で専門家
が操作するものでした。「グラスハウス(温室)」と呼ばれる温度・湿度が調整された特殊な
部屋に設置されて、普通の社員は近寄ることができませんでした。コンピューターを使い
た れば
たければ、一連の指示を何枚かのカードにタイプで打ち、それを事務員経由でそのコン
連 指 を何枚か カ ド タイプ 打ち それを事務員経由 そ
ピューターのオペレーターに渡すのでした。その後、オペレーターはカードを提出した社員
に処理後のカードを返しました。それは時間がかかり、欠点だらけでコスト高のシステムで
した。
アップルは一大改革に乗り出しました。創設者たち(特に最初のCEOであったスティーブ・
ジョブス)が思い描いたビジョンは、コンピューターをグラスハウスから出して、一人ひとり
のデスクの上に置く というものでした それは いわばコンピュ タ の「民主化」でした
のデスクの上に置く、というものでした。それは、いわばコンピューターの「民主化」でした。
これは、NASAの人間を月に送るというビジョンが偉大であったのと同じ理由で、偉大なビ
ジョンでした。
つまり、アップルのこのビジョンはだれもが理解できました。それは能力の限界に挑むもの
でした。懸命に努力すれば、実現可能なものでした。アップルはこのビジョンを実現しまし
た(ただしIBMは最終的にパソコン事業のほとんどをアップルから奪い、やがてはIBMも模
造品メーカーに市場のほとんどをさらわれるという顛末があるが
造品メ
カ に市場のほとんどをさらわれるという顛末があるが、これはこことは関係が
これはこことは関係が
ない。
22
②模範を示す
二つ目の重要なリーダーシップ・スキルは、模範を示すことです。重要な
な
ダ
プ
模範を す
す
な
課題を達成する方法、ミッションに対するコミットメント、困難にめげない勇
気、それ以外にも数限りない状況においてどのような行動をとるべきか、
みずからお手本となることです そこで重要なのは 「もしリ ダ にでき
みずからお手本となることです。そこで重要なのは、「もしリーダーにでき
るのであれば自分にもそれはできる」と気付かせ、それに取り組ませるこ
とです。ビジョンやミッションとは異なり、人からお手本を示されることは、
だれでも幼いころの体験から慣れていると思います。
だれでも幼いころの体験から慣れていると思います
望ましい特性を自ら示せば、チームや組織のメンバーにその特性を染み
込ませることができます。最も刺激的で、人にやる気を起こさせるリー
ダ は 自分自身も鼓舞され モチベ ションが高いリ ダ です 通常
ダーは、自分自身も鼓舞され、モチベーションが高いリーダーです。通常、
ポジティブでエネルギー満々のリーダーが存在する職場には、ポジティブ
でエネルギーに満ちた企業文化があります。ポジティブな模範を示すこと
によって リーダーはネガティブなことはしない
によって、リ
ダ はネガティブなことはしない、社員も行うべきでない、と
社員も行うべきでない と
いうメッセージが伝わります。組織のリーダーの信用力と、信頼を築くうえ
で、これは非常に重要です。
自分が模範となって他者をリードしようとすると 自分が示している特性
自分が模範となって他者をリードしようとすると、自分が示している特性
や価値観は、はたして自分が会社に根付かせたいものだろうか、とリー
ダーは常に考えさせられます。みずから模範となって組織を率いることは、
部下に対する理解を深め、より公正なリ ダ となることを学ぶ、優れた
部下に対する理解を深め、より公正なリーダーとなることを学ぶ、優れた
方法です。
23
③他者を鼓舞する
米国最大にして最も成功した企業の一社であるGEの前CEOであ
米国最大にして最も成功した企業の
社であるGEの前CEOであ
るジャック・ウェルチは、かつて同社のマネージャーたちを前にし
て、「あなた方が業務でどれほど優れていようと、他の社員をエ
、 あ
業務
優
う 、他 社員を
ナジャイズできない限り、ゼネラルエレクトリックではリーダーとし
て優れていることにはなりません」と語りました。彼の発言は、ビ
ジネス面として優れている監督者は、その役割においてはその
役割においてはGEにとって貴重であるが、他者を鼓舞して会社
のために行動を起こさせ、他者をエナジャイズして任務を果たさ
せることができなければ その人はリーダーではない
せることができなければ、その人はリ
ダ ではない、という意
という意
味でした。
ウェルチのコメントは、リーダーシップで大事なのは他者への働
きかけである とをは きりさせています リ ダ の役割で重
きかけであることをはっきりさせています。リーダーの役割で重
要なのは、一個人(専門的には「インディビジュアル・コントリ
ビュータ(チームへの貢献者としての個人)」と称する)として行う
(
貢献者
)」 称す )
行う
仕事ではなく、模範を示したり、鼓舞したりすることによって、もし
くは以下で説明するその他のスキルによって、他者に何をさせる
ことができるかです。リ ダ は言葉や行動で他者を鼓舞するこ
ことができるかです。リーダーは言葉や行動で他者を鼓舞するこ
とができます。
24
④他者の中に、それまで気づかれていなかった能力を見出す
何年か前、米国の山間部にある州の小さな高校の生徒たちが、全米数学コンクールで第二位になりました。
そのメンバーたちは全国各地で要職に就き、立派なキャリアを築くことになりました。彼らがコンクールでみ
ごとな成績をおさめたばかりか、キャリアにおいても優れていたのは、なぜでしょうか。
その答えはある一人の教師のリーダーシップにあります。その小さな町の高校で数学を担当していた教師
です。生徒たちに、「全米数学コンクールでは、ここよりはるかに大きな州の大きな町の大きな高校の生徒も、
お金持ちの子供がいく進学校の生徒も一緒になって競い合う。けれど一生懸命に勉強すれば彼らに勝つこ
とができる」と信じさせたのは彼女でした。生徒の 人は、何年もたった後に当時を振り返りながら 先生は、
とができる」と信じさせたのは彼女でした。生徒の一人は、何年もたった後に当時を振り返りながら「先生は、
私たちが自分でも気付かなかった潜在能力を見出してくれました」といって感謝しています。
これはリーダーのもっとも重要な天賦の資質の一つです。偉大なことを成し遂げようという意欲と、努力すれ
ば成功できるという確信を他者に呼び起こす資質です。リーダーは、自分の能力に自信がないものも力を試
す とが きるように あらゆる機会を与える環境を作り出さなければいけない
すことができるように、あらゆる機会を与える環境を作り出さなければいけない。
このエピソードから、リーダーシップで重要なのはリーダー自信が何を行うかではなく(その教師が数学のコ
ンクールに出場したわけではない)、他者に影響を与えて何をさせるかであることがわかります。この点はい
くら強調してもし過ぎることはありません リ ダ シ プとは他者 の働きかけであ て 自分についての
くら強調してもし過ぎることはありません。リーダーシップとは他者への働きかけであって、自分についての
問題ではありません。リーダーの役目は、他者の潜在的な能力を掘り起こし、コミットメントを促すことです。
知的で、説得力があり、人から好かれるという三つの長所を備えた友人がるとしましょう。ところが彼は何年
間も将来性のない職場を転々とし 無気力に陥っています 仕事がうまくいかないために 自分の能力を疑
間も将来性のない職場を転々とし、無気力に陥っています。仕事がうまくいかないために、自分の能力を疑
い始め、能力不足だから不運なのだと思い込み、(経済的にも)あまり報われることのない単純労働につい
てしまいました。私たちはどうすべきか。リーダーとして、彼が目標に向けて努力するのを助けるべきです。
なぜなら、彼には社会に大きな影響を与える潜在能力があるからです。当然ながら、最終的には彼自身が
思いきる必要があります。しかし彼の才能が、認められることなく、朽ち果てるのをそばで見ているだけでは、
リ ダ としての義務を怠ることになります
リーダーとしての義務を怠ることになります。
25
⑤お互いを支え合う組織文化を根付かせる
リーダーには組織内で正式な役目があるとはかぎらないが(非公式な立場から人を率いることもある)、正
式な役職(企業、政府あるいは非営利団体で)についている場合は、部下が力を発揮できる風土を形成する
ことは、リーダーの重要な役目です。組織における行動の背景となる風土を「文化」と呼びます。努力や物事
の達成を促進するような文化もあります そのような文化があれば リ ダ は組織の目的に向かって部下
の達成を促進するような文化もあります。そのような文化があれば、リーダーは組織の目的に向かって部下
をエナジャイズすることができます。逆に、努力や目標の達成を奨励しない文化は、リーダーの努力に水を
差すことになります。
非建設的な組織文化の 例は、よい成績をとるために
非建設的な組織文化の一例は
よい成績をとるために一生懸命に勉強する生徒をあざけり
生懸命に勉強する生徒をあざけり、からかうような
からかうような
学校であること。本来学習の支えとなるべき文化が機能していないケースです。
それと同じような機能不全に陥った組織文化は、実業界にも存在します。懸命に働き、人より先に進もうとす
る社員をあざけり、からかうだけでなく、恋にその努力を妨害することもあります。できるかぎり健全に機能
する文化を育成することは、リーダーの責任です。その責任は、模範を示すことによって(上司が早く出社し、
遅く退社するのも、そのひとつである)、インセンティブと報酬によって、あるいは健全な文化の足を引っ張る
社員を駆逐することによって、果たすことができます。優れたリーダーがいたときにはうまく機能していた文
化が、リーダーの質が低下すると機能不全になることがあります。それは、かつて米国で最も尊敬され、最
大であった会計事務所 アーサー・アンダーセンで起こった事態でした
大であった会計事務所、ア
サ ・アンダ センで起こった事態でした。同社は100年以上の歴史をもち、そ
同社は100年以上の歴史をもち そ
の間、妥協なきインテグリティ(誠実さ)で評判が高かったのです。ところが2002年、同社は米司法省に司法
妨害の罪で起訴されました。その後、あっという間に同社は瓦解し、約38,000人の社員を失業に追い込み、
消え去りました。
その原因は、誠実さを最重視するリーダーの姿勢が崩れ、社員たちが不正な慣行を受け入れ始めたことに
ありました。アンダーセンで企業倫理に関するコンサルティング業務を率いていたバーバラ・リトー・トフラー
は、「全員がルールを守り、リーダーに従うというのがアンダーセンの文化だった。ルールもリーダーも良質
と誠実さのものであった時代は、この厳格な企業文化こそがアンダーセンの能力と品位を支える柱だった。
ところがリーダーが方向転換すると 服従的な文化ゆえに壊滅が導かれた」
ところがリーダーが方向転換すると、服従的な文化ゆえに壊滅が導かれた」
26
近年、私たちが行った調査の結果から、米国の企業には4つの種類の文化があることが判明しました。
近年
私たちが行った調査の結果から 米国の企業には4つの種類の文化があることが判明しました
z停滞型
zクライシス反応型
z継続的改善型
zエクセレンス追求型
クセ
追求型
それぞれを簡単に説明すると、
「停滞型」の文化のキーワードは、ルーチン、惰性、想像力の欠如、努力不足であり、機の不全に陥ってい
て優れた業績は出せない。
「クライシス反応型」の文化は緊急事態が起こったときにのみ反応するが、それ以外の場合は停滞している。
「継続的改善型」は、日本で誕生した文化を拝借したものである。これは社員全員が、業務の効率と有効性
を着々と少しずつ漸増的に改善していく行動環境です。こういった文化があれば、やがて力が蓄積され優れ
た生産性と業績が達成されます。
四つ目の種類については、数十年前、米国の企業はエクセレント・カンパニーという概念を生みだしました。
「エクセレンスの追求」は、IBMの基盤となる三つの価値観の一つであった(あとの二つは、「個人の尊重」と
「ベスト・サービス」です)。1980年代から1990年代まで、エクセレンスの追求は、米国企業が業績を改善
するためのスロ ガンであり 今日もなお それは続いています リ ダ はエクセレンスの追求をさまざま
するためのスローガンであり、今日もなお、それは続いています。リーダーはエクセレンスの追求をさまざま
な方法で促進するが、業務のあらゆる面でそれを実行している社員に報いることもその一つです。
リーダーは自分の組織の文化を意識し、常にそれを改善する努力をしなければいけません。すでにエクセレ
ンスを達成している場合は、高水準で保つ必要があります。リーダーが意識して文化を形成するか否かに
関わらず、組織文化は常に存在します。しかし会社は社員に何を期待するか、社員はその会社で働くことに
よって何が期待できるかを明確に表現すれば、その組織にうってつけの人材が入社を希望する可能性は高
まります。
27
◆組織文化とともに歩む
どのようなものであれ文化は必ず存在しているので、リーダーはできるかぎりそれを建設的なものにしなけ
どのようなものであれ文化は必ず存在しているので
リ ダ はできるかぎりそれを建設的なものにしなけ
ればいけません。もし組織文化が機能不全に陥っている場合は、ハッキリと変革しなければいけません。文
化として機能している場合は、維持するかそれ以上に改善しなければいけません。組織文化に正面から取
り組む場合は、現状をありのままに把握し、必要とあれば、必ずよい方向に、変える必要があります。
監督者の多くは、前任者から企業文化を受け継ぎ、明確な方向性のないままに放置します。これは大きな
間違いです。なぜなら機能不全に向かっているかもしれないからです。単に停滞していただけとしても、優れ
た組織を構築するチャンスは失われます。
どんな組織にも、主流の文化が存在します。大企業で文化が機能不全に陥っている場合は、善意ある監督
者やリーダーには、非常に難しい環境です。監督者はできるかぎりの対処をするが、リーダーの場合はそれ
だけでは不十分です。
会社全体を任されたリーダーは、問題の企業文化そのものを変革しなければなりません。会社で事業部を
任されたリーダーの場合は、業績改善の支えとなるように、代替文化(言ってみれば「サブカルチャー」であ
る)を形成する努力が必要です。機能不全に陥っている組織の内部に、健全な部署や部門を構築すること
は可能だが、リーダーにとって容易ならざる難題ではあります。
組織文化に関連して、リーダーが陥りやすいワナが二つあります。一つ目は、複雑なミッションやビジョンを
導入することによって、組織文化を混乱させることです。そう言ったミッションやビジョンは、社員を混乱させ
た後で、まったく無視される結果に終わります。リーダーは、全員に一つの単純なミッション(もしくはビジョ
ン)にうちこむことを求めるべきです。それは一般的にいえば
ン)にうちこむことを求めるべきです。それは
般的にいえば、顧客の期待に応えて自分の役割を果たすこ
顧客の期待に応えて自分の役割を果たすこ
とによって、事業を構築することです。
二つ目は、企業案内のスライド・プレゼンテーションや分厚いパンフレットなどに、「完璧な企業」として事実と
反する組織文化を描 うとする とです。 れを行うと、入社した社員は幻滅し、たちまち何もかも 宣伝」通
反する組織文化を描こうとすることです。これを行うと、入社した社員は幻滅し、たちまち何もかも「宣伝」通
りではないことに気づく結果となります。お互いを支え合う文化を育成するためには、文化の実態について
単純かつ正直でなければなりません。
28
■リーダーの5つのスタイル
どこの国でも、その国で主流である社会文化の影響から、リーダーにはある種の
雰囲気があります。リーダーの「スタイル」と呼んでもよいでしょう。主流のスタイ
ル
ル一つではなく、5つのタイプが見られます。それは最も好まれるリーダーの特
ではなく、
のタイ が見られます。それは最も好まれるリ ダ の特
性やスキルから導かれています。
当然ながら、リーダーのパーソナリティによって、これらのスタイルにニュアンス
や陰影が加味されます。状況に応じてスタイルを変えるリーダーもいます。
最も一般的なリーダーのスタイルは、「指令型」です。断固たる行動をとり、ゆる
ぎない決意をもっています。あらゆる人々は、個々のリーダーシップに信を置き、
協議による決定を信用せず、迅速な行動を要求します。そのために決断力があ
るように見えるリーダー 部下に指令し従わせる雰囲気を漂わせる人を求めます
るように見えるリーダー、部下に指令し従わせる雰囲気を漂わせる人を求めます。
「ビジョナリー型」「正統型」「支援型」のスタイルは、指令型ほど一般的ではない
が存在します。起業家はしばしばビジョナリーであり、政治家も同様です。企業が
か社員と投資家に多くのことを約束し 政治家は有権者に多くのことを約束しま
か社員と投資家に多くのことを約束し、政治家は有権者に多くのことを約束しま
す。
大企業の幹部が、正統型のスタイルを採用することがあります。正当であるため
には、高い倫理水準が必要なのです。
5番目の「扇動型」についてひと言加えましょう。私たちは情熱がリーダーの特性
のひとつであることを確認してきました。感情に訴えかける説得力は、ある程度
までリーダーに求められます。ところがそれが行き過ぎて、(少数にせよ多数に
せよ)聞き手を煽 て熱狂状態に追い込むリ ダ もいます
せよ)聞き手を煽って熱狂状態に追い込むリーダーもいます。
29
◆リーダーの5つのスタイル
リーダーのスタイルは主に5つある。
1.
2.
3
3.
4.
5.
指令型:決断力がある
ビジョナリー型:遠い将来の成果を重視する
正統型:倫理的 公平である
正統型:倫理的、公平である
支援型:部下にコーチングを行い、後押しする
先導型:極端な感情表現で他者を興奮させる
30
職場におけるリーダーシップ
■リーダーシップは読んで学べるものではない
リーダーシップは水泳と同じで
リーダーシップは水泳と同じで、
読んで学べるというものではない。
経営学者
ヘンリー・ミンツバーグ
32
■職場におけるリーダーシップ
前述では広義、つまり戦略レベルで重要なリーダーシップの要素を探りました。ここでは狭義、すなわちオ
前述では広義
つまり戦略レベルで重要なリ ダ シップの要素を探りました ここでは狭義 すなわちオ
フィスや工場における実践という運営レベルで重要なリーダーシップ・スキルに焦点を当てます。
企業や官公庁、非営利団体等のかぎられた環境で組織をリードするためには特殊な条件を満たす必要が
あります。前述までの広義のリーダーシップ・スキルを適用することはできるが、それらに運営スキルを補足
しなければ けな 。たとえば ミ
しなければいけない。たとえばコミュニケーションも、戦略レベルと運営レベルでは、相当な違いがあります。
ケ ションも、戦略
ルと運営
ルでは、相当な違 があります。
戦略レベルでは、コミュニケーションの主目的は多数の集団を鼓舞することですが、そこではリーダーへの
フィードバックはほとんど、あるいはまったくありません。啓発的なスピーチの後で質疑応答がかわされるこ
とはめったにありません。大勢の群衆に向かって何らかの形式で話をしたリーダーが、質問攻めにあうこと
はめったにありません。戦略レベルにおけるリーダーから部下へのコミュニケーションは、大勢の聴衆に向
か てのスピ チであ たり ビデオやテレビ番組 もしくはパンフレ トや本などの印刷物を使 たりするこ
かってのスピーチであったり、ビデオやテレビ番組、もしくはパンフレットや本などの印刷物を使ったりするこ
とが多いのです。いずれも一方通行のメッセージという枠から大きく外れることはありません。
しかし運営レベルでは、リーダーは双方向のコミュニケーションを想定し、またそれを奨励しなければならな
いのです。つまり部下にフィードバックを求めるのです。これには理由が二つあります。
1
1.
リ ダ は行動を起こすことを部下に説得しようとしているわけだが 会議が終わった時点でどうも腑
リーダーは行動を起こすことを部下に説得しようとしているわけだが、会議が終わった時点でどうも腑
に落ちないという状態だと、部下を説得することはできません。意義があるならそれを申し立てさせ、
彼らの懸念にきっちりと対応することはリーダーにとって極めて重要です。
2.
部下からの質問や提案を受けることは、指示や計画をさらに練り上げるのに欠かせません。それに
よって、部下は自分の課題をうまく実行する とができます。リ ダ は、自分の課題は何であると理
よって、部下は自分の課題をうまく実行することができます。リーダーは、自分の課題は何であると理
解したかを部下に言わせるといいのです。そうすることによって、彼らが注意深く聞き、十分理解した
かどうかが確認できます。これは戦略レベルのコミュニケーションで行うことではないが、運営レベル
では非常に重要です。
ここでは、運営レベルにおけるリーダーシップを取り上げます。このレベルでリーダーシップを発揮すること
は マネジメントときわめて近いのです 実はこの2つが重なり合う部分は相当多いのです マネ ジャ と
は、マネジメントときわめて近いのです。実はこの2つが重なり合う部分は相当多いのです。マネージャーと
して成功するためには、運営レベルのリーダーシップ・スキルを活用しなければいけません。ただしマネー
ジャーの役割には監督業務が相当に含まれるが、それはリーダーの役割ではありません。
ここで最初に論じるのは、運営レベルにおけるリーダーの4つの目標です。次に運営レベルで重要なスキル
に目を転じます。さらに、 従う者」が部下ではなく上司や同僚である場合、リ ダ の仕事はどのように変
に目を転じます。さらに、「従う者」が部下ではなく上司や同僚である場合、リーダーの仕事はどのように変
わってくるかを考察します。そして最後に、難しいが重要な課題を検討します。リーダーシップ・チーム内では、
どの程度の対立が歓迎される(もしくは許容される)か、という問題です。
33
■運営レベルにおけるリーダーの目標
運営レベルにおけるリーダーの任務は、4つの目標を
達成することができれば、対処しやすくなります。
この目標はAT&Tやフィデリア・インベストメンツなどで
要職を歴任した後 ハーバード・ビジネススクール教
要職を歴任した後、ハ
バ ド ビジネススク ル教
授に転じたゲイル・マクガバンが自己の経験から、お
しみなく学生に教えたものです。
非常に明快な目標ではあるが、リーダーにとっては日
常のルーチンを一歩離れて
常のルーチンを
歩離れて、こうした基本的なゴール
こうした基本的なゴール
に集中するのは容易ではありません。
日々の任務からのプレッシャ で気が散りやすい し
日々の任務からのプレッシャーで気が散りやすい。し
かしこれらに集中できれば、より有能なリーダーにな
れるのです。
れるのです
34
◆運営レベルにおけるリーダーの主な目標
1. ベストな人材を採用する。
2 変化を受け入れることを学ぶ。
2.
変化を受け入れることを学ぶ
3. 圧力を跳ね返す。
4. 組織のためになるか否かを軸に、あらゆる意
思決定を行う。
思決定を行う
(ハーバード・ビジネススクールのゲイル・マクガバン教授の講義から)
35
①ベストな人材を採用する
可能なかぎりベストな人材をひきつけ、定着させ、やる気にさせること。誤った人
材を採用するよりは、欠員のままでもたつきながら業務を全員で負担しなければ
ならないために リ ダ にとって容易なことではありません
ならないために、リーダーにとって容易なことではありません。
大きな組織で誤った人材を採用した場合、通常その解雇には時間もかかれば、
労力もとられます。従業員の解雇は、(双方にとって)精神的な重圧です。このた
め 遅延という代償を払ったとしても 間違った人選はしない方が得策です
め、遅延という代償を払ったとしても、間違った人選はしない方が得策です。
また人材のリスクをとるよりは、業務のリスクをとった方が賢明でもあります。業
務に必要な職務条件を満たしているのだからと信じて、納得できない人材を採用
するよりも、担当業務がうまくこなせないリスクがあろうとも優秀な人材を採用す
べきである。
主要業務への人員を募集するにあたって、職務経験や能力よりも、態度、他のメ
ンバーや自分との関係がどうなりそうかを重視するとよいでしょう。ただし、人選
は きるかぎり相性
はできるかぎり相性のよし悪しに基づいて行いますが、究極の目標は事業の成
基づ
行 ますが 究極
標は事業 成
功であって、友達になれそうな人を選ぶのではなく、うまく一緒に仕事ができそう
な人、部門の効率を高めそうな人材を選択することを忘れないことです。
もし人選を誤り 採用した人物の態度が悪く グル プ内で常に物議をかもし
もし人選を誤り、採用した人物の態度が悪く、グループ内で常に物議をかもし、
鼻つまみ者となった場合は、組織に相当な打撃を与えることになります。グルー
プのこう効率性を後退させ、適材を選ぶことによって組織を前進させるチャンスを
失う
失うことにもなります。
もなります。
36
②変化を受け入れることを学ぶ
企業にとっても官公庁にとっても 頻繁な変化ますます一般的になっています 商品や顧客は変化し 上司も同僚も変わり
企業にとっても官公庁にとっても、頻繁な変化ますます一般的になっています。商品や顧客は変化し、上司も同僚も変わり、
ミッションも変化します。
何もかもが変わりつつあるように思えることもあります。変化をチャンスとして県芸することを学ぶ方が、失敗の前兆として抑
制しようとすることよりはるかにいいです。リーダーの役割は変化に素早く適応することです。すなわち、変化に伴うリスクは
何であるかを見越して最小限に抑えること そして変化がどんな機会につながるかを見通し それを利用すべく迅速に立ち
何であるかを見越して最小限に抑えること、そして変化がどんな機会につながるかを見通し、それを利用すべく迅速に立ち
回ることです。
多くの人は変化を嫌うように思えるが、それはおそらく錯覚です。彼らが嫌うのは見通しが立たないこと。将来の不確実性で
す。だがそれらは素早く正確に対応すれば最小限に抑えることができます。したがってリーダーは、重大な変化が起こったと
きには素早く正確に対応すれば最小限に抑えることができます したが てリ ダ は 重大な変化が起こ たときには素早
きには素早く正確に対応すれば最小限に抑えることができます。したがってリーダーは、重大な変化が起こったときには素早
く軌道を修正しなければいけません。必要とあらば進路を変える心構えをしておくこと。会社にとっての危険と社員にとっての
不確実性を最小限に抑えるために努力しなければいけません。
素早く、効果的に軌道修正を行う能力が発揮された典型的な例を紹介しましょう。数年前、マイクロソフトの創設者にして会
長でもあるビル ゲイツは インタ ネ トの出現は ンピ
長でもあるビル・ゲイツは、インターネットの出現は、コンピュータ産業にとっては重大なことではないといって片付けました。
タ産業にと ては重大なことではないとい て片付けました
そして当初は、インターネット関連の事業には手を出さないことを示唆していました。しかし彼は、その意見に疑問を呈した自
社のエンジニアの言い分に耳を傾け、インターネットに対する急速な消費者の関心の高まりに注目しました。その結果、会社
の進路を大幅に修正しました。前言を完全に翻したのでした。その結果、マイクロソフトはきわめてダイナミックなスケールで
ネット関連の事業に進出したのでした。
だれでもそうしただろう、と思えるかもしれません。だがそれは違います。変化を受け入れることに失敗した企業経営者が引
き起こした事業の失敗談は数かぎりない。彼らは変化を受け入れる代わりに、現在の位置を固守しようとし、迅速かつ効果
的に変化を受け入れたライバルに敗れています。たとえば大規模なシステム構築のためにパソコンがネットワークにリンクさ
れ始めた当初、IBMの重役たちは、それがメインフレームの危機を意味することを求めるのを拒否しました(メインフレームと
は IBMが製造し高マージンで販売していた大型コンピュータです)
は、IBMが製造し高マ
ジンで販売していた大型コンピュ タです)。サ
サーバーを使ったパソコンのネットワークが広く普及し
バ を使ったパソコンのネットワ クが広く普及し、
人気が出たことから面フレームの売り上げが落ちて、多額の損失を被るまで、IBMの幹部が後退させられ、方向性が見直さ
れることはありませんでした。
ディジタル・イクイップメント(DEC) の場合、創設者のケン・オルセンは、あれはおもちゃだと言って、パソコンを彼の会社が製
造していた中型コンピュータのライバルとして認めることを拒否しました DECの対応をあまりに遅れたために 独立した会社
造していた中型コンピュータのライバルとして認めることを拒否しました。DECの対応をあまりに遅れたために、独立した会社
として業界に残ることはできませんでした。DECは今ではヒューレット・パッカードの一部となっています。IBMとDECは、トップ
のリーダーたちが変化を受け入れることを怠った典型的な例です。
37
③圧力を跳ね返す
リーダーはガラス張りの部屋で皆に観察されながら暮らして
リ
ダ はガラス張りの部屋で皆に観察されながら暮らして
いるようなものです。
もし個人的な失敗や事業の痛手を理由に眉をしかめたり、
もし個人的な失敗や事業の痛手を理由に眉をしかめたり
落ち込んだり、かっとなったりしているように見えると、それ
は事業やリーダーのキャリアに問題がある証拠として解釈
されます。
されます
人の口に戸は立てられません。社員の懸念は高まり、生産
性は低下します。
性は低下します
このような望ましくない結果を避けるために、リーダーは失
敗や痛手にあっても
敗や痛手にあってもへこたれず、笑顔を崩さず、将来に楽
たれず、笑顔を崩さず、将来に楽
観的であり続けなければいけません。辛いことを顔に出して
はいけません。
ただしこれは 自体がうまくい ていないときでも 会議では
ただしこれは、自体がうまくいっていないときでも、会議では
バラ色の将来を描くべきだという意味ではありません。それ
でも表向きの顔は常に自信に満ちていな変えればいけない
のです。
38
④組織のためになるか否かを軸に、あらゆる意思決定を行う
一般的にリーダーたちは、会社のためを思ってあらゆる決定を
般的にリ ダ たちは 会社のためを思 てあらゆる決定を
下しているように見えます。しかしちょうどリーダーたちが必ずし
も変化を受け入れるとはかぎらないのと同じように、組織のため
変 を受
う 、組織
になるか否かに基づいて意思決定を行うとはかぎりません。むし
ろ彼らは、他人はその決定をどう思うかなど、さまざまな基準を
軸に決定を下します。だれよりもよく考え抜こうとすることによっ
て、自分をがんじがらめにしてしまうこともあります。こう決定した
ら、このグループやあのグループにどう影響するだろうか、もしこ
れがうまくいかなかったらどうなるだろうか と ところが決定はく
れがうまくいかなかったらどうなるだろうか、と。ところが決定はく
ださなければいけません。しかも何がどう関連するのか、最終的
にどんな結果になりそうかを十分に理解しないままで、素早く判
断せざるを得ないことが多いのです 企業における意思決定は
断せざるを得ないことが多いのです。企業における意思決定は
あまりに不確実な環境でなされるために、リーダーシップとは不
確実性のもとで意志決定を行うこと、と定義する評論家もいるほ
どです。
どです
したがっておそらく最も良いのは、組織に最大限のメリットを約束
すると思われる意思決定を行うことでしょう。社員にそれがわか
れば、リーダーに対する信頼の念を覚えるでしょう。
39
■リーダーにとって重要な4つの能力 ー 運営レベル
会社、官公庁、あるいは非営利団体で、事業部や部門を率いる人、事務所や工場の現場を率いる人が、4
会社
官公庁 あるいは非営利団体で 事業部や部門を率いる人 事務所や工場の現場を率いる人が 4
つの目標を達成することを可能にする運営スキルがいつくかあります。これらは、前に説明したリーダーシッ
プ・スキルとは異なります。それらはより実践的であり、現実的です。
例を挙げて説明しましょう。主な運営スキルの一つは、人材を評価し、適材を選んで採用し、特定のプロジェ
ク
クトや任務に指名できることです。リーダーがこれをうまく行えれば、仕事はかなり楽になり(対処すべき人
任務 指名
る
す。リ ダ
をう 行
、仕事
なり楽 なり(対処す
事問題が減るためである)、ユニットの効率は高まるでしょう(生産性の高い部員が業務を行うことになるた
めである)。
しかしこのスキルは、組織構造がしっかりしていなければあまり役立ちません。たとえば、政治リーダーがス
タッフを選択することは非常に少ないでしょう。その代わりに、通常はボランティアとして働いてくれる人で我
慢しなければいけません。
慢しなければいけません
企業の要職に就任するリーダーは、自分と緊密に働くメンバーの一部を選ぶことができます。しかし大多数
は、リーダーが着任したときにはすでにその職に就いており、そのまま留まります。あるいはリーダー以外の
人が人選を行います。したがって、このように組織の上部では、重要なスキルは必ずしも適材を選ぶことで
はなく、 ナジャイ する能力です。
はなく、エナジャイズする能力です。
広義(戦略レベル)のリーダーシップ・スキルとして重要なのは、以下のものでした。
①
リーダーとしてのビジョンをもつ。
②
模範を示す
模範を示す。
③
他者を鼓舞する。
④
他者のなかに、それまで気づかれていなかった能力を見出す。
⑤
お互いを支え合う組織文化を根付かせる。
ここでは、リーダーが少数の集団とうまく仕事をするためのスキルを取り上げます。広義のスキル、つまり戦
略的スキルは便利な場合もあるが、先に挙げたビジョンや模範、潜在能力の認識、建設的な文化の形成を
通じて、少数の集団を日々鼓舞することを考えることは現実的ではありません。それらはたまに発揮する際
には重要な要素であり 長期的に継続すべき基本的 根本的な条件である(たとえば お互いを支え合う文
には重要な要素であり、長期的に継続すべき基本的、根本的な条件である(たとえば、お互いを支え合う文
化のように)。一方、ここでは短期的に少数の集団に対して成果を上げるためのリーダーシップ・スキルをみ
ていきます。
40
◆運営レベルにおいてリーダーに重要な4つの能力
1.
2
2.
3.
4.
他者をエナジャイズする能力
明確に意思の疎通ができる能力
効果的に聞く能力
他者からの尊敬と信頼を勝ちとる能力
41
①他者をエナジャイズする能力
エナジャイズする能力はリ ダ に欠かせません。このスキルは、これと関連するマネ
エナジャイズする能力はリーダーに欠かせません
このスキルは これと関連するマネージャーのスキルとは微妙に異なり
ジャ のスキルとは微妙に異なり
ます。マネージャーに必要なスキルは、部下のへのモチベーション能力です。ここでは重要なリーダーシップのスキルの一つ、
エナジャイズする方法を検討していきます。モチベーションとの違いはなんでしょうか。
モチベーションとは、会社の人事制度を通じてマネージャーが利用できるツールを使うことによって、部下に自分の仕事を良
くさせることです 報酬 表彰 昇進の機会といったポジティブな要素と 懲罰や解雇といったネガティブな要素を使って社員
くさせることです。報酬、表彰、昇進の機会といったポジティブな要素と、懲罰や解雇といったネガティブな要素を使って社員
の行動に影響を与えることです。
エナジャイズは、もっと感情的なことです。それは個人の、あるいはチームのコミットメント形成です。それは、他者を鼓舞する
ことだけには留まりません。なぜなら運営レベルでは、他者を鼓舞するだけでなく、行動が伴わなければならないからです。
他者を鼓舞することができるリ ダ の多くは 部下のもとに留まって自分のメッセ ジに実体を与えることはしません たと
他者を鼓舞することができるリーダーの多くは、部下のもとに留まって自分のメッセージに実体を与えることはしません。たと
えば啓発的なスピーチをするように頼まれた講演者が、会社に残って自分のメッセージを行動で示すことはありません。とこ
ろがリーダーが、この講演者と同じように自分のメッセージを伝えた後で消えてしまったら、部下の目には偽善者だと映るで
しょう。ビジョンと雄弁さで人々を鼓舞することはできても、そのビジョンを実現するのに必要な困難な作業に取り組むことに
尻込みしているように見えるからです。
運営レベルでは、リーダーは壮大なアイデアを呈示することによってではなく、アイデアを実らせるためには一緒の苦労する
ことをいとわないと言いう姿勢によって部下をエナジャイズします。あるホテル・チェーンのCEOは、一年に一度、何日間かレ
セプションに立って、ホテルに入ってくる客に挨拶します。ベルキャプテンとして働くこともあります。格安運賃の航空会社
ジェットブルーのCEOは、スチュワーデスと一緒になって乗客に食事や飲み物を配ることがあります。すると社員や顧客から
多大な反応が得られています。ドナルド・トランプは
多大な反応が得られています。ドナルド
トランプは、パ
パームビーチにある自分のクラブ
ムビ チにある自分のクラブ、マララ
マララーゴでしばしばメンバーととも
ゴでしばしばメンバ ととも
に夕食をします。テーブルからテーブルを回って、顧客に挨拶をします。
従業員とともに第一線に出て顧客と対話をもつことは、リーダーがその業務に携わる者と、サービスを受ける者を尊重してい
ることを示す一つの方法です。その上、平社員から幹部まで、そして顧客からもよいアイディアを吸い上げることができます。
社員を尊重し 一緒になって働くことを厭わないリーダーだと感じれば
社員を尊重し、
緒になって働くことを厭わないリ ダ だと感じれば、だれもが喜んでリ
だれもが喜んでリーダーとアイデア交換を行います。
ダ とアイデア交換を行います。
部門をエナジャイズすることは、リーダーがその部門に態度もよく有能な人材を配属させることができていれば、一層簡単に
なります。他者の強みと弱みを素早く評価できる能力は貴重なリーダーシップ・スキルです。
この能力は主に経験によって培われます。履歴書から、成功するとしたら何か、失敗するとしたら何かが読み取れるようにな
ることです 公募者の本当の個性と能力が出てくるように面接を行うこと 欠点を見抜くために性格テストや適性テストを利用
ることです。公募者の本当の個性と能力が出てくるように面接を行うこと。欠点を見抜くために性格テストや適性テストを利用
することです。通常は、多くの失敗を重ねて教訓を得られます。しかしリーダーが人材評価のエキスパートになれば、このス
キルのおかげで最も優秀な人材で自分の周りを固めることができ、いろいろな面でリーダーシップを発揮しやすくなります。
42
②明確な意思疎通を行う能力
人を鼓舞するためには、意志を疎通させる必要があります。そのため戦略レベルにおけるコミュニケーション能力で必要なの
人を鼓舞するためには
意志を疎通させる必要があります そのため戦略レベルにおける ミ
ケ シ ン能力で必要なの
は、他者を鼓舞できるかどうかです。運営レベルのコミュニケーションで重要なのは、明確さです。部下が自分は何を期待さ
れているのか、何をすることになっているのか、大きな枠組みの中で自分はどこに当てはまるのか、もし物事が悪い方向に
進み、何かを変える必要が出てきたらどうなるのかを理解できるようにすることです。
興味深いことに、広義(戦略レベル)のコミュニケーションにおいては、明確さはそれほど必要ではありません。啓発的なコ
ミ ニケ ションには 明確さが欠けていることが多いのです それは気持ちを揺り動かすものであるが(だからこそ人を鼓舞
ミュニケーションには、明確さが欠けていることが多いのです。それは気持ちを揺り動かすものであるが(だからこそ人を鼓舞
できる)、自己矛盾し、混乱し、一貫性に欠けることが多いのです。
たとえば啓発的なスピーチの内容を注意して読むと、インパクトはあるが、明確であるのは稀であることに気づくでしょう。し
たがってコミュニケーションの役割は、人を鼓舞するための手段である場合と、明確にするための手段である場合とでは非
常に異なります。
明確な ミ ニケ シ ンができれば リ ダ は理解され 行動 の合意を取り付けることもできるでしょう リ ダ が
明確なコミュニケーションができれば、リーダーは理解され、行動への合意を取り付けることもできるでしょう。リーダーが、一
緒に働く社員が発言の意味と方向性を良く理解するように要点を明確に伝えられない場合は、効果的に組織をリードするこ
とは出来そうもありません。もし自分のアイデアを明確に表現することができなければ、そのアイデアはそれ独自では意味が
ありません。究極的には、中身を伴わないスタイルは見破られが、中身だけでスタイル(言い換えれば、注意を引き、発言に
耳を傾けてしたがうように説得する能力)を伴わない場合も、成功しないでしょう。
ここでは組織の運営レベルにおけるコミュニケ ションを中心にしているが 組織の才上層部であっても コミュニケ ション
ここでは組織の運営レベルにおけるコミュニケーションを中心にしているが、組織の才上層部であっても、コミュニケーション
の明確さと単純さは欠かせないスキルです。レーガン、マーガレット・サッチャー、ビル・クリントンは、コミュニケーション・スキ
ルを強みとした有能な政治的リーダーである。
コミュニケーションはさまざまな人々との間で行われます。多様な聴衆に最も適しているのは、どんなスタイルのコミュニケー
ションでしょうか。その答えは国によって異なるでしょう。米甲で尊重されるのは、率直さですが、それ以外の国ではそれほど
重要視されません 米国で最も効果的なスタイルは おそらく率直で正直にみえ それが適切であれば過ちや弱みを認め
重要視されません。米国で最も効果的なスタイルは、おそらく率直で正直にみえ、それが適切であれば過ちや弱みを認め、
ときにユーモアを交えたものです。リーダーが「普通のやつ」だという印象を与え、聴衆を友人であるように扱い、話をすれば、
メッセージは理解され、受け入れられぬ可能性は高くなります。
顧客や取引先とのコミュニケーションでは、リーダーは、過度に賢く見せようとするよりも、率直である方がより多くの情報が
得られます。機知(ウィット)や専門用語の知識で相手を出し抜こうとすると、通常は、惨憺たる結果に終わります。逆に、リ
ラックスして謙虚なアプロ チをとることによって、相手をくつろがせ、受け入れてもらいやすくなります。
ラックスして謙虚なアプローチをとることによって、相手をくつろがせ、受け入れてもらいやすくなります。
人はだれかが気に入れば、その人をリーダーとして受け入れやすくなります。このスタイルのコミュニケーションはどこへいっ
ても有効です。なぜなら相手に信頼を抱かせ、そうすることによって、リーダーのメッセージに対する抵抗感をさげるからです。
しかし組織は多様であり、よってコミュニケーションのスタイルもさまざまなのです。たとえばオープンさ、正直さ、ユーモアは
多くの状況で有効ですが、コミュニケーションが「洗練され」、フォーマルであることをきわめて重視する専門サービス(たとえ
ば証券会社 投資銀行)のような分野もあります こういった分野のリーダーは
ば証券会社、投資銀行)のような分野もあります。こういった分野のリ
ダ は、プロとしての体裁の方がはるかに大事であ
プロとしての体裁の方がはるかに大事であ
り、正直さやあけっぴろげな性格はそれほど求められません。こうした環境で最も有効なコミュニケーション・スタイルは、状
況に合わせてフォーマルなものでしょう。
43
多くの国において、好まれるコミュニケーション・スタイルは、女性と男性とでは異なると考
える人々もいます。しかしおそらくそれはあまり該当しないことだと言えます。たとえばある
女性企業幹部が、さまざまな会社の中間管理者と専門家からなり、(人種、性別、国籍、
職業経験の種類などの点で)多様な数百人の聴衆に向かって話をしました 彼女は俊治
職業経験の種類などの点で)多様な数百人の聴衆に向かって話をしました。彼女は俊治
にして、彼らのほぼ全員からリーダーであると認識されました。彼女のスタイルに関して寄
せられたコメントは以下のようなものです。
z彼女の話は明確で整理されており、相当入り組んだ問題を5つの要点にうまく絞り込ん
でいました
z彼女は、知り合いからも、初対面の人からも好かれやすいという素晴らしい資質をもって
います。直接相手の目をみて話すことによって話すことによって気持ちを通じさせ、人の発
言にしっかりと耳を傾けます。非常に自信のある女性だという とがわかります。聴衆に自
言にしっかりと耳を傾けます。非常に自信のある女性だということがわかります。聴衆に自
分の発言をしっかりと受け止めてもらいたがっています
zコミュニケーション・スキルのおかげで、彼女には非常に親近感がもてます。それは一緒
に働く人々が彼女に信頼を抱き、理解するようになるのに役立っています
一般的にこのリーダーが示した明確さと単純さは、見知らぬ聴衆に話しかける際にきわめ
般的にこのリ ダ が示した明確さと単純さは 見知らぬ聴衆に話しかける際にきわめ
て重要です。しかし、それは管理階層が何層もある大型組織で、大幅な変革を迅速に行
おうとするときにも重要です。しかし、それは管理階層が何層もある大型組織で、大幅な
変革を迅速に行おうとするときにも重要です。このような効果的なコミュニケーション・スタ
イルに関して女性 男性の違いはほとんどないようです 上記のようなスキルが発揮され
イルに関して女性・男性の違いはほとんどないようです。上記のようなスキルが発揮され
れば、話者が男性だったとしても、同様に好意的な反応を得たでしょう。
こうしたコミュニケーション・スキルはリーダーが組織全体の方向性を変えさせようとすると
きには必須です。それが欠如していると、組織の進路を変えさせようとする際に、無駄に
時間がくわれ、効率性を損ないます。
44
③効果的に聞く能力
効果的な双方向のコミュニケーションは運営レベルにおいては不可欠です。そのためリー
ダーは、聞き手としても優れていなければいけません。それは多くのリーダーに欠落して
いる過小評価されたスキルです。
効果的なリスニングを行うためには 聞いていることに集中しなければいけません 私た
効果的なリスニングを行うためには、聞いていることに集中しなければいけません。私た
ちの多くはこれがうまくできません。次に自分は何を言おうかということの方に気をとられ
て、次に話すつもりのトピックのきっかけを逃さない程度にしか人の話を聞いていません。
相手が何を言わんとしているのかを本気で考えるよりは、議論に勝つために人の話を聞
きます。
きます
質問を受けると、実際に訪ねていることを良く聞かないで、標準的な答えをする悪い癖が
ある人も多いのです。そのうえ、この標準的な答えというのが非常に長いモノなのです。き
まりきったことを長々と話し、質問に直接答えていない回答は聴衆をイライラさせ、話し手
に対する関心を失わせる結果となります。人の話を聞かず、機械的な回答を行うリーダー
ず
械
答
ダ
は信用を失います。
人々がどのように話すかに注意を払うことも重要です。つまり話しているときの顔の表情、
声の抑揚 ボディ・ランゲージです。くつろいでいるでしょうか
声の抑揚、ボディ
ランゲ ジです。くつろいでいるでしょうか、それとも落ち着かず、そわ
それとも落ち着かず そわ
そわしているだろうか(これは、言っていることが真実ではない可能性を示唆している)。話
し相手から目をそらしているか(視線を合わせると、言っていることが偽りであることがば
れてしまうかのようだ)。
どのような聞き方をしようと われわれは感知したことすべて 耳に入 た言葉 声の抑揚
どのような聞き方をしようと、われわれは感知したことすべて、耳に入った言葉、声の抑揚、
顔の表情、アイコンタクトもしくはその欠如、ボディ・ランゲージ、そして何より重要なことは、
発言されなかったことから意味を構築します。
優れた聞き手は、相手が話さなかったことをはっきりと聞き取ります。もし相手が見込客で、
製品については話すが、それを購入することにはまったく触れないのであれば、それ自体
に重要な意味があります。おそらく実際に発言した内容よりも重要です。
45
ある有名なビジネススクールに講師が招かれました。彼女はある会社の創設者でした。講義は質疑応答の
形式をとり、彼女は自分のキャリア、家族、野心、受けた教育、リーダーシップのスタイルに関して、2時間に
わたって質問に答えました。ところが、彼女が母国で非民主的な政府に反対する学生運動の著名なリー
ダーであったころのエピソードにはまったく触れませんでした。学生がそのことについて質問をすると、彼女
は話題を変えたのでした。
講義のあとで一部の学生は、その問題を話し合うことを拒否されたことによって、彼女にごまかされた気が
すると文句を言いました。別の学生たちは、拒否したこと自体が、非常に雄弁に何かを物語っているではな
いか、と指摘しました。
彼らにとっては、彼女は意図的に過去のある時期を葬って前に進み、新しい人生に集中している とを示し
彼らにとっては、彼女は意図的に過去のある時期を葬って前に進み、新しい人生に集中していることを示し
ていました。彼女が口にしなかったことは、発言したことと同様に重い意味がありました。彼らは彼女が言わ
なかったことを注意して聞きとったのだった。
言わなかったことを聞き取ることは、リスニングの高等技術である。そのためには頭と創造力を使う必要が
あります。つまり実際の言葉を聞くことよりもはるかにアクティブなリスニングの形式です。どんなことを聞くこ
とになりそうかを把握していないかぎり 何に対して口を閉ざしているかを判別することはできません
とになりそうかを把握していないかぎり、何に対して口を閉ざしているかを判別することはできません。
この講義に出席した学生の多くは、過去の政治的な体験について彼女が話さなかったことを聞き取ることは
できませんでした。前もって彼女の経歴を調べておかなかったために、よく知られた事件に深くかかわってい
たことに気づかなかったからです。十分な準備ができていなかったために、彼女の話の中で最も興味深い
部分(彼女が黙っていようと決めた部分)を聞き取ることができなかったのです。
効果的な聞き方をするためには、相手に合う前やプレゼンテーションを聞きに行く前に時間を割いて、何を
聞くことになりそうかメモをとるとよいのです。こうした話題が出てこなかったら、そこから学ぶところは大きい
のです。人々がどのようにして質問をかわしたり、重要な話題を無視したりするかがわかるようになるだろう。
そしてそこから窺い知れることは多い。
このリスニングの形式を批判する人々もいます。彼らの言い分は、「相手が言わなかったことを聞き取るた
めには、これこれを言うことになっているはずだという前提に立たなければいけません。そしてそれに触れな
かった場合は、なぜなのかを推測します。自分の憶測が正しいと、どうしてわかるのだろうか」というもので
す。
わからないことが多い というのがその答えです しかし少なくともなぜそれに触れられなかったのかを自問
わからないことが多い、というのがその答えです。しかし少なくともなぜそれに触れられなかったのかを自問
し、その答えを探ったために、より多くのことを知ることができる。しかし批判する側にも一理はあります。話
を聞いていた相手について推測する際は、客観的であることが重要です。
46
夫婦で会社を経営しているカップルが、新聞記者たちからインタビューを受けました。記者の一人がこう質問
夫婦で会社を経営しているカ
プルが 新聞記者たちからインタビ
を受けました 記者の 人がこう質問
しました。「お二人は仕事を家に持ち帰ることはありますか?」
妻は「仕事は仕事場に残して、家庭では子供たちに専念することは重要です」と答え、夫の方もそうだとうな
ずきました。そこで質問は別の話題に移った。
あとになって二人の記者が 緒に記事をまとめているときに
あとになって二人の記者が一緒に記事をまとめているときに、一人が「あの二人、家に仕事を持ちかるかど
人が「あの二人 家に仕事を持ちかるかど
うかと聞かれて、その質問をかわしたでしょう。とてもおもしろいと思ったわ」と感想を述べました。
「それはどういう意味だい」ともう一人の記者がたずねました。「彼女は、仕事は仕事場に残すのが大事だと
答えただろう。ほら、ここにメモしてある」
「そうなの 私も彼女がそういったのを聞いたわ」と最初の記者は答えた 「で 夫もうなずいたわよね だけ
「そうなの。私も彼女がそういったのを聞いたわ」と最初の記者は答えた。「で、夫もうなずいたわよね。だけ
どそれは私の質問に対する直接の答えじゃなかった。私は、家に仕事を持ち帰りますか、と聞いたのよ。そ
うすべきかどうかを聞いたのではなくてね。彼らがその質問をかわしたので、おそらく仕事上の問題を家に
持ち込んでいるのだろう、と私は思うの。そうすべきではないと考えているらしいけれどね。それだけではなく
て、たぶん仕事の問題を家に持ち帰ることが問題になっているのじゃないかな」
「
「おいおい、それはかなりうがった見方じゃないかい」と片割れが聞いた。「仕事のことが家で問題になってい
れ
な うが
方
な
片割れが
「仕事
が家
な
るなんて、ひと言も言わなかったよ」
「わかってるわ」と最初の記者は言いました。「だけど、問題になっていないとも言わなかったでしょう。それ
が本当なら、そういっていたはずよ。私が聞いたのはまさにその点だったのよ」
最初の記者のアクテ ブ リスニング(言われたことだけでなく言われなか たことも聞きと たこと)は行き過
最初の記者のアクティブ・リスニング(言われたことだけでなく言われなかったことも聞きとったこと)は行き過
ぎでしょうか。それは一部には、最初の記者が何をしていたかにもよる。彼女は単に空想していた −つまり
誰かの言葉を使って自分が聞きたいことをでっち上げた− わけではありません。彼女は発言の内容に客
観的であろうとしていたのです(ただし、当然ながら誤解していた可能性もあります)。
米国社会ではコミュニケーションは率直であるべきだとされています
米国社会ではコミュニケ
ションは率直であるべきだとされています。それは米国文化の
それは米国文化の一部です
部です。われわ
われわ
れは、人が実際に考えていることを話すことを期待します。たとえそれが彼らやわれわれにとって決まりの
悪いことであってもです。礼儀正しさは期待するが、率直でない態度は予想外です。しかし多くの国ではそう
ではありません。率直さが失礼とされる文化もあります。そのため、何を言ったかではなく、何を意味してい
るのかを常に「聞く」必要があります。米国以外の国の出身者の話を聞くことを練習する方法は、言われたこ
とだけでなく 言われなかったことに耳を傾けることです
とだけでなく、言われなかったことに耳を傾けることです。
アクティブ・リスニングで大事なのは、人々が言ったことをはっきりと聞き取ることと、言わなかったことを認識
することです。それはリーダーにとって、またリーダーを指向する人にとって非常に重要な能力です。
47
④尊敬と信頼を勝ちとる能力
運営レベルのリーダーは頻繁に部下と接触します。彼らが部下の尊敬と信頼を得ること
は極めて重要です。ビジョンを示して鼓舞するだけでは十分ではありません。正しい方向
に人々を導くスキルがあることを示し、この人のもとであればうまくいくという信頼感を育て
なければいけません。
なければいけません
部下に能力を発揮させるためには、成功したい、直接の報酬のためだけでなく、リーダー
への敬意を示すためにも成功したい、と望むようにさせることです。ある意味では、リー
ダ に求められる資質はどれも、この不可欠な尊敬を集めるのに必要な要素です。相互
ダーに求められる資質はどれも、この不可欠な尊敬を集めるのに必要な要素です。相互
の尊敬があれば、お互いに結びつき、個々の能力以上のものが発揮できるようになりま
す。
尊敬されるより好かれたいと思うのは、リーダー志願者の多くの欠点です。彼らは、好か
れれば安心して仲間の 部になれると考えます 確かに誰でも人から受け入れられたい
れれば安心して仲間の一部になれると考えます。確かに誰でも人から受け入れられたい、
仲間になりたいと望みます。しかしリーダーは仲間に入るために存在するのではありませ
ん。リーダーは集団の一部ではありません。
リーダーが成功するために望み、必要とするものは尊敬です。自分自身に対しての、そし
てリーダーとしての役割に対する尊敬です。尊敬は、リーダーの特性
ダ
役割 対する尊敬 す 尊敬
ダ
特性 −情熱、決断力、
情熱 決 力
確信、インテグリティ(誠実さ)、適応力、強靭な精神、共感、自覚、謙虚さー によって、そ
してこの特性によって導かれる成功によって、勝ちとることができます。
ここまで、いくつかのリストをあげました。リ ダ シップの基盤、リ ダ の特性、リ
ここまで、いくつかのリストをあげました。リーダーシップの基盤、リーダーの特性、リー
ダーシップ・スキル、スタイル、運営レベルにおけるリーダーの重要な活動と能力です。こ
れらはリーダーシップのあらゆる側面を網羅したものですが、別の切り口からまとめること
もできます。リーダーの特性の一部は、スキルとして考えることもできます。したがって、分
類した大まかなカテゴリーではなく
類した大まかなカテゴリ
ではなく、リ
リーダーシップの様々な要素を習得することが大事で
ダ シップの様々な要素を習得することが大事で
す。
48
他のリーダーとのパートナーシップ
■一緒に働ければ、成功
一緒になれば、第一歩。
一緒であり続ければ、進歩。
一緒に働ければ、成功。
緒に働ければ 成功
米国の実業家
ヘンリー・フォード
50
米国人は、リーダーシップは一個人が発揮するものとして
捉える傾向があります。米国にはリ ダ が 人います。
捉える傾向があります。米国にはリーダーが一人います。
大統領です。会社にはリーダーが一人います。CEO(最高経
営責任者)です。部門にはマネージャーが一人います。そ
のため、複数のリーダーがいると、物事がなかなか決まらな
た
複数
ダ が る 物事がな な 決ま な
いのではないか、その結果失敗につながるのではないかと
の危惧から 疑いの目を向けられます
の危惧から、疑いの目を向けられます。
しかし、だれもがこういう態度をとるわけではありません。欧
州の人々は合議制のリーダーシップの方を好むことが多い
のです。つまり政府の長や会社のCEOが上層部の一員とし
て協議し、共同で重要な決定に当たるやり方です。 方、日
て協議し、共同で重要な決定に当たるやり方です。一方、日
本人はコンセンサスを得て、それに基づいて行動するため
に、組織の多くのものとの協議がすむまではリーダーが決
定を下さないことを好みます。
定を下さないことを好みます
51
■共同リーダー
米国人は、共同リーダーやコンセンサス(複数の人の合意)形式
にメリットがある場合もあることを認識しているので、米国のリー
ダ たちは協力してくれるパ トナ を求めます たとえば いく
ダーたちは協力してくれるパートナーを求めます。たとえば、いく
つかの組織が協力し合う重要なプロジェクトでは、リーダーたち
はパートナーとして一緒に働かなければいけません。またリー
ダ が 自分には限界あるいは弱点があると認識して 自分の
ダーが、自分には限界あるいは弱点があると認識して、自分の
スキルに欠けているものを補完できるパートナーを求める場合も
あります。
いずれの場合もリーダーは、リーダーの座についているパート
ナーを求めます。こういった形の提携は、各リーダーの業務のす
べてには適応されないことが多いために 何に適応され 何には
べてには適応されないことが多いために、何に適応され、何には
適応されないのかを明確にしておくことは重要です。
成功の秘訣として最も重要なのは、適切なパートナーをみつけ
る とと そ パ トナ と 緒 働く
ることと、そのパートナーと一緒に働くのに最も適した方法を探り
最も適 た方法を探り
当てることです。有能なパートナーを見つけることは、一般的に
みられる非公式な関係でも、企業提携や結婚のよう 公式なも
みられる非公式な関係でも、企業提携や結婚のように公式なも
のでも重要です。
52
■パートナーをみつける
パートナーを探す方法はいくつかあります。どれを選ぶかは、ほぼわれわ
れの性格次第です。
たとえば自分が好きな相手を選ぶ人もいるでしょう 自分とよく似ていて
たとえば自分が好きな相手を選ぶ人もいるでしょう。自分とよく似ていて、
まったく同じように行動するだろうと確信できる相手を探します。自分の弱
みはあいての強みというように、補完的な相手を求める場合もあります。
われわれはパ トナ に何を望むのか。われわれが必要とするのはこん
われわれはパートナーに何を望むのか。われわれが必要とするのはこん
な人です。
z価値観が等しい
z同じ方法で成功を評価する
z同じ方法でパートナーシップを見る
zわれわれが支持している倫理観に同意する
zパートナーシップに期待するものが等しい。これにはいつどのようにそ
の関係を終えるかも含まれる。
う
点を 視す
次
す。
こういった点を重視するのは次の2つからです。
第一に、関係が損なわれたり、意思決定ができずに身動きが取れなくな
るような、パートナーとの紛争を避けるためです。
第二に 重要な事項で合意できない場合に 予想外の不快な事態が発
第二に、重要な事項で合意できない場合に、予想外の不快な事態が発
生することを避けるためです。
53
■パートナー候補を評価する
パートナー候補がこういった基準に合致するか否かは、次の方法で明ら
かにすることができます。
‹長時間 共に過ごす
‹長時間、共に過ごす
ゆっくり一歩一歩段階を踏んで、問題にも遭遇しつつ、できるだけ長期間
にわたって体験から学んでいきます。パートナー候補たちは、夜の海を航
海する二隻の船のようなものです ある地点で両社は接近します しかし
海する二隻の船のようなものです。ある地点で両社は接近します。しかし
別の方向に向かっているのかもしれません。行く先を見てみましょう。こ
の二人は同じ方向に並行して向かっているのか、それとも反対方向に向
かっているのか。
‹意見の相違は早期に、隠さず話しあって、折り合いをつける
話し合いの過程は二人の価値観をはっきりさせるのに役立ちます。各々、
何を重視しているのか たとえば営利企業の場合 一人が売上を重視し
何を重視しているのか。たとえば営利企業の場合、
人が売上を重視し、
もう一人は利益を重視している場合、どうするのか。これによって、二人
のリーダーの間に驚くほど大きなギャップがあることが判明します。
成長重視の人は費用が予算を超過しても企業を経営しようとする(将来
の発展のための先行投資です)。一方、利益志向の人間はぎりぎりまで
コストを削ってできるだけ利益を上げようとします。パートナー候補と、こ
のどちら、成長か利益か、が重要かで合意できなければ、将来、大問題
、成長 利
、
要
合
、将来、大問題
が
が待ち受けていることの兆しです。
54
‹目的を話し合う
各々はどんな種類の組織を望むでしょうか。どんな種類の社員を望むでしょうか。組織と社員の関係はどうでしょうか。人々
はさまざまな基準でパートナーを選びます。
z好み
z補完的なスキル
z経験
z称賛
z尊敬
z共通の関心
z外見
z家族のコネ
z社会的な地位
z富
z(民族的、宗教的)コミュニティ
しかし基準が何であるにせよ、結局相容れなかったという顛末を避けるためにここで説明したステップを常に踏まなければい
けません。
おそらく最も多く使われる基準は、相手が好ましいかどうかでしょう。パートナー候補に会うために出向き、好きかどうかを判
断します。好ましければ、パートナーシップについての話を進めることができます。好ましくないなら、そこまでのことです。
しかし、ビジネス・パートナーを選ぶための根拠として、好き嫌いはどの程度信頼できるのでしょうか。補完的なスキルや称
ビジ
パ
を
根拠
き嫌
ど 程度信頼 き
う
補完的な
称
賛、尊敬の念、その他の前述の基準は、好き嫌いを判断した後ではなく、同時に役立てるべきではないのでしょうか。
企業や非営利団体をリードする立場にあるパートナーたちは、以下のようであろうと考えたくなります。
z目標を注意して一致させている。
zそれらを達成冴える方法に合意している。
z同じ価値観を持つことを確認している。
目標に関して合意していることは、どんなパートナーシップを成功させるためにも必須の条件であることは疑問の余地があり
ません。しかしどのように物事を行うかに いての合意や同様な価値観を持っている とより重要なのは、手法や価値観の
ません。しかしどのように物事を行うかについての合意や同様な価値観を持っていることより重要なのは、手法や価値観の
違いはあっても、お互いを尊重することかもしれません。
友人がパートナーになった場合のことを想像して、パートナー探しにおいて、相手に対する好き嫌いをどの程度重視すべき
かを探ってみましょう。
55
■パートナーとしての友人
ビジネス・パートナーを探し始めた場合、当然最初に目をつけるのは友人
たちでしょう。実は、友人同士で事業を一緒に始めようとか、一緒にプロ
ジェクトのリーダーになろうと相談することは多いのです。自分がよく知っ
ていて、信頼もしている誰かをパートナーにすることは合理的だと思えま
す。しかし一緒に働くと、人間関係の力学はどう変わるでしょうか。友人と
はすでに個人的な絆ができています。事業で意見が対立したら、友情に
ひびがはいるのだろうか プ ジ クトで 友人が犠牲になる恐れもある
ひびがはいるのだろうか。プロジェクトで、友人が犠牲になる恐れもある
厳しい決断が下せるだろうか。
友人と一緒に働いた経験がある人は多いでしょう。素晴らしい経験になる
場合もあります 友人同士なら急速時に ポ
場合もあります。友人同士なら急速時にスポーツや、別の友人、夜遊び
や 別 友人 夜遊び
など、共通の関心ごとについておしゃべりができます。その反面、パート
ナーになったのは仕事のためなので、何時に出社するか、私用で長電話
を何回するか 何回不注意なミスをするのかなど あいての行動に極端
を何回するか、何回不注意なミスをするのかなど、あいての行動に極端
に敏感になることもあります。
会社の初期段階においては友人関係が役に立つこともあります。会社が
メキメキと発展している段階であれば 背景や興味 経験が似通 ている
メキメキと発展している段階であれば、背景や興味、経験が似通っている
友人同士なら、業務がスピードアップすることさえあるでしょう。しかし会
社が成熟段階に達すると、多様性の方がずっと重要になり、友人は、助
言を仰いで最善の結果を得ようとするのに最適な相手ではなくなるかもし
れません。
56
◆友人がパートナーである場合の問題
新事業の規模に関わらず、友人をパートナーとすることに
絡む
絡むリスクは、そのメリットを上回ると考える人は多くいます。
クは そ
を上 ると考 る人は多く ます
友人とのやりとりで客観的であり続けるのは極めて難しい
のです。事業から自分の友人を外す必要が出てきた場合
のことを考えてみるとよいでしょう。ゆうじんだからこそストレ
スは増えます。友人をパートナーにする場合のコツは、自分
の客観性を努力して維持し 友人だからとい て業務上の
の客観性を努力して維持し、友人だからといって業務上の
判断を変えないことです。理論的には簡単ですが、いざ実
す
難
す。
行するのは難しいことです。
友人がパートナーである場合、事業やプロジェクトの問題に
ついてはオープンで正直であるのがいちばんです。そして、
違う意見を発言するときは 極端に丁寧すぎたり かとい
違う意見を発言するときは、極端に丁寧すぎたり、かといっ
て、ズケズケし過ぎないように注意することです。意見の相
違は包み隠さず話しあうのが 番です。また、友人からの
違は包み隠さず話しあうのが一番です。また、友人からの
批判はありがたく傾聴すべきなのです。
57
◆友情のリスク
ある人が会社を設立し、CEOの座に就きました。そして友人に取締役会の
メンバーになってくれないかとお願いしました。その友人は依頼を受け入
れながら、「取締役会で反対票を入れるかもしれないぞ」とCEOに警告しま
した そんな とは起 りそうもな と思
した。そんなことは起こりそうもないと思って、二人は笑いました。
人は笑 ました
しかし、残念ながら、予想もしていなかったときに倫理的な問題が発生す
ることもあることを彼らは学ぶ羽目に陥りました。というのも、しばらくして
会社 敵対的 収 標的 な た
会社は敵対的買収の標的になったのでした。CEOはこれを阻止して、株
た
れを阻
株
価は暴落しました。取締役会は、買収提案を拒否することではなく、対抗
入札者を探すのが最善策であると考えました。
CEOは激怒しました。会社が売られてしまったら自分は首だからです。ど
んな株価を提示されようと誰にも売る意志はありませんでした。CEOの機
嫌を損ねるのを避けるために、友人は他の取締役たちの意見に逆らい、
自分の良識にも背いて
自分の良識にも背いて、CEOの意見に賛成票を投じました。これは違法
の意見に賛成票を投じました これは違法
である。彼の責任は会社の株主に対してあるのであって、CEOに対してで
はないからです。友情は客観的な事業判断を曇らせました。
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■リーダーシップ・チームの建設的な緊張感
ほとんどの人はパートナーという言葉を聞くと、関係は良好で、親しくすらあると想像します。それに関わる人々も意見や態
ほとんどの人はパ
トナ という言葉を聞くと 関係は良好で 親しくすらあると想像します それに関わる人々も意見や態
度を同じくし、ほぼ同じように考えるのではないかとも推測します。それに関わる人々も意見や態度を同じくし、ほぼ同じよう
に考えるのではないかとも推測します。ある大型の企業提携において、最上部の執行委員会で意見の不一致はないのかと
尋ねられたCEOは、「意見の対立などはありません。全員が事業を理解し、同じ考え方をしますから」とコメントしました。
しかしパートナー間の調和は、多大な代償を伴うこともあります。組織では、リーダーが気の置けない知り合いを集める危険、
そしてその集団が「グループシンク(集団浅慮)」という有害な状況に陥る危険がある こういった集団は リーダーの考えに
そしてその集団が「グループシンク(集団浅慮)」という有害な状況に陥る危険がある。こういった集団は、リーダーの考えに
疑問を呈することはなく、何を言われても、どんな行動を提案されても必ずリーダーをもちあげます。
こういった状況における組織にとっての危険とは何でしょう。主観性、隠ぺい、現状維持が好まれて、客観性、正直さ、相違
は消滅するでしょう。そして、徐々に、後者を備えたライバルの餌食になるでしょう。
企業や政府の歴史を振り返ると、集団浅慮に陥ったケースが多々みられます。それを避ける唯一の方法は、異なる意見を
隠さず話しあうことをリ ダ が積極的に促すことでしょう リ ダ は友人で固めた側近たちの中に 多様な意見をもつ
隠さず話しあうことをリーダーが積極的に促すことでしょう。リーダーは友人で固めた側近たちの中に、多様な意見をもつ
人々を引きいれて、グループ内の主流との間にある程度の意見対立を起こさせるとよいのです。意見の相違や対立があれ
ば、必ずある程度の緊張感が生まれます。それをうまくリードすれば、この緊張感は創造的で建設的なものとなります。しか
し、リード方法が拙いと、グループを分裂させ、破壊させる恐れがあります。これが監督者のチームであれば、グループを分
裂させる危険ゆえに、建設的な緊張感は必要ありません。なぜならリーダーが、上位の監督者が決定した組織の方針を実
行しつつ、チ ムを効率的に管理しようとしても、創造性あるいは緊張感、またはその両方がその足を引っ張ることになるか
行しつつ、チームを効率的に管理しようとしても、創造性あるいは緊張感、またはその両方がその足を引っ張ることになるか
らです。しかし、どんな組織であっても、リーダーシップ・チームにおいては、異なる意見、物議、意見の違いに伴いがちな個
人と個人の間の緊張感にはある役割があります。ここで問題なのは、どの程度の緊張感は建設的なのか、それが行き過ぎ
て崩壊的な対立が発生するのはどの時点からか、である。
グループ内の建設的な意見の相違と、破壊的な対立との違いを区別するのは難しいと考える人は多いのです。彼らは、経
営陣の間に意見対立があることがわかると、それは非生産的であると見る。部下に疑問を呈させただけでなく、上下関係を
無視することを許したとしてリーダーを非難する。彼らは、意見対立による力学の変化によって、組織は決して最適レベルで
は機能できず、最悪の場合は惨憺たる結果を招くことは避けられないと思い込んでいる。幹部の間で合意がなければ、どん
な企業も成功できないと信じている人もいます。
トップリーダーたちのスタイルがひじょうに異なり、大切な問題について意見が明らかに対立する場合、従業員はどちらかの
側に立とうとする傾向があります。これは組織内に亀裂を生む原因だ.こういった力関係を懸念する人は、リーダーが仲間と
意見があわない とは健全であると付け加えるが 人間関係は対立の仕方によ て生かされも殺されもするし
意見があわないことは健全であると付け加えるが、人間関係は対立の仕方によって生かされも殺されもするし、一般的に組
般的に組
織の結束力を崩す恐れがあると主張します。
意見の多様性と、協力と尊重の必要性は、どのようにして両立させることができるでしょうか。
一つの答えは、オープンな話し合いはリーダーシップ・チーム内にとどめ、会社や外部に対しては、チームで共同戦線を張る
ことである。次の例が教育になるでしょう。
「私は、共同CEOと共にある会社を三年近く経営してきました。オフィスではドアを閉めて相当頻繁に意見を戦わせましたが、
従業員に向かっては必ず統一戦線を張ろうとしたものです」
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第二の方法は、トップ・リーダーたちが見解の相違を認め合うことです。状況が許す限り、全員の意見が一致
するまでは、リーダーたちは行動を起こしません。あるいは一人が他のリーダーたちの計画に全面的に反対で
あっても、それが結論であれば、それを支持します。このように決定することは、見解が異なり、実行方法が
違っても、他者を尊重する気持ちを示すものです。
第三の方法は
第三の方法は、二人のリーダーが異なるアプローチをとり、しばしば意見が対立し、お互いを嫌うことさえあっ
人のリ ダ が異なるアプ
チをとり しばしば意見が対立し お互いを嫌うことさえあ
ても、尊重し合うことである。特に隙とはいえない相手でも、尊重することはできます。なんと言っても、相手と
は一緒に働いているのであって、結婚しているのではありません。単なる仕事上の人間関係にすぎないので
す。お互いを補完し合うことができれば、相手の能力を尊重することができます。組織の成功のためには、両
者の才能が必要なのかもしれません。 緒に努力した結果、成功が得られるなら、お互いを尊重する とはで
者の才能が必要なのかもしれません。一緒に努力した結果、成功が得られるなら、お互いを尊重することはで
きます。
パートナーたちがモノゴトのやり方を話し合っているとしよう。ほとんどの人は、彼らはどんな方法をとるかで合
意しようとし、合意が取れたら、だれがそれをリードするかを決め、どちらが選ばれようとその人は合意通りに
行うだろうと推測します。実際、どちらもリードできるだろう、そして双方とも同じようにリードするだろう、と。
しかしそれは読みが浅い。実はパートナー同士、スタイルも違えば、信念も異なることが多い。現実にあるプロ
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ジェクトをリードする場合、パートナー同士の行動は異なって当然です。パートナー間で、何をどのように行う
かについて意見が対立しその不一致を解決することができないとしましょう。話し合いによって各々の立場は
十分に理解するが、それでも合意はできません。そこで、どちらがリード役に回るか、そして、どちらがリードす
るにせよ、自分が正しいと考える方法を用いることを決定します。他方のパ トナ は、自分だったらその方法
るにせよ、自分が正しいと考える方法を用いることを決定します。他方のパートナーは、自分だったらその方法
は決してとらないと思うが、快くそのアプローチを受け入れます。なぜなら彼は、もう一方のパートナーが自分
のやり方で行えば成功するだろうと信頼しているからです。
このように重要な問題を相手に任せて、自分が賛成できない方法で行うのを認めるためには自制心が必要で
す。それは相手への尊敬の念があってこそできることです。この種の関係においては、決して完全に消えるこ
とのない緊張感があります なぜならそれは二人の人間の経験や態度の違いに深く根ざしているからです
とのない緊張感があります。なぜならそれは二人の人間の経験や態度の違いに深く根ざしているからです。
この種の緊張感を有害だと考えがちであるが、それが建設的で創造的であることもある。建設的な緊張感で
重要なのは、多様なアプローチと新しいアイデアなのです。それは問題があっても、異なった見解と、多様な代
替案を出すことによって、解決の支えとなるはずである。それは批判のための批判ではありません。建設的な
緊張感には 最善の最終結果を出すために 人々が自分の意見を表明し アイデアを推進することができる
緊張感には、最善の最終結果を出すために、人々が自分の意見を表明し、アイデアを推進することができる
環境が欠かせません。その結果、ある程度の緊張感はやむを得ないが、それは創造的で建設的な種類のも
のなのです
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■リーダー間のパートナーシップを破壊しかねない意見対立
以上、パートナー間の意見対立は状況次第で破壊的にも建設的にもなり得ることを見てきました。ここでは、提携関係を破滅
パ
意
状 次第 破壊的 も建 的 もな 得
を
き
提携
を破滅
させかねない意見対立とはどのようなものなのかを検討します。
リーダー同士のパートナーシップに有害な意見対立とは、どのようなものでしょうか。
①
長期的ビジョナリ と短期的ご都合主義の対立
長期的ビジョナリーと短期的ご都合主義の対立
パートナー同士、何を達成したいのかについて長期的なビジョンを持っていなければならないが、だからといって、短期
的な機会を無視する必要はない。逆に、短期的なチャンスをつかむためには、長期的なビジョンを犠牲にしなければな
らないという意味でもない。しかし、長期的ビジョンとうまく整合性がとれないために、短期的なチャンスを見過ごすべき
かどうかで対立した場合は、行動は行き詰まるであろう。
②
多数参画主義と少数精鋭主義の対立
プロジェクトの影響を受けそうなもの全員を始め、幅広い人財を含めることを主張するパートナーもいれば、迅速な行
動をとるために、どの程度の人員を参画させるかを限定する必要があると感じるパートナーもいる。多数参画派のリー
ダーは、少数精鋭主義はエリート臭く、組織から底辺の広い支援を得る可能性を損なうと考えがちです。一方、少数精
鋭主義のリーダーは、多数を参画させると、ビジョンが希釈されて、目標を失い、行動が散漫になると考えがちになりま
す だれを含めるか だれを除外するかを決定 きな と パ
す。だれを含めるか、だれを除外するかを決定できないと、パートナーたちの対立はろくな結果になりません。
ナ たち 対立はろくな結果 なりま ん
③
瀬踏みを好むか、即実行を好むかの対立
大型のプロジェクトに取り組むにあたり、ビジョンを検討し、どのように進めるかを決定しながらゆっくりと歩を進めたが
るパートナーもいれば、目標を定めてそれに向かって一気に進みたがるパートナーもいます。
気
慎重派のパートナーは、がむしゃらに進むのは予想外の成り行き、への懸念に無神経であると感じます。一方、一気
に進みたいパートナーは、のんびりしていたらチャンスをとらえ損なう原因となると感じるでしょう。合意できないと、結
論が出ずに組織はにっちもさっちも行かなくなります。
④
強力的な行動を好む 、競争的な行動を好む の対
強力的な行動を好むか、競争的な行動を好むかの対立
パートナーが異なる行動を支持し、両者とも各々の実行組織に加わるべきだと合意した場合、二つのグループのあい
だにあるのは協力関係だけであるべきか、それともお互いに競い合うべきか。競争を支持する理由は、それによってメ
ンバーのモチベーションが高まるというものです。
協力を指示する理由は、協力によって二つのグループは一緒に学び、双方の効率が高まるというものです。組織内で、
グループが競争し合うのと同時に協力的であれば、と期待されることが多い。しかし、それは人間の本質を好意的に
解釈しすぎています 競争関係にある人間同士が 勝利につながるアイデアを相手に教えることはないでしょう その
解釈しすぎています。競争関係にある人間同士が、勝利につながるアイデアを相手に教えることはないでしょう。その
ため通常は協力か競争のどちらかなのです。パートナー間で合意が見られなければ、ここでも組織は行き詰まります。
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⑤
自己の利害と多数の利害の対立
営利企業よりも非営利団体でリーダーを務めるパートナー間に発生しやすい
問題があります。それは、非営利団体のリーダーたちには総じて大衆の福祉
を促進するというミッションがあり、倫理的な課題に深く関わってくるからです。
そのため非営利団体がプロジ クトに取り組む際に 利益相反の問題が発
そのため非営利団体がプロジェクトに取り組む際に、利益相反の問題が発
生することがあります。プロジェクトが自己の利得となる場合、それによって
倫理性を損なわれるのだろうか。
たとえば営利企業があるプロジェクトで非営利団体と協力するとしましょう。
プロジェクトは一般大衆のためになることを目的としているが、営利企業はプ
ロジェクトの結果、商売が増えればと期待している(たとえばプロジェクトに参
画していることを宣伝した結果として)。それによってプロジェクトの倫理は揺
らぐのか プロジ クトを率いる 方のパ トナ はイエスと判断し もう 方
らぐのか。プロジェクトを率いる一方のパートナーはイエスと判断し、もう一方
はノーという。こういった点でもパートナー間の対立ゆえにプロジェクトが行き
詰る可能性があります。
これは単に正しい、間違っているの判断の問題ではありません。パ トナ
これは単に正しい、間違っているの判断の問題ではありません。パートナー
双方が確固たる信念をもち、両者ともに(当然ながら)倫理的、道徳的な道を
歩んでいると信じているからです。この分野における対立は、パートナー間
の有効な行動を停滞させる恐れがあります。この点においてパートナー同士
の意見がどれほど異なるか 議論がどれほど長引き 意見が割れるかは想
の意見がどれほど異なるか、議論がどれほど長引き、意見が割れるかは想
像に難くありません。
とはいっても、この種の意見対立は克服できる場合もあります。踏み越えら
れない溝のようにみえるが、もし
れない溝のようにみえるが、もしパートナー同士がパートナーとなるうえで重
トナ 同士が
トナ となるうえで重
要なのは、お互いの尊重と、異なる意見や態度を受け入れ、バランスをとる
能力なのです。
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