原審 平成26年(ハ)第1088号 損害賠償請求事件 控訴審 平成27年(レ)第421号 損害賠償請求事件 控訴人(一審原告) 被控訴人(一審被告) ソフトバンクモバイル株式会社 控訴理由書 平成27年6月9日 東京地方裁判所 民事6部 御中 控訴人(一審原告) 第1 はじめに 1、控訴人には本件契約拒否の時点で電気通信サービスの提供を受ける意思がなかったとの原判 決の評価は不当である。 2、原判決における電気通信事業法第121条の解釈は極めて不当なものである。本件契約拒否が 正当であると認める根拠となった原判決における本件契約拒否の理由は控訴人も被控訴人も主 張していない損害を勝手に認定してそれを根拠にしている。またその損害の主張についても曖 昧で具体性がなく、何ら法的に実質的な損害と評価できるものではない。 3 、原判決における「本件契約拒否が、被控訴人にとって不可避ではなかった旨及び過剰措置 であったとの控訴人の主張は認めることはできない。」との主張について、その根拠が全く示 されていない。 4、「電気通信事業法第121条は拒絶理由の告知を義務づけてはいない」という解釈も第121条の 趣旨を全く踏まえておらず不当である。 第2 原判決の問題点 原判決によると本件契約拒否が正当であったと認める理由として 一、控訴人には電気通信サービスを利用する意思がなかった。 二、電気通信サービスを適切に利用する意思を有しない者の申し込みを電気通信事業者が承諾 することによって、電気通信事業者の事務処理を煩わせるおそれがある。 三、電気通信事業者の事務処理を煩わせるおそれがある場合は電気通信事業者の利益を不当に 害する場合に該当する。 四、よって本件契約拒否は正当な理由があったものと評価できる。 としている。 (1)控訴人には電気通信サービスを利用する意思があった 控訴人には電気通信サービスを利用する意思があった。原判決では平成26年3月における回線 契約の短期解約を理由にして、平成26年11月時点で控訴人には電気通信サービスを利用する意 思がなかったと判断している。しかし解約を行ったのは8ヶ月も前であり、それを理由に平成 26年11月時点で控訴人に電気通信サービスを利用する意思がなかったと判断するのは失当であ る。 (2)控訴人も被控訴人も損害の可能性を主張していない 被控訴人はそもそも控訴人と契約する事で損害が発生する恐れがある等、契約を拒否した理 由として契約することによる損害の可能性を一切主張していない。「電気通信サービスを利用 する意思がない者に対する提供義務はない。控訴人は電気通信サービスを利用する意思がな かったので、本件契約拒否は適法である。」という趣旨の主張である。 被控訴人が具体的損害について説明できるならば当然最初からそれを主張し、それを根拠に 1 契約拒否したと主張するはずである。現に控訴人が準備書面にて『料金滞納をしない利用者に 対してであれば、「電気通信サービスの提供を受ける意思がある者」であろうが 「電気通信サービスの提供を受ける意思がない者」であろうがサービスの提供をするこ とによって何らかの容認出来ない具体的不都合が生じることはない。』と主張しても被控 訴人は一切反論しなかったのである。被控訴人は損害について一切主張しなかっただけではな く、主張できなかったのである。「損害は発生しない」ということについては控訴人も被控訴 人も認める争いのない事実なのである。 しかし原判決では控訴人も被控訴人も一切主張していない損害を勝手に認定して、それを根 拠にして本件契約拒否を正当と判断している。控訴人も被控訴人も一切主張していない主張を 勝手に認めているので原判決の判断は不当である。 ちなみに「電気通信サービスを利用する意思がない者に対する提供義務はない。控訴人は電 気通信サービスを利用する意思がなかったので、本件契約拒否は適法である。」という被控訴 人の主張についても、なぜあえて電気通信事業法第121条で禁止されている役務の提供拒否をど うしてもしなければならなかったのかという必要性の説明になっていない。理由とは「なぜそ うしなければならなかったのか」ということの説明である。被控訴人の主張する契約拒否の理 由は正当かどうか以前にそもそも理由になっておらず、不当である。 (3)原判決における損害は曖昧なものである 原判決は「電気通信サービスを適切に利用する意思を有しない者の契約の申し込みを承諾す ると電気通信事業者の事務処理を煩わせるおそれがあり、それは電気通信事業者の利益を不当 に害する場合に該当する」と判断した。 なぜ電気通信サービスを適切に利用する意思を有しない者の契約の申し込みを承諾すると電 気通信事業者の事務処理を煩わせるおそれがあるのか、事務処理を煩わせるとは具体的にどの ような事象を指すのか、事務処理を煩わせることによって具体的にどのような損害が発生する のか等について何ら明らかにしていない。 「電気通信事業者の事務処理を煩わせるおそれ」というのはおそらく利用者が携帯電話の新規 契約をしたり短期解約をしたりを繰り返す行為についてだと思われるが、被控訴人は新規契約 や短期解約やMNP転出の各手続きの際に、新規契約手数料、契約期間中の解約の違約金、 MNP転出手数料などを徴収している。これらの料金は被控訴人が自由に価格を決めることがで きる。営利企業である被控訴人は各手数料について当然ながら損にならないよう価格設定をし ているのである。例え利用者が新規契約や短期解約を繰り返したとしてもその対価を支払って いるので、事業者の利益を不当に害することなどありえないのである。 原判決における損害は曖昧なもので具体性がなく、何ら法的に実質的な損害と評価できるも のではない。 (4)本件契約拒否は被控訴人にとって不可避ではなかった及び過剰措置であった 原判決は「本件契約拒否が、被控訴人にとって不可避ではなかった旨及び過剰措置であった との控訴人の主張は認めることはできない。」と判断した。しかしその理由については一切述 べていない。「電気通信サービスを適切に利用する意思を有しない者の契約の申し込みを承諾 すると電気通信事業者の事務処理を煩わせる恐れがあり、それは電気通信事業者の利益を不当 に害する場合に該当する」という主張と「電気通信サービスを適切に利用する意思を有しない 者に対しては手数料の料金設定で充分に対応可能である」という控訴人の主張とは相反しない のであり、前者の主張が後者の主張を認めない根拠にはならない。しかし原判決は何ら根拠を 示さずに「電気通信サービスを適切に利用する意思を有しない者に対しては手数料の料金設定 で充分に対応可能である」という主張を認めることができないとしている。電気通信サービス を適切に利用する意思を有しない者に対しては手数料の料金設定で充分に対応可能であり、あ えて電気通信事業法第121条で禁止された役務の提供拒否をする必要はないのである。 手数料の料金設定以外でも、例えば解約手続きを行う時に「これ以上短期解約をすると今後 2 は契約拒否します」など口頭での注意をしたり、約款で短期解約をした場合に次回の契約を拒 否するなどの注意書きを書いておくなどすれば、利用者が次回から契約拒否されたくないと思 えば短期解約を思いとどまることによって契約拒否を回避することが可能である。このような 点からも本件契約拒否は不可避ではなかったのである。契約拒否は原則法律で禁止された行為 なのであるから、安易にしてはならず、当然事前警告などの契約拒否を回避する最低限の努力 を事業者はしなければならないはずである。しかし被控訴人は利用者がこういう事をすれば次 回から契約拒否をする等の基準を一切公表していない。 電気通信サービスを適切に利用する意思を有しない者に対しては手数料の料金設定や事前の 警告で充分に対応可能であり、あえて電気通信事業法第121条で禁止された役務の提供拒否をす る必要はないので、これらの最低限の策を一切せずに役務の提供拒否をすることは正当な理由 であるとは言えず、本件契約拒否は電気通信事業法第121条違反の行為である。 また8ヶ月以上携帯電話を契約できない状態を続けるというのは明らかに過剰な措置なの で、この点からも正当な理由であるとは言えず、本件契約拒否は電気通信事業法第121条違反の 行為である。 (5)契約拒否の理由を告知する義務について 原判決は「また、被控訴人が本件契約拒否の時点において、拒絶の理由を告げなかったこと は、電気通信事業法121条は拒絶理由の告知を義務づけてはいないのであって、同条に反す る行為ではない。」と判断した。 確かに条文には電気通信役務の提供を拒否する理由を告知する義務については書かれていな い。しかし携帯電話事業者が明らかに不当な理由で契約拒否したとしても、理由がわか らなければ利用者は121条違反に当たるかどうか判断できない。もし契約拒否の理由を利 用者に告知せずに契約拒否しても121条違反にならないならば、実質的に事業者が121条 を遵守する必要がなくなり、121条を空文化させてしまうことになる。また正当な理由で契 約拒否しているなら、理由を告知することで事業者側にとって不都合が生じることはな く、理由の告知を拒否しなければならない理由はない。 ちなみに被控訴人は利用者の料金滞納が理由で契約拒否する場合は「料金滞納がある ので契約拒否します。」と利用者に告知を行っている。それにも関わらず被控訴人が控 訴人に対して契約拒否の理由の告知を頑なに拒否しているのは、本件契約拒否が121条に違反 する行為であると被控訴人自身が認識しているからとしか考えられない。 121条の趣旨を考慮すれば、携帯電話事業者が役務の提供を拒否した場合、明確な理由を 利用者に告げる義務があり、理由告知を拒否することは121条違反の行為であると解釈す べきである。 以上 3
© Copyright 2024 ExpyDoc