「森のようちえん」への参加が学生に及ぼす影響

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「森のようちえん」への参加が学生に及ぼす影響
「森のようちえん」への参加が学生に及ぼす影響
白石 昌子*a,柴田 卓*b
柴田千賀子*c
本稿は,「森のようちえん」への参加によって,学生にどのような変容が見られたかについての
実践報告である。週末と長期休暇を中心に,3歳から小学6年生までの子どもを対象にして野外活
動を提供している「自然学校キッツ森のようちえん」に,キャンプを含んで年間5回継続的に学生
が参加した。この企画の目的は,自らが自然に触れて自然環境に興味を持つこと,自然の中での子
どもの振舞いや成長を観察すること,自然の中で子どもと触れ合うことなどである。毎回の振り返
りシートと「森のようちえん」における学生の行動から,学生の変容を考察した。その結果,子ど
もの見方が変化したこと,子どもへの関わり方が変わり「待つ」援助の重要性が自覚されたことが
明らかになった。また,自然環境に対して興味が増し,日常でも自然への感覚が敏感になることも
窺えた。さらに,学内における行動変化によい影響を及ぼしたと考えられる事例もあった。
〔キーワード〕森のようちえん 野外活動 自然環境 子ども観 保育観
はじめに
になっている。このことが企画理由の一つである。
この報告は,2013年度に実施した“
「キッツ森のよ
さらに,大震災以降福島の子ども達は,1~2年間
うちえん」への参加”の活動についての実践報告であ
にわたって外遊びを制限された日々を送らざるを得な
る。この活動は,“アカデミア・コンソーシアムふく
かった。現在でも自然物に対して,従来通りには扱え
しま(ACF)”における大学間連携共同教育推進事業,
ない状況は続いている。幼児期の1年間は発達にとっ
ふくしまの未来を拓く「強い人材」づくり共同教育プ
て非常に重大な意味を持つ。今後に向けてこの失われ
ログラムの一環として企画されたものである。この活
た期間の発達を取り戻すことは,教育に携わる大人の
動では,保育者(教師)をめざす学生がキャンプを含
責務と言っても過言ではないだろう。しかし,これか
めて5回,1年間継続的に「森のようちえん」に参加
ら保育者として職に就こうとする学生達は,先述のよ
し,3歳から小学校6年生の子ども達と共に,森とい
うに自身が自然の中で遊んだ経験が少ない者たちであ
う環境で遊びながら,自然や子どもについて学習する
る。そのため,自らが自然体験をしてさまざまなこと
ことをめざしている。
を感じること,同時に自然の中で子どもがどのように
募集にあたって参加条件として,保育者(小学校教
成長するのかを見ることによって,子どもにとっての
師)をめざしている学生であること,5回(少なくと
自然体験の重要性を実感することが必要であると考え
も4回)の活動すべてに参加すること,キャンプには
た。これが,もう一つの企画理由である。
参加することが望ましいことなどを挙げた。
その結果,
この報告は,活動の実践状況や参加学生の変化を明
福島大学,桜の聖母短期大学,郡山女子大学短期大学
らかにすることが目的である。そこで,まず「自然学
部から合計21名の学生の参加があった。
校キッツ森のようちえん」の側から,学生の参加状況
この企画の背景には,次に示すような立案者の2つ
などを紹介するとともに,そこでの課題などを挙げ
の意図がある。
る。次に学生の変化に関しては,2つの方向から考察
平成8年の第15期中央教育審議会第一次答申におい
する。1つは,学生が毎回の活動の後に記入した振り
て「生きる力」の育成が指摘され,その育成方策の一
返りシートにみられる,学生の変化の自覚についての
つとして野外教育の充実が求められてきたことは周知
考察である。もう1つは,顕著な変化を見せた一学生
の通りである。その後,平成19年に出された中央教育
の事例についての考察である。 (白石)
審議会「次代を担う自立した青少年の育成に向けて
て,体を動かす体験や自然体験の少なさが指摘されて
Ⅰ 「自然学校キッツ森のようちえん」 の概要
おり,幼少期における自然体験活動の必要性と効果が
1.森の幼稚園とは
注目され始めた。現在の大学生は,まさに自然体験の
森の幼稚園は,デンマーク,ドイツ,スウェーデン
少なさを指摘されてきた時代に幼少期を過ごした世代
といった北欧で広がり,現在も認知されている。発祥
(答申)
」においても,青少年の直接体験の少なさとし
*a 福島大学人間発達文化学類 *b 自然学校キッツ森のようちえん
*c 桜の聖母短期大学
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福島大学総合教育研究センター紀要第18号
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は1960年代にデンマークのコペンハーゲン近郊で特定
きく森のようちえんが普及するきっかけとなったの
の園舎や敷地を持たず,自然を教育環境とした保護者
は,木戸⑵が指摘するようにテレビ放映による影響が
らのグループによって創設されたといわれている。
大きいと考えられる。
2012年に筆者が視察したデンマークの森の幼稚園もま
2.「自然学校キッツ森のようちえん」について
た園舎を持たず,手作りのベンチや雨よけがあるだけ
⑴ 概要
だった。子ども達は木登りをしたり,ナイフを使って
東北は,都市部から1時間以内に森や川,湖や海へ
何かを作ったり,葉っぱや枝を集めてお昼寝したりと
行くことができる豊かな自然に囲まれた地域性を有し
森の中でのびのびと過ごしていたのが印象的だった。
ている。しかし,子どもと自然との関わりや繋がりは
希薄化しているように思えてならなかった。これらの
ことを背景に自然学校キッツ森のようちえんは2004年
に仙台ではじまった。現在は仙台校,福島校,郡山校
を運営し,約200名の子ども達に対して自然体験活動
を実施している。当団体は,自然の魅力を伝えると同
時に,自然の脅威や困難に直面する場面の中で,自ら
挑戦し,乗り越えた喜びや感動を子ども達と分かち合
いながら,四季彩豊かな東北の自然を年間通して体感
している。その他にも,市町村で行われる事業への指
導や,幼稚園,保育園,団体,企業の野外イベントへ
の企画運営等を行っている。また,指導者養成やファ
ミリーイベントを開催し,森のようちえんの発祥とさ
写真1.デンマークの森の幼稚園
れる北欧の子育て・子ども観の紹介を行っている。
一方,日本では今村⑴が指摘するように何をもって
しかし,東日本大震災における原発事故の影響は計
「森の幼稚園」とするかの議論や検証が十分に行われ
り知れず,除染のされない森・山・川・湖は危険な場
ておらず,その定義を明確に説明するのは難しい。も
所として,さらに子ども達を自然から遠ざけてしまっ
ともと自然環境に恵まれた日本は,敷地内に森を有す
た。安心安全を確保しながら,自然体験活動を東北の
る幼稚園が多数存在し,里山にある幼稚園は畑や森が
地で普及していくことは,新たな当団体の使命と考え
遊び場であったはずである。筆者自身も幼稚園のすぐ
ている。
そばに森があり,毎日のように転がったり,キリギリ
スを捕まえたり,葉っぱで焼き芋を作って遊んだりし
⑵ 理念
たものである。
当団体の理念は「森が教室,自然が先生」である。
1980年頃から,急速に都市化が進行し,遊び場とし
子どもは素敵な感性すなわち「センス・オブ・ワンダー」
ての森や自然が急速に遠い存在となった。自然が特別
によって,自ら成長するものである。いろいろなこと
なものへと変化し,非日常的な体験活動として認知さ
を感じとり,挑戦し,成功したり,失敗しながら,気
れるようになったのである。近年,さらに子ども向け
づき,考え,想像し,学んでいく。その中で,心が揺
のテレビやゲームの普及や,習い事が隆盛化し,遊び
さぶられるような体験,あるいは自ら成長できたこと
もスポーツへと変わりつつある。
を実感できるような体験を積み重ね,子ども達と一緒
このような子どもを取り巻く環境に危機感を持って
に成長していくことを大切にしている団体である。し
活動している野外活動家や森の活動を保育に取り入れ
たがって,当団体のスタッフは先生ではなく,森が教
ている幼稚園関係者,自主保育として自然の中で子育
室であり,自然が先生である。スタッフは危険をコン
てを行う保護者や保育士が交流する場と,このような
トロールしながら,子ども達の出来事を傍らで見守り,
保育・子育ての在り方を普及・啓蒙することを目的に
共感することが一番大切な役割である。
2005年に第1回森のようちえん全国交流フォーラムが
宮城で開催された。このフォーラムでは,
形態,頻度,
⑶ 活動内容
場所等を定めず,子どもの主体性を大切にしながら,
当団体は,週末と長期休暇を中心に1年を通して活
自然の中あるいは自然を活用して子育てを行う事,乳
動を行っている。幼児は森のようちえん,小学生はエ
幼児の自然体験活動等を相称した大きな枠組みを「森
コヴィレッジにクラス分けされているが,幼児と小
のようちえん」と呼ぶことにしたのである。また,学
学生の同時開催であるため,当日の内容で幼児向けの
校教育法の関連から,誤解を招かないようにひらがな
のんびりコースと,小学生向けのガンガンコースのど
で「ようちえん」としているのである。
ちらを選択しても良い事になっている。自己決定を大
近年,その数は急速に増加傾向にあるが,日本で大
切にしているため,幼児がガンガンコースに混ざって
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山頂まで登山を行うこともあれば,小学生が幼児に混
2.当団体における子どもとの関わり方
ざってのんびりしていることもある。小学生の遊びを
自然の中に身を置くと,風の心地よさや木々が揺れ
見ながら真似したり,技を教わっていることが自然発
る音,雨の匂いや雪の柔らかさ,植物や昆虫の不思議
生的に起こることもある。
さや,動物の足跡や糞など,毎回同じ森でも常に変化
開催頻度は,仙台校は月2回,福島校と郡山校は月
しながら語りかけてくる。子どもたちは,自分の興味
1回程度である。長期休暇は,対象年齢に応じて,2
関心に導かれ,本能的に遊びが生まれる。トレッキン
泊3日から5泊6日のキャンプを開催している。開催
グをしていても,大人が見せたいと思う花や木々より,
エリアは,仙台校と福島校は宮城県白石市の川原子本
足元のバッタや普段目にするより大きなアリに夢中に
校,郡山校は裏磐梯小野川湖周辺である。いずれも,
なるといったことが多々ある。
森と川と湖を有する自然豊かなフィールドである。主
当団体は,このような子どもの興味関心や自発性を
な活動として,
春は新緑トレッキングや秘密基地作り,
できるだけ大切にし,大人による遊びの押し売りをせ
夏は沢登りやカヌー体験,秋は登山やクラフトや野外
ずに,注意深く見守るように徹底している。大人が良
クッキング,冬はスキー教室やスノーシュー体験であ
かれと思って介入することで,子ども達の気づきの瞬
る。予定より子ども達のやってみたいことを最優先す
間や意欲を奪ってしまうことが多々あるからである。
るため,全く異なる活動になることも多々あるが,保
子どもと一緒に元気に遊ぶことが評価されがちな日本
護者の協力と理解により,それもまた魅力の一つと
において,ただ注意深く見守ることは,学生にとって
なっている。 (柴田卓)
物足りない事であり,違和感を抱くかもしれないが,
子どもたちを遊ばせるのではなく,子どもが何を感じ,
何を考えているか想像することを楽しむよう学生に伝
えた。
次に,当団体が子どもと交わしているお約束とその
意図についてである。お約束は以下の4つである。
1)移動する際の先頭と最後は大人であること
2)一人で森や川へは行かないこと。
3)自分の体は自分で守ること
4)自分のことは自分やってみること
1つ目は,北欧の森と日本の森の大きな違いである。
以前デンマークの森のようちえんへ視察した際,先へ
進みたい子どもはどんどん進み,分かれ道で必ず待っ
写真 2.キッツ森のようちえんの様子
Ⅱ 参加学生への指導内容
ているというお約束があった。
しかし,
日本では地形的
な問題と同時に熊や蜂といった危険な動植物が多いた
め,大人の目が届かないことがないよう徹底している。
1.事前講習に関して
2つ目は,当団体が活動するフィールドには川や湖
自然環境が子どもへ与える影響が大きいのは周知の
が近くにあるため,一人で行動しない事,川や湖へ行
通りであり,特に福島の子ども達にとって自然体験活
くときは大人と一緒に行くことを徹底している。
動は他の県より,重要なテーマとなることが予想され
3つ目は,毎回朝の集いで子どもたちにウルシやマ
る。これから保育者になる学生にとっても,森のよう
ムシなどの危険な動植物について質問を出題し,どの
ちえんへの参加によって得た知識や経験は貴重なもの
ように対処すべきか確認している。1回では覚えきれ
となるであろう。2013年の参加者は,福島大学から14
ないが,毎回の積み重ねにより,知っている子が知ら
名,郡山女子大学短期大学部からは2名,桜の聖母短
ない子へ教えている場面も目にするようになった。
期大学からは5名の計21名が参加した。実習を終えて
4つ目は,重いリュックを背負って数キロ歩いたり,
子どもとの関わり方にある程度自信を持っている学生
靴紐を結んだり,敷物を折って片づけたり,水筒の蓋
もいれば,初めて子どもと関わる学生もいることを考
がはずせなかったり,トイレに虫がいて入れなかった
慮し,事前講習会で当団体の方針や思いを確認し,リ
りと自然環境の中では,困難の連続である。普段は先
スクマネジメント講習を行った。また,各回子ども達
生や保護者が何気無くやってくれるようなことも自分
が到着する前に,子どもの目線でフィールドの散策を
でやってみると意外に難しいのである。そこで,すぐ
行った。歩き慣れない道やアップダウンの多さに体力
手伝うより,子ども達が自ら試行錯誤を繰り返しなが
を奪われ,困惑する学生もいたが,
「懐かしい」とい
ら挑戦し,乗り越えた時に喜びを分かち合うことを大
う言葉を発し,祖父との思い出を語る学生もいた。
切にしている。やってあげることや手伝ってあげるこ
とが本当にその子のためになっているのか,一歩立ち
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止まって考えることを徹底している。子どもの最善の
もとへ送り届け,随時解散となる。
利益,学びとは何かを大人も楽しみながら学ぶように
参加学生は,子ども達より30分前に現地に到着し,
している。
その日の活動内容や注意事項を確認する。子ども達が
しかし,見守ることは,時に誤解を受けやすい。危
到着したら,一緒に活動に参加し,子ども達を見送っ
険があると判断した時は躊躇なく介入し,何が危険で
た後,1時間程度その日の内容や子ども達の様子につ
あるかをしっかり子どもに伝えることも大切である。
いて,振り返りを行う。ガンガンコースとのんびりコー
学生にとっては,このリスクと見守りと介入のバラン
スの様子をお互いに伝え合い,子どもの気づきや自身
スが非常に難しいところである。そこで,事前講習会
の気づきなどについて,分かち合いを行っている。最
の最後は,リスクマネジメント講習を実施した。今歩
後に振り返りシートを活用して1日の思いや気づきを
いてきた森にもたくさんのリスクが存在し,風が強け
まとめることにしている。
れば,倒木の恐れがあるため,枯れた枝が頭上にない
か見ながら歩いているなど,具体的な話を交えて説明
表1.2013年 学生が参加した日程と内容
日時
活動内容
開催場所
した。そして,フィールド内におけるリスクの洗い出
᭶ ᪥ ஦๓ㅮ⩦఍
⚟ᓥ኱Ꮫ
しや過去の事故事例,
ヒヤリハットの傾向を紹介した。
᭶ ᪥
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༡ⶶ⋤ᕝཎᏊ
᭶ ᪥
࢝ࢾ࣮య㦂
୐ࣨᐟࢲ࣒†
当団体で介入が必要であると考える事項は大きく以下
の4つである。
ࢳࣕࣞࣥࢪ
᭶ 㹼 ᪥
Ἡ ᪥ ࢧ ࣐ ࣮ ࢟ ࣕ ࣥ ࣉ ༡ⶶ⋤㔝Ⴀሙ
ᐑ ᇛ ┴ ⓑ ▼ ᕷ 2)道具を使う環境が整っていない時
᭶ ᪥ ୙ᛀᒣⓏᒣ
ⓑ▼ࢫ࣮࢟ሙ
3)同じ失敗を何度も繰り返す時 ᭶ ᪥
⛅ࡢࢿ࢖ࢳ࣮ࣕࢡࣛࣇࢺ
༡ⶶ⋤ᕝཎᏊ
1)道具の使い方が間違っている時 4)大きな怪我に繋がりそうと判断した時
森のようちえんは,危険や怪我が多いというイメー
4.課題と反省
ジが先行するが,大きな事故や怪我は,ほとんど報告
毎回約35名の子どもに対して,20名の学生が活動に
されていない。それは,スタッフや先生による徹底し
加わるため,学生もどのようなスタンスで参加したら
たリスクマネジメントと子ども達が小さな失敗を積み
よいのか戸惑ったはずである。1日子どもと関わるこ
重ね,自分の実力や身の丈を理解していることが要因
とができずに終わる学生もいて困惑していたが,子ど
であろう。
もの世話をして欲しいわけではないことを伝え,自分
の学びたいと思うことを学ぶように伝えた。徐々に自
3.活動内容と1日の流れ
分の立ち位置が明確になっていった。
その他にも,
一人
2013年の対象は,
「自然学校キッツ森のようちえん」
の子どもと関わっていて良いのか,たくさんの子ども
仙台校の子ども達約35名である。毎回,9時から仙台
と関わるべきか迷ったという学生の声もあった。正解
市内数カ所を送迎し,10時45分には宮城県白石市の川
はないのでその時自分が正しいと思う判断をするよう
原子ダム湖に到着する。トイレタイムとトレッキング
に伝えた。そして,自ら自然を楽しんでいる姿を子ど
の後,11時30分頃から近くの広場で昼食となる。広場
も達に見せるという教え方もあるということを加えた。
や湖岸での自由遊びの後,13時頃にはトレッキングを
2013年の反省および課題としては,学生とスタッフ
行いながら当団体の本拠地がある森へと移動する。途
とのコミュニケーションが図りにくいという点であ
中,川沿いを歩くガンガンコースと砂利道を歩くのん
る。学生の視点では理解できない事や判断があるはず
びりコースに分かれて,それぞれに自然を満喫する。
だが,それを消化するためにも,積極的に質問し,判断
のんびりコースは,宝物を集めたり,笹船を作って
の背景や意図を探ることができるよう学生とスタッフ
は浮かべて観察したりとなかなか前へ進まない。ガン
との関係作りと対話が今後の課題として重要であろう。
ガンコースは,自分たちで道を開拓しながらまるで冒
この取り組みは,学生が年に5回参加することがで
険家になったかのように探検がはじまったり,流れの
きるため,どこが都市部の幼稚園と違い,どのような
ない池のようなところで,魚をみつけて釣竿をつくっ
知識や技術が必要となるのか,子ども達は何を感じ学
たりとドロンコになりながら進んでいく。両コースと
んでいるのかなど,1度の参加では解らないことや気
も目指すところは一緒で,14時頃には目印となる大き
づかない事も,学び深めることができるのではないだ
な岩に荷物を置いた後は,さらに自由遊びが展開され
ろうか。 (柴田卓)
る。大人を誘って川へ遊びに行く子もいれば,そこで
おやつタイムになる子もいる。ひと通り遊んだ後,15
Ⅲ 参加学生の変化
時にはキッツハウスと呼ばれる当団体の小屋でトイレ
1.学生の感想に見られる気づき
を済ませ,帰りの集いを行い,15時15分には川原子を
⑴ 振り返りシートの構成
出発する。そして,16時から17時30分の間に保護者の
森のようちえんに参加後,参加学生には毎回,A4,
「森のようちえん」への参加が学生に及ぼす影響
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1枚の振り返りシートを記入してもらった。ただし2
接することはできる。しかし,興味がないものは存在
回目のカヌー体験はシートへの記入を実施しなかっ
しないことに等しい。森での経験は,自然に興味を持
た。シートの質問内容は,毎回ほぼ同様に次の3点で
たせ,自然の現象に対する感覚を敏感にしてくれるよ
ある。1点目は,その日の主な活動についての過去の
うである。
体験の程度,2点目はその日の活動を行っての気づき
参加学生の中には,このような環境での野外遊びを
について,3点目はその他として感想や要望などを記
ほとんど経験してこなかった学生も含まれていたが,
入できるようにした。2点目の当日の気づきについて
一方で幼少期に自然の中で遊んだ経験が豊富な学生も
は,自然に関しての気づきと子どもに関する気づきに
いた。前者の学生にとっては,もちろん初めての経験
分けて質問項目を設定した。振り返りシートは,子ど
が多かったわけだが,後者の学生にとっても,記憶や
もが帰った後,スタッフの話が始まる前に記入しても
感覚をよみがえらせる体験となったようである。子ど
らった。また,最後の回のシートには,1年間を通し
もの頃の経験は成長の過程でいつしか忘れられてしま
ての感想も質問項目として設定した。
い,日常の感覚は自然に対して鈍感になっていくよう
ここでは最後の回の振り返りシートの項目である
である。しかし,このような機会が与えられた時,
「幼
「いちばん印象に残っていることは何ですか」
「何か,
少期の感覚を思いだす」という形で自然に向き合うこ
自分の変化を感じることがありましたか」という質問
とができるということが窺える。
に対する回答を中心にしながら,学生がどのような変
また,子どもと一緒だからこそ感じられる思いもあ
化を自覚したのか,どのような気づきがあったのかに
る。自然の環境はいつも安全で心地よいわけではない。
ついて紹介する。学生が挙げた内容は,おおよそ次の
雨天の山登り,日常にはない不便や不自由さなど,大
4つにカテゴライズできる。1つめは自然に対する自
人が困惑する中でも楽しむことができる子どもの様子
分の意識の変化,2つめは子どもの見方の変化,3つ
を目の当たりにするからこそ,学べることがあること
めは子どもへの関わり方の変化,4つめは野外活動の
を示唆してくれる。
運営やキッツスタッフに関する事柄である。これらに
ついて,紙幅の許す限り学生の感想を挙げながら,そ
⑶ 子どもの見方の変化
の意味を考察する。
学生は「子どもとはこんな感じ」という漠然とした
子ども観を持っている。それは,今までの経験や情報
⑵ 自然に対する自分の意識の変化
によって形成される。この漠然とした子ども観は,実
自然に対する興味が増したことについての記述は多
際の子どもと接する中でより明瞭になったり,具体的
くみられた。各回の振り返りシートでは,その日心が
な姿として認識されたりする。毎回の振り返りシート
動いた具体的な対象について触れられている。
例えば,
にも子どもに関して発見したことがらが書かれている
モグラの穴,二重に見える虹,山ブドウの甘さ,山の
が,学生がいちばん印象に残っていると答えたのは,
寒さ,雨の中の登山などである。こうした毎回の発見
長時間生活を共にしたキャンプで見られた子どもの姿
が,以下のような意識の変化に繋がっていったのであ
が多かった。このことからも,接する時間という要素
ろう。
は,子どもを理解する上で重要であることがわかる。
・少しではあるが,自然に目が行くようになった。今
学生が子どもと関わり,手応えを感じるためには,あ
までは川の流れなど気にもしなかったが,子どもと
る程度まとまった時間を必要とするのである。
一緒に過ごす中で発見することが多くあった。
・キャンプで子ども達と長い時間関わり,自然のもの
・自然の中では,探そうとすればたくさんの発見があ
ることを感じ,日常の中でも季節の変化や自然に目
を向けるようになった。
の見方や,挑戦しようとする強い気持ちを一番感じ
られた。
・キャンプで親元を離れて自分達だけで生活する中
・自然を身近に感じていた頃の感覚がよみがえってき
で,子ども達は自分で何かをする力,友達と協力す
た。回を重ねるごとに昔の記憶が戻って来て,自然
る力などを身につけることができるのではないかと
との距離が縮んだと思う。
思った。
・雨天時の危険や,思い通りにいかないことも自然だ
と痛感できた。雨を楽しむことをスタッフや子ども
達から学んだ。
・キャンプで最初はまとまりがなかった班が,いろん
な経験を通して仲良くなったこと。
・自分のグループの子どもの変化にはよく気づけて,
森の中での経験を重ねることによって,日常生活の
進んでリーダーシップをとるようになった子や,自
中でも自然に対して目を向ける姿勢を持つようになる
然の物からおもちゃを作りだしたりする姿が見られ
ことがわかる。実は,われわれの日常に自然が存在し
てよかった。
ていないわけではない。樹木,草や花,生き物,雲な
・今まで困っている子がいたら,すぐに手を貸してし
ど,目を向けさえすれば,普段の生活の中でも自然と
まっていたが,何もしなくても子どもは自分でどう
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にかする力を持っていて,そのようなすごいところ
何をしたいのか,自分の力でやり遂げられるか見守
があることを気づけた。
ることの重要性を感じた。
学生達が答えているのは,総じて「子どもってすご
このような気づきは大切ではあるが,見守ることの
い」と感じたことである。思っていたよりも,自律し
背後には安全性の確保や状況への的確な判断などが不
ている,勇敢である,大人である,たくましいなど,
可欠なものとして存在する。次の感想はそのことへの
自分の描いていた子ども像はプラス方向へ修正されて
自覚も表われている。
いる様子が窺える。
・小さな子どもが危険な場面にいた時,すぐに手を出
また,実習を経験済みの4年生からは,
「これまで
してしまいがちだったが,子ども達が自分でやりた
見てきた幼稚園での子どもの姿とは違った面を見るこ
いという気持ちを言葉や態度で感じ,少しずつでは
とができた」
とか,
「保育所などの普段の生活と比べて,
あるが,子どもの様子を見ながら,いつでも助けら
自然の中で子どもが過ごす意義をたくさん見つけた」
れる距離にいて,手を出さずに見守ることを意識し
などの感想があった。これらの学生は,自分が発見し
て関わることができた。それはとても勇気がいるこ
た子どもの姿を,森のようちえんという環境にあるか
とであった。
らこそ見られる姿であると捉えている。
4年生のこの感想には,あと数ヶ月で保育現場に立
つことになる学生の思いが,非常によく表れている。
⑷ 子どもへの関わり方の変化
保育者として子どもの気持ちに寄り添いながら保育し
普段は子どもと関わることのない学生にとって,は
なければならないことは,既によく理解してはいるが,
じめて出会う子ども達とどのように関わればよいの
安全への配慮は第一に考えなければならない。野外活
か,
最初は戸惑うことも多い。子どもとの関わり方は,
動の乏しい経験の中では,自分が助けることができる
回を重ねるごとに変化していくし,前述した子どもの
のかどうかという不安がいつもつきまとう。スタッフ
見方の変化に伴って変わってもいく。
から学べたことと,自分の知識や技術とのギャップを
・はじめは自然活動とも子どもともどう接していけば
どのように整理していけるのかは,この企画を遂行し
よいかわからず,戸惑いが大きかった。活動を重ね
ているわれわれの課題でもある。
るうちに,自然へチャレンジすることの大切さや子
どもへの接し方がわかってきて,多少危ないことで
⑸ 野外活動の運営やスタッフに関する気づき
もサポートしながら挑戦してもらいたいと思うよう
野外活動の運営に関する専門的知識を持たない学生
になった。
達にとって,キッツスタッフの行動から学ぶことは多
・今まで子どもの変化にも気づかなかったが,今回の
かったと思われる。とりわけキャンプの活動について,
活動を通して,子どもが遊びに飽きたのかもしれな
「レクのやり方」「変更に対しての柔軟で迅速な対応や
いと,子どもの気持ちがわかるようになってきたと
メリハリがついた生活の流れ」
「事前の打ち合わせや
思う。
準備の大切さ」などに言及している学生が多く見られ
・最初は子ども達と一緒に活動することが大変だっ
た。代表的な感想を以下に挙げる。
た。環境についていくことで精いっぱいだったが,
・今回は自由ということをよく考えさせられた。自由
今は慣れて,山の中で子どもと一緒に走り回る余裕
という中にも,しっかりとした準備や計画,常にア
も出てきた。
ンテナを研ぎ澄ませること,安全を守るという高い
このように,
森という環境に自身が慣れるとともに,
意識を強く持つことの重要性を学んだ。
子どもへの関わり方にも余裕が出てきた様子が窺える。
またスタッフの子どもへの対応から学んだこととし
一方4年生からは,以下のような,実習の経験から
て,次のような感想が見られた。
学んだ子どもへの関わり方を見直す姿勢が見られた。
・基本的には子どもがチャレンジすることを止めない
・自分の子どもへの関わり方を見直す機会になった。
し,逆に手を貸すこともしない。やりたいという子
手を出してしまいそうなときに,少し我慢すること
どもの気持ちをすべて受け止めていた。
で,子どもが挑戦しようとしたり,成長したりする
・子どもたちへの気配りや声かけなど,自分ではまだ
姿が見られることがわかった。以前より手を出しす
できていない部分が多く,もっと子どもの内面を見
ぎず,見守るようになったと感じる。
られるようになりたい。
・喜びや感動や発見を子どもと一緒に共感することの
・落ちて頭を打った子どもの心を切り替えるために,
大切さに気づくことができた。子どもと一緒になっ
新しいチャレンジを用意していて感心した。自分も
て遊ぶことができた。
こんな時に子どもの気持ちをくみ取って対応できる
・子どもの行動に対して,一呼吸おいて見守ることが
保育者になりたい。
できるようになった。先読みして注意したり止める
スタッフから学んだこのような子どもへの関わり方
ことが保育者として必要と思っていたが,子どもが
は,普段の保育において保育者として幼児に関わるや
「森のようちえん」への参加が学生に及ぼす影響
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り方と根本的な差があるわけではないだろう。
しかし,
策中,ダム近くのぬかるみに足を取られ,靴ごと泥に
幼稚園や保育所とは異なる森という環境の中で,特化
まみれる。周囲の学生からは笑われるが,
キッツスタッ
して見えてくる関わり方があるのだと思われる。とり
フと引率教員(K子が在籍する短大以外の大学教員)
わけ人工的に配慮されているわけではない自然の環境
からは「体当たりで遊んだね」
「もう,汚れは気にな
において,スタッフ達が子どもに認める行動の許容範
らないでしょう」と声をかけられ,K子の萎縮した表
囲の広さは,普段の環境に慣れている学生にとっては
情が一変し,笑顔になる。吹っ切れたような表情が印
目を見張るものであったであろう。自分の想像を超え
象的①である。
たこのようなスタッフの対応から,学生は前述したよ
子どもたちが森にやって来ると,学生の多くは追い
うな自分の子どもへの関わり方を見直す機会を得るこ
かけっこをする,手をつないで散策するなど遊びの主
とができたのではないだろうか。 (白石)
導権をにぎる傾向にあったが,K子はそっと子どもの
傍に寄り,会話にさり気なく入っていく。木登りを始
2.事例紹介 ―K子の事例― めた子どもへのかかわりでは,
「がんばれ!」と大声
⑴ K子の「森のようちえん」への参加の経緯
で声援を送る学生がほとんどであったが,K子は男児
短期大学保育者養成課程に在籍するK子は,学生生
2人と木登りの際の足の運びを吟味し,先にのぼった
活の生活態度や学ぶ姿勢において否定的に見られるこ
男性スタッフの姿をじっと見た後,自身も登り始めた。
とが多かったが,森のようちえんでの子ども達とのか
1回目の活動ということで,森でどのように遊んでよ
かわりやスタッフから肯定的にみられる経験を重ね,
いか戸惑う学生が多い中,K子の子どもへのかかわり
保育への気づきが深まるという事例がみられた。ここ
方や自身も心のままに自然の中で遊ぶ姿は,「他の学
では,森での遊び(本人が遊ぶこと,子どもの遊びに
生と違った子どもとのかかわり」としてスタッフと引
かかわること)を通して見えてきた,学生への教育的
率教員の関心を引いた。
効果について報告する。
その日の帰り際,靴ごと泥まみれになったことを振
K子は,2014年現在,短期大学2年生である。入学
り返ってのK子の一言。
「びっくりしたけど,何だか
当初より保育者になることを目指しており,本活動へ
気持ちがよかったです。子どもも,こういう思いなの
の参加は本人の強い希望によるものである。1年次よ
かなって感じました。」
り森のようちえんに参加し,2年生になった現在も継
【第2回 7月6日 カヌー体験】
続を希望し,参加している。以下に述べるのは2013年
順番を守らずカヌーに乗ろうとする男児に,参加学
度K子1年次の事例である。
生が「順番は,守らないとだめだよ。」と,声をかけ
普段の学生生活において,K子は否定的な見方をさ
る。すると,K子がそっと男児に近づいて,
「早く乗
れることが多い学生であった。それは,遅刻や忘れ物
りたいよね。」と囁く。男児は走ってその場を去った。
をする,提出物の期限が守られない,ということが重
引率教員がK子に歩み寄ると,
「私だって,順番を待
なったためにもたらされた見方である。教員や同級生
てないくらい(カヌーに)早く乗りたいです。
」と子
から心配され,注意される対象であった。入学後,数
どもと自身の気持ちの重なりを伝えてきた。
か月が経過すると他の学生がK子を「おっちょこちょ
【第3回 8月21日~23日 キャンプ】
い」
「先生によく注意される」とひやかすようになり,
1日目夕食後の夜,4歳の女児が,大便を漏らした
学校生活の中で本学生は萎縮し,笑いものになること
と学生の元にやってきた。その場に居合わせた学生4
を甘んじて受け入れるようになっていった。
名は一瞬身動きができなくなったが,K子が間髪入れ
入学後間もない5月上旬,本活動への参加希望を
ずにトイレに女児を連れて行った。後にK子は,
「ど
募ったところ,本人から参加したいとの申し出があっ
うしようというより先に,その子が漏らして気持ち悪
た。K子に参加の動機を尋ねると,
「自然の中で子ど
いだろうなと思って,とにかくトイレで下着を脱がせ
も達と遊んでみたい」
「子ども達とのかかわりに自信
ました。対応の仕方は,そのあと聞けばいいかな,と
はもてないが,参加してみたい」
「自然が好き」など
考えました。」と振り返っている。② 他3名の学生は,
の言葉が返ってきた。
「まず,スタッフに対応を聞いてから行動しようと思っ
た。」と振り返った。
⑵ 「森のようちえん」でのK子の姿と気づき
【第4回 10月12日 登山】
次に示すのは,森のようちえんの開催経過における
この日は山に登り始めてほどなくして雨模様とな
K子の姿と気づきの一部である。K子の特徴が顕著に
り,子どもや学生にとって過酷な体験となった。「も
表れているエピソードを抜粋し,
概観することとする。
う歩けないよ。
」と弱音を吐く子どもたちに,ほとん
【第1回 6月1日】
どの学生は励ましの言葉をかけたが,K子は,
「辛い
第1回目の活動ということもあり,服装,持参物に
ね。お姉さんも,足が冷たくなってきたよ。
」と自身
不備がある。軽装で,靴の替えを持参していない。散
の感覚を伝え子どもの気持ちに寄り添っている姿が見
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福島大学総合教育研究センター紀要第18号
2015- 1
られる。頂上に辿り着いたと時を同じくして,雨が上
末型の子育て広場)における,
「子どもの見方が面白い。
がり見事な虹が空にかかった。目の前に広がる大パノ
よく子どもを理解しようとしている。」という担当教
ラマに参加学生は皆とても感動していた。多くの学生
員からの評価をはじめとし,学生生活全般を通して,
がこの感動的な虹の場面を振り返りシートに記入した
「落ち着いてきた」「表情が明るくなった」という声が
が,K子が記した内容は次のようなものであった。
「奥
聞かれるようになっていった。中には,森の中に行く
まで山を登っていると,途中で道の両脇から木の枝が
ようになってK子が成長した,と見解を伝える教員の
のびてトンネルのようになっていて,とってもかわい
姿もみられた。また,第2回目の幼稚園教育実習先へ
かった。登るのに疲れて,ふと上を見上げた時に見つ
筆者が訪問すると,K子の担当保育者から「とても穏
けたものだったからとてもいやされた。
」③
やかな表情で,子どもとかかわっている。朝早く出勤
【第5回 11月23日 最終回】
して,園の周辺を掃除してくれている。
」と,以前の
これまでの森のようちえんへの参加を振り返る感想
実習との違いに驚かれた。とはいえ,K子の言動が劇
の中で,K子は「子どもが一人でやりきろうとする力
的に変化したわけではなく,まだ気になる点が散見さ
を大切にしなければいけない」④と,子ども達とのか
れるのも事実である。しかしながら,K子が子どもと
かわりの中で最も印象に残った気づきを記している。
かかわる姿や自身が没頭して遊ぶ姿を森のようちえん
スタッフに肯定的に見てもらった経験が,本人の萎縮
⑶ 「森」でのK子に対する評価
した表情や不安を少しずつ解いていくきっかけになっ
森での活動の中でも,K子の忘れ物や周囲から笑わ
たといえるのではないだろうか。
れるような言動は変わらず見られていた。しかし,そ
こへの反応は,学内のものとは違っていた。下線部①
⑸ K子の事例から見えてきたこと
からは,K子が長靴を持参せず尚且つ泥地に足がはま
K子の森のようちえんでの経験や気づきを追ってい
る姿に対し,森のようちえんスタッフと引率教員から
くと,学内だけでは見えにくかった本学生の持ち味や
かけられた言葉が,
本学生の「萎縮した表情」を「吹っ
成長が見えてきた。科学的な根拠は未だ乏しいが,大
切れたような表情」
へ変えたことが読み取れる。また,
自然の中に身を任せて営まれる保育において,子ども
下線部②③のようなK子の視点は,
子どもの側に立った
と学生のかかわりの場面をみることは,両者のもつ豊
援助や感性であるとスタッフから評価された。それま
かな可能性を見出す手がかりになると考えられる。本
で多かった否定的な評価とは一転して肯定的に自身の
事例では,保育者を目指す学生に対して形成されつつ
子どもへのかかわりを評価されたことで自信がついた
ある一方向の見方を変える可能性が示唆されたといえ
と本人も述べている。また,
急がされることなく,ゆっ
よう。
たりとK子自身が自然を満喫した体験が,最終回の下
今回は1人の学生に焦点を当てたが,今後は他の学
線部④の気づきへとつながったのではないだろうか。
生の育ちの過程も追いながら,さらに森のようちえん
これら一連の森の中でのK子への評価は,意図して
に参加する学生の教育的効果を考えていく必要がある
肯定的にみようとしたのではなく,森の中の自然現象
と思われる。 (柴田千賀子)
とそれに伴った活動の多様性がもたらしたのではない
かと考える。実際,K子に先入観なく接した他大学の
おわりに
教員は,本学生の視点が子どもの側に立っていて保育
このような活動が,学生の子ども観や保育観に影響
者として望まれる資質だと評価している。
を与える様子を見ることができた。今後の課題として,
大自然の懐に抱かれた森の中の活動において,子ど
学生の変化をより客観的に捉えることへの追究や,森
もの多様な育ちが見えると同時に,学生の育ちや子ど
のようちえんとのさらなる連携が挙げられる。また,
もとのかかわり方も多様に見えてきた事例である。
各学校の事情により,共通して参加できる日程を確保
することが困難であるという課題もある。 (白石)
⑷ 短大におけるK子への評価の変化
前述のように,K子は学生生活において,否定的に
主要参考文献
みられることが多かった。第1回目の幼稚園・保育所
1)今村光明章(2011)
:森のようちえんとは何か―用語「森
のようちえん」の検討と日本への紹介をめぐって― 環
境教育 VOL.21-1
2)木戸啓絵(2010):現代の幼児教育から見たドイツの
森の幼稚園 青山学院大学教育人間科学部紀要1,6985
3)ピーター・ヘフナー著 佐藤竺訳(2009)ドイツの自
然・森の幼稚園―就学前教育における正規の幼稚園の代
替物―:公人社
実習においても同様で,
「忘れ物があり,時間管理が
徹底されない。
」
「注意されることが多く,萎縮して元
気がない。
」
と担当保育者から指摘されていた。
しかし,
森のようちえんへの参加を重ね,森でのK子への評価
を引率教員から他教員へ周知していくと,学内でのK
子の成長も話題に上るようになった。
短大附属施設「親
と子の広場」(0歳児から小学生が親子で参加する週