7) − ベルギーでのプロジェクト ベルギー貴族の大豪邸 ベルギーに住み始めて 3 か月、やっとオストさんの花屋の仕事にも慣れて回りの状況も 見えてきました。そんな中、ベルギーで貴族階級の大豪邸でのウエディングを、日本から オストさんのレッスンツアーでこられたフローリストの人たちと一緒に装飾する機会があ りました。ベルギーのお金持ちのホームウエディングパーティー装飾は、けた違いに豪華 です。まず驚いたのは、そのご自宅に馬小屋があり、十数頭の馬が繋がれていて、その横 には馬を走らせる馬場があり、使用人の宿舎があり、庭は森のように広がっていました。 ご主人様と使用人の明確な関係があり、映画に出てくるような中世から残っている建物と 貴族階級の習慣や振る舞いを感じました。 − ホームウエディング会場 今回ウエディングパーティが行われるのは、庭に設置された純白のテントの中です。テ ントといっても、骨組みからしっかり立てていき、使われる純白の柔らかそうな布の特徴 を生かして美しいカーブのラインをデザインに取り込んだとてもエレガントな感じのする 内装です。そのテントの広さは、メインテーブルが入り、10 人掛けの円卓が 25 テーブルあ り約 300 人のお客様が一同に入れるぐらいの広さです。音楽用のバンドも設置され、立派 な窓も扉もあり、下は絨毯が敷かれるとそこはまるで、森の中に突然現れたお城のメイン ダンスホールのようです。その中に配置されるテーブルアレンジメントと巨大なオブジェ を作成しました。1 週間前より色塗り担当のジェフさんが、三重に色を重ねる方法で、アレ ンジ用の器、4.5m あるコーン状のオブジェを入れる 1m の高さのベース、空中に吊るす直 径 1.5m もある大きな籠を同一の色で塗っていきます。花材へのこだわりも大変なものでし た。店の近くに契約農家があり、アレンジメントに使うのに最適な少し小ぶりな青りんご やぶどうの美しいのを選んでとっておきます。そこには、アレンジに使う花材が自家栽培 されていて、今回のウエディングに使ったスモークグラスは、20 坪ぐらいの畑一面に栽培 されていました。オストさんがデザインした器にオリジナルな色を塗り、自家栽培した花 材を使ってアレンジメントを作る。なんとも、うらやましい限りです。この花屋にとって 理想的な環境を整えた事で、あのオストさんの独創的なデザインが生まれるのも納得がい きました。今回は、日本から来たフローリストの人たちと、オランダ人の手伝いのデザイ ナーたちと、オストさんの店のベルギー人スタッフとの合同で作業を進めました。言葉が なかなか通じず、身振り手振りでの会話になりますが、そこはお互い花のプロです。不思 議に花のことなら理解し合えます。見事に統一感のある同じアレンジメントが仕上がって いきました。テントの中は、テーブルとテントの色と花とが見事にマッチして、落ち着き のあるゴージャスな雰囲気をかもし出しました。 − ブルージュでのプロジェクト 年の瀬の 12 月、クリスマスもすぐそこでだんだん寒くなってきた頃、ベルギーの一番人 気の町、ブルージュでプロジェクトが行われました。日本からも十数名のフローリストの 人たちがツアーを組んでこられました。今回は、湖の中央に木で組んだ半円形の玉を浮か すデザインです。 最初の日は、オブジェのための骨格作りです。一日中ワイヤーで、サンゴミズキを縛り 半円形の部分を作る作業です。単純で根気のいる作業が一日中続いて、だいぶんこのパー ツが出来上がってきた頃、ふと外を見ると、湖の中にアルミニュームの胆管が組まれてい ました。何か、いやーな予感が走りましたが、やはりそうです。湖の湖面の下 20cm に作ら れた胆管の足場の上にこのオブジェを設置する計画です。何も、うっすら氷の張り始めた 12 月に湖の中にやらなくてもと、心の中でぼやきつつ始まりました。デザインのアイデア は、湖水面に半円形のオブジェを設置して、湖上のオブジェが湖面に映り美しい円形にな るクリスマスデコレーションの一つです。夜には、直径 30cm の浮かぶキャンドルがオブジ ェの回りにたくさん浮かんで、たいへん幻想的な雰囲気です。デザイン、アイデアは、す ばらしいのですが、作業は困難を極めました。この時期の湖に手を入れると、冷たさで手 の色が変わるほどです。一つ一つのオブジェのパーツを湖の中央まで運び、それをワイヤ ーで止めていきます。アルミで組んだ胆管の下に広がる黒い水面を見て、「落ちたら、死ぬ ぞー!」と思いつつ作業は進みました。 半円形のオブジェの形がよくやくできてきたころ、次の指令がきました。「アルミで組ん だ胆管のシルバーの色が目に付くので、どうにか消したい」とのことです。確かに、岸か ら見ると波で揺れながらオブジェの下にアルミの胆管が見え隠れします。完璧主義のオス トさんには、許せないことなのでしょう。私達一般人とは、妥協のポイントが違います。 早速、検討した結果は、水面下のアルミの胆管に黒いビニールをワイヤーで止めて隠すと いうもっとも原始的な方法が取られました。もちろん、湖の中に両手を突っ込んで。 プロジェクトを進めるうちに、毎度色々な困難がありました。最初のデザインを変更せ ずに最後まで頑張って完成させたことにより、色々なことが学べました。難しい事にチャ レンジすることで、自分を極限まで追い込んでそこから生まれる底力を利用するオストさ んの姿に感動しました。日本から来たフローリストの人たちも、それぞれ何か貴重なもの を掴んで帰られたことと思います。
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