となみ野美術展 2015 総評 美術評論家 島田康寬 氏 前回もこの展覧会を拝見しましたが、全体的にレベルが高く、特に工芸部門、 彫刻部門の作品の質が高く感じられました。力のある作家が推薦されていると 思いますが、入賞するしないは別にして、既視感のある作品を超えて違う境地 に達する作家に期待したいです。 ●となみ野美術大賞(買上げ賞) となみ野美術大賞の作品(彫刻部門 青山三郎・作「森の番人」)は、木の素 材感を生かした清廉な印象を受けます。頭の梟が作品名の象徴として表現され ていて、非常に清らかな存在となって好感が持てます。こうした作品はとかく 人形のようになってしまいがちですが、作者の彫刻家としての技量によって、 この作品は彫刻という造形作品であることに成功しています。適度な甘さと清 楚さが上手く噛み合わさり、作者の意図が作品から伝わります。 ●北日本新聞社賞(部門賞) ▽日本画部門受賞作品(林冨士子・作「砂時計とランプ」)は、非常に柔らかい 純粋な感性で表現されています。意気込みや気負いが無く、脱力された状態で 描かれている感じが良いと思いました。赤、青、白の色を上手く使っていて、 詩情があって、強烈でもなく、大人しくもない、丁度良い強さです。作家の人 間性、持っている温かさが作品からにじみ出ています。物を写すことだけで終 わってしまう作品が多い中、表現することに心が向いている良い作品です。 ▽洋画部門受賞作品(芝教純・作「刻の涸れた小路」)は、画面中央の少女と背 景にズレが生じている非常にユニークな作品です。この感性から若い作家かと 思いましたが、ベテランの方ということで驚きました。人物はリアルに描かれ ていますが、背景は現実離れした空間になっていて、この背景の中に人物がい ることで、人間の不思議な存在感があります。画面全体は決して強くありませ んが、印象としては一度目よりは二度目、二度目よりも三度目と、見る度に良 くなってきた作品でした。 ▽彫刻部門受賞作品(加茂為男・作「高原牧場の少女」)は、存在感のある作品 でありながら人体の均衡がしっかり取れていて、非常に技術の高い作家です。 若々しさ、明るさ、将来性が少女像に込められています。作者の思いが作品に 表現されていて、形として上手く纏まっています。彫刻作品として素直な感じ が受け取れました。 ▽書部門受賞作品(石井駿・作「'15ー有無」)は、空間の納め方、文字の配置 が非常に上手く、簡潔にまとまっている作品でした。有るという字と無いとい う字が巧みに造形化され、書の持っている意味性と造形性が上手く調和してい ます。会場内には伝統的な書と前衛的な書の両方がありましたが、一番完成度 が高い作品でした。 ▽工芸部門受賞作品(荒木寛二・作「﨔造拭漆卓」)は、非常に伝統的な作品で、 卓の形と﨔の杢目の美しさが要になっていると思います。その均衡が素晴らし く、私も使ってみたいと思いました。工芸らしい用の美があり、技術的にも優 れています。この作品を使いたい、こう思わせることが工芸作品にとって非常 に重要なことだと思います。 ▽写真部門受賞作品(南部榮・作「春奏」)は、白黒だけの表現ですが、非常に 力強さが感じられる作品でした。全体のピントがしっかりと合っていて、シャ ープな仕上がりとは対照的に葉の柔らかさが際立ちます。枝と葉の交差が面白 いですが、両端のバランスが変わればもう少し印象が変わるのではないかと思 いました。全体の中では一番良かったと思います。
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