衛星画像・地理情報処理システム

Nara Women's University Digital Information Repository
Title
衛星画像・地理情報処理システム
Author(s)
小方, 登
Citation
小方登:奈良女子大学情報処理センター広報,Vol. 12, pp.14-16
Issue Date
2001-03
Description
URL
http://hdl.handle.net/10935/3847
Textversion
publisher
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http://nwudir.lib.nara-w.ac.jp/dspace
利用の事例
衛星画像・地理情報処理システム
文学部国際社会文化学科小方
登
今回整備した設備のうち、グラフイツクシステムを構成する一部として、衛星画像・地理情報処理シ
ステムを導入した。ハードウェアとしては、グラフイツクシステムのそれを利用し、ソフトウェアとし
て米 ERDAS社の ERDASIMAGINE(以下 IMAGINEという)を導入した。以下に、導入の目的と
利用事例について、要点を述べる。
近年、地球環境の問題がクローズアップされているが、これへの取り組みのためには、地表の植生な
ど地理データを適切にデータベース化し、モデリングする能力が必要で、ある。地理データを扱うシステ
ム(ハードウェアおよびソフトウェア)を地理情報システム( G
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GIS)という。
地理情報システムには主にラスターデータを扱うシステムと、ベクトルデータを扱うシステムがある。
ラスターデータとは、対象とする空間を規則的な格子で区切り、それぞれの升目(セルあるいは画素)
についての属性値により、地理データを表現するものである。これに対し、ベクトルデータとは、対象
とする地物の形状を点・線・面などで表し、これらを構成する点の座標値のセットとして対象物を表現
するものである O 道路・建物・都市計画ゾーンなどは、ベクトルデータとしてよりよく表現されるので、
自治体の都市計画などに用いられる GISは、多くの場合ベクトノレ型システムである。
他方、自然環境のモニタリングなどに用いられる衛星画像はラスターデータであり、ラスター型シス
テムにより処理される。また地形を表すデジタル標高モデル( D
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g
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lE
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nM
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:DEM)も、
、
規則的な格子点の標高を記録したラスターデータである。このここで紹介する ERDASIMAGINEは
ベクトルデータも扱いうるが、主としてラスターデータを扱うソフトウェアであり、衛星画像や空中写
真画像の処理を主目的としている O
グラフィックデータの中でも、 CADなどで扱う「図形」は、おおむねベクトルデータとして表現さ
れる。これに対し、写真などの「画像」は、概してラスターデータであり、今回導入のグラフイツクシ
ステムの中核をなす AdobeP
hotoshopなどは、ラスターデータを扱う最も代表的なソフトウェアで
hotoshopで表示させることは可能である O
ある。実際、 LANDSATなど地球観測衛星の画像を P
IMAGINEでは、単一のラスターデー夕、たとえば衛星画像の単一のバンド(波長帯域)を読み込
んで表示するシュードカラー表示、また互いに重なり合う 3つのラスターデータを 3原色にあてて表示
するフォールスカラー表示などができる。また初歩的なベクトル図形を編集・付加することができ、空
中写真や衛星画像などの画像を背景として、ベクトル図形からなる地図を編集することなどができる。
しかし、単にラスター画像を扱えるだけでは、地理データ処理のためのソフトウェアとしては、不十
分である。通常、ラスター画像においては、空間的位置が必ずしも定義されておらず、画素の配列上の
位置が空間的位置を表すものとされる場合が多い。また空間的位置が定義されている場合でも、机上で
通常用いられる平面直角座標である場合がほとんどである。当然、地球は丸いのであるから、地理的位
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置は緯度・経度の地理座標系で表現されるべきであり、さらに机上あるいはコンビュータ上の作業空間
が平面であることを考えれば、適切な投影法により、地理座標を平面座標に変換できることも必要であ
る。地理的位置を表すためには、緯度・経度の地理座標系の他にも、ユニバーサル横メルカトル(UTM)
座標系や、平面直角座標系(公共座標系ともいう)がある。これらは、都市計画など比較的狭い範囲を
扱う目的で、机上の作業に適するよう定義されたものであるが、地理データを扱うソフトウェアは、こ
うした異なる座標系聞の変換をサポートする必要もある。 IMAGINEは、画像中の位置を地表上の座
標を用いて表現し、任意の投影法に従って画像を変換する機能を持つ。単なる絵としてでなく、地理デー
タとして空中写真や衛星画像を扱うためには必要な機能であり、このソフトウェアの特徴となっている O
IMAGINEは
、 Photoshopなどと同様、各種の画像データフォーマットをサポートしており、画像
データをインポートすることができる。空中写真などは、デスクトップ型スキャナーで取り込み、画像
ファイルとして保存して、それをインポートする。当然のことながら、衛星画像のフォーマットを多く
サポートしており、 LANDSATや SPOTなど、代表的な衛星画像データをインポートすることができ
る。これらの衛星画像データは、国内では側)リモート・センシング技術センター( RESTEC)で頒布
されている。
また地形を表すデジタ lレ標高モデルのデータもインポートすることが可能であり、鳥敵図のような地
形モデル(サーフェスモデル)を表示させることができる。またサーフェスモデル上に衛星画像を張り
付ける(ドレープする)こともでき、リアリスティックな表示を可能にしている。
このようにして取り込んだデータの分析・利用法として代表的なのが、土地利用や土地被覆の分類で
ある O 衛星画像は、放射輝度という物理的計測値の集合であるから、土地利用といっても建物が商業利
用か住宅利用かを識別できるわけで、はない。衛星画像による土地利用/被覆分類では、複数バンドの画
素の値が互いに似かよったものをカテゴリーと考え、画素をこれらに分類する。具体的なカテゴリーと
しては、市街地・農地・森林・裸地・水面などがある O 分類方法には、「教師なし分類」と「教師っき
分類」があり、前者は、画像を構成する画素の値が、どのような塊(クラスター)を形成するかに基づ
いて、画素を分類するもので、画像以外の情報を用いない。後者は、地上での調査などにより、画像中
のあらかじめわかっている土地利用の種類を「見本」として指定し、画像の残りの画素をカテゴリーに
分類するものであり、判別方法として最尤法などが用いられる。
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0年代半ば以降、冷戦の終結を受けて、従来は軍事偵察用に限られていた高解像度の衛星画像が
民間企業から提供されるようになった。 SpaceImaging社の IKONOS衛星がこの例で、およそ lm
解像度のパンクロマチック画像を提供する(従来よく用いられてきた LANDSATTM画像の解像度は
0m)。また米国政府は、 1
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0年代に収集した軍事偵察衛星( CORONA衛星)画像の機密扱
およそ 3
いを解き、コピーを実費で頒布するようになった。 CORONA衛星写真は、地球観測衛星データが供用
され始めた時期より前のデータを提供するので、より長期的な環境変化の研究に有用であろうと思われ
るO 撮影時期の古いので幾何的歪みが大きく、 IMAGINEのもつ幾何補正機能が役立つと思われる。
こうしたデータが利用可能となったことにより、園内に限定されない広い多様な地域を対象とした研究
が可能となる O 筆者自身は、こうしたデータをシルクロードの都城・遺跡の研究に役立てている。(次
ページ、口絵参照)
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原蘭像
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格子で区切って画素にする
格子の密度(画素の数)を解像度
といい、これが高い(細かい)ほ
ど画像データの品質が高い。
ラスター・モデルによる画像のデジタル表現
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}
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量子化( 4
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)
1画素に割り当てる数値のビット
数を量子化ビット数(深さ)とい
い、これが大きいほど画像データ
の品質が高い。