マラケシュ条約後に見える対決 出版社 VS 社会福祉法人日本点字図書館 2015 年 11 月 6 日 日本オーディオブック制作社協会 マラケシュ条約の認知度も低いですが、マラケシュ条約後のオーディオブック業界を考 えてみます。マラケシュ条約批准後は関連する国内法の改正が行われると思います。批准前 に違う条約で施行される「障害者差別解消法」でもかなり変わると思いますが、著作権法は この法律とマラケシュ条約の批准で変わると思います。 マラケシュ条約では、プリントディスアビリティという読書が困難な人に対して、情報提 供が出来るような形にしておくと言う事であり、絵や写真は無理だと思いますが、文字情報 については、主に音声化で対処されるであろうと見込まれています。 その際に、現時点では社会福祉法人日本点字図書館などが、著作権法 37 条 3 項に基づい て、視覚障害者に向けて、録音図書という中身はオーディオブックと変わりませんが、閉じ た社会で最大で 30 万人の人達にサービスをしています。 それなので、極端な話、マラケシュ条約批准後もニーズのある書籍については何もしなく ても日本点字図書館などが物を勝手に作れば解決する話にも見えます。 しかし、マラケシュ条約は視覚障害だけでは無く、手を失って本を読めない人や、精神障 害や寝たきりの人なども範囲としているため、現在の録音図書の定義の拡大をされないと、 義務か努力目標かでも変わってきますが、義務であれば、出版社も取り組まねばならない課 題であると考えます。 視覚は 30 万人ですが、精神は 300 万人いるとされており、それらが対象となると、普通 の書籍市場にも一定程度の影響が出てくると思います。著作権法の視覚障害者への役務の 提供は有償・無償という項目は無く、文化庁の見解としては、有償での提供は否定しないと いう話が出ています。 つまり、出版社にとっても、視覚障害者の人に対してのオーディオブックはビジネスにな り、収益機会の多様化が図れるのでは無いかと考えます。現在の日本におけるオーディオブ ックサービスはオトバンクが最大手ですが、12 万人(2015 年 6 月現在)と視覚障害者の市 場が取り込めるのであれば、+30 万人なので、市場が単純計算で 4 倍になります。これは かなり大きな数字だと思います。 しかし、課題も山積しています。日本点字図書館と現在の著作権法です。点字図書館につ いては、ボランティアが音読で、独自施設で編集しており、どの程度の速さで物が作られて いるかは分かりませんが、品質は重視されていない様子なので、作るとなると早いと思いま す。また、著作権法で視覚障害者向けに作った物については、1 番最初に作った所が録音図 書で選定されて、他の物は排除される形となります。本来は出版社が著作権を持っています が、日本点字図書館が先に制作をし、世に公開したとなると、出版社ではなく、公開した日 本点字図書館が視覚障害者への独占提供権が与えられる事になります。 この独占提供については、文化庁長官の指定を受けた団体のみなので、営利企業が行うの はほぼ不可能であると考えますが、日本点字図書館がオーディオブックについては癌のよ うな存在になることは想像に難くないです。 ちなみに営利目的で作って、世に出してもそれは最初と認められるので、その有償で作っ た物については、日本点字図書館に有償で納品は出来るので、一番に作って、納品出来れば 理想です。 しかし、点字図書館側からすれば、今までボランティアが無償で作っていた物を有償で買 い付ける行為にはとても強い拒絶反応を示しており、著作権法改正の際に議論が行われる 必要があります。 この点については、文化庁と厚生労働省の間で検討をして頂く必要があり、現在のボラン ティア依存という形を変えて、民間でまかなえる部分は民間で行って、民間がカバー出来な い範囲をボランティアがやる形に最適配分出来ないかの検討が出来ないかと考えます。 以上
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