2.表丹沢 烏 尾 山 仲 尾 根 (その1) 【2014 年 11 月 15 日】 作治小屋の管理人、津々木さんお勧めのコースですが、 “まさか” との思いが先立ち、 登る意欲が沸き立ちませんでした。作治小屋手前の小さな道標から続く雑木林の斜面に、 何となく踏み跡らしき道筋がようやく見いだせる登り口。その先に、見晴らしのよい尾根道が 続くとは、予想できませんでした。しかし先週末(11/8)、烏尾山頂から下降を試みてみまし た。降り口がどこか分からず、踏み跡らしき斜面を降りてみたのですが、すぐに踏み跡は消 えてしまいます。 “これは下から登ってみるしかない” と思い直し、今日の試みとなります。 作治小屋の野外テーブルで、おにぎりの腹ごしらえをしてから出発。少し戻り、小さな道標の 踏み跡を分け入ります。 【烏尾山 仲尾根ルートと近傍】 -9- 雑木林の中、落ち葉が積もった急な斜 面は滑りやすく、はっきりしない踏み跡は、 見当をつけて登ります。落ち葉の斜面を 登り切り、ゆるやかにふくらんだ尾根に出 ると、道標があります。それまでの暗い雑 木林は一変し、周囲が開けます。岩屑と 乾いた土混じりな斜面は、芝生のように 背の低い雑草がまだらに生えています。 最初の道標(戸沢出合 10 分/烏尾山 80 分) ヒマラヤ・キャラバン中の、丘陵越えを思 い起こします。しかし日本の、そして丹沢 の秋の山は、草原の緑と対照する雑木の 紅葉とが青空に映えます。赤(R)・緑(G)・ 青(B)は美の基本となる、光の3原色を反 映させているからなのでしょうか。 快晴の秋空から注ぐ陽の光は、長袖ア ンダーシャツ一枚で丁度良い。市販地図 道標からしばらく登り上部を見る に載っていないこのルートには、山ガール、 山ボーイはいませんので、ファッションと無 関係な自然美と調和の世界です。 途切れがちな踏み跡には、整備された 丸太階段もなく、動物の糞が散乱してい ます。そう言えば今年の春、この尾根が 始まる戸川林道で、日本カモシカと出会 いました。そんなことから何となく、動物の 道標からしばらく登り下部を見る 気配が漂います。 - 10 - 土と岩まじりの急な草地斜面は滑りや すい。滑らないように歩くのが、登山技術 です。斜面に合わせて靴底を重ね、足 首を曲げて体重を鉛直にかける。足首が 曲がりきれない急斜面は、サイドステップ よろしく、足を開いてくるぶしを曲げ、鉛 直に体重をかける。バランスよく楽に登 れることが、滑らないコツでもあります。 仲尾根の中間部分 丸みを帯びた草原風な仲尾根は、振 り返れば塔ヶ岳を盟主にして、左に延び る大倉尾根と、右に延びる表尾根とが一 望です。大倉尾根越しに、7合目くらいま で雪に覆われた富士山が姿を現します。 登るにつれ、その姿は大きくなります。谷 側斜面の紅葉は、少し遅れぎみなのでし 中間部分は気持ち良い草原(上を見る) ょうか、まだ緑の葉っぱが多く残ります。 見晴らし良く、気分爽快な仲尾根です。 谷側斜面の紅葉 中間部分は気持ち良い草原(下を見る) - 11 - 仲尾根中間部から見る大倉尾根~塔ヶ岳~表尾根 烏尾山頂近くになると、茅との尾根になります。土に含まれた水は 2cm ほどの霜柱となっ ていますが、まだ陽が当たらずにサクサクと音を立てて崩れます。途中、大きな角をはやした 鹿が倒れたような、朽ちた倒木をすり抜けます。 遠く富士山を背に、ひと登りで烏尾山頂です。 鹿が倒れたような倒木 見下ろす仲尾根と背景の富士山 烏尾山頂から仲尾根への降り口(矢印) - 12 - 烏 尾 山 仲 尾 根 (その2) 【2015 年 2 月 7 日】 2週間前に偶然、作治小屋の少し手前で W さんご夫妻に追いつきました。そして作治小 屋で私は、恒例の腹ごしらえのオニギリを食べます。W さんご夫妻は、タバコで一服。 「どちらへ行かれるのですか」 と私。 「天神尾根です」 と W さんご夫妻。 「仲尾根へ行 きますが、景色がとてもいいですよ。案内しましょうか」 と私。「やはり今日は天神尾根へ行き ますよ」 と W さん。さらに 「次の機会に仲尾根へ行ってみます」 と、W さん。 作治小屋で別れ、それぞれの予定ルートへと向かいました。 水無川に架かる 「風の吊り橋」 を渡ったところにベンチがあります。私はいつもここで、出 発の準備をします。2週間後の今日ふたたび、靴ひもを結んでいると背後から、W さんご夫 妻の声がかかります。そして、 「それじゃ一緒に、仲尾根へ行きましょう!」 ということになり ました。ご主人は定年を過ぎ、週末はご夫妻で丹沢歩きをしているという、いわば私と同族に なります。 路面の水たまりが凍ったでこぼこ道の戸川林道を、 作治小屋まで 1 時間 10 分。小屋のテーブルで一息入 れた後、少し戻ってから登りにかかります。2 本ある私の ストックの 1 本を、奥様に使っていただきます。ご主人 はストックを使わない主義ということで、それはまた大変 結構なことでもあります。私も同様な見解なのですが、 昨年からは冬の霜柱の急な斜面や、積雪のあるところ で使用することにしています。冬場のみに使います。 森林帯から第一の道標を過ぎ、枯れた木々の尾根 を登ると、見晴らしの良い草原地帯となります。今は草 枯れ木の尾根道を進むご夫妻 も枯れてしまい、表土を霜柱が持ち上げる、滑りやすい急な斜面を一歩一歩登ります。大倉 尾根越しに見える富士山は雲に覆われはじめ、雪か雲かわからなくなります。登り初めに晴 - 13 - れていた空は、時間とともに雲の量が増えてきます。 せめて富士山が見える高さまで、晴れてくれると良 いのですが・・・、ギリギリでアウトになりました。 それでもご夫妻は、これまで登ってきた丹沢の、ど の尾根道とも異なり、開放的で見晴らしが良いこの 尾根に、感嘆の声しきりです。私は口を閉じ、その 上に人差し指を縦に押し当てます。「秘密!」 のサ イン。素晴らしいルートゆえ、秘密のルートにしてお きたいものです。 あの大倉尾根の丸太階段登山道のよう、そこだけ に登山者が集中してしまう結果、整備せざるを得な くなり、自然としての山道ではなくなります。山の自 枯れた草原の中間部を登る 然を歩く、登山本来の姿が消えてしまうからです。 登山の大衆化と自然保護は表裏一体となりますが、 問題はブランド志向となる、特定コースへの集中で す。登山道整備はほどほどにして自然を確保し、そ れをいかにして登るのか、登山技術を習得すべきと 思うのです。“最初からアイゼン” ではなく、まず基 硬雪が残る仲尾根上部を登る-1 硬雪が残る仲尾根上部を登る-2 - 14 - 本となる、キックステップの習得です。足の置き方、フ ットワークと重心移動の習得です。 仲尾根上部には硬雪が残ります。その雪の上に、 靴跡が残っていました。私の靴を押し当てると、ピッタ リです。そう、前週に登った私の靴跡でした。それに並 行して、鹿の足跡も残っています。やはり鹿も、登山道 は歩きやすいのでしょう。雪が出てきたところで、奥様 にストック 2 本を使っていただき、男性陣はストックなし です。キックステップ歩行、足の置き方、フットワーク と、、僭越ながら教示します。 烏尾山頂へ最後の登りは、奥様を先 あと少しで烏尾山頂です 頭に、ご主人と私が続きます。2 時間ちょ っとの登りでした。山頂は北西の風が強く、 空は一面雲におおわれています。烏尾 山荘が開いていたので、中に入ります。 私はいつも立ち寄るので、黙っていて も山荘の主、三木さんは、ドリップコーヒ ーを入れ始めます。W さんの奥様が三人 分のお金を渡すと、三木さんは受け取り ません。今日の気分は “サービスデイ” 。 仲尾根を登り、烏尾山頂へ到着 「それでは申し訳ないです」 と奥様は、 次に来た時の差し入れ品を聞きます。さらに、「トイレットペーパーはどうですか?」 と、女性 ならではの発言です。 「それが一番!」 と応じる三木さん。 「トイレットペーパーなら軽いか ら・・・!」 と茶化すご主人。小屋に他の客はおらず、還暦過ぎた高齢者の会話です。私は 最後のオニギリを食べ、漬物を皆に配ります。W さんご夫妻と三木さんは、喫煙タイム。 - 15 - ゆったりコーヒーを味わうと、ご夫妻の足は鈍ります。 12 時も過ぎ、雪の表尾根から塔ヶ岳を回るには遅くなり ました。三ノ塔尾根を下る私に、ご夫妻も同行すること になります。三ノ塔登りの雪の斜面に三木さんは、 「ベ テランが一緒だから大丈夫!」 とご夫妻を励まします。 小屋を出ると、空は薄暗い雲におおわれています。北 西の風も強く、体感温度は下がります。三ノ塔への登り 斜面の雪は適度に硬く締まり、キックステップで登りや すい雪質です。アイゼンをつけず、私が先頭で手本を 示します。ご夫妻も難なく登りきり、三ノ塔へ到着。風が 三ノ塔への登り斜面 強く寒いので、休まずに三ノ塔尾根を下ります。 三ノ塔尾根を下る登山道は踏み固められ、一部氷化 しています。私は登山道を外れた薄雪の斜面を駆け下り、 ご夫妻にも勧めます。一見無鉄砲にも見えますが、慣れ ると一番楽で、膝関節に優しい降り方なのです。やがて 味をしめ、ご夫妻も私の後を続きます。ツアー登山では 決して教えない、熟達の技です。 三ノ塔への登り斜面 三ノ塔尾根を下り、「おおすみ山居」 へも案内します。後日のメールから、山を 楽しむバリエーションの伝達ができたよう で、同行案内の甲斐がありました。 三ノ塔、小屋の直前 - 16 -
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