[394]取り下げた自説に未練が 気になる日本語(7)

上野先生と歩こう 中国語遊歩道 『中国のことばと文化Ⅱ』
[394]取り下げた自説に未練が
気になる日本語(7)
(25)強力な援軍が
日本語の舅(しゅうと)と姑(しゅうとめ)という語の指す範囲について妻の側から見た夫の両親
に限られるのではないかというわたくしの理解に対して夫の側から見た妻の両親も含むはずだという
指摘を受けて,わたくしがあっさり譲歩して,「あくまでもわたくし個人の理解であるが」としたこ
とは,前回記したとおりである。
このことに対して別のおひとりからわたくしの理解に賛成である,簡単に自説をひっこめるなとい
う激励とも叱責ともつかぬご意見を頂いた。この方とはわたくしが初めて出版してもらった『中国こ
とばの旅』(1986 年,白帝社)以来のお付き合いである。ただし,やりとりははがきのみで,一度も
会っていない。したがって年齢,性別とも不詳。
(26)わたくしの頭は中国語ボケ?
強力な援軍を得て,自説も捨てたものではないかと,そのよって来たる所を考えてみた。
中国語では夫の両親と妻の両親ははっきり区別される。日本語にも入っている漢語の「岳父」と「岳
母」,これが妻の両親である。ただし,この語は中国語としてもかなり硬いことばで,日常的には“丈
人”と“丈母”が使われる。一方,夫の両親は“公公”と“婆婆”である。
このように中国語では夫の両親と妻の両親がはっきり区別されることが,長年中国語の本を読んで
きた,つまり中国語ボケしたわたくしの頭は,当然のように,夫の両親と妻の両親を区別していたの
に違いない。
(27)「岳父」はにょうぼのおやじだが
上に「日本語にも入っている漢語の『岳父』と『岳母』」と書いて,待てよと辞典に当たってみた
ところ,「岳父」は使うが,「岳母」のほうは極めてまれで,通常は「丈母」であることを知った。
「そうかなあ」という気がしなくもないが,妻の父は「岳父」,母は「丈母」ということらしい。
ところでこの「岳父」と「丈母」,日常的には「にょうぼのおやじ」,「にょうぼのおふくろ」ぐ
らいですませているが,その「にょうぼ」の側から見た「亭主」の「おやじ」と「おふくろ」はどう
だろう。「亭主のおやじ」や「亭主のおふくろ」は聞いたことがない。おまえが知らないだけで,陰
では使ってる?まさか。
一方にのみこういうくだけた呼び方が存在するという事実は,注目するに値する。
(28)面と向かってはどちらも“爸爸”“妈妈”
本から得た知識と限られた範囲での中国での生活経験をもとに親族名称のことを書いている。自信
がないので,配偶者の両親をどう呼ぶか二、三の友人に聞いてみた。
夫の両親が“公公”と“婆婆”で,妻の両親が“丈人”と“丈母”であることは上に書いたとおり
で間違いない。もっとも,“丈人”“丈母”を“外公”“外母”と称する地方もけっこうあるらしい。
では,“公公”と“婆婆”のほうは?と聞いてみたが,こちらは“阿公”“阿婆”とか“家公”“家
娘”とかを耳にしたことがあるけれどと,あまりはっきりしない。
面と向かってはどう呼ぶかという問いに対しては,夫の両親,妻の両親ともに“爸爸”“妈妈”と
か,“爹”“娘”,“阿爹”“阿娘”などで,夫婦間で大きな違いはないとのことであった。
2015/3/20
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