消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見 はじめに 以下

消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見
はじめに
以下の意見書の項目は、「中間取りまとめ」におけるそれに対応している。
第1 見直しの検討を行う際の視点
・ 消費者法は、脱法の問題が常に生じるので、幅広に立法すべきである。日
本の裁判官は健全な衡平感覚を持っており、消費者保護が濫用的に用いられ
るケースがあったとしても、その段階での抑制が効くのだから、多少消費者
寄りに立法したところで問題は生じない。むしろ、文言で本来保護されるべ
き消費者の救済の邪魔になるようなことはあってはならない。
・ 同様に、消費者契約法においては、消費者になるべく義務を課さない立場
を採るべきである。具体的な消費者取引において消費者自身にも求められる
ところがあるのはもちろんであるが、そのような点は、具体的紛争における
解釈の中でバランスが取れるのであり、わざわざ法律上明記する必要はない。
むしろ、
「消費者の義務」が独り歩きすることによって、本来保護を必要とす
る消費者にも過大な負担となる恐れがある。また、知識や理解力、感受性の
相違が大きい消費者に一律の義務を課すことは、より劣位にある消費者を不
当に害する恐れが大きい。
・ 消費者法においては、事業者にとっての明確性よりも市民にとっての分か
りやすさが重要であり、市民にどのような権利があるのかを伝えづらくする
ような技術的な立法は控える必要がある。近時の立法は、技術的な正確性を
追求するあまり、一定のトレーニングを受けた者でないと読み解くことがで
きないような文章で構成されている。しかし、消費者契約法は、消費者の基
本的な権利を定めるものであるから、少なくとも高等学校卒業程度の読解力
がある市民であれば、理解できるようにしなければ、消費者保護の基本立法
として意味をなさないものと思われる。
第2 総則
1.消費者概念の在り方
・ 消費者の集合としての団体については消費者に含まれることを明らかにす
る規定を設けることは、妥当である。消費者によって構成され事業を行わな
い団体は、現行法上、形式上は事業者ということになるが、実質は消費者に
ほかならず、保護の必要性は、消費者と同一である。事例群に即した検討が
必要であることは言うまでもないが、区別の基準は、最終的には消費者に比
肩し得る情報力と交渉力の格差があるかということになる。
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2.情報提供義務
・ 情報提供義務の違反について損害賠償を課す規定を設けることに賛成であ
る。その際、要件は、
「②情報の重要性」を中心にすべきである。損害賠償に
よる救済は、取消しによる救済に解消されない側面を有しており、相補的な
関係にあるというべきであり、不告知について取消権を付与すれば十分とい
うものではない。特に情報提供義務違反と意思表示の間の因果関係が立証で
きないような場合には、機会の喪失を損害とする損害賠償が考えられる。
・
情報提供義務を理由とする損害賠償については、不告知による取消しとの
要件の均衡に留意する必要がある。
3.平易明確化義務
・ 字の大きさといった実質的な消費者の読解可能性を織り込んだ形にする必
要がある。当法人が日ごろ接している契約書(例えばアパート等の賃貸借契
約書)において、消費者の権利義務に関わる重要な条項が極めて小さな字で
印刷されている場合が多い。表現の平明性だけでは消費者が契約上いかなる
権利義務を有するのかを理解することは容易にならない。
4.消費者の努力義務
・ 削除が相当である。現状の消費者契約法は、消費者の努力を越えた事例に
ついて規律するものであり、すでに消費者の努力云々は、評価されていると
ころである。よって、重ねて規定する必要はない。情報が入手しやすいとい
うは、反面で、処理すべき情報が増えていることを意味し、その分だけ消費
者の負荷も増大しているという点は重要である。
第3 契約締結過程
1.「勧誘」要件の在り方
・ 事業者が当該事業者との特定の取引を誘引する目的をもってする行為をし
たと客観的に評価される場合についても不当勧誘規制を及ぼすことに賛成で
ある。不実告知等が特定の消費者でなく、不特定のものを対象とする場合に
おいても消費者に作用する影響は基本的に変わらず、個別的な交渉に入る前
に不実告知等によって生じた誤認等が引き継がれることになるから、両者の
段階を区別することに合理的な根拠は存在しないというべきである。
2.断定的判断の提供
・ 契約の締結目的に関わり、且つ本来は不確実である事項についての断定的
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判断について規律する規定を設けるべきである。消費者が契約を締結する際
の目的は多様であり、財産上の利得を目的とするものばかりが重要なわけで
はない。痩身や成績の向上といった目的で多額の出捐をすることも普通のこ
とであり、それらの事項について事業者が断定的判断を提供することによっ
て、消費者に誤認が生じることも少なくない。したがって、財産上の利得と
それ以外を区別する合理的な根拠は、存在しない。
3.不利益事実の不告知
・ 不実告知型と不告知型に類型化することは妥当である。
・ 不実告知型について、故意要件を削除するのは妥当である。なお、免責事
由については、慎重に検討すべきである。不実告知型が本質的には作為によ
る不当勧誘行為である以上、不実告知と異なる要件に服せしめる理由は存在
しない。故意要件を維持した場合、民法上の沈黙による詐欺と適用範囲がほ
ぼ変わらなくなる。そうすると、消費者契約法によった場合のほうが、取消
権の行使期間において不利になるが、これは、不合理である。その意味で、
規定の仕方についても、従来の不実告知の一類型であることが分かる形で規
定すべきである。一方で、免責事由については、濫用の危険性が従来の不実
告知よりも大きいため、慎重な検討が必要である。
・ 不告知型における「重要事項」概念については、説明義務と平仄を合わせ
る必要があり、その点で検討されたい。
4.重要事項
・ 重要事項の拡張については、B 案が妥当である。また、「当該消費者契約の
締結に伴い消費者に生じる危険に関する事項」を加えることに賛成である。
5.不当勧誘行為に関するその他の類型
(1) 困惑類型の追加
・ 消費者契約法においても、執拗な電話勧誘についても困惑の一類型として
規定を設けるべきである。電話勧誘は、消費者が望まない契約を締結するき
っかけとしては典型的なものである。また、特殊詐欺なども基本的な電話勧
誘の形をとっている。一般的な規律を設けることは、そのような被害を減ら
すうえでも極めて有用である。
・ 威迫による勧誘について取消権を認める規定を設けることに賛成である。
本来、この類型は、強迫によって対応可能であるとの認識の下で消費者契約
法による規律が見送られた経緯がある。しかし、実際には強迫概念の緩和が
なされているとは言えない状況にあるため、この点を明確にする規定を設け
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るべきである。
(2) 不招請勧誘
・ 消費者契約法においても、不招請勧誘によって困惑が生じた場合の取消権
を付与する規定を設けるべきである。なお、それが適当でないという場合で
あっても、不招請勧誘を理由とする損害賠償を認める規定を設けるべきであ
る。
(3) 合理的な判断を行うことができない事情を利用して契約を締結させる類
型
・
いわゆる過量販売について取消権を付与する規定を設けるにせよ、一般的
な規定を設けるべきである。一般的な規定が存在しないと様々な形態で生じ
る消費者問題に対して漏れのない規律を施すことはできない。
6.第三者による不当勧誘
・ 委託関係にない第三者による不当勧誘についても、消費者がこれに起因し
て意思表示を行ったことを、事業者が知り又は知ることができた場合、当該
消費者に取消権を与えるべきである。
7.取消権の行使期間
・ 取消権の行使期間は、適宜伸長すべきである。6か月が短すぎるのは、こ
れまでの実態から明らかである。さらに、過量販売解除が1年の行使期間で
あること、過失を要件としない瑕疵担保責任に基づく解除の行使期間も1年
間であることを考えても、均衡を失している。不当勧誘行為は実質的には詐
欺・強迫に比肩しうる性格のものであり、消費者の誤認・困惑といった具体
的な意思表示の瑕疵が存在しているのであり、詐欺・強迫と同じかそれに近
い行使期間を設けるべきである。
8.法定追認の特則
・ 法定追認事由に当たる行為が事業者のイニシアティヴによってなされた場
合には、適用しない旨の規定を設けるべきである。
9.不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果
・ クーリングオフと同等の効果とすべきである。
第4 契約条項
1.事業者の損害賠償責任を免除する条項
(1) 人身損害の軽過失一部免除条項
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当該条項を無効とする規定を設けるべきである。人身損害は経済損失とは
異なり被害の範囲の拡大が著しいものではない。また、事業者が消費者契約
履行に当たって消費者の生命、身体及び健康を害さないように注意すること
は、当然の基本である。このような基本的な義務の違反による責任の免除を
認めることは、事業者側の安全対策のインセンティブを阻害しかねず、大き
な懸念が生じる。
(2) 「民法の規定による」要件の在り方
・ 当該文言を削除することに賛成である。
2.損害賠償額の予定・違約金条項
(1) 「解除に伴う」要件の在り方
・ 当該要件は、削除すべきである。あるいは、削除しない場合であっても、
要件を拡張すべきである。その際、
「解消に伴う」といった文言にしてはどう
か。なお、解消には、契約上の本来の履行期に先立って契約関係を終了させ
る一切の行為を含むものと考える。
(2) 「平均的な損害の額」の立証責任
・ 事業者側に立証責任を負わせるべきである。証明の対象についての情報を
専ら事業者が握っており、それらについて民事訴訟法上実効的な証拠開示等
の制度が実現しない限り、消費者においてこれを証明することは、著しく困
難である。この点を顧慮した立証責任の分担が必要である。
・ なお、
「同種事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を当該事業者
に生ずべき平均的な損害の額を超える部分と推定する規定」については、こ
れ自体も立証が困難である場合が考えられる。特に、同種事業者が少ない場
合は、実質的に当該事業者についての平均的損害額を立証する場合と変わら
なくなりかねない。
3.消費者の利益を一方的に害する条項
(1) 前段要件
・ 前段要件について最高裁判例を踏まえて改正することに賛成である。
(2) 後段要件
・ 契約条項が平易かつ明確でないことについては、条項使用者不利の原則等
で対処すべきとすることに賛成である。
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4.不当条項の類型の追加
(1) 消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させ又は制限する条項
・ 対象とする解除権等には、解釈上認められているものも含めるべきである。
・ 解除権・解約権を放棄させる条項を無効とする規定を設けることに賛成で
ある。
・ 解除権・解約権を制限する条項を原則として無効とする規定を設けること
に賛成である。その際、当該条項を例外的に有効とする場合、事業者がその
合理性を示すものとすべきである。
(2) 事業者に当該条項がなければ認められない解除権・解約権を付与し又は当
該条項がない場合に比し事業者の解除権・解約権の要件を緩和する条項
・ 当該条項を原則として無効とする規定を設けることに賛成である。その際、
当該条項を例外的に有効とする場合、事業者がその合理性を示すものとすべ
きである。この種の条項は賃貸借契約に多く見られ、当法人においても多く
の申入れ活動を行ってきた。ほとんどの事業者は、条項の改定に応じており、
対処の必要性が高い。
(3) 消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったもの
と擬制する条項
・ 当該条項を原則として無効とする規定を設けることに賛成である。その際、
当該条項を例外的に有効とする場合、事業者がその合理性を示すものとすべ
きである。とりわけ、当該条項は、実質的に消費者の意思表示をでっち上げ
る手段となるおそれがある不当性の高い条項である。
(4) 契約文言の解釈権限を事業者のみに付与する条項、及び、法律若しくは契
約に基づく当事者の権利・義務の発生要件該当性若しくはその権利・義務の内
容についての決定権限を事業者のみに付与する条項
・ 解釈権限付与条項を無効とする規定を設けることに賛成である。
・ 決定権限付与条項を原則として無効とする規定を設けることに賛成である。
その際、当該条項を例外的に有効とする場合については、事前に類型を列挙
する形とするのが妥当である。
(5) サルベージ条項
・ サルベージ条項を無効とする規定を設けることに賛成である。このような
条項の有効性を認めた場合、事業者において法に適合した契約書を作成しよ
うとするインセンティブを失わせることになり、結果として「胡散臭い」契
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約条項を盛り込んだうえで、最大限の利益を得ようとするものであるが、そ
れは、結局は、消費者のリスクのもとになされるものであり、到底公平な条
項であるとは言えない。
第5 その他の論点
1.条項使用者不利の原則
・ 定型約款に限定せず、事業者によって一方的に準備作成された条項の解釈
について、条項使用者不利の原則を規定する条文を設けることに賛成である。
契約条項を準備作成した使用者は、事前に明確な契約条項を作成する時間と
能力と有しているというべきであり、それにもかかわらず生じる契約条項の
多義性について消費者にリスクを負わせることは著しくアンフェアである。
自ら多義的な契約条項を用いていながら事後的にその多義性を奇貨として利
益を得ようということを許すのが、信義誠実の原則に則った契約解釈方法で
あるとは到底言えない。このことは、定型約款に当たるかどうかとは関係な
いことである。
2.抗弁の接続/複数契約の無効・取消し・解除
・ 複数の契約の効力連関については、経済的一体性及び契約当事者の認識(又
は認識可能性)を要件とした一般規定を設けるべきである。ドイツ連邦共和
国においても、消費者信用に関して一般的な規定が存在しているが、それに
よって取引安全が害されているとはいえない。
3. 継続的契約の任意解約権
・ 継続的商品購入型契約についても任意解約権を認める規定を設けるべきで
ある。
4.中間取りまとめで扱われていない論点
・ 消費者契約における事業者の信義誠実の原則を具体化した条項を設けるべ
きである。たとえば、事業者は、契約の履行、契約締結後の内容変更に関わ
る交渉や契約上の権利行使において消費者の置かれている状況等に配慮して、
権利を行使し、義務を履行しなければならない、とする規定を設けてはどう
か。
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