公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【腔腸動物(刺傷) 】Ver.1.01 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 腔腸動物(こうちょうどうぶつ)(刺傷) 1.概要 クラゲ、カツオノエボシ、イソギンチャク、サンゴなどの腔腸動物(刺胞動物)は、一 般に刺胞を有しており、刺激により発射された刺胞が皮膚に刺さると有毒物質が注入され る。無毒とされる腔腸動物も刺胞をそなえているが、ヒトで問題になるほどの毒はもたず、 刺傷による被害はハブクラゲ、アンドンクラゲ、カツオノエボシなど約 70 種の腔腸動物に 限ら れ て いる 。 オ ース トラ リ ア や東 南 ア ジア にい る オ ース ト ラ リア ウン バ チ クラ ゲ (box jellyfish (別名;sea wasp))では死亡例も少なくない。 毒成分は不安定なため解明は進んでいないが、タンパク質ないしペプチドが主体で、分 子量は数千から数十万までさまざまである。 1)2) 2.毒性 1) カツオノエボシの粗毒:マウス腹腔内 LD50 50∼70μg/kg ウメボシイソギンチャクの equinatoxin:シロネズミ静注 LD50 毒成分による直接作用とアレルギー作用がある 33.3μg/kg 3.症状 2)3)5) 症状は腔腸動物の種類、接触時間、被害部位などで異なり、個人差もある 軽症では局所の疼痛と軽い全身の脱力感 中等症では局所症状に加えて全身のしびれ感、胸部絞扼感、咳嗽 重症では嘔吐、唾液分泌亢進、歩行困難、呼吸困難など 循環器系:血圧上昇 呼吸器系:胸部絞扼感、咳嗽、重症では呼吸困難 神経系 :脱力感(一般的)、全身のしびれ感、めまい、頭痛、筋痙縮、筋肉痛、 関節痛(重症例) 消化器系:悪心、嘔吐、唾液分泌の亢進 眼 :流涙 皮膚:刺胞による皮膚症状は種により異なる 局所の痛み、発赤腫脹、水泡、膿胞、そう痒、リンパ腺症、蕁麻疹 検査所見:白血球数上昇、CPK 値上昇 4.処置 3)5)7)8) 現場での応急手当 1)触手、刺胞の除去 ① 刺傷部を海水でこすらずに洗って、触手や刺胞を落とす(真水や温湯、アルコ ール、酢は、刺胞を発射させるため、使用しない)。 ハブクラゲ(琉球列島)、オーストラリアウンバチクラゲ(オーストラリア)の 場合は、直ちに食酢を大量にかけて(30 分間浸すようにして)、触手を洗い落と す。 触手の除去に酢の使用が勧められるのは、ネッタイアンドンクラゲ目 (Chirodropida)に属する刺 胞 動物のみである 7)。 ネッタイアンド ンクラ 1/4 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【腔腸動物(刺傷) 】Ver.1.01 ゲ目以外の刺胞動物では、酢の使用が刺胞の発射を促進させることがあり、 使用しない。 ② 残存する触手などは、ゴム手袋をして除去する 2)痛みの緩和 カツオノエボシ、非熱帯性のクラゲ、イソギンチャクの場合は、患部を湯(45℃。 火傷するため、これより高温にしないこと)に浸す(最長 20 分まで)と痛みが緩 和される。 (ハブクラゲ、オーストラリアウンバチクラゲは該当しない) 医療機関での処置 1)局所症状に対してはステロイド軟膏、抗ヒスタミン軟膏、局所麻酔剤入り軟膏の塗 布 2)中等症では、ステロイド剤、抗ヒスタミン剤、グルタチオン、セファランチンなど の静注。数時間の経過観察 3)重症では呼吸循環管理 ショック、低血圧には輸液、昇圧剤投与 4)サンゴによる切傷には洗浄、debridement、抗生物質投与 5.確認事項 1)腔腸動物の種類、受傷部位 2)刺されてからの時間 3)患者の状態:局所症状のみか全身症状も出現しているか 6.情報提供時の要点 全身症状が認められる場合は直ちに受診を指示 7.中毒学的薬理作用 1)2) 1)オーストラリアウンバチクラゲの部分精製毒:溶血性、皮膚壊疽性、心臓毒性。溶血 および皮膚壊疽因子は抗原性をもつ 2)カツオノエボシの粗毒:毒作用は、活性ペプチド、各種酵素、その他の因子からなる 多成分系の総合作用とされる。皮膚壊疽性、心臓毒性 3)ウメボシイソギンチャクの equinatoxin:強い溶血作用。抗原性 8.治療上の注意点 2)3)5) 1)皮膚に触手が付着していると、刺激により刺胞が発射されるので、こすったり、淡水 やアルコールで洗ってはいけない。海水で静かに洗い流す 2)有効な治療法が確立されていないので対症的に行わざるを得ない 3)咳嗽にはヒドロコルチゾン静注が有効という報告がある 5) 4)オーストラリアウンバチクラゲの抗毒素は Commonwealth Serum Laboratories (CSL) (オーストラリア、メルボルン)で入手できる 9.主な原因動物 2)4)6)9) クラゲ、イソギンチャク、サンゴ等の刺胞動物は、着生性のポリプ型と浮遊性のクラ ゲ型のどちらの形態をとるかで複数の「綱(コウ)」に分類される。「綱」には、立方ク ラゲ綱(Cubozoa)、ヒドロチュウ綱(Hydrozoa)、鉢虫(ハチムシ)綱(Scyphozoa)、花虫 2/4 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【腔腸動物(刺傷) 】Ver.1.01 (カチュウ)綱(Anthozoa)などがあるが、現在も綱の日本語標記や、刺胞動物をどの綱 に分類するか等に変動がみられる。 ハブクラゲ、オーストラリアウンバチクラゲは、立方クラゲ綱(Cubozoa)のネッタイア ンドンクラゲ目(Chirodropida)に分類される。 ・アカクラゲ 日本南部では冬から春、日本海で春から夏、北海道近海では夏に現れる。刺胞毒 はかなり強い 学名: Chrysaora melanaster ・アマクサクラゲ 夏には日本中南部、特に九州天草地方に漂流。刺胞毒は強烈 学名: Sanderia malayensis ・アンドンクラゲ 夏には北海道西南部まで現れる。刺胞毒は強い 学名: Carybdea brevipedalia ・イラモ 南紀地方の岩礁に多産、奄美、沖縄にも産する。刺胞毒は強烈 学名: Stephanoscyphus racemosum ・ウデナガウンバチ、ハナブサイソギンチャク 主な生息地は紀伊半島、琉球列島 ウデナガウンバチ(学名:Megalactis hemprichii )、ハナブサイソギンチャク(学 名: Actinodendron arboreum ) ・ウメボシイソギンチャク 主な生息地は陸奥湾から九州 学名: Actinia equina ・オーストラリアウンバチクラゲ オーストラリアや東南アジアに分布。刺胞毒は非常に強い 学名: Chironex fleckeri ・カツオノエボシ 日本近海に夏・秋頃接近。刺胞毒はきわめて強力。死亡例もある 学名: Physalia physalis ・キタカギノテクラゲ 東北、北海道、沿海州。ホンダワラの間にすむ。刺胞毒は非常に強い 学名: Gonionemus oshoro 2) キタカギノテクラゲはカギノテクラゲ(学名: Gonionemus vertens の仲間) ・ハナガサクラゲ 日本中南部沿岸。毒性は中程度 学名: Olindias formosa ・ハナガササンゴ 館山湾以南の太平洋岸、九州西岸。低潮線下の岩礁に着生。かなり強い水溶性毒 をもつ 学名: Goniopora lobata ・ハブクラゲ 沖縄県内ほぼ全域に分布し、5∼10 月頃に発生する。刺されるとショックを起こ すこともあり、死亡例も報告されている 8) 学名: Chironex yamaguchii ・ヒクラゲ 主な生息地は瀬戸内海 3/4 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【腔腸動物(刺傷) 】Ver.1.01 学名: Morbakka virulenta ・ボウズニラ 本州中部以南。刺胞毒は相当強いとする資料がある一方 6)、弱いと記載された文 献もある 2)。 学名: Rhizophysa eysenhardtii 10.参考文献 1)魚貝類の毒(1977) 2)橋本周久、他:採集と飼育、50(8):347∼351、1988 3)Poisindex (1992) 4)Stein MR et al:Ann Emerg Med、18(3):312∼315、1989 5)長嶺敬彦:救急医学、9:377∼380、1985 6)標準原色図鑑全集 海岸動物(1971) 7)Poisindex(2014) 8)沖縄県衛生環境研究所.“きけん海の生き物 ハブクラゲ”.気をつけよう!!海のキケン 生物.http://www.eikanken-okinawa.jp/.(参照:2015-05-20) 9)海上保安庁海洋情報部海洋情報課 / 日本海洋データセンター(JODC). “JODC オンライ ン デ ー タ 提 供 シ ス テ ム ( J-DOSS )”. 日 本 海 洋 デ ー タ セ ン タ ー . http://www.jodc.go.jp/jodcweb/index_j.html.(参照:2015-05-20) 11.作成日 19900215 Ver.1.00 20150615 Ver.1.01 ID M70090_0101_2 新規作成 部分改訂 4/4 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved
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