第 9 回 M&Aとは彼女と彼氏 イラスト・題字:長峯亜里 「M&A の成功」とかけて「日清・日露戦争での日 本の勝利」と解く、その心は……(本稿末尾へ) 日本企業のアジアM&Aへの関心 本誌の本年 1/2 月合併号に掲載した第1回「東 「M」と「A」の意味するところ 南アジアに『ハマる』」で記したように、私は大 学を出て途上国のインフラ開発を専門とする政府 今さら言うまでもなく、 「M&A」は「合併・買 系機関で働いていたが、1990 年代終盤に心機一 収」を意味するのだが、以前ベトナムでの M&A 転、M&A の仲介・助言業の職に就いた。まだ日 案件にアドバイザーとして関わった際に冗談半分 本がバブル経済に浮かれていた頃のことだ。 で「M&A とは彼女と彼氏みたいなものですよ」 当時の日本でクロスボーダー M&A といえば、 と当事者たちに話したことがある。初めは皆きょ 9割以上が欧米を対象としていた。英国のマー とんとしていたが、私の説明を聞いて一同うなず チャントバンクにいた私も、重点は欧州や豪州な いていたのを覚えている。 どの案件に置かざるを得なかったが、それでもア ベトナム語では Em(エム)は彼女、 Anh(アイン) ジアが絡む案件を必死に追い求めた。 は彼氏という意味だ。ゆえに、 「M&A とは彼女 1990 年にヤオハンが本拠地を静岡から香港に &彼氏である」。例によって(?) 、親父のくだら 移し、私も M&A 担当役員と会うため香港へ通っ ない駄じゃれみたいなものだが、私は結構真剣に たりもした。また、日本の大手飲料メーカーから そう思っている。 の依頼で、シンガポール上場企業の買収案件を仲 M&A というと、 「ヴァリュエーション」やら 「デュー 介したりもした。 ディリ」など横文字もたくさん出てきて、実務面 だが当時の日本企業の間では、アジア企業に対 では複雑・面倒なことも多い。避けて通れない必 する M&A への関心度はまだまだ低水準。どちら 須の作業だし、私たちプロフェッショナルも、おか が彼氏で彼女かは別として、一部の企業を除いて げで「安くない」対価をいただいている。 は目もくれなかった。もちろん、アジア企業が日 だが、アジアを中心に M&A 案件に多く関わっ てきて痛感するのは、根本的にもっと大切なこと は「彼女と彼氏の関係」だということ。 本企業を買収するなど、もっと「ありえない」こ と。「身分不相応」の間柄だったとも言える。 ところがどうだろう。今や日本企業とアジア企 本稿は随想であるから堅い話は抜きにして、ま 業とのお見合いは日常的だ。お見合いの場はアジ ずは 1980 年代からの日本・アジア間の M&A を アだけでなく日本も含まれ、アプローチも双方か 軽く振り返るところから始めよう。 ら。縁談もあちこちから持ち込まれる。 20 2015年11月号
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