『ローマ人の物語 1

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会員 奥野
某月某日、『この一冊』を
探すために、銀座の行きつけ
の居酒屋『あっとほーむ』に
出かける私であった(この段
階で既に執筆の趣旨を間違っ
てはいたようだが…)。
ご 存 じ 八 百 新 酒 造 の「 雁
木 」 を2杯 飲 ん だ と こ ろ で、
左後ろにいた若い男性2人の
会話が弁護士風だったので、
「雁木」1杯をごちそうして、
君らが選ぶこの一冊は何かな
と聞いてみた(因みにやっぱ
り弁護士であった)。
1人が直ちに曰く、
「吉村昭
の『ポーツマスの旗』です」
。
この答えを聞いて、我が意を
得たり!という思いであった。
奥さんの津島節子さんが芥
川賞作家であるのに対し、吉
村さんは数々の賞を取ったも
のの芥川賞を受賞できないま
ま世を去ったのであるが、客
観的描写を重視する作家であ
って、客観性に乏しい私にと
っては、好感を持てる作家で
あった。
『ポーツマスの旗』は、日
露講和を実現した小村寿太郎
の苦悩を描いた秀逸な作品で
あり、この一冊にするか、と
一瞬思ったが、それでは芸が
ないので、吉村さんのほかの
作品について、彼と意見交換
を行っているうちに、やはり
これだなと思いついた一作が
あった。
明治の初期、行くところが
滋(37期) ●Shigeru Okuno
『ローマ人の物語 1
―ローマは一日にして
成らず〔上〕―』
塩野七生 著
新潮文庫
464円
(税込)
なくなってしまった紀州徳川
家(正しくは尾張徳川家であ
る)が、北海道南部の八雲と
いう場所に移住を決意し、先
遣隊を送り込んだところ、気
候が不順であるだけならまだ
しも、移住した人がヒグマに
次々と襲われるという、踏ん
だり蹴ったりの物語である
が、ヒグマの生態を詳細に描
いており、これまた秀逸な作
品であった。
これは勿論『羆嵐』という
一作であるはずで、そう決め
込んで本屋に行ったところ、
ヒグマに襲われるところまで
は一緒だが、『羆嵐』は北海
道北部の手塩という場所を舞
台にした小説であり、時期も
大正と私の記憶と全く違うで
はないか。それでは、何とい
う題名だったか、その後いろ
いろ調べたが、結局よく分か
らず、そもそも吉村さんが書
いたものではないかもしれな
いということにすらなってし
まった。誰か教えて!!
そ の た め に、 吉 村 さ ん は
『この一冊』から脱落し(ご
めんなさい!)、結論として
『この四十三冊』を出さざる
を得なくなった。一冊でない
ため躊躇していたが、ご存じ
塩野七生さんの筆による『ロ
ーマ人の物語』の文庫版であ
る。現在5回目の読破に挑戦
しているが、読破する価値は
十 分 に あ る。 他 民 族 や 他 人
種を排斥するのではなく、敗
者をも同化する政策、数多く
のローマ街道という基幹道路
を整備し、敵に利する危険よ
り、他国との交易を図るとい
う政策などによりローマ帝国
が 成 長 し た と い う 論 調、 他
方、多神教国家であり、ほか
の民族の宗教にも寛容であっ
たが故に発展したローマ帝国
が、キリスト教という一神教
を国教にしたことで滅亡に向
かったという論調は独断的だ
が説得力がある。塩野さんが
カエサルのファンであるが故
にこんな大作を執筆したので
はないかと窺わせるところも
あって、大変興味深いのであ
るが、肝心なことを書く前に
字 数 が 尽 き て し ま っ た。 残
念!!
54 NIBEN Frontier●2015年10月号
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