2014.11.15 2015.02.07 表丹沢 烏尾山仲尾根

2.表丹沢 烏 尾 山 仲 尾 根 (その1)
【2014 年 11 月 15 日】
作治小屋の管理人、津々木さんお勧めのコースですが、 “まさか” との思いが先立ち、
登る意欲が沸き立ちませんでした。作治小屋手前の小さな道標から続く雑木林の斜面に、
何となく踏み跡らしき道筋がようやく見いだせる登り口。その先に、見晴らしのよい尾根道が
続くとは、予想できませんでした。しかし先週末(11/8)、烏尾山頂から下降を試みてみまし
た。降り口がどこか分からず、踏み跡らしき斜面を降りてみたのですが、すぐに踏み跡は消
えてしまいます。 “これは下から登ってみるしかない” と思い直し、今日の試みとなります。
作治小屋の野外テーブルで、おにぎりの腹ごしらえをしてから出発。少し戻り、小さな道標の
踏み跡を分け入ります。
【烏尾山 仲尾根ルートと近傍】
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雑木林の中、落ち葉が積もった急な斜
面は滑りやすく、はっきりしない踏み跡は、
見当をつけて登ります。落ち葉の斜面を
登り切り、ゆるやかにふくらんだ尾根に出
ると、道標があります。それまでの暗い雑
木林は一変し、周囲が開けます。岩屑と
乾いた土混じりな斜面は、芝生のように
背の低い雑草がまだらに生えています。
最初の道標(戸沢出合 10 分/烏尾山 80 分)
ヒマラヤ・キャラバン中の、丘陵越えを思
い起こします。しかし日本の、そして丹沢
の秋の山は、草原の緑と対照する雑木の
紅葉とが青空に映えます。赤(R)・緑(G)・
青(B)は美の基本となる、光の3原色を反
映させているからなのでしょうか。
快晴の秋空から注ぐ陽の光は、長袖ア
ンダーシャツ一枚で丁度良い。市販地図
道標からしばらく登り上部を見る
に載っていないこのルートには、山ガール、
山ボーイはいませんので、ファッションと無
関係な自然美と調和の世界です。
途切れがちな踏み跡には、整備された
丸太階段もなく、動物の糞が散乱してい
ます。そう言えば今年の春、この尾根が
始まる戸川林道で、日本カモシカと出会
いました。そんなことから何となく、動物の
道標からしばらく登り下部を見る
気配が漂います。
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土と岩まじりの急な草地斜面は滑りや
すい。滑らないように歩くのが、登山技術
です。斜面に合わせて靴底を重ね、足
首を曲げて体重を鉛直にかける。足首が
曲がりきれない急斜面は、サイドステップ
よろしく、足を開いてくるぶしを曲げ、鉛
直に体重をかける。バランスよく楽に登
れることが、滑らないコツでもあります。
仲尾根の中間部分
丸みを帯びた草原風な仲尾根は、振
り返れば塔ヶ岳を盟主にして、左に延び
る大倉尾根と、右に延びる表尾根とが一
望です。大倉尾根越しに、7合目くらいま
で雪に覆われた富士山が姿を現します。
登るにつれ、その姿は大きくなります。谷
側斜面の紅葉は、少し遅れぎみなのでし
中間部分は気持ち良い草原(上を見る)
ょうか、まだ緑の葉っぱが多く残ります。
見晴らし良く、気分爽快な仲尾根です。
谷側斜面の紅葉
中間部分は気持ち良い草原(下を見る)
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仲尾根中間部から見る大倉尾根~塔ヶ岳~表尾根
烏尾山頂近くになると、茅との尾根になります。土に含まれた水は 2cm ほどの霜柱となっ
ていますが、まだ陽が当たらずにサクサクと音を立てて崩れます。途中、大きな角をはやした
鹿が倒れたような、朽ちた倒木をすり抜けます。
遠く富士山を背に、ひと登りで烏尾山頂です。
鹿が倒れたような倒木
見下ろす仲尾根と背景の富士山
烏尾山頂から仲尾根への降り口(矢印)
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烏 尾 山 仲 尾 根 (その2)
【2015 年 2 月 7 日】
2週間前に偶然、作治小屋の少し手前で W さんご夫妻に追いつきました。そして作治小
屋で私は、恒例の腹ごしらえのオニギリを食べます。W さんご夫妻は、タバコで一服。
「どちらへ行かれるのですか」 と私。 「天神尾根です」 と W さんご夫妻。 「仲尾根へ行
きますが、景色がとてもいいですよ。案内しましょうか」 と私。「やはり今日は天神尾根へ行き
ますよ」 と W さん。さらに 「次の機会に仲尾根へ行ってみます」 と、W さん。
作治小屋で別れ、それぞれの予定ルートへと向かいました。
水無川に架かる 「風の吊り橋」 を渡ったところにベンチがあります。私はいつもここで、出
発の準備をします。2週間後の今日ふたたび、靴ひもを結んでいると背後から、W さんご夫
妻の声がかかります。そして、 「それじゃ一緒に、仲尾根へ行きましょう!」 ということになり
ました。ご主人は定年を過ぎ、週末はご夫妻で丹沢歩きをしているという、いわば私と同族に
なります。
路面の水たまりが凍ったでこぼこ道の戸川林道を、
作治小屋まで 1 時間 10 分。小屋のテーブルで一息入
れた後、少し戻ってから登りにかかります。2 本ある私の
ストックの 1 本を、奥様に使っていただきます。ご主人
はストックを使わない主義ということで、それはまた大変
結構なことでもあります。私も同様な見解なのですが、
昨年からは冬の霜柱の急な斜面や、積雪のあるところ
で使用することにしています。冬場のみに使います。
森林帯から第一の道標を過ぎ、枯れた木々の尾根
を登ると、見晴らしの良い草原地帯となります。今は草
枯れ木の尾根道を進むご夫妻
も枯れてしまい、表土を霜柱が持ち上げる、滑りやすい急な斜面を一歩一歩登ります。大倉
尾根越しに見える富士山は雲に覆われはじめ、雪か雲かわからなくなります。登り初めに晴
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れていた空は、時間とともに雲の量が増えてきます。
せめて富士山が見える高さまで、晴れてくれると良
いのですが・・・、ギリギリでアウトになりました。
それでもご夫妻は、これまで登ってきた丹沢の、ど
の尾根道とも異なり、開放的で見晴らしが良いこの
尾根に、感嘆の声しきりです。私は口を閉じ、その
上に人差し指を縦に押し当てます。「秘密!」 のサ
イン。素晴らしいルートゆえ、秘密のルートにしてお
きたいものです。
あの大倉尾根の丸太階段登山道のよう、そこだけ
に登山者が集中してしまう結果、整備せざるを得な
くなり、自然としての山道ではなくなります。山の自
枯れた草原の中間部を登る
然を歩く、登山本来の姿が消えてしまうからです。
登山の大衆化と自然保護は表裏一体となりますが、
問題はブランド志向となる、特定コースへの集中で
す。登山道整備はほどほどにして自然を確保し、そ
れをいかにして登るのか、登山技術を習得すべきと
思うのです。“最初からアイゼン” ではなく、まず基
硬雪が残る仲尾根上部を登る-1
硬雪が残る仲尾根上部を登る-2
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本となる、キックステップの習得です。足の置き方、フ
ットワークと重心移動の習得です。
仲尾根上部には硬雪が残ります。その雪の上に、
靴跡が残っていました。私の靴を押し当てると、ピッタ
リです。そう、前週に登った私の靴跡でした。それに並
行して、鹿の足跡も残っています。やはり鹿も、登山道
は歩きやすいのでしょう。雪が出てきたところで、奥様
にストック 2 本を使っていただき、男性陣はストックなし
です。キックステップ歩行、足の置き方、フットワーク
と、、僭越ながら教示します。
烏尾山頂へ最後の登りは、奥様を先
あと少しで烏尾山頂です
頭に、ご主人と私が続きます。2 時間ちょ
っとの登りでした。山頂は北西の風が強く、
空は一面雲におおわれています。烏尾
山荘が開いていたので、中に入ります。
私はいつも立ち寄るので、黙っていて
も山荘の主、三木さんは、ドリップコーヒ
ーを入れ始めます。W さんの奥様が三人
分のお金を渡すと、三木さんは受け取り
ません。今日の気分は “サービスデイ” 。
仲尾根を登り、烏尾山頂へ到着
「それでは申し訳ないです」 と奥様は、
次に来た時の差し入れ品を聞きます。さらに、「トイレットペーパーはどうですか?」 と、女性
ならではの発言です。 「それが一番!」 と応じる三木さん。 「トイレットペーパーなら軽いか
ら・・・!」 と茶化すご主人。小屋に他の客はおらず、還暦過ぎた高齢者の会話です。私は
最後のオニギリを食べ、漬物を皆に配ります。W さんご夫妻と三木さんは、喫煙タイム。
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ゆったりコーヒーを味わうと、ご夫妻の足は鈍ります。
12 時も過ぎ、雪の表尾根から塔ヶ岳を回るには遅くなり
ました。三ノ塔尾根を下る私に、ご夫妻も同行すること
になります。三ノ塔登りの雪の斜面に三木さんは、 「ベ
テランが一緒だから大丈夫!」 とご夫妻を励まします。
小屋を出ると、空は薄暗い雲におおわれています。北
西の風も強く、体感温度は下がります。三ノ塔への登り
斜面の雪は適度に硬く締まり、キックステップで登りや
すい雪質です。アイゼンをつけず、私が先頭で手本を
示します。ご夫妻も難なく登りきり、三ノ塔へ到着。風が
三ノ塔への登り斜面
強く寒いので、休まずに三ノ塔尾根を下ります。
三ノ塔尾根を下る登山道は踏み固められ、一部氷化
しています。私は登山道を外れた薄雪の斜面を駆け下り、
ご夫妻にも勧めます。一見無鉄砲にも見えますが、慣れ
ると一番楽で、膝関節に優しい降り方なのです。やがて
味をしめ、ご夫妻も私の後を続きます。ツアー登山では
決して教えない、熟達の技です。
三ノ塔への登り斜面
三ノ塔尾根を下り、「おおすみ山居」
へも案内します。後日のメールから、山を
楽しむバリエーションの伝達ができたよう
で、同行案内の甲斐がありました。
三ノ塔、小屋の直前
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