確率の定義・基本性質 (1) 谷澤 俊弘 C4:2015 年 4 月 7 日, E4:2015 年 4 月 9 日 1 基本用語 試行 「くじを引く」,「サイコロを振る」など,確率を考える際に行うことがら。 事象 考えている試行を行ったときに起こり得る個々のことがら。事象を表わす場合には,集合論の表わしか たを用い, A, B など大文字を用いる。また,事象 A が起こる場合の数を N ( A) と表わす。 根元事象 考察している試行の範囲内で,それ以上細かいレベルの事象に分けられないと考えてよい事象。 全事象 考察している試行におけるあらゆる根元事象の集り。全体集合に対応し, Ω で表わすことが多い。 空事象 考察している試行の範囲内では起こり得ない事象。集合論において空集合 ∅ に対応する。 複合事象 いくつかの根元事象の組み合わせとして表わせる事象。組み合わせ方としては大きく分けて, 和 事象 の考え方と 積事象 の考え方がある。 和事象 二つの事象 A, B について A または B が起こる事象のこと。集合論の表し方を用いると A ∪ B と なる。 積事象 2 二つの事象 A, B について A かつ B が起こる事象のこと。集合論の表し方を用いると A ∩ B となる。 場合の数:順列と組合せ 確率の計算においては,ある事柄が起こる場合の数を求めることが必要になる。その際に基本となるのは, 順列 と 組合せ の二つの考え方である。 順列 与えられた n 個の中から r 個を取り出し, 順序も考慮して 並べる方法の総数 n Pr 組合せ := n(n − 1)(n − 2) . . . (n − r + 1) = n! (n − r)! 与えられた n 個の中から r 個を取り出す方法の総数 n Cr := n(n − 1) . . . (n − r + 1) n Pr n! = = r (r − 1) . . . 2 · 1 r! r!(n − r)! 1 3 和の法則 事象 A の起こり方が N ( A) 通り,事象 B の起こり方が N (B) 通りであるとき,事象 A と事象 B の和事象の 起こり方の数 N ( A ∪ B) について N ( A ∪ B) = N ( A) + N (B) − N ( A ∩ B) (1) が成立する。これを場合の数における和の法則という。ここで, A と B が同時に起こっている場合の数 N ( A ∩ B) を引くことによって,数え過ぎをしないようにしていることに注意しよう。 4 積の法則 事象 A の起こり方が N ( A) 通りであって,さらに,事象 A の個々の起こり方について別種の事象 B の起こ り方が等しく N (B) 通りであるとき,事象 A と事象 B の積事象 A ∩ B の起こり方の数 N ( A ∩ B) について N ( A ∩ B) = N ( A)N (B) (2) が成立する。これを場合の数における積の法則という。この法則を使う場合には, N ( A) と N (B) についての 前提条件が満たされているかどうかをしっかり確認しよう。 5 確率 5.1 定義 N (Ω) を全事象数, N ( A) を注目する事象 A が起こる場合の数とするとき,事象 A が起こる確率 P( A) は P( A) := N ( A) N (Ω) (3) で定義される。 5.2 性質 1. どんな事象 A についても A ⊂ Ω であるから 0 ≤ N ( A) ≤ N (Ω) が成立する。この不等式全体を N (Ω) で割ることにより, 0 ≤ P( A) ≤ 1 (4) を得る。すなわち, 確率は必ず 0 以上 1 以下の実数値を取る 。 2. 空事象 ∅ については, N (Ω) = 0 であるから P(∅) = 0 となる。 3. 全事象 Ω については,定義から明らかに P(Ω) = 1 となる。これを 規格化条件 という。 5.3 加法定理 場合の数の和の法則 N ( A ∪ B) = N ( A) + N (B) − N ( A ∩ B) 2 (5) の両辺を全事象数 N (Ω) で割ることにより,和事象 A ∪ B の起こる確率 P( A ∪ B) について P( A ∪ B) = P( A) + P(B) − P( A ∩ B) (6) が成立する。 6 排反事象 二つの事象 A と B が同時には起こり得ないとき,すなわち, N ( A ∩ B) = 0 のとき,これら二つの事象は 排反である という。確率についても,もちろん P( A ∩ B) = 0 となる。また,このとき,和の法則は P( A ∪ B) = P( A) + P(B) (7) となる。 7 余事象の確率 ある事象 A について, 「 A が起こらない」という事象を考えることができる。この事象を A の 余事象 と いい,集合論の表わし方では A の補集合 Ā で表わす。もちろん, A ∩ Ā = ∅ ( A と Ā は排反事象)であり, A ∪ Ā = Ω ( A と Ā の和事象は全事象)であるから,和の法則より P(Ω) = P( A ∪ Ā) = P( A) + P( Ā) = 1 (8) P( Ā) = 1 − P( A) (9) となる。ここから, の関係式が得られる。 8 期待値 ある試行は n 個の事象 A1 , A2 , . . . , An から成っており,それぞれの事象が起こったときの値(得点,賞金な ど)が x 1 , x 2 , . . . , x n であるとき,この試行における値の平均値を期待値といい, E = x 1 P( A1 ) + x 2 P( A2 ) + · · · + x n P( An ) = n ∑ i=1 で計算される。 9 演習問題 • 教科書 3 ページ 問 5∼問 7 • 教科書 7 ページ 問 11 • 教科書 9 ページ 問 13 • 教科書 10 ページ 練習問題 1-A • 11 PAGE 3 x i P( Ai ) (10)
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