廃油処理剤 - 中毒情報センター

公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
【廃油処理剤】Ver.1.00
公益財団法人 日本中毒情報センター
保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
廃油処理剤
1.概要
廃油処理剤には油を固めて廃棄するものと、乳化させて廃棄するもの、廃油を利
用して石けんを作るタイプの 3 種類ある。
1)固めるタイプの成分はヒマシ油誘導体のものが多く、2) 乳化させるタイプは
非イオンおよび陰イオン界面活性剤が主成分で 40~100%含有する。3) 廃油と混合
して石けんを作るタイプの商品は、粉末やペーストで主成分がオルトケイ酸ナトリ
ウム(90~100%)またはメタケイ酸ナトリウム(約 18%)のもの、液体で主成分
がオルトケイ酸カリウム(40%)のものがある。界面活性剤、炭酸ナトリウム等を
含有する商品もある。液性は弱アルカリ性(pH10~10.8)~強アルカリ性(pH12 以
上)である。一部の商品は 2 剤セットになっており、助剤のほうは、過炭酸ナトリ
ウム、EDTA 四ナトリウム含有のものや、ヒマシ油、リモネン、オレイン酸含有のも
のとさまざまである。
2.毒性
1)ヒマシ油系廃油処理剤
ヒマシ油:ヒト推定致死量 5~15g/kg(1)
2)界面活性剤系廃油処理剤
陰イオン界面活性剤:ヒト経口推定致死量 約 200g(2)
ラット経口 LD50
1~5g/kg(3)
非イオン界面活性剤:ラット経口 LD50
8~30g/kg(3)
3)ケイ酸塩含有廃油処理剤:中毒は主にケイ酸塩に起因する
オルトケイ酸ナトリウム:ラット経口 LD50 1,300mg/kg(4)
メタケイ酸ナトリウム:ラット経口 LD50 1,153mg/kg(5)
3.症状
1)ヒマシ油系廃油処理剤:嘔吐、腹痛、下痢
2)界面活性剤系廃油処理剤:口腔・咽頭の炎症、嘔吐、下痢、腹痛、大量摂取時
に運動麻痺、体温低下、痙攣、血圧低下、GOT・GPT 上昇の報告がある(6)
3)ケイ酸塩含有廃油処理剤:(1)(4)(8)(9)
強アルカリ性の商品・・・粘膜腐食作用、
弱アルカリ性の商品・・・粘膜刺激作用
上記アルカリによる症状とケイ酸ナトリウムによる腎障害が主(セメント
急結剤の項参照)
4.処置
家庭で可能な処置
2)界面活性剤系廃油処理剤
経口:牛乳(120~240mL、幼児 15mL/kg 以下)などを与える
大量服用時・・・催吐(ただし乳幼児の場合、吐物を気管内に吸い
込むことがあるので注意が必要)
3)ケイ酸塩含有廃油処理剤
経口:口腔内洗浄、牛乳(120~240mL、幼児 15mL/kg 以下)などを与える
経皮・眼:直ちに流水で 15 分以上洗浄
医療機関での処置
1/3
copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved.
公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
【廃油処理剤】Ver.1.00
1)ヒマシ油系廃油処理剤、2)界面活性剤系廃油処理剤
対症療法
3)ケイ酸塩含有廃油処理剤(1)(4)(8)
基本的処置:要すれば気道確保
ショックに備え点滴静注路の確保と体液の補充
大量服用の場合、早期(30 分以内)に冷たい牛乳で胃洗浄
(穿孔に注意して)。粘膜保護剤の投与
対症療法:狭窄の予防(ステロイドの投与、胃チューブの挿入)、
消化管穿孔や狭窄に外科的処置、腎不全に血液透析など
5.確認事項
1)商品名、成分の確認:固めるタイプか、乳化させるタイプか、石けんを
つくるタイプか(2 剤セットのものではどちらを
摂取したのか)
2)濃度:商品そのものを口にしたのか。廃油を混合したものを口にしたのか
3)摂取量:少しなめた程度か、容器から大量に飲んでいるのか
4)患者の状態:嘔吐や下痢、口腔内の灼熱感、その他変化の有無
6.情報提供時の要点
1)ヒマシ油の症状発現は 2~6 時間といわれ(7)、ヒマシ油系処理剤の問い合わ
せ時に嘔吐や腹痛の症状がでていることも多い。症状が現れているときには
受診を指示する
2)乳化タイプの場合には、なめた程度なら牛乳、卵白などをとらせ様子をみる
(刺激を緩和するため)。ただし、界面活性剤の濃度が 40~100%と高いため、
1 口以上飲んでいれば症状発現の可能性が高いことを伝え、受診を指示
3)ケイ酸塩含有廃油処理剤で、強アルカリ性の製品を口に入れた場合、すぐに
受診を指示。また眼に入った場合、洗浄後すぐに受診を指示
7.体内動態
1)ヒマシ油は小腸で加水分解され、グリセリンとリシノール酸ナトリウムになる。
リシノール酸ナトリウムは小腸における水の吸収と輪状平滑筋の収縮力を
抑制することによって瀉下作用を起こす(7)
2)陰イオン界面活性剤は、消化管から吸収され数時間後に肝臓で代謝を受け、
ほとんど 24 時間以内に尿中および便中排泄される(3)
3)ケイ酸ナトリウムは水溶性であり、水溶液はケイ酸とナトリウムになるため
吸収、排泄は速く、排泄に腎が関与しているといわれている
8.中毒学的薬理作用
界面活性剤:細胞膜の脂質に作用して膜の機能を消失させる。直接的な
粘膜刺激作用(6)
ケイ酸ナトリウム:アルカリによる皮膚・粘膜の刺激・腐食作用・・・水に溶け
加水分解して水酸化ナトリウムを生じる。
腎障害作用(尿細管障害)(10)
9.治療上の注意点
ケイ酸塩含有製品の場合
1)腎毒性があるので腎機能をモニターし、必要に応じ血液透析
2)口腔内の傷害の程度と食道・胃の傷害の程度とは必ずしも一致しない
2/3
copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved.
公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
【廃油処理剤】Ver.1.00
3)声門浮腫を生じ、気道閉塞をきたすこともあるので注意深い観察が必要
4)食道や胃の穿孔をきたしていない場合でも、後になって瘢痕狭窄をきたす
ことが多い。狭窄発生の早期発見に努める(食道・胃透視、 内視鏡)
5)一般に酸よりもアルカリによるほうが瘢痕狭窄を生じやすく、その程度も
強いといわれている
6)特異的な治療法はなく、急性期の救急処置、全身管理と狭窄の予防、慢性期
の狭窄の治療が中心となる
11.参考文献
(1)Clinical Toxicology of Commercial Products (1984)
(2)澤田祐介、他:救急医学、12(10):1415、1988
(3)救急中毒ケースブック (1986)
(4)産業中毒便覧 (1981)
(5)RTECS (1997)
(6)急性中毒情報ファイル (1996)
(7)医薬品要覧 (1992)
(8)救急中毒マニュアル (1984)
(9)田中淳之介、他:救急医学、10:1625~1627 (1986)
(10)横瀬智之、他:救急医学、10:1011~1015 (1986)
12.作成日
19900215 Ver.1.00
ID M70196_0100_2
3/3
copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved.