裁判年月日 平成26年 9月16日 裁判所名 事件番号 平25(ワ)5445号 事件名 文献番号 2014WLJPCA09168017 東京地裁 出典 ウエストロー・ジャパン 主文 1 原告の主位的請求及び予備的請求1をいずれも棄却する。 2 被告は,原告に対し,143万1258円及びこれに対する平成24年10月1日から支 払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告のその余の予備的請求2を棄却する。 4 訴訟費用は,これを5分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は,原告に対し,780万円及びこれに対する平成24年10月1日から支払済みまで年 5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 本件は,原告が,直営の焼き菓子専門店舗を出店するための不動産物件を探し,被告所有 の物件について,被告と交渉を開始したところ,①主位的に,同物件について,被告との間で, 賃貸借契約が成立したにもかかわらず,被告が同契約を一方的に破棄したとして,被告に対し, 債務不履行又は不法行為に基づき,損害賠償を求め(主位的請求),②予備的に,同物件につい て,被告との間で,賃貸借予約契約が成立したにもかかわらず,被告が同契約を一方的に破棄し たとして,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づき,損害賠償を求め(予備的請求1), ③さらに,予備的に,同物件について,賃貸借契約も賃貸借予約契約も成立していなかったとし ても,被告は,原告に対し,貸渡承諾書を交付し,原告は,同書面に記載された条件を前提とし てその後の営業活動を行ったが,被告は契約交渉を一方的に破棄しており,被告には契約締結上 の過失があるとして,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償を求める(予備的請求2)事案 である。 2 前提となる事実(争いのない事実以外の事実は,括弧内に記載の証拠等により認める。) (1) 原告は,菓子類の製造及び販売を業としている。被告は,不動産の賃貸を業として いる。 (2) 被告は,東京都渋谷区〈以下省略〉のaビルという地下1階・地上2階建の建物(以 下「本件建物」という。)を所有している。 (3) 原告は,直営の焼き菓子専門店舗を平成24年10月に出店するための不動産物件 を探していたところ,同年2月ころ,不動産賃貸の仲介を業とし,被告から入居者募集の依頼を 受けて媒介活動をしていた仲介会社から,本件建物の地上1階(103.41平方メートル)の 物件(以下「本件物件」という。)を紹介された(甲5,14,乙3)。 (4) 原告は,仲介会社から本件物件の案内を受け,また,仲介会社に対し,仮装電力使 用量や造作について問い合わせをした後,同年4月23日,仲介会社に対し,賃料月額107万 円(税込み)で本件物件の賃貸を申し込んだ(甲5,14,乙3,被告代表者)。 (5) 原告は,同年5月8日,仲介会社の本社において,被告代表者も出席の上,本件物 件でのファサードデザイン(建物正面のデザイン)を含めた店舗展開についてプレゼンテーショ ンを行った。被告代表者は,原告の担当者に対し,賃料とファサードデザインは,他のテナント 1 の影響があり,課題であるとの感想を述べた(甲5,乙3)。 (6) 被告は,同月9日,仲介会社に対し,原告に本件物件を賃貸する条件として,賃料 月額136万5000円(税込み),ファサードデザインは本件建物の2階と地下1階に影響が ないように再提案を望む旨の条件を提示した(甲5)。 (7) 原告は,同月15日,仲介会社に対し,本件物件を賃借する条件として,賃料月額 125万円(税込み)との条件を提示した(甲5)。 (8) 原告は,同月18日,仲介会社に対し,本件物件を賃借する条件として,賃料月額 130万円(税込み),フリーレント期間1か月との条件を提示した。被告は,同月22日,仲 介会社に対し,賃料について,原告の提案を受け入れる旨回答した。(甲5)。 (9) 同月22日ころ,ある事業者の担当者から,被告に対し,本部決済は下りていない との前提の下ではあるが,賃料については,月額189万円,契約期間等については,10年間 (定期建物賃貸借)との条件で,本件物件の賃借を希望するとの申入れがあった(甲3,乙4, 被告代表者)。 (10) 被告は,同月24日,原告に対し,本件物件を以下の条件で賃貸することを確認し, 承諾する旨記載された被告作成名義の貸渡承諾書(以下「本件貸渡承諾書」という。)を交付し た(甲1)。 ア 賃料 130万円(税込み) イ 敷金 1000万円 ウ 管理費 賃料に含む エ 礼金 なし オ 契約期間 2年 カ 更新料 新賃料の0.5か月分 キ 解約予告 6か月前 ク 用途 店舗(菓子製造・販売) ケ 連帯保証人 無 コ 予定引渡日 平成24年7月1日 サ その他 フリーレント1か月 ファサードデザインを原告と協議の上で決定し,賃貸借契約を締結。 (11) 原告は,同年6月5日,仲介会社に対し,新たな本件物件のファサードデザインを 提出した。そして,原告は,同月7日,被告に対し,本件物件のファサードデザイン等のプレゼ ンテーションを行った。その際,被告代表者は,原告に対し,ファサードデザインと芝生は週明 けに回答する旨述べた(甲5)。 (12) 被告は,同月11日,仲介会社を介し,原告に対し,賃料を月額189万円へ増額 したい旨申し入れ(なお,この際,仲介会社は,原告に対し,初めて,本件物件について,賃料 月額189万円で賃借を希望している事業者がいることを伝えた。),同月12日,仲介会社を 介し,書面により,原告に対し,本件物件を賃貸する条件を,賃料月額189万円(税込み), 契約期間10年(定期建物賃貸借契約),ファサードデザインは原告提示案で了承するとの条件 に変更させて欲しい旨申し入れた(甲2,5,14,乙3,4,被告代表者)。また,被告は, 同月13日ころ,原告に対し,本件貸渡承諾書記載の条件を一方的に反故にすることを詫びると ともに,本件物件について,2番手ながら,高額の賃料かつ長期の期間の条件での賃借の申込み があったため,条件改定のお願いをすることになった旨記載した書面を交付した(甲13)。原 告は,被告のこの条件改定の申入れを拒絶した。 (13) 被告代表者は,同月27日,原告本社において,原告のC常務(以下「C」という。) と面会した。Cは,本件物件について,原告と被告との間の賃貸借契約の成立を主張し,これに 対し,被告代表者は,原告に対し本件物件を賃貸する義務はない旨主張した(甲14,証人C)。 被告代表者は,同年7月3日,原告本社において,Cと面会した。被告代表者は,弁護士に相 談したら,履行義務があると言われた旨述べた上,被告が原告に対し,迷惑料として,1か月分 の賃料相当額である130万円を支払うことで解決したい旨提案したが,Cは拒絶した(甲14, 乙4,証人C,被告代表者)。 被告代表者は,同月5日,原告本社において,Cと面会した。被告代表者は,被告が原告に対 し,迷惑料として189万円を支払うことで解決したい旨提案したが,Cは,合意を破棄するの 2 であれば,6か月分の賃料である780万円を支払うということもあると提案し,話はまとまら なかった。その後,原告は,本件物件の賃貸を諦めて他の物件を探すこととし,仲介業者の依頼 その他の活動を開始した(甲14,乙4,証人C,被告代表者)。 被告代表者は,同月11日,原告本社において,Cと面会した。被告代表者は,賃料130万 円で本件物件を原告に賃貸する旨提案したが,Cは,被告が継続的な関係を取り結ぶ契約相手と して信頼できないと判断したことなどから,被告代表者の提案を拒否した(甲14,乙4,証人 C,被告代表者)。 (以下概略記載) 第3 1 当裁判所の判断 本件物件について,原告と被告との間で,賃貸借契約又は賃貸借予約契約が成立したか (1) 被告から原告に対する本件貸渡承諾書の交付により,本件物件について,原告と被 告の間で賃貸借契約が成立したと認めることはできない。 (2) 被告から原告に対する本件貸渡承諾書の交付の時点において,本件物件の賃貸借の 主要な条件について,完全には定まっていたということができないから,本件物件について,原 告と被告との間で,賃貸借予約契約が成立したと認めることはできない。 2 本件物件の賃貸借契約締結交渉について,被告に契約締結上の過失があるか 被告は,正当な理由なく,原告の本件信頼を裏切っており,被告には,契約締結上の過失に よる不法行為が成立する。 3 原告の損害 (1) 被告は,契約締結上の過失による不法行為と相当因果関係のある原告の損害について, 損害賠償責任を負う。 (2) 逸失利益 契約締結上の過失による不法行為の場合に,損害賠償が認められる損害は,原則として契約の 成立を信頼して支出した費用に限られるべきであり,原告と被告の間で,本件物件の賃貸借契約 書の作成の着手もされていなかったことなどからすれば,これと異なり,被告の不法行為と原告 の逸失利益との間に相当因果関係を認めるべき事情があるとはいえない。 (5) 原告の損害のまとめ よって,固定人件費等のうち,113万2678円(Dの月額人件費のうち,65万9389 円,Dの社宅費用のうち,8万1058円,Eの月額人件費のうち,39万2231円),出店 関係費のうち,29万8580円(コンサルティング費用等のうち,23万6418円,試作費 用のうち,6万2162円)の合計143万1258円は,被告の不法行為と相当因果関係のあ る損害であると認められる。 4 結論 以上の次第で,原告の主位的請求及び予備的請求1はいずれも理由がないから棄却することと し,原告予備的請求2は主文第2項の限度で理由があり,その余は理由がないから棄却すること とし,主文のとおり判決する。 〈以下省略〉 3
© Copyright 2024 ExpyDoc