1. 肝外側副路経由のTACE

第 38 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:宮山士朗
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肝細胞癌の IVR −肝細胞癌に対する肝外側副血行路からの TACE
1 . 肝外側副路経由の TACE
福井県済生会病院 放射線科
宮山士朗
はじめに
肝外側副路からの肝細胞癌への供血の主因は,肝
動脈化学塞栓術(transcatheter arterial chemoembolization : TACE)などによる肝動脈損傷,手術や治療後の
炎症性癒着であるが,腫瘍の大きさや位置によって
は発見時からすでに肝外側副路が関与することもあ
1)
る。以前の我々の検討では ,肝外側副路からの供血
は 16.6%で認められ,発現頻度は右下横隔動脈,胆嚢
動脈,大網動脈,左下横隔動脈,右内胸動脈,右肋間
動脈の順であった。リピオドール抗癌剤混合液を使用
した TACE(以下 Lip−TACE)の成功率は,右肋間動脈
1)
で 53%と最も低く,他は 70 ~ 100%であったが ,近
年のカテーテルや血管撮影装置の進歩により,内胸動
脈や腰動脈の発現頻度が増加し,TACE の成功率も向
上している。
下横隔動脈
右下横隔動脈は無漿膜野を介して右葉背側や尾状葉,
左下横隔動脈は左葉外側区域辺縁部の腫瘍を栄養す
2)
るが ,まれに左下横隔動脈が左葉内側区域や右前区
域の腫瘍を栄養する。下横隔動脈の 40%は腹腔動脈,
39%は大動脈,15%は腎動脈,4%は左胃動脈,2%
2)
は肝動脈から分岐する 。腹腔動脈から分岐する場合,
起始部から左下横隔動脈,右下横隔動脈,左胃動脈の
順に分岐する。また大動脈から分岐するものは,動脈
硬化や弓状靭帯の圧排,以前のカテーテル操作などで
起始部が閉塞し,種々の血管から再建される。描出頻
度は背側膵動脈(図 1),副腎動脈,左胃動脈,対側の
3)
下横隔動脈の順で ,肋間動脈や腰動脈,内胸動脈,
4)
肝動脈からも描出される 。複数の血管から描出され
る場合,屈曲の少ない経路からアプローチすることで
3)
TACE の成功率は向上する 。
左下横隔動脈からは胃枝や食道枝が分岐し,ときに
右下横隔動脈からも分岐する。肺の慢性炎症が存在す
る場合は,内胸動脈の枝である心横隔動脈や肺血管と
2)
の吻合や短絡が認められる 。これらの枝にリピオドー
ルが流入しないように塞栓するが,回避できない場合
はゼラチンスポンジのみで塞栓する。合併症は胸水や
肺梗塞に加えて,吻合を介した肋間動脈へのリピオドー
ルの流入による皮膚壊死や脊髄梗塞の危険がある。
胆嚢動脈
胆嚢動脈は主に胆嚢床部の腫瘍を栄養するが,肝動
5)
脈損傷が強い場合は肝の深部まで栄養する 。胆嚢動
脈深在枝は右肝動脈前下区域枝(A5)や左葉内側区域
4)
枝
(A4)と吻合しており ,またしばしば胆嚢動脈から
A5 の小枝が分岐する。胆嚢壁の染まりが認められない
位置までカテーテルが挿入できれば Lip−TACE を行う
5)
が(図 2)
,困難な場合は TACE を断念する 。上述の吻
合を介して A4 や A5 の塞栓で胆嚢炎が生じたり,逆に
胆嚢動脈が塞栓された際にも重篤な胆嚢炎の発症が回
a b
図 1 背側膵動脈より描出さ
れる右下横隔動脈
a : 上腸間膜動脈造影にて腹
腔動脈は膵のアーケード
を介して描出され,右下
横隔動脈は背側膵動脈か
ら描出されている
(矢印)。
b : 選択造影で腫瘍濃染(矢
印)と動脈門脈短絡を認
める
(矢頭)
。
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避されている可能性がある。
右腎被膜動脈・副腎動脈
腎被膜動脈や副腎動脈は通常複数本存在し,互いに
吻合しながら主に右腎窩周囲の腫瘍を栄養するが
(図
3,4)
,尾状葉枝などと吻合して肝の深部まで栄養する
4)
ことがある 。腎動脈末梢から腎被膜を貫通する小枝
も腫瘍の栄養血管となり,特に腎被膜動脈や副腎動脈
6)
の TACE を繰り返すうちに顕著化する 。選択できた場
合には Lip−TACE を行うが,右肋間動脈や背側膵動脈
a b
図 2 胆嚢動脈より栄養され
る肝癌
a : 腹腔動脈造影にて胆嚢動
脈より栄養される腫瘍を
認める(矢印)
。他に肝動
脈から栄養される小さな
腫瘍を認める
(矢頭)。
b : 胆嚢壁が描出されない位
置までカテーテルを進め
TACE を施行した。
a b
図 3 右腎被膜動脈より栄養
される肝癌
a : 右腎動脈造影にて右腎被
膜動脈(矢印)より栄養さ
れる腫瘍を認める
(矢頭)
。
b : カテーテルを末梢まで進
め TACE を施行した。
図 4 右中副腎動脈より栄養される肝癌
a : 右腎動脈造影にて右中副腎動脈
(矢印)
より栄養される腫瘍を認める
(矢頭)
。
b : シェファードフックカテーテルに側孔
(矢印)
をあけて選択し,TACE を施行した。
c : TACE 1 週間後の CT にて腫瘍には高濃度にリピオドールが集積している
(矢印)
。
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a b c
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などとも吻合するため ,腎梗塞の他に,皮膚壊死や脊
髄梗塞,膵炎などの危険がある。
4)
内胸動脈
内胸動脈は主に腹側の肝表に存在する腫瘍を栄養す
るが,まれに左内胸動脈が右側の腫瘍を栄養する
(図5)
。
腫瘍への供血頻度は,横隔枝,筋横隔動脈,上腹壁動
7)
脈の順であり ,主に下横隔動脈からの TACE 後の再発
1,
7)
病変で関与が認められる 。内胸動脈が大動脈から単
独分岐したり,横隔枝が高位から分岐する破格がある。
図 5 左内胸動脈より栄養される肝癌
a : 左内胸動脈造影にて横隔枝
(矢印)より栄養される腫瘍を認める。
b : マイクロカテーテルを進め TACE を施行した。
c : TACE 1 週間後の CT にて腫瘍には高濃度にリピオドールが集積している
(矢印)
。
a b c
a
b
c d e
図 6 右第 10 肋間動脈と肋下動
脈より栄養される肝癌
a : 右第 10 肋間動脈造影にてヘア
ピン状に屈曲する栄養血管と
腫瘍濃染を認める
(矢印)。尚,
起始部より前脊髄動脈が分岐
している
(矢頭)
。
b : 栄養血管を選択し TACE を施
行した。
c : 右肋下動脈造影に
て筋枝から分岐す
る 2 本の栄養血管
を認める
(矢印)。
d,e : それぞれを選択
し TACE を施行
した。
(489)73
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内胸動脈でのカテーテル操作は,椎骨動脈の起始部
が近傍にあるため,必ず全身ヘパリン化した後に行う。
栄養血管が選択できれば Lip−TACE を行うが,前肋間
動脈や上腹壁動脈に流入すると皮膚壊死を生じる危険
があり,それらが避けられない場合にはゼラチンスポ
ンジのみで塞栓を行う。
肋間動脈・肋下動脈・腰動脈
これらの血管は下横隔動脈や右腎被膜動脈とほぼ同
じ領域を栄養するが,以前に下横隔動脈や右腎被膜動
脈が塞栓された例や,腹壁に浸潤する腫瘍で主に関与
する。腫瘍への供血頻度は第 10,9,11 肋間動脈,肋
1)
下動脈,第 1 腰動脈の順であるが ,これらの間には豊
富な吻合が存在するため,最初に一通り撮影し,前脊
8)
髄動脈の分岐位置を確認する 。
通常肋間動脈からの肝を栄養する枝は肋骨軟骨接合
部近傍でヘアピン状に屈曲し,肋下動脈からの栄養枝
は筋枝から急峻に分岐する
(図 6)
。腰動脈からの栄養血
管は主に背側枝と筋枝の分岐部の少し手前から分岐す
8)
。栄養血管が選択できた場合にのみ Lip−TACE
る(図 7)
を行うが,塞栓物質の overflow による脊髄梗塞や皮膚
壊死の危険がある。栄養血管が選択不能で前脊髄動脈
が分岐していない場合は,大きめのゼラチンスポンジ
のみで塞栓する。前脊髄動脈が描出される血管から腫
瘍血管が分岐する場合,栄養血管が選択できれば塞栓
は可能であるが,適応は慎重に決定する
(図 6)
。
消化管・膵・胆管動脈
大網動脈,左・右胃動脈(図 8,9)
,中・右結腸動脈
(図 10)
,背側膵動脈(図 11)
,胆管動脈(3 時 9 時動脈)
(図 12)などは,肝表,尾状葉,肝門部の腫瘍を栄養す
る。大網動脈は主に右胃大網動脈から分岐するものが
関与するが,まれに左胃大網動脈も関与する(図 13)。
また,腫瘍破裂例に関与したり腹膜播種病変を栄養す
a b
図 7 右第 1 腰動脈より栄養される肝癌
a : 右第 1 腰動脈造影にて背側枝と筋枝の分岐
部の手前から分岐する枝(矢印)に栄養され
る腫瘍を認める。また吻合を介して右肋下
動脈が描出されている
(矢頭)
。
b : 栄養血管を選択し TACE を施行した。
図 8 右胃動脈より栄養される肝癌
a : 右胃動脈造影にて腫瘍濃染を認める
(矢印)
。
b : 栄養血管を選択し TACE を施行した。
c : 左葉外側区域枝からも TACE が追加された。TACE 1 週間後の CT にて腫瘍には高濃度にリピオドー
ルが集積している
(矢印)
。
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a b c
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a b c
図 9 左胃動脈より栄養される肝癌
a : 左胃動脈造影にて腫瘍濃染を認める
(矢印)
。
b : 栄養血管が選択できなかったため,3 本の胃枝をコイルで塞栓した。その後の造影にて胃壁の染まり
がないことを確認し,TACE を施行した。
c : TACE 1 週間後の CT にて腫瘍には高濃度にリピオドールが集積している
(矢印)
。
a b
図 10 右結腸動脈より栄養される肝癌
a : 上腸間膜動脈造影にて右結腸動脈
より栄養される腫瘍を認める
(矢印)
。
b : 栄養血管を選択しTACEを施行した。
図 11 背側膵動脈より栄養される肝癌
a : 背側膵動脈造影にて腫瘍濃染を認める
(矢印)
。
b : 膵実質の染まりのなくなる位置までカテーテルを進め,TACE を施行した。
a b
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ることもある 。胆管動脈は後上膵胃十二指腸動脈から
急峻に分岐し,尾状葉枝や肝門部の小枝と吻合する。
消化管や膵の動脈からの TACE では潰瘍や膵炎の危
険があり,消化管壁や膵の染まりが認められない位置
までカテーテルを挿入できた場合にのみ Lip−TACE を
行うが,困難な場合は TACE を断念する。胆管動脈か
らの TACE では胆管壊死の危険があり,大網動脈は消
4)
化管の動脈と吻合するため ,大網動脈の塞栓では腸管
壊死の危険がある。
9)
肝外側副路経由の TACE に対する考え方
肝外側副路間には豊富な吻合があり,それに栄養
1)
される腫瘍は潜在的に複数の栄養血管を有している 。
特に無漿膜野の腫瘍では,TACE 後の再発を繰り返す
たびに,別の肝外側副路の関与が認められることが多
6)
い 。同部位の腫瘍は,初回は肝動脈支配で一部は右下
横隔動脈や右腎被膜動脈などの major diaphragmatic
circulation から栄養されるが,再発時はmajor diaphraga b
図 12 胆管動脈(3 時 9 時動
脈)より栄養される
肝癌
a : 後上膵胃十二指腸動脈造
影にて胆管動脈(矢印)
よ
り栄養される腫瘍を認め
る(矢頭)
。
b : マイクロカテーテルを進
め TACE を施行した。
a b
c
図 13 左胃大網動脈より栄養される肝癌
a : 左胃大網動脈造影にて腫瘍濃染を認める
(矢印)
。
b : 栄養血管を選択し TACE を施行した。
c : TACE 1 週間後の CT にて腫瘍には高濃度にリピオドールが集積
している
(矢印)
。
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matic circulation から主に栄養され,細い腎被膜動脈,
副腎動脈,肋間動脈,腰動脈,背側膵動脈などの minor
diaphragmatic circulation からも一部栄養される。さら
に再発すると minor diaphragmatic circulation から主に
栄養され,回復した肝動脈からも一部栄養される。ま
た下横隔動脈,内胸動脈,肋間動脈などは他の血管を
塞栓後に顕著化する。腫瘍の位置と TACE 歴を参考に
栄養血管を検索する必要がある。肝外側副路の予防的
な塞栓は,合併症を増加させるばかりか他の側副路の
発達を助長する。腫瘍への供血が明らかな場合にの
み,肝動脈で使用する半量程度の薬剤を用いて TACE
を行う。
肝外側副路選択に有用なカテーテル技術
肋間動脈など屈曲の強い血管では,ガイドワイヤー
の先端を U 字型にした状態で進めると血管損傷が生じ
にくい。角度が急峻でガイドワイヤーが挿入できない
血管では,形状を付けたマイクロカテーテルで選択す
るが,これにはブレードの入っていないカテーテルが
適している。ガイドワイヤーが挿入できてもマイクロ
カテーテルが追従しない場合には,ガイドワイヤー法
にてより細く柔軟なマイクロカテーテルに交換する。
腹腔動脈や腎動脈の起始部から急峻に分岐する血管の
10)
選択には側孔付カテーテルが ,大動脈から急峻に分
11)
岐する血管では側溝付カテーテルが有用である 。直
接選択できない場合は金属コイルやバルーンカテーテ
6,12)
。
ルでの血流改変を併用する (図 9)
おわりに
肝外側副路経由の TACE が予後の延長に寄与すると
いうエビデンスはない。しかしそれは肝外側副路の
TACE を否定するものではなく,肝癌診療に携わるも
のは肝外側副路の TACE が有効であった症例を多数経
験しているであろう。肝外側副路の TACE ほど技術の
差が出る手技はなく,難しい血管も工夫を凝らし塞栓
することで予後が延長すると確信している。肝外側副
路の解剖やカテーテル技術に精通することはもちろん
大切であるが,効果的な肝動脈からの TACE を行い,
局所再発を生じさせない日々の努力が最も重要である。
【参考文献】
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10)Miyayama S, Matsui O, Akakura Y, et al : Use of a
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11)Miyayama S, Yamashiro M, Okuda M, et al : Creation
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Cardiovasc Intervent Radiol 27 : 677 - 681, 2004.
(493)77
第 38 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:東原秀行
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肝細胞癌の IVR −肝細胞癌に対する肝外側副血行路からの TACE
2 . 側副血行路に対するカテーテリゼーションの工夫,
TACE 後の管理・術後合併症
福岡大学病院 放射線科
東原秀行
はじめに
肝細胞癌(HCC)に対する肝動脈化学塞栓術(TACE)
を困難にする原因の一つに,HCC を肝外から栄養す
る肝外側副血行路の存在が挙げられる。肝外側副血行
路は,複数回の TACE を行った症例や,肝切除後の症
例などに多く認められる。肝内動脈の狭小化や途絶を
伴っていることが多く,TACE の施行をより一層困難
なものにしている。
本稿では,特に若いドクターの参考になるような,
肝外側副血行路から行った際の合併症,術後管理,カ
テーテリゼーションの工夫について,TACE の頻度が
高い右下横隔動脈(RIPA)
を中心に述べる。
HCC を栄養する主な肝外側副血行路
HCC を栄養する側副血行路としては,
1)
下横隔動脈(右)
2)
内胸動脈(右 ・ 左)
3)
肋間動脈(右)
4)
大網動脈
5)
左胃動脈
などが挙げられる。このうち臨床上 TACE の頻度がもっ
とも多い血管は,RIPA である。
また,TACE 時に側副血行路特に RIPA 造影に至る
動機としては,
1)
肝動脈造影での腫瘍濃染像や,リピオドールの腫
瘍への集積欠損が見られる。
2)
腫瘍が肝辺縁 S1,S7,S8 などに存在している。
3)
RIPA の血管径が,血管造影や CT で拡張している。
4)
過去の肝臓手術や検査など肝の被膜の欠損もしく
は癒着が起きている。
5)多数回の TACE の既往があり,肝動脈の狭小化や
閉塞がある。
6)
HCC の破裂の既往がある。
などの場合である。
RIPA 起始部の検索
前述した動機で RIPA にカテーテリゼーションして
造影を行うわけであるが,むやみに RIPA の分岐を探
すのではなく,ある程度狙いをつけて探すことが可能
である。
78(494)
RIPA の分岐部の検索は,最近の MDCT では RIPA の
走行を追っていくことで,その分岐部が多数の症例で
判明する(図 1a〜d)
。また,解剖学的に実際のところ,
どのような場所からどの程度の頻度で分岐するのかと
いうことは,知識として知っておくべきである。
実際の血管造影に役に立つ RIPA 起始部と腹腔動脈
(CA),上腸間膜動脈(SMA)及び右腎動脈(RRA)との
位置関係を詳細に分析すると,CA 直上からがもっと
も多く,次いで CA からが多くなっている。3 番目に
多いのが CA と SMA の間の大動脈右側壁から比較的高
率(17%)に分岐しており,この形態の分岐は臨床的に
1)
見逃されている可能性がある 。
したがって,血管造影において RIPA 分岐部の検索
法の手順としては(CT で判明しない時)CA 直上,CA
根部,CA と SMA の間の大動脈右側壁の順番で探して
いくのが効率的である。
肝切除例での肝外側副血行路
肝切除症例は,手術手技により必ず肝被膜に欠損を
生じている。このような肝被膜欠損を有する残肝内に
発生した HCC の栄養血管としての肝外側副血行路の
頻度は臨床上多い印象があるため,肝切除後の残肝再
発巣に肝外側副血行路がどのように関与しているかは
知っておく必要がある。
当院での肝切除術がなされた 72 例の検討で,再発
HCC に対する初回 TACE までの期間は 1 ~ 5 年未満が
42 例と全体の 58%と最も多い(表 1)。また表 2 で示す
ように,再発 HCC に対するTACE において肝外側副血
行路が出現するまでの期間は,やはり 1 ~ 5 年未満が
側副血行路経由で TACE を行った 53 例中 29 例 54%と
最も多い。肝外側副血行路出現までの TACE 回数と肝
動脈の狭小化・閉塞については表 3 のごとく,TACE
回数 2 回が 53 例中 14 例 26%,3 回が 10 例 18%と多く
3 回までで 33 例 60%を越える。動脈の狭小化・閉塞に
関してはこれらを血管造影像上認めた 22 例で各回数 3
例程度であった。
肝外側副血行路の種類は表 4 で示すように圧倒的に
RIPA が多かった。
第 38 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:東原秀行
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a b
c d
図 1 a ~ c : CT での RIPA の同定
RIPA の走行
(矢印)
は,CT で追えることが多い。この症例は,当初カテーテルで大
動脈の右を探ったが,起始部が分からず,CT で RIPA を追っていくと左 IPA と共通
幹になっていた。TACE 前に CT で RIPA の起始部のチェックをしておくべきであっ
た反省させられた症例であった。
d : RIPA(矢印)
は左 IPA と共通幹になっており,その起始部は大動脈の左側に存在した。
表 1 肝切除後 r−HCC に対する初回 TACE までの期間
期 間
症例数(n=72)
1 年未満
1 ~ 5 年未満
5 ~ 10 年未満
10 年以上
14(19%)
42(58%)
12(17%)
4(6%)
初回 TACE までの期間 平均 1227 日
表 2 再発 HCC に対する TACE において 肝外側副血行路が出現するまでの期間
期 間
症例数(n=53)
1 年未満
1 ~ 5 年未満
5 ~ 10 年未満
10 年以上
3(5%)
29(54%)
14(26%)
7(13%)
肝外側副血行路が出現するまでの期間 平均 1938 日
表 3 肝外側副血行路出現までの TACE 回数と
肝動脈の狭小化・閉塞
回数
症例数(n=53)
狭小化・閉塞症例数(n=22)
1
2
3
4
6
7
8
9(16%)
14(26%)
10(18%)
6(11%)
3(5%)
4(7%)
1(1%)
3
3
2
3
3
4
1
肝動脈の狭小化・閉塞までの回数 平均 3.3 回
表 4 肝外側副血行路
肝外側副血行路
症例数(n=53)
RIPA
RIPA + RIMA
RIPA + LGA
RIMA
LIMA
RICA + RGEA
bil.IPA + RGEA
GDA → periportal artery
RICA + RIPA
42
2
2
2
1
1
1
1
1
RIPA : rt. inferior phrenic artery, RIMA : rt. internal mammary
artery, LIMA : lt. internal mammary artery, LGA : lt. gastric artery,
RICA : rt. inter costal artery, IPA : inferior phrenic artery, RGEA :
rt. gastroepiploic artery
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第 38 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:東原秀行
技術教育セミナー / 肝細胞癌の IVR −肝細胞癌に対する肝外側副血行路からの TACE
RIPA を経由する TACE の実際
RIPA を経由する TACE の手順としては
1)
CT での RIPA 分岐部の検索
2)
親カテーテルを分岐に挿入
3)
造影(腫瘍濃染像の確認,肝内門脈や肺への短絡
の有無,マイクロカテーテルの挿入位置決定)
4)
マイクロカテーテル挿入
5)
塞栓
となる。
筆者が使用しているカテーテルは親カテーテルとし
てミカエルソンカテーテル(先端ソフトチップ,主に
5 F)もしくはツイスト B カテーテル(大動脈内で OL 型
にしてまず挿入)を使用している。マイクロカテーテ
ルは,施設,あるいは個人で使用し慣れたものを使う。
前述したように,RIPA の分岐位置は多様な場所が
あり,それぞれカテーテル挿入に工夫がいる。親カ
テーテルが分岐に挿入できれば比較的簡単にマイクロ
カテーテルは挿入できるが,それでもマイクロカテー
テル挿入には,種々の工夫がいる。たとえば,呼吸に
より血管走行,分岐角度が変化する。吸気では分岐角
度が小さくなり,呼気では大きくなる。最適な分岐各
度で挿入するためには大きな呼吸をさせながらカテー
テルの挿入を試みるのもコツの一つである。
親カテーテルの留置位置により,マイクロカテーテ
ル・ガイドワイヤーの方向性が変化する。また,マイ
クロカテーテルの留置位置。先端形状によってマイク
ロガイドワイヤーの方向性,先端角度が変化する。マ
イクロガイドワイヤーの先端形状付けで方向性が変化
する。症例によりこれらを上手に組み合わせ,超選択
的にカテーテルを挿入する。
マイクロカテーテルの進め方として,通常は,ガイ
ドワイヤーを固定してマイクロカテーテルを押し進め
るやり方が行われている。しかしながら,微妙な角度
の分岐など挿入が比較的困難な症例も存在する。マイ
クロカテーテル挿入技術がある程度できるようになっ
た比較的若いドクターが陥りやすい行為だが,マイク
ロカテーテルを押し進めすぎ ると,かえってカテーテ
ルがはじかれたり,先端が U 字型に屈曲したりして,
目的の血管に挿入できなくなることがある。このよう
な症例では,マイクロカテーテルは意識して押し進め
図 2 マイクロカテーテル
マイクロカテーテルは押し込まず軽いテンション
のみにしておき,ガイドワイヤーをゆっくり引き
抜くと,カテーテルはおのずと進む。
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ることはせず,軽くテンションを加えるようにしてお
き,ガイドワイヤーを少しずつゆっくりと引き抜くと,
逆にカテーテルは進んでいくことも知っておくべきで
ある
(図 2)。
マイクロカテーテル,ガイドワイヤーの先端形状付
けは,カテーテル,ガイドワイヤーの方向付けには無
くてはならないテクニックの一つである。
マイクロカテーテルを蒸気で形状付けすることはよ
く行われているが,単に適当にカテーテル先端を曲げ
てはいないだろうか。マイクロカテーテルを蒸気で形
状付けする場合,自分が使用しているマイクロカテー
テルの構造・材質をまず知っておくべきである。使用
している素材,先端部分にブレードが入っているか否
かによっても形状の付き方に違いがある。一般に,ブ
レードが入 っているマイクロカテーテルは曲げようと
する角度の 2 倍以上の角度をつけて蒸気に当てないと,
思った角度に形状付けが出来ないことが多い。また 3
次元的な曲げが難しいことが多い。実際には,挿入し
ようとする血管の分岐角度を血管造影を参考にしてイ
メージし蒸気で形状を付け,U 字型,J 型に付けるこ
とが多い。また挿入予定の血管走行の立体的イメージ
をつかみ,その血管と同様に 3 次元的に形状付け
(血管
の鋳型のイメージ)する場合もある(図 3)。施設でブ
レードなしのマイクロカテーテル(マイクロフェレッ
ト,ファストラッカーなど)を一本常備しておくとな
にかと役に立つことが多い。
RIPA 分岐部挿入困難症例に対する工夫
RIPA の分岐の中でも腹腔動脈内で大動脈近傍から
分岐する症例は親カテーテルの挿入が困難な症例が多
く治療に難渋することがある。このような症例では,
対策として親カテーテルではなくマイクロカテーテル
を直接 RIPA に挿入する各種工夫がなされている。
①親カテーテル先端近くに側孔をあけて,側孔から
マイクロカテーテルを出す
(金沢大学式)
(図4a〜c)
。
②親カテーテル(ミカエルソンカテーテル)先端から
図 3 マイクロカテーテルの先端形状
血管鋳型状 3 次元形成
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技術教育セミナー / 肝細胞癌の IVR −肝細胞癌に対する肝外側副血行路からの TACE
スリットをあけ,このスリットからマイクロカテー
テルを出す(図 5)
。
③親カテーテルを腹腔動脈に挿入せず,その先端を
大動脈内に置き,マイクロカテーテルにミカエル
ソン方の形状を付けてマイクロガイドワイヤーで
分岐部を探る。
などの方法をとるとよい。
肝外側副血行路を経由するTACE の合併症・管理
通常の HCC に対するTACE の管理のほかに肝外側副
血行路を経由する TACE においては治療する側副血行
路により特徴的な合併症があり,術前・術後の管理の
方法で合併症の程度も大きく変化する。
RIPA においての合併症としては,まず TACE 中の肩
の痛みがあげられる。これは程度の差はあるものの,
ほぼ 100%出現する。また胸水も約半数の症例で出現
する。したがって,これらの管理としては,痛みが耐
えられないようであれば,鎮痛薬(ブプレノルフィン
など)を投与して対処している。
また,胸水に関しては術前からの胸部 X 線写真・CT
図 5 先端スリット
側孔の代わりに親カテーテルの先端からスリット
(矢印)
を作成したものをわれわれは使用している。
カテーテルの回転 ・ 微調整が容易で,スリットの
方向が変えやすく,腹腔動脈根部などから分岐す
る下横隔動脈の選択に応用する。先端がソフト
チップのものが望ましい。
マイクロカテーテル
RIPA
a b
c
マイクロカテーテル先端
側孔
親カテーテル先端
図4
a : RIPA 挿入困難例
RIPA へのカテーテリゼーションが困難となること
が多い腹腔動脈分岐部近傍から起始する症例。通常
のカテーテル操作では,まず RIPA へのカテーテル
挿入は困難である。
b : 親カテーテルの側孔法
金沢大学の宮山先生らが考案した親カテーテルに側
孔をあけ,側孔からマイクロカテーテルを繰り出す
方法の概念図。親カテーテルが安定し側孔からマイ
クロガイドワイヤーで RIPA の起始部を探りやすい。
c : 親カテーテル側孔法症例
図 4 a での RIPA に親カテーテル側孔法でマイクロカ
テーテルを挿入した。
親カテーテルが安定しているため比較的容易に挿入で
きた。
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第 38 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:東原秀行
技術教育セミナー / 肝細胞癌の IVR −肝細胞癌に対する肝外側副血行路からの TACE
などによるチェックを行い,血液ガス,サチュレーショ
ンモニターなどによる呼吸の管理を行なうことが重要
である(筆者は,最近ではまずないが,以前,肺水腫
を合併して人工呼吸器を装着した症例も多数経験して
いる)。
内胸動脈や肋間動脈を治療した場合は皮膚の障害が
問題となることが多い。内胸動脈では皮膚炎を,肋間
動脈では皮膚潰瘍を経験している。これらの血管から
TACE を行う場合にはがっちり TACE をすると前述の
危険性がある。どの程度の TACE を行えばよいかはっ
きりした目安は持ち合わせていないが,手加減はすべ
きである。
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おわりに
IVR の中で基本的な手技の集大成と言っても過言で
はない HCC に対する TACE の中で,側副血行路から
の TACE は各術者個人の力量と工夫が試される手技で
ある。若い諸君は,指導医の技術を積極的に吸収し,
研鑽と工夫を重ねて,安全でより効果的な TACE を行
えるように励んでほしい。
【参考文献】
1)Kimura S, Okazaki M, Higashihara H, et al : Analysis
of the origin of the right inferior phrenic arter y in
178 patients with hepatocellular carcinoma treated
by chemoembolization via the right inferior phrenic
artery. Acta radiologica 48 : 728 - 733, 2007.